新宿うずめ様事変~新宿迷宮探索行

    作者:J九郎

    「……エスパー達のおかげで、意外なことが判明した」
     集まった灼滅者達に、神堂・妖(目隠れエクスブレイン・dn0137)はやや興奮したようにそう告げた。
    「……学園で保護したエスパー達には、身体検査や、現状の説明などをしてきたけど、神無月・佐祐理(硝子の森・d23696)さんの意見を受けて、充分な警護を行った上で、エスパー達に、サイキックアブソーバーを見てもらう事にしたの」
     特別な期待をしていたわけではないのだけれど、と妖は続ける。
    「……エスパー達がサイキックリベレイターに触れた時、アブソーバーに暗号めいた文章が出力されたの」
     この暗号は最初意味不明だったのだが、新沢・冬舞(夢綴・d12822)と漣・静佳(黒水晶・d10904)が解読に成功したのだという。
    「……その結果、この暗号が、サイキックアブソーバーの予知に似た力を持つ者の存在と、その居場所を示すものである事がわかった。……そして、解読した暗号文章を元に予知した結果、『うずめ様』が、デスギガスとの戦いで半壊した『新宿迷宮』で何かを行ってる事が判明したの」
     うずめ様の目的は不明だが、予知能力を持つ『うずめ様』がソウルボードの戦いに加わらずに独自の動きを見せているのは、彼女にとってそれだけ重要な何かがあるということだろう。
    「……うずめ様は、新宿迷宮最下層に居るみたい」
     そしてその配下のデモノイドや羅刹たちは、うずめ様の指示に従ってチームを組んで、新宿迷宮下層の探索を行っているのだという。
    「……そこでみんなには、探索を行っているデモノイド達を掻い潜るなり倒すなりして、うずめ様の元に向かって、彼女の灼滅を目指してほしい」
     それから妖は、新宿迷宮探索についての説明を始めた。
    「……新宿迷宮の上層部は、破壊されて瓦礫の山になっているけど、羅刹によって下に進む道が作られてる。……中層部は、あちこち崩れてるけど、探索可能な状態。……そして下層部は、デスギガスとの戦いやグレート定礎の出現の影響も無く、迷宮として機能しているみたい」
     下層部では多数のデモノイドや羅刹達が、何かを探して探索を行っているらしい。
     迷宮を、探索する敵を完全に避けて最下層に向かう事は不可能といっていい。
    「……そこで迷宮下層の攻略は、予知能力を持つうずめ様の逃走を阻止する為、あらゆる方向からの同時攻略を行う必要があるの」
     また、突入するチームは、チーム同士の連携などは行わず、チーム単独での踏破を目指す事になる。迷宮攻略の定石通り、拠点を作って周囲を掃討しつつ確実に前進するような攻略を行えば、うずめ様には確実に逃走されてしまうからだ。
    「……デモノイドや羅刹達は、4~6体程度のチームに分かれて行動してるから、遭遇しても勝てない相手じゃないはず。……だけど、さすがに何連戦もして勝利し続ける事は難しいから、可能な限り戦闘を避けつつ、避けられない敵を確実に撃破して地下に向かっていって欲しい」
     そこまで説明すると、妖は少し考え込む仕草を見せた。
    「……新宿迷宮は、かつて刺青羅刹の外道丸が灼滅された場所。……うずめ様とも、なんらかの因縁があるのかもしれない」
     いずれにせよ、ここでうずめ様を灼滅できれば、大きな戦果になるはず。妖はそう言って灼滅者達を送り出したのだった。


    参加者
    神楽・三成(新世紀焼却者・d01741)
    叢雲・宗嗣(黒い狼・d01779)
    神虎・華夜(天覇絶葬・d06026)
    神凪・燐(伊邪那美・d06868)
    聖刀・忍魔(雨が滴る黒き正義・d11863)
    崇田・來鯉(ニシキゴイキッド・d16213)
    葦原・統弥(黒曜の刃・d21438)
    矢崎・愛梨(高校生人狼・d34160)

    ■リプレイ

    ●迷宮探索
    「迷宮探検ですか。さて、今回の最深部の宝は何なのでしょうねぇ……」
     神楽・三成(新世紀焼却者・d01741)が、懐中電灯で前方を照らしながら、荒れ果てた地下通路を進んでいく。その少し前方を行くのは、神虎・華夜(天覇絶葬・d06026)の霊犬である荒火神命だ。
    「暗いわね。犬の嗅覚の見せ所よ神命」
     黒い布を被った荒火神命は、華夜の指示の下、鼻を鳴らしながら敵の気配を探索し、一行の先導役を務めていた。
    「やはり上層部は荒れていますね。けれど、安全を第一に考えるなら瓦礫を除去しながらでも進むしかないでしょうか」
     瓦礫の山に道を塞がれ、立ち往生した荒火神命を見て神凪・燐(伊邪那美・d06868)が眉をひそめる。
    「急がば回れです。戦闘になれば時間が掛かるし被害も出る。それを考えると密に動く為の時間は惜しくないです」
     葦原・統弥(黒曜の刃・d21438)は『怪力無双』で瓦礫を撤去しつつ、その瓦礫を自分達の侵入経路を隠すように別の場所に積んでいった。
    「可能な限り素早く最奥を狙いたかったが……。この分ではかなり時間がかかりそうだな」
     叢雲・宗嗣(黒い狼・d01779)は『サウンドシャッター』で作業音を隠しつつも、周囲への警戒を怠らない。
    「いざという時のために折り畳み式のボートも持ってきたけど、今のところ必要はなさそうだね」
     崇田・來鯉(ニシキゴイキッド・d16213)は背負ってきたボートを一旦下に置いて、瓦礫の撤去を手伝い始めた。
    「壁に印を付けておくか。他のチームが通りかかった時の参考にもなるだろう」
     聖刀・忍魔(雨が滴る黒き正義・d11863)はチョークを取り出し、壁に『↓』と印を付ける。『この先進行可能』の印だ。行き止まりの場合は『×』とすれば、分かり易いだろう。
    (「正直言うと、地下迷宮とかうずめ様の事とかまるでわからないんだけど。まあ、付いて行けば分かるか」)
     矢崎・愛梨(高校生人狼・d34160)も、見様見真似で忍魔と同じように壁に印を付ける。
     そうこうしている内に瓦礫の撤去も終わり、一行は迷宮の更なる深部に向かい、足を踏み出したのだった。

    ●イキる羅刹
     敵との接触を避けつつ、何とか上層部を突破した頃には、すでに40分以上時間が経過していた。
     だが、中層部では上層部よりも多くのダークネスが徘徊しており、接触を完全に避けるのが困難な状況も出てきた。
    「……正面からダークネスたちが来ているわ。数は、4体」
     先頭を行く荒火神命からの報告を受け、華夜が小声で全員に警告する。
    「ヤバかったらすぐ逃げた方がいいんじゃない?」
     愛梨がこれまで通り戦闘の回避を主張するが、ここは一本道の中間地点。後退するのであればかなり戻らなければならないし、そもそも敵が正面から来ている以上、発見されるのは時間の問題だ。
    「慎重になりすぎてもあれだ。時には大胆に行こうか」
     忍魔は素早く決断すると、【鋸引鬼】斬魔を構え、迫りくるダークネス目掛けて駆け出した。
    「イヤッホー!! お宝探してたら灼滅者を見つけちまったぜっ!! チマチマした宝探しなんざより、こっちの方が俺様好みだぜぇっ! 野郎ども、やっちまいな!!」
     後方に位置するモヒカンの羅刹の指示を受け、前衛の3体のデモノイドが一斉に動き出し、忍魔を迎え撃つ。
    「一凶、披露仕る」
     忍魔に気を取られていたデモノイドの首を、いつの間にか背後に回り込んでいた宗嗣が銀爪で切り裂いていた。青い体液をばら撒きつつ、デモノイドが奇怪な悲鳴を上げる。だがその悲鳴は、宗嗣が発動させた『サウンドシャッター』により、外部へと漏れることはない。
    「ヒャッハー! サウンドシャッターのお陰でいつもの調子で戦えるぜぇ!!」
     三成が、テンションMAXで溶岩の如き赤黒いオーラを羅刹目掛けて撃ち放った。
    「熱っ!! てめえ何してくれてんだこの赤髪野郎!!」
     ブチ切れたモヒカン羅刹が拳を振るうと、その風圧が刃となって三成に襲い掛かる。だがその風の刃は、霊犬のミッキーが潜水艦を模した甲冑で受け止めていた。
    「ナイス、ミッキー!! 僕も『ニシキゴイキッド』として、負けてられないね!」
     戦艦を模した甲冑姿に変身した來鯉は、そのまま飛び跳ねる鯉のごとく華麗な飛び蹴りを、デモノイドに叩き込む。
    「ウボォォォオオオオ!!」
     デモノイドの剛腕がハンマー型に変形し、攻め寄せる灼滅者達を薙ぎ払うように振るわれた。狭い通路でかわしきれず、忍魔と愛梨が吹き飛ばされ、壁に激突する。
    「ここは私の妹が雨宮夢希さんと契約を交わした大切な場所……。あなた達の好き勝手にはさせません」
     燐は静かな怒りを滲ませながら、手にした剣『刹那』から放った聖なる風で、二人の傷を癒していった。
    「雑魚とはいえその怪力は侮れませんね。まずは守りを固めます」
     そして統弥が、『ブラックライト』を前衛全員を覆い尽くすように展開する。
     迎撃態勢さえ整えれば、いかに怪力を誇ろうが、今の灼滅者達にとって一般のデモノイドなど、それほど難敵とは言えない。数分後には、
    「眠れ……凶方の果てで」
     宗嗣が一体のデモノイドの首を切り落としたのを皮切りに、
    「必要最低限の戦闘か。中々、難しい話だ」
     忍魔が虎杖に魔力を収束させて放った至近距離の一撃がもう一体のデモノイドを吹き飛ばしていた。
    「グルアアアアッ!!」
     仲間を倒され、猛り狂った残り一体のデモノイドの反撃を、しかし統弥はブラックライトで受け止め、
    「そろそろ終わりにしましょう」
     さらに反動を利用してブラックライトを叩きつける。
     そして、よろめいたデモノイドに、
    「ミッキー、一緒に行くよ!」
     來鯉の『大脇差・九嶺友成』とミッキーの斬魔刀の斬撃が、同時に叩き込まれた。デモノイドは耐えきれずに大音響とともに地に倒れ伏す。
     一方、モヒカンの羅刹はというと、
    「おいそこの髪の赤いの! てめえ俺様とキャラ被ってんだよ!! ムカつくから俺様に詫びてから死ねやコラっ!!」
    「ヒャッハー! それは俺の台詞だぜぇっ!! 調子に乗ってんじゃねえぞ三下羅刹!!」
     三成との盛大な罵倒合戦と遠距離サイキック合戦の果てに、
    「いい加減、眠りなさい」
     華夜の放った『バールのような者』に飲み込まれていた。
    「おっと、まだ殺さないわよ。うずめ様へ辿り着く道順さえ教えてくれたら、命だけは助けてあげる」
     瀕死となったモヒカン羅刹に、華夜はそう取引を持ち掛ける。
    「ああ!? ざっけんな、俺様がうずめ様を裏切るような卑怯者に見えるってのかコラァッ!」
    「教えてくれたら、良い事をしてあげるわよ」
    「マジっすか!? ……とか、言うわきゃねえだろこのアマッ!」
     モヒカン羅刹が鬼神と化した腕で華夜を殴りつけたのと、三成が羅刹に連続して拳を叩き込んだのは、ほぼ同時だった。
    「……決して、うずめ様の居場所を俺様が知らされてねえとか、そういうんじゃねえから勘違いすんじゃねえぞ、クソが……!!」
     わざわざ言わなくてもいいことを言い残して。モヒカン羅刹は灼滅されていった。
    「うずめ様の手掛かりは得られませんでしたね。……それにしても、彼らは何を探していたのでしょう?」
     燐は華夜の傷口に聖布『Totenbuch』を巻きつけて治療しながら、そんな疑問を口にしたのだった。

    ●迷宮探索再び
     先頭を歩いていた荒火神命に、突如天井から無数の槍が降り注いだ。
    「また罠!? 荒火神命、下がりなさい」
     華夜の指示を受け、罠で傷を負った荒火神命が後退する。
    「致命的な罠は少ないですけど、厄介ですね。霊犬では、敵を発見することはできても罠を発見するのは難しいですし」
     燐の言葉通り、迷宮内に仕掛けられた罠は危険なものは少ない。だがそうは言ってもサイキックに起因する罠であるのは確実で、バベルの鎖を持ってしてもダメージを防ぐことはできない。
    「こちらを殺すことではなく、足止めをすることが目的ということか」
     宗嗣が、自らの推論を口にする。
     そうして歩を進めていけば、今度は足場の崩れた通路に行き当たった。
    「あれ? 行き止まり?」
     愛梨が崩れた足場の下を覗き込むが、その下は底が見えないほど深い空洞になっている。
    「これも罠の一種か」
     忍魔も眉間にしわを寄せ、穴を覗き込んだ。
    「こんなこともあろうかと、ロープを用意してきました。私が先に行ってロープを張りますから、それを伝ってきてください」
     三成は荷物の中からロープを取り出すと、『ダブルジャンプ』で軽々と崩れた通路を飛び越え、ロープを固定する。
     それから一人ずつ、ロープを伝って穴を越えていると、
    「むう、灼滅者発見なり!!」
     一行が歩いてきた方向から、ドタバタと騒がしい足音が聞こえ、慈眼衆らしき羅刹の集団が姿を現した。
    「こんな時に、厄介だなあ。援護するから、早く渡っちゃって」
     既に渡り終えた來鯉が、オーラを撃ち放って慈眼衆を牽制する。
    「むう、奴らを先に進ませてはならぬ!!」
     慈眼衆が、まだ穴を越えていない統弥、忍魔、宗嗣の3人に殺到してきた。
    「ここは僕が殿を務めます。みんなは早く、向こう側へ」
     慈眼衆の攻撃を一身に受け止める構えを見せる統弥。その隣に『お前だけにいい格好はさせない』とでも言いたげに、霊犬のミッキーが並ぶ。
     既に渡り終えた者達も一斉に遠距離攻撃を慈眼衆に仕掛け、慈眼衆をひるませている間に、忍魔と宗嗣が無事ロープを渡り終えた。
     最後に統弥とミッキーが怒涛の攻撃を耐え忍びつつロープを渡りきると、一同は穴を渡る手段のない慈眼衆を置き去りに、その場から駆け去っていったのだった。

    ●探索の終わり
     最深部へ続くらしい階段を見つけたのは、探索を開始して既に1時間以上を経過した頃だった。そしてその階段の前には、番人のように屈強なデモノイド達が5体、立ちはだかっている。
    「避けられぬ戦いなら、速攻あるのみ」
     宗嗣は音もなくデモノイドに近づくと、『無銘蒼・禍月』でデモノイドの体を覆う寄生体を切り裂く。
    『グゥオオオオオッ!!』
     後方にいた2体のデモノイドが、背中から生えた大砲から砲弾を撃ち放つ中、
    「邪魔するんなら、手前の首と命を刈り取ってやるよぉ!!」
     三成が『断罪斧』に畏れを纏わせ、斬り込んでいった。
    「ここを突破できればいよいようずめ様に対面できそうね。神命、ここが踏ん張りどころよ」
     華夜も巨大な十字架【圖影戲】を繰りつつ、デモノイドに向かっていく。
    「さっき羅刹に付き従っていたデモノイドよりは手強いみたいですけど、私達の力を合わせれば、絶対に勝てます」
     傷を負った仲間を次々に癒しながら、燐が仲間達に檄を飛ばした。
    「俺達に力を貸してくれた友の為にも、俺達が勝つ!」
     そして、忍魔が上段から振り下ろした【鋸引鬼】斬魔が、デモノイドの一体を真っ二つに切り裂いた時。
     突如全員のスマートフォンが、一斉に着信音を鳴らし始めた。
    「この迷宮では、うずめ様が生きている限り電波を発する機器は使えないという話だったはずですが……」
     デモノイドの攻撃を受け止めながら、統弥はある事実に気付き、息を呑む。
    「うずめ様の灼滅に、成功したって」
     果たして、代表してスマホに出た愛梨が、一同にそう告げた。
    「決戦には間に合わなかったね。でも、他のチームが安全に撤退できるようにするためにも、このデモノイド達は倒しておかなきゃ」
     來鯉は少しばかりショックを受けつつも、すぐさま気持ちを切り替えてデモノイドをマテリアルバット『キヌガサ』で殴りつける。既に弱っていたデモノイドは、その一撃で吹き飛び天井に激突すると、そのまま動かなくなった。
     もう、余力を残す必要はない。全力攻撃に切り替えた灼滅者達の猛攻に、デモノイド達は耐えきれず、
    「これで終わりにしましょう」
     統弥の拳の連打が最後のデモノイドの全身を覆う寄生体を粉々に砕いたことで、戦いは終わりを迎えた。
    「長い戦いでしたね……」
     三成が思わずそう呟き、
    「これで新宿迷宮もまた静かになりますね」
     燐が安堵したように胸を撫で下ろす。
    「探索はまた別の日にしましょ。皆が待ってるわ」
     華夜に促され、一行は地上へ帰るべく、元来た道を戻り始めた。
    「結局、ボートを使う機会なかったなあ」
     背負ってきた折り畳みボートにチラッと目を向け、來鯉は残念そうにそう呟いたのだった。

    作者:J九郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年6月5日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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