新宿うずめ様事変~潜れ迷宮、倒せ羅刹

    「お知らせだ」
     初雪崎・杏(大学生エクスブレイン・dn0225)がお伝えしてきたのは、先ごろ武蔵坂学園に保護された新たなる灼滅者……エスパー達の現状についてだった。
    「もろもろの検査の後、もろもろの説明は一通り済んだ。そこで、神無月・佐祐理(硝子の森・d23696)さんからの提案で、エスパー達にサイキックアブソーバーを見てもらう事になった」
     すると、エスパー達がサイキックリベレイターに触れた途端、アブソーバーから暗号めいた文章が出力されたという。
    「新沢・冬舞(夢綴・d12822)さんと漣・静佳(黒水晶・d10904)さんが、この暗号の解読を成功させてくれた。その内容とは、サイキックアブソーバーの予知に似た力を持つ者の存在と、その居場所を示すものだったのだ」
     その後、暗号とエクスブレインの予知の合わせ技により、うずめ様がデスギガスとの戦いで半壊した新宿迷宮におり、何かを行っている事が判明した。
    「うずめ様の具体的な目的まではわからないが、ソウルボードの力を巡る戦いそっちのけで行動するくらいだから、重要な事に違いない」
     うずめ様の居場所は、新宿迷宮最下層。配下のデモノイドや羅刹達は、うずめ様の指示を受け、新宿迷宮下層の探索を行っている。
    「そこで今回の依頼だが、探索を行っているデモノイド達を出し抜くか、もしくは撃破して、うずめ様の居場所に向かい、灼滅して欲しいと思う」
     次に杏は、ホワイトボードに、新宿迷宮の概念図を描き始めた。
    「上層部は破壊され瓦礫だらけだが、先行する羅刹により、下に進む道は出来ている。中層部は崩落個所が多いものの、探索は問題なく可能だ」
     一方、下層部は、デスギガスとの戦いやグレート定礎の出現などがあったものの、迷宮としての機能に影響は出ていないもよう。
    「ここは多数のデモノイドや羅刹達が探索中だ。こいつらを避けて最下層に向かう事はまず無理だ」
     そして迷宮下層の攻略は、予知能力を持つうずめ様の逃走を阻止する為、あらゆる方向から同時に仕掛けなければならない。
     また、下層に突入する場合、チーム同士の連携などは行わず、チーム単独での踏破を目指す事になる。
    「迷宮内に拠点を設定し、周囲の敵を排除しつつ確実に前進する方法もあるが、このやり方では時間がかかり過ぎ、うずめ様に逃走されてしまう」
     デモノイドや羅刹は、4~6体程度のチームに分かれて行動している。遭遇しても勝てない相手ではないが、連戦すれば、消耗は避けられない。
     以上から、出来る限り戦闘を避け、必要な敵だけを確実に撃破して、急ぎ下層に向かう方針が望ましいだろう。
    「エスパーの存在がこんなふうに作用するとは、私も正直予想外だった。とは言え、せっかくつかんだチャンスだ。ここでうずめ様と決着できれば、今後の情勢も変わっていくはず」
     よろしく頼む、と杏は、灼滅者に託したのであった。


    参加者
    花藤・焔(戦神斬姫・d01510)
    緋桜・美影(ポールダンサー系魔法少女・d01825)
    桜之・京(花雅・d02355)
    武月・叶流(夜藍に浮かぶ孤月・d04454)
    椎葉・武流(ファイアフォージャー・d08137)
    卯月・あるな(ファーストフェアリー・d15875)
    師走崎・徒(流星ランナー・d25006)
    獅子鳳・天摩(幻夜の銃声・d25098)

    ■リプレイ


     新宿迷宮。
     その上層部を、下へ下へと進行していく花藤・焔(戦神斬姫・d01510)達一行。
     敵の本隊は既に下層にいるはずだが、焔達の侵入を予想……あるいは『予知』して、見張りの類が忍んでいないとも限らない。警戒を怠るべきではないだろう。
    (「最深部まではまだ誰も行った事ないんだよねー。でも、ボク達の協力プレイでクリアーだよ!」)
     卯月・あるな(ファーストフェアリー・d15875)が、念のためアリアドネの糸を使用し、退路を確保する。他の皆同様、照明などの探索道具は万端だ。万一小腹がすいても、おやつは持参してきた。問題はない。
     うずめ様との対面に胸躍らせていた桜之・京(花雅・d02355)は、不意に小首を傾げた。速やかな進軍のため、迷宮の地図を参考にしているのだが、
    (「微妙に構造が変化しているようね」)
     うずめ様が、侵入者を拒む仕掛けを施しているのか。とはいえ、大まかな構造を把握するという、最低限の役目は果たしてくれるようだ。
     やがて、さしたる障害もなく、中層部へと足を踏み入れる。
     かつての戦いの爪痕により、道は荒れていた。もっとも、羅刹達が先行してくれたお陰で、特に支障はなさそうだ。
     それでも、行く手を阻む崩落箇所に出くわすと、椎葉・武流(ファイアフォージャー・d08137)は、『壁歩き』を駆使して突破。使える迂回ルートがないか調べ、後方の皆に知らせる。
    (「ダンジョン探索はRPGの定番だよな! なんて、な」)
     もう1つ、ダンジョンと言えば、罠。武流も、油断せぬよう、四方に意識を配る。
    (「どこから敵が出てくるかわからないから、気をつけないと……」)
     邪魔ながれきを、武月・叶流(夜藍に浮かぶ孤月・d04454)が『怪力無双』でどかして進む。敵に知られるのはもちろん、罠が作動しては困る。できるだけ音を立てないよう、余計なものに触れぬよう、配慮も忘れない。
     そして、迷宮の探索開始から一時間と少しが経過した頃。
     一行は、いよいよ下層部へとたどりついた。ここからは未踏地域だ。加えて、羅刹やデモノイドが徘徊するエリアでもある。
     皆は、気持ちを引き締め直すと、先を急いだ。


     『猫変身』で、赤虎毛の猫に化身して先行していた緋桜・美影(ポールダンサー系魔法少女・d01825)が、後方の仲間にサインを送った。くるり、と尻尾を大きく1度回す……異常なしの合図を受け、一行は歩みを進める。
     罠への警戒をいっそう強め、進む獅子鳳・天摩(幻夜の銃声・d25098)。
    (「うずめさまの言う「神」ってなんなんすかね。この世界の神って」)
     ラグナロクやソウルボード関連の資料施設などがないか、天摩は出来る範囲で探索するが、優先すべきはうずめ様の元にたどり着くこと。
     あまり時間を割く事は出来ない中で、焔も、重要なものがないか目を配っている。
    (「『つながりに至る、意志を表す、「情報」』……うずめ様もサイキックハーツに至らんとしているのか?」)
     辺りの様子を調べながら、師走崎・徒(流星ランナー・d25006)は思案する。ソウルボードを奪い、集める以外でサイキックハーツに至る方法を、うずめ様は知っているというのだろうか……。
    (「さて、大分進んだかな……?」)
     叶流は、下層に入ってから空気が変わったのを感じていた。迷宮そのものが発する特異な雰囲気。それに何より、ダークネスの気配。
     迷宮内をマッピングしていた京は、敵の多さにへきえきしていた。『何か』を探して常に移動を続けているため、動きが読めないのも厄介だ。
     加えて、他の班も小競り合いを避けて進んでいるらしく、敵の掃討が進んでいない事も影響しているようだ。
     そのため、必然的に迂回の頻度が上がっていく。いっそ、壁を壊してショートカットしたいが、ブレイズゲートのように破壊不可能になっていた。ラグナロクが去り、普通の迷宮になっていたはずなのだが、これもうずめ様の仕業なのだろうか。
     新たに敵チームを発見し、反転する一同。しかし、あまり大回りばかりしていてはらちがあかない、という判断が、隙を生んだようだ。
    「!!」
     殺気を察知した美影を、武流が、間一髪フォローした。直後、強酸性の液体が、2人がいた場所の床を侵食した。
     皆をかばうように、とっさに前面に躍り出る、あるな。
     目の前には、複数のデモノイドが立ちはだかっていた。既に殺気をまとい、こちらを攻撃対象と認めている。逃がしてくれそうにはない。
     やむを得ず、一同は、迎撃にかかった。


     遭遇したデモノイドのチームは、総勢4体。比較的少数であるし、個々の戦力を見ても大した相手ではない。
     徒のサウンドシャッターによって、戦闘音の拡散は封じられている。しかし、戦いを長引かせれば、他の敵チームに発見される恐れが増す。早々に撃破して、先を急ぐ!
     先手必勝、武流が迷宮の壁を蹴って、三角飛びを仕掛けた。開けた場所も悪くないが、構造物を生かした閉所での戦闘も嫌いではない。
     光剣『ヴァリアブルファング』に炎をまとわせ、武流が先頭に立つデモノイドを斬り下ろした。斬撃と炎熱の二重奏が、デモノイドを破壊していく。
     自分達の邪魔をするものは排除する、と、デモノイドに攻めよられる天摩。だが、反対に壁を蹴って相手の背後を取った。彗星の如きキックを浴びせ、デモノイドを地面に沈めてやる。
    「!?」
     狙いを定めようとしていた1体のデモノイドが、虚をつかれた。
     倒れ行く別のデモノイドの体を隠れみのに、焔のダイダロスベルトが向かってきたのだ。これはかわしきれず、とっさにかざした片腕が切られ、宙を舞う。
     いざ戦闘となれば、種子島のご当地ヒロイン『ファーストフェアリー』の力を見せる時! 武流からの声掛けを受けて、あるなも果敢に飛びかかった。
     敵の砲撃でわずかに肩を焼かれながらも、拳に雷撃をためると、跳躍の勢いと共に、敵の顎を打撃した。
     巨大ブレードのデモノイドに対し、徒が、WОKシールドをかざした。前衛の味方のため、防御用に分割展開させる。皆が攻撃に専念できれば、迅速に戦闘を済ませられるはずだ。ここで足踏みしてはいられない。
    「回復も戦闘においては大切な要素だからね」
     叶流の聖なる風が、仲間達の傷を塞いでいく。それと同時に、肉体を蝕む毒素もまた浄化されていく。
    「もしかして……この迷宮のどこかにいるの? ……なぁんてね」
     闇堕ちし行方しれずとなった最愛の人を思いながら。美影が乱れた笑みと共に、ダイダロスベルトの鎧を編む。
     その少し後方では、ナノナノが飛び回り、ふわふわハートで回復役を担っている。
     障害たるデモノイドに向け、京が振るう交通標識のスタイルは赤。敵の進行を封ずる打撃が、デモノイドの顔面を襲った。そのまま力をこめて押し切り、壁に叩きつけた。
     歴戦の灼滅者達にとって、この程度のデモノイド達は障害たりえなかった。ものの数分で敵の掃討を完了する。
     戦いの痕跡を処理する暇はなさそうだ。それに、灼滅者が探索している事は、今頃敵も察知しているはず。先を急ぐ事を選択し、探索を続行する。
     道中、見つけた探索痕を敵のものと判断すると、京が別ルートへの進行を促す。
     足早に進む一行。再び猫化した美影が、尻尾を二度回した。停止の合図だ。
    「ちっ、あと一歩で確保できるところだったのに!」
    「お前が余所見してっからだろ」
     羅刹のチームが、何やら言葉を交わしている。
     まだこちらには気づいていないようだ。要らぬ戦闘を避けるべく、迂回した先にも、また別の敵の気配。
     戦いを避けられないのなら、いっそ覚悟を決めて、こちらから仕掛けるしかなかった。
    「し、灼滅者! さっき見かけた奴らとは違うようだが」
    「一体どれだけの数の灼滅者が入り込んでやがる!」
     相手も、探索を妨害されていらだっているのだろう。拳を振りかざし、すぐさま向かって来る。
    「天摩」
    「OK、徒っち!」
     徒と天摩が声を掛け合った。経験とは、戦闘技術の蓄積だけではない。育まれた連携と信頼もまた然り。
     背中を預け合う2人が、羅刹の駆逐に挑んだ。


     チーム羅刹を退けた後も、交戦は続いた。
     戦闘の合間、傷の手当てのための休息では、あるなの持参したおやつが活躍した。安らぎをもたらしてくれるのは、何もサイキックばかりではない。
     あちこちで戦闘の気配、あるいはその痕跡が見受けられる。自分達だけでなく、他の多くのチームが苦戦しているようだ。
     迂回と敵との遭遇の繰り返し……その焦りは油断となり、危うく罠にかかりそうになるという場面にも、遭遇した。だが、叶流のとっさの機転もあり、これを回避する事に成功していた。つまらぬ傷など負っていられない。
     既に、うずめ様の元にたどりついたチームはいるのだろうか。通信が使えない現状、知るすべがないのがもどかしい。
     そして今また、何度目かの羅刹との戦いを繰り広げていた。
     敵の剛腕を受け切った焔の無敵斬艦刀『イクス・アーヴェント』が迷宮の空気を切り裂き、羅刹に迫る。
    「斬り潰します」
     その圧倒的質量、圧倒的威圧に、一歩も動くことができないまま、羅刹は半身を喪失した。
     味方の作ってくれた好機をつかみ、天摩が、マテリアルショットガンロッドを構えた。銃口に闇の想念を集束させ、放つ。ぽっかりと空いた傷穴の向こう、飛びかかる戦友の姿をとらえる。カミの力をまとった徒だ。
     敵羅刹にも匹敵する力を秘めた刃が、羅刹を追った。その自慢の角を折り、肉を切り裂く。
     すると不意に、無線機が反応した。
    「うずめ様が灼滅された……?」
     天摩の復唱に、敵味方が、攻撃の手を止めた。
     通信が可能になったという事実が、うずめ様の影響から脱した、何よりの証拠だった。
    「ちっ、儀式は失敗か! だが我等にはまだ『依り代』がある!」
    「逃げられませんよ」
     撤退せんとした羅刹の聴覚が、焔の声をとらえた。瞬き1つのうちに繰り出された数度の斬撃によって足を断たれ、もんどりうって倒れる。
     敵の首魁は倒れたが、とりあえず、この場の始末はつけねば。
     上半身を起こそうとした羅刹が、吐血する。叶流の想念弾が、腹部に風穴を開けていた。
    「守ってばかりで攻撃してこないと思ったら大間違いだよ?」
     傷口を押さえる羅刹に、叶流の言葉が染みる。
    「会ってみたかったわね。『羅刹の彼女』と」
     残念を口にしながら、京が神秘なる歌声を披露した。幻惑の力にとらわれたまま、羅刹が膝を屈し、倒れる。
    「なぁんだ……うずめ様、死んじゃったのかぁ……」
     かの刺青羅刹がいなくなってしまったのなら、この迷宮にもう用はない。美影が守りに活用していたダイダロスベルトを、しゅるりとほどいた。敵群の四肢をみるみるうちに縛り上げていく。
     もがく羅刹目がけ、あるなと武流が、挟撃した。武流の拳から溢れる光が、迷宮を照らす。そして無数の閃きと共に、羅刹の体を連打が襲う。
     そしてあるなもタイミングを合わせて、閃光の連打を一気に食らわせる。壁際まで押し込み、これを灼滅した。
     無線機から漏れ聞こえる情報によれば、うずめ様が探していた何かに関しても、発見があったらしい。
     連戦による疲労はピークに達しているし、これ以上迷宮にとどまるのは得策ではあるまい。
     そう判断し、地上への帰還に移る一行だった。

    作者:七尾マサムネ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年6月5日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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