戦神の軍団~掃滅のキリングフィールド

    作者:飛角龍馬

    ●寄せ集めのダークネス
     六月の長雨が倉庫の屋根を叩いていた。
     工業地帯の一角にある広く閑散とした空き倉庫だ。貨物の類は一つとてなく、代わりにデモノイドが八体、次々にやってきては待機状態に入っていた。
    「ヒョホホハハハハ! これまたデカブツどもが次々と! カレらも呼ばれて出てきたクチなのかな?」
     異様な光景を目にしながらも、血まみれのピエロが甲高い声で喋り続ける。
     八つ裂きピエロを名乗る六六六人衆の残党だ。
    「アナタもワタシもあぶれ者、行くアテもない寂しいヤツラ、てんでに集まり再就職? キミの意見はどうだろう?」
     笑い声をあげながらピエロが大仰な身振りで倉庫の片隅を指した。影から浮かび上がるようにして、小柄な少女が姿を現す。
     血が飛び散ったセーラー服。黒髪のボブに虚ろな瞳。どこにでもいそうな、しかしどう見ても異質な少女。
    「……知らない……私に振らないで……」
     表情一つ動かさずに呟いた。
     サイレントキラー、銚子塚静香。彼女もまた六六六人衆の生き残りだ。
     即ち、デモノイド含め、ここに集ったのは最新の情勢に疎く、アポリアの呼びかけに応じた野良ダークネスということになる。
     指定されたこの空き倉庫にただ集まっただけ。縁と言えば、それだけの縁だった。
    「おおなんと悲しい個人主義。差し出された手はいつか切り捨てるためにある!」
     おいおいとわざとらしく泣き始めるピエロ。ひとしきり泣き声をあげると段々それが狂的な笑い声に変わっていく。
    「…………うるさいなぁ……」
     静香は僅かに顔をしかめると、集結した八体のデモノイドに虚ろな目を向けた。

    ●イントロダクション
    「戦神アポリアが動き始めたようだ」
     琥楠堂・要(大学生エクスブレイン・dn0065)が敢えて落ち着いた口調で灼滅者達に切り出した。
    「情勢に疎い、はぐれ者のダークネスを集めた軍団の構築。それがアポリアの当面の狙いだと考えられる」
     そうして戦力を整えた後、何らかの行動を起こすつもりなのだろう。
    「武蔵坂に協力するエスパー達の情報もあり、現在、アポリアがダークネスを呼び出した地点が判明している。諸君には急ぎ現場の一つに向かって貰いたい。作戦目標はその場に集結した全ダークネスの灼滅となる」
     戦場は、倉庫街の一角にある広い空き倉庫だ。
    「アポリアの呼びかけに応じて集ったのは、六六六人衆が二体、デモノイドが八体。合計十体のダークネスだ。数は多いが、今回はこちらに勝機がある」
    「生命力賦活ね」
     隅の席で話を聞いていた橘・レティシア(サウンドソルジャー・dn0014)が言った。
     要は深く頷きを返して、
    「先の戦いで得たその力があれば、集結したダークネス達を圧倒することさえできる」
     力を込めて言い、説明を続ける。
    「今回のダークネス達は指定された場所にただ集まってきた、文字通り寄せ集めの集団に過ぎない。連携が取れていないこのタイミングこそ、仕掛けるチャンスだ」
     こちらを見て頂きたい、と要は黒板に書き出した敵の詳細を指示棒で指した。
    「今回の敵の中で最も強力なのが、サイレントキラーの二つ名を持つ六六六人衆、銚子塚静香だ。殺人鬼相当のサイキックと鋼糸、基本戦闘術を駆使するものと見られる。同じく六六六人衆の八つ裂きピエロは殺人鬼とチェーンソー剣相当の攻撃を使用する」
     他に八体のデモノイドがおり、デモノイドヒューマン相当の攻撃を仕掛けてくるが、これらは生命力賦活のブーストを得た灼滅者であれば容易く灼滅できてしまう敵だ。
    「繰り返しになるが、今回は生命力賦活の効果を得ながら敵戦力を削り取れる好機と言える。その力、どうか存分に振るって貰いたい」


    参加者
    椎木・なつみ(ディフェンスに定評のある・d00285)
    仙道・司(オウルバロン・d00813)
    香祭・悠花(ファルセット・d01386)
    神崎・摩耶(断崖の白百合・d05262)
    桜井・夕月(もふもふ信者の暴走黒獣・d13800)
    琶咲・輝乃(紡ぎし絆を想い守護を誓う者・d24803)
    饗庭・樹斉(沈黙の黄雪晃・d28385)
    チセ・ネニュファール(星彩睡蓮・d38509)

    ■リプレイ

    ●急襲
     空き倉庫に響き渡っていた道化の哄笑が、不自然に途切れた。
     正面の鉄扉が音を立てて開け放たれたからだ。
    「待ち人来たる。いや、この場合は来たらず、か?」
     真っ先に突入した神崎・摩耶(断崖の白百合・d05262)が小首を傾げる。黒絹のような長い髪をなびかせながら、猛毒の風を巻き起こした。
    「ヴェノム!」
     気合一声、旋風が黒々とした竜巻と化して、八体のデモノイドを同時に巻き込む。
     それだけではない。互いに距離を置いて立っていた六六六人衆には、琶咲・輝乃(紡ぎし絆を想い守護を誓う者・d24803)の放った罪を灼く光線が降り注ぎ、反撃のタイミングを見失わせていたのだ。
    「フヒョォォォォッ!?」
    「…………襲撃……」
     急襲してきた灼滅者達に、デモノイドの群れがようやく光線と酸を乱射し始める。
     そこへ狐耳を持つ金色の半獣人と化した饗庭・樹斉(沈黙の黄雪晃・d28385)が突っ込み、群集するデモノイドの間を駆けながら大剣による斬撃を加える。同時に桜井・夕月(もふもふ信者の暴走黒獣・d13800)が青い巨体を異形化した腕で殴り飛ばし、仙道・司(オウルバロン・d00813)が軽やかなステップで酸と光線を避けながら、デモノイドを纏めて縛る結界を展開。
    「随分と派手な登場になってしまいましたけれど」
     椎木・なつみ(ディフェンスに定評のある・d00285)が笑みを浮かべ、飛来する光線をオーラを纏わせた片腕で弾いた。
     縛霊手に力を込めながら、司が浮足立った敵群を前に小さく吐息する。
    「やはり所詮は寄せ集めに過ぎないということですか」
     そのすぐ後方では、既に他の灼滅者達も武器を構えて戦闘態勢に入っていた。
    「こうして一緒に戦うのも久しぶりですね、レティシアさん」
    「ええ、本当に……。ちょっと緊張するけれど、いつもより動けそう。頼もしい味方もいることだし、ね」
     ギターを抱えた香祭・悠花(ファルセット・d01386)に橘・レティシア(サウンドソルジャー・dn0014)が微笑みかける。雨降る道中でも差し障りのない程度に会話の花を咲かせていた二人に、足元で霊犬コセイが軽く吠えた。悠花がギターの弦を弾いて、
    「大丈夫、真剣に行きますよ! 争乱の芽を摘み取るのも大切なお仕事ですからね!」
    「これはこれは招かれざる客のご到来! 足の悪い中ようこそお越しを! 揃いも揃って解体されに来たのかなァ!?」
    「…………最悪……」
     ピエロが凶悪な笑い顔を作り、サイレントキラーを名乗る静香が毒づいた。
    「ピエロさんはとっても陽気。女子高生さんはとっても静か。プラスとマイナスみたい」
     チセ・ネニュファール(星彩睡蓮・d38509)が歌うように言葉を紡ぎながら、彼我の状態を素早く確認する。奇襲は成功したと言っていい。
    「何人も殺してきたみたいだし、手加減しなくても良さそうだよね?」
     桜井・夕月(もふもふ信者の暴走黒獣・d13800)が血まみれの六六六人衆に大鉈の切っ先を向けた。サウンドシャッターは摩耶が攻撃を仕掛ける前に展開済みだ。
    「ボクたちが護らなきゃいけないものに、危害が及ぶかもしれないなら……悪いけれど、灼滅させてもらうよ」
     琶咲・輝乃(紡ぎし絆を想い守護を誓う者・d24803)が言葉に力を込める。その雪白の相貌は半分が春の花に彩られた桃色の面に隠されていた。涼やかな勿忘草色に白を混ぜた着流しを纏い、背丈より大きい守護嵐弓を凛と構える。
    「――行こう、お父さん、お母さん」
    「It'sショータイム♪」
     ギターの弦を爪弾いて悠花がウインクを飛ばし、チセもまた澄んだ瞳に決意の光を宿して、白睡蓮が花開くロッドに力を込めた。
    「ここで倒しておかないと、きっと始まるのは血みどろな劇……。ここで防ぎます」

    ●乱戦
    「それでは舞台の始まり始まり! 寄り集まったデモノイド、お腹をすかせて死ぬほど真っ青! 真っ赤なソースで味付けしよう!」
     八つ裂きピエロがチェーンソーの駆動音を響かせながら振り回す。
    「あんなに煩いんじゃ何処にも受け入れてもらえないんじゃないかなー……」
     両耳をぱたりと動かすと、樹斉が儀礼用とされる大剣を手に駆け出した。
    「まあでも、再就職前に倒れてさようならー、ってのもよくある話か」
     まずはデモノイドからと、再び青い巨体の群れに突っ込んでいく。
     ソード形態を取ったデモノイドの腕が次々に振り下ろされる死地を霊犬ティンが掻い潜り、群れのただ中で摩耶が剣とナイフで攻撃を捌く。斬艦刀を振り回して剣舞さながらに斬り込んできた樹斉と背中合わせになった。
    「神崎センパイ」
    「ああ、任せてくれ」
     囲まれる形になった二人に数体分の豪腕が落ちてくる間際、
    「鏖殺!」
     摩耶が漆黒の殺気を巻き起こし、デモノイドの群れを纏めて切り裂き圧倒する。
    「ここで倒さないと、きっと傷つく人がいる……だから」
     よろけたデモノイドに輝乃が踏み込む。古武術の要領か、見上げるほどの敵に輝乃は腰を落として異形化した豪腕を叩き込んだ。鋭い爪を持つ龍の腕に打ち貫かれた巨体が溶け崩れる。輝乃の背後に別のデモノイドが迫ると、その足下から円形の影が持ち上がった。
    「させない」
     生命力賦活の力を実感しながら、チセが影を操る。暗幕で包むように影がデモノイドを呑み込み、圧壊。生き残りが溶解液を噴出し、距離を取っていた悠花に飛来した。
    「わ、とと……! これは流石に服が溶けるとかじゃ済まされませんねー!」
     慌て気味に避けた悠花が、穴の空いた床を見て顔をひきつらせる。陽気に移り変わる表情が今度は不敵な笑みとなり、
    「さあコセイ、わたしたちで支えますよ!」
    「わふっ!」
     悠花が癒しのアルペジオを奏で、コセイが浄霊眼を飛ばす。ウイングキャットのアリアーナもリングを光らせて敵群の中で戦う灼滅者達に癒しの力を送る。
    「なんだかイヤーな感じがする。させないよ……!」
     死角から前衛に躍りかかろうとした道化師の気配を察して、狐獣人に姿を変えた樹斉が精神を苛む歌を奏でる。夕月も複数の尾を持つ影の獣を操って道化師にけしかけた。
    「折角だ、名前を訊いておきましょう」
     道化服を切り裂かれ自身の血潮に塗れながらも、ピエロが影の刃をチェーンソーで弾き続けて、
    「フヒョホホホホ、聞きたいか! 我こそは八つ裂きピエロ!!」
    「いやそれ名前……まあいいか」
     殺気を飛ばそうとしたピエロの前にティンが割って入り、その場を相棒に任せて夕月がデモノイドに迫る。
     戦場は正に乱戦の様相を呈していた。
     樹斉が飛び蹴りを見舞おうと足に力を込めた時、生き残ったデモノイド達の巨体の間で殺気が瞬いた。
    「残念ですが見えています。させませんよ……!」
     デモノイドの群れを遮蔽物扱いにして迫った静香が、樹斉を鋼糸で切り裂こうとする直前。太極拳に似た構えを取ったなつみが掌に光を集め、緩やかな腕の動きから一気に力を解放した。
    「…………邪魔……」
     空中で身を捻って光の散弾を防ぎ、静香は着地。そのまま攻撃目標をなつみに変更。
     高速移動から放たれる鋼糸が縦横無尽に襲いかかる。急所への攻撃は極力避けて防ぐが、ガードの上から斬撃が刻まれていく。
    「好き勝手にさせるとでも?」
     司が静香に剣で斬りかかって引き離し、掌に込めた癒しの光をなつみに飛ばした。
     残存するデモノイドが背にした砲塔から光線を放つが、灼滅者を捉えることさえ難しい。
     高く跳んで放射される光線を避けながら、樹斉が急降下からの蹴りをぶち込んだ。
    「行くあてをなくした野良デモノイド……ここでおやすみなさい」
     白睡蓮を花開かせたロッドをチセが掲げると、引き起こされた雷に撃たれて青い巨体が消滅する。
    「無理しないでね、レティシア」
    「ええ、でも支援くらいなら……!」
     頷いた輝乃が守護嵐弓を構え、防御に回る司の傷をレティシアの歌声が癒やす。
    「ごめん、あ・そ・ば・せ♪」
     悠花が砲撃と酸を掻い潜ってデモノイドにギターを振り下ろし、すぐに離脱。
     そこへ輝乃の放った無数の矢が降り注いだ。
    「今だよ!」
     大剣を手に樹斉が叫ぶ。
    「これで決める――!」
     夕月が跳躍し、渾身の力で大鉈を振り下ろした。
     強力な斬撃に残存していたデモノイドが纏めて断たれ、青い液体に溶け崩れて蒸発する。
    「さて、これで残るはお前達だけだな」
     摩耶に剣の切っ先を突きつけられたピエロが怯えた素振りから一転。
     恭しく一礼した。
    「前座のカレ等はこれにて退場。……ここから地獄の始まりだ!」

    ●明暗
     ピエロの周囲に黒い気配が燃え上がり、笑い叫ぶ道化師の顔が幾つも浮かび上がった。
    「……趣味の悪い」
     殺到する黒い道化師の一群に切り裂かれながら司がバックステップで引き付ける。
    「そんなに器用な芸ができるんだったら、音楽だって欲しくなーい?」
     樹斉が言うと狐獣人に姿を変え、意識を揺るがす歌を紡いだ。
     頭を抱えた道化師を摩耶が不可視の剣で一閃。
    「ヒョハアァッ!?」
     辛くも跳躍して避けた道化師に、夕月が涼やかな顔で一言。
    「惜しい。足元注意でした」
     足下に展開していた影の中で多尾の獣が毛を逆立て、ピエロを串刺しにする。ピエロは勢いのまま宙に投げ出され、不細工な声をあげて地面に転がった。
    「分かりませんね。殺戮の衝動は、人を害する悦楽は、そんなに強いのですか」
    「…………言葉にする必要、あるの……?」
    「ああ、問う価値もありませんでしたね」
     司が襲い来る鋼糸を剣で弾き、チェーンソーを振り回す八つ裂きピエロをティンが翻弄。態勢を整えたなつみがピエロを迎え撃った。
    「大振りですね。これくらいなら対処は可能です」
     横薙ぎの斬撃を腕で弾き、振り下ろしをオーラを纏った掌で受け止める。
     斬撃が刻まれたなつみの腕と足を、悠花が即座にダイダロスベルトで応急処置。
     道化師が驚きの表情を浮かべた瞬間、その顔面に樹斉が飛び蹴りを炸裂させた。起き上がったピエロが鼻息も荒く怒りを露わにする。
    「全く見事な道化だな。寧ろ感心させられる」
     解体ナイフを閃かせる摩耶。反撃に出るピエロを見て後退、振り下ろしの一撃を、割って入った司が縛霊手で受け止めた。
    「油断しないで、まず弱ったピエロから狙っていこう」
     冷静に声掛けする輝乃がホルンの音色を聴く。人形に視線を送ると、罪を灼く守護の光線が放たれ、静香とピエロを同時に襲った。
    「さあ、即興のライブといきましょー!」
    「ええ、歌は任せて」
     悠花がギターを構えて弦をストローク。力強くそれでいて華やかなサウンドに、レティシアが歌声を乗せる。音の波動に顔を歪めた道化師の横合いから夕月が拳を叩き込んだ。
     チセがふらふらと立ち上がるピエロを瞳に映して。
    「貴方の劇はここでお仕舞い。きっとずっと孤独な一人芝居だったのね……」
     チェーンソーを振りかぶって襲い来るピエロの体に鋼糸を巻き付かせる。
     道化の幕切れは呆気なく。
     チセの操る鋼糸によってピエロが幾つもの肉片に分断され、地に落ちた。
     静香は気にもかけず、闇そのものとなって飛び回り、死角を探る。
     静香の繰り出される攻撃は流石に重いが、それでも攻撃対象が絞られていれば対策は取り易いと言える。
    「壁役の一人さえ倒せないなんて、六六六人衆の名折れですね」
     怒りを与えて引きつけ、満身を朱に染めながら、なつみが尚も静香に接近。ナイフを翻した静香と手刀で打ち合う。その間も悠花を始めとする回復担当が癒しの力をなつみに集中。
     再び輝乃が守護嵐弓を構え、矢を引き絞る。
     一時離脱した静香に対し、夕月が大雑把に風を巻き起こした。
    「動き回るのであれば――これで」
     放たれた風の刃は目標を切り裂いて飛び、守護嵐弓から放たれた無数の矢を身に受けて遂に静香が態勢を崩した。
    「ようやく隙を見せたな」
     踏み込んだ摩耶のトラウナックルが静香の血にまみれたセーラー服にめり込む。
    「……ガ……ハ、ッ……」
    「無様ですね」
     苦しむ静香に、司が長剣の切っ先を向けて言った。
    「まさに道化だ。あのピエロも――そして、貴女も」
     同情を懐く相手ではない。それでも寄せ集めの彼等に哀れみを覚えてしまうのは、灼滅者と学園の成り立ち故か。或いは生命力賦活の力を得て敵を圧倒しているからか。
     ようやく不利を察し、静香が怒りを押し殺しながら床を蹴った。
     逃亡を予期して鉄扉の前に立っていたチセが、白睡蓮の杖を手に小さく首を振る。
    「星の巡りが悪かったのね……」
     静香が驚きに目を見開いた。
     ――運が良かったから今がある。運がなかったら違う今だった。この場にいなかったかもしれない。
     放浪中に聞いた言葉をチセは思い起こす。
    (「だから――どこかで掛け間違いが起きていたら、野良になっていたのは私達だったかもしれないわ」)
     闇を纏う少女の細身に、チセは狙い過たずロッドを炸裂させた。
     床に転がった静香がそれでも尚、灼滅者達を突破しようと跳び、司が結界を張り巡らして敵を縛り付ける。
    「時流も読めず、衝動も抑えられず、子も成せない……。挙げ句、この最期とは」
     容赦なく縛霊手に力を込めながら、天井を仰ぐ。
     ――ああ、ダークネスとはかくも哀れな生き物でしたか。
    「それじゃ、来世か地獄でまた会おう」
     影によって形成された多尾の獣が、全身から刃を飛ばして静香の身体を切り刻み、
    「ここまでだ。闇は闇に、塵は塵に還れ。灼滅!」
     摩耶の剣が静香に幾筋もの斬撃の閃かせ、跡形もなく消滅させた。

    ●道行
     掃討戦の幕は閉じた。静けさの戻った空き倉庫に、小さく雨音が入ってくる。
    「雨宿りしているわけにもいかないし、帰ろうか」
     倉庫の片隅に転がしていた傘にティンが駆け寄る。夕月が屈んで相棒の頭を撫でた。
    「レティシアさーん、勝ちましたよー!」
     悠花がレティシアにハグしに行く。戦いの緊張が解けて安堵しながら、レティシアも笑みを零して悠花の背に手を添えた。
    「連携の勝利ね。私もいつもより良い歌を唄えたみたい」
    「いい動きだったぞ」
     見れば、摩耶がコセイの背を撫でてやっている。
    「なつみさん、大丈夫ですか?」
    「ええ、なんとか。普段より無理がききましたから」
     心配げな輝乃の声掛けに、なつみが笑顔を浮かべて応えた。受けた傷も、生命力賦活の効果でそう時を要さず全快するだろう。
    「やはりアポリアは来ませんか。姿を見せたら全力で倒すつもりでしたが」
     司が軽く拳を握りしめながら小さく呟いた。
    「……それでも。どこかで助けたい自分もいますけれど」
     戦いを交えるとなれば、相応の覚悟を持って臨まなければならない――司は思い巡らしていたが、元気に吠えるコセイに微笑んだ。
    「色々戦力集めてるみたいだけど、どうやって連絡したのかなー……」
    「どうなのかしら。まず寄せ集めを纏め上げられるのかも疑問だけれど」
     金髪のぽっちゃりした少年の姿を取った樹斉が首を傾げ、チセが応じた。
     いずれにせよ、これで一つ敵の狙いを潰すことができたのは間違いない。この戦果は来るべき戦いへの布石となるだろう。
    「これを置いて行くとしよう。一応、な」
     摩耶の手には青く小ぶりな花弁が美しい花束が握られていた。
    「勿忘草ですか」
     呟くように口にすると、頷きが返ってくる。
     輝乃にとって馴染みの深い花だ。
     花言葉を思い浮かべ、その意味に思いを馳せる。
     生き抜く理由があり、護り抜きたい人がいる。
     倉庫の中心に無造作に置かれた花束を見ながら、輝乃は誓いを新たにするのだった。

    作者:飛角龍馬 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年7月4日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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