●六月の――。
しとしと、しとしと……。時にはざーざー。雨の音を聞かぬ日のほうが少ない季節――梅雨。
「6月、ですね……」
膝下まである金色の髪の少女は、窓に向けていた視線を室内へ戻す。室内へと向けられた顔には狐のお面。その身を包む中華ロリータワンピースは赤と黒を基調にしていて、白のタイツがよく映える。
「6月といえば……結婚式、ですね……」
彼女は両腕で大きな狐のぬいぐるみを抱きかかえたまま、席へ着いた。
彼女の言葉で他の魔人生徒会のメンバーの中にも、察した者が多いだろう。
6月といえばジューンブライド。元々欧米の言い伝えだが、その言い伝えに憧れて、日本でも6月に式を挙げるカップルが多いのも事実。
「ドレスや、タキシードを借りて……大切な人と、模擬結婚式……してみませんか?」
その提案に反対する者はなく、翌日には詳細な案内が学園中に掲示されるのだった。
●模擬結婚式のご案内
「模擬結婚式、ですか……」
張り紙の前で足を止めたのは向坂・ユリア(つきのおと・dn0041)だ。
「6月ですものね」
「しかしさすが魔人生徒会だね、ずいぶんと広い施設を借りたものだ」
「あ、瀞真さん」
ユリアの隣に立った長身の彼は神童・瀞真(エクスブレイン・dn0069)。彼もまた、同じ張り紙に目を留めたようである。
今回の模擬結婚式は、いわゆる予行練習的な意味が主ではあるが、すでに経験している人も、恋人じゃなく友達同士でも、思い出づくりとして参加するのも推奨されている。
ウエディングドレスやカラードレス、タキシードや紋付袴に白無垢など、レンタル衣装はサイズも色もデザインも豊富であり、もちろん持ち込みもOKだ。
模擬結婚式であるからして、結婚可能年令に達しているかどうかは不問。小学生から卒業生まで、誰でも新郎新婦になることができる。
もちろん、お祝いする側としての参加も歓迎。
場所は、複数のチャペルと神前式用の会場を持つホテル。そこを模擬結婚式当日とその前後、貸し切りにしたのだとか。
ステンドグラスの美しいチャペル、海が臨めるチャペル、ガラスドームの天井のチャペルなどがあり、他にも様々なタイプの寺社仏閣をモデルとした会場があるらしい。
教会式、神前式、人前式を行うことができ、演出なども柔軟に対応してくれるようだ。
「ああ、なるほど」
「?」
突然頷いた瀞真にユリアが首を傾げてみせると、彼の指した先には『サーヴァント同伴・参加可能な会場もあります』との記載が。
「貸し切りだからね、おそらくホテルの従業員が介在しないという条件付きの会場も用意してあるのだろうね」
その分、上乗せされた金額が動いたかもしれない……なんて考えるのは野暮なこと。
だって張り紙の最後には、『みんなの末永い幸せを祈ります』と書いてあるのだから。
●
海を臨むチャペルの入り口。ネイビーのタキシードに身を包んだ雄哉のネクタイを、最終確認するように整えた双調は雄哉の肩を軽く叩いた。応じるように肩越しに振り向いた彼の視界には、空凛に付き添われた愛莉の姿が。
「……似合う、かしら?」
純白のウエディングドレスに身を包み、空凛によりメイクを施された彼女が照れながら訊ねる。
「……う、うん、愛莉ちゃんすごく綺麗」
「おにいちゃんもよく似合っているわよ」
赤面してしどろもどろになりつつ告げられた言葉。その彼の様子がその心境を何よりも雄弁に語っていた。
仲人役の双調と空凛もチャペルに入り、厳かに式が始まる。ぎこちなく差し出された雄哉の腕に愛莉も腕を絡め、二人でヴァージンロードを歩んでいく。
「こんな日が来るとは思ってなかったんで感慨深いわー」
誓いの言葉を述べる二人の後ろ姿を見ながら、目頭を押さえたサーシャが隣のなのちゃんに告げると、まるで同意だとでも言うようにナノちゃんも「ナノー」と目頭を押さえてみる。
宣誓が終わると割れんばかりの拍手が巻き起こった。神凪家の燐、陽和、朔夜、並んで座った三人と双調と空凛、義兄弟である彼らは二人の馴れ初めから道行きをずっと見守ってきたこともあって、感慨もひとしおだ。ここに来るまで、色々あったのだから。
「雄哉さん、よく見てください」
「え? あっ!」
緊張で指輪をはめる指を間違えそうになった雄哉に、双調がこっそり耳打ち。模擬だとわかっていても本番さながらの式だから、緊張するのも無理はない。誰も彼を責めることも嘲ることもない暖かさが、空間に満ちていた。
「こういう雄哉さん、見るの新鮮かも」
「こういうお二人を見れると、こちらも幸せですよね」
ひっそり交わされる弟妹の言葉は、燐の耳にも入ってくる。全く同意であったので、二人へ向ける視線には見守りの暖かさが籠もっていた。
模擬と言っても、愛莉は本番のつもりだ。これから戦いは更に厳しくなるだろう。もし機会を逃したら、模擬でも結婚式を挙げなかったことを後悔しそうだから。
誓いの口づけ――ヴェールを持ち上げる雄哉の手は震えている。けれども『それ』を間違えることはなかった――。
「撮りますよー?」
カメラ役のユリアの掛け声でシャッターがきられる。二人を囲んで燐、朔夜、陽和、双調、空凛と、なのちゃんを抱いたサーシャ。
「よし、なのちゃん! 俺たちも結婚しようぜー!?」
「ナノー!?」
数枚の写真の中に一枚、サーシャの腕から抜け出そうとするなのちゃんと、それを見て笑う皆の姿があったとか。
「どう……かな?」
「……きれい、だよ、千尋」
初めて身につけた純白のウエディングドレスに、高鳴る鼓動を隠せない千尋。彼女の反則級の可愛い姿に思わず息を呑み、ありふれた言葉しか出てこないのをもどかしく思う徒。
「だいじょーぶ、今日はあくまで練習だから」
今日は、ということはいつか本番を迎える日が来る? 想像すると胸が熱くなる。
指輪交換で触れた指先から伝わる想い。漠然としていた未来が、徒の胸の中で形になっていく。
これから先、二人に何が起こるかはわからない。けれど。自分に向けられた彼の暖かな眼差しに、千尋は未来を見た。
レースたっぷりのふんわりとしたドレスに身を包んだりね。中学生の自分には、結婚式なんでまだピンとこないけれど。そっと、隣に立つ新郎役のポンパドールを見上げる。
(「りねはまだ中学生だから実際の結婚式を挙げられるのはまだ先のハナシだケド」)
もし、彼女がおとなになってもまだ自分と一緒にいてくれたら――物思いに耽りながら向けた視線が彼女と合って、ビクッと肩を震わせるポンパドール。
式が進むごとに、今二人でいる幸せを感じる。
「ほっぺたに誓いのキス、してくれる?」
彼のお願いに笑顔で返事をしたりねの唇は屈んだ彼の頬へ。
あんなに正装が似合うなんて聞いていない――金蓮花の装飾をあしらった純白のドレスに身を包んだ澪は、俯いたまま祭壇前の宗田の手を取る。
(「マジで綺麗だ……天使かよ」)
教会の雰囲気と合わさって、澪の姿は宗田の心を乱す。乗せられた澪の手の小ささにふっと笑みが漏れた。
――誓います――宣誓して指輪を交換。そして――。
ヴェールを上げる時、宗田はわざと澪の頬に指を掠めるようにして。
「っ……」
身を固くする間もなく奪われた唇。口づけはとても長く。離れる唇、絡んだ視線で抗議をする澪に、宗田は不敵に笑んだ。
「えっ、うん。その、似合ってるね、かっこいいんだよ」
彼の格好良さについ失った言葉を引き戻すようにして雪月が紡いだのは本音。頬が、熱い。
「……まあ、その、似合ってんじゃねぇ?」
雪月のドレス姿に思わず息を呑んだのを誤魔化すように言葉を紡ぐ氷華。ありがとう、笑う彼女が眩しい。
「ひょーちゃん、大好きだよ」
一通りの流れを体験したあと、雪月が口を開いた。
「……俺だって、大好きだよ」
彼の答えに嬉しくなりながらも、本番の時彼の隣にいるのは誰だろうという思いが湧く。
「なぁ、大学卒業したら、本番しようぜ」
「えっ? えっと、うん。本番できたら嬉しいな」
思いを誤魔化さないと決めた氷華の不意打ちに、雪月の心が跳ねた。
「お待たせリオ……可愛い?」
「わ……すごく綺麗で、可愛くて……まるで天使が舞い降りたみたいだよ、断」
「えへへ……リオは格好良いの!」
お互いの姿に見とれながらも素直に感想を紡ぐ二人。
「大人になるなんてきっとあっという間じゃないかな?」
大人になりたいと零す断に告げるエミリオ。出会いは小学1年生。そんな二人は今年から中学生だ。
誓いの言葉、指輪の交換に次いで――。
「Te prometo quererte para siempre」
囁いて断の頬に口づけるエミリオ。
「ふふ、誓のキスは三年後に、ね?」
「ん♪ ……本番……絶対ね……絶対だよ?」
ヴァージンロードを歩いて行くのは、ロリータテイストのプリンセスラインドレスを纏った二人。
「エステル、長いこと待たせて、ごめんなさいね」
雛がエステルの手を引き、祭壇へと進む。
「周防雛は、この者・エステルを一生愛すると誓います」
「エステルは、この者、周防・雛一生愛すると誓います」
じっと見守る仲間たちの前で交わす宣誓。そして重なる唇。
「おめでとう! 雛、エステル」
二人に祝福の花を降らせながら、この幸せが永遠に続くことを願う緋頼。
「雛もエステルも、どうか幸せにな!」
「末永く、お幸せに、ね」
薫も雨も花を降らせて二人を祝福する。
(「大分待たせちゃうかもしれないけど、必ず迎えに行くから」)
薫は、隣に立つ雨と昨年予行結婚式をしたけれど、本番はずっと先だ。けれども心の中の誓いを破るつもりはない。
(「きっと、思っていることは一緒だから」)
隣の彼をそっと見上げて、雨は返事の代わりに彼の手をきゅっと握った。
花吹雪の中、満面の笑みで主役の二人が一つのブーケを二人で握る。
「どこに飛ぶかなー」
エステルのその言葉を合図にブーケが舞い上がり、放物線を描いて――その行方を目で追う薫る、思わず手を伸ばした雨。そして。
(「わたしも、いずれとは思っていますけどいつになるかなぁ……」)
ふぁさっ……祝福の花束は、憧れと羨望の物思いに耽っていた緋頼の胸元へ。
「……あら」
驚いたような緋頼に向けられるのは皆の笑顔。二人の幸せがいっぱい詰まったブーケだから、誰が受け取ってもみんなとっても幸せな気持ちになるのだ。
以前模擬結婚式に参加した頃からお互い少し大人になった。だが、持参した衣装に身を包んだ桃香を、純白のタキシードに身を包んだ遊を見ると、互いの可愛さ格好良さに愛しさと緊張が強まるのは止められない。誓いの言葉を噛んだりどもったりしたけれど。
「この先何があっても、年を取ってもこの気持ちは変わらないって誓えるから……ずっとずっと一緒にいて下さい……私より先にいなくなるなんて許しませんよ?」
「ああ。病める時も健やかなる時も、永久に共に……愛してる」
前より少し大人になった二人は、前より少しオトナな口づけで誓う。
ビスチェマーメイドラインのドレスに身を包んだフォルケを、瑠璃は背筋を伸ばしてエスコートする。
「母国ではcammiesばかりで、こういう自分の姿は想像できなかったですが……えっと、変じゃないですかね?」
「大丈夫、よくお似合いですよ」
着慣れない服に紅潮したフォルケの問いに瑠璃が小声で囁き微笑む。それに安心した彼女はニコッと微笑み返して。
誓いを終えて瑠璃がそっとヴェールを上げると、二人はゆっくり視線を絡ませて――口づけを。
誓いの成立に祝砲が響く。その数は21。
「幸せにしますね」
「……はい」
微笑みが幸せの印。
模擬とはいえ、子どもの頃から憧れた景色が目の前にあるのは嬉しい――自らが見立てたタキシードに身を包んだ月人を見る春陽はふわふわのドレス姿だ。
「これからも春陽を愛することを誓う」
毅然と紡がれた月人の言葉。誰に誓おうとその内容は変わらない。
「っ……私も」
好き、とか愛してる、とか何度も言っているはずなのに、気持ちが一杯で言葉が出ない。春陽はそう頷くので精一杯だった。
「そうだ、この後指輪でも眺めに行くか」
「……指輪? ふふ、そうね」
必要になるのはもう少し先だろうけれど、いずれ必ず必要になる、それだけは確定事項だから。
二人きりの教会。和装ドレスの紅音を迎える狼煙は黒い軍服姿だ。『白』は本番にとっておきたい。
「て、手順?」
教会式の手順をよく知らない二人。二人なりに考えて指輪を交わす。そして……そっと口づけ。混乱のあまり紅音を抱きしめてもう一度キスする狼煙。
(「キスは未だに少しだけ恥ずかしいけれど」)
すればする程紅音の心に『好き』や『愛してる』が溢れる。
いつも『好き』の一言が言えなくて気持ちが伝わっているのか不安な狼煙。でも、今日はきっと。
「本番では、いろんな人にあって幸せを分かちたいな、私は」
「……確かにそれもいいけど」
あえて二人きりで彼女を独り占めするのも――。
プリンセスラインのドレスを着こなした初美は、タキシード姿の真咲の襟やネクタイを手直ししてから二人だけでチャペルへ。
「卒業まであと二年。そろそろ呼び方を教授から名前にするのに慣れたほうがいいかな? でも特別な時だけ名前で呼びたい気も。どちらがいいかな」
「名前で呼んでもらおう、かな」
問われて答えた初美は、自分もそうだったから次第に慣れていくよと告げて。
「今もこれからもずっと愛してる」
これはいつもと違うキス。
「本番では今以上の言葉、期待してるよ」
「そっちもちゃんと言葉にしてね、初美」
ウインクした彼女に、真咲から不意打ちの――。
「これから私たちは夫婦として、病めるときも健やかなるときも、喜びを倍に、悲しみを半分に分かち合いながらともにあることを誓います」
誓いの言葉を述べて、鈴音と娑婆蔵は指輪交換に移る。
「うれしい」
鈴音が一言に万感の思いを込めるものだから――。
「そんなにも嬉しそうな顔をしてくれなすってからに。こりゃ『なんだ模擬で演じた通りだな』とならぬよう本番では気張らにゃなりやせんね」
冗談めかした彼によろしくと告げて、鈴音からキス。
「……本番では、あっしから致しやす」
不意打ちされてはそう約束するしかない。
「行くわよー!」
鈴音の投げたブーケは、空へ大きく舞い上がった。
海が見えるチャペルでヴァージンロードを共に歩くカティアと詩音。彼女があまりに腕に密着するものだから普段は慌てるところだけれど、今日は彼女を感じられる素敵なぬくもり。
「ずっと、誌音さんの、貴女の傍にいる事を、誓います」
「私はずーっと、カティアさんと一緒ですよ」
口づけを交わして再び見つめ合う。
「本物の結婚式は、後1年待ってくださいね、私が二十歳になるまで。今日は……予約です」
再びキスが贈られて。
「はい。予約されました。待ってますね」
彼の手を胸に抱いてじっと見つめる詩音。
「……あう、すみません、そろそろ……」
カティアの羞恥の許容量が限界突破しそうだ。
(「良いのかしら私がこんな所に出て……幸せになっても……」)
緊張から、ぎゅっと天草の手を握るコルト。
「大丈夫、俺は隣にいるよ」
握り返して天草は安心させようとする。
「その、こんな所まで魔女になれなくて、ごめんね?」
上目遣いに告げる彼女を抱き寄せて、半ば強引に唇を奪う。そっと唇を離して、笑ってみせた。
「いいじゃねえか、花嫁にはなれただろ」
だから、一緒に幸せになろう――彼の言葉にコルトはつられるように微笑んで。
「ええ、天草、一緒に……これからもずっと……」
ありがとうを繰り返しながら涙する彼女のブーケが、空へ。
「ここでいいか?」
「うん!」
義弘が設置したウエルカムボードは、ファムが描いたもので、忍者姿の暁と魔女っ娘姿のユリアーネが描かれている。
「結婚おめでとうございます!」
控室で新婦の着替えを手伝っていたくしなは一足先に祝いの言葉を。着付けとメイクはバッチリだ。
「模擬とはいえ、やっぱり緊張するね。……ね、暁。ちゃんと私の事、エスコートしてね?」
「お任せを。……フフ、とても綺麗でござるよ、ユーリィ」
純白のドレスとタキシード姿のユリアーネと暁は、カンナの紡ぐモリンホールの音に合わせて入場する。参列者であるたくさんの仲間達の視線を浴びながら、一歩、一歩。
見守る者の中で感慨もひとしおなのは、翔也と薫夫妻。四年前に自分たちの式を手伝ってくれた二人の式であるし、ユリアーネは翔也の義妹である。黙って見守りつつも、こみ上げるものはあった。
「ユーリィ。模擬とは言ったが、拙者は――俺は、本当にしたい」
指輪を交換して、暁はまっすぐにユリアーネの視線を捉える。
「結婚しよう。俺は、君と一緒に生きたい」
返事は、なかった。否、嬉しさを隠し切れずに浮かんだユリアーネの微笑みが答え。上げられたヴェール、そして、口づけ。
普段は祈りもしない神様に、今回ばかりはお願いを。
(「――神様。人造灼滅者の私の身体と命が、これからどうなるかわからないけれど……いや、だからこそ」)
どうかこの幸せが、これからもずっと続きますようにと。
(「俺は数え切れない罪を背負ってる。神なんていないのも知っている。それでも祈る」)
自分の命を、彼女を幸せにするために使わせてくれと。
(「……不思議と、泣きそうになるな」)
感極まった翔也に、薫がそっとハンカチを差し出した。
(「このお二人が付き合い始められて遂にここまで……友人の一人として、感無量の極み!」)
(「こう、なんというか言葉にしにくいけど色々あったなぁ」)
見守る討魔と橘花の胸中にも様々な思いが浮かんでいた。
と、カンナの演奏が未来を感じさせる明るい曲へと変わる。暁はユリアーネを抱き上げて教会の外へ。
「末永くお幸せに、でござるよー!」
討魔が集めた蒼い花弁が新郎新婦に降り注ぐ。
「幸せにの? 末永く共に過ごされよ」
「おめでとうございます!」
「ずっと、ずっとお幸せに……!」
「二人とも、幸せになるんだぞ」
花弁と共にカンナ、くしな、薫、翔也の言葉が降り注ぐ。
「二人ともおめでとう」
「オメデとう!」
「何はともあれおめでとう」
兼弘、ファム、橘花も精一杯の蒼を。
「キャップもしないの? 猫さんと結婚!」
「そうだねえ……内緒」
問うファムに、兼弘は笑って返した。
蒼い花弁舞う空。皆の笑顔、彼女の満面の笑みを心に刻んで暁は彼女の耳元で告げる。
「約束するよ。死がふたりを別つとも!」
まるで空を映した水面に立っているような場所で、自作のドレスを身に纏ったライは、紫陽花のブーケを手に黒を見つめる。
「ずっと言いたかったことがあるんだ……」
「うにゅ? 言いたかったこと?」
首を傾げる黒。ライは続ける。
「俺と出会ってくれて、一緒に居てくれて……ありがとう。大好きだよ……俺の旦那様」
顔を赤らめたライから告げられた言葉とキス。黒が浮かべるのは照れ笑い。
「うん、僕もありがとう。僕ね……一緒にいると……ここが2倍速……いや、3倍速にもそれ以上にも鼓動しているように感じるんだ」
胸に当てられた手が、その意を示す。
「これからもずっとずっと末永くよろしくね、――」
「これからもずっとずーっと一緒だよ、――」
風が白い花びらを舞い上げて、言葉を一部二人だけのものにした。
誰も居ない浜辺を、手をつないで歩くのは礼服姿のニコとドレス姿の未知。一生のお願いとして頼まれたら、ドレスを着ないわけにはいかなかった。
「去年のまだ付き合ってない頃、カップルの演技をする為にこうやって一緒に浜辺を歩いたよなー」
「あれからまだ一年も経ってないのか、驚きだな」
人生何があるかわからない、と笑い合う二人。
「死がふたりを分かつまで、共に歩み、共に幸せであり続けることを誓いますか?」
足を止めた未知の瞳を見つめながら、誓いますと答えたニコ。その心に強い思いを抱いて。
「俺も誓うよ。こんな風に手を繋いでどこまでも一緒に行こうな」
「何時までも、何処までも共に歩もう」
潮風が二人を優しく撫でる。
愛をいだくすべての人々に、祝福を――。
作者:篁みゆ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2018年6月30日
難度:簡単
参加:53人
結果:成功!
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