「俺たちを取り巻く状況はなんかすごいことになってるけど、やっぱりやりたいよね?」
千曲・花近(信州信濃の花唄い・dn0217)の問いに、察しのいい灼滅者はうんうんと頷く。
「大々的にはできないかもだけど、学生らしいこと、したいよね?」
またもうんうんと頷く灼滅者を前に、浅間・千星(星導のエクスブレイン・dn0233)も、だよなぁ。とつぶやいて。
「ということで、参加も開催も有志で。ということになるが、最近は激戦に次ぐ激戦だったからな、皆の息抜きになればと思って――」
武蔵坂学園運動会。
開催決定です!
「わたしが手伝いをすることになっているのは『なかよしさんリレー』というリレー競技だ」
名前は可愛いがガチのリレーである。
クラス、クラブ、友達や親友や恋人同士……どのような組み合わせでも参加可能。最低二人から参加できる。
1チームの人数は自由。大人数の参加も少人数の参加も大歓迎。
バトンは各々所縁のある物。
「たとえば私だったらこれを使うかな?」
と、千星はうさぎのパペットをパクパクさせた。
勿論、思い出の小物でも、大八車などの大物でもバトンには成り得る。
「順位はチームのアベレージで決めるらしいけど、順位より楽しんだもの勝ちの競技って感じかな」
と、花近は軽く顔を綻ばせる。
千星もいつものようににんまりと笑む。
「今の学園のトピックス的には『サイキックハーツ』なのだろうが、その為に学生らしいことを我慢しなければならないというのはあまりにもナンセンス。この運動会が日頃の息抜きになれば幸いだ」
●
ペアは三組。
毎朝の鍛錬と農作業の手伝いで培ったモノを発揮するときが来た! と彗樹と伊織は自信満々。
「見せるのは『絆』と、モットーの『何でも楽しむ』!」
声を合わせて息ぴったり。笑み合うと、彗樹は第二走者スタート位置へ。
菜々のパートナーは同じ学部で席がお隣の了。誘ったら来てくれたらしい。
「順番はどうしよ」
うーんと悩む菜々に対し、了は走り終わった後に日差しから逃げ込める木陰を探していた。
結局、菜々から了へバトンを渡すことに。
「運動はあまり得意じゃないけど、頑張ってみる……っ」
水鳥は、アルパカのぬいぐるみを抱えながら気合十分。
「かわいいの持ってきたなー」
マサムネがアルパカをちょんちょんつつく。
「……前に、一緒に作った子ですから……」
と、もこもこに顔をうずめてしまう水鳥に、マサムネは思わず笑み。
仲良くスタートラインに並び、このまま走ってしまいそうな二人に千星は声を掛けた。
「ご両人すまない」
これリレーなんだ。
この言葉に、二人は慌てて走る順番を決め始めたのだった。
スターターピストルを構えるのは、花近。
「よーい……」
パン! と乾いた音と同時に一斉に走り出すマサムネ、伊織、菜々の三人。
本当はこのアルパカのぬいぐるみを挟んで彼女と一緒に走りたかったマサムネは、一刻も早くこのバトンを繋ぐため、全速力。
受け渡し終えたら、並走するんだ!
その背を裸足で追う伊織の手には、ラップに包まれたおにぎりが。
腕を振るたびおにぎりが遠心力に従いぶんぶんと揺れるが、ラップ部分をぎゅっと握る。
おにぎりは二人にとって思い入れのある物なのだ。
菜々は二人の背を追いながら、何か白くてふわふわなもの掴んでいる。
ナノナノである。
「ナノぉー」
振り回されて目を回すナノナノ。
「頑張ってナノ、もうすこしナノ」
一番にバトンを繋いだのはマサムネ。
「並走するから一緒に!」
マサムネから受け取ったアルパカを抱えて走り出す水鳥は、足がもつれそうになる。
「なんでも無理は禁物、マイペースが一番!」
コース外で並走するマサムネの応援に、水鳥はまだ遠いゴールを見据え。
「だ、大丈夫……い、いけます……っ」
後ろでは。
「えのもん、頼んだよ!」
伊織から彗樹へ。おにぎりバトンがつながった。
「了解。任された」
ご飯の部分をしっかりつかんだ彗樹は、裸足で砂地を蹴りだした。
「いっけぇーーぇ!」
伊織の元気な声が響く中、菜々を迎える了がバトンを見てぎょっとする。
「あ、それバトンなの?」
頷かれてずいっと差し出されては受け取るほかない。了はナノナノをそっと抱っこしてそっと走り出す。
「頑張れ二人とも」
菜々の声援を背に受けながら、
「……大丈夫?」
と、目を回しているナナノナノナノのほっぺをムニムニしながら走る了。
ゴールテープを最初に切ったのは、彗樹だった。
「お疲れさまっ! やったね、えのもん!」
彗樹に飛びつき抱きしめた伊織。彗樹はそれを黙って受け入れ。
「何とか二人でつなぎきったな」
次にゴールしたのは、ナノナノをムニムニしている了は、
「とても良いナノナノだったよ。ありがとう」
と、ナノナノを返却し即行木陰に逃げ込んでいく。その背を目で見送って、
「すごく頑張った、お利巧さんナノ」
菜々はナノナノの頭を撫でた。
最後にゴールしたのは、水鳥とマサムネ。
この組の最後にゴールはしたけど。
運動会が無事開催されて恋人と一緒に走れたことに、マサムネと水鳥は感謝しあった。
●
トリオの部は三組。
スタート位置には【Cc】のサズヤ、【チーム・わふー】のレン、【花雪空】の榛名がそれぞれのバトンを手にスタートを待っていた。
仲間たちやギャラリーが声援を送る中、乾いた音が空に鳴り響きわたり三人は一斉に走り出す。
フローレンツィアに抱きかかえられているのは、ぬいぐるみに扮した瑞葵のナノナノ・もここ。もちもちしつつ、ぎゅっぎゅしつつ走ってゆく。
普通に走ることに違和感を覚えたサズヤは、いつもの走り――いわゆる『忍者走り』にフォームを変えて走り出した。
「ん、いける気がする」
だけどバトンにした書籍風アルバムはしっかり手に抱えて。
何やらカラフルで美味しそうなものを抱えてよろよろ走っているのは、榛名。
「お、重い……!」
虹の七色で彩られたキャンディステッキは、まさかの166センチ越え。自分の身長より長いバトンに、榛名は四苦八苦。
「けど、精いっぱい走るのです!」
一番先にバトンを受け渡すのは、【チーム・わふー】。
「ちょっと痛いかもだけど、我慢なさいーー!」
フローレンツィアはもここを持った両腕を前に突き出し、瑞葵に向けてダイブ!
「ナノーー!」
これにはもここもぬいぐるみの振りを忘れ、思わず鳴いてしまう。
瑞葵はそんなもここを主パワーで受け取って、
「後は任せてなの」
「ええ、がんばって!」
フローレンツィアと瑞葵のバトンタッチは完了。一生懸命走りだした。
サズヤを待つアイナーは少しの照れくささに見舞われていた。
例年、運動会は木陰で昼寝が常。
「なのに卒業してこうして走ることになるとは」
小さく微笑んだアイナーは、サズヤが差し出したアルバムを小脇にしっかり挟んで走り出した。
アイナーにバトンを託すサズヤはその背を目で追いながら、思わず手持ちのカメラを構える。
彼の走ってる姿は、レアなのだ。
最後にバトンを受け渡す榛名は、すでに満身創痍。ぜぇぜぇと虫の息だ。
「そ、想々ちゃん、タッチ、なのです」
「この遅れはしっかり取り戻します」
ばったりと倒れた榛名ににっこり笑んで走り出した想々は、まるで武器を構えるかの如く虹色キャンディステッキを抱えて颯爽とかけてゆく。
仲間の活躍に声援を送る声が響く中、一番最初にアンカーにパスをするのは【Cc】。
「アイナーが走ってるところを見るの、初めてかも?」
シェリーはアイナーのレアな姿を目で追いながら、いつでも走り出せるようにスタンバイ。
シェリーが受け取りやすいように持ち変えたアイナー。
このアルバムは勝利の女神に――。
「頼んだよ」
「任せてっ」
と頷き走り出したシェリー。バトンリレーはパス直後が大事。と、全速力で走ってゆく。
アイナーはそんな彼女を手をふって送り出した。
二番目に駆け込んできそうな想々のフォームに感心していた朱那だったが、
「朱那さん! 行きます!」
「やると思ったぁぁ!」
投げるフォームに入った想々に大慌て。
バトン投げたら失格じゃないかこれ! と、誰もが思ったその時、朱那が間一髪、想々の手からバトンが離れる前に受け取った。
朱那が安堵の息をついたのも束の間、思った以上にズシンと重いバトンが身に染みる。
「誰やんこんなんバトンにしよ言い出したの!」
と文句垂れつつ試行錯誤の末に、よいしょと肩に担いで軽快に走り出した。
「エミちゃん、後は任せたの」
「うん、がんばるの」
瑞葵からもここを受け取り走り出したエミーリアの目が、なんか悪い感じに光ったのは気のせいだろうか。
いや、気のせいではない。走りながらもここをこちょこちょとくすぐりだしたエミーリア。
「ナ、ナノ……ッ」
くすぐったさから身をよじらせ始めたもここに、
「動いたら大変なことになっちゃうよ♪」
と脅しをかけるエミーリア。きちくである。
そんなこんなでデッドヒートのトリオの部、一番目にゴールしたのは【花雪空】。
朱那はゴールテープを切るなり、笑顔でポーズ。
「想々ちゃんもしゅーなさん凄かったのですー」
笑顔で朱那に駆け寄った榛名もとても楽しそうで、想々は思わず目を細めるが。
「ね、想々ちゃん、はるはる!」
と、朱那がにっこり取り出したのは愛用のカメラ。
「しゃ、写真け?」
ちょっとの恥ずかしさに声を上ずらせる想々。
「じゃぁバトンを皆で持ってー」
榛名はノリノリで音頭を取る。
朱那が前に伸ばしたカメラのレンズに収まったのは、カラフルなステッキと仲良し三人組のそれぞれの笑顔。
シェリーがゴールした瞬間をサズヤはカメラに収めて、拍手でチームの健闘を称える。
「こうして皆で想い出を紡げるの、とっても楽しいな」
満面の笑みのシェリー。サズヤも微笑み頷いて。
「皆と作る想い出を、これからも増やしていきたい」
これからもこんな日々が続くように――。
「そうだね、バトンの様に思い出も、この時間も繋いでいけたら、いいね」
アイナーも微笑んで、静かに頷いた。
この先も、大切な想い出をひとつづつ繋いでいこう。
それがいずれ、宝物になる。
大切なアルバムは、三人の真ん中に。
エミーリアも無事ゴール。
散々だったもここはエミーリアの腕をするり抜けると、
「ナノッナノッ……!」
と涙目で恨み節をいいながらも三人からのお詫びのいちご大福をもぐもぐしていた。
●
今回の最多人数は【糸括】の19人。
さすがにペアとトリオが束になっても人数の多さには勝てなかったので、単独で。大所帯の円陣は迫力満点であった。
第一走者のミカエラは、ヒマワリを模した着ぐるみ着用で気合十分。
仲間たちのお胃炎が響く中、ピストルの銃口を空に向けた花近と同時にミカエラも何かを空に掲げる。
『ウサミミ』人形、辛うじて下着は着てるウサミミ生えてる系である。
「ウサミミバトン、発進します!」
スタートの合図とともにぴょんぴょんと跳ねるように走りだしたミカエラ。走りながら何かをウサミミに穿かせている。
レースが付いたニーハイソックスだ。しかも片方だけ。
軽快に走るミカエラはなんだかちょっとエロさも垣間見えるウサミミを、第二走者の杏子とウイングキャットのねこさんに託す。
「あとは頼むね!」
ウサミミうさしっぽ付きボディスーツ『バニー☆スラッシュ』は思い出の衣装。足元の虹色のスニーカーに力を込めて走り出した。
「さて、どんなウサミミ人形が完成するかなー?」
とウサミミの行く末を想い、ミカエラはワクワク笑顔。
どうやらウサミミに一個ずつパーツを足していき、新たなウサミミを完成させるらしい。
杏子が足したのは、笑顔。にっこり笑顔を書き足して、バトンタッチまではねこさんに預ける。
「りいち先輩っ、喜助ーっ!」
バトンパス前にねこさんからウサミミを受け取る杏子は、ぎゅっと抱きしめた後に犬の着ぐるみを着た理一にパス。
「任せて」
主たちのバトンパスの横では、霊犬の喜助とねこさんももふっとパス。
そんなサーヴァントたちの様子に微笑んで駆けだした理一。喜助のしっぽと共に自身の着ぐるみのしっぽもふりふり揺れる。
「にしても……」
ウサミミちゃん凄い恰好である。
笑顔で下着姿、片脚ニーハイである。
そのお姿に少しぎょっとしなからも理一が付け足すのは、小さな犬のマスコット。どこに引っ掛けようと四苦八苦して、結局肩からの斜め掛けにした。これならこの先早く走っても落ちる心配は少ない。
理一に見据える先には、何やらぴょんぴょん跳ねるペンギン――千尋。
「千尋、パス!」
「よっしゃ、あたしに任せて!」
理一からウサミミを受け取って、そのままびょんびょん跳ねて進んでゆく千尋。
ウサミミに取り付けたのは音の出るおもちゃ。ぽちっとスイッチを押せば爆発音やチャンバラ音、宇宙銃の音に付け加え、
『いやーん、あはーん、うふーん』
とセクシーボイスまでしゃべれる優れモノだ。
面白くなって笑いが出てしまうが、次の走者へのパスは確実に!
「あとは頼んだー!」
ペンギンからニワトリへ――否、千尋から渚緒へウサミミは渡された。
「任せて!」
ニワトリの着ぐるみを着た渚緒が片羽を上げれば、長すぎた尾を支えるのはカルラの役目。
受け取ったウサミミの異様なお姿にはあまり目もくれず、走りながらウサミミのうさ耳につけたのは、淡い彩が可愛いイースターエッグ。
皆でイースターエッグの中に隠れたウサギを探したこともあった。思い出して目を細めた渚緒の視界には、イースターエッグを耳に飾ったにっこり笑顔のウサミミの頭部しか見えていない。
「三蔵」
名を呼ぶ声に顔を上げれば、何やら可愛らしい恰好のニコの姿。ウォーミングアップで跳ねるたび、うさ耳とスカートがふわふわ揺れる。
「ニコさん!」
渚緒はウサミミをニコに渡すと、
「お疲れ様」
ニコは渚緒を労い駆けだした。
体力には自信はあるが体格もいいので速さはそれなり。その上にミスカロリータ服のパニエが腿に絡まる。だけど次の走者が恋人であるため、格好悪い面は見せられない。
勿論仕事も忘れない。ニコがどこからか取り出したのは、虹色のリボン。愛用の箒に飾っているものとお揃いだ。
「何処に結ぼうか」
一瞬悩んだニコは、うさ耳の首にくるんと巻いてやった。
今までの【糸括】走者のコスプレ率は100%。
「このチームのコスプレ率の高さよ……」
かという未知も、白いワンピースに長髪のウィッグ着用。どこから見ても女子!
だがそんな悠長なことをつぶやいた未知をプチ恐怖が襲う。
なんと、自分目がけて190cm近い精悍なロリータミニスカートの女装男が迫ってくるのだ。しかも、手にはウサミミ。表情は真剣だ。
「めっちゃ恐いな……!」
ニコは未知にカッコいいところを見せたかっただけなのに……。
真剣なニコと若干引き気味の未知のバトンパスはさすがの息ぴったり。未知もトラックに駆けだしていった。
正直走るのは苦手だし、スカートは脚に絡まるし。だけど手にしたウサミミは笑顔。
未知はワンピのポケットから赤いリボンを取り出すと、左サイドの房にきゅっと結びつけ、次の走者・座敷童な残暑に繋げた。
「……あとは任せた……!」
バトンパスと同時にばたりと倒れた未知に駆け寄ったのは二つの影。
「あとは万事わたくしにお任せして、ごゆっくりすやーしてくださいませ!」
後のことは皆に任せて入りだした残暑。足を細かく進ませて、着物の着崩れはゼロだ。
走りながら残暑が懐から取り出したのは童話の豆本。ウサミミの腕をきゅっきゅとまげて豆本を抱っこさせた。
ウサミミはしゃかしゃか走る座敷童の残暑から、露出高めの踊り子・深香へ。
「あとはお願いしますわ」
「任せて♪」
残暑に送り出され、軽快に走り出す深香。プロポーション維持にランニングは欠かせないので、走ることは得意。
ウサミミの背にぺたりと天使の翼を貼り付けて、自身も軽やかな鳥のように駆け抜けていく。
「全力で走るのって、気持ちいいわぁー♪」
と、その先に見えてくるのは盗賊姿の隅也。
「あとは頑張ってね、隅也君」
バトンパスのおまけはセクシーウィンク。
そのおまけにしっかりと頷いて返し、頭に巻いたバンダナとぼろの短マント、頭に付けたグレーのうさ耳もなびかせて疾走。
その間にウサミミに履かせたのは、ラメが星のように輝く靴。
あの日、皆と見た満天の星空だ。
目の前では魔法少女姿の澪が控えめに手をふっている。
オレンジを基調としたふわふり衣装。赤やオレンジの花冠からはひょっこりと桃色の垂れ耳が。
長髪ウィッグも相まって、本当に男にしておくのがもったいない。
先ほどの姉と言い、気合の入った衣装だなと思いながらバトンを手渡し。
「……任せたぞ、魔法少女……!」
隅也の激励に頷いた澪、
「ま、マジカルうさみん☆れいちゃん、い、いきましゅ」
慣れないセリフに盛大に噛みながら走り出した。
ビデオカメラを回すニッコニコの姉の前を通り過ぎ、取り出したのは金蓮花の花飾り。今、澪がつけている花冠のミニチュアだ。
体力もない方なので走るのは苦手。
だけど、皆との大切な想い出のため、澪は全力で走り、
「お願いっ!」
「お疲れ。後は任せてくれ」
と、バトンは何やら物騒な衣装の勇司に託された。
目つきの悪いウサギが描かれた帽子を被り、血だらけのマントを靡かせる。ウサミミを持つ手には段ボール製の包丁が……!
「俺に次が女子じゃなくて良かったよ」
これでは恐がられてしまうな。と勇司が取り出したはどくろの柄が入った小瓶。小瓶の中では緑色の液体がタプタプしている。
「うん、どう見ても毒薬だ」
その実、煮詰めた抹茶だから害はない。
その無害毒便を豆本の横にギュギュっとはめ込んで、次走のポンパドールにバトンパス。
「後は、頼んだよ」
ぜーぜー呼吸する勇司に頼もしく頷いたポンパドールはもっふもふのホワイトライオン着ぐるみ。
「うわっ、やっぱ走りづらっ」
全体的にもっふもふで動きが阻害されるが、ここで屈したら男が廃る。
今のうちにとウサミミのうさ耳に、猫の飾りがついたヘアピンをくっつけて。
「体育学部、ナメんなよー!」
そう、この着ぐるみはハンデなのだ!
と、バトンを受け渡す相手も、入念にストレッチしていた着ぐるみパンダの紗里亜。
「うけとって、あとはまかせたよ!」
全幅の信頼に笑顔を返し駆け出した紗里亜。中国拳法とダイエットで鍛えた脚力は、着ぐるみを着ていても衰えない。
取り出した組紐は、皆と寄って結ばれた彩りを宿す。
たくさんの思い出を込めた糸をほどけないようにウサミミの髪に結い、次の走者・輝乃へ。
「さ、次はあなたですよ、輝乃ちゃん♪」
「任されたよ……って、バトン重いぃ!」
と輝乃が受け取ったバトンは付属品ごってごてで、スタート時よりも重くなっていた。
だけど今日はオーバーオールに桜色のマント。いつもより走りやすい。と黒い垂れ耳を揺らし走り出した。
ウサミミにつけるべく取り出したのは、リーゼントにサングラスの青いウサギの人形。
毒便とは逆の豆本の脇にねじ込んで、
「これ『ウサミン☆スター』になるのかな」
と首を傾げながらも、次に走る和奏にバトンタッチ。
「お疲れ様、行ってきまーす!」
と、うさ耳と揺らしメイド姿の和奏が軽快に走り出した。
皆の思いやカオスが詰まったウサミミに目を落とし、これからの進化を楽しみにしながら和奏が取り出したのは小瓶。中身は戦争やイベントのお供、プロテインだ。
「よーし、これでウサミミの女子力(物理)あーっぷ!」
と、めいいっぱい走ってスタンバイしていた赤いジャケットとグローブに紺のズボン、ゴーグルとウサミミ着用の陽司にパス。
「あとは任せたよ!」
「おっつ、後は任せろ!」
和奏から託された陽司は最初から全力だ。
仲間に入れてもらってまだ日は浅いが、チームに貢献したい思いは人一倍だ。
「不肖この陽司、必ずチームに貢献するぜ!」
この気持ちがウサミミに足す要素。
陽司は全力疾走の後に、仁王立ちする次の走者にウサミミを託す。
「わきざ……ウサミン☆スター!? 実在したのか!!」
「お前のウサ耳魂、確かに受け取ったぜ」
ウサミン☆スターとは、膝上丈15センチのキラふりアイドル衣装のミニスカにニーソを履いた、愛と勇気と悪夢の使者なウサミミメイドちゃんイコール脇差。
何かとウサ耳メイドに縁がある脇差は覚悟を決め、ウサミミにミニスカートをはかせると、
「これからもウサミン☆スターをよろしくぴょん♪」
と内股で駆けだした。早い! あっという間にウサ耳ゴスロリメイド明莉の元へ。
「覚悟はいいか。受け取れ俺の黒歴史。そして繋げでくれ、皆で紡いできた思い出と絆と、このウサミミを!」
「……ねぇわー」
と脇差からウサミミを受け取ると、可愛くくるりターンをして走り出す明莉。
そんな仲間たちが繋いだバトンを見、思わず噴き出した。
「すげぇバトンだな!」
だけど、これが仲間全員で築いた絆――。
ひとりから始めひとりで終わると思っていたから、明莉の胸は尚更暖かくなった。
その思いと共にゴールした彼を待っていたのは、仲間たちによる胴上げ。
驚きつつも笑顔の明莉はウサミミと共に数回、宙を舞った。
優勝は、全チームに。
このリレーは『仲良く楽しんだもの勝ち』ですから♪
作者:朝比奈万理 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2018年6月10日
難度:簡単
参加:34人
結果:成功!
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