戦神の軍団~社に集う者たち

     廃村の奥、廃墟と化した神社がある。
     執事服の初老の男性……六六六人衆が、朽ちた鳥居をくぐる。
    「アポリアの指定場所は、ここで良いようですねぇ」
     気配を感じ、社殿の陰から3体の羅刹と、1体のデモノイドロードが姿を現わす。
     いずれも各勢力の残党。デモノイドロードに至っては、ロードプラチナの招集からこぼれたものだ。
     六六六人衆は、その顔ぶれを一通り確認し、
    「どれだけ集まっているかと思えば、これっぽっちですか。見たところ、殺しがいもなさそうだ」
    「ハァ? 言ってくれるじゃねえかオッサン」
    「アポリアの野郎から指示が来る前に、もっと数を減らしてもいいんだぜ?」
     あてつけのように溜め息をつく六六六人衆に、羅刹達が食って掛かった。
     一触即発。
     不穏極まる空気を破ったのは、デモノイドロードだった。
     両者の間に割って入ると、今いたずらに争ってどうする、という風に首を振って見せる。
    「……デモノイド風情に諭されるとは、私も落ちたものですねぇ」
    「けッ!」
     双方が顔を背けたのを見て、デモノイドロードはやれやれ、と言ったふうに頭をかいた。
     空を仰いだその横顔は「早く次の指示をくれないものか、アポリアよ……」と期待しているようにも見えた。

     初雪崎・杏(大学生エクスブレイン・dn0225)が、闇堕ち灼滅者救出作戦の結果を、改めて報告した。
     おおむね成果を上げた一方、六六六人衆のハンドレッドナンバー、『戦神アポリア』は逃走した。内なる狐雅原・あきら自身が救出を望んでいなかった以上、やむをえない面もあるだろう。
    「そしてアポリアは、どのサイキックハーツの勢力にも属さない、野良ダークネス達を集めて、自分の軍団を作り上げようともくろんでいる」
     目的は不明。だが、現在の戦いを激化、あるいは引っ掻き回そうと企んでいるのであろう……というのが現在の見方だ。
    「既にいずれかのサイキックハーツ勢力に加担している可能性も、ないとは言い切れないがな……。まあ何にせよ、アポリアの思うとおりに事を運ばせるわけにはいかない」
     アポリアが各地に指定した集結場所は、既に判明している。
     その1つに向かい、集合したダークネスを灼滅する事が、今回の杏の依頼だった。
    「敵が潜伏している場所は、廃村の神社。敵は5体。構成は、六六六人衆が1体、羅刹が3体、デモノイドロードが1体だ。それぞれ、無敵斬艦刀、バトルオーラ、バベルブレイカー、妖の槍、影業のサイキックを使用する」
     ダークネス同士、それも勢力の垣根を越えた集まりだ。とてもではないが、一枚岩とは呼べない。
     連携して戦う事はないが、デモノイドロードだけは、この場をしのぐため、最低限のフォローを行う姿勢をみせるようだ。
    「いくらダークネスを集めようと、サイキックハーツではないアポリアでは大勢への影響力はさほどないと思うが、迷惑な目論見があるとすれば厄介だ。皆の力で止めて欲しい」


    参加者
    花藤・焔(戦神斬姫・d01510)
    卜部・泰孝(大正浪漫・d03626)
    神虎・華夜(天覇絶葬・d06026)
    赤城・碧(強さを求むその根源は・d23118)
    灰慈・バール(慈雨と嵐の物語・d26901)
    牧原・みんと(象牙の塔の戒律眼鏡・d31313)
    有城・雄哉(蒼穹の守護者・d31751)
    松原・愛莉(大学生ダンピール・d37170)

    ■リプレイ


     古びたさい銭箱に腰かけていた六六六人衆・斬蔵が、鳥居の方を振り返った。
    「またご新規さんかと思えば、灼滅者さんですか」
     夕陽を背に現れたのは、斬蔵の言葉通り……花藤・焔(戦神斬姫・d01510)や卜部・泰孝(大正浪漫・d03626)達だった。
    「もう少し時期が遅かったら、肝試しとかにも雰囲気たっぷりだったんでしょうけどね。まあ、お化けより恐ろしいのはもういるみたいですが」
     牧原・みんと(象牙の塔の戒律眼鏡・d31313)が、敵の顔ぶれを確かめる。
     六六六人衆に羅刹、デモノイドロード……奇妙な取り合わせを包囲する、松原・愛莉(大学生ダンピール・d37170)や赤城・碧(強さを求むその根源は・d23118)達。
    「こいつらは俺がやる」
    「いや俺だ」
    「何にしろ、オッサンとデモやんの出番はねえぜ」
     先を争う羅刹三人組。
    「あらあら、殺気立ってるわね」
     神虎・華夜(天覇絶葬・d06026)が、呆れ混じりの微笑を浮かべる。
     だが、オッサン呼ばわりされた側は、というと。
    「なるほど、私の前座、というわけですか」
    「ああん? テメエなんざいつでも殺れるんだぜ」
     にらみ合う斬蔵と羅刹トリオ。それを手で制したのは、デモやんことデモノイドロードだった。
    「オメーもなんか喋れよ、この木偶の坊が!」
     黙って首を振るロードを、羅刹が蹴り飛ばす。
    「うーん、いい感じにいがみ合ってるねぇ」
     こうもわかりやすい仲たがいだと、灰慈・バール(慈雨と嵐の物語・d26901)にも、いっそ微笑ましくさえ感じられる。
    「ともあれ、ここにいるということは、全員アポリアの軍団に入る意志があるということだな?」
    「無論!」
     ダークネス達の明快な回答に、有城・雄哉(蒼穹の守護者・d31751)が、右足くるぶしの黄金のアンクレットに念を送った。青の瞳が金に染まり、眼光も鋭さを帯びる。
    「……ならば、ここで全員灼滅するだけだ」
    「上等だゴラァッ!」
     真っ先に殴り掛かって来たのは、やはり羅刹だった。


     羅刹のジャマー、爆が、槍を突き出した。
    「灼滅者の串刺し、一丁上がりィ……!?」
     しかし、槍は止められていた。焔の手によって。
    「……冗談だろ?」
    「あなたたちに声をかけた相手は、何か言っていませんでしたか?」
     槍をつかんだまま、問いかける焔。
    「ああ、言ってましたね、灼滅者も他のサイキックハーツとやらも皆殺しだと」
     ひょうひょうとした態度で答える斬蔵に、羅刹の雷が喰ってかかった。
    「おい、俺はそんな話聞いてねえぞ」
    「でしょうな。戦神はそんな事言っておりませんから」
     肩をすくめる斬蔵、顔を赤くする雷。
     それを見て、焔は槍を離した。やはりアポリアの意図を語るのは、本人をおいて他にないとみえる。それすらも本意か怪しいが。
    「ジジイ……後でテメエも殺すッ!」
     雷が、拳を突き出した。
     勢い充分の乱打を受け切ると、雄哉が、盾を顔面に見舞った。雷ではなく、爆へと。
     鼻血を吹き出す爆へ、更に攻撃を加える雄哉。容赦も躊躇も、どこかに置いて来たよう。
     こんな戦闘狂めいた戦いぶりは、初めて見る。普段の雄哉らしからぬ行動に、愛莉は、不安を隠せない。
     それでも愛莉は、自らの役目を果たすべく、ダイダロスベルトを鎧とした。ナノナノのなのちゃんも、ふわふわハートで傷を優しく包んでくれている。
     ロードの操る影を巧みにさばきながら、碧も爆へと向かった。降り注ぐアシッドで、その剛健な肉体を焼く。
     その間に、ビハインドの月代は、三体のダークネスを相手取り、体力を削っていく。
     朽ちたとはいえ、社殿を傷付けぬよう、焔がダイダロスベルトを操作する。帯刃は、ダークネス達を翻弄するように駆け巡ると、狙いである爆へ急加速、視認する間もなく貫いた。
    「爆の奴、ざまあねえな。喰らえェッ!」
    「おっと、これは痛そうだ。当たれば」
     空の杭打機をかわしたバールが、無敵斬艦刀を担いだ。出し惜しみはなし、一刀が大地を割り、爆を潰す。
     衝撃が玉砂利を舞い上げる中、みんとのクロスグレイブが変形。神社に不似合いな聖歌が響き、爆の脇腹を撃ち抜く。
    「なんだ、こいつらの強さ……!」
     態勢を立て直す間もなく、鎧姿のビハインド・知識の鎧の波動が、爆を襲う。
     爆への集中攻撃が行われる一方、敵前衛を阻むのは、泰孝。
     振り下ろしたロケットハンマーは、しかしダークネスではなく、地面を叩く。直後、振動波が雷、空、そして斬蔵を巻き込む。
    「こんなもん、大したことねえ!」
    「あらあら、随分と腕を上げた鬼さん達だわ。好き勝手に生きてるより良い腕ね」
     強がりをみせる羅刹達を、今度は、華夜の冷気魔法が襲った。羅刹の昂ぶりを覚ますように、一気に熱量を奪取する。
    「でも、この程度なら、神命で十分かしら?」
     華夜が口の端を持ちあげると、霊犬の荒火神命が吠えた。弾丸のように射出される六文銭を、敵も甘んじて受けざるを得ない。
    「羅刹如きでは役者不足のようですな」
     嘲笑1つ。斬蔵が、巨大剣を振った。全てを屈服させる斬撃が、灼滅者を薙ぎ払う。
     斬蔵に合わせ、デモノイドロードが片腕の砲を放った。狙いがバラバラでは、勝てる戦も勝てぬと。
    「随分と理性的ね? 本当にデモノイドかしら?」
     ロードの振舞いに、ある種の感心を覚える華夜。
     とは言え、ロードプラチナにも招集されなかった個体だ。デモノイドの尺度では落ちこぼれ、なのかもしれない。
    「くそっ、いつまでもいいようにされるかよ……ぐはッ!」
     槍を振りかざした爆が、血を吐き、その場に屈した。
    「お前ら、武闘派語るわりには大して強くないな。その程度とはがっかりだよ」
     クルセイドソードを引き抜いた碧が、肩をすくめて見せた。


    「よくも爆をやりやがったな!」
    「ちょっと強くなった程度にいい気になってんじゃねぇ!」
     それなりの同朋意識はあったのだろう。怒りをたぎらせる羅刹達が、あっけにとられた。
     サイキックも使わずに、灼滅者達の傷が回復していくのを見たからだ。
    「なっ……」
    「こんなの聞いてねえぞアポリアァ!」
     情報弱者ぶりを露呈するダークネス達。その驚きと焦りが、攻撃の精度を落としたか。
     空の刺突を、みんとが軽々とかわした。すなわち、空の攻撃が、空を切る。
    「もしかして今のはわざと……?」
     地面に突き刺さった杭打機を引き抜こうとする空に、みんとの言葉が突き刺さる。
    「チートみてえな真似しやがって……ぐほっ!」
     雄哉の拳が、雷のみぞおちをとらえた。そこで攻撃の手は止まらず、地を蹴り跳び上がる。蒼の雷撃がほとばしり、敵ごと天高く舞い上がる。
     生命力賦活の加護のお陰で、愛莉も攻撃に回る事が出来る。結界を構築すると、羅刹達の足を一斉に止める。
    「くそっ、前にいる奴から殺してやる……!」
    「搦め手放置、余程の自信あると見る」
     気づけば泰孝が、雷の背後を取っていた。
    「されど其れは単なる油断、慢心。見られい、既に汝ら足元揺るぎ、守りは削がれておろう?」
    「……何言ってんだオメー?」
     素で首を傾げる雷に、泰孝の包帯に汗がにじんだ。
     ごほんと咳払いの後、
    「我らの攻撃を受けまくり、その体はもうガタガタであろう」
    「最初からそう言え!」
     とはいえ、泰孝の言葉通り、敵の体は蝕まれて本調子とは程遠い。ブーストされたロケットハンマーがあやまたず標的を打ち、雷を灼滅せしめた。
    (「戦神の狙い……ここでダークネスが灼滅される事だとしたら、厄介ですけども」)
     敵の真意を推し量りながら、みんとが、ダイダロスベルトの乱舞を披露した。
     八方より迫る帯。斬蔵達も全てに対応する事はできず、腕を、足を、あるいはその両方を縛り上げられてしまう。
    (「これ以上ダークネスは集まってこないだろうな……」)
     周囲を警戒していた碧を、空が襲う。しかし、軽い傷で済ませると、影を発動。反対に相手を束縛、主導権を奪い取る。
     もがく空は、目を見張った。焔が、既に技を繰り出さんとしていたからだ。
    「逃げられませんよ」
     空の視覚はもはや、本気の焔を捉えられず。
     ただ、黒が告げる死を甘んじて受けるよりほかなく、灼滅の末路を辿った。
     残すは、斬蔵とデモノイドロード。
    「神命、挟撃よ!」
     華夜と荒火神命が、斬蔵に迫る。霊犬の刃こそ止めたものの、クロスグレイブが来る。
     初撃が決まれば、後は華夜のペースだ。次々と技が決まり、斬蔵の体が揺さぶられる。
    「さあ、同じ得物同士、派手にやろうか!!」
    「いかに力を得ようと、最後に物を言うのは使い手の力量ですぞ?」
     刃が、派手な音を立ててぶつかり合う。バールと斬蔵だ。
     クラブパワーによって強化された今なら、ダークネスとの実力差も縮まっている。そして今や、傷を負う事さえ、恐れる必要はないのだ。


     圧倒的な力、そして傷を受けても全快する灼滅者に、さしもの六六六人衆、そしてデモノイドロードも、戦意をくじかれていく。
     泰孝が、斬蔵の懐に入り込む。炸裂するロッドの打撃と魔力が、その老体を軽々と吹き飛ばす。既に、自慢の執事服はボロボロだ。
    「私は六六六人衆ですよ……こうも容易く死の淵に立たされていいはずがないッ!」
    「自分は他者とは違うとか思って見下してんだろうが……痛いなあ。見た目は歳食ってるが、実はこの中で一番精神レベル低いんじゃないか?」
     月代の霊力が荒れ狂う中、碧の日本刀を持つ腕が、寄生体に飲み込まれた。
     斬蔵の愛刀に匹敵するサイズとなったブレードで、斬りかかる。今の碧の一撃一撃の重さは、六六六人衆すらも圧倒する。
    「技術はそちらが上だろうが、力なら俺が上だな!」
     斬蔵とやり合うバールの刀が、不意に形をゆがめた。
    「そして隠し手があるのはデモノイドの特権だぜ!」
     瞬時に、バールの片腕はキャノンへと再構築。斬撃から射撃へと、その得手を変えると、力の奔流が、敵を飲み込んだ。
    「かはっ、殺そうとしても死なない……貴方達こそ化け物ではありませんかッ!」
     罵声を残し斬蔵が倒れ、最後に残ったのはデモノイドロードだけだ。
     もはや退けぬ事は、承知の上か。周りの事を気にせずに戦える分、先ほどより動きの切れが増しているほどだ。
     しかし、奮戦も一時。傷を癒した焔の手に、巨大なる剣が降臨する。
    「斬り潰します」
     ダークネスすら小さきものとして。技も力も、全て等しく潰滅させる一刀が振り下ろされた。
     続けて、華夜が、斬りかかった。ロードのブレードと切り結ぶ事数度、相手の刃を、その腕ごと断ち切った。
     知識の鎧と、クロスグレイブを駆使したみんと。両者の怒涛の攻めが、ロードを追い詰めていく。打撃が、突きが、ロードの肉体を削り取る。
     更には愛莉の、鋭く速いダイダロスベルトが、敵の回避を許さない。なのちゃんも加わり、戦いの主導権をロードに渡しはしない。
     大きく態勢を崩したロードに、雄哉は玉砂利を舞い上げ、踏み込む。鋼のごとき拳が、ロードの腹をうがった。
     倒れ伏すロード。最期の一瞬だけ、怒りと悔しさが垣間見えた、気がした。
     敵であろうと死ねば仏。供養を終えた泰孝は、アポリアの痕跡を探した。更には、新たなダークネス、あるいはエスパーの来訪をしばし待つも、その兆しは見られなかった。
     戦いを終え、雄哉の瞳が、青に戻る。殺気を収めると、神社の片付けを始めた。
    「怪我はない? 愛莉ちゃん」
     普段通りの穏やかさを見せる雄哉に、束の間、安堵する愛莉。大丈夫、とうなずいてみせる。
    「『選ばれなかった』以上、アポリアがサイキックハーツになるという願いはもう叶わない。それなのに、なぜ軍団を作ろうとしているのかしら?」
     ただ単に賑やかしや嫌がらせなのだろうか。と愛莉は首を傾げる。
    「さあ、次はどんな手を打つ? 戦神」
     仲間とともに、アポリアの目論見を思うバール。
     残された時間は、そう多くはないはずだ。

    作者:七尾マサムネ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年7月5日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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