爪楊枝にご用心

    作者:一兎

    ●爪楊枝と串カツ
     お昼もちょびっと過ぎた頃、行き交う人々で活気を見せる商店街。様々な店が立ち並ぶ一つに、その串カツ屋はあった。
     揚げたての串カツを食べ歩けるという事で、学生から観光客まで、割と人気があるらしい。
     その店の前で、一人の少年が足を止めた。その目線は串カツをじぃっと見つめている。
    「おう、いらっしゃい! これなんか人気やで、どや?」
     気さくな店の親父は、背丈からどこか近所の学生だろうと考え、学生たちに大人気の巨大な串カツ、その名もビッ串カツを勧めた。
     名前の割に150円と、赤字覚悟の値段のためシャレですまなかったりする。
     親父が勧めたこれも揚げたてで、運動部帰りの学生なら即座に食らいついただろう。
     だが、少年には関係なかった。
    「なんで串やねんな!」
     なんせ、カツではなく串を見つめていたのだから。それも憎たらしいものを見る眼で。
    「なんでて、串カツで串使わんで、どないせぇ言うねん」
    「串やなくてええやん! 爪楊枝あるやろ。おっちゃんも爪楊枝使うやろ!?」
     カツの出来にケチをつけられた事ならあったが、串にケチをつけられたのは初めてで、親父も思わず頭をかいてしまう。
    「言うてもなー。串カツは串カツやし」
    「串なんていらん。爪楊枝カツでもええやん!」
     親父の言葉を一蹴して、少年はどこからともなく大量の爪楊枝を取り出し、それを親父に投げつけた。
    「うひゃあぁ!?」
     痛い痛いと、親父が頭を抱えて逃げ去ると、今度は串カツの串をすべて爪楊枝に差し替える。
    「全部爪楊枝に変えたる。串だけちゃう、針も釘も杭もなんもかんも、まとめて爪楊枝や、尖ったもんは爪楊枝だけの世界にするんや!!」
     少年の叫びと野望は、商店街中に響き渡った。

    ●その名は楊枝ん坊
    「場所は大阪のとある商店街。一般人が闇堕ちし、ご当地怪人『楊枝ん坊(ようじんぼう)』となる事件が起きた」
     集まった灼滅者たちを前に、神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)は、事件の概要を語りだした。
    「一度闇堕ちすれば意識を失い、助ける事は出来ない。だが、俺の全能計算域(エクスマトリックス)が導き出している! 楊枝ん坊は、まだダークネスになりきっておらず、人としての意識を遺していると!」
     つまり、チャンスがある。助けだせる可能性があるということだ。
    「一度、戦闘不能にまで追い込めば救い出せるだろう。ただし、ダークネスの力を備えている。油断はできない」
     だが。ヤマトは再び同じ文句から、言葉を繋げる。
    「意識があるという事は、言葉が通じるという事だ。ただ語りかけるだけではうまくいかないだろうが、そこに打開策は必ずある!」
     そのままヤマトは、怪人と化す少年について、情報を並べていく。
    「楊枝ん坊は大阪名物の一つ、爪楊枝をこよなく愛するごく普通の少年だった」
     爪楊枝を愛しているのは普通じゃないと、ツッコミを入れるべきか迷う灼滅者たちに対して、ヤマトはお構いなしに説明を続ける。
    「その爪楊枝への愛が歪んだ結果。楊枝ん坊は尖った物、串や針などに憎悪を抱くようになってしまった。全てを爪楊枝に変えろとな」
     中でも、特に過激に反応するのは竹串らしい。
    「どこに隠し持っているのか知らないが、楊枝ん坊は無数の爪楊枝を投げつけて攻撃してくる」
     他にも、1m半近くある爪楊枝を槍のようにして高速の突きを繰り出したり、その爪楊枝の槍を巨大化させ叩きつける攻撃をしてくるそうだ。
    「楊枝ん坊は、事件が起きた商店街の店を片端から修正して回っている。探すのならば、串や針を使う店をあたればいい。そこにヤツはいる」
     例えば、おでんを扱う居酒屋や手芸の針を扱う店などがある。先の尖ったものであればいいのだから、こじつけるだけでも、幅は広い。
    「直情的な性格から、ストレートな言葉を受け止めやすい。回りくどい説得よりは効果があるはずだ。うまくいけば、ダークネスとしての強さを抑える事や、周囲への被害も出さずに戦えるだろう」
     もしも完全なダークネスと化してしまったのなら、灼滅するしか道はない。それを回避したいと願う、ヤマト自身の言葉でもある。
    「加えて、もし灼滅者の素質があるようならば、救い出した後、学園へと連れてきて欲しい」
     その時は、新たな武蔵坂学園の仲間となるはずだから。
    「楊枝ん坊の爪楊枝を思う心は、爪楊枝のように真っ直ぐなものだ」
     ヤマトはそこで一度、言葉を切る。
    「……だが、それを免罪符に何をしてもいいわけではない。一度歪んでしまった心だが、やり直す事は出来る。どうか、皆で救い出してやって欲しい」


    参加者
    長門・海(魔女で戦う魔法少女・d00191)
    佐渡島・朱鷺(第54代佐渡守護者正統後継・d02075)
    天羽・蘭世(虹蘭の歌姫・d02277)
    三日尻・ローランド(王剣の鞘・d04391)
    南沢・はるひ(おひさま戦隊サンデリオン・d06158)
    大條・修太郎(紅鳶インドレンス・d06271)
    天城・優希那(おちこぼれ神薙使い・d07243)
    門前仲町・こえび(はた迷惑ヒーロー・d10096)

    ■リプレイ

    ●負けない親父
    「はい、お待ちどさん、ビッ串カツ8本や」
    「あっ、ありがとうございます」
     先頭の、白い髪に赤い瞳を持つ少女、天城・優希那(おちこぼれ神薙使い・d07243)は店の親父から、揚げたてビッ串カツの入った袋を受け取り、全員へと順番に配っていった。
     受け取るや、袋を開けてかぶりついたり、じっくりと頬張ったり、反応は様々に。
     それから優希那は、思い出したように店の親父へ声を掛けた。
    「そういえば、噂で聞いたのですけど。ここらで爪楊枝を使え~って、暴れてる方がいらっしゃるそうですねぇ」
      優希那の隣に立つ、活発そうな印象の少女、南沢・はるひ(おひさま戦隊サンデリオン・d06158)も合わせて。 
    「困った人ですよね。こんなにおいしいのに。おじさんも気をつけないと危ないですよ?」 
     と言った。はるひが持つビッ串カツは、すでに半分ほど減っている。
     そんな、二人の質問と心配に、嫌な顔一つせず返答する親父。
    「ははは、あんがとさん。言うても、もう何べんも来とるんよ。せやかて爪楊枝使うわけにもいかんやろ。やから断っとるんやけどね。……ってちょい待ち、そこの嬢ちゃん、二度漬けしよったか!?」
     だが、答える途中で眉間に皺を寄せる。
     親父の視線の先では、門前仲町・こえび(はた迷惑ヒーロー・d10096)が、手にした串カツを、店先にあるソースが入った瓶の中に突っ込んでいた。
     ソースの二度漬。それは串カツを食べるマナーで、タブーとされる行為なのだ。
    「えっと、いけなかったっすか?」
     親父に睨まれ、こえびは気まずそうに串カツをソースから抜き出す。親父はしばらく睨み続けていたが。
     しだいに眉間の皺を伸ばし笑顔で、次から気をつけや。と言って、店の奥へと引っ込んでいった。
     その様子に、こえびも胸をなでおろして、串カツにかぶりつく。
    「ふぅ。すごい眼力だったっす、次から気をつけるっすよ」
     そこに、今回の面子で男子勢の二人が、口を挟む。
     まず、銀色に輝く美しい髪を持つ少年、三日尻・ローランド(王剣の鞘・d04391)が、美しく串カツを頬張りながら。
    「けど、いい人だね。ボクほどじゃないけど美しい心を持ってる。親父さんだけじゃなくて、商店街の人達みんながそうだ。」
     あぁ、串カツを頬張るボクは美しい……。そんな台詞が聞こえてくると思うほど、絶妙なポージングを決めて。
     次に、商店街のストリートをじっと見つめる、チャラそうな服装をした少年、大條・修太郎(紅鳶インドレンス・d06271)が。
    「そうだね。箸屋のお婆さんからも、いい話を聞けたし。ここの人達には家族のような繋がりを感じるよ。……それにしても、このビッ串カツ、旨いな」
     と、見た目からは意外なしっかりとした意見を並べる。
     そうやって、皆が串カツを食べている最中、青い髪を二つにまとめた少女、長門・海(魔女で戦う魔法少女・d00191)は、爪楊枝の束を手に握った少年が、こちらに向けて走ってくるのを見つける。
     その顔は、真っ直ぐに串カツを。いや、串を睨んでいて。
    「全部や、全部爪楊枝にするんやぁぁ!!」

    ●真っ直ぐな言葉
    「来るよ、みんな!」
     海が声を挙げ、全員が、串カツを一気に食べきったり、袋に戻すなどして、即座に対応する。
     優希那が殺界を作り上げる間に、白く長い髪をたなびかせて天羽・蘭世(虹蘭の歌姫・d02277)が店の中へと駆けこんだ。
    「ローランドくんは、外の人をお願いします。串カツ屋のおじさん、どこですかー!」
     言葉を受けて、まかせてと、ローランドが近くにいる一般人を避難させる。万が一でも、巻き込まれないように。
     その退避が済むまでの間に、残りのメンバーは爪楊枝の少年、楊枝ん坊に静止の声をかける。
    「なんやねん。邪魔すんやったら、アンタらも刺してまうで!」
     楊枝ん坊は、手に持った爪楊枝の槍をかざして、正面に立つ灼滅者たちを威嚇した。
     だが、それくらいで灼滅者たちが怖気づくはずもなく。逆に、一歩前に踏み出して、言葉を浴びせ返していく。
     最初に、修太郎が疑問を投げかけた。
    「程よい硬さと長さ。いいよな爪楊枝って。けど、それで爪楊枝が幸せだと思うか? それが爪楊枝の使い方だと思うのか?」
     楊枝ん坊が答えを出すより早く、こえびが素早く割り込む。
    「道具にあった使い方をしてあげないと爪楊枝がかわいそうっす。爪楊枝は決して人を傷つける道具じゃないっすよ!」
     優希那は爪楊枝の良さを語って聞かせる。
    「爪楊枝って便利ですよね。いろんなお料理にも使いますし、ソースのかかったお料理にラップをする時。天辺に刺してからラップをかけると、綺麗に出来たり」
     海が大好きな物がある喜びを伝え。
    「何でもかんでも爪楊枝にしたいとか間違ってるよ。私だって、軍艦好きだけど、艦船全部を軍艦にしても、面白くないもん」
     はるひが断言する。
    「串カツの串を爪楊枝に変えたらただのカツだ! 爪楊枝は食べ物を刺すもので、壁を刺したらそれは爪楊枝ではない!」
     5人立て続けにぶつけられた言葉に、楊枝ん坊は、ぐぬぬと呻きを漏らして、ついに後ずさる。
     そこに、一般人の避難を終えたローランドと蘭世が合流した。
     着物を着た灰色の髪の少女、佐渡島・朱鷺(第54代佐渡守護者正統後継・d02075)は、全員が揃ったのを確認すると、楊枝ん坊の握り締める爪楊枝の槍を見ながら。
    「……そこまで長いと既に『串』ではないか?」
     ばっさりと言った。
     後ろで、同じ様に思っていたらしい灼滅者たちも、うんうんと頷いてみせる。
    「……串……やと……!?」
     楊枝ん坊は、ぶるぶると震えながら、どこかの少年漫画のような呟きをこぼした。
     動揺から、その視線があらぬ所を行ったり来たりを繰り返す。
     朱鷺はその隙を逃さず。
    「隙有りっ!」
     不意打ちに楊枝ん坊が声を発するより早く、朱鷺はその体を持ち上げ。
    「二度漬け禁止ダイナミィックッッ!」
     たれの中に串カツを突っ込むように、楊枝ん坊を地面にぶつけた。同時に、大阪を巡ることで手に入れた、大阪のご当地パワーが炸裂する。
    「まだや! 爪楊枝が最強! 爪楊枝が一番なんや! ぬりゃぁぁぁ!」
     しかし、楊枝ん坊は立ち上がりながら、目の前に立つ朱鷺に向かって、どこからか取り出した爪楊枝の束を投げつけた。
     動揺を振り払うように、必死に叫びながら。

    ●奥の手、巨大爪楊枝
    「ずっと見ておいて正解だったよ」
     朱鷺へと向けられた楊枝ん坊の初撃は、修太郎が間に割り込み、そのダメージを肩代わりしていた。防御に徹した姿勢に加え、楊枝ん坊の挙動をじっと見ていたから対応が間に合ったのだ。
     そして、この一撃をきっかけにして、戦闘は加速しながら激化していく。
     説得による同様はしっかりと効いているようで、楊枝ん坊の攻撃は、やや精度が欠け。灼滅者たちでも、十分に互角のラインを保つ事が出来ていた。
    「動きを、止めてください……!」
     優希那が契約の指輪をかざすと、制約の念が込められた魔法弾が、指輪から放たれる。魔法弾は、人と人を隙間を通り抜け、楊枝ん坊の体に命中。衝撃に体勢を崩す、だが、すぐに持ち直した。
    「あたぁっ!? ってなんや違和感が」
     しかし、必ず動きを封じれるわけではないが、制約の念は確実に付着する。
     そこに蘭世が、翼のオーラを広げ意思を込めた。
    「蘭世のおうちでは、果物と和菓子を食べるとき、爪楊枝を使うのです。木でできた爪楊枝は、尖っていてもぬくもりがあるのです。ですが、人を傷つける爪楊枝に、ぬくもりはありません!」
     言葉と共に、翼からオーラが放出。気づいた楊枝ん坊は身を捻って回避を試みるが、意思の込もった一撃はわずかに軌道を曲げ、その体を捉えた。
    「ぐぐ……ぬぅっ! こうなったら奥の手やぁ!!」
     連続で攻撃を喰らい、ダメージを重ねる楊枝ん坊は、手に持つ爪楊枝の槍を天に翳す。
     すると爪楊枝の槍は、両手を使っても抱えきれないぐらい太く長い、巨大な爪楊枝に変化した。
    「その大きさ、爪楊枝じゃないっす、柱っすよ!」
     こえびが、戦闘中だのにも関わらず。思わずツッコミを入れてしまう。
    「黙らっしゃい! 誰がなんと言おうと、爪楊枝は爪楊枝や!」
     いや、それは無理がある。この場にいる誰もがそう思った。
     そんな灼滅者たちの内心も知らずに、楊枝ん坊は巨大爪楊枝を振り下ろす。
    「って、なんでこっちに来るっすか!?」
     爪楊枝が落ちてくるラインには、こえび一人。一瞬だが事態に追いつけず、反応が遅れてしまった。それでも避けようとするが、すでに間に合わない。
     その瞬間、はるひが飛び出し、こえびを背に、巨大爪楊枝を拳で受け止めた。
    「う……ぐっ……こんのぉ!!」
     はるひの腕が悲鳴を挙げて、はるひ自身は気合の雄叫びを挙げて、巨大爪楊枝の勢いを殺していく。
    「お、奥の手が、通じへんかったやと!?」
     やがて、勢いが尽きた巨大爪楊枝は元の槍のサイズに戻り。楊枝ん坊が驚きに目を見開く。
    「見たか。これが、お日様戦隊サンデリオンの力だ!」
     余裕を見せ付けるように、はるひは力一杯の名乗りを返した。
     実際には、全身が痛みの悲鳴を挙げていたのだが。

    ●歪んだ爪楊枝が折れる時
    「はるひさんも無茶するね。……さあ、これで大丈夫。頼むよ、えくすかりばー」
     ローランドが分裂させたリングスラッシャーの盾を、はるひの周囲に展開する。
     そこに、ローランドの従えるナノナノのえくすかりばーが、癒しの力を注いだ。
    「おお、ありがと。それじゃあ続きだ!」
     完全に治癒したわけではないが、ゆっくりとしている暇もない。はるひは立ち上がる。
     爪楊枝を名物とする怪人だが、ひょろいイメージとは逆に楊枝ん坊はタフなのか、戦いはまだ続いていた。
     加えて言うならば、両者疲労困憊で決着の時も近かった。
    「さっきの仕返しっすよ。行くっす、すくーぴー。そして影縛りをくらうっす!」
     こえびが、ライドキャリバーのすくーぴーに指示を出す。指示を受けたすくーぴーは、備えられた機銃の弾をばら撒く。
     機銃に気を取られ、楊枝ん坊はその足を止めた。
     合わせてこえびも駆け出し。うごめく影を使って、楊枝ん坊を絡めとった。
     これでもかと、動きを制限される楊枝ん坊に、海が追い討ちをかける。
    「あなたの間違った野望を絶望で終わらせる! マジカル艦対地ミサイル!! ぅてーい!」
     ずどん。そんな音が鳴ったわけではないが、それに似た勢いで魔法の矢が飛び出す。
     圧縮詠唱された矢が、楊枝ん坊の体に食い込み。込められたサイキックエネルギーを迸らせ、ダメージを重ねた。
    「うぐっぉぉ、矢なんかいらん! 爪楊枝や! 爪楊枝! もっぺん、もっぺんやったるぞぉぉ!」
     ダークネスの力はこれほどか、しぶとく二本の足で立ち続ける楊枝ん坊は、再び爪楊枝の槍を巨大化させようとした。
    「うおぉぉ……? なんや、何も起きへん!?」
     この時、優希那が付着させた。制約の念の力が働いた。
     その隙を逃さず、修太郎がマテリアルロッドを構える。
    「適材適所って言葉がある。爪楊枝の最大の利点はその大きさだ。この小ささは人の手足、指の代わりになる。お前が真に戸惑っているのは、爪楊枝の利点を活かせず、爪楊枝の強さを信じ切れなかったからだ」
     言い切るや、雷の魔術を放つ。雷は避雷針を辿るようにして爪楊枝の槍の先端を通し、楊枝ん坊の体に流れ込んだ。
    「あばばばばば!!?」
    「……その爪楊枝、どんな素材で出来てるんだ?」
     木製なら普通燃えるはずだよな。そう呟く修太郎。
     その脇を、朱鷺が駆けた。片腕を鬼のように異形に、巨大にして、拳を振りかぶる。
    「これで目を覚ませ! 受けよ、鬼神変っ! ふぬぅっ!!」
     気合と共に、拳を振りぬく。
     朱鷺の拳は顔面を捉え。楊枝ん坊は押し潰したカエルのように、ぎゅうと鳴いて、その場に崩れ落ちた。

    ●新しく削りだす
     ノックアウトした楊枝ん坊が目を覚ましたのは、戦いから数十分ほど経ってからだった。
     さすがに、延々と殺界を張り続けるわけにもいかないので、串カツ屋の親父に頼み。店内を貸してもらっている。
     目覚めたばかりに。ついさっきまで爪楊枝で刺したり潰したりしようとしていた人達が、目の前にいるのに驚き。楊枝ん坊は、飛び上がって驚いた。
    「ふふ、別に化けて出たわけじゃないんだから。そこまで驚かなくてもいいんだよ。それとも、僕の美しさに驚いたかな?」
     目覚めたのにいち早く気づいたローランドが、微笑みを浮かべて、落ち着くように声を掛ける。後半が冗談かどうか不明だが。
    「ローランドくんの言う事はともかく。楊枝ん坊さんには、言わないといけない事が」
     少し遠慮がちに声を出して、ローランドの後ろから、蘭世が顔を出す。
     それから、一同は楊枝ん坊の素質についてや、学園についてを順番に説明していった。
     一通り説明を終えてから、蘭世が一言、笑顔を浮かべて。
    「楊枝ん坊くんの爪楊枝への愛情は、きっとこれから誰かを救う力になるのですよ♪」
     続けて、ローランドも美しいポーズで手を差し伸べ。
    「爪楊枝を愛するキミの心はまだ、折れてないんだろう? だったら、また一から素晴らしい爪楊枝道を貫いていこうじゃないか!」
     爪楊枝道とは何か。楊枝ん坊も気になったが、きっと答えは出ないだろう。
     まだ理解しきれていないけど。そう思いながらも、楊枝ん坊は、ローランドの手を掴んだ。
    「学園についたら、一緒にたこ焼きでも食べようよ。これからは同じヒーローなんだから。もちろん爪楊枝でだよ?」
     手を引かれて立ち上がる楊枝ん坊の肩を叩いて、はるひが言う。
     ついさっき潰されかけた事は、微塵も気にせず。親しい友人に声をかけるように。
    「けど、串とか見て、いきなり騒ぎ出したりしないようにね。これでも、大変だったんだから」
     それじゃあ、帰ろっか。
     最後に海が、注意を込めた言葉をかけて、全員帰り支度を始める。蘭世はお土産にと串カツを頼んでいた。
     そんな空気の変わりように、楊枝ん坊は少し呆然としたが、しばらくして灼滅者たちの優しさに、涙を流す。
     最初は謝罪の言葉を、次を感謝の言葉を漏らしながら、涙を流した。それを見る灼滅者たちの視線は温かかった。
     そこで、皆と同じように、泣き続ける楊枝ん坊を見守っていた修太郎が、忘れてたと声を挙げる。
    「……誰か……外の、楊枝ん坊くんがばら撒いた爪楊枝、掃除した?」
     修太郎の指摘には、誰も返事しなかった。

    作者:一兎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年11月19日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 10
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