新宿うずめ様事変~シンジュク・ミッション

    作者:西灰三


    「色々と大変な時期だけど、学園で保護したエスパーの人たちの関係で新しく分かったことが出てきたんだ。……うずめ様にまつわる件で」
     有明・クロエ(大学生エクスブレイン・dn0027)がそれに至るまでの経緯を説明し始める。
    「エスパーの人たちの身体検査とか状況説明とか色々してたんだけど、神無月・佐祐理(硝子の森・d23696)さんのアイデアで護衛とか付けた上でエスパーの人たちにサイキックアブソーバーを見てもらったんだ」
     特に何か起こるとは思ってなかったらしいんだけど、と彼女は続ける。
    「エスパーの人たちがサイキックリベレイターに触ったら、アブソーバーから暗号っぽい文章が出てきたんだよね。それで最初はよく分からなかったんだけど、新沢・冬舞(夢綴・d12822)さんと漣・静佳(黒水晶・d10904)さんが解読してくれたんだ」
     その情報から浮かび上がってきたのは、サイキックアブソーバーに似た予知能力を持つ存在と、その居場所。
    「つまり、うずめ様のこと。これは暗号の結果とエクスブレインの予知から導き出された事なんだ」
     そのうずめ様は今はデスギガスとの戦いで半壊した新宿迷宮で何かをしているのだという。
    「ソウルボードの戦いには参加せずに、予知能力を持ったうずめ様が何かをしてるって事はきっと重要な事をしてるんだと思う。多分ボク達にとって都合の悪い何か」
     そのうずめ様は新宿迷宮の最下層にいるらしい。そしてその配下のデモノイドや羅刹がチームを組んで新宿迷宮の下層部分で何かを探しているらしい。
    「だから皆にはこの配下のダークネスの目を掻い潜ったり倒したりして、うずめ様の灼滅をして欲しいんだ」
     クロエは資料を広げて説明を始める。
    「上から説明していくね。新宿迷宮の上層部は破壊されてガレキだらけだけど、羅刹が作った道があるから簡単に下に降りれるよ。中層部はところどころ崩れてるけど探索はできるよ。でね、この次から本番だよ」
     次の資料を重ねて広げて彼女は指で指し示す。
    「下層部。ここはデスギガスとの戦いやグレート定礎の出現の被害とかはなくて、普通に迷宮として機能してるみたい。さっきも言ったけど、ここでデモノイドや羅刹が何かを探してるみたい。……完全に見つからずに最下層に行くことは無理だと思うよ」
     そのいくらかは灼滅して進む必要がある、ということらしい。
    「配下のいる下層を抜けた最下層にいるのがうずめ様だよ。予知能力を持ったうずめ様を倒すには、逃さないようにいろいろな方向から同時に攻めないとダメなんだ」
     作戦上他班との連携を考えたいところだが。
    「今回はそれぞれのチームが単独で踏破しないと逃げられちゃう。通信機とかは使えないし、拠点を作って周りの敵を倒してからとかだと、うずめ様には逃げられちゃうから」
     迷宮の中で目立つ動きはできず、それぞれが最善を尽くした時に目標を捉えることができるということのようだ。
    「デモノイドと羅刹はそれぞれ4~6体のチームで動いてるから、出会っても勝てるとは思うけど、だからといって何連戦もできる相手じゃないから、避けられる戦いは避けてできない相手だけを倒して地下に行ってね」
     クロエは資料から顔を上げて灼滅者達を見る。
    「予知能力を持つうずめ様は、残しておくとかなり辛い相手になるよ。だからこの機会に灼滅できればここからの戦いに対して大きな一手になるよ。だから、頑張ってきてね。それじゃ行ってらっしゃい」


    参加者
    レニー・アステリオス(星の珀翼・d01856)
    雨積・舞依(黒い薔薇と砂糖菓子・d06186)
    東雲・悠(龍魂天志・d10024)
    霧月・詩音(凍月・d13352)
    エアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788)
    山田・透流(自称雷神の生まれ変わり・d17836)
    牧瀬・麻耶(月下無為・d21627)
    チセ・ネニュファール(星彩睡蓮・d38509)

    ■リプレイ


    「あったか?」
    「いや、こっちにはねえみたいだ」
    「本当にあるのかねえ」
    「ぶつくさ言わずにやろうぜ」
     四体の羅刹がそれぞれに何かを探している。その姿を見ているのは雨積・舞依(黒い薔薇と砂糖菓子・d06186)と東雲・悠(龍魂天志・d10024)である。二人は敵の数を確認すると後方で待機する仲間たちの元へとすばやく戻る。合流した彼らは障害となっているダークネス達を排除するために一斉に襲撃にかかる。
    「なっ!? お前たちは!」
    「悪いけど邪魔なんでね、退いてもらう」
     レニー・アステリオス(星の珀翼・d01856)が一気に敵に踏み込み意識を自分へと引きつける。
    「手早く終わらせてしまおう。まだ先は長い」
     彼に敵の目が引かれている間にエアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788)が手にした鎌で相手の脚を深く斬りつける。
    「本当は避けたかったのですが」
     チセ・ネニュファール(星彩睡蓮・d38509)は轟雷を放ち動きの鈍った羅刹に攻撃を重ねる。回避することすら許されず強かに撃ち抜かれた敵は膝を付く。
    「クソっ! 灼滅者か!」
    「ヨタロウ」
     牧瀬・麻耶(月下無為・d21627)が気怠げにウィングキャットの名を呼ぶと、のっそりとした動きで相手をひっかく。主である彼女も似たような調子で攻撃する。一応戦い自体には手を抜いてない、はずだ。
    「私も行く!」
     雷を輪とした武器を投げつける山田・透流(自称雷神の生まれ変わり・d17836)。メディックである彼女も攻撃に参加する。少なくともまだ傷は浅い。
    「俺達の邪魔をする気か!」
    「……制約の、戒めを」
     月の印の輪を相手に向け、魔弾を放つ。霧月・詩音(凍月・d13352)は羅刹を黙らせて周りを窺う。舞依の張ったサウンドシャッターが効いているようで、周りから増援が来る様子はない。その間にも戦況は灼滅者側に有利に進み悠が最後の敵を影で締め付ける。
    「雑魚なんかに構ってる暇は無いんだ。さっさと突破させてもらうぜ!」
     敵の姿は押し潰されるように影に飲み込まれて消滅していく。
    「……急ぎましょう」
     黒いスカートの裾を翻し、舞依は周りを見る。まだそこには迷宮の闇がずっと奥までひろがっていた。


     羅刹達を撃破した後、灼滅者達は慎重に慎重を重ねて進んでいく。音も密やかに進む彼らの照明はギリギリまで絞られている。それでもこれを頼りに近づいていくる敵もいるのかもしれない。……現地で進む彼らの脳裏にはそんな懸念も浮かんでいた。
    (「やっぱり……」)
     麻耶は以前ここに来たときにしつらえた地図と、今現在レニーが描いている地図の内容が合っていないのを確認する。うずめ様がここで何かを始めたときに変わってしまったのかもしれない。
    (「また、罠ですね」)
     詩音が軽く手を触れ、すばやく離せばそこから鋭い棘のようなものが飛び出してくる。どうやらサイキック的なもので威力は大きくないが、こちらの戦力を削ってくるような類の代物だ。最初にここに来たときも幾つかの罠があったのを思い出す。
    (「気をつけていればそんな引っかからないが……」)
     斥候として悠の手足にはそれでもちょっとした傷が生じている。積み重なることはそこまで無いだろうが鬱陶しくはある。
    (「うずめと学園の付き合いもずいぶん長いわよね。……これで、終わりになるのかしら」)
     この迷宮の奥底にいるうずめ様は、当時中学生だった彼女が初めて聞いた名前だ。この作戦で終わりになればいいのだけれど。敵の群れを見つけた彼女たちは本隊へと戻る。
    「ここも迂回しよう」
     レニーは事前の打ち合わせの通り、数が5体以上ということでそう判断する。彼らのこの判断によって戦いの回数も戦力の損耗も抑えられてはいる。が何分敵も多く、何度も遠回りすることとなっている。もしかしたら他のチームも戦いを避けているのが関係しているのかもしれない。
    (「新宿迷宮……再び、ここに来ることになるだなんて。ダークネスさんと私たちの戦いがどれだけ長いものなのかを実感する」)
     前に来たときはこんな密やかな動きでは無かったと透流は顧みる。多くの灼滅者で未踏破地区を塗りつぶすように攻略したものだ。
    (「思った以上に深くて広いんだな……。しかも休める場所もない、か」)
     エアンはこれまで姿を認めてきたダークネスの群れの数を指折り数える。このような状況では休むこともままならないだろう。
    (「こんなに広い迷宮……。何を守ろうと、それとも閉じ込めようとしているのでしょうか」)
     箒に腰掛けたチセは思案を巡らせる。まるでミノス王の迷宮のようだと。故にこの迷宮の奥底にはうずめ様以外にもなにかあるのではないかと。
     じりじりと時間をかけながら進む一行。そして別のダークネスの群れ――今度はデモノイドだ――を発見する。敵の数も少なく、背後には下へと進む階段がある。
    「……やるしかなさそうだね」
     エアンは小さく肩をすくめた。


     青い巨体が暴れだす。言葉は無くとも敵意はヒシヒシと感じられる。それは探しものを邪魔された事か、それとも奇襲を受けたことに対するものか。どちらにせよ戦いは避けられ無かったのだから変わらないだろうが。
    「……肉体も、血ですらも。全ての熱を奪いましょう」
     怒りに体を震わせるデモノイドたちの体から詩音は熱を奪い凍りつかせていく。青い皮膚の下から鋭い氷の棘が外側に現れる。
    (「ダークネスさんとの戦いは、凄い怖い。だけど……」)
     透流は飛び上がり氷の浮き出るデモノイドの内の一体を上から蹴りつける。態勢を崩し倒れたデモノイドの体を、氷の刃が切りつけていく。
    「大切な全てを守るために、私はこの拳にかけてどんな困難があっても打ち払ってみせる……!」
     彼女の意思を邪魔するダークネス達は、腕に砲口を生じさせ酸弾を放つ。だがそれはレニーと舞依によって防がれる。
    「守りは私に任せなさい。貴女は回復を」
     舞依は透流に淡々と伝えると、相手に視線を向き直す。後ろの彼女の在り方はどこか通づるものがあったのかもしれない。
    (「何も持ってない、か」)
     口の中で飴玉を転がしながら麻耶は相手を観察する。他のチームなら何を探していたのかくらいは掴んでいるかもしれないが、どうやら今ここでは得られないようだ。彼女は小さく「ん」と言うとそれに応じてヨタロウが猫魔法を紡ぐ。
    (「早くうずめ様のところへ行かないと」)
     チセが威力の高い紅蓮斬で切り込めば、デモノイドの内の一体が倒れる。やはりそこまで強い相手ではないが、時間はそれなりに掛かる相手だ。チセは出来るだけ敵の急所を見定めて次の攻撃を準備する。
    「急ぐぞ!」
     悠は槍を携えて全身のバネを弾かせて飛び上がり、天井から跳ね返るようにデモノイドの一体を急襲する。鋭利な一撃は深く敵に突き刺さるも槍を引き抜く間に他の敵からの斬撃を受ける。
    「……っ! 死ななきゃ安い!」
     ダメージを受けながらも離れる彼を透流がシールドリングで守る。彼女もまたうずめ様の灼滅に闘志を燃やしている。こんなところで手間取ってはいられない。
    「攻撃を集中しよう」
     背を低くしたエアンが素早く敵の背後に踏み込む。瞬間、敵の巨体に大きな亀裂が入る。
    「……切り刻むのは、あまり趣味ではないのですけれど」
     詩音が止めとばかりにナイフを走らせれば、敵の体は細切れとなって消えていく。ある程度敵の数が減ってからは、あっという間にデモノイド達は全滅していた。
    「何を探してるか知らないけど、これで終いだ」
     レニーが武器を収めてそう呟いた。


     戦いを終えて先に進む一行。だがそんな中で悠の懐で何かが震える。
    「……ん?」
    「変わった……?」
     同時に斥候に出ていたレニーが今までと違う違和感に気づく。一方悠はその元を探すと携帯端末が震えていた。着信を示すメッセージであったようだ。
    「……なんとなく分かるけど、何?」
    「うずめ様灼滅だって」
     透流の問いに彼は一言で返す。どうも移動に慎重に成りすぎて斥候などで時間をかけすぎてしまったらしい。また戦術も短期決戦を考えたものではなかったことや、微妙な各個人の意識のズレも遅れにつながってしまったようだ。
    「……関わらない所で決着が付きましたか」
    「灼滅者できたのなら良かったですね。これで何か分かったことがあるのでしょうか」
     詩音はそう呟き、チセは目標が撃破できた事に安堵する。
    「これ以上進む意味はありませんわね。帰りましょう」
    「帰る途中で残ったダークネスさんがいたら灼滅者して行こう」
     舞依がそう言うと透流がそう付け加える。確かに彼らの戦闘回数は多くなく、まだ余力はある。
    「やだ。めんどう」
    「俺も早く家に帰って、妻とゆっくりしたいな……」
     麻耶とエアンが手早く帰ることを提案する。確かに下層に来るまでで一時間以上はかかっている。仕事が終わった以上早く帰りたいのは正しい感情と言えるだろう。
    「何とも出会わずに帰れれば、スムーズにだと思うけどね……」
     レニーの懸念は彼らが帰るときに現実となる。地上へ行くまでの間、彼らは何回かの戦闘と重ねるのであった。

    作者:西灰三 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年6月5日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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