戦神の軍団~略奪されし者への鎮魂曲

    作者:長野聖夜


     ――某所墓場。
    「なあ、本当にやって来るのかよ、噂の戦神」
     その手をナイフと化した男が喚いている。
    「少し黙れよ。貴様ばかり五月蠅くて叶わん」
    「ああっ?! んだとお?!」
     右腕が巨大な鋸となっている男の言葉に、ナイフの男が怒声を上げた。
    「少し落ち着いて下さい、皆さん」
    「そうです。こんな所で騒いだところで何にもなりません。今は待ちましょう」
     仲裁に入った2人の男女はその頭から黒曜石の角を生やしている。
     機先を削がれたか男達はちっ、とつまらなそうに舌を鳴らしつつ大人しくなった。
    「……主等は動じぬのだな」
     そう呟いたのは、筋骨隆々のアンブレイカブル。
     女羅刹がそれに一つ頷いた。
    「はい。私達はこの2年の放浪の旅ですっかり慣れてしまいましたから」
    「あの方がいらっしゃればもっと落ち着いていられるのに……」
     青年羅刹の言葉に、アンブレイカブルが少しだけ興味を持ったか、眉を動かす。
    「そうか。主等には師がいたのだな」
    「はい。……今は行方知れずですが。もし自分につけば師について何か情報を貰えると聞きまして」
     憂いげな女羅刹にこれ以上聞くのは酷かと思い話題を変える。
    「そう言えば、名乗っておらなんだな。我は雷と言う。主等の名は?」
    「湖(コ)と申します」
    「僕は川(セン)です」
     そう答える2体の羅刹に雷はそうか、と静かに一つ頷いた。


    「……」
     じっ、と瞑目し続ける北条・優希斗(思索するエクスブレイン・dn0230)。
     その様子は、あまりにも痛々しく何処か何かを悼むかの様で。
     暫く瞑目し続けていた優希斗が瞼を開き集っていた灼滅者達へ視線を向ける。
    「……皆、闇堕ち灼滅者救出活動お疲れ様。すまなかった……あきらさん……いや、戦神アポリアの力を読み切れなくて」
     淡々と告げる優希斗だったが、程なくして硬い表情のままに溜息を一つ。
    「ただ何となくあきらさんは自分が帰る事を望んでいなかった様にも見える。だから、今回の件に関して、君達に罪は無い」
     断言して微笑する優希斗。
     何処か自嘲気味だった。
    「まあ、皆を呼んだのは他でもない。戦神アポリアが早速動き出したからだ。どうやら彼は、自分の戦力を整えるために野良のダークネス達に声を掛け軍団を結成しようとしている」
     その目的が第三勢力の成立のためか、サイキックハーツ同士の戦いに介入するためか、それとも何処かのサイキックハーツ勢力に加勢している為かは定かでは無いが。
     碌でもないことを考えているであろうことは確かだろう。
    「此処まで来てしまった以上、彼の思い通りにさせるわけにはいかない。幸い、野良ダークネス達が集結している場所にも目処は立っている。皆にはそこに集うダークネス達を灼滅して欲しい。……もう、歩みを止めるわけには行かないから」
     優希斗の言葉に灼滅者達がそれぞれの表情で返事を返した。


    「さて、皆に相手をしてもらう相手だが……羅刹が2体、六六六人衆が2体、アンブレイカブルが1体になる」
     そこまで告げたところで何処か苦々しい表情になる優希斗。
    「六六六人衆の2体……一体は毒牙、もう一体は斬楽と言うらしいが……こいつらは自分達の好き勝手に暴れるから然程問題にはならないだろう」
     毒牙が使うのは殺人鬼と解体ナイフ相当のサイキック。
     斬楽が使うのは、殺人鬼とチェーンソー剣相当のサイキック。
     どちらもジャマ―ではあるが、連携する可能性は低い。
     問題はそれ以外の3体だ。
    「俺も報告書でしか確認したことの無い羅刹なんだけど。川と湖と言う羅刹……そして、新たに加わったアンブレイカブル雷が問題だ」
     2年程前、灼滅者達と関わりの在った川と湖。
     この2年の間に力を蓄え、かなりの実力を備えるに至ったらしい。
     当然連携も取れている。
     どちらもポジションはディフェンダーだ。
    「その2人に興味を持ち、戦いになったら共闘するであろう雷もいる」
     雷のポジションはクラッシャー。
     バトルオーラ、ストリートファイター相当のサイキックを使用する。
     少なく見積もってもこの3体は相応に連携を取る事が出来るのは想像に難くない。
    「そして、川と湖なんだが……彼女達の師である『海』はいない。その理由は……」
     そこまで告げたところで優希斗が溜息を一つ。
    「もし彼女達と戦うならば、『海』がどうなったのかを考え伝えるべきだろうね。そうでなければ彼女達はただ灼滅されるだけだ」
     灼滅すればそれで良い。
     その通りかも知れないが彼女達には彼女達の生き方があるのを忘れてはいけない。
    「それを忘れたらきっと……本当の意味でダークネスと同じだと俺は思うからな」
     呟いた優希斗の表情は沈痛だった。
    「正直、戦神アポリアの意図が読み切れない。彼はサイキックハーツになっていないからな。何を目的として軍団を設立しようとしているのかが分からない」
     溜息をつく優希斗。
     だが、戦ではそう言った遊撃兵程、意外な穴になる事は分かるだろう。
    「だからこそ、今の内にアポリアの軍勢予備軍を叩いて欲しい。待っていればアポリアも来る可能性はあるが……その可能性はあまりにも低いからね」
     仮にここで待っていたとしても良質な結果が生まれる可能性は限りなく低い。
     あきらは、アポリアとして、自分の意志で救出の機会を蹴っているのだ。
    「だから今は、徹底的にアポリアが作ろうとしている戦力を叩いて欲しい。……皆、どうかよろしく頼む」
     優希斗の一礼に背を押され、灼滅者達はその場を静かに後にした。


    参加者
    彩瑠・さくらえ(幾望桜・d02131)
    紫乃崎・謡(紫鬼・d02208)
    文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)
    戸森・若葉(のんびり戦巫女・d06049)
    木元・明莉(楽天日和・d14267)
    白石・明日香(教団広報室長補佐・d31470)
    有城・雄哉(蒼穹の守護者・d31751)
    平・和守(国防系メタルヒーロー・d31867)

    ■リプレイ


    (「この局面で、まだ共存とか言うのか」)
     金の瞳の有城・雄哉(蒼穹の守護者・d31751)はそう思う。
     人類全てをサイキックハーツ化した結果、ダークネスの消滅は避けられない。
     それでも共存とは、どれだけ甘いのか。
    (「2年前にあいつらを見逃したのは、海に守る者達があったから」)
     かつて川と湖を見逃した木元・明莉(楽天日和・d14267)は徒然なく思考する。
     別に自分達との共存の想いを海に抱いて欲しいわけじゃなかった。
     勿論、願いそのものは大事であり、一概に否定して良いものではない。
     少なくとも、文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)や、紫乃崎・謡(紫鬼・d02208)、彩瑠・さくらえ(幾望桜・d02131)達がその想いを抱くのも分かるし、信頼した相手を灼滅したくない平・和守(国防系メタルヒーロー・d31867)や、戸森・若葉(のんびり戦巫女・d06049)達の想いも分かるのだ。
     ただ……明莉の気持ちがついてこないだけで。
    (「だから俺は、説得による非灼滅や保護の邪魔はしないし反対もしない」)
     交渉が決裂すれば灼滅は躊躇しないが。
    (「多分、咲哉達が思っている通り、瑠架のサイキックハーツに殉じたんだろうな、そいつは」)
     瑠架を救えなかった時の事を思い出しながら白石・明日香(教団広報室長補佐・d31470)は無意識に逆十字のペンダントを握りしめていた。
    「行くぞ」
     和守に促され、さくらえ達は目的地に足を踏み入れた。


    「これは驚きました。戦神殿かと思いましたが、貴方方ですか」
    「ああ。久しぶりだね、湖」
     一斉に警戒態勢を取るダークネス達。
     だがその中で素顔を晒した謡を認めた湖は落ち着いた態度で微笑み一礼する。
     穏やかで柔和な所作に、若葉がそっと息を一つ。
    (「再会したい…とは思ってはいたのですが…まさかこういう形になるとは…」)
    「お久しぶりです、川さん」
    「2年ぶりですか」
    (「文字通り、以前とは違いますね……」)
     以前の様な焦りが全く見受けられず、若葉は素直にそう思う。
     単純な見た目や口調は変わらない。
     けれども羅刹としての強さ……粗暴さとは真逆の落ち着き……心身合わせて『桁違いの実力』を若葉は感じた。
    「なんだ、主等の知り合いか?」
     雷の問いに湖が頷いた。
    「2年ぶりだな。こんな形で会うことになるとは思ってなかったぜ」
    「私達もです、咲哉さん」
     小さく息をつく咲哉に湖が微笑む。
    「覚えていてくれたんだね、僕達の事を」
     結びし縁を忘れぬ願いを込めた帯締め絆縁を握るさくらえに微笑する川。
    「灼滅者じゃねぇか!」
    「殺っちまおうぜ!」
     はしゃぐ斬楽と毒牙。
     雄哉と明莉が身構えると、雷が溜息を一つ。
    「主等、自重せよ。知人達の話の腰を折るのは興が削がれるであろう。最も主等と同じ餓えた獣が一匹混じっている様だが」
    「……」
     雷の挑発に雄哉が目を鋭く細める。
    「我には主は自分の殻に閉じこもる愚者にしか見えん。が……主以外には興味がある。名を聞かせて貰えぬか?」
     雷に和守が宣誓のポーズを取った。
    「平・和守と言う。最も、俺が来たのは見届ける為だがな。川と湖に提案を望むのは文月達だ」
    「私達に提案、ですか?」
    「そうだね。それとキミ達に伝えたいことがあって来た」
     湖に答えるはさくらえ。
    「伝えたいことですか」
    「ああ、そうだ。お前達の師……海に関して、だ」
    「ボク達はあなた達の殲滅を望まぬ。望むのは交渉だよ」
     謡の口から紡がれた言葉に川と湖が興味深そうに。
    「さっさと殺し合おうぜ!」
     ナイフから毒の風を吹かせかける毒牙を明日香の縛鎖グレイプニルが締め上げた。
    「殺し合っても構わないが……お前等じゃオレ達は倒せないぜ?」
     斬楽もまた明莉が蒼桜の光粒を舞わせた帯で鋸を縛られている。
    「あいつらが話し終わるまで、邪魔はさせない」
    (「どいつもこいつも……!」)
     内心で舌打ちする雄哉。
     これでは灼滅したいと暴れたら只の道化だ。
     雷も斬楽達を監視しているから尚更だった。


    「手荒な真似をしてすまなかったな」
    「何、奴等の自業自得よ」
     和守の謝罪に、雷が笑う。
    「それで……貴方達は何を知っているのですか?」
    「その前に確認させてくれ。お前達が海と別れたのは、何時だ? それから、どうして?」
     咲哉が問うと、川が返す。
    「大体1ヵ月程前ですね。海殿は不意に姿を消しました。『お前達はお前達の道を』と手紙を残して」
    (「精神防衛戦の頃か」)
     謡が思考を張り巡らせ微かに眉を潜める。
     認めたくないがその意味するところは恐らく……。
    「それで、皆さんの知る事とは?」
     川の問いかけに答えたのは、さくらえ。
    「僕達の推測込だけど。正直に言えば……ある意味で僕らが海を殺した事になるのかも知れない」
     さくらえの言葉に川が微かに拳を握り、湖が目を細める。
    「経緯を説明して頂けますか?」
    「ああ。先々週、俺達は朱雀門瑠架と戦った」
     咲哉の言葉に湖が頷く。
    「瑠架は俺達の理想を『力なき理想は無力』であり、このままでは俺達が他のサイキックハーツという強大な力に勝てないと諭し、人類に3割の犠牲を強いる代わりにサイキックハーツの力を俺達に与えてくれると提案してきた」
     咲哉に同意し、和守が続ける。
    「俺達はその提案を蹴って彼女と戦った。俺はそもそも『人類の味方』だ。それなのに、3割もの犠牲を容認することはできなかった」
    「その戦いに海殿は参加していた、と?」
     湖の問いかけに咲哉が頷く。
    「そうだ。瑠架は俺達と衝突し、俺達が勝利した。結果……ダークネスと人と灼滅者の共存を願う瑠架のサイキックハーツは俺達に吸収された」
    「それと海殿がどう繋がるのです?」
     川の問いに、さくらえが沈痛そうな表情になりながら呟く。
    「瑠架のサイキックハーツに聖女ガラシャ……天海大僧正の義理の娘である彼女が所属していた。恐らく海は聖女ガラシャと共に瑠架のサイキックハーツを受け入れそして僕達のサイキックハーツに取り込まれて死亡したんだと思う」
    「なるほどな」
     雷が納得した様に頷く。
     斬楽と毒牙は退屈そうだが、明莉や明日香、雄哉、蒼炎、そして雷に睨まれては何も出来ない。
    「サイキックハーツ大戦は主と配下が運命共にするモノだ。ボクは信じたくないが、咲哉さん達の推測が正しければその運命を瑠架と共にした事になる」
    「ああ、俺もそう思っている」
     紡がれた謡の言葉への和守の同意に川と湖は力強く首肯。
    「たとえそれが貴方達の推測であったとしても。私達は信じましょう」
    「その上で僕達への提案とは?」
     湖が頷き川が続きを促す。
    「俺達の目的はアポリアの軍団形成を止めることだ」
     咲哉の言葉に湖が頷く。
    「だがもし今後軍団にも他のサイキックハーツにも加わらず、一般人にも危害を加えないのであれば戦わない選択肢もある」
    「残念ながらボク達には懸念があるんだよ」
     咲哉の言葉を引き取り続けるは謡。
    「懸念、ですか?」
    「サイキックハーツ大戦が終わった時、人類以外が消滅する懸念がある」
    「……!」
     謡の言葉に息を呑むは川。
    「だがその現象が訪れる迄に、ボクは其れを止めるべく足掻く所存だ。故に、その時が来るまでアポリア軍と大戦から離脱をあなた達に願いたい」
     酔狂と笑われても構わない。
     唯その想いは、謡にとって真実だ。
    「一考、願えないかな」
    「私はあなた達を討ちたくありません……海さんも敵討ちよりも自分の命を大事にしろ……と言うと思います」
     若葉の言葉を聞いた川と湖は雷と斬楽と毒牙を見回す。
     程なくして湖が一礼。
    「私達に好意を持ってくださった事、深く感謝致します」
     ですが、と呟く湖。
    「これから先、訪れる私達の運命も知りました。貴方方が全力で其れを避ける術を探してくれる事は信じますが上手く行く保証はない。それにもし貴方達に私達が応じれば雷殿達への義に反します」
    「義……か」
     湖の返事に、和守がヘルメットの中で表情を強張らせる。
    「だから僕達が求める道は一つです。師である海殿の仇として、貴方達との戦いを。それが例え、自分達の命を無駄にする行為だと貴方達に見えたとしても」
     静かに構える川と湖。
     雷が拳を打ち合わせ、斬楽と毒牙が舌なめずりをした。


    「斬り刻んでやらぁ!」
     毒牙がナイフを翳して、明日香を狙う。
     だが、その前に雄哉が飛び込み、腕一本でそれを受けた。
    (「これなら楽で良いな」)
     自らをWOKシールドから放った光で覆いその光を叩きつける。
     その一撃に毒牙が吹き飛んだ所に、明日香が絶死槍バルドルの先端から全てを凍てつかせる弾丸を発射。
     今までの比にならない威力のそれが毒牙の全身を凍てつかせた。
    「ひっ……ひぃっ! な、なんなんだよ、この化物共!」
    (「やはりと言うべきでしょうか。聞いて貰えなかった……」)
     内心で溜息をつきつつ若葉が帯を射出して毒牙を締め上げ蒼炎が斬魔刀で毒牙を斬る。
     片腕を斬り裂かれた毒牙の隙を見逃さず明莉が白銀の一条の光となり、蹴りを放つ。
     その前に咄嗟に飛び出したのは、湖。
    「明莉さんでしたね。好意を無下にしてしまい、すみません」
    「謝られても困る」
     明莉の蹴りに吹き飛ばされながら湖は笑った。
     その明莉の背後から咲哉が飛び出し【十六夜】を下段から撥ね上げる。
     それは左足から右肩までを深々と斬り裂き毒牙を灼滅。
    「ざまあねぇなあ、毒牙!」
     斬楽が笑ながら周囲に殺気を展開。
     明莉を雄哉が庇い、和守が若葉を守る。
    「斬楽、短気を改めねば毒牙の様に早死にするよ、きっと」
     獣の様に滑らかな動きで攻撃を躱しながら囁く謡に斬楽が舌打ちを一つ。
    「戦うのがお前達の選択ならば、容赦はしない」
     和守がジョイントクラッシャーで斬楽に一撃。
     泣き叫ぶ斬楽を、さくらえが黒革のロングブーツ『望歩』で蹴り上げる。
    (「結局、こうなってしまったか……。けれどもそれが彼等の選択ならば、僕はその覚悟に答えるだけだ」)
     話をしたいと言うエゴ、其れを貫くことにより生じる責任と罪。
     なればそれに正面から相対するは自明の理。
     さくらえに上空へと蹴り上げられた斬楽を、謡の『紫苑十字』から放たれた紫の光を纏う砲弾が射抜いた。
     凍てつき落下する斬楽を明日香の縛鎖グレイプニルが締め上げ、更に明莉が櫻を散らし舞い上がる鷹を思わせる姿を象った炎の膝蹴りで焼き尽くす。
    (「俺達のこの力は瑠架の物であり、海の物でもあるのかも知れないな」)
     思いながら斬楽に咲哉が接近、【十六夜】を地面に擦過させ生み出した炎を纏わせ斬り裂こうとした時。
    「させません」
     川が彼を庇おうとするが。
    「川さん、貴方の相手は私です」
     蒼炎に牽制させながら若葉が彗星撃ち。
     反射的に躱した川をすり抜け、咲哉が炎を纏った【十六夜】で斬楽を斬り裂いた。
    「ぐぎゃぁぁぁぁぁ!」
    「黙れ」
     斬楽を冷徹な眼差しで見下し雄哉が雷を纏い正拳突き。
     その一撃で斬楽が灼滅。
    「遅いな」
     雄哉の背後から雷が紫電を纏う手刀を放つ。
     首筋に叩きこまれたそれに意識を失いかけるが、謡の紫鬼布が雄哉の意識を取り戻させる。
    「雷殿。ボクは生こそ先の愉しみと強さに繋がると思うのだけれど、やはり死するその時まで戦うのかな?」
    「我は川と湖と歩むと決めた。奴等が主等を“仇”と看做すなら、我も復讐の道を歩むのみよ」
    「復讐かよ」
     自身と同じ目的を口に出され、僅かに何かを疼かせながら雄哉が憎悪ニ身ヲ焦ガス現身ノ影業を解き放つが立ちはだかるは湖。
    「ええ、その通りです」
     その拳に莫大な魔力を込めて解き放つ湖。
     雄哉を和守が庇い、己が肩のバズーカから光線を放つ。
    「『キャプテンOD』ビーム!」
     湖の肩を掠めたそれは雷を撃ち抜き隙を生み。
     そこをさくらえが漆黒の弾丸で撃ち抜いていた。
    「かはっ。流石だ主等」
     愉快そうに笑う雷の右足を咲哉が【十六夜】で断ち切り、明日香が妖冷弾で追撃しようとするが湖が前に。
    (「くそ……!」)
     明日香が照準を狂わせるが湖の身を凍てつかせるには十分だった。
    「こういう相手はやりにくいぜ……!」
     呻く明日香を見やり明莉が銀色の大刀“激震”を湖に振り下ろす。
     その一撃は湖を袈裟に斬り捨てた。
     消え逝く彼女を見ながら囁く明莉。
    「なあ、お前達はこの2年の間、生かされてよかったと少しでも思えた時はあったのか?」
     明莉の問いに、湖が微笑を浮かべた。
    「そうでなければこの道を選びません。今の貴方方に必要なのかは分かりませんが私を灼滅すれば、貴方達は癒しを得られる筈です」
    「……そうか」
     消えながら笑む湖の答えに明莉が溜息を一つ。
    「どうかご武運を……」
    「湖……!」
     若葉の攻撃に庇う機会を奪われた川の呻きが若葉の胸を軋ませる。
    「……悲しいね」
     謡が雷に紫苑十字で殴打。
     続けて雄哉がシールドバッシュ。
     放たれた強打にぐらりとその身を傾がせる雷。
     明日香が不死者殺しクルースニクに緋色のオーラを這わせて雷を斬り裂いた。
    「主等の勝ちか……」
     呟き消え逝く雷。
     ――そして。
    「……良かったのか?」
    「はい。これが僕の選んだ道です。それに……このまま貴方達に灼滅されれば少しは恩返しになるでしょう」
     咲哉の炎を纏った【十六夜】の斬り上げと、さくらえの望歩による一撃を受け、瀕死になった川は笑う。
    「……川さん……」
    「若葉さん、でしたね。どうか、ご武運を」
     頷き若葉がレイザースラスト。
     その帯に撃ち抜かれ消滅していく川は満足そうだった。


    (「忘れるものか……お前達の事を」)
     やるせない思いを抱きながら和守が空を見上げる。
     穏便にすませる道を、彼等は敢えて選ばなかった。
     自分達に世界の未来を託す為に。
    「敵の去就は気にしても、味方が消滅する可能性は気にしないんだな」
     立ち去り際の雄哉の呟き。
     次の瞬間彼の前に咲哉が回り込んだ。
    「どけ」
     振り払おうとする雄哉だが、咲哉は首を横に振る。
    「雄哉。俺にとってお前は灼滅者で戦友だ」
     ――人造灼滅者は灼滅者に近い存在である為に消滅しない。
     それが一般的な灼滅者達の認識。
    「……」
    「ダークネスとの共存を望まぬ想いは否定しない。だが有城、今の様な懸念があるならば尚更ダークネス達を消滅しない方法を探すべきでは無いか?」
    「和守さんの言う通りだね。ダークネスを救えるならば、心が人である人造灼滅者を救えぬ謂れは無い。散らす必要の無い命を散らす理由は何処にもない」
     和守の言葉に同意する謡。
    「俺には消滅する覚悟が」
    「そのエゴは人造灼滅者全てのものか?」
     雄哉に問う和守。
    「僕は僕のエゴと都合で此処まで来た。それがキミにそう思わせるなら、僕はキミにその思いを抱かせたことを罪として背負って進むだけだ」
     さくらえが誓う様に絆縁を撫でた。
    「雄哉。オレ達は灼滅者なんだよ」
     明日香が軽く背を叩いた。
    「……帰るぞ」
    「分かり、ました」
     明莉に促され若葉達は静かにその場を後にした。

    作者:長野聖夜 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年7月4日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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