戦神の軍団~真紅の絵画

    作者:佐和

     その部屋は、赤かった。
     瓦礫ばかりの薄暗い廃ビルだから、元々赤かったわけではない。
     部屋を赤くしているのは、壁に絵を描き続けている画家の存在だった。
     赤だけで、その濃淡や微妙な色合いで描かれる壁画。
     それと、画家の赤く汚れたつなぎを見て、異形の女が息を漏らす。
    「こういう絵もあるのね。素敵よ」
     長い髪を揺らし、裸身を晒しながら艶やかに零れる声。
     その下半身には、タコを思わせるが吸盤のない8本の触手が蠢いていた。
    「淫魔のねーさんは、芸術も解するんですなぁ」
     ゆるりと声をかけたのは、右半身を蒼い寄生体に覆われた、ひょろりとした青年。
    「にーさん方はどうです?」
    「特に興味はない」
     話を振られたが、額に角を持つ和装の男はにべもなく。
    「…………」
     筋骨隆々の武道着の男も無言のまま視線すら向けなかった。
    「エマはいいと思うのー」
    「うんうん。ユマも嫌いじゃないよ」
    「ノマも好きー。真っ赤な血の絵!」
     正反対に騒がしく答えたのは、三つ子のように似通った容姿の少女3人。
     そんな周囲の反応を気にせず、描き続けていた画家の男は、だがぴたりと手を止めて。
    「……絵具が、足りない」
    「じゃあエマが取って来てあげるー」
    「人を殺して血を取って来ればいいんだよね」
    「楽しそう。ノマも行くー」
     ナイフを掲げたエマが、大剣を持ち上げたユマが、鋏を振り回すノマが立ち上がるも。
    「駄目ですって。戦神サマからの指示なく勝手に動いちゃぁ」
     青年が両手を広げて動きを制する。
     そう、彼らは集い、待っている。
     戦神アポリアからの指示を。

    「アポリアが動き出した」
     集まった灼滅者達を前に、森田・供助(月桂杖・d03292)が口を開く。
     尚、本来その役目を担うはずの八鳩・秋羽(中学生エクスブレイン・dn0089)は、足元でサクランボの山を抱えてもぐもぐしています。
     狐雅原・あきら(戦神・d00502)の闇堕ちしたダークネス、戦神アポリアは、どのサイキックハーツ勢力にも属していない野良ダークネスを集めているらしい。
     第三勢力を結成しようというのか。
     戦争に介入して場を争おうとするのか。
     どこかのサイキックハーツ勢力に協力しているのか。
     自分の軍団を作る狙いは不明だが、阻止するべき動きであろう。
    「その集結場所の1つが、この廃ビルだ。
     そこに8体のダークネスがいる。
     ……俺が探してた、画家の六六六人衆も、な」
     複雑に呟く供助を、ふと、秋羽が見上げました。
     廃ビルに集められたダークネスは、淫魔、デモノイドロード、羅刹、アンブレイカブルが1体ずつ。そして、画家と三つ子の六六六人衆4体。
     普段なら複数のチームで対処に当たる相手だ。
     だが、瑠架戦争による『生命力賦活』の恩恵を得た今ならば。
    「さくっと倒してやろうぜ」
     供助がにやりと笑うと、秋羽もこくりと頷いて見せた。
     元々一緒にいた三つ子はともかく、他は寄せ集めゆえに、特に連携らしい連携もない。
     油断は禁物ではあるけれども、今はさほど苦戦する相手でもないだろう。
     集結場所は日本各地にあるため、アポリア自身と遭遇する可能性は低いが。
     その行動を阻害し、エスパーに害を成すダークネスを灼滅する、チャンス。
     灼滅者達も互いに顔を見合わせ、頷き合った。


    参加者
    森田・供助(月桂杖・d03292)
    堀瀬・朱那(空色の欠片・d03561)
    天宮・黒斗(黒の残滓・d10986)
    七瀬・麗治(悪魔騎士・d19825)
    空月・陽太(魔弾の悪魔の弟子・d25198)
    牧原・みんと(象牙の塔の戒律眼鏡・d31313)
    月影・木乃葉(レッドフード・d34599)
    榎・未知(浅紅色の詩・d37844)

    ■リプレイ

    ●真紅の遭遇
     その部屋に広がっているのは壁一面の赤だけではなかった。
     鼻腔を貫く鉄錆の臭い。
     ぬらつく赤色から滴り溢れる臭気。
     視覚よりも強く訴えかけてくる嗅覚に榎・未知(浅紅色の詩・d37844)は思わずビハインド・大和の手を握り、もう片方の手を口元に当てた。
     堀瀬・朱那(空色の欠片・d03561)も眉を顰めて、壁画と呼ぶことすらも腹立たしい、黒々とした一面の赤を見る。
     だが、その怒りは朱那の心を静かに冷やし、青瞳は対峙する相手を冷静に見据えた。
     淫魔。デモノイドロード。羅刹。アンブレイカブル。そして4人の六六六人衆。
     別の異臭にも気付いた七瀬・麗治(悪魔騎士・d19825)が、さらに顔を顰める。
    「どいつもこいつもひどい業の匂いだ。鼻が曲がりそうだ」
     その麗治の声で、というわけではないだろうが。
     灼滅者達に気付いたダークネス達は、バラバラにそれぞれに振り返った。
    「わあっ。絵具来たよー」
    「来た来たー」
    「ノマも殺るー」
     早速動いたのは三つ子のような六六六人衆。
     手にした武器以外に見分ける方法がないほど似通った少女達は、全く同じ嬉々とした表情を見せると、牧原・みんと(象牙の塔の戒律眼鏡・d31313)に襲い掛かる。
     1人目がナイフで斬り結ぶ間に、跳び上がった2人目が巨大な鉄塊の如き大剣を振り下ろし、その隙に3人目の鋏が無造作に切り刻んだ。
     連撃を受け堪えながら、みんとはダイダロスベルトを展開する。
    「意外といるものですね、野良ダークネス」
     その口から零れたのは、この光景への静かな感想だった。
     複数のダークネスを前にした強がりというわけではない。
     受け、そして癒した傷に、対等以上に戦える確信を得ての、自信。
     ゆえに、眼鏡越しの青瞳は冷静に現状を眺めていた。
     ビハインド・知識の鎧も、静かに控えるように主の傍らに佇む。
    「こんな大戦の最中でも、結構な数が好き勝手してるものなんだな」
     そして隣に進み出た天宮・黒斗(黒の残滓・d10986)も、大丈夫か、と気遣う視線を向けつつも、すぐにダークネスへと向き直り。
    「とにかく、人に手を出す気満々なら、黙って見逃すわけにもいかない」
     その右手が伸びたかのように生み出された柄も鍔もない光の剣を構え、前に出た。
     揺れた漆黒の長髪と遊ぶように、周囲に飛び来た管狐が漂い盾となる。
    「所詮寄せ集め……ボク等の敵ではありません! サクッと蹴散らしてしまいましょう」
     ちらりと後ろを見やれば、援護は任せてと言うかのように胸を張る月影・木乃葉(レッドフード・d34599)の姿があった。
    「ディープブルー・インヴェイジョン」
     解除コードと共に青い閃光に包まれた麗治は全身に鎧を纏い、態勢を整え。
    「そうそ。趣味の悪いお遊びは、ココまでにしてもらわんとな」
     にっと笑みを見せた朱那も、ととん、と七色の橋が描かれた靴で軽く床を蹴る。
    「あれ? 生きてる?」
    「灼滅者?」
    「ノマもそう思うー」
     三つ子が顔を見合わせ、羅刹とアンブレイカブルが巨腕と拳とを構え。
     妖艶に微笑みにじり寄る淫魔に、肩を竦めたデモノイドロードも続く。
     しかし、画家の六六六人衆だけは、まだ手元に残る血で再び壁に絵を描き出した。
     振り向きもしない背に、森田・供助(月桂杖・d03292)は釣り目がちの赤瞳を向け。
    「その色の向こう、続きへは……もう行けないよ」
     告げた声が届いたのかすら分からないほど、画家の手は変わらず動き続ける。
     大和の手を握る未知の手に、強く力が入って。
     でも、優しく握り返してくる感覚に気付いた未知は相棒の顔を見上げ。
     小さく苦笑を見せてその手をそっと解いた。
    「さて、やる前にこれだけは言っておこうか」
     軽薄に笑う空月・陽太(魔弾の悪魔の弟子・d25198)は、注目を集めて尚笑う。
     無手を見せるように両手を軽く掲げ、陽気な声で続けながら。
    「無駄な抵抗は僕らの労力が増すばかりだからやめてくれ。
     お前たちも苦しみながら灼滅されるのは嫌だろう?」
     さっと払ったフードからこげ茶の髪が現れると同時、一転して笑みが消え。
     現れた狙撃魔銃『McMillan CMS5』を陽太は無表情に構える。
     戦いの開始を告げるように、銃弾が、ばら撒かれた。

    ●真紅の絵具
     弾幕に続くように、朱那の掲げた十字架の砲門が開かれ、光線が乱射される。
     重ねて黒斗も祭壇を展開し、広げた結界に画家以外が包まれた。
    「列は有効。ケド、減衰」
     戦果を判断して、短く朱那は仲間に伝える。
     その声に、供助は鳥の翼のように広げていた四色のベルトの狙いを淫魔に絞った。
     触手の1本を切り裂かれた淫魔に、麗治の剣が白い鬼火と共に斬りかかる。
     狙いを合わせ、大和も淫魔に霊撃を放ち。
     その隙に未知が飛び込み、銀のチェーンを躍らせるように十字架を振るい打ちかかった。
    「そういえば、淫魔をまともに見るのって初めてかも」
     合間にふと思い至り呟きながら、未知は改めて宿敵を見やる。
     隠そうともしない裸身。誘うように揺れる長髪。
     そして脚の代わりにぬるりと蠢く8本の触手。
    「なんか悪趣味だなぁ」
    「あら、私は好きよ。貴方みたいに可愛い子」
     歌うように紡がれる濡れた声と、未知の両頬へと差し出される艶やかな繊手。
     それに囚われかかったところに、割り込むように管狐が飛び込んだ。
    「Hなのはいけないと思います!」
     少し頬を赤く染めながら、木乃葉が回復で援護する。
     その隙に大和に手を引かれながら未知は距離を開けた。
     皆の攻撃に傷を増やしていく淫魔に改めて対峙すると、足元の影が楽譜を象り、無音のメロディを紡ぎ出す。
     五線に音符に切り裂かれた淫魔は、未知へ向けて妖艶に微笑み、姿を消した。
    「ハイ、次!」
     すぐさま朱那が声を上げ、両手に集めた輝く空色のオーラを放つ。
     狙うは三つ子の1人、解体ナイフを掲げた少女。
     同時に供助も風の刃を放ち、2方向からの攻撃に少女は体勢を崩した。
     そこに、壁を利用して蹴り上がり、宙を舞いながら死角へと飛び込んだ黒斗がBlack Widow Pulsarで斬りかかる。
    「いったぁーい」
    「あー。エマにばっかり、ひっどーい」
    「ノマもお返しするー」
     三つ子の反撃が黒斗へ向かうが、みんとと知識の鎧が庇いに入り、受けた傷にはすぐに木乃葉の清めの風が吹いた。
     陽太は援護の冷気を三つ子を中心に撃ち込みながら、敵の動きを見やる。
     仲の良さそうな三つ子が連携攻撃をしてくる以外、協調の動きは皆無だった。
     互いの回復も庇いもしない。ただそれぞれに戦うだけ。
     逆に灼滅者達は攻撃を集中させ、助け合い、着実に戦況を有利に運んでいた。
     ゆえに三つ子は、みんとの放った光の砲弾により2人にその数を減らす。
    「有象無象なりに協力も出来ないのかお前ら。長生きできねーぞ」
     言いながら未知は、次の狙いを示すように、薄紫色のオーラを羅刹へと放った。
    「灼滅者とはこれほどのものか」
     その一撃に、そして続く攻撃に、和装の羅刹は呻くように呟く。
     それは連携を意識した動きによるものだけではない。
     サイキックハーツとして得た、恩恵。
     託された、未来を切り開くための力。
    「負けてらんない、だからネ」
     ぐっと強く手を握り締めて、朱那はおひさまのように笑った。
    「全然統一感のない面子だけど、お前達の目的は何だ?
     自由に暴れたいだけか?」
     問いかける黒斗に、羅刹は視線を向け口を開きかけ。
     だがそこに割り込んだのは、武道着姿のアンブレイカブル。
    「我は強き者との死合いを望む」
     繰り出された超硬度の拳を受けながら、黒斗はにやりと笑う。
    「受けて立とう」
     応えるように、手と一体となった光剣を振るい、斬りかかっていった。
    「それじゃあ、ここはにーさん方にお任せしまして」
     そんな戦場から離れようと動いたデモノイドロードには、陽太の魔弾が撃ち込まれ。
     扉の前に立ち塞がる木乃葉が、通すものかと睨み付ける。
     さらに、歩み出たのは麗治。
    「逃走する余裕があるなら、オレの相手をしてもらおうか」
     宿敵を前に、かざした麗治の右腕から寄生体が剣を侵食して青い刃を創り上げ。
     鏡写しのように青年も右腕を刃とし、青と蒼とが切り結んだ。
    「ユマが殺すのー」
    「ノマもー」
     双子となった少女達もあしらいながら、灼滅者達の攻撃は羅刹に集中し。
     朱那の引き起こした雷に撃ち抜かれ、和装の鬼も倒れた。
    「しっかし、何でまたアポリアの話に乗る気になったわけ?
     そんなにカリスマ性あんの?」
     挑発も含めて問いかけながら、未知は黒斗に加勢し。
    「何かの勢力に下るより、戦神頭に戦って、咲かせて果てれたらとでも?」
     供助も風の刃と共に、アンブレイカブルに声を投げる。
    「その果てに、何があるよ」
     だが相手の拳に迷いはなく。
     硬く、堅く、黒斗を殴り飛ばす。
    「指示を受けて待機とはいうけど、この状況じゃまるで捨て駒だな」
    「逆に私達に倒させる事が戦神の目的、とかはないと思いたいですけど」
     木乃葉の回復支援を受けながら呟く黒斗に、みんとも小さく首を振り。
    「こうなるのも織り込み済みで参加したのなら天晴れに思うよ」
     確かめるように覗き込む眼鏡越しの青瞳へと笑いかけてから、黒斗は立ち上がった。
     真っ直ぐに、アンブレイカブルと対峙して。
     数多の傷を負いながらも凄まじい勢いで繰り出される拳を見据えて。
     攻撃をかわしつつ、その腕をも足場にして黒斗は飛び越し背後に降りる。
     背中合わせの至近距離。
     僅かな差で先に振り向き、最期の一撃を入れたのは黒斗だった。
    「……見事」
     光剣に貫かれながら、満足そうに笑う男はそのまま姿を消す。
     ふぅ、と1つ息をついた、そこに。
    「後ろだ!」
     響いた供助の声に瞬時に反応したみんとが黒斗を庇い、深く切り裂かれた。
     傾いだみんとを抱えた黒斗が睨み付ける先に。
    「絵具が、なくなった」
     画家の六六六人衆が、血塗られたパレットナイフを手に立っていた。

    ●真紅の果て
    「画家先生のお出ましか。なら、こちらは早く片付けなければな」
    「いえいえ、遠慮なく今すぐあちらへどうぞ」
     呟く麗治に、デモノイドロードはゆるりとそう答える。
     そうはならないと理解していてなおの軽口だったが、麗治は言葉に従うかのように数歩後ろに下がって間を取った。
     蒼い青年が驚き、表情を顰めたその瞬間。
     陽太の影が、未知のオーラが、大和の霊障波が次々と飛び来る。
     一気に傷を深めた青年が弾幕の中でふと見上げると。
     畏れを纏った青い剣が大きく振り下ろされるところだった。
     そうして周囲で皆が他の敵を倒していくのを横目に、供助は画家と相対する。
     赤黒く汚れ着古されたつなぎに、手入れする暇があったら絵を描きたいと言いたげなほどぼさぼさの髪。洗っても落ちない程絵具汚れが染み込んだ手。
    (「知っている」)
     既視感に供助の眼光がさらに鋭くなる。
     目に見える姿そのものではない。
     描く赤しか見ない偏執を、だ。
    「紙一重だな。お前も、こいつも」
     呟いた言葉は、己の中の鬼に対して。
     偏執的に『うつくしい』ものを蒐集していた、羅刹の自分。
     画家の向こうに見える壁に描き出された赤を見る。
     鮮やかだ。
     でも。
    「命亡くしたこれを美しいとは思えない」
     画家に、そして己の中に、伝えるように言い切る。
    「くーさん……」
     気遣う声色に見やれば、傍らに並ぶ朱那がこちらを見上げていて。
     心配そうな妹分に、ふっと笑って見せると、視線で画家を示した。
     赤茶、黄、緑から深い青へと四色を持つベルトを飛ぶ鳥のように撃ち出せば、曇りも雨も吹き飛ばすように輝く空色のオーラが並走する。
     声を交わさなくとも繋がる連携。
     きっとこれこそが『うつくしい』ものと感じながら。
     振るわれるパレットナイフを一颯で捌き躱す。
     戦ううちに、皆も画家へと攻撃を揃えてきていた。
     黒斗の光剣が、麗治の青剣が、つなぎを切り裂き。
     1人っ子になった少女を撃ち抜いた陽太も、McMillan CMS5の照準を画家へと移す。
     パレットナイフの一閃を知識の鎧が庇う間に、みんとの戦闘用碑文から光の砲弾が撃ち出された。
     ふと、みんとは皆の盾となるべく立つ西洋の鎧甲冑姿をまじまじと見て。
    「知識の鎧が塗り上げられたら呪いの装備みたいじゃないですか」
     画家の画風と重ねてそんなことを呟く。
    「赤よりメタルの輝きのが好みです」
     言ってそっと触れた鎧甲冑は、変わらず、だがどこか誇らしげに佇む。
     まあねー、と未知も頷いて。
    「絵の具があれじゃなきゃ、確かに良い出来なんだけどな」
     芸術は難しいけれども、圧倒されるようなある種の美しさは伝わるから。
    「六六六人衆にならなきゃ普通に良い画家になれただろうに」
     惜しむように言う未知に、木乃葉がずいっと並んで画家を睨み据える。
    「人に迷惑をかけるダークネスは許しません!」
     特に六六六は! と意気込むその手の弓は、弦がぎりぎりと引き絞られていた。
     供助は、そんな仲間達を今一度見渡して。
    (「懸けるにしても、もう決めている」)
     自分を慕う妹分。
     未だ惑うあいつ。
     幸せを見守りたい奴らや、知らず巻き込まれてきてた人達。
    (「そういう奴らが描く先を見届ける方に、懸ける」)
     自身の胸元でぐっと手を握り、鼓動を感じながら。
     供助は思う。
     この命の使い道を。
     供助は感じる。
     そう思わせてくれる仲間達の存在を。
     だからこそ……。
     陽太が構える市街地戦用スナイパーライフルの銃身で魔術刻印が輝き、放たれた一撃は斬撃となって鋭く画家を切り裂いて。
     木乃葉の矢も、最後だからと癒しではなく鋭く光り、百億の星となって降り注ぐ。
     流星の中を朱那の雷が力強く稲光り。
    「くーさん!」
     声を合図にするまでもなく、供助はタイミングを合わせて飛び込んでいた。
     群青の飾り紐の付いた鞘から引き抜かれる、無銘の日本刀。
     鋭く輝く刀身は、迷いなく吹く風のように振り上げられて。
    「誰かを割いた果てに見るよな夢は、此処で」
     上段から重く振り下ろされた刃は、画家を断ち斬った。
    「絵……具、を……」
     倒れ伏した画家は、血に濡れた手を自らの壁画へと伸ばし。
     届かないまま事切れ、姿を消す。
     そして、瓦礫ばかりの廃ビルには、赤黒い壁画だけが残った。
     それでもしばし、みんと達は周囲を警戒して。
    「……増援とか、ないですよね?」
     ぽつり呟く木乃葉だが、心配は杞憂に終わるようだった。
    「となれば、長居は無用だな」
     撤収をと促す麗治に賛同の声が上がり。
     木乃葉も、かざされた未知の手にハイタッチをしつつ、歩き出す。
     フードを被り直した陽太は、戦闘時の無表情が嘘のように笑みを浮かべて。
    「さー、帰ろ」
     軽い口調で告げると、壁画から目を反らすようにくるりと背を向けた。

    作者:佐和 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年7月8日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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