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交通量の多い国道から外れた場所に位置する廃工場。
月明かりが差し込む穴だらけの屋根の下。集結した血気盛んなダークネスたちの間には、早速一触即発の空気がにじみ出す。
「颯月さんとかいったチンピラさん。サイキックハーツの状態もロクに理解していないのに、親分気取りは遠慮しやがれですよ」
「ああ? あんたの脳ミソにはその乳よりも身が詰まってんのか? アザミさんよぉ」
取り巻きの羅刹3人と、筋骨隆々のまさにチンピラ風情といった颯月はゲラゲラと笑い出した。
Aカップスレンダーの六六六人衆・アザミは、颯月のセクハラ発言に静かに殺気を募らせ、ベルトから2本のナイフを抜いた。アザミの実力を知る他の六六六人衆2人は、とばっちりを受けるのを恐れて遠巻きに眺め出す。
「てめぇの単細胞脳ミソを今ここでぶちまけやがれです!」
「やってみろや!」
1人のデモノイドロードは息巻く2人を傍観していたが、「やめろ」という一言を発した直後に2人の間に閃光を走らせた。その向こうにあったがれきの一部は、ロードから放たれた光線を受けて液状になるまで溶解していく。
「無駄な諍いで消耗する時ではない。貴様らの力をここで無用に振るっても利益はないぞ? それでも続けるか?」
5体の凶暴なデモノイドを付き従え、半身を寄生体に侵食されたロードが凄むように諭すと、「まあ、いいでしょう」とアザミは渋々武器を納めた。
「私たちは一応チームです、おーけー? デモローさん? もっと縮めてローさんでいいですか?」
アザミに尋ねられたロードは、どうでもよさそうに「好きにしろ」と答えた。
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「闇堕ちからの救出に成功した皆はおめでとう。おおむね帰って来ることはできたけど――」
眉間に皺を寄せて言葉を継ぐ暮森・結人(未来と光を結ぶエクスブレイン・dn0226)は、六六六人衆のハンドレッドナンバー、戦神アポリアの逃走を許してしまった現状についても触れた。
「戦神アポリア……かつての狐雅原・あきらさんが救出を望まなかった以上は仕方ないんよ。とにかく今は、動き出したアポリアを妨害してほしい」
予測から集めた情報によれば、アポリアはどのサイキックハーツの勢力にも属していない野良ダークネス達を集め、自分の軍団を作ろうとしているようだ。彼の目的が、第三勢力の結成であるのか、或いは、戦争に介入して場を荒らそうとしているのか、それとも、既に何れかのサイキックハーツ勢力に協力している状態なのかは不明である。
「とりあえず、きな臭い動きは潰すに限るんよ。アポリアが招集をかけたダークネスたちが集まる場所はわかってる。君らには廃工場にいるダークネスたちを灼滅してもらいたい」
寄せ集めの野良ダークネスたちは計13体。中でも抜きん出た実力の首領格は3体。他10体は瞬殺されても不思議ではない雑魚だが、羅刹の颯月、六六六人衆のアザミ、唯一のデモノイドロードはただではやられない気配が濃厚だ。しかし、チームとしての連帯感はお粗末なものだろう。
『まあ、俺たちはなんやかんやで無双モード状態だから――』と、招集された灼滅者の1人の月白・未光(狂想のホリゾンブルー・dn0237)は口を挟む。
「数だけの野良たちなら充分対抗できる的なあれでしょ?」
先の戦争の影響もあり、殲術再生弾の効果が途切れなくなっている現象に未光は触れたが、あやふやな認識を示した。そんな未光に対し、「よくわかってないだろ、お前」と結人は冷たい視線を送ると、更にアポリアがダークネスたちと接触する可能性についても話す。
「その場に集まったダークネスたちの目的は、アポリアと接触することかもしれんけど、アポリア自身が現れるとは限らないんよ。各地で同時に集結する動きがあるから、どこかには現れるかもしれんけど……会える確率は微妙なとこだね」
参加者 | |
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イヴ・ハウディーン(ドラゴンシェリフ・d30488) |
鑢・真理亜(月光・d31199) |
華上・玲子(は鏡餅を推します・d36497) |
手折・伊与(今治の剣姫・d36878) |
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ロードが好きにしろとつぶやいた直後、夜闇に紛れて迅速に忍び寄る気配があった。
闇が更に濃さを増すような不穏な気配、悪寒を覚えるほどの殺気に包まれ、颯月を始めとする羅刹たちは、鬼の腕へと変異する片腕を現した。
開け放たれたままのシャッターの向こうに複数の人影を認め、臨戦態勢に入るダークネスたち。
ダークネスらと対峙した華上・玲子(は鏡餅を推します・d36497)は、瞬時にエネルギー障壁を展開する。
「何を企んでいるか知らないけど、ここで止めるなり!」
玲子は「いくのよ、白餅さん!」とナノナノの白餅さんに指示を出し、発生させた竜巻で羅刹たちを煽る。
暴風にも怯まないアザミは髪を振り乱し、両手にナイフを構えて向かってくる。
「止まるのはてめぇらの息の根ですよ、灼滅者!」
玲子の死角へと回り込むアザミの速さに反応は追いつかず、視界に残像だけを残すアザミに翻弄されそうになる。しかし、ビハインドのギャル子さんは玲子に向かった凶刃を受け止めに向かった。
自在に伸縮するベルトを操る手折・伊与(今治の剣姫・d36878)は、
「アポリアと合流するのはあきらめてもらうよ!」
複数の先端を羅刹たちに向けて伸ばす。鋭く射出されたベルトは羅刹の1人を絡め取り、勢いよく叩きつけられた体は壁をぶち抜いて起き上がらなくなる。ビハインドの闇さんとギャル子さんも続き、手下の羅刹の1体へ襲いかかった。
「呼んだ覚えはねえぞ、姉ちゃん共」
そうつぶやく颯月は、「お仕置きしてやらねえとなぁ」とよこしまな笑みを浮かべる。
もう1人の手下の羅刹へと斬りかかったのは月白・未光(狂想のホリゾンブルー・dn0237)。
刀を構えると共に足元から噴出する青白い炎は、人狼の能力を象徴する。刃を鋭く振り下ろす未光の迫力に圧倒された手下は斬り伏せられ、羅刹は颯月のみを残す。
双眸にぎらつく殺意をたたえながら、颯月を嘲笑する未光は言った。
「冥土の土産に、この楽園(ハーレム)を指をくわえて見てるくらいの権利はあげてやらんこともないよ」
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颯月が巻き起こす吹き荒れる風の流れは鋭い刃と化し、調子に乗る未光を切り刻もうと向かっていく。咆哮するデモノイドたちも攻撃を投げかけ、混戦を極め始める。
「役に立たないですね。まともな肉盾にすらならないとは――」
手下の羅刹たちが排除された現状に対し、腹立たしそうにつぶやくアザミ。
「数の力だけじゃ、オレたちは倒せないぜ!」
腕に装着した巨大な杭打ち機を軽々と操るイヴ・ハウディーン(ドラゴンシェリフ・d30488)は、威勢良く言い放つ。
続々と繰り出される攻撃が交わり、鑢・真理亜(月光・d31199)は攻撃を受けた者に目を配る。
「私が守る限り、無駄です」
真理亜の操る護符は対象に吸い寄せられるように貼りつき、守護の力を注ぎ込んでいく。
凶暴に牙をむくデモノイドらは次々と攻撃を放つが、それに対抗してエネルギー障壁を展開する玲子は皆の反撃を後押しし、伊与と未光は巨体を確実に沈めていく。
攻勢を緩めずに動き回る女性陣。そろいもそろって揺れる爆乳が嫌でも目につき、颯月に貧乳をいじられたばかりのアザミは当てつけがましい光景に1人苛立ちを募らせ、「これ見よがしに揺らしてんじゃねえ!」と怒鳴り散らす。
「その脂肪、削り取ってやろうかああああ!」
衝動的に玲子へと刃を振り向ける。
冷静に太刀筋を見極める玲子はアザミの刃をかわし続けるが、その隙につけ入ろうと配下の六六六人衆2人が迫る。ギャル子さんと闇さんは玲子の盾となるように六六六人衆と応戦し、相手を分断するように食い下がる。
更に玲子に攻撃を集中させようとする颯月は鬼の片腕を振りかざすが、杭打ち機をドリルのように回転させながら迫るイヴに気を取られた。
全力を傾けたイヴの一撃は、身を翻す颯月によって食い止められる。杭打ち機の根本をつかんで押し返そうとする颯月だが、颯月とせり合うイヴはす鋭い杭の先端を押しつけようと抵抗を続けた。
せり合う両者を尻目に、最後の1体となったデモノイドは強力な酸の塊を飛び散らせる。
「痛……っ!」
デモノイドの相手を担い続けた伊予は、酸でただれた指先の傷にも耐え、暴れ回るデモノイドの隙を窺う。
「無理は禁物ですよ」
護符を手にした真理亜が伊予の傷の治癒を促進させると、その様子を捉えたデモノイドは真理亜に攻撃を向ける。
真っ青な口腔から吐き出された死の光線は地面を線状にえぐり、溶解させていく。反射的に放たれた光線を察知した真理亜だが、わずかに光線が触れた左腕をかばうように後退していく。
「女の子の肌になんてことすんだ!」
そう憤慨する未光にデモノイドの注意が向けられる。その瞬間にはすでにデモノイドの目の前で刃が閃き、未光の刀がデモノイドの片腕を斬り落とした。
苦悶の咆哮をあげるデモノイドに対し、未光は流れるような動きでとどめを刺す。その巨体の顎下から頭部までを刀で貫き、最後のデモノイドを葬った。
構えたギターの音色を奏でる玲子は、メロディに乗せてサイキックの力を発動した。皆の気力をみなぎらせ、現状の勢いを保つことに傾注する。白餅さんもハートの形のエナジーを送り込み、負傷した者に力を浸透させていく。
配下を潰されたロードは、右手を覆う寄生体の間から鋭い刃を生成し、剣身として振りかざす。本格的に攻勢を強め肉薄するロード。玲子とロード、イヴと颯月は互いに相手を圧倒しようと接近戦を仕掛ける。
援護に乗り出す伊与は、玲子に刃を向けるロードに対しベルトを射出した。ロードは素早い反応を見せ、難なくベルトを弾く。更に寄生体の触手に集束されるエナジーは、光線となって伊与へ放たれる。
怯む間もなく攻撃は続き、激しく入れ替わる攻守。イヴに加勢して颯月を追い詰めていく真理亜は、
「ここで消えてもらいます」
鬼神化させた異形の腕を武器に交戦する。
「オレたちの邪魔だけはさせないぜ!」
イヴから勢いよく放たれた蹴りは颯月を突き飛ばすが、颯月は苦悶の表情を浮かべながらも踏み止まる。「なめるなよ、小娘!」と意気込んだものの、おぼつかない颯月の足取りを見兼ねたロードは、とどめを刺そうとする真理亜に斬りかかった。鋭く迫ったロードの攻撃にも真理亜の意志は揺るがず、相手をはね退ける勢いで颯月を狙う。
放たれた巨大な拳が颯月を穿つように達し、その体は崩れ落ちる。
「鼻の下伸ばしてるだけのおっさんと一緒にしやがるなですよ!」
そう息巻くアザミは、スピードで灼滅者らを圧倒しようとする。好戦的なアザミに先導され、配下の2人も勢いづく。交わる攻撃が激しく火花を散らし、ロードを確実に追い詰めながらアザミの猛攻にも耐え抜く。
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伊与から射出されたベルトによって肩を貫かれるロード。イヴはロードが怯んだ一瞬の隙をついて、杭打ち機の先端を突き立てる。ロードが事切れる様子を認めたアザミは、
「本当に邪魔くさいですね!」
全員を蹴散らす勢いでナイフを振るアザミに対し、イヴは真っ向から迎え撃つ。攻撃に専念するイヴに向けて、真理亜は油断なく護符の力を発揮していく。
伊与の剣は刃をつなぎ合わせた鞭剣に一振りで変形し、配下の2人を掃討するために容赦なく振り向けられる。真理亜が操る風の刃が1人を翻弄し、未光がとどめの一撃を放つと、「お姉さんは自分の需要をわかってないな」と出し抜けに言った。
「小さいことを恥じらうからこそかわいいのだよ――」
そう続けた瞬間、アザミの膝打ちが未光の顔面を強打し、アザミは着地した瞬間火に油を注がれたように吠えまくる。
「そんなん気にしてねえもん! 同情される筋合いなんか皆無ですよ!」
未光はだらだらと鼻血を垂らしながらも刃を翻し、
「アグレッシブな照れ隠し、嫌いじゃないね!」
アザミと対峙した途端に絡み始める未光を見て、玲子やイヴは真理亜の様子をハラハラした面持ちで気にかける。案の定冷徹さを増していく真理亜の表情。真理亜の放つ殺気に感化され、どこか青ざめる伊与だが、射出されるベルトは確実に最後の手下を葬った。
玲子は手の甲を中心にしてシールドを広げ、その下で握った拳をアザミへと振り抜く。アザミも躊躇なくナイフを振り抜いたが、刃はシールドに弾かれ、打撃を受けるアザミは大きく突き放された。
頭に血がのぼっていることもあり、アザミはがむしゃらにナイフを振り向け、攻撃を繰り返す。
イヴは装着した杭打ち機を盾にしてアザミの攻撃を防ぎつつ、忍ばせた鋏でアザミに反撃する機会を窺っていた。
真理亜が風の刃となって押し寄せる暴風をアザミへと差し向けた瞬間、イヴは風の流れる先へとアザミを押しやるように動き、アザミの間合いへと一気に踏み込んだ。イヴからの一撃が致命傷に達すると同時に、アザミの体はサイキックエナジーとして分解されるように粒子化し、崩壊する体は宙へと散った。
「大学生になっても変わらないなりな、月白くんは」
鼻血の跡をふく未光を見つめ、玲子は苦笑しながらつぶやいた。
闇さんの後ろに隠れるようにして未光に視線を向ける真理亜は、何か言いたそうな雰囲気をかもし出す。その視線に気づいた未光は、何気なく声をかける。
「お疲れ、真理亜ちゃん♪ 怪我、痛いところとかない? だいじょぶ?」
顔を覗き込むようにして視線を合わせる未光に対し、真理亜は更に闇さんの影に隠れ、「いえ、大丈夫です」と恥ずかしそうに言った。
真理亜の様子をどこか不思議そうに見つめる未光だったが、伊与の一言にその関心は切り替わる。
「月白君。テスト終わったら、合コンに行かない?」
「行くよ! 絶対行くよ!」
と、瞬時に反応を返す未光の背中に、途端に冷め切った表情になる真理亜の視線が突き刺さる。
玲子は慌てたように未光に耳打ちした。
「月白君。どこかの後輩ちゃんに去勢される前に、考え直した方がいいなり」
作者:夏雨 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2018年7月9日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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