仄かなる可能性、救う者、救われる者

    作者:長野聖夜

    ●ここではない、何処か
     ――某所。
    「くっ……何故だ……」
     とある存在が苦しげに呻き声を上げている。
    「既に……の心は……筈……」
     苦しみながら”かの者”は、その場を放浪する。

     ――其れは、一般人がエスパーになると同時に発生した出来事の一つだった。

    ●その先に在る未来は
    「ひとつのソウルボードに対する評決が決まったね」
     北条・優希斗(思索するエクスブレイン・dn0230)が複雑な表情を浮かべながら静かに頷く。
    「結果として、『人類全てをサイキックハーツにする』に決まった。ひとつのソウルボードの力を使えない事……これから一般人達が『エスパー』となることも考えると、その急激な変化にどれだけの人が耐えられるのか、俺には分からないけれど……それでも今出来る限りの事をすれば、きっと新たな道が開けるだろう。この決断によって生まれる『罪』は俺も皆と一緒に背負って前に進んで行きたいと思う」
     小さく息を一つついた後、優希斗が小さく頭を振る。
    「さて、皆がこの決断をした結果、皆に朗報が齎された。それは……ひとつのソウルボードと一緒に学園に来ていた玉さんが闇堕ちした状態から灼滅者に戻れたことだ」
     更に、ダークネスとなっていた空井・玉(疵・d03686)はこう言い残したそうだ。
    「一つのソウルボードの力により、闇堕ち灼滅者が救出されるだろう……とね」
     それを告げた優希斗の表情に過るは微かな希望。
    「そして玉さんの言葉通り今迄行方知れずだった闇堕ち灼滅者の行方が一斉に判明した」
     彼等は、一つのソウルボードの力で灼滅者としての意識を取り戻そうとしているが、ダークネスの意識がそれに抵抗し、激しく暴れている様なのである。
    「だから、皆に頼む。今暴れている皆の所に急行し、彼等を救出して欲しい」
     優希斗の言葉に、灼滅者達は其々の表情を浮かべるのだった。

    ●かつての仲間を救う為に
    「今回、皆には誰を助けに行くか、其れを選んでもらうことになる」
     そう告げたところで、優希斗が息を一つつく。
    「その上で、いつも通り自分を取り戻そうとしている灼滅者の意識に呼びかけて暴れるダークネスにダメージを与えれば救出できる筈だ」
     灼滅者の意識が勝利すれば、戦闘不能になる前に救出することも不可能では無い。
     また、救出対象者に縁の深い者が呼びかけに成功すれば、ダークネスの動きを抑え、戦闘力を半減させることが出来る可能性がある。
    「もしこれに成功したら、班を2つに分けて、2箇所同時の救出作戦も不可能では無いかも知れないね」
     優希斗の言葉に、灼滅者達が其々の表情で返事を返した。
    「これは、今まで行方の知れなかった闇堕ち灼滅者達を救う最大の機会になる。……中には、ダークネスとしての行い故に、灼滅したいと思う人もいるかも知れない。でも……此処で闇堕ち灼滅者達を灼滅するのは、皆が選んだ選択によって与えられた機会を、皆が自分の意志で不意にしてしまうことになるだろう、と俺は思う。だから……どうか、最善を尽くして闇堕ち灼滅者達を救って欲しい」
     優希斗の言葉に背を押され、灼滅者達は静かにその場を後にした。


    参加者
    ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)
    天方・矜人(疾走する魂・d01499)
    緋桜・美影(ポールダンサー系魔法少女・d01825)
    氷上・鈴音(夢幻廻廊を彷徨う蒼穹の刃・d04638)
    天渡・凜(その手をつないで未来まで・d05491)
    高野・妃那(兎の小夜曲・d09435)
    エイジ・エルヴァリス(邪魔する者は愚か者・d10654)
    アトシュ・スカーレット(黒兎の死神・d20193)

    ■リプレイ


     ――曇天のとある寺の傍に在る墓場。
     あきらが堕ちたのと似た場所に彼の存在を感じたのは緋桜・美影(ポールダンサー系魔法少女・d01825)達の彼との深い縁故か。
    (「あきら……絶対に連れ帰る」)
    『赤い猫のバレッタ』で髪を留めた美影を見ながら、天渡・凜(その手をつないで未来まで・d05491)はシュシュをいつもよりきつく縛っていた。
    (「……これがわたしの決意の気持ち。此処で助けられなかったら、アポリアさん事あきらさんがいなくなってしまう……そんな未来が来るのが怖い」)
     氷上・鈴音(夢幻廻廊を彷徨う蒼穹の刃・d04638)が懐の方位磁石に触れて瞑目し凜に頷き美影の傍へ。
    「死に急ぐ真似はしないでね、美影ちゃん。貴女が死んだらあきら君は……」
    「その位の覚悟がなきゃあきらは救えない。俺はそう思っている」
    「そうですね。死をも厭わぬ覚悟位は必要でしょう。……完堕ちしていた筈の戦神アポリアを、あきらさんを救うチャンスなんですから」
     それは高野・妃那(兎の小夜曲・d09435)の本心。
    「分かったわ。それならばガードは私達が引き受ける……」
    「……そうだな」
     鈴音に頷くアトシュ・スカーレット(黒兎の死神・d20193)の内心は複雑だ。
    (「俺達の判断ミスでアイツが堕ちた時も、アポリアからの交渉の時も、こんな場所だった」)
     苦い記憶にアトシュが渋面に。
    (「でも……漸く来たチャンスなんだ。後悔だけはしたくないな」)
     アトシュの決意に気付いているかの様に悠然と立つアポリアを、天方・矜人(疾走する魂・d01499)の用意したLEDライトが照らす。
    「見つけたっすよ、アポリア! あきらは返して貰うっす!」
     ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)の宣言にアポリアは威風堂々と振り返り歪んだ笑みを浮かべ。
    『さあ始めようぞ、猛き闘争をのう!』

     ――今、『戦神』アポリアとの2度目の対峙が始まる。


    「さあ、ヒーロータイムだ!」
    「参るでござる“戦神”。そして学園の仲間を返して貰う!」
     矜人の宣言と共にエイジ・エルヴァリス(邪魔する者は愚か者・d10654)が殺界形成を、鈴音が音を遮断する結界を張りアポリアを包囲。
    「さあ、あきら! そんな『夜猫』なんかさっさと押さえ込んで、目を覚ますっすよ!」
     ギィが背丈程の長さを持つ無敵斬艦刀『剥守割砕』を振り下ろす。
    「ちょいと手荒だが、我慢しろよ!」
     矜人が絶望を希望に変える魂を雷へ変換し拳に纏い放った。
     アポリアはギィに斬り裂かれ矜人の拳も甘んじて受けた。
    『このままでは銀夜目とロードローラーに面目が立たぬのでな』
     刀に紫の輝きを帯びさせ薙ぎ払うアポリア。
     凶刃が矜人達を襲うが、ギィを赤い刀身の聖剣alba Mistilteinnと、黒い刀身の大太刀ティルフィングを十字に構えたアトシュが、矜人を鈴音が庇う。
    (「この衝撃、猟魔以上か……!」)
     喀血しながらアトシュがアポリアを睨みつけた。
    「あの時と同じ過ちは繰り返さないぜ」
    「刮目しろ、戦神。我等が斬り裂くのは涙で濡れた闇の帳だ!」
     アトシュがティルフィングに隠れたalba Mistilteinnでアポリアの左足を斬り裂き、鈴音がサイキックソードで右足を斬り裂く。
    「アポリア……かくれんぼはこれで終わりにしよう。あきらさんの心、返して貰うよ!」
     鈴音のアイコンタクトを受けた凜が帯を解き放ち鈴音を癒し、美影のナノナノがふわふわハートでアトシュを回復。
    「私は、絶対にあなたを救ってみせますから!」
    「ちぇい! 忍法スターゲイザー!」
     あの時の様な後悔は絶対にしたくないと妃那がクロスグレイブで砲撃しエイジが黒い流星となってアポリアを蹴る。
     妃那の弾は刀で受け流すアポリアだが、エイジの蹴りを受け蹈鞴を踏む。
     すかさずジョンが斬魔刀。
     美影の帯に刀を絡め取られたアポリアをジョンが斬るが致命傷には程遠い。
    「まったく、いつまで俺を放っておけば気が済むんだろうね、あきら?」
    『赤い猫のバレッタ』を翻し問うは美影。
    「もしお前が望んでこうなったんだとしても、オレは助けるぜ。お前の前に立ち塞がって、灼滅者だった時の事を、『あきら』を思い出させてやる!」
     矜人が聖鎧剣ゴルドクルセイダーでアポリアの魂を斬り裂く一撃を放つ。
     両刃のクルセイドソードを左手で受けるアポリア。
    『愚鈍浅薄脆弱無為滑稽也。面白い。面白いぞ、烏合!』
    「自分達が烏合かどうかは、軍艦島の一件でアンタも分かっている筈っすよアポリア!」
     ギィが黒い炎を纏った『剥守割砕』を放つがアポリアは嘲る様に躱し流れる様に無数の斬り返しをギィに放つ。
    『お主の一撃は重いが……同じ技が“戦神”の妾に見切れぬと思うたか?』
     アトシュが割込むが、あまりに手数が多く捌き切れない。
     無数の切傷からの流血を見て思わず笑う。
    (「殺し合いを愉しむ本能は、こんな時でも変わらないか」)
     思いながらalba Mistilteinnでアポリアの胸甲を断つが手応えが浅い。
     嫌な予感を感じさせる雨が、ポツポツと降り始めた。


    「ハンドレッドナンバーが人としての魂を砕いたとしても、サイキックハーツの、一つのソウルボードの絆が今の奇跡を生んでいます! だから、私達の絆は、序列を無くした元ハンドレッドナンバーなんかに負けないって証明しましょうっ!」
     妃那が契約の指輪を翳して放った制約の弾丸でアポリアを撃ち抜く。
    「俺達だけじゃないんだよ? 学園で待っている皆に心配かけて……そろそろ俺、本当に怒るよ?」
     にっこり笑って美影が呼びかけ雨を氷柱へと変化させて発射。
    『妾は“戦神”じゃ。覚悟無き有象無象等物の数ともせぬ』
     桔梗の花の様な紫の一閃を放つアポリア。
     鋭刃が鈴音達を容赦なく襲い、続けて無数の斬撃を放つ。
     ジョンが鈴音を庇い消滅。
    (「ジョン! くっ、命令しておくべきであったか!」)
    「行くぞ! 忍法ティアーズリッパ―!」
     エイジが内心で謝罪しつつアポリアの胸を手刀で斬り裂く。
     舞い散る血飛沫を躱す様にバク転するエイジに合わせて矜人がタクティカル・スパインを棍の様に振るい先端を突きつける。
    「好き勝手やるのはおしまいだ、もう十分遊んだろう? 帰って来い、あきら!」
     蓄えられた魔力が一気に爆発し凄まじい熱量となってアポリアを嬲り。
    「あきら君、皆の声が聞こえる? 此処に来た皆も学園で留守を預かってる皆もあきら君を助け出す機会をずっと待ってたよ」
     鈴音の幾度目かの黒死斬がアポリアの足を抉る。
    「皆、命を賭す覚悟で此処に来たんだ。だから君の覚悟も此処で示して!」
    「“戦神”なんて騙ったところで、所詮は借り物の力。本当のアポリアかどうだったかは、自分がよく覚えてるっす!」
     ギィが『剥守割砕』の死角から黒い帯を射出しアポリアの胸を締め上げるが。
    『今の一撃は覚悟も踏み込みも見事じゃったが……妾は倒せぬ!』
     ――光が走った。
     そうとしか形容の出来ない一閃。
    (「これはあの時と……?!」)
     ギィが後退しようとするが間に合わない。
    「ガードは、私達が引き受けるって言ったでしょ……?」
     ギィを庇った鈴音がその一閃で地面に生まれた自分の血の海に倒れ伏した。
    『『先代』の秘技じゃ。お主等に躱せる技では無いわ』
     刀を一振りし鈴音の血を払うアポリア。
    「鈴音さん……」
     鈴音が倒れ絶句する凜。
    「くそっ……!」
     アトシュが呻きalba Mistilteinnを下段から撥ね上げる。
     紅の一閃をアポリアが弾くがそれはフェイント。
    「こっちが本命だ!」
     無意識に笑みながらティルフィングで袈裟切りでアポリアを斬り裂く。
    「あきらさん! 負けないで下さい!」
    「バレンタインもホワイトデーも海で遊ぶ約束も、クリスマスまですっぽかして……でも全部許したげる。その代わり、今年こそ一緒に海に行くんだからね!」
     妃那の兎型の影と美影の猫型の影が左右からアポリアを締め上げる。
     その攻撃と言葉に微かに眉を動かすアポリアだがその目はアトシュに。
    『お主には、そろそろ退場して貰うとするかのう。お主等がいてはお主等の『覚悟』を図り切れぬじゃろう?』
    「なにっ……?!」
     接近するアポリアにアトシュがティルフィングを突き出すがそれよりも早く。
     アポリアの桜の舞い散る様を連想させる光を纏った刀による突きが彼の胸を貫いた。
    「アトシュさん!」
     凜がラビリンスアーマーでアトシュを癒そうとするが、アポリアが左手から巨大な漆黒の弾丸を放つ。
     禍々しいそれが凜の帯を叩き落とす間にアポリアは無限にも等しい斬撃を繰り出した。
    「ち……くしょう……!」
     手からティルフィングが滑り落ち最後の力を込めてalba Mistilteinnを振るいアポリアの魂に傷をつけるが頽れる。
     しかもアポリアにアトシュが胸から肩にかけてつけた傷は彼の血で癒えていた。
    「あきら、アポリアなんて淫魔崩れのシャドウに、いつまでいい気にさせておくつもりっすか!?」
     ギィが黒い炎を這わせた『剥守割砕』でアポリアを焼き斬らんとするがアポリアは意に介さない。
    『ソウルボードよ、妾を選べ! 闘争に身を委ねし者達よ皆妾の名の下に集うのじゃ!』
    「そんな……私達の言葉が届いていないんですか……?」
    「諦めてはならぬ! 声を重ねるでござる! きぇい! 忍法スターゲイザー!」
    「そうだ! 俺には、あきらに伝えたい言葉があるんだ!」
     凜が黄色い光条で矜人達を癒し、エイジがスターゲイザーを、美影がレイザースラストを放つ。
    「帰って来い、あきら! お前を待ってる奴はわんさかいるんだ!」
     矜人が轟く雷を力へと変えアポリアの顔面を殴打。
    「次はお主の番じゃな」
    「なに……?」
     怪訝な矜人に連続突きを放つアポリア。
     タクティカル・スパインで払おうとするが、あまりの手数に耐え切れず鎧が鞘に戻る。
    「くそっ……!」
    『妾は“戦神”。脆弱なるお主等とは異なる選ばれし者也!』
     アポリアが血桜を咲かせるべく一太刀。
     ナノナノのふわふわハートが矜人を回復するが追い付かず血を迸らせつつ倒れる矜人。
     アポリアは返り血を浴びて満足げだ。
    「あきらさん、これ以上罪を重ねるのはやめてください! 私が、絶対にあなたを救ってみせますから!」
    「皆あきらを連れ帰る為に集まったんすよ。あきらの居場所はそこじゃないっす!」
     妃那が制約の弾丸でアポリアを撃ちギィがレイザースラストでアポリアを締め上げるがアポリアは巻き付いた帯を強く引く。
    「ギィさん!」
     凜の帯がギィを覆うが……。
    「4人目じゃな」
     手繰り寄せたギィを無限の斬撃で斬り捨て空中へと放る。
     地面に叩きつけられたギィの頭上に『剥守割砕』が突き刺さった。


    『お主等どうするのじゃ? 此処で逃げるのであれば妾は追わぬ』
     全身を朱に染め挑発するアポリアに美影が笑顔。
    「やっと此処まで追いついたんだあきらに! だから、早く帰って来てよ!」
     ナノナノに竜巻を起こさせ、美影も雨を氷柱へと変えアポリアを凍てつかせ。
    「此処で逃げたらわたし達は後悔する。だから……」
     凜もまたStargazesに矢を番え、彗星撃ちにて彼を射て。
    「帰って……来るのだ! そなたの帰りを待つ者達の想いを裏切るな、愚か者! 忍法尖烈のドグマスパイク!」
     エイジが上空からドリルの如く回転させた杭で貫き。
    「此処であなたを救えず逃げる位ならば私は……!」
     妃那が兎型の影で彼を締め上げるが内心で歯噛みする。
     命の安全が保障されたので如何な覚悟を抱えようと闇堕ち出来なくなったから。
    『ならば果て無き闘争を! それが妾の望みじゃからな!』
     アポリアが左手から漆黒の弾丸を放つ。
    「ナノ~!」
     弾丸に射抜かれナノナノが消滅すると同時にアポリアが陽炎の様に姿を消す。
    「あきら?!」
    『お主等に一つ芸を見せてやるとしようかのう』
    「狐雅原殿! 其方には帰りを待つ人間がいる! どんなに希望が潰える様な情報があろうと、救い出すことを諦めなかった仲間達だ! これ以上、結局何も為せなかった“戦神”等に好きにさせてはならぬ! 忍法妖冷弾!」
     愉快そうなアポリアの姿を認めたエイジが印を結んで氷球を発射。
     敢えてそれを受けるアポリアを怪訝に思いつつエイジが突進。
    「忍法尖烈のドグマスパイク……!」
     エイジの杭がアポリアの衣服を貫いた直後凄まじい爆発が起こった。
    「ぬぅ?!」
    「エイジさん……?」
     凜がStargazesに癒しの矢を番えてエイジを射るが焼け石に水の感がある。
    『さあ、闘争に酔い溺れ狂うのじゃ、灼滅者達よ! そこにこそ妾の真の望みはある!』
     返し刃で凜達を斬り裂くアポリア。
    「無念……」
     エイジが倒れた時には既にアポリアは左手を凜に向けている。
    「お主の役割も此処までじゃな」
     漆黒の弾丸に撃ち抜かれ凜が仰け反り力尽きた。
    「あきら!」
    「あきらさん!」
     美影が猫型の影を解き放ち、妃那が黙示録砲。
     妃那に撃ち抜かれながらもアポリアは美影に接近、衣服に触れさせ大爆発を起こす。
    「あきら……愛……して……」
    「まだ……諦めません……!」
     爆風に打ちのめされ美影が倒れ妃那が呻きつつ兎型の影でアポリアを斬り裂く。
     だが……。
    『見事な覚悟であったぞ、お主達』
     ――閃。
     目に見えぬ速さで放たれた銀閃に妃那もまた自身の血だまりの池に倒れ伏す。
    『じゃがお主等の戦いでは、妾と先代の力を合わせし真の『戦神』には届かぬのう』
     美影に黒いリボンを握らせ霞の様に消えるアポリア。

     ――それが、妃那の見た最後の光景だった。


    「俺、ちゃんと……追いついたよ。約束守ったよ」
     自分の傍で猫の様に蹲り眠る彼に微笑む美影。
     彼は目を開き悪戯っぽく微笑む。
    「ただいま、デスね。ミカゲ」
     囁きかける様なそれに美影は涙を零して笑顔で頷く。
    「お帰りなさい、あきら」

     ――それは泡沫の夢。掴みかけたが掴めなかった、幸福な結末。


     ――ザー。ザー。
     雨音を耳にしながら美影が瞼を開く。
     開いた瞼が最初に捉えたのはその手に在る黒いリボン。
    「う……うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
     雨を吸い重くなったそれが美影に悟らせてしまった。
     ――彼を、取り戻せなかった事を。
    「――これも――」
     意識を取り戻したエイジが苦々しげに。
    「定め、ということでござるか……?」
    「……また! また、俺は手を取ってやれなかった……!」
     意識は取り戻したが重傷のアトシュの魂から迸る絶叫。
    「なんで私は……覚悟なんてとうに出来てる筈なのに……どうしていつも……!」
    「妃那ちゃん……美影ちゃん……」
     妃那の嗚咽に重傷の鈴音が呻く。
    「あきら……自分はそれでも……」
    「あきらさん……」
     ギィと凜が呟き。
    「ヒーローがこれじゃあ、ざまあないぜ……」
     空を見上げる矜人の想いを代弁する様に激しい雨が矜人達を叩く。

     ――まるで、冷たく、悲哀に満ちた涙の様に。

    作者:長野聖夜 重傷:氷上・鈴音(十年後は火神の社の管理者へ・d04638) 高野・妃那(兎の小夜曲・d09435) アトシュ・スカーレット(殺意なき白兎の死神・d20193) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年6月19日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:失敗…
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 7
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