新宿うずめ様事変~響けや禍福

    作者:ねこあじ


     教室に入った灼滅者を迎えたのは天野川・カノン(高校生エクスブレイン・dn0180)だった。
    「皆様、お集まりいただきありがとうございます」
     仁左衛門からぴょんと降り立った彼女は、一礼。再び仁左衛門へ座り、タブレット端末を手に取った。
     そして丁寧な口調で説明をはじめた。
    「先日、学園に保護されたエスパーさん達についてのことですが、身体検査や、現在の状況への説明を行っていました。
     その後、神無月・佐祐理(d23696)さんの意見もあり、充分な警護を行なったうえで、エスパーさん達にサイキックアブソーバーを見てもらうこととなりました」
    「何かあった?」
     灼滅者の言葉に頷くカノン。
    「はい。特別な期待は無かったのですが、エスパーさん達がサイキックリベレイターに触れた時、アブソーバーに暗号めいた文章が出力されたのです。
     この暗号は最初意味不明でしたが、新沢・冬舞(d12822)さんと漣・静佳(d10904)さんが解読に成功しました。
     結果、この暗号が、サイキックアブソーバーの予知に似た力を持つ者の存在と、その居場所を示すものであることが分かったのです」
     予知に似た力――。
    「うずめ様……」
     呟く灼滅者。それに対しても、やはり頷くカノン。
    「解読した暗号文章とエクスブレインの予知から、『うずめ様』が、デスギガスとの戦いで半壊した『新宿迷宮』で何かを行なっていることが判明しました。
     うずめ様の目的は不明ですが、予知能力を持つ『うずめ様』は、ソウルボードの戦いに加わらず新宿迷宮にいる――彼らにとって重要な何かがあるのは間違いありません」
     うずめ様は、新宿迷宮の最下層に居るようだ。
     配下のデモノイドや羅刹たちは、うずめ様の指示に従いチームを組んで、新宿迷宮下層の探索を行っている、とカノンは言った。
    「皆様には、探索を行っているデモノイド達を掻い潜り、あるいは撃破して、うずめ様の元に向かい、うずめ様の灼滅を目指してほしいのです」
     と、いうことで! とカノンは声を落ち着いたものから元気なものへと切り替える。
    「新宿迷宮の上層部はね、破壊されて瓦礫となっているけど、羅刹によって下に道が作られているよ。
     中層部は、あっちこっち崩れてるけど、探索可能な状態!
     下層部は、デスギガスとの戦いやグレート定礎の出現の影響も無く、ちゃんと迷宮として機能! 頑丈だね!
     下層部はたくさんのデモノイドや羅刹達が、何かを探して探索を行っているみたいだよ」
    「うーん、となると、探索する敵を完全に避けて最下層に向かう事は不可能ってことか」
    「そうだね。
     迷宮下層の攻略は、予知能力を持つうずめ様の逃亡を阻止するために、あらゆる方向から同時攻略を行う必要があるね」
     考え始める灼滅者達に応えるカノン。
    「あ、あとね。突入するチームは、チーム同士の連携ナシで、チーム単独での踏破を目指すことになるよ。連絡手段が確保できないんだ」
     迷宮攻略の定石通り、拠点を作って周囲を掃討しつつ確実に前進するような攻略を行なえば、うずめ様には確実に逃走されてしまう。
    「デモノイドや羅刹は、四~六体くらいのチームに分かれて行動してるの。遭遇しても勝てない相手ではない――けどね、さすがに何連戦もして勝利し続けることはできないよね。
     可能な限り戦闘を避けつつ、避けられない敵を確実に撃破して地下に向かってほしいの」
     説明はここまで! とカノンは端末にコードを繋げ、充電をはじめた。
    「でも、エスパーさんの救出と保護が、サイキックアブソーバーに影響を与えて、うずめ様撃破のチャンスに繋がるとは思ってなかったな~。
     みんな、ガンバってね!
     ちゃんと無事に戻ってくるんだよ!」
     そう言って、カノンは灼滅者達を送り出すのだった。


    参加者
    伝皇・雪華(冰雷獣・d01036)
    新城・七葉(蒼弦の巫舞・d01835)
    ミカエラ・アプリコット(弾ける柘榴・d03125)
    木元・明莉(楽天日和・d14267)
    鈍・脇差(ある雨の日の暗殺者・d17382)
    七瀬・麗治(悪魔騎士・d19825)
    九形・皆無(黒炎夜叉・d25213)
    ラススヴィ・ビェールィ(皓い暁・d25877)

    ■リプレイ


     新宿迷宮。
    「ん、ダンジョンアタック、だね」
     過去作成された地図を持ち、スーパーGPSを発動させる新城・七葉(蒼弦の巫舞・d01835)。
     破壊され、瓦礫の山となっている新宿迷宮・上層部。
     これにより、景観が変わっていても、おおよその現在地が把握できそうだ。
    「ほな、行こかぁ」
     伝皇・雪華(冰雷獣・d01036)が空飛ぶ箒に乗り、やや先行する。
     羅刹が作ったらしきとある道を空中で視認し、眼下の仲間へと合図を送った。
     七瀬・麗治(悪魔騎士・d19825)が急勾配な瓦礫から飛び降り、進路の確認をしていく。
     それに伴い、二匹のニホンオオカミが軽やかな足取りで瓦礫の道中を進んだ。
     続く、九形・皆無(黒炎夜叉・d25213)と鈍・脇差(ある雨の日の暗殺者・d17382)は怪力無双を使って、進路の邪魔な瓦礫の撤去する。
     瓦礫に埋まった迷宮の奥――。
    (「鬼が出るか蛇が出るか……って、鬼が出るのは間違いないか」)
     一つ頷く脇差。羅刹が作った道を通り、階下へと繋がる穴には、ロープを使い降りていった。
     速やかな攻略を心掛けつつ、灼滅者達は上層部を通過し、中層部へと入っていく。
     ここも瓦礫が多く、地図上で居場所を確認しながら慎重に進んでいった。
    「うん……? 変化しているな」
     ある程度進めた時、マッピングをしていた麗治は呟き、「そっちはどうだ」と七葉を見た。
     彼女も丁度気付いたところだ。頷きを返す。
    「ん、壁の中に入った、ね」
     新宿迷宮は主であるラグナロクが去り、結界も消え、普通の迷宮と化していた。
     その後も迷宮内へと立ち入った灼滅者達はこの地図を活用している。その時は問題なかった。
    「うずめが何かした、と考えるのが妥当でしょうか」
     と、皆無。
    「……『結界』だろうか」
     木元・明莉(楽天日和・d14267)が呟いた。かつては、新宿迷宮のラグナロク、納薙・真珠の力でダークネスの目すら欺く結界が張られていた。
     あれを精緻なものとすれば、今目にあるのは劣化型。不完全ながらも、応用しているのだろうか。
     うずめ様にそんな力があるのか。色々あった迷宮自体に呼応するが如くの要因があるのではないか。気になる事は多々とあった。
     迷宮内が変化していても、広い目で見た現在地、階層などは把握できるだろう。
     そんな報告を受け、より慎重に先を進むニホンオオカミ組。
     その一匹、ラススヴィ・ビェールィ(皓い暁・d25877)が狭い通路を通過しようとした時、
    「!」
     両端の壁から「ガッ!」と槍が飛び出してきた。
     見上げる。
     ミカエラ・アプリコット(弾ける柘榴・d03125)の毛並みは一瞬逆立ったが、やはり同じように見上げた。
     二匹の尻尾がはたりと動く。
     警戒して進めば掛かる事のない罠、と判断し、人型に戻って報告するミカエラをラススヴィは座って待つ。
     基本、狭い道は迂回していく方針となった。
     罠があると思ってみれば、怪しい狭さだ。
     下りとなった坂の曲がり角、業を嗅ぎ取った麗治が合図を送り、脇差が鏡で先を確認した。
     デモノイドの班。ハンドサインで仲間に伝える。


     尻尾をはたはたと動かし、耳をぱたぱたとさせるミカエラは聞き耳中。
     そろっと進む四つ脚に気付き、明莉は尻尾を引っ張って留めておく。
     何かを探している敵陣。たまにデモノイドが遠くまで見通すように周囲を見た。
     そして、何かを探している、という事は隅々を見逃さない、という事でもある。
     さっと鏡を引く脇差。そしてホワイトボードに敵の数、しばらくは動きそうにない旨を書いて見せた。
     マッピングした紙に、敵チームの探索での広がり具合を書きこむ明莉。ここは前の道に戻り迂回を試みる。
     敵が行く方向も書きこんでいるので、現在作成中の地図は賑やかなものになっていた。
     こうしてみると敵が多い。
     一度、後方から駆けてきた敵チームとの遭遇には、さすがに回避できなかった。
     何かを嗅ぎ取ったように真っ直ぐ駆けてきた敵陣と戦闘になり、明莉がサウンドシャッターを施す。
     適宜攻撃を使い分け、早期撃破に動く灼滅者達。
     一体探し物はなんなのか――。
    (「黄泉比良坂への道か、それこそ天岩戸でもあるのですかね? ……いえ、それにしては、蛇行するチーム。真っ直ぐに進むチームと、あるような」)
     ふと考える皆無。
     目的のものが、消えたり出現したりしているのだろうか。敵挙動を何パターンか見ていくと、そんな風に思う。
     気にはなったが、敵を撃破した灼滅者達は最下層を目指し、歩を進める。
     デモノイドのみの敵班を見つけ、その時、業を嗅ぎ取れなかったことに麗治は不思議に思ったこともあった。
     だがすぐに思い至る。生み出されたばかりのデモノイドなのだ。
     声を出さず、警戒も怠らず、迷宮の探索を進めていくと、徐々に効率化していく。
     広い場所は壁伝いに、道がなく下に続く空洞があれば、DSKノーズで一応の安全が確認されれば、箒に乗った雪華が向かう。
     下から一度点滅した照明を確認したラススヴィは人間形態へと戻り、ロープを握った。
     順調な進み具合。
     上階から該当階の地図へと移動するマーカーを見て、七葉は現在の階層を告げる。
     最下層に至るまで、あと少し。


     ――どくん。
     己の脈打つ心臓に痛みが走った――ような感覚。
     不快さを覚え眉を顰めた明莉と、思わず胸に手を当てた雪華。
     一歩、二歩、と進むとソレは、ぼんやりと……そして徐々に明瞭なカタチで視覚化されていく。
     どくん、どくん、どくん――。
     迷宮に薄く、重なるような朱線が走り、脇差は見遣る。流れる、あか。
     三歩、四歩。
     どくどくと、重く深く脈打つ薄い赤の世界が灼滅者を包みこめば、自身の血が、心臓が、魂が呼応していくかのような錯覚に陥る。
     オオカミの姿から戻るミカエラとラススヴィ。
    「ディープブルー・インヴェイジョン」
     スレイヤーカードを前にかざした麗治が言うと同時に、光に包まれた体は、次の瞬間、全身鎧を纏っていた。
    「ん、ボス戦かな?」
     そう言った七葉の立つ地面も、どく、どく、どくと脈打っている。
     最下層のとある位置、進めば進むほど、ヒトの体内に入り込んでいくようだ――重低音の脈動。薄い赤膜に包まれた世界は鳴動している。
     業。業。業。満ちた瘴気は人の身では呼吸すら困難だろう。
     皆無は慎重に周囲を観察した。
     小さな鈴の音があちこちで鳴る。
     儚い幾重もの鈴束の音が灼滅者達の耳を掠めた。
     しゃん、しゃん、しゃん。
     しゃりりりり……。
     狂気的で妖異な世界。
     活性化している迷宮、鳴動の中心部。
    「戦端を開くのは俺達か」
     脇差の呟き。抜かりのない進みがもたらす場。
     踏みこんだ灼滅者達は、神楽鈴を手に儀式を行ううずめ様の後姿を目にした――。

     しゃん。
    「うずめ様は言いました。ひとつのソウルボードを手に入れなければならないと」
     沢山の鈴の音が止む。
    「うずめ様!」
     控えていた敵の声。
     しゃん。
    「うずめ様は言いました。邪魔する者は殺しなさいと」
     儀式の中断に、脈打つ迷宮が鎮まっていった――清麗高雅たる所作ののち神楽鈴を消したうずめ様は振り返る。
     薄膜世界の消失と共に広大な場が露わになり、白軍服の雷軍鬼とデモノイドが現れると場の空気は一気に征野と化す。


     彼我の距離を埋める灼滅者と敵配下。
    「敵数。羅刹二体、デモノイド二体、うずめ様」
     敵の特徴を視野におさめ、立ち位置の割り出しに入ったラススヴィが呟く。
     恐らく敵配下は精鋭。油断はできないだろう。
     敢えて、雪華は軽ーく、うずめ様に声をかけた。
    「うずめはん、縁でもあれば、何時か茶でもどうけ」
    「貴ッ様! なれなれしいぞ!!」
     羅刹の怒声。煽られた羅刹は突出し駆けてくる。
    「……」
     その時うずめ様が左の掌を開き、雪華、いや、皆無に向け白い光を放った。
    「私ですか」
     衝撃に備え、身構える皆無は思わず呟いた。
     顕現するは、
    「スサノオだと……っ」
     咄嗟に前に出た脇差の肩を、腕を、胴を無数のスサノオの幻影が喰らいつき、体内に炎を送り込んでくる。
     紛うことなきスサノオの力だと、その身を以て脇差は知った。
    「ッ」
     白き大群は数メートル、脇差を後退へと追い込み、同時に羅刹とデモノイドが追撃を掛けようとする。
     それを阻むのは銀の大刀だ。
     激震を振るう明莉が、雷軍鬼を庇う青の巨体へ超弩級の一撃。
     一方、すり抜けた雷軍鬼は鬼腕で脇差を殴りつけるも、半ば回避できた脇差。
    「道を拓かせていただきますよ」
     皆無が霊子強化ガラスに鎧われた魂を削り、冷たい炎を敵前衛へと放った。
     一刀により勢いよく吹き出たデモノイドの熱い体液が瞬時に冷え切る。
     同時に結界を構築したミカエラが、敵の霊的因子に揺さぶりをかけ、強制停止へと追い込んだ。
    『ググッ』
     篭った声を放ち大きく前進したデモノイドが彼女の首を掴み上げれば、高い毒牲を持つ光線、そして灼滅者前衛へと雷鬼掌が放たれる。敵の動きはやや統制されているようだ。
     抜刀した脇差が影刃でデモノイドの腕を斬り上げ、同じく敵胴を、麗治が蹴り足に寄生体のスパイクを生やし、キックを打った。
    「……っ、キミ、もう死んでるんでしょ? 元には戻れないよ!」
     敵腕から逃れたミカエラは、首に手を当てながら言う。「癒して」と七葉の声がし、霊力が送られてくる。
     デモノイドと羅刹、灼滅者の猛攻はこの間にも続いている――そんな中。
     一度は灼滅され、蘇ったうずめ様。
    「うずめ様は言いました。神の依り代は使者こそが相応しいと」
     向けられた言葉に、答えを持っていたうずめ様は言葉を紡ぐ。
    「うずめ様は言いました。生きている者は決して神にはなれぬだろうと」
    『うずめ様』、いや、『彼女』は『誰』なのか――戦闘の合間、皆無は彼女を見る。
     常に思っていた疑問。察していた事でもある。
     明瞭になってきた推測。
    『うずめ様』が、『うずめ様』の声を聞いて伝える、巫女のような存在ではないか、と。
    「結局、『うずめ様』とは何者なんだ? 今は、その依り代を作っているのか?」
     明莉が問う。活性化した迷宮の胎動を思えば、頷ける話であった。
    「うずめ様は言いました。神の依り代に、ひとつのソウルボードが充ちた時、『神』が再臨するだろうと」
     彼女の右手が白光に覆われていく。
     舞うように身を屈めたうずめ様が、軽く地面を叩くと同時に大震動が起こった。
    「こっちに来るぜ」
     戦場全体を飲み込まんばかりの大震動が起き、注意を促した後衛の麗治、雪華、七葉を直撃する。
     続き、七葉に向かったデモノイドの攻撃はウイングキャットのノエルが割り込んだ。
    「グレート定礎の力か」
     庇い手のデモノイド一体が倒され、ラススヴィは震動の余波を感じ取りながら次の標的、同じく庇い手の雷軍鬼へ影を走らせた。
     オオカミの姿を象る影が敵胴に、腕に喰らいつく。
    「っ、この!」
     喰われていない腕を異形巨大化させた羅刹は、ラススヴィを拳で撃ち抜いた。
    「迷い惑わせ守りの衣」
     灼滅者達に満遍なく放たれる攻撃のなか、七葉のホワイトキャットテールが仲間をふわりと覆う。柔らかだが鎧う質は確かなものだ。
     精鋭の類である羅刹とデモノイド、うずめ様との戦いは、どちらが有利かは見極めが難しい。
     ここを目指す学園の仲間が辿り着けば、あるいは――、
    「お客さんが来たみたいや」
     魔力の光線で敵の防護を貫き、雪華が言った。


    「タアァァァのしそーナ事やってんじゃねぇか! うずめ様ァ!!」
     デモノイドロードがデモノイド達を連れ、乱入してくる。
     デモノイドが撃つ酸の雨の中、迫るデモノイドロードの両手は寄生体の鋏になっていた。
    「蟹や」
    「蟹!」
    「アん? マァ、教えとくカ、キャンサーだ。ちぃっと遊んでくれヤ!」
     雪華とミカエラに応じ、突撃してくるキャンサーは青い鋏でミカエラに襲いかかる。
    「お前ラは、まずそっちの嬢チャんダ!」
     指名に上がったのは七葉。ノエルが七葉の傍に飛んでいく。
     ギリギリの戦線は意気揚々とキャンサー達が挟撃の形で加わり、戦力差が一気に広がる。
     灼滅者達へ王手がかかったも同然の状況。
     赤色標識でデモノイドを殴りつけるラススヴィ。
     は、と血臭混じりの呼気を吐く。
     挟撃の陣、立ち位置、ノエルの消滅。敵味方を俯瞰し講じるは、他の灼滅者が辿り着くまで耐え切る事だろうか。
    「粘り処だな」
     麗治の右腕の寄生体が大剣を侵蝕し、青い刃に作り変える。今の標的は眼前のデモノイドだ。
     デモノイドの牽制刃を青刃で受け、刹那の鍔迫り合いを弾く形で切り上げた麗治は、右腕を一気に薙ぐ。
     横一文字の一刀がデモノイドの腹を裂き、勢いで体液が飛沫し弧を描く。付近の羅刹の白軍服を染め上げた。
    「この好機、逃がす訳にはいかないんだよ」
     酸の雨を零距離で受け止めた脇差は、既にミカエラと回復の補助へと入っている。
     敵の撃破は更に二体分。
     味方が負う怪我を分散させ、粘る。されど、戦力の差は灼滅者の体力を急速に奪っていく。
     スサノオ百鬼夜行が七葉を喰らい、無数の裂傷を刻んだ。
    「……ん、ごめ、ん」
     くたりとしたホワイトキャットテールと共に、七葉が崩れ落ちた。
    「ッ」
     更に二手ののち庇い手が一人。頭部に羅刹の拳を受けたミカエラは殴り飛ばされ、体を地に激しく擦った状況の中ぴくりとも動かない。――動かない、まま。
     二人と一体、癒し手と庇い手を失えば、瓦解は一気、崩落の如し。
     更に一手。
     うずめ様の貪欲なる地震が前衛を襲う。その最中、キャンサーの鋭い鋏に貫かれ、ラススヴィの視界は灼けるように赤く染まったのち暗転した。
     ざらつく声で呟くのは、脇差。
    「ここまで、か」
     明莉の胸を押しのけ、庇いに入った彼が膝と手を地につけば滴下する赤が広がる。意識はある――だが体が動かない。
     誰も彼も数撃を喰らえば、灼滅者側は壊滅状態となる。

     刹那、場に新風が吹きこんだ。
    「九形!」
    「ええ」
     除霊結界で、敵の霊的因子を強制停止させた皆無の攻撃の隙に、明莉は目前の脇差を抱え、麗治がミカエラの元へ走った。
     殿につくべく牽制兼ねた雪華が周囲に結界を張り巡らせた時、凛とした存在が駆け抜けていく。
    「この場は預るわ」
    「菫は我と共にこの者達の背中を守れ」
     荒谷・耀と貴夏・葉月。護るように割り込んだ彼女達と、駆けつけてくる灼滅者の気配。
     皆無が七葉とラススヴィを抱えた。麗治を見れば薄らと意識を取り戻したミカエラに肩を貸し半ば抱えている。
    「すまんねぇ。後は頼むんよ」
     息は荒いが緩やかな響きは変わらない声を残す雪華――彼を殿に、灼滅者達は学園の仲間に場を引き継ぎ、撤退する。
     行き会った班に援護されつつ迷宮を進んでいると、やがてうずめ様の灼滅に成功したとの一報が入った。
     激戦の末の勝利である。
     うずめ様――彼女の灼滅に灼滅者達は様々な想いを抱くのだった。

    作者:ねこあじ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年6月5日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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