骨組みだけが闇に浮かび上がる、空虚な工事現場跡地。おそらくは建設途中で事業が中止になったままなのだろう。じゃり、と砂を踏む足跡を聞いて、最初からそこにいた方の影が澄んだ声を上げた。
「あら、あなた達もアポリアに声をかけられたんですか?」
長い髪をかき上げ、すらりとした肢体の美少女がくすりと笑んだ。
肩を出した体のラインに沿うドレスに身を包んだデモノイドロードである。彼女の背後には数体のデモノイドが取り巻きのように従っていた。
新たに現れた方の集団は六六六人衆の若者たちで、いずれも荒んだ顔つきをしている。彼らの境遇を思えば、それも無理はない。既に母体となる組織は壊滅し、行き場を亡くした彼らは流れ着くようにして今回の招集に応じたのだった。
「ねえ、せっかく同じ船に乗ろうとしているんですから、楽しくいきません?」
「うるせぇな……」
集団の中から、ぼさぼさの長い髪を背に流した長身の男が進み出る。
「俺達は仲間じゃねえ。馴れ合いはよしてくんな」
あら、とデモノイドロードの少女は唇に指を当てて首を傾げた。
「つれないんですね」
「ちっ……」
舌打ちと同時に男の放つ闇がその場にいたもの全てを血霧のような靄の中へと引きずり込んだ。
「ひっ――」
影で様子を伺っていた他のダークネスたちが悲鳴を上げる。
「どうやら、誰が1番強いか先に白黒つけといた方がいいらしいな。その方が後々スムーズだ。他にも腕に覚えのある奴は前に出ろ」
「じゃ、俺。立候補」
飄々と手を挙げたのは、ヘアバンドを巻いた金髪の青年。
「……」
もう1人、癖のある髪を二つに結んだ幼い少女が進み出た。
「あらあら。まあ、私たちを招集した戦神アポリアから次の指示があるまで暇なことには違いないし……お相手してあげても構いませんよ」
デモノイドロードの少女は可憐な笑顔とは裏腹に、自らの右手を禍々しいほどの大鎌へと変貌させてゆく。
暗闇の中、一触即発の気配が工場跡地に満ちていた。
「闇堕ちからの救出に向かった灼滅者たちを返り討ちにした戦神アポリアが動き出したみたいだ」
村上・麻人(大学生エクスブレイン・dn0224)は集まった灼滅者を見渡して、依頼の説明を始める。
「残念だけど、狐雅原・あきら本人も救出は望んでいなかったようだから仕方がないのかもね。その彼がどうやら、どのサイキックハーツの勢力にも属していない野良のダークネスばかりを集めて軍団を作り上げようとしているみたいなんだ」
その目的はいまだ不明。
もしかしたら既にどこかのサイキックハーツ勢力に身を寄せているのかもしれないし、あるいは第三の勢力として戦争に介入しようとしているのかもしれない、が――いずれにしても、放っておけば脅威となることは間違いない。
「これは学園に協力してくれているエスパーの助力もあって判明した集合場所の地図だ。建設途中で止まったままの工事現場。ここに、全部で15体のダークネスが集まっている」
急ぎここへ向かってダークネスの灼滅をお願いできるかい、とエクスブレインは集まった灼滅者達に告げた。
「工場跡地に集まっているダークネスは大きく分けて3種類だ」
ひとつは、デモノイドの群れとそれを従えた少女のデモノイドロード。全部で6体いるデモノイドは思考力が低く、彼女の命令のまま動くようだ。
「デモノイドロードの名前はイオ。咎人の大鎌のような遠列の攻撃を得意とする中衛だ。他のデモノイドは全て後衛から、デモノイドヒューマンと同等の遠単攻撃を使ってくる。デモノイドロードの少女を狙う敵か、そうでなければ自分たちに近い位置にいる者から倒そうとするだろう」
次に、六六六人衆が5体。
中でも強いのが3人いて、解体ナイフ 相当の武器を扱う長髪の男、梶井。杖――マテリアルロッド相当と考えていいだろう――を使うヘアバンドの青年、慶。天星弓に似た巨大なボウガンを持った10歳くらいの少女、実夜は先述のデモノイドロードと互角の力を備えている。
「ただし、こちらの3人はデモノイド勢と違って連携を取らない。ボウガンの女の子が後衛で、髪の長い男とヘアバンドの青年が前衛だ。戦い方については、後衛は迎撃型……つまり、自分を狙う敵を迎え撃つ形を好み、前衛の方は自ら撃って出ると思われる。ただ、連携しないとは言ってもさすがに灼滅者の襲撃を受けながら仲間割れを続けるとは思えないから、彼らを潰し合わせる、というのは難しいと思って間違いないだろうね」
そして、最後は残った他の3体。
これは1体が淫魔の男、2体が羅刹の男だが、能力的にはデモノイドロード達より劣るため、残りの六六六人衆と同じく今の灼滅者達の脅威にはならないと思われる。
「こうやって集めたダークネスをアポリアはどうやって自分の軍団に組み込むつもりなのか……。君たちならアポリアの企みを止めてくれると、期待しているよ」
気を付けて、とエクスブレインは声をひそめた。
「なにしろ、拠り所を失った奴等だからね。他に行き場のない彼らには、失うものなどもはやないのだろうから」
参加者 | |
---|---|
夜鷹・治胡(カオティックフレア・d02486) |
楯守・盾衛(シールドスパイカ・d03757) |
城守・千波耶(裏腹ラプンツェル・d07563) |
咬山・千尋(夜を征く者・d07814) |
関島・峻(ヴリヒスモス・d08229) |
遠藤・穣(反抗期デモノイドヒューマン・d17888) |
セレス・ホークウィンド(白楽天・d25000) |
ミーア・アルバーティ(猫メイドシスターズ・d35455) |
●乱入、闇の中へ――
「あらあら。まあ、私たちを招集した戦神アポリアから次の指示があるまで暇なことには違いないし……お相手してあげても構いませんよ」
イオの右腕が大鎌へと変化してゆく。
相対する六六六人衆たちもまた、各々が持つ武器を構えたその時だ。
カッ――。
金属を蹴る音が闇の中に響いた。
「なんだ?」
張り詰めていた緊張の糸が僅かに緩んだ彼らのすぐ傍でパッ、と光を灯したケミカルライトがスイングする。
「!?」
いつの間にか紛れ込んでいた楯守・盾衛(シールドスパイカ・d03757)がそこにいた。両手の指に八本のケミカルライトを挟み込み、にィ、と唇を釣り上げて笑む。額の上には暗視スコープ。闇に紛れ、気配を悟らせないままに近づいていたのだった。
「右に左のお客サマ、商売繁盛・千客万来・一日一善・焼肉定食、ドーモあなたの武蔵坂★DEATH!」
言い終えると同時に四方から投げ込まれた大量のケミカルライトが、出鼻をくじかれたダークネスたちの驚愕した表情を闇に浮かび上がらせる。
「灼滅者の野郎か――!!」
梶井が叫び、
「そうだ。察しが良くて助かるよ」
彼らの頭上、ライトの明かりすら届かない突き出した鉄骨の上で炎翼のウイングキャットを従えた夜鷹・治胡(カオティックフレア・d02486)が帽子を深く被り直した。
「ダークネスの寄せ集めか……放っといたら殺し合うヤツらが全てじゃ無いだろーが、果たして軍団として纏まるんかね」
「…………」
関島・峻(ヴリヒスモス・d08229)の沈黙に、治胡は首を傾げた。
「どうした?」
「ああ、いや。なんでもない、行こう」
胸を過ぎる一抹の遣る瀬無さを振り切り、峻は微笑んだ。
背後に聳え立つ、未完成のまま打ち捨てられた建築物。似ているような気がしたのだ。拠り所を失い、他に行き場のない彼らの姿に。
「――」
峻は目を細め、治胡と共に敵の群れ目がけて跳んだ。
初夏の夜風を切って、戦場へと舞い降りる。
「ちっ、てめえら邪魔すんなよおっ!!」
なりふり舞わず突っ込んでくる大柄な淫魔と黒服の羅刹達の前に進み出たのは、不敵な笑みを浮かべ、妖気を放つ長剣を手にした咬山・千尋(夜を征く者・d07814)だった。
「その言葉、そっくりそのまま返してやるよ!」
斜め下から切り上げた紅蓮斬の凶刃が淫魔の体を一刀両断。
「ひっ――」
返す刀で、怯んだ羅刹の男の首を狩る。
圧倒的な力量差に、イオの表情が変わった。
「あれが灼滅者? 今までとは桁違いではないですか」
彼女の感想は正しく、クラブパワーによって底上げられた灼滅者たちの力は以前の数倍にも及んでいる。それこそ、以前であれば数人がかりでようやく倒せたダークネスを複数体同時に相手取れる程にまで。
「こ、こんなの勝てるわけがねぇっ――!!」
背を翻して逃げかけた羅刹の足元でギラリと光る猛禽の双眸。
「う、あ……」
超低空飛行で滑り込んだセレス・ホークウィンド(白楽天・d25000)の突き上げる螺穿槍が羅刹の喉を貫き、反対側のうなじから血塗れた穂先を覗かせた。
「悪いが、逃がすわけにはいかないのでね」
槍を引き抜くセレスの背後から襲いかかる長物の武器へと、彼女を庇いに入った城守・千波耶(裏腹ラプンツェル・d07563)の操る薄いベールが絡みつく。
舌打ちして杖を引く慶の背後をとった千尋と峻が同時に攻撃を仕掛けた。
「ッ――」
裂帛の気合と共に放つ峻のダイダロスベルトが踊るように迸る。
「なんの……ッ」
ぎりぎりでそれを回避した慶だったが、体勢の崩れたところに千尋の神速たる居合抜きが閃いた。咄嗟にアスファルトへと手をついて反転。体勢を立て直そうとするも、眼前に迫っていたうねりを上げる気弾の前に目を見開いた。
「――畜生」
仲間と連携して慶の動きを読んでいた治胡は、確かな手ごたえと共に彼が最後に吐き捨てた台詞を微かに聞いた。
「サヨナラだ」
低く囁き、次の標的――険しい顔で殺気を放つ梶井を見据える。
●秩序の躊躇い
「これは……」
激しく交戦する六六六人衆と灼滅者の戦いを見守る形となってしまったイオは困惑に眉を寄せた。六六六人衆と同様に、彼女とて灼滅者たちの襲撃を受けてまで彼らと仲違いを続ける気はなかった。配下のデモノイドロードたちに指示を与え、最も近い位置にいる相手から順に落としていこうと考えていたのだが――。
「完全に読まれていましたね」
なにしろ、灼滅者たちはイオの前に六六六人衆たちを追い込んで壁にしてしまったのである。その上、こちらには一切攻撃を仕掛けてこない。
「うまくいってるか……?」
仲間たちにイエローサインによる援護を与えながら、遠藤・穣(反抗期デモノイドヒューマン・d17888)は同じく回復手を担うミーア・アルバーティ(猫メイドシスターズ・d35455)に目配せる。
「予定外にこちらが動いたことで攻撃を仕掛けるきっかけを失っているように見えますね!」
ぴこぴこっとミーアの猫耳が可憐に動いた。
「貯めに貯めたクラブパゥワー! 全力全開でガッツリ回復なのですにゃん!」
まるで新体操のリボンの如く生き生きと戦場を飛翔するミーアのダイダロスベルトが、セレスを慶から庇った千波耶の傷を鎧で覆いつくすように癒していった。
「ありがとう、ミーアちゃん」
柔らかな微笑みにミーアが破顔一笑する。
「任せてください!」
両手を目いっぱいに広げ、楽器を演奏するかのように軽やかな仕草で操るダイダロスベルトが戦場を縦横無尽に駆け巡った。
「ったく、最後の最後まで運がねえ……」
揉み合うように、梶井と千尋は互いの武器をぶつけ合いながら対峙する。ナイフとサイキックソードが激しく弾け、甲高い金属音を上げた。
「アポリアも捨てたもんじゃないね。元ハンドレッドナンバーのブランド名だけでこれだけ集まってくるんだから大したもんだよ」
「あん……? はっ、確かにな。俺らはともかく、あいつらまでいるとは思わなかったぜ」
梶井の構えたナイフから噴き出す毒の風が、彼の周囲を取り囲む前衛たちを巻き込んで吹き荒れる。だが、その風の向こう――中衛の位置からセレスが突っ込んだ。
「くそ、まだいるか!」
流星のように駆け抜けたセレスの襲撃に脚をやられ、梶井が大きくよろめいた。その頭上を影が横切った。足場を蹴った後衛の盾衛が背面跳びの要領で頭を下にしながらクロスグレイブを構えている。
「――」
聖歌を奏でながら開いた銃口が完全に自分を捉えているのを見て、梶井はごくりと喉を鳴らした。
「アナタは神を信じマスかー」
盾衛の指が引き金にかかる。
絶望に染まる梶井の瞳に、大きく舌を出して笑う盾衛の顔が映り込んだ。
「オレ達ャこれまで何人か殺ッてマースッてなァ!」
クロスグレイブの銃口から眩いほどの光が迸る。
梶井の脳裏をこれまで殺して来た数多の人間、仲間たちの死に顔が過ぎった。犯して来た業ごと盾衛の黙示録砲が梶井を吹き飛ばす。
危なげなく着地した盾衛の服の裾が爆風によってたなびいた。
「おっと、逃がさないぜ」
圧倒的な不利を悟った未夜が後ずさるが、退路は既に治胡によって塞がれている。足元を牽制するセレスの妖弾の冷気に未夜は目をすがめた。
「…………」
「させないわ」
覚悟を決め、放つボウガンの矢とすれ違うように放った千波耶のレイザースラストが未夜の脇腹を深々と切り裂いた。
即座に未夜は回復を発動。
だが――四方を囲んだ灼滅者の攻撃量は圧倒的にそれを上回った。
千尋の手のひらが赤く輝き、作り上げたナイフの刃を指に挟み込む。
「はっ!」
投擲した光刃が未夜の胸を貫いた。
両手に構えるガトリングガンを激しく撃ち込んでいた峻は炎の中、幼い少女の輪郭が崩れていくのを確かに見送った。だが、すぐに別の敵の動きに気付いて警告する。
「――気を付けろ」
彼と何度か依頼を共にしていた千波耶が、すぐさま動いてその攻撃を受け止めた。
「つ……ッ」
千波耶の袖を腐食させる、強酸性の液体。
「動いたな」
ぎり、と穣は歯を食いしばった。
その怒りを燃やす瞳は真っ直ぐにデモノイドを率いるデモノイドロードの少女、イオへと向いている。彼女はにっこりと微笑んでみせた。
「やっと壁の数が減って狙いやすくなりましたので、ここからは思い切りいかせてもらいますね」
「……てめぇは黙ってろ」
「では、お願いしますね。皆さん?」
当たり前のようにデモノイドに指示を出すイオへと、穣は怒りを爆発させる。
「黙ってろっつってんだよ――!」
くす、とイオは微笑んで唇に指先を当てた。
彼女の背後から、一斉にデモノイドの攻撃が迸る。
●青き葬送
「まだ、まだ、まだなのです!」
絶対にデモノイド達から距離を取ったまま、ミーアは忙しく交通標識を振り回していた。ああ、と穣が頷いた。彼もまた、集中力の限界まで挑むように歌い続ける。
「……絶対に誰も倒させやしねぇよ」
自分の意志など無く、ただの兵器のようにイオが言うまま攻撃をし続けるデモノイドを見据え、どこか切なげに呟いた。
「てめぇらも、もうウンザリだろ」
今、楽にしてやるから――!
デモノイドとの撃ち合いの中、右往左往していた残りの六六六人衆2人の体が呆気なく弾け散った。ティアーズリッパ―によって雑魚を切り裂いた盾衛は立ち止まらないまま、イオを目がけて跳躍。エアシューズのエッジと大鎌のせめぎ合う耳障りな金属音が夜に響く。
一方、スターゲイザーで片付けたセレスはその場に留まって妖冷弾を撃ち込んだ。完全に連携の取れた作戦によって、イオへの攻撃開始は全員が同時。
「あら、さすがですね」
イオは大鎌で盾衛と千尋を弾き返し、治胡の影業をステップで回避しながら称賛した。
「これでは攻撃の対象が絞れません。並みいるダークネス勢力を潰し、勢力を伸ばしてきたのは伊達ではないということですね」
「それはどうも。だが、解せないな。他の奴等はともかくとして、まだ首魁の残っているデモノイド勢力のロードまでもがアポリアの招集に応じるとは……」
セレスの問いにイオは首を傾げた。
「ロード・プラチナとて、全てのデモノイドを取りこぼしなく統率するのは難しかったのかもしれませんね。私の他にも命令電波が届かなかった者はいるはずですよ」
「なるほどね。だが、その拠り所がアポリアだったのは運の尽きってもんさ。あいつはあたし達武蔵坂が必ず止める。悪いが、軍団の招集なんて許すわけにはいかないんだよ」
すれ違いざま、千尋の黒死斬がイオの左腕を切り裂いていく。青い血が飛沫となってアスファルトを濡らした。
だが、イオは体を反転させるように勢いをつけて右腕の大鎌を振るった。
「く――!」
何度もその大鎌を引き受けた治胡の体からは止めどなく血の炎が流れ落ちている。怪我を負えば負うほど、彼女の闘志は燃えて焔の輝きが増していくかのようだ。
「ん? 大丈夫だ、そんな顔で見るんじゃねーよ」
揶揄するような目をするウイングキャットに舌打ちして、治胡はミーアのラビリンスアーマーを有難く受け取った。前線は火力の集中する激戦区だが、ウイングキャットとビハインドのマーヤが率先してデモノイドの砲撃を受け止める。
「さんきゅ」
目の前で自分を庇って消えていったマーヤに礼を呟いて、峻は更に激しくガトリングガンを撃ち込んだ。爆炎の魔法を込めた大量の弾丸が次々と放たれ、イオを凄まじい炎獄へと陥れる。
「……ここまで、みたいね」
遂にイオの体が傾ぎ、粒子となって消えていく。
リーダーを失ったデモノイドは途端に統制を失って乱れ始めた。
「かつての栄華もドコへやら、いやはや侘しいねィ」
空々しい言葉は聖碑文の代わりとでも言いたげに、盾衛はクロスグレイブを回転させながら全砲門を開いた。
「俺も乗らせてもらおうか」
同じく、治胡のクロスグレイブが砲門のセーフティを解除。
――直後、耳を塞ぎたくなるほどの罪を灼く光線の乱射が敵群を薙ぎ払う。
「ガ、ア……」
戦線の維持もままならずに頽れた彼らに迫ったのは、力強く羽ばたくダイダロスベルトの翼――峻、千波耶、穣によるイカロスウイングの三重奏が残るデモノイドの群れを蹴散らして、欠片も残さず灼滅していった。
●標
「……お疲れ」
彼らの全てが消えゆくまで、穣はただ見守っていた。
ふと落ちていたケミカルライトに気付いてそれを拾い上げていると、後ろでドッ、という音がした。墓標代わりのクロスグレイブを打ち立てた盾衛が薄っすらと白み始めた空を見上げている。
「……思えば遠くへ来たモンだ、オレ達もテメェらも。ま、お疲れサンのご機嫌ようッてナ」
「いつまで続くんだろうなぁ、こんな事がよ」
ふて腐れた顔で頭をかく穣に、峻は微かに顎を引いた。
「俺達は今迄どれだけの敵を倒し、これからも倒していくのか……」
淡い曙光が足元に骨組みだけの影を落としていく中で、祈るために瞼を伏せる。だが、不意に明るい声がして目を開けると、ミーアが鼻歌を歌いながら辺りを片付けていた。千波耶が微笑んで、傍にしゃがんだ。
「さすが、デキル=メイドさんでしたっけ? 私も手伝うわ」
「助かりますっ!」
夜が明ける頃、工事現場は元の静寂を取り戻していた。戦いがあったことなど微塵も感じさせない、物寂しく虚ろな廃墟がただそこにあるだけだった。
作者:麻人 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2018年7月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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