魔人生徒会~水無月の赤い宝石狩り

    作者:泰月

    ●秘密の会合
     謎の基準によって選出される謎の生徒会――それが魔人生徒会である。
    「先日のソウルボードでの一件で巻き込まれた方の中に、大きな農園の地主さんがおられまして」
     その日、魔人生徒会の会合が、武蔵坂学園の何処かで行われていた。
    「助けてくれたお礼にサクランボ狩りに招待したい、と言う連絡を頂きました。折角の招待ですので、希望者で伺えればと思います」
     無表情に淡々と話しているのは、黒ずくめの小柄な少女だ。
    「サクランボの他に各種のベリー系も作られていて、一緒に助けられたパティシエの方がベリーを使ったスイーツもご馳走して下るとの事ですよ」
     希望があればパティシエの料理教室も開いて貰えるらしい。
    「サーヴァントは?」
    「貸し切りなので大丈夫ですよ。確認済みです」
     会合のメンバーから上がった問いに、少女は淀みなく返す。
    「それに、今回の招待は、彼らの理解と親睦をより深める事にもなると思います」
     腰よりも長く伸ばした姫カットの黒髪と、その左右に結わえられた黒曜石の珠飾りをふわりと翻し、少女は表情を変えず会合のメンバーを見回す。
    「これまでの民間活動で私達と接しても、全ての人が理解してくれる訳ではありません。こういう機会も大切だと思うのですが、如何でしょう」
     淡々と告げられた提案に、反対の意は上がらなかった。

    ●そんなこんなで
     魔人生徒会を通して届いた、サクランボ狩りへの招待。
    「サクランボ狩りのお知らせか……うん? マルベリー(桑の実)? あれもベリー系なんだ。昔、山に自生してたのを食べたっけ」
     それに思いっきり食いついた上泉・摩利矢(大学生神薙使い・dn0161)が、何処か懐かしそうにポスターに視線を走らせる。
     ポスターには、サクランボ狩りとその注意点や、併設のカフェで本職のパティシエの作るベリー系の各種スイーツも楽しめる事など、招待の内容のみが記されていた。
     理解と親睦を深めておく、と言う側面は書かれていない。気にせずに楽しんだ方が良いのでは、と言う事だろう。
    「菓子類は不得意だが……習っておくのも良いか」
     それでも、気づく者は気づいているだろうが――。
    「サクランボ狩りは時間制限ありだけど食べ放題……よし、行くか」
     取り敢えず約1名、どう見ても何も気づいていないようである。


    ■リプレイ

    ●菓
     結ばれた縁は、歓待。
    「えー、ざっと伺ったところ、皆さん作りたい菓子も経験も様々なので、個別に指導して回りますね」
     灼滅者達が招待されたサクランボ農園の厨房では、料理教室が始まっていた。
    「想希は何作るんや?」
    「マルベリーとブルーベリーのクラフティに挑戦しようと思います」
    「クラフティ?」
     首を傾げる東当・悟に、若宮・想希がタルトに似たフランスはリムーザン地方の伝統菓子だと説明する。
    「ところで悟。マルベリーって、食べた事あります?」
    「マルベリーも初や!」
     未知の味――とくれば味見せねばなるまい。
    「んっ――甘いですね。これは美味しいスイーツになりそうです。悟も?」
     横で開いている悟の口に、想希がもう一つ赤い果実を摘まんで入れる。
    「んんー……! じゅわって来るな! 柔らこうて溶けるで!」

    「和弥さんは普段から料理するん?」
    「自炊してるから料理自体は出来るけども、菓子のレパートリーはサッパリでして。ベリー類、全部ぶち込んでゼリーくらいしか思い浮かばぬのである」
     ぐっと腕まくりした加持・陽司の問いに、若桜・和弥が遠い目で返す。
    「そっか。久良さんは普段から料理してそう!」
    「じいちゃんも果物を作ってるし。手伝ったこともあるからこう言うのは任せて」
     陽司に返しながら、居木・久良は手慣れた様子で材料を量り始める。
    「料理はそれなりだけど、スイーツはそこまで作らないのよね。分量あってるかな?」
    「私も洋菓子はあんまり……でも、留守番の旦那に美味しいお菓子作ってあげたいし。ついでに学園祭でよーじくんの手伝いできるし」
    「ついででもありがとう!」
     分量を確認し合いながら進めるアメリア・イアハッターと荒谷・耀に、陽司が親指を立てて返す。
    「やっぱり、こういう時の頼りはシャッフィーかしら」
    「シャオさん、何作るん?」
     アメリアと陽司が視線を向けたシャオ・フィルナートは、黒猫のエプロンを着けた早くも材料をボールに入れていた。
    「シャルロットケーキにしようかなって。フランスのお菓子で、女性の帽子に見立ててるんだって」
     そう言って、シャオは手慣れた様子でボールの中身を混ぜ始める。

    ●果
    「あまおと、サクランボ、食べたことありましたっけ? こういう農園で食べるサクランボは、すごく美味しいのですよ!」
     少女は白い霊犬を伴って。
    「しーくんのお誘いは大体突然ですけれど、サクランボ狩りですか」
    「たまにはこういう、自然系イベントに一緒に行っても良いかと思って」
    「別にしーくんと一緒だったらどこにでも……何でもないです」
     或いはいつもの2人の距離で。
    (「さて。好意的に誘ってくださった方々が、私達のドン引きするような一面を見ない事を祈るばかりです」)
     或いは胸中で呟きながら。
     梅雨晴れの下、広大な農園でサクランボ狩りも始まっていた。

    「他の人もいるんすから、あまり食べ過ぎちゃ……って心配、なさそっすね」
    「うん。これだけ樹があると、安心だね」
     山田・菜々と清水・式が、手を止めずに顔を見合わせる。
     菜々の手にした種入れの紙コップは、既に3つ目。
    (「いっぱい食べる君を見てると、僕も食べようって気になるんだよね」)
     釣られてサクランボを摘む手が進んでいた式は、ふと、ある事を思い出した。
    「そういえば、口の中でサクランボのヘタを結べるとキスが上手いって話あったよね」
    「んぅ?」
     サクランボを咥えたまま目を丸くした菜々に、試してみる?、と式が笑いかけた。

    「鞄に材料を忍ばせたりもせず、今日はチョコミントはお休みの様ですね。ここで出したら、流石に締め上げるとこでした」
    「うん。今日チョコミントメインにしたらまずいって、流石にわかってる」
     神乃夜・柚羽と茶倉・紫月は、他愛ない会話をしながらサクランボを摘んでいた。
    「そう言えばさ。サクランボの軸を口の中で結べると、キ――むぐっ」
     紫月が言い終わる前に、柚羽がサクランボを捻じ込んだ。
    (「結べたら」)
    「もご」
    (「何だというのです」)
    「むぐ」
    (「結べなくても」)
    「もごもご」
    (「別にいいじゃないですか」)
    「もがが」
    (「これ食べさせてくれてるんじゃない。黙らせてるんだ。ゆーさん、流石ツンドララ」)
     反論も抗議の隙も与えまいとする柚羽の無言の威圧に、紫月は黙って頷いた。リスなりかけで喋れなかったとも言う。
    「ええ、わかったようでしたらそれで宜しいです。ではそろそろ、お土産にする分を摘むとしましょうか」
    「もご」
     2人がしばし無言でサクランボ摘みに勤しむ事になったのは言うまでもない。

    「あ、また……あまおと、種まで食べちゃダメなのですよ?」
    「食べちゃっても大丈夫だと思うよ?」
     心配する陽桜の背中に、摩利矢が声をかける。
    「やっぱり、種だけ出して実を食べるのは、難しいのかな」
    「犬の口だと、そうかもしれないね」
     陽桜にあーんと開かされた口を摩利矢と2人覗き込まれ、あまおとが小首を傾げる。
    「それじゃあ、あまおとは今はお預けなのです。持ち帰って家でお菓子作りますから」
     もっと欲しそうなあまおとを撫でて、言い聞かせる陽桜。
    「サクランボの種、貰えますか?」
     そこに現れた璃羽が、サクランボの種を集めた瓶をカラカラと鳴らした。
    「種で枕を作ってみたいのです。とても寝心地が良いそうですよ」
     サクランボの種は天然の断熱材。枕や湯たんぽに利用されるのだとか。
    「ありがとうございます。お1つどうですか」
     摩利矢から種を集めた瓶をしまった璃羽が、代わりに真っ赤な何かが入った瓶の蓋を開ける。その中身を『たっぷり』つけたサクランボをパクリといった摩利矢は――目を剥いて固まった。
    「この辛味が、サクランボの甘味と酸味に良く合うでしょう?」
     自らも激辛ソースをつけたさくらんぼを、璃羽は平然と、いやむしろ美味しそうに食べている。それをつけるのが誰にとっても美味しいと信じているのだ。
    「えーと……摩利矢さん、今度は洋菓子制覇に行きましょう。あたし、種類があればある分食べたいのですけど、お腹追いつかないかもなので、サポートお願いします♪」
     辛味で口が開けない摩利矢が黙って頷いて、2人と1匹はカフェへ向かって行った。

    ●甘
    「ところで、論文の課題って何だったんだ?」
     何故かカフェに入るなり水を3杯空けた摩利矢に、木元・明莉がベリー系のジュースを炭酸で割りながら声をかける。
    「何だっけ……ただ、論文は大体いつも思いつきで書いてる。論法とか気にしない」
     論文ってなんだっけな摩利矢の答えに、尋ねた明莉の方が目を丸くした。

    「……チャルって、お菓子食べてもカラダに悪くないんかな……?」
    「ねこさんも大丈夫だから、きっと大丈夫なのよ」
     サクランボのタルトにベリーのチーズケーキを載せた皿を手にしたポンパドール・ガレットが感じた不安を、久成・杏子がケーキを重ねる手を止めて払拭する。
    「わ、久成さんの凄いねぇ」
     杏子の皿の上に出来つつあるケーキピラミッドに、栗花落・澪が目を丸くする。
    「完成したら写真撮っていい?」
    「勿論なのっ」
     澪に笑顔で頷いて、杏子は形が崩れないよう注意してケーキを重ねる作業に戻る。
    「三蔵先輩も凄いねぇ」
    「あとは天辺をサクランボとかでデコって完成だよ」
     澪に答えた三蔵・渚緒の皿には、パンケーキと生クリームとベリーソースを交互に5枚重ねた甘い巨塔が完成目前。
    「大丈夫、君にも付き合って貰うからね、カルラ」
     大丈夫なのかオーラを発するビハインドに、渚緒がさらりと告げる。
    「今日は思いっきり食べるぞー!」
     シフォンにパウンド、ロールケーキと次々載せる榎・未知が抹茶系の次に好きなスイーツは、ベリー系である。
    「未知、ビハインドは食事が出来るものなのだろうか?」
     ニコ・ベルクシュタインは、ふと浮かんだ疑問を隣の未知に尋ねてみる。
    「食べられるよー。よく大和にも食べさせてあげたことあるもん。こんな風にな」
    「そうか食べられるのか」
     未知が答えと共に差し出した小さなケーキをむぐむぐと食べながら、ニコはまず目に付いたタルトを自分の皿に載せた。
    「盛ったねぇ」
    「折角沢山あるから、多く味わいたくて」
    「本当の採れたては別次元ですもんね! では、女子会始めましょうか」
     咬山・千尋と椎那・紗里亜に連れられて、プチケーキを皿にたっぷり盛った琶咲・輝乃が楕円形のテーブルの中央に座る。
    (「………久しぶりに………ケーキを作ってみるのも………いいかもしれないわね…………今なら………手が止まることもないかもしれない………」)
     そう胸中で呟きながら、ラズベリーパイを中心に色々持ってきた高原・清音が3人に続いて着席。
    「……」
     女子会に加わる輝乃を見送っていた鈍・脇差を、男性陣が輝乃の真正面にご案内。
     つい先日の運動会の、脇差の告白未遂は糸括の中で周知の事実。
     ケーキの肴は2人の恋バナ。

    「先生! 此のチェリータルトなど、とても美味しそうですよ」
     ニコが差し出したフォークを、先生の手が取って口に運ぶ。
    「自分で食べられる? 其れは失礼しました……」
    「ほら、大和も遠慮せず食べるんだぞ。お前はさっぱり系の方が好みかな」
     皿ごと差し出すニコの隣で、未知がベリーレアチーズケーキを刺したフォークを大和に差し出している。
    「カルラ。手伝って貰うと言ったよね?」
     渚緒のパンケーキ五重塔には、神の名を持つビハインドもたじたじだ。
    「ねこさん、みんな楽しそうだねっ」
     杏子もねこさんにもフォークを渡して、ケーキピラミッドを攻略していく。
    「チャル、好きなの食べていいぞー! ん? レイ、どうした?」
    「ねっ、一口分でいいから交換しない?」
     それに倣ってチャルにフォークを渡したポンパドールに、他のケーキも気になった澪がそう持ちかけ始まるケーキ交換。
    「ねこさんもチャルも先生も大和もカルラも、良かったな」
     そうにこやかに勤めて告げる脇差だが、漏れ聞こえる女子会が気になってそわそわしているのは、誰の目にも明らかだった。
    「こう言う所でサーヴァントも一緒に、と言うのはあまり機会がなかったからね」
     そう返した渚緒の笑顔が、ニヤリとしたものに変わる。
    「けど、脇差くんが気になるのはこっちじゃないだろう? いやー、青春だねぇ」
    「すまないね、隣に座らせてあげられなくて」
     渚緒とニコが、揃って脇差の正面にちらりと視線を送る。その横から『前途多難だと思うけど頑張れ☆』と、未知も目で語っていた。

    「輝乃、最近鈍とは何か話したかい」
    「いつも通りだよ。この前、運動会の時に他の人に邪魔はされたけれど」
     当の輝乃は千尋の問いに、さらりと返してプチケーキをぱくり。
    「でも、何だか……すごいもやもやする。多分、去年の1月くらいから。義兄さん達から感じる光とも違うの」
    「なるほど、もやもやかー」
    (「自分の中の気持ちをうまく呑み込めていない感じかな」)
     輝乃の言葉を胸中で解釈して、千尋が頷く。
    「うんうん、進歩してるみたいですねえ。良き哉良き哉♪」
    「? 心配なだけだと思うよ。ああいうトコも」
     紗里亜の言葉を自己完結で片付けて、輝乃が指差したのは脇差――の手元。
    「わきざし先輩はどうしたの? お顔、赤いよ? サクランボみたいっ」
    「う、うるさ――って、何だこれ!? 俺のサクランボとレモンどこいった!?」
     輝乃に見惚れているのを杏子に突っ込まれ、慌てて視線を逸らした脇差がようやく気づいたモノ。果実山盛りだったケーキの上に絶妙なバランスで盛られた果実の抜けたケーキマウンテン。
    「お前か、お前だな、木元」
     アバンギャルド盛り実行犯はあっちで珈琲を淹れながら、手振ってます。
    「もう。脇差にフルーツ取ってくる」
     小さな笑みを零して輝乃が席を立つ。
    「………二人の未来は………きっと明るいと思うわ…………頑張って…………」
    「? 良く判らないけど、ありがと」
     清音からのエールに首を傾げつつ、輝乃は小走りにフルーツを取りに行った。
    「そういう清音はどう? 気になる男子とかいる?」
    「………気になる人? ………特にいないわね………残念だけど…………わたしには訪れない事だと思うわ………」
    「そんなこと、わかりませんよ?」
     千尋に淡々と返した清音に、紗里亜が声をかける。
    「だって、恋は突然訪れるもの。相手の気持ちも自分の事情も御構い無し。それだけは、それだけは変えようの無い真実、だから……」
    「………経験談……?」
    「私? その時はまだのようですねっ」
     少しだけ真面目な顔になった紗里亜だが、清音に問い返されると、すぐいつもの表情に戻って残りのフルーツロールをパクパクっと食べ――つつ、輝乃が戻ってきつつあるのを見逃さなかった。
    「清音さん、もう少しどうです?」
    「………そうね………コーヒーに合うケーキは………あるかしら?」
    「ニコさん。先生との思い出話を聞いても?」
    「あ、それ俺も聞きたーい!」
    「長くなるぞ?」
    「カルラ。次はパフェに付き合って貰うよ」
    「お前ら絶対楽しんで――」
    「はい、差し入れ」
     見事な連携でフリーになった脇差の隣に、輝乃が無邪気な笑みを浮かべてちょこんと座った。

    ●幸
    「おお。チェリーストーナー、持参ですか」
     割烹着姿の舞笠・紅華と取り出した道具に、パティシエが目を瞬かせる。
    「地元が山形なんです。食べ易い方が良いですよね」
     カスタードクリームとサクランボのジャムフィリングを流し込んだタルトを再びオーブンに入れた紅華は、最後に盛り付けるサクランボの種を取り始めた。
    「そうですね。半分に切らずに盛り付けるなら――」
     パティシエが見せる盛り付けの実演を、想希はじっと凝視している。
     尋くばかりではなく、目でも盗もうというのだ。パティシエもそれに気づいて、彼には言葉より行動で見せている。
     その後ろで、悟が何やらくねくねと形容しがたい動きを見せていた。
    「想希応援ダンスや! 気にせんといて!」

     やがて、菓子の甘い匂いが漂い――出す中に、混ざる苦味のある匂い。
    「部長ちょっとケーキ作ったんで食べて下さい! 耀さんにも手伝って貰ったんで!」
    「ちょっと! 焦げてるじゃない!」
     陽司が差し出す焦げたケーキに、アメリアが思わず声を上げた。
    「……私も見てたんだけど、ちょっと自分の方に集中してたら、ね」
    「御覧のあり様だよ!」
     目を逸らす耀と、開き直る陽司。
    「砂糖の分量と火力の問題かな? クリームが焦げてしまっては……そちらのケーキは全く問題ないです」
     本職もお手上げの焦げっぷりである。
    「もー! 一緒に作り直すわよ! ほら、クリームを力一杯混ぜて!」
    「お、おう!」
     アメリアと陽司は、ケーキ作りを再開する。
    「よし、焼けた」
     その横で、久良がオーブンを開けた。
    「和弥さん、取れたてのサクランボで作った甘さ控えめのチェリーパイ、一つどう?」
    「貰うけど……昨今の男衆は女子力高くて敵わんね。こっちも食べる?」
     サクサクと良い音を立ててパイを切り分ける久良の前に和弥が出したのは、ケーキ部分をグラノーラに代えたスコップケーキ。
     何か美味しくてお手軽で低カロリーな素敵スイーツないっすか、と尋ねて提案されたのがこれでした。
    「ん……完成……」
     2人に少し遅れて、シャオがクッキー生地で周りを覆ったムースのケーキに、苺とサクランボ飾ってジャムをペタペタとデコレーションを整える。
    「みんな、手が空いたらよーじくん手伝――ってシャッフィー、それが帽子のケーキ? 可愛い可愛い! 後でちょーだい!」
     カチャカチャとかき混ぜながら、アリシアが目を輝かせる。
    「……ホント、流石の女子力ね。レシピ教えて貰ってもいいかしら?」
    「彼に関しては、何も言う事がないよ」
     賞賛する耀の後ろで、パティシエもコック帽を脱いでいる。
    (「私の彼は隙あらば餌付けしようとしてくるし。シャオ君は当然のようにお洒落なの作ってるし。もう彼らに貢がせれば私は食べ専でも良いのでは……?」)
     胸中で嘆息しつつ、和弥はチェリーパイをさくりと噛み締めた。

    「できたずー! 喜んでくれっかなー♪」
     紅華の口から、思わず抑えていた方言が飛び出す。
     その前には、採れたてのサクランボをぎっしり敷き詰めた、甘く爽やかなタルトが見事に完成していた。

    「悟、すごくきれいに出来上がりましたよ」
    「盛り付けも洒落とるな、想希」
     パシャパシャとシャッター音が響く。
    「ふふ、味見、お願いします」
    「今日はどんな幸せくれるんやろ。いただきま!」
     差し出す想希もクラフティに手を伸ばす悟も、幸せそうだった。

    ●願
    「皆、よく食うな……」
    「ぶーちょ。ちゃんと食べてるー?」
    「アカリ、ダイジョブ? たのしんでる?」
     話題もケーキも甘く続く恋バナ会を眺める明莉の元に、澪とポンパドールがそっと近寄ってきた。
    「アカリも一緒にたのしめなきゃ、おれにとって意味ないからネ」
    「いつもありがと、って事で。今回だけだからね?」
     ポンパドールが置いた珈琲の受け皿には、澪がケーキから取ったイチゴとサクランボが載っている。
    「食べてるし楽しんでるよ? 2人ともありがとな」
     ケーキバイキングに戻る2人を見送る明莉の肩に、今度は小さな手が置かれる。
    「ねえ? あかりん部長?」
     杏子のナイショの耳打ちを、明莉はにっこり笑ってかわす。

     ――皆の未来が宝石の様に輝けばいい。

     そんな事を想いながら、少しクリームが残る果実を口に放り込んだ。

    作者:泰月 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年6月30日
    難度:簡単
    参加:27人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
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