戦神の軍団~殺るか、殺られるか!

    ●工場跡
    「……あら? ひょっとして、呼ばれたのってアタシ達だけじゃないの?」
     アポリアが指定した場所にやって来た淫魔の一団が、その場に集まっていたダークネス達を見つめて、不機嫌な表情を浮かべた。
    「それはこっちの台詞だ! なんでテメェらまでここに……」
     羅刹のリーダーと思しき男が、イラついた様子で答えを返す。
     他の羅刹達も合図ひとつで襲い掛かってきそうなほどに殺気立っていた。
    「お前等、殺す! 必ず殺す!」
     六六六人衆の一団も殺気立った様子で、刃物をキラリと輝かせた。
     だからと言って、本気で殺し合うつもりはないらしく、誰が格上なのか示したいだけのようである。
     もちろん、それは戦神アポリアの指示があるまでの間だけ。
     場合によっては、他のダークネスと協力せず、灼滅者達の命を奪う事も考えてはいるようだが……。

    ●エクスブレインからの依頼
    「闇堕ちしていた灼滅者達の救出は、おおむね成功しました。しかし、六六六人衆のハンドレッドナンバー、戦神アポリアの逃走を許してしまいました。戦神アポリア……狐雅原・あきらさん自身が救出を望んでいなかった以上、やむを得ない事だったかもしれません。この戦神・アポリアが、さっそく、動き出したようです。アポリアは、どのサイキックハーツの勢力にも属していない、野良ダークネス達を集めて、自分の軍団を作ろうとしているようです。彼の目的が、第三勢力の結成であるのか、或いは、戦争に介入して場を争うとしているのか、それとも、既に何れかのサイキックハーツ勢力に協力している状態なのかはわかりませんが、アポリアの思うとおりに事を運ばせるわけにはいかないでしょう。調査の結果、アポリアが集結場所に指定した場所が判明しています。皆さんは、その集結場所に向かい、集まっているダークネスの灼滅をお願いします」
     教室ほどの広さに灼滅者達を集め、エクスブレインの女性が今回の依頼を説明した。
    「敵は、淫魔7体、羅刹5体、六六六人衆8体となっていますが、互いに連携などはとれておらず、ディフェンダーが仲間を庇ったり自分以外のダークネスを回復したりという事は行う事はありません。また強いのはリーダー格だけで、他は雑魚のようです」
     エクスブレインの女性が、今回の資料を配っていく。
    「今回の集結場所の情報は、エクスブレインの予知に加えて、武蔵坂に協力してくれるエスパー達からの情報も大いに役立っています。集結したダークネスをアポリアが、どうやって自分の軍団に組み込むのかは不明ですが、待っていればアポリア自身が現れるかも知れません。ただし、日本各地で同時に発生している以上、その可能性は低いと考えた方がいいでしょう。また戦神アポリアといえど、サイキックハーツとなっておらず、自分の軍団を集める事もできなければ、今後の戦争に大きな影響を与える事はできないでしょう。アポリアがわざわざ、エスパー達を害する危険のあるダークネス達を集めて灼滅の機会を作ってくれたわけですから、ある意味チャンスと考えるべきでしょう」
     そう言ってエクスブレインの女性が、ダークネス達の灼滅を依頼するのであった。


    参加者
    神凪・陽和(天照・d02848)
    神凪・朔夜(月読・d02935)
    高野・妃那(兎の小夜曲・d09435)
    杉凪・宥氣(天劍白華絶刀・d13015)
    カーリー・エルミール(元気歌姫・d34266)
     

    ■リプレイ

    ●都内某所
    「何、このカレーとシチューとビーフシチューが三つまとめてきたみたい展開は……」
     杉凪・宥氣(天劍白華絶刀・d13015)はゲンナリとした様子で、野良ダークネスが集まっている工場跡に向かっていた。
     この工場はバブル景気で乗りに乗っている時に拡大された工場のようだが、無駄な所に金を掛け過ぎたせいで効率が悪く、バブル景気の終焉と共に閉鎖されたようである。
     その後、しばらく売りに出されていたようだが、ありとあらゆる面でデメリットが多かったため、まったく買い手がつかず廃墟と化してしまったようだ。
      それから、しばらくの間は不良達の溜まり場になっていたようだが、野良ダークネスが現れた事で、その命を散らす事になったようである。
    「まあ、戦力集めに必死なのは分かるんだけど、武蔵坂としては困るんだよね。ただでさえ、サイキックハーツに対する戦争で大変なんだから……」
     神凪・朔夜(月読・d02935)が、深い溜息を漏らす。
     現在、廃工場内には淫魔7体、羅刹5体、六六六人衆8体の野良ダークネスが集まっているものの、互いに牽制し合っているような状態のようだ。
     そのため、共闘して灼滅者達に襲い掛かってくる可能性は低いものの、だからと言って楽に倒せる相手でもない。
     それを理解しておかなければ、手痛いダメージを受けるのは、こちらの側である。
    「それに、今はサイキックハーツへの対応で手一杯です。一大勢力を作らせる訳にはいきませんね」
     神凪・陽和(天照・d02848)も警戒した様子で、サウンドシャッターを使う。
     このまま放っておいても、潰し合って自滅しそうな気もするが、何かの間違いで共闘する可能性も捨てきれない。
     そういった意味でも、ここで手を打っておく必要があった。
     だからと言って確実に倒せるという保証はない。
     場合によっては負傷し、命を落としてしまうかも知れない。
     だが、それでも……。
     そうであったとしても、野良ダークネス達を倒す必要があった。
    「このままだと……このままだと……」
     そんな中、高野・妃那(兎の小夜曲・d09435)が、半狂乱になりながら同じ言葉を繰り返す。
     元々、海将ルナ・リードと戦神アポリアの闇堕ちを目の当たりにして、次に堕ちるなら自分の番だと考えていたところ、仲間の救出に失敗して戦神アポリアに倒されてしまった為、正気でいる事が難しくなっているようだ。
    「がんばろーおー!」
     そんな空気を掻き消す勢いで、カーリー・エルミール(元気歌姫・d34266)が廃工場の中に入っていく。
     その途端、野良ダークネス達と、目が……合った。
    「……」
     本音を言えば、回れ右をして帰りたかった。
     さすがに、この状況はマズイ。
     間違いなく、死亡フラグだと思ったものの、いまさら逃げる訳にもいかない状況。
    「なんだ、コイツらは……」
     羅刹のリーダーと思しき男が、イラついた様子で口を開く。
     まわりにいた羅刹達も殺る気満々な様子で、指の関節をパキポキと鳴らす。
    「それ以前に、なんで……この場所が! 裏切ったのは誰!? 誰なのよ!」
     淫魔のリーダーがムッとした表情を浮かべて、他のダークネス達を睨みつけていく。
     まわりにいた淫魔達も『裏切り者は八つ裂きだ!』と言わんばかりに、何やら殺気立っていた。
    「ヒャッヒャッヒャ! そんなの簡単だ! みんな殺しちまえばいい!」
     六六六人衆のリーダーが不気味な笑い声を響かせ、ナイフをベロリと舐め回す。
     まわりにいた六六六人衆も馬鹿のひとつ覚えと言わんばかりに、ナイフをベロベロと舐める。
    「集まった所に申し訳ないんだけど、倒させて貰うよ。エスパーの皆さんに危害を及ぼす可能性があるなら尚更……」
     朔夜が深い溜息をもらして、野良ダークネス達の前に立つ。
    「テメエらに何の権利があって、そんな事を決めやがる!」
     羅刹のリーダーと思しき男が、イラついた様子で睨みを利かす。
    「武蔵坂に見つかったのが不幸の始まりだと思ってください」
     そう言って陽和が仲間達と共に、野良ダークネス達に攻撃を仕掛けていった。

    ●教会内
    「訳の分からねぇ事を言いやがって! だったら、お前等纏めて血祭りにあげてやらぁ!」
     羅刹のリーダーが殺気立った様子で、まわりの羅刹達を嗾けた。
     それと同時に羅刹達が片腕を異形巨大化させ、唸り声を上げて一斉に攻撃を仕掛けてきた。
    「血祭り……か」
     すぐさま、宥氣がヘッドホンの電源を入れ、深呼吸をした後、羅刹達を迎え撃つ。
     羅刹達は後先考えずに攻撃を仕掛けてくるため、攻撃を読みやすい反面、ケタ外れに破壊力があった。
     そのため、攻撃を避けるたび、まわりのモノが壊れていき、あっと言う間に瓦礫の山が出来上がった。
    「なかなか、思い通りにいかないものですね」
     陽和が険しい表情を浮かべながら、羅刹の攻撃を避けつつ、バニシングフレアを使う。
     ある程度、予想をしていた事ではあるのだが、脳筋寄りの羅刹ばかりが集まっているせいで休む暇さえないほどだった。
    「アタシ達はどうでもイイ事だけどねぇ。まぁ、頑張ってぇ~」
     そんな中、淫魔のリーダーが他人事のように、能天気な笑みを浮かべた。
     まわりにいた淫魔達も、美味しいところをかっさらう気満々で、高みの見物と言った感じである。
    「……そう上手くいくかな」
     次の瞬間、カーリーが制約の弾丸を撃ち込み、淫魔のリーダーの頭を撃ち抜いた。
    「……!」
     それは淫魔達にとって、衝撃的な出来事。
     完全に油断をしていたせいで、みんな顔面蒼白。
     何が起こったのか分からず、パニックに陥っていた淫魔もいたが、それでも自分達にとって非常にマズイ状況になっている事だけは理解したようである。
    「いやあああああああああああああああああああああ!」
     そのすべてを理解した時、淫魔達は逃げた。
     全速力で……。
     後先考えず……。
     ちっぽけなプライドを、その場に投げ捨てて……。
     元々、ここには楽しむために来たのだから、こんな状況になった時点で、色々と成立しなくなったのかも知れない。
    「テ、テメエら! 最後まで戦え! この腰抜け共が!」
     それを目の当たりにした羅刹のリーダーが、驚いた様子で淫魔達を叱りつけた。
     しかし、淫魔達はまったく話を聞いておらず、逃げる事に全力を注ぎこんでいた。
    「他人の心配をしている暇はないと思うけど……」
     その間に朔夜が間合いを詰め、羅刹のリーダーに鬼神変を叩き込む。
    「いや、問題ねぇ」
     それに気づいた羅刹のリーダーがニヤリと笑い、同じように鬼神変で反撃した。
     ぶつかり合う拳と拳……。
     一瞬でも気を抜けば、命すらも落としかねない。
     そんな危機感を覚えてしまう程、羅刹のリーダーが放つ鬼神変はケタ外れに強く、床に落ちる汗がスローモーションになってしまったような錯覚を受ける程のモノだった。
     おそらく、一対一であれば、例え勝つ事が出来たとしても、かなりの苦戦を強いられた事だろう。
     だが、まわりには仲間達がいる。
     しかも、野良ダークネス達が共闘する可能性は、現時点でゼロに近い。
    「あは、あはは! 私では、私なんかじゃ誰も救えないんです!」
     そんな中、妃那が高笑いを響かせながら、羅刹達に攻撃を仕掛けていく。
     だが、その攻撃はほとんど捨て身。
     無謀、無策、無茶。
     どの言葉も当てはまってしまうほどの勢いで、傷つく事を恐れず、すべてを諦め、絶望し……それでも流れ作業の如く、野良ダークネス達に攻撃を仕掛けていった。
    「ヒャハハッ! いいね、いいね! このままスカウトしたいくらいだっ! まあ、冗談だがなッ!」
     六六六人衆のリーダーが小機嫌な様子で、ヒャハハッと笑う。
     まわりにいた六六六人衆も狂ったようにナイフを振り回し、灼滅者達の身体を切り裂いていく。
     だが、羅刹とは協力し合っておらず、ただ純粋に戦いを楽しんでいるようだった。
     そのため、羅刹達が苦戦を強いられていても加勢する事はなく、その姿を楽しんでいるようだった。

    ●野良ダークネス
    「……畜生。あれだけいた仲間が……」
     羅刹のリーダーが悔しそうに拳を握る。
     こんなはずではなかった……こんなはずでは……。
     おそらく、仲間達の中に裏切り者が……。
     だが、今となっては、すべて手遅れ。
     犯人探しをする前に、自分の身を守るのが、やっとであった。
    「それはテメエらが弱かったからだろぉ! 他人のせいにするんじゃねぇよ!」
     六六六人衆のリーダーが、小馬鹿にした様子で答えを返す。
     しかし、六六六人衆も羅刹達と同じように苦戦を強いられ、動ける仲間はほとんどいない。
     元々、寄せ集めの集団であったため、それも仕方のない事だが、少しでも互いに協力し合う気持ちがあれば、ここまで酷い状況にはなっていなかった事だろう。
    「……と言うか、ふたりとも好きだらけだよ? 死にたいの……?」
     そんな中、カーリーが容赦なく、羅刹達に攻撃を仕掛けていく。
    「おおっ! こりゃ、無駄話をしている暇はねえな!」
     その攻撃を間一髪で避け、六六六人衆のリーダーが汗を拭う。
     そもそも、相手の戦闘力を見誤っていたのが、敗因かも知れない。
     自分達だけでも、何とかなる。
     その甘さが、このような状況を作り出し、自分を追い込んでしまったのだと、六六六人衆のリーダーは思った。
     だからと言って、共闘は……ない。
     そんな事をいまさら口にしたところで、羅刹のリーダーが首を縦に振る事はないだろう。
    「武蔵坂に見つかったのが運の尽き、という事で。本当に運が悪かったね」
     次の瞬間、朔夜が神薙刃を放ち、羅刹のリーダーの首を刎ねる。
     それは一瞬の出来事。
     まさに瞬殺。
     羅刹のリーダーが気を抜いた、ほんの数秒の間に放たれた一撃……。
     そのため、羅刹のリーダーは何かの言葉を吐き出す事も出来ず、飲み込む事さえ出来ず……息絶えた。
     後に残った身体も、何かを思い出したように崩れ落ち、床に突っ伏したまま動かなくなった。
    「マ、マジか!?」
     六六六人衆のリーダーが、信じられない様子で口を開く。
     まるで時間が飛んだような感覚。
     何か大事なピースが抜けているような状態。
     それを理解するまで、しばらくの時間を必要とした。
    「……マジだ」
     宥氣がクールな表情を浮かべ、六六六人衆のリーダーにバニシングフレアを放つ。
    「ぐがあああああああああああああああああ!」
     その一撃を食らった六六六人衆のリーダーが断末魔を響かせ、消し炭と化して息絶えた。
    「統制が取れていなかったのが救いでしたね」
     そう言って陽和がホッとした様子で溜息をもらす。
     だが、戦神アポリアは現れない。
     おそらく、ここではない、別の場所に現れたという事だろう。
    「……」
     その間に宥氣がイヤーデバイスの電源を切り、薬を飲んで踵を返す。
    「何故、私なんかが……まだ存在してるの!」
     そんな中、妃那がボロボロと涙を流して叫ぶ。
     あれほど望んでいたのに……そうなる事を覚悟していたはずなのに……闇堕ちする事が出来なかった。
     それが何を意味しているのか分からない。
     何か見えない力によって、このまま闇堕ちせずに生きる事を強いられているのか、それとも全く別の意味があるのか、答えを導き出す事が出来ぬまま、彼女の絶叫だけが辺りに響くのであった。

    作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年7月3日
    難度:普通
    参加:5人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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