●誠十郎からの誘い
「状況的に切迫しているから、大々的に運動会を行う事も出来ないが、有志で運動会をする事になった。そう言う訳で、俺もバ……手伝いをする事になった。いや、別に飯を食わせてもらう代わりとか、あわよくば何か仕事を紹介してもらおうとか、そう言う訳でなく、ただ純粋に運動会を盛り上げたいと思って、何か手伝えることはないか……と思って、こんな事をやっている訳だ」
佐藤・誠十郎(大学生ファイアブラッド・dn0182)が何やら言葉に含みを持たせつつ、小さくコホンと咳をした。
純粋に盛り上げたいと言いつつ、激しく目が泳いでいるため、やましい気持ちでいっぱい……と言うよりも、溢れ出しているのだが、本人は全く気付かれていない……つもりのようである。
「ちなみに競技は借り物競争だ。俺も金を借りて返せないまま逃げ続け……って、そう言う競技じゃなくて。えーっと、なんだ、紙に書かれたモノを時間内にゲットして、ゴールすれば勝ちってヤツだな、これは……。ただし、紙に書かれたモノの中には、ゲットしづらいモノもある。例えば、近所のにゃんことか、あの子のハートとか、カカシの脳ミソとかな。『そんなモノ、手に入るか!』ってヤツも混ざっているから、そう言う場合は……どうするんだ、これ。相手の足を引っ張って、道連れにするとか、その辺りだろうな、きっと……」
誠十郎がルールを説明しつつ、乾いた笑いを響かせた。
おそらく、この競技はゴールする事が目的でなく、それまでの過程が重要なのだろう。
何やらツッコミどころも満載だが、それも含めて借り物競争なのかも知れない。
「まあ、色々あるが、頑張ろうじゃねーか!」
そう言って誠十郎が灼滅者達を見つめ、ニカッと笑うのであった。
●借り物競争
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ、誰か助けてくれぇぇぇぇぇぇぇぇ~」
佐藤・誠十郎(大学生ファイアブラッド・dn0182)は逃げていた。
借り物競争が始まる直前に現れた借金取り達から……。
誠十郎も好きで金を借りた訳ではない。
ただ『ここにサインをすれば、好きなだけ金を貸す』と言う言葉に騙され、気軽な気持ちでサインをしただけである……!
「誠十郎はなにをやってんだ、……バイクの費用もまだだってのに」
井之原・雄一(怪物喰いの怪物・d23659)が、呆れた様子で溜息をもらす。
それと同時に、競技の開始を意味するスタータピストルがパンとなった。
「借り物はヘルメット……ですか」
すぐさま、オリヴィア・ローゼンタール(蹴撃のクルースニク・d37448)が足元に落ちていた紙を拾い上げ、そこに書かれている文字を読み上げた。
「オレの借り物は……『赤い被り物』か。周りを見渡せば……いるな、赤の被り物被った人が……」
白峰・歌音(嶺鳳のカノン・d34072)が誰かから借りた白いヘルメット姿で、ゆっくりと辺りを見回した。
そして、気づいた。
オリヴィアの視線に……。
「……おっと!」
間一髪でオリヴィアの攻撃をかわしたものの、彼女の狙いは間違いなく、白いヘルメット。
だが、オリヴィアは気づいていない。
赤い帽子を被っている事で、歌音から狙われている事を……!
「最悪、ここにいる大半が……敵ッ!?」
そんなふたりを眺めながら、四軒家・綴(二十四時間ヘルメット・d37571)がヒーローヘルメット姿で危機感を覚えた。
何かの手違いか、それとも運命か、みんな同じような内容が書かれていたらしい。
だからと言って、運営側に文句を言う時間はない。
「……まさにバトルロイヤルですわね」
小向・残暑(絵本の魔法・d36555)がサンタ帽姿で、自分自身に気合を入れる。
おそらく、運営側が求めているのは、参加者同士の潰し合い。
観客達が手に汗握るような熱いバトルを求めていると言う事だろう。
「……ここは共闘作戦と参りましょうか……」
月影・木乃葉(レッドフード・d34599)が額にRBと書かれた赤頭巾姿で、白チームに視線を送る。
少なくとも、仲間達同士で潰し合う必要はない。
そんな事をしたところで、自分達の首を絞めるだけである。
「だったら赤いスカーフだけは取られないようにしておかないと……!」
加持・陽司(陽射しを抱いて・d36254)が、警戒した様子で辺りを見回した。
もちろん、赤いスカーフを取られたからと言って、失格になる訳ではない。
だが、赤いスカーフを奪われる事で、白チームが有利になってしまうため、可能な限り避けるべきだろう。
「あっちがヴィラン(悪役)っぽく振舞うのであれば、俺達はヒーローらしく振舞うだけだ……!」
平・和守(国防系メタルヒーロー・d31867)がフルフェイスヘルメット姿で、格好良くポーズを決める。
「白は正義の証! 如月オウカ、いっちゃうぞー!」
如月・オウカ(スウィートサンシャイン・d37576)も白いヘルメットを被ったまま、元気よく名乗りを上げた。
「部員には負けないわよ! 特に……ねぇ、ひらりん(和守)、つづるん(綴)?」
アメリア・イアハッター(ロマン求めて空駆けよ・d34548)が、素早い身のこなしで間合いを詰めていく。
紙に書かれていたヘルメットをゲットし、誰よりも早くゴールをするために……!
「みんな頑張っているな。えーっと、俺は……なになに『借金取りに追われている赤髪の男子大学生』……。なんだ、このピンポイントなお題は……あ、右下になにか小さく書いてある。『または好意を抱いている相手』。……よし。誠十郎を追わないと……!」
雄一が紙をギュッと握り締め、誠十郎に視線を送る。
誠十郎は黒服姿の男達に追われ、猛ダッシュで逃走中。
捕まったら、最後。
そこで『人生終了!』とばかりに必死であった。
「こ、これはさすがに……」
そんな中、枸橘・水織(あくまでも優等生な魔法使い・d18615)が、お題の書かれた紙を見つめ、気まずい様子で汗を流す。
そこに書かれていたのは、『あなたの大事な人(恋人・友人…大事と思える人なら問わず)の私物』であった。
●簡単そうで、難しい……お題
(「えっと……これ、考えたの……誰? ……っていうか、何て言って借りればいいの? で、でも、普通に貸してくださいって言えば良いだけじゃない。べ……別に恥ずかしがる必要もない……よね?」)
水織がマジマジと紙を見つめ、自分自身に言い聞かせる。
それならば、何とか……何とかなる……はず。
そう理解しようと思っているのだが、何故か恥ずかしい気持ちでいっぱいになり、頭の中が真っ白になった。
それでも、何とかしようと言う気持ちがあるため、冷静になる事さえ出張れば、何とかなる……はずである。
「いっぺんキャプテンのメット狙ってみたかったんだ! ねりま大根良いよね!」
その間に陽司が赤いスカーフを揺らしながら、傍にいた和守のヘルメットを狙う!
「来るなら来いッ! 受けて立つ! 練馬大根はカレーに入れても美味いぞ!」
それに応えるようにして、和守が陽司の攻撃を受け流し、反撃を仕掛ける機会を窺った。
「キャプテンッ!」
すぐさま、綴も和守に加勢し、連携を取るようにして、陽司に攻撃を仕掛けていく。
一対一であれば、陽司にも勝機があった。
だが、一対二では、陽司が圧倒的に……不利!
「背中は任せるぞ、四軒家! 俺もお前の背後を守る!」
そんな空気を察した和守が、綴と背中合わせになった。
これで四方八方から攻撃を受けても、防御は完璧。
まるで砦の如く、強固な守りである。
「サンキュー、キャプテンッ! 狼と、その他の借りは返すッ!」
綴も和守と背中合わせになりつつ、周囲に注意を払っていく。
……戦う相手は陽司ひとりだけではない。
最悪の場合はお互いが弱ったところで、背後から襲われる可能性もあるため、油断は禁物であった。
「……あら、他にも私と同じお題の子がいるみたいね。その眼光でわかるわ! そして、みんな……私の帽子を狙ってる……。上等だ! 組織戦よ! やいやいヒーローチーム! そのヘルメット、奪い取らせてもらうわー! レッドチーム! 出撃だー!」
その隙をつくようにして、アメリアがウィランちっくな雰囲気を漂わせ、綴達に襲い掛かっていく。
これで二対二……。
状況的には、五分と五分。
「アメリア先輩♪ 後方援護はお任せを!」
木乃葉も『任せてください!』と言わんばかりに、アメリアの背中をガッチリガード。
「オメー! そうやってすぐ裏切る準備してんの分かってんだぞ、オメー!」
陽司が警戒した様子で、木乃葉をジロリと睨みつけた。
この時点で、嫌な予感しかしない。
例えるなら、刃物を持った狂人が、笑顔を浮かべて『大丈夫、怖くない。怖くないから……』と言って近づいてくる感じ。
さすがにそこまで言うのは、大袈裟かも知れないが、裏切り者特有のニオイがする……。
「いやだなぁ……。陽司君、裏切りなんてするわけないじゃないですか……。前衛、頼みますよ! マジで組み合いしたら、力負けしますからね!!」
木乃葉が愛想笑いを浮かべながら、気まずい様子で視線を逸らす。
何だかんだで正直モノ。
嘘がつけない素直な性格……と言えば聞こえはいいが、ヤル気満々であった事は間違いないようである。
「よ――し! そのアイテム、オレがゲットしてやるぜ――♪ いいか、赤い被り物を被るライバル達よ! このマギステック・カノンがライバル達の赤い被り物をゲットさせてもらうぜ!」
すぐさま、歌音が混乱に乗じて、赤い被り物を取ろうとした。
だが、届かない。
ギリギリのところで、掴み取ったのは、新鮮な……空気ッ!
「そのヘルメット……いただきますッ!」
次の瞬間、オリヴィアが跳躍力を活かしてアクロバティックな動きで間合いを詰め、真正面からオウカに飛び掛かり、アイアンクローの要領でヘルメットを奪い取った。
「あ、安全のために付けたヘルメットが狙われるとは!?」
オウカがハッとした表情を浮かべ、慌てた様子で自分の頭を押さえた。
しかし、そこにヘルメットはない。
その事実はオウカにとって、衝撃的な出来事であった。
「まだまだ行きますよ……!」
オリヴィアがアイアンクローの要領で、再びヘルメットを奪おうとした。
だが、オリヴィアは大切な事を忘れていた。
これが借り物競争である事を……!
故にヘルメットは、今あるだけで十分……なのだが、テンションアゲアゲ状態のため、抑えが利かなくなっているようだ。
「のわっ、たっ、とぉっ!? ちょっ。取らせるか、このおっ!?」
歌音がギリギリのところで、オリヴィアの攻撃を避け、フラつきながら反撃を仕掛けた。
「あ、あら? あらららら? サンタ帽が……ない!」
そんな中、残暑が異変に気づいた。
いつの間にか、サンタ帽がない。
一体、誰に奪われたのか、何時から無くなっているのか、それは分からない。
ただひとつ分かっている事は、サンタ帽を失ったと言う事実である。
「うう……、サンタ帽を取られた以上、敵も味方も関係ありませんわ。故に、わたくし……ぶちかまさせて頂きます……!」
その途端、残暑の中で何らかのスイッチが入り、『失うモノは何もない』と言わんばかりの勢いで、手当たり次第に突っ込んだ。
もちろん、サンタ帽を奪われたからと言って、失格ではないのだが、何となくそんな空気に飲まれてしまい、頭の中が真っ白、半ばバーサーカー状態であった。
「むっふっふ。お日様は絶対に昇るけど、必ず沈むんだよ! ……覚悟!」
その間にオウカが距離を縮め、アメリアから帽子をゲット!
「……って、ちょ!」
予想外の出来事に驚き、アメリアがバランスを崩す。
しかも、その先にいたのは、木乃葉であった。
「……あっ!」
それと同時に木乃葉のポケットから爆弾が落ち、まわりにいた参加者達が豪快に吹っ飛んだ。
その中には誠十郎を追いかけていた黒服達もおり、みんなお約束とばかりにアフロ頭になっていた。
「たまやー……でいいのか、この場合……」
それを遠くで眺めながら、誠十郎が何となく叫ぶ。
間一髪で黒服達から逃げる事が出来たものの、『……これでいいのか本当に?』と言う気持ちが頭の中でグルグルと回っていた。
「ちなみにいくら借金したんだ? まぁ、ここまで関わって知らんぷりできないし、協力するよ。イケナイ方向の体で払うかぁ……。体で払えるなら、まぁ、いいんじゃないかな? なるべく誠十郎に負担がかからないように俺が頑張るからさ」
雄一が色々と察した様子で、誠十郎の肩をぽふりと叩く。
「あ、とりあえず、臓器は売らない方向で……」
誠十郎が苦笑いを浮かべたものの、黒服達に捕まっていた場合は、臓器が各地に散らばるような事態になっていたため、それと比べれば色々と安いものだろう。
「と、とにかく、ゴールしないと……」
そんな中、水織が顔を真っ赤にしながら、箒をギュッと握り締め、ゴールを目指して走っていく。
だが、ゴールを目指しているのは、一人だけではない。
爆発に巻き込まれながらも、まるでユニフォーム交換をするかの如く勢いで、互いが欲するモノを渡し、みんなで一斉にゴールを目指して走っていた。
それは爆発によって生まれたひとつの友情。
人類、皆アフロと言わんばかりの勢いで、みんなの心がひとつになっていた。
それに気づいた審判員達の瞳に浮かんだのは、溢れんばかりの……涙であった。
一体、どこに泣く要素があったのか、そんな事を聞くのは、野暮な話……。
みんな一番で、みんなイイ。
いつの間にか、みんな声を合わせて歌っていた。
意味もなく歌っていた。
それは何かを誤魔化すためでなく、まして……雰囲気に任せて、すべてをうやむやにしようとしている訳ではなく、ただ、自然と……歌い出していた。
24時間的な歌声が響く中、ゴールした参加者達の表情は実に晴れやか。
誰が一番でもなく、誰がビリでもない。
その笑顔で一等賞の証。
それですべてをうやむや……いや、丸く収めるようにして、観客席からも惜しみない拍手が送られた。
もちろん、観客達も訳が分からず、泣いていた。
その場の雰囲気に飲まれて泣いていた。
それでも、確実に彼らの心に、参加者達の雄姿が刻まれた事は間違いない。
そして、借り物競争はノリと勢いがダンスするような状態で、終わりを告げるのであった。
作者:ゆうきつかさ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2018年6月10日
難度:簡単
参加:11人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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