戦神の軍団~混沌場景

    作者:ねこあじ


     ガラガラガラ。
     彼が廃倉庫の扉を開けば、目に入ったのは混沌であった。
    「…………」
     ガラガラガラ。
    「えっ、いやちょ、ちょい待って! 何で閉めんの!?」
    「アンブレさん! アンブレさん! 新しい人来た!! あったらしー力試しできるかもよ!!!」
     既に踵を返していた彼は、柄シャツを着た男達に縋りつくように止められ、当初の目的地であった(心の中では既に過去のこと)廃倉庫にぐいぐいと連れ込まれた。
     廃棄された資材、空の倉庫用棚が並ぶ中は、数多のダークネス達が集まっていた。
     一見で分かるのは組手をするアンブレイカブルチームだろう。一緒にいるデモノイドは分かっていないのか、ただ暴れている様子。
     缶ビールとつまみを円陣状に置き、バリアっぽくして中心にいるのは中二……いや、デモノイドロードだろうか。目が合うと指切り手袋をした手が一度嫌々振られた。
     この柄シャツ達は、黒曜石の角がヒヨコ頭にあるので、羅刹……大方、手合わせ修行意欲高いアンブレカブルに振り回されている……下っ端根性の奴らか、と彼は男達の手を払いスーツの乱れを整えた。
    「六六六人衆だ」
     来るんじゃなかったと思いつつ、元より名を言う気がない彼は言った。
    「六六六か」
    「六さんかー」
     来るんじゃなかった。一人で狩ってた方がマシだった。彼もとい六さんは改めて思った。
     馴れ合うつもりはなかったので、数メートルはあるであろう高棚に上がると、携帯ゲームをする眼鏡の青年が違う高棚にいた。あれは、間違いなく六六六人衆だ。
     何となく伝え聞き、何となく足を向けた場――烏合の衆であるダークネス陣営――時間つぶしに六さんはライフルの整備を始めた。
     指示がいつ来るのかは分からない。とはいえ、大人しく待っているつもりもないので、後で狩りにでも行こうか。


     教室へ入った灼滅者達を出迎えたのは、神崎・ヤマト(大学生エクスブレイン・dn0002)だった。
    「闇堕ちしていた灼滅者の救出はおおむね成功した。
     だが、六六六人衆のハンドレッドナンバー、戦神アポリアの逃走を許してしまったようだ」
     それは、戦神アポリア――狐雅原・あきら自身が救出を望んでいなかった以上、やむを得ないことだったのだろう。
     ヤマトはこの戦神アポリアが早速動き出した旨を灼滅者達に告げた。
    「アポリアは、どのサイキックハーツの勢力にも属していないダークネス達を集めて、自分の軍団を作ろうとしているようだ。
     彼の目的が、第三勢力の結成であるのか、或いは、戦争に介入して場を荒らそうとしているのか、それとも既に何れかのサイキックハーツ勢力に協力している状態なのか……分からないが、アポリアの思う通りに事を運ばせるわけにはいかないだろう」
     手元のファイルを開き、一枚の用紙を灼滅者へと渡すヤマト。それは住所の書かれた地図であった。
    「調査の結果、アポリアが集結場所に指定した場所が判明した。
     皆には、その集結場所に向かい、集まっているダークネスの灼滅を頼みたい」
    「集まっているダークネス……何体ほどいるのだろうか」
    「烏合の衆でしかないが――戦力のメインと思われるのが、六六六人衆が二体、アンブレイカブルが二体、デモノイドロードが一体」
     後は羅刹達とデモノイド達。総勢十二名だ。
    「互いに連携などは行っておらず、他種族のダークネスを回復したりはしないだろう。
     あと、なんか分からんが、一部の羅刹とかは疲れてる」
    「……疲れてる……」
     灼滅者は呟き返した。
    「我は強かったようだが、より我の強い奴が集まったら……まあ、そういうことだ」
     波をものともしないか、呑みこまれるか――羅刹は呑みこまれちゃったらしい。
    「敵の詳細はこちらのファイルにまとめたから、目を通しておいてくれ。
     アポリアがわざわざ、エスパー達を害する危険のあるダークネス達を集めて灼滅の機会を作ってくれたわけだから、ある意味、チャンスなのかもしれないな」
     そう言って、ヤマトは灼滅者達を送り出すのだった。


    参加者
    空井・玉(疵・d03686)
    志賀野・友衛(大学生人狼・d03990)
    戒道・蔵乃祐(ソロモンの影・d06549)
    月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030)
    九形・皆無(黒炎夜叉・d25213)
    刃渡・刀(一切斬殺・d25866)
    ラススヴィ・ビェールィ(皓い暁・d25877)
    雲無・夜々(ハートフルハートフル・d29589)

    ■リプレイ


     廃倉庫からは声が漏れ聞こえてくる。
     錆びついた扉を開く雲無・夜々(ハートフルハートフル・d29589)は、瞬間声が止み、視線が集うのを感じた。
    「楽しそうな騒ぎだ。
     招待状は持っていないのだが、私たちも混ぜてもらえないか?」
     そう言って、ニッと笑む。
    「新人が来たぞぉぉ……って、多いな……」
     羅刹は言い、灼滅者たちを招き入れた。
    「新人かぁぁ!!」
    「新しき戦いをぉぉぉ!!」
     あっついアンブレイカブルがゴリラのように胸板を叩き、歓迎のポーズを披露する。
    「さあ戦いだ!
     ……って何で疲れてんの……? 幸せ逃げるよ?」
     アンブレイカブルの声に応じて言った月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030)は、近くで大きな溜息を吐いた羅刹に言った。
    「え? っていうか滅茶苦茶楽しんでない?
     宴会みたいな?」
     言いながら玲が辺りを見回すと、待つのも暇なんだよ、みたいな雰囲気。
    「いや、何ていうか……うん」
     うん、そのままにはしとけないから一応退治するけどさ、と口の中で呟き玲は進む。ぐるんと腕を回した。
     別の羅刹は、人とは少し違う姿をしたラススヴィ・ビェールィ(皓い暁・d25877)と狼の耳と尻尾を出した志賀野・友衛(大学生人狼・d03990)、九形・皆無(黒炎夜叉・d25213)の鬼角を見ている。
    「こんばんわ、同じ羅刹です」
    「あっ、こ、こんばんわー。どうぞ中に」
     穏やかな声で挨拶した皆無につられて羅刹が返す――のだが、丁寧な物腰を崩さないまま皆無は言葉を続ける。
    「……と見せかけて、人造の灼滅者です。
     まことに申し訳ありませんが、アポリアの誘いに乗ってしまった貴方達は、ここでおしまいです」
    「えっ」
     頭が追いつかなかったのか、羅刹は不思議そうな顔をする。
    「ここに集まったという事は、戦神アポリアの呼び掛けに応えたという事。
     気が変わったというなら聞くが……」
     友衛の呼び掛けた刹那、銃声が響き前衛の三人と二体が動く。
    「……ッ避けただと」
     攻撃と微かな声は上方から――目を向けた友衛は尻尾をゆらりと動かし呟いた。
    「望みは薄いか」
    「強そうな奴が来たなぁ!」
     内へと逃げ込んだ羅刹と入れ替わるように、喜々としてアンブレイカブルが前に出てくるなか、一斉に散開する灼滅者たち。
     ラススヴィが黄の交通標識で後衛に耐性を与えていく。
    「さて、どの程度できるのか確かめさせて頂きましょうか」
     敵の布陣を目にしながら言った刃渡・刀(一切斬殺・d25866)が刀に手をあて駆けた。
    「行くよクオリア。久しぶりに轢いて潰す」
     ひらりと手をあげ、ライドキャリバーに指示を出した空井・玉(疵・d03686)は、駆けながら今一度脳内で戦いをイメージする。
     アンブレイカブルが突き出した牽制の拳を避けた玲は自身の手で敵腕を絡めとり、護身術の要領で一旦床に落とす。
     味方が狙うデモノイドへと接敵できるよう、敵の動きを読み、阻む。
     敵を見据える玲の目には、敵の一挙手一投足が遅く見えた。
     デモノイドへと撃ちこんだ皆無の鬼腕は青の巨体を貫き、大きな風穴を開ける。
    「……おや」
     刹那、重低音が耳に届き、咄嗟に彼は横へと移動した。
     間髪入れずデモノイドめがけて降ってきたのは、戒道・蔵乃祐(ソロモンの影・d06549)の聖杖ルサンチマン。
     多目的複合兵装を継ぎ接ぎした魔法使いの杖がデモノイドを叩き潰した。
    「………デ、デモさん……」
    「………一発目で既に死にそうだったのに……」
     ぎょっとした羅刹たちは、ちょっと引いた様子で皆無と蔵乃祐を見ている。
    「見事なオーバーキルだぜ」
     夜々が言う。
    「丁度良い感じに倒す――というのは、無理そうだ」
     と言ったのはラススヴィだ。
     多分、今回どうやってもオーバーキルだ。
    「これが生命力賦活ですか」
     と皆無。
    「まあ、強くなるのは有難い事だけどねー」
     二体目のデモノイドへKey of Chaosを振るう玲。強烈な斬撃とともにウイングキャットのネコサシミが肉球パンチを繰り出せば、敵は大きく後方に吹っ飛び巨体がごろんごろんと転がった。
     駆ける友衛は銀色の槍を水平に素早く三六〇度回し、距離間を測ったのち、即座に長柄を加速させ突撃した。
     デモノイド、羅刹、アンブレイカブルを薙いだ友衛は鎌鼬の如く彼らの立ち回りを乱し、槍の勢いそのままに高く跳躍する――終着点――高棚にいた六六六人衆の眼鏡青年を斬り払い、下へと落とした。
     次いで連携に動く夜々が青の交通標識から光線をばらまく。
     この間に布陣から切り離されたデモノイドをクオリアが突撃で灼滅し、残る青の巨体へ玉がPseudepigrapha Phaseを打ちこみデモノイドへ魔力を流しこむ。
     どす黒い殺気を無尽蔵に放出するのは刀だ。敵前衛を覆い尽くした時、デモノイドがぶるぶると震え爆発四散した。
     灼滅者の初手。
     あっという間に屠られたデモノイド三体を目にした羅刹が両手を挙げた。
    「ま、まった! た、戦う気はねぇんだ!」
    「投降する、ということか?」
     友衛が驚き、構えを一旦解く。手をひらひらとさせて羅刹は近付いてくる。
    「あ、ああ、だから――と見せかけてのっ!」
     風刃を発生させた羅刹は友衛へと攻撃を仕掛けたのだが、
    「――くぉら! 相手を騙すとは! それでも男か!!」
    「……アンブレさん……く、くるしい」
     一喝したアンブレイカブルは羅刹の首を容易く捉え、絞めるのだった。


    「ひとまず、安易な逃走経路は断っておくべきだな」
     夜々が扉付近にあった木箱を崩し、簡単なバリケードを作る。
     次々に羅刹へと攻撃を仕掛ける灼滅者たちを見て、今のところ敵の攻撃を回避する仲間への回復の必要はないようだと判断した夜々は赤へとスタイルチェンジさせた交通標識を手に、止めを刺せそうな敵に向かって駆けた。

    (「数年前は六六六人衆の序列争いの標的にされて。
     闇堕ちゲームのボーナス扱いで散々な目に逢わされたり、暴れまわるアンブレイカブルが満足するまで戦闘本能発散の捌け口にされたりとか」)
     そのアンブレイカブルが蔵乃祐の懐へと入りこみ、アッパーカットを見舞おうとするも割り込み邪魔をするネコサシミ。
    「よっしゃ、羅刹は倒したぜ!」
     皆無が放った冷たい炎、それに重ねるような灼滅者たちの一撃に為すすべもなく羅刹達は次々と落ちていった。夜々の報告を耳に、次の標的へ向かう蔵乃祐。
    「デモノイド一体に対して灼滅者八人で漸く互角くらいには大変だったんですけどね。
     僕達どうなっちゃったのかな? ――これからどうなるのか」
    「つ、付き合ってられっかよ……!」
     力量の差を見せつけられたデモノイドロードは逃げだそうとするのだが、戦線を抜けるのは容易いことではない。友衛が窓への逃げ道を塞ぐように立つ。
    「僕達は意図せずして君達を凌駕する妙な力を得てしまったけど。
     命が惜しければ最初からアポリアの召集には応じる筈が無いよね」
     本腰据えないデモノイドロードの動きを蔵乃祐は捉え、高純度に圧縮した魔法の矢を次々と射った。
    「一旦、そちらは任せる」
     彼の傍を駆け抜けていく玉が、仲間だけに聞こえる声で告げた。
     鋼糸を扱い応戦する眼鏡の六六六人衆の方がより早く倒せると判断した玉は、ラススヴィとともに挟撃する。征野を走るクオリアはデモノイドロードへキャリバー突撃を行うようだ。
     回りこんだラススヴィが影を走らせた。這う地から飛び出し顕現する影は狼の姿だ。
     細身の青年の胴に喰らいつき、敵を覆っていく。
     Aerial Tints――暮れの茜、夜闇の黒――混在するオーラの色は逢魔時の如く、両手に集中させたそれを放つ玉。
     彼女の動きは誠実で、恬澹たるものだ。
     アポリアに限らず、誰にもそれぞれの事情や思惑が当然と彼女は認識している。違う立場の者に一々説いたところで、個々には信念があるのだから。
     端的にすれば、
    「お互い、力尽くで勝手を通せ、と。いつも通りだね」
    「……ッ、こんな呆気なく――」
     影の塊からずるりと抜け崩れ落ちた六六六人衆は、オーラの残滓を握りこみながら息絶える。

     同じ六六六人衆が灼滅され、分が悪いと悟ったのか、向かいの高棚へと飛び移ったスーツ姿の六六六人衆は戦場を離脱しようとする。
    「おおっと、逃げるつもりか?
     まあ逃げられるものならばだが――な」
     その健脚で三角飛びを行なった夜々は意思あるような外套を翻し、棚から棚へと飛び移る。
     同じく妨害に動いたのは、刀だ。夜々が目を惹きつける間、別方向である敵死角をとり、殺気を放った。
    「!」
     六六六人衆が振り向き、銃口を向けるのだが刀でいなしたところで夜々が敵を地上へと蹴り落とす。
    「よし、囲い込むぜ」
     躊躇なく虚空へと身を投げた夜々はマントを玲へと向け、伸ばした。
     その動きは軽く、しかし迷いなく向かったマントは夜々の着地をやや緩やかに、そして玲の全身を覆い癒していく。

    「ねえねえ、戦神とこれからどうやって連絡取るつもり?」
    「……あぁ? 指示がくるまで待つとかナントカ……?」
    「……何となく分かってたけど、ふわっとしてるね」
    「うるっせー!」
     どうやって連絡を取ってきたのか、と質問を重ねたいところだが、デモノイドロードの斬撃に玲は構え受けた。
     とはいえ半ば避けた彼女は半身を捻り、即座に流星の煌きと重力を宿す蹴撃を放つ。
     鋭い一撃に蹴り飛ばされたデモノイドロードは、ぴくりとも動かなくなった。
    「見事な強さ!」
    「打ち砕きがいがあるというもの!」
    「…………」
    「六! 共に我等の力見せてやろうぞ!」
     残る敵はアンブレイカブル二体と六六六人衆一体となった。テンションの差は結構大きい。
     アンブレイカブルたちは自身に暗示をかけ、魂を燃え上がらせているようだ。
    「六……?」
     考えるラススヴィ。
    「……あぁ、そういうことか。それで、名前は?」
    「……不律(ふりつ)だ」
     嫌々に六六六人衆は応えた。

    「猫ぉぉぉ!」
     変わらないノリのまま、アンブレイカブルの大きな掌でがしっと掴まれたネコサシミは猫魔法を放って手中からさっさと逃れ、直後、蔵乃祐の死の魔法が発動する。
     鯉口を切った刀は一瞬にして敵背後へと迫った。
    「……魔剣。――無銘」
     踏みこみ、抜刀からの一閃。肉厚の体を刃が斬り抜けると同時に翻し、斬撃の嵐を敵へと降らす。剣速は神速であり、アンブレイカブルは筋肉で止めるべく「フンッ」と気合を張った。
    「残念ですが、今のが最後の一刀です」
     袈裟懸けに、下へと抜けた日本刀の勢いそのままに刀は間合いをすり抜ける。
     曇りひとつない刃を一度払い、再び鞘におさめた。
     思わず、といったようにもう一体のアンブレイカブルは夜々の胸倉を掴むのだが、あっさりと夜々をその手は払いのける。

     六六六人衆・不律を牽制しながら狙い定めたアンブレイカブルへと攻撃する灼滅者たち。
    「こうして配下を集めればサイキックハーツになれる、とでも勘違いしているんですかね?
     なれてしまう可能性があるのが、恐ろしいところですか」
     脚に地獄の業火を思わせる炎を纏わせ、アンブレイカブルを蹴り上げる皆無。
    「今の状況ですと、何が起きてもおかしくありませんから」
     そのまま敵は仰向けに倒れた。敵胴には直線の灼けた痕が残されている。
     何度か敵全前衛への攻撃を行っていたのもあり、残る一体もまた撃破は容易く行えるようだ。
    「その一槌に散るも本望である!」
     攻撃し、攻撃されることを楽しむアンブレイカブルが言い放ったことを、夜々は心に留める。
     その意気やよし――全力で戦うことを礼儀とし、畏れを纏った友衛が長柄を振り斬り上げた。


     友衛が振り回した長柄を、不律の短剣が止めた。
    「やはり、来るのではなかったな」
     苦々しく呟いた不律は弾き上げ、銃口を友衛に向ける。その手めがけて蹴り上げた玲は、次の瞬間には炎を纏い、回し蹴りを放った。
    (「サイキックハーツに属していないダークネス……か。
     けど彼らも、大戦が終わったら消えちゃうんだよね……」)
    「どーして何処かに所属しなかったの?」
     伝手が無かったのかな? という玲の問いに、スーツの煤を払いつつ六六六人衆が応じる。
    「私は傭兵のようなものだ。どこかの派閥に完全に属するなど、主義に反する」
    「敢えて情勢を意識しない神経の太さには敬意を表したいね」
     どこか冷めた声の蔵乃祐。
    「人生は自分のためにこそ使いたいのなら、他人の大義や理想に殉じて命を磨り減らすのは矛盾していないだろうか?」
     結局、最期を納得できるかどうかは自分が人生で何を成し得たかだろう――そんな風に蔵乃祐は言った。
     聖杖は敵の業を凍結する光を放っている。
     高速の動きで敵の死角に回りこみながら、敵の殺戮経路を見出した刀が抜刀し、斬撃を繰り出す。
     玲瓏な光を反射する刃は銀閃を描いた。
     追い込むような斬撃は、自暴自棄にも見えるかもしれない。だがそれは曇りなき一点を目指す慧眼が如くの動きだ。
     友衛の白き炎を纏った灯籠が幾多もの鬼火を放出するなか、有形無形の畏れを纏ったラススヴィが駆ける。
     囲い襲う鬼火のなかの不律へ、横一文字の鬼気迫る斬撃を放った。
    「あと少し、というところだね」
     Category:Shadowsで敵の捕縛に動く玉の声を聞き、外套の裾を一投する夜々。
     敵胴を穿つ攻撃を仕掛けたのちに彼女が腕を払えば、意を汲んだ外套は敵の眼前で弧を描いた。
     その隙をつき、死角を取る皆無。
    「主義もなく、とりあえず集ってみたりした己の状況を恨むといいですよ」
     膂力を駆使し、敵を打擲する――その威力は空を裂き、肉体を波状に砕き、半身を吹き飛ばした。
    「ま、私達を恨むのも構いませんけどね」
     既に魂が消失した敵の肉体は、重力に逆らうことなく地に倒れ伏す。


    「これが、生命力賦活……ね。
     今までと感じが違うし、早く慣れないとね」
     両手をグーパーしながら玲が言う。
     短時間の戦闘で掴めそうなところは掴めた気がした。
     巨体を転がすパンチを繰り出していたネコサシミは、彼女の傍でふわふわ浮かんでいる。
     夜々は作った簡易バリケードをラススヴィとともに撤去し、外に出る。
    「お疲れ様でした」
     外に出た刀が清涼な空気を吸い込み、言う。
    「お疲れ様、だな」
     友衛の耳はぱたぱたと動いていた。
    「いこう、クオリア」
     玉もまた頷き返し、クオリアへと声を掛けた。
    「まだまだ休めそうにはないですね」
     続く戦いを想いながら、皆無が呟く。
     長い長い歴史――サイキックハーツ――ある意味、未踏の軸に人類は在る。
    (「今ならダークネスが灼滅者を侮り続けてきた理由も。今一本気になれない熱意も分かる……」)
     三角帽子を目深に被り、蔵乃祐は倉庫内を振り返った。
     惨禍をもたらしていたダークネスの最期は――カタストロフィに沿う末路であった。

    作者:ねこあじ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年7月3日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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