魔人生徒会~光たゆたう蒼の庭

    作者:那珂川未来

    ●ウミホタル
     薄明かりに彩を陰らせる魔人生徒会の教室。大正時代の女学生の様なノスタルジックな袴姿に、黒衣のような漆黒の紗に顔を隠して。今季の生徒会の一員である彼女は、小さな瓶を手に、壇上に立っていた。
    「さて、もうすぐ夏デスから……ささやかな小休止といたしまシテ、みんなでどこかに遊びに行ったっていいと思うのデス」
     零れる声色に乗せた敬語使いは、ちょっとたどたどしさが感じられて。まるで普段もそれであると演じている様な素振りにも感じられる。
     けれどそんな小さな演技も、彼女の手に在る輝きが浚ってしまう。
     青く光るそれは、まるで刹那の炎のように。
     蒼くたゆたうそれは、星を描くかのように。
     その手の平という蒼穹に輝くそれは、万華鏡のように軌跡をかえてゆく。
     その煌めきへと、そっと視線を落しながら。ウミホタルを見に行きたいのデス、と彼女は言った。
    「大きな戦いが近づいていマス……けれど楽しむことすら忘れたら、日常がどこかに行ってしまう……」
     日常。
     当り前の言葉の中にある尊いもの。
     その当り前の中からうまれる感情――歓喜、感動、様々なものが思い出という強い記憶となって、思い出として残るのだから。

    ●ヴァルナの天球
    「海に行きましょう! 魔人生徒会さんからのお誘いで、ウミホタルを見に行こうツアーですっ! かくかくしかじか、そのツアーの案内係に僕が選ばれたんですよっ!」
     久し振りのお出かけと、魔人生徒会さんに選ばれた高揚感に、すごい盛り上がりを見せるレキ・アヌン(冥府の髭・dn0073)。張り切ってるなぁという感想を表情に浮かべたあと、仙景・沙汰(大学生エクスブレイン・dn0101)は、お誘いプリントに目を通しつつ、
    「向かう海は、ここから遠くはないみたいだね。ウミホタルって俺、まだ生で見たこと無いから行ってみたいな……綺麗だってよく聞くし」
    「それはもったいないですっ! 是非行きましょう……あ、今速攻で名簿に一名追加しておきますっ!」
     他にも行きたい人募集中ですよーと、お誘いをかけているレキの声。
     沙汰はまだ見ぬ蒼く輝く海岸線に思いを馳せる。
     触れれは蒼く輝く生命の光。
     細波を渡って、美しい天の川を描こうか。
     それとも、そっと水面に触れて星座の様な軌跡を描いてみようか。
     自分達だけで作る、ヴァルナ(水天)に浮かぶ星の神話。
     そんな幻想に抱かれる夜も。ウミホタルという輝きの道を駆ける夜も。
     ただ、心の赴くまま蒼の時を楽しめますように。


    ■リプレイ

    ●蒼の庭
     片手にサンダル、いつもの手には君の指先。砂浜の感触を楽しみながら、エアンと百花は波打ち際へ。
     輝く蒼い命の灯は引く波に溶けるように消えてゆく。空に天の川が流れるならば、地に広がるのは蒼い川の散歩道。
    「もも、ウミホタル見たの初めて……すごく幻想的で綺麗ね」
     百花はただ美しい光の流れに溜息。
    「俺も初めてだ、波が光っているように見えるんだな……凄いね」
     同意するエアンへ、百花は驚いた様に顔を上げ。
    「えあんさんも、初めて見るの?」
    「ずっと一緒に過ごしてきて、なんでも二人でやってきたようにも思えるけど……意外とまだ残っていたね、『二人の初めて』が」
     何か新鮮だねと、くすり笑うエアン。これからも紡いで行くだろう初体験を、共に分かち合える事はとても幸せだと思う。
    「うん! ね、なんだかすごく嬉しい」
     言葉通り足取りは楽しげで。輝く光の波に爪先でそっと潮に触れるなら、爪の先に乗る光、ペディキュアのように百花を飾って。
    「えあんさんも、してみて?」
     嬉しそうに笑って、繋いだ手を揺らす百花に、
    「……ん、こう?」
     エアンもそっとウミホタルを爪先に乗せてみる。それはまるでお揃いの輝石のよう。百花は、爪先に輝く星へ祈りを込めて、
    「――この満天の星空と、それを映した海を……えあんさんに捧げるの」
     エアンは絡めた指先に軽く力を込める。
    「じゃあ、俺は何をももへ捧げようか――」
     二人の時は彼方まで。だから、次のデートまでのお楽しみをひとつ。

     細波の音は、ワルツのような旋律を空へと響かせる中。共に踊る様に砂の音鳴らす、紅葉の爪先。
     柔らかなグリーンの裾を翻しながらこちらへと振りかえった少女の笑顔は、淡く咲き始めた蒼の光に幻想的に浮かぶ。
    「沙汰さんも、試しに素足で歩きましょう? 大丈夫大丈夫、砂は柔らかいから、素足でも平気なの」
     紅葉は誘う様に手を伸ばすなら、沙汰はサンダルを適当に砂浜へ転がして。
    「ほらどう? 気持ちいい?」
     笑顔で見上げる紅葉。沙汰は頷き、海の冷たさと砂の感触を楽しみながら。しばらくぶりの休暇の気がするよ、と目を細めて。
     二人並んで波打ち際。
     ぱしゃり。人の気配に共鳴するように、広がる光。
     次第に溢れだす生命の神秘の中。銀河は下、海は上、の気がして、紅葉はつい見惚れてしまう。
    「えへへー、ミルキーウェイに歩いてる気分なの♪」
     無邪気な翡翠の双眸は、蒼の輝きに混じって、宇宙の様な色をしていた。
    「すごいよね。こうやって見ていると、命自体が一つの星そのものなんだって思えるよ」
     沙汰が掬った掌の上、たゆたう蒼。
    「紅葉たち、守らなくちゃね」
     小さくても一生懸命輝く命が生きる世界を――。

     賑やかさとは離れて。ごろりとした岩がパーテーションなら、そこは波音だけが聞こえる二人だけのスペース。白焔と緋頼は、爽やかな潮風に抱かれながら二人砂浜に寝転んで。
     きらきらした星を見つめていた緋色の瞳は、悪戯っぽく白焔へ微笑みかけながら、
    「学園祭は時間作ってよね、皆で遊びたいから」
     嵐のような情勢。歳をとるたび変化してゆく生活。なんとなく、置いてけぼりと感じてしまう恋人同士としての日常。
    「今年は少しは時間を取れる筈だから、是非一緒に回ろう」
     緋頼を見つめる白焔の藍の瞳は、宇宙のように深く、優しく。
    「ゆっくり食事したいなぁ。数より質って感じで」
     だからふんわり笑う緋色の月がその瞳の中に抱かれると、本物の月よりも美しく輝いている。
    「そう言えば、緋頼はお揃いの水着を頼んだとか聞いたが」
     この場には居ないけれど、家族同然の人を思い浮かべながら。耳に届いた話に興味を。
    「彼女とお揃いたけど……コンテストはついでかなぁ。クラブの企画用だからね」
     見てのお楽しみ、と緋頼はくすり笑って。けれど普通の水着にエプロンといった海の家の店員さんみたいなもの。それでも、白焔がその時を待ち遠しそうにしているものだから。どんな感想が聞けるのか、楽しみでもあって。
     白焔が緋頼の手を取って。彼女の肌の上、重なって。唇を重ね、愛しい時を過ごす。
     天に地に、蒼い光溢れてる。そんな綺麗な世界で、二人だけの幸せな時間というものはとてもかえ難いものだから。

     其処は星の庭。瞬くそれは美しい。
     けれどたゆたう漆黒の陰影は、彼女には人の怨念のようにも見えるのだろうか。エリノアのトラウマを知っているから、さくらえはその神秘的な輝きの一端から目を離し、
    「……怖い?」
     気遣うように覗き込んで微笑んだ。
     大丈夫、と言うように頭を撫でてくれるその感触を受けながら、エリノアは夫であるさくらえの気持と在るからこそ、この場所に立っていられると切に思う。
     今でもあの光景は、エリノアにとっては鮮烈な記憶。アレをやるしかないと言うまで追い込まれた苦悩と決断が、目の前の暗黒の大海そのものだった。
     ウミホタルが光る。まるで――。
    「怖いというか、嫌というか――まぁあまり近づきたくはないわね」
     どう言ったらいいのか迷っている素振りを感じて、さくらえはすっと波打ち際へと向かいながら、
    「……遠くもいいけど。近くで見るとすごく綺麗だよ」
     離れゆくさくらえに、エリノアは心細そうな顔を。
    「エリノアもおいで? 大丈夫、食べられたりなんてしないから」
     おいでと、自分を求めてくるさくらえに。エリノアは多大なる葛藤&恐怖と、胸に抱くプライド&愛情とのおしくらまんじゅうにグルグルしていたようだが、
    「ぁ……う、うぅ。食べられるとか、私は子供じゃないわよ」
     意を決して手を伸ばすなら。浮遊感。ついで足に感じた水の冷たさと、全身に彼の温もり。
    「ほら、遠くで見るより近づいたほうが綺麗でしょ?」
     ウミホタルの光に照らされたエリノアは一層、そう思いながら。
    「もう、強引ね……でも、えぇ、綺麗、ね。さくらえ、ありがとう」
     生まれ輝く生命の美しさにほんの少し過去を見つめられたような気がした。

     細波のリズムに混じって光を放つそれ。宗田自身にはそれほど感動を抱く事はなかったのだけど。
    「うわぁ、すっごい! ほんとにキラキラしてる……!!」
     お前の目のほうがきらきらがスゲェよ、と。のろけ的な発言じゃなく、澪のはしゃぎようを例えた感想を抱いていた宗田は、ふとうずうずしながらチラッと自分を見てる澪に小さく吐息漏らして、
    「……いいから行ってこいよ」
    「うん……!!」
     なんだかんだやりたいように見守ってくれる宗田へ澪は目いっぱいの嬉しさに顔を彩らせると、波打ち際まで駆けて水面を指で優しくかき混ぜてみた。
     幻想的な光が生まれる瞬間、まるで魔法のように動きに合わせて描かれるライン。
     海から上げた指先に乗ったウミホタルがするりと光の雫が落ちた時、波にさらわれるその軌跡すら、奏でる物など無くても、澪の耳には生命の賛歌が聞こえてきそう。
     加速するワクワクにと、天地を覆う輝きの舞台は、まるで宇宙にきたみたいで。錯覚だと分かっていても、本当に体が軽くなったみたいで。
     跳んだり回ったり。蒼い輝きを背に、華奢な手足は優雅に、蝶のように軽やかに舞う姿は言葉を失う程で。
    (「……って、何見入ってんだよ俺……」)
     そして、踊っている間は水辺に入らないようにしてるのがコイツらしいと宗田は思う。
     光へと握手交わす様に澪の指先はまた海に。そして観客へと告げる光の言葉、

     しざきくん だいすき――。

     容易く波に消える。けれど見えていたのはここだけの秘密。
    「……ほら、もうこっち来い。少し休んだら戻るぞ」
    「はーい」
     振り返る澪の笑顔はとても輝いていた。

     星の瞬きも、月の光ですら遠く感じて。
     千波耶は、胸をざわつかせる波の音が迫ってくるように聴こえて、葉と繋いだ手を確かめるみたいに握り直した。
     刹那、淡く灯る光はいのち。
     ぽつぽつと、何かに共鳴するように輝きは広がりながら、波というゆりかごに揺れる。
    「すごい……思ってたよりずっと青い」
     千波耶には、光りながら寄せる波はプラネタリウムの星空を凝らせたようにも見えた。
    「波のせいか、星雲のアオにも見えんな」
     葉には、淡い光の広がりが過酷な世界で命を生み、散らす、星の営みのようにも見えて。
     星もウミホタルも、生きているという点では同じか、と。この光景が宇宙のようだとはよく言ったものだと思う。
    「前に、蛍見に行ったよね」
     砂が波に運ばれるのを千波耶は足の裏で感じながら、『その時』は砂利道だったと思い出して。ふと振り返ると、波打ち際に残してきた足跡にも潮が溜まって青く光っている。
     そして波にさらわれて――。
     変わりゆくもの。
     変わらないもの。
    「よーくん」
     蛍も海ホタルも、光る意味は同じ。

     ――好きよ。

     別段変った言葉じゃない。けれどその一言に込められたもの。
     葉の中で、なにかが水滴のようにぽとんと落ちて、自分の中で少しずつ体積を増していく。
     それを感じながら穹を仰ぎ見るなら、いつかのブルーモーメントが脳裏に。
     あの時はまだ誰かを好きになる感情、殺す以外の愛し方――それすらよくわからぬまま。
     その双眸を見つめ。

     ――好きだよ、千波耶。

     ただ潮のように満ちていくこの『いとしさ』を抱きながら。当り前に傍に在るような大気のように静かに、そっと触れるだけの唇を重ねて。

     チセの前に浮かぶ蒼の庭。
    「ウミホタル……!」
     空から零れそうな瞬く輝石、波に揺れる宇宙にブルーネビュラの軌跡。あおいろが大好きなチセだから、この光景はとても心引き付けられる。
    「波も、砂浜も――綺麗なその蒼に光っていてとっても素敵ね……」
     初めて見たウミホタルに、チセは溜息しか出てこない。夜の海に神秘的に蒼く輝く、不思議ないきものをもっと近くにと。ほんの少し足元だけ、波に浸かって。
     ぱちゃり。足を動かすなら。それはくるり回っては蒼を濃くして。
    「天と地の両方の輝きを見られるのって、とっても不思議で……」
     綺麗です、と感嘆漏らすチセの瞳もきらきらの星。掬った手の平、光るあおへと微笑みかけ。
     皆さんも、どうかとっても良いひと時を過ごせてますように――と、星に願いを込める様に。

     漆黒といっても、空と海との境界は光の瞬きになぞられて。
     波打ち際、他愛ないお喋りとともに歩く人影も、漆黒纏い黒髪靡かすというならば。見る人ならばその纏う空気で誰と知るのだろう。
     紗夜に誘われ来た海は、細波というゆりかごに乗った蒼の輝き、海の穹を巡る場所。
    「ウミホタルは初めて見るけど、綺麗な蒼だね」
     溜息零す紗夜。柚羽は立ち止まるとしゃがみ、いのちから生まれれる蒼の燐光を見つめながら、
    「私はウミホタルは以前見た事があります。何回見てもこの美しき光は、瞳と心を奪って離さない……そういえば紗夜さんって、青色好きですよね」
     赤を好む自分とは正反対だと。
    「……うん、僕はアオが好き。もしかすると、好きな色は性格が表れるのかもね」
     だからこその、とも言えるのだろうか。
    「色って、光があるからそれぞれを認識出来るんだよね。光が無ければ、真っ暗闇で色が見えないから」
     そう言って、紗夜は寄せる波から青の光を手に掬って、微笑みかけて。
     成程と理解しながら、柚羽は波に手を入れて持て余すように乱し、マーブル模様の様になる輝きを静かに眺めながら。
    「――たまに、何もかもから目を逸らしたくなる時がある」
     けど、目を閉じはもうしない……です。多分――そんなほんの少し頼りない柚羽の呟きに。
    「光があるのに、目を閉じる事はしないでくれよ? ……姉さん」
     紗夜は苦笑を零す。
    (「貴女も大事な私の光です。だって大切な妹なのだから」)
     頷く事も、言の葉零すこともなかった柚羽だが、それは心の中だけで呟いた。

     足元に流れてくる輝きは、命の光。
    「あたし、ウミホタル見るの初めてなのです……けど、何だか、すごく不思議な光景なのです」
     手に届く星空。レキと一緒に波打ち際まで駆け寄れば、陽桜は感嘆漏らし。細波に揺れる蒼を目で追っては、時折生き物らしい動きをするものだから驚いたり。
    「レキちゃん、このウミホタルさん、本当に触れても大丈夫なのです?」
     あまりにも小さく、そして儚げな揺蕩う光をじっと眺めながら問うならば。
    「大丈夫だよ。こーゆーふうにそーっと」
     波の動きを読みながら、レキが掬ったお星さま。わぁと声を上げると、陽桜もそぉっと両手を波の中へと差し入れた。
    「レキちゃん、あたしの手にも乗ったのですっ」
     蒼の尾を引く願い星、ひとつ。やったねと微笑み合って。
     蒼きヴァルナの流星群、陽桜は流れる輝きを瞳に映しながら。
    「レキちゃん、いこ」
     儚い光の庭、心行くまで。

     波の揺らめきに合わせて命が揺れているここは、常世の庭。
     彼の世を渡る幽玄さとはまた違う、現を謳歌する命の輝き。
     水は苦手な時兎だけれど、綺麗な光景は綺麗だと、その現実感乏しい瞳は波を見る。
     聡士は、比翼に白い指先が袖を摘まんでいる感覚が、く、と僅かに引く様な感じがして。彼に瞳を向けるなら、赤い瞳が月夜に淡く輝いているのを見る。
    「聡士、ちょと、手、掬ってみてよ」
     比翼の言葉に特に断る理由もなく。聡士は屈んで、その両手に光を掬った。
    「こうして掬ってみるとなんか不思議な感じで面白いねぇ」
     ふわり揺れ、くるり回る様を見ると、微笑ましい生き物だと聡士は感じて。
     時兎も彼の手の中の光を見つめていたが――ふと顔上げるなら、唯の宇宙に輝く星を見る。
     その漆黒の瞳という穹を持つ君へ、
    「ね、名前……俺の名前、呼んでほし」
     聡士は不意に掛けられた声にゆるりと首を傾けて、
    「……どうしたの、時兎」
     限りなく柔らかい迷子を安心させるような声音に、時兎の呼吸が思わず止まる。そして聡士が呼んでくれるから希薄な自分が実体を持てると、そんな安堵にも似た感覚。漆黒の中の星空と一緒になれる気がして。
    「これで足りないならば何度でも。大切な比翼の為なら、何だって」

     ――時兎。

     白い頬に差す赤みと、艶めく赤の瞳。聡士は自分だけに見せてくれる唯の笑顔を。この蒼の輝きに彩られた世界だからこそより一層その存在が際立つように思えて。
     満足したなら、満面の笑みで頷いて。
     現の輝きは、現へと返して。その指はまた、比翼と共に。

     漆黒を落された世界に際立つ光の色。
     朱彦は優しく初衣の手を握って。光に導かれるまま、細波に添う様に砂浜を歩く。
    「う、えも、したも、ほし、ぞらみ、たいで、す」
     初衣はふんわりとした淡い頬笑みを浮かべながら、天の光と海の輝きを見つめて。
     瞬く星は、闇に細い光芒を綻ばせ。細波に揺れるウミホタル。幻想的な蒼の揺らぎは、綺麗な星で編んだ綿あめみたいにふわふわと。
     不思議な色の揺らめき、蒼の輝き。ウミホタルの光はまるで初衣のようだと、朱彦は思う。
    「よるな、のに、こ、わくな、いで、す」
     そんな初衣の呟きに、朱彦がそっと視線を落す。
    「……朱彦さん、あ、あの、ウ、ミホタ、ルも、よぞ、らも、きれい、で、すけど、朱彦さ、ん、がいち、ばん、きれ、いで……」
     初衣は手を伸ばして、朱彦の艶めく髪に触れながら、
    「わ、たし、朱彦さんの、くろが、す、き、です」
     赤い瞳へ、恥ずかしそうに微笑んだ。
     夜が怖いと言う貴女が、夜なのに怖くないと微笑み、暗夜のような俺の「黒」が好きと言う――いのちの蒼に照らされた初衣の顔は、いつにも増して泡雪の様な優しさと儚さが同居している様に見えて。
     夜が怖いと言う初衣の光になれたらと――けれど、それは、実は逆で。
     貴女の言葉、しぐさ、想いに、俺の心はどれだけ解かされたか――。
    「初衣さんは、俺にとっての光です」
     握った手を大事そうに肌に包み、
    「これからも、俺と……」
     そっと初衣の唇に陰を落とした。

     冷たい潮風が、茅花の髪を浚ってゆく。
     静かな波音に、瞬きが聞こえそうなほど広がる夜の星を臨むのももう何度目だろう。出会ってから海によく来るようになった、と茅花と御伽、共にそんな事を心に感じて。
     相変わらずにだだっ広く、ひたすらに静かな世界。けれどいつもとは違う、今日の海。
    「綺麗、だな」
     青の景色に、御伽はぽつり零すなら。
    「星座をちりばめたような水面ね……」
     そう呟く茅花の横顔を見て、瞬いている蒼の輝きを飾った彼女から目が離せずに。
     女神みたいだ、なんて言ったらどんな顔をするだろうと御伽は思いながら。二人は冷たい砂の感触を踏みしめた。
     茅花は裸足になったものの、踏み入れることはちょっと躊躇われた。それを感じたのか、仄か蒼く光る波打ち際へ静かに進み、御伽はちゃぷ……と足を浸した。
     蒼い光に浮かぶ御伽の顔は、微笑み浮かべ。
    「行こう」
     差し出された手。
     茅花は、綺麗な輝きに照らされた御伽は、いつもみたいに微笑ってるはずなのに儚く見えて。
     なんかちょっと置いてかれちゃうそうな、そんな気分にもなって――追いかける様に、君の手を取る。
     ひんやりとした爪先で星座を揺らせば。
     巡る、巡る、夜空のように。
     ご機嫌そうに指を絡めてくる茅花に、御伽はがゅッと手を握り返し、静かに蒼を渡る。
    「ねえ――いつかみたいに内緒の話をしませんか」
    「じゃあ俺の内緒話、聞いてくれる?」

     茅花さん、あのな――。

     波音に言葉かき消されても、気持はきっと君の心に。

    作者:那珂川未来 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年6月29日
    難度:簡単
    参加:21人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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