戦神の軍団~無双乱舞

    作者:天木一

     カビ臭いもう使われていない廃ビルの中に、灯りもつけず闇に溶け込むように人影があった。
    「チッいつまで待たせる気だァ?」
    「おい、黙れ、五月蠅い……」
    「あ? やんのかコラァ?!」
    「その口を永遠に閉ざしてやろうか……?」
     舌打ちしたナイフを持つ男と、大柄の筋肉質な男が拳を握って一触即発の空気で睨み合う。
    「双方引け、イライラしているのはここに居る全員同じだ。だから少し抑えろ。さもなくば全員が殺し合う事になるぞ」
     そんな2人に白髪のスーツを着た老人が声をかける。その手から伸びる糸がいつでも攻撃出来るように周囲に広がっていた。
    「チッ」
    「ふん……」
     対峙していた2人は殺気を収めて視線を外す。
    「しかし、本当に来るのかしら?」
    「さて、戦神アポリア殿を信じるしかありませんからな」
     そんな様子を呆れたように見ていた大鎌を担いだ美しい女と、武人らしい腰に刀を差した長髪の男が意見を交換する。
    「残念ながら儂らには待つことしかできぬ。ここに集まった者は他に寄るべのない身。今はただ力を蓄えて指示が下るのを待つしかあるまい。力を振るう場はすぐに与えられる」
     話を纏めるように老人がそこに集まった狂暴なダークネス達を見渡し、狂気の混じった微笑みを浮かべた。

    「やあ、みんな集まってくれたね」
     能登・誠一郎(大学生エクスブレイン・dn0103)が教室にやってきた灼滅者達に声をかける。
    「闇堕ちしていた灼滅者達の救出は大体が成功に終わったよ。だけど六六六人衆のハンドレッドナンバー、戦神アポリアに逃走されてしまったんだ」
     この戦神・アポリアがすぐさま新たな行動を開始したという。
    「アポリアは、どのサイキックハーツの勢力にも属していない、野良のダークネス達を集めて、自分の軍団を作ろうとしてるみたいなんだ。その目的が第三勢力の結成か、他に理由があるのかは分からないけど、このまま手をこまねいて好きにさせる訳にはいかないからね。みんなの力で野良ダークネスを倒して、敵の思惑を打ち砕いてほしいんだ」
     ダークネスの集まっている現場に赴き、これを撃破するのが目的となる。
    「敵は六六六人衆が3体に、アンブレイカブルが2体だよ。戦いになればそれぞればバラバラに動くようだけど、老人の六六六人衆だけは落ち着いて後方から指示を出したり攻撃してくるみたいだね」
     元々何の関わりもないダークネスが集まっているのだ、細かな連携などは出来ないだろう。
    「戦いとなるのは電気も通っていない廃ビルだよ。6階建ての6階に居るみたいだね。連絡を待ってるところだから、そんなに警戒も高くないと思うよ」
     そこに襲撃を仕掛け敵を殲滅する事になる。
    「今回の作戦には私も参加させてもらう。微力ながら皆の力になれるよう全力を尽くすつもりだ。よろしく頼む」
     説明が終わったところを見計らい、貴堂・イルマ(ヤークトパンター・dn0093)が頭を下げて挨拶をする。
    「アポリアが何を考えているのかはさっぱりだけど、わざわざダークネスを集めてくれているんだから、一網打尽のチャンスだよ。ここで一気にダークネス勢力を減らしてしまおう」
     誠一郎の言葉に頷き、灼滅者達はダークネス討伐に動き出した。


    参加者
    華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)
    天方・矜人(疾走する魂・d01499)
    無堂・理央(鉄砕拳姫・d01858)
    四月一日・いろは(百魔絢爛・d03805)
    御神・白焔(死ヲ語ル双ツ月・d03806)
    西院鬼・織久(西院鬼一門・d08504)
    ベリザリオ・カストロー(罪を犯した断罪者・d16065)
    アリス・フラグメント(零れた欠片・d37020)

    ■リプレイ

    ●ダークネス狩り
     暗い廃ビルの室内に5体のダークネスが集まってだらけている。ドアが蹴飛ばされ室内を強烈なライトが照らす。灼滅者達がなだれ込み強襲を仕掛けた。
    「む? 敵か……!」
    「チッ待ってたら灼滅者が来やがったぞ!」
     慌ててダークネス達が戦闘態勢をとる。
    「よう、楽しそうにしてるじゃねえか。オレ達も混ぜてくれよ」
     天方・矜人(疾走する魂・d01499)は背骨の形を模したロッドをフルスイングし、一番手前に居たナイフを持つ痩せた男をかっ飛ばして天井に打ち込んだ。
    「5体揃っているな、仕掛ける」
     仲間の陰に隠れるように侵入した御神・白焔(死ヲ語ル双ツ月・d03806)は照明を床に置き、天井に跳躍すると逆さに着地して敵を確認し、一人冷静に下がった老紳士へと強襲を仕掛ける。天井を蹴り頭上から雷光の如く雷纏う拳を顔面に打ち下しよろけさせた。
    「ご機嫌よう、皆さん! ひとつ一緒に踊りませんか! 華宮・紅緋、これより灼滅を開始します!」
     まるでパーティに参加するように華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)が微笑み、接近すると腕を鬼の如く変化させ、隙をみせた老紳士の腹を殴りつけくの字に吹っ飛ばし壁にぶつける。
    「勝負か、ちょうど退屈していたところだ」
     鋼のような筋肉の大男がその剛椀を振り抜く。
    「アポリアが何を企んでいるのか知らないけど、ここで叩き潰させてもらうよ!」
     猛々しい闘気を纏った無堂・理央(鉄砕拳姫・d01858)は踏み込んで拳を避け、カウンターの拳で顔面を打ち抜いた。だが大男は踏み止まって理央をガードの上から殴り飛ばす。
    「心地よい殺気。剣を振るうに相応しい相手であるな」
     武人のような刀を腰に差した男が前に出る。対して有無を言わせずに四月一日・いろは(百魔絢爛・d03805)は金属製の白鞘を突き入れる。それを武人が柄を上げて逸らした。
    「我が名は時遡十二氏征夷東春家序列肆位四月一日・伊呂波。キミも名乗りなよ……戦の作法だよ」
    「流水剣の永瞬。冥途の土産に覚えておくがよい」
     一歩引いたいろはが名乗ると、武人も名乗りを返しすらりと刀を抜いた。
    「わたくし達は連戦で忙しいんですのよ。こんな所でニートして、一体どういうつもりですかしら」
     苛立たしそうにベリザリオ・カストロー(罪を犯した断罪者・d16065)は黄色の標識を掲げて仲間達に耐性を与える。
    「クッソが!」
     不意打ちを喰らった細身の男が頭を振って起き上がる。
    「未だ我等が怨敵は絶えず。故に我等も解放されず……ク、ヒハハハ」
     狂気の混じった笑みを浮かべた西院鬼・織久(西院鬼一門・d08504)が六六六人衆共を見やる。
    「怨敵を前に考える事ではないな、先ずは彼奴等の血肉を喰らい飢えを凌ぐとしよう」
     今はただ殺し尽くすのみと、赤黒い槍を脇に挟んで飛び込み突き入れる。穂先が敵の腹を抉り血が飛び散る。
    「らぁ!」
     だが反撃に閃くナイフが織久の腕を裂いた。
    「このような寄せ集めのダークネスで何かを成し遂げられるとは到底思えませんが、見逃す訳にはいかないので必ず阻止します」
     普段閉ざしている左目を開いたアリス・フラグメント(零れた欠片・d37020)は、妖精のように軽やかに跳んで大鎌を振るい美女の首を狙う。
    「きゃあ!」
     慌てて美女は大鎌を出して防ぐが、勢いに負けて床に尻餅をついた。
    「皆が全力で戦えるよう支援する!」
     貴堂・イルマ(ヤークトパンター・dn0093)は青く輝く剣を掲げ、仲間達を癒し傷を浄化する。

    ●均衡
    「灼滅者とは、手を読まれたという事か? 何はともあれここは生き残らねば……皆の者聞けい! 敵は数が多い、協力して戦うのだ!」
     老紳士が大きな声で呼びかける。
    「ケッ知るかよ! 全員ぶっ殺しゃーいい!」
     ナイフを手に男が駆け、その姿を消すように速度を上げて織久の背後から背中を切りつける。
    「同感だ。己が力を振るい勝てばいい……」
     全身の筋肉を膨らませて上半身の服を破いた大男が、力強く踏み込み真っ直ぐに鉄塊のような拳を放つ。
    「あなたの相手はボクだよ!」
     そこへ割り込んだ理央が拳を合わせて攻撃を受け止める。そして互いの拳のラッシュがぶつかり合い、両者の拳が相手を同時に捉え、後方へと吹き飛び間合いが開く。
    「これは一対一の戦いではない。数も武器の内だ」
     そこに白焔は横から仕掛け、杭の如く拳を脇腹に食い込ませ肋骨を折って悶絶するような痛みを与える。もう一撃を放とうとすると蜘蛛の巣の如く糸が張り巡らされ、途中で止まった拳から赤い血が流れる。それは触れれば斬れる鋭い鋼の糸だった。
    「戯けどもが! 負ければ仕舞いじゃぞ!」
     老紳士が糸を手繰り、仲間が分断せぬように結界を作る。
    「小手先の技で私を止められると思わないことです!」
     真っ直ぐ突っ込む紅緋は、触れたものを切断する糸の結界を赤黒い影で切り裂いて接近し、深い赤のオーラを乗せた拳の連打を老紳士に浴びせ壁に食い込ませる。
    「アポリアと合流はさせねえよ、アイツと関わろうとした奴は全て倒す。それが、アイツを連れ帰る事に繋がるかもしれねえからな」
     骸骨の仮面の口を歪ませながら矜人は金色の巨大な鞘から両刃の剣を引き抜く。
    「――さあ、ヒーロータイムだ」
     踏み込み放つ斬撃は細身の男を袈裟斬りに深く裂いた。
    「怨敵を殺すには怨敵と同じ手法を用いるが最も効果的よ」
     ゆらりと幽鬼の如く細身の男に忍び寄った織久は、血色の炎を纏う黒い大鎌を振るって背中を斬りつける。
    「戦神が何を考えているか知りませんけど、さっさと片付けますわよ。特に六六六人衆は織久のためにも絶対灼滅ですわ!」
     チラリと心配そうな顔で弟を見たベリザリオは、気を引き締めて化け物の腕の如き縛霊手で大男を切り裂いた。
     じりっと間合を詰めたいろはに対し、永瞬は同じだけ間合いを引く。ならばと一足で飛ぶように詰めたいろはが白銀の刀を抜き打つと、永瞬は刃を合わせて受け流し、手首を落とそうと切っ先を振るうが、いろはが鞘で弾き返した。
    「受け流しただけで手が痺れるとは、細腕をしてなんという剛剣か」
    「そっちが見た目よりもか弱いんじゃない」
     いろはの揶揄うような言葉にぬかせと永瞬は柄を強く握る。
    「貴女の血でこの肌をパックしてあげるわ!」
     うっとりする笑みを浮かべた美女がアリス目掛けて大鎌を薙ぎ払う。
    「わたしの血ですか……ふふ、あなたには出来ないかもしれない」
     淡々と無表情にアリスは屈んで刃を避け、下から飛び上がるように敵の顎を蹴り上げた。仰け反った美女はよろめき壁に背をつく。
    「こちらが優勢。着実にダメージが蓄積されている、この調子で続けよう!」
     後衛から戦況を確認したイルマは蒼き闘気を凝縮して飛ばし、白焔の体を活性化させて治療を施す。
    「まったく、盾として使ってやろうというのに……こうなっては仕方なし、やり合うしかあるまい!」
     忌々しそうに仲間を見た老紳士は糸を巧みに操り、灼滅者達の手足を切りつけてゆく。
    「いいですね。遠慮も躊躇も配慮もいらない、何も考えずに叩き潰せるって素敵です!」
     笑顔で紅緋は糸を引き千切り、血が流れる拳を固めて胸に叩き込み、吹き飛んだ老紳士が壁にバウンドして戻ってきたところへ下からアッパーを叩き込み天井に打ち上げた。
    「へッ、刺し殺してやるぜ、滅多刺しだ!」
     ナイフを手に獲物を狙う獣のように駆け回り、背後に回って突っ込んで来る。
    「お喋りをしに来たわけじゃねえんだ、やろうぜ?」
     それを遮るように矜人は雷を放ち、敵を打ち据えてショックで口を開けたまま膝をつかせた。
    「小手調べは終わりだよ、ここからは油断すれば一撃で決めるからね」
    「よかろう、来るがよい」
     鞘に刀を納め姿を消すようにいろはが縮地によって背後に回り刀を抜刀する。永瞬は咄嗟に振り返り刀で受ける。それを予想していたようにいろはが炎纏う蹴りを脇腹に叩き込んだ。
    「密閉空間での乱戦だね。ならまずは数を減らそうか!」
     仲間と戦っている老紳士の不意を突き理央は拳を横っ面に打ち込み吹き飛ばす。
    「なんなのよ! 全員纏めて殺しちゃおうかしら?」
     その体を避けるように美女が飛び退き大鎌を振り上げ黒い波動が放たれる。
    「そこは既に間合の内だ」
     白焔は視界から消えるように一足で間合を侵略し、拳で美女の腹を抉り、息を吐き出し前屈みになったところでこめかみを打ち抜いた。美女の意識が寸断され朦朧とする。
    「いきますよ。三流ダークネス、わたしとあなたの格の違いを教えてあげましょう」
     その隙にアリスは炎を纏う蹴りを背中に叩き込み、炎が敵の体に燃え移る。
    「あっきゃあああ!」
     正気に戻った美女は慌てて地面を転がり炎を消した。
    「ええい、まずは一人殺して均衡を崩すのだ!」
     老紳士は着地したアリスの体に糸を巻き付ける。
    「ヒヒ、ヒハハハハハ! 怨敵の血に我等は飢えている。もっとその血肉を撒き散らせ!」
     その眼前に獣のような形相で織久が迫り、槍を突き出し避けようとした老紳士の肩を貫いて持ち上げ地面に叩きつけた。その背後からナイフを手にした敵が切り掛かる。
    「後ろにも気を付けなくてはいけませんわ!」
     更にその後ろからベリザリオが飛び蹴りを浴びせ、後頭部を打ち抜いて敵を転倒させた。
    「普段ならこれだけのダークネスを相手取るのは難しいが、今は違う!」
     イルマは剣を振るって風を起こし、仲間達の傷を癒して援護する。
    「遣ること為す事、裏目に出てる戦神の下で働くよりも、無心に戦ってる今の方が充実してるんじゃないかな?」
    「然り。もとより唯々この剣を振るう場を求めてのことよ」
     いろはの振るう刃を永瞬は紙一重で避け、するりと胸に届く突きを放つ。それをいろはは蹴り上げて逸らした。
    「うざってーぶっ殺してやる! 死ねやぁ!」
     男がナイフを振るうとどす黒い殺気が放たれ、まるで実態を持たぬナイフのように灼滅者達に襲い掛かる。
    「迎撃する、止まらず行け」
     そこへ突っ込んだ白焔は拳を放ち攻撃を迎撃する。雷を纏わせた拳がぶつかり、稲妻が奔って殺気を相殺した。
    「あんだと!?」
    「余所見はいけねえな」
     驚いた敵の不意を突いた矜人が死角からオーラの塊を放ち、敵の脇腹を撃ち抜いた。衝撃に敵の体がよろけて殺気が止まる。
     そこへ跳躍した織久が大鎌を振り下ろし、ナイフで防ごうとした敵を体重を乗せて押し切り頭から血を流させる。
    「ククク……さあ、後少しで頭が真っ二つだぞ? 怨敵の血が我等を滾らせる」
     押し合いながら目を合わせた織久は凶相を浮かべて嗤った。
    「クソがッ!」
     悪態をついた男が倒れ込みながら織久を蹴り飛ばした。
    「こちらが強化されてるとはいえ、敵の数が多いと負傷は増えてしまいますわね」
     だがこの程度なら問題ないと、ベリザリオは黄色の標識を振るい仲間達の傷を癒していく。
    「今のわたしは負ける気がしません」
     体が軽いとアリスは軽やかに跳んで、美女の背中を蹴って壁に着地し、更に頭上から頭を蹴りつけた。
    「このままでは……いかん!」
     老紳士が糸を巡らせ、少しでも灼滅者の行動を縛ろうとする。
    「トラップみに仕込たいんでるね。危ないから取り除いておくよ」
     理央は高出力のエネルギーの盾を展開して振り抜き、糸を消し飛ばしていく。
    「ここで一気に均衡を崩す!」
     弓を構えたイルマが青く光る矢を放って紅緋の身体能力を強化する。
    「もっと踊っていたいところですが、数が多いので次のパートナーが待っているのです」
     大振りに紅緋が拳を放ち。巻き付く糸を引き千切って腹を突き破り、背中から血を撒き散らしながら老紳士を絶命させた。

    ●無双
    「チッ偉そうにほざいてたジジィが最初に死にやがった。まあ安心しろよ、すぐにこいつらを送り込んでやっから!」
     ナイフ使いがぺろりと刃を舐め低く駆け出す。
    「死の運命にあるのはどちらか、すぐに判る」
     地を蹴った白焔は一瞬にして間合いを詰め、貫くような横蹴りを放って胸を射抜く。心臓に衝撃を受けて敵の動きが止まり、そこへ回し蹴りを側頭部に叩き込んだ。
    「ああ、お前らの死体でなぁ!」
     血の唾を吐きながらナイフを振るい、周囲に死に至る毒の風が巻き起こる。
    「飢えがまだ満たせぬ。怨敵を前にすれば幾らでも喉が渇き腹が空く。全てを喰らい尽くそうぞ」
     己が身が傷つくことも厭わず、織久は毒の中に突っ込んだ。
    「もう、六六六人衆が相手だとすぐ夢中になってしまうのだから」
     織久が怪我を負ってもいいように準備していたベリザリオは、見計らって霊力を放ち傷を治療し、織久は真っ直ぐに槍で胸を貫きそのまま壁に串刺しにした。
    「がぁっこのクソがぁ!」
    「スカル、ブランディング!」
     そこへ間髪入れずに跳躍した矜人はロッドを振り下ろし、防ごうと腕を叩き折りそのまま頭を陥没させようとする。だがそこへ横から大男の拳を喰らい壁まで吹き飛んだ。
    「……っ! やるじゃねえか」
     床を転がって骨にひびが入った痛みを無視し、片膝をついてロッドを向け雷を撃ち放ち追撃を避けた。
    「さっきの続きを始めるよ」
    「応……!」
     踏み込んだ理央の拳が腹を打ち抜き、同時に大男の拳が理央の肩を抉る。
    「砕く!」
     大男は腹筋に力を入れて拳で顔面を狙い打ち放つ。
    「流石、だけどこっちも拳には自信があるんだよ!」
     ステップを踏んでギリギリの回避をした理央は頬を切られながらカウンターの拳を下から放ち。アッパーが敵の顎を捉えた。
    「もうもう! 滅茶苦茶じゃない!」
     爪を噛んだ美女は目を血走らせながら大鎌を振るい黒い波動で灼滅者達を傷つける。
    「次のお相手になってもらいましょうか、どちらかが倒れるまで踊りましょう!」
     紅緋は腕を振るい風の刃を放って美女の攻撃を薙ぎ払い、追いかけるように間合いを詰めて拳を脇腹に叩き込んだ。肋骨が砕け浮いた体は地面を転がる。
    「存分に踊れるよう、私がフォローしよう」
     イルマは青く輝く剣を掲げ、背を押すような追い風が起こり仲間達の体を癒し力を与える。
    「汗を掻いちゃったわ、血のお風呂で流さなくっちゃ」
     目を血走らせた美女が大鎌を手に襲い来る。
    「勝利の方程式は既に解けました」
     最小限の動きでアリスは見切ったように大鎌を受け流し、お返しにと大鎌を薙ぎ払って胴を両断した。
    「互いに手の内は見せた。ならそろそろ決着だよ」
    「然り、必殺の一撃で生死を決しようぞ!」
     いろはが居合の構えを取る。対して永瞬は下段に切っ先を下げる。じりっと互いが間合いを詰めいろはが先手を取って動く。抜き打つ刃が伸びるように首を狙う。それに合わせ永瞬も逆袈裟に斬り上げ交差する。先に届いたいろはの剣は敵の首を刎ね、永瞬の剣は浅く斬り裂くに留まっていた。
    「さっきは邪魔が入ったが、今度こそ仕留める!」
     踏み込んだ矜人がロッドを振り抜く。それを片腕のナイフで防ごうとするが、刃が砕け胸に食い込み血反吐を撒き散らす。
    「ごばっごのグゾ野郎……」
    「クヒッその首を寄越せ! 我等の供物となれ!」
     口で噛みつこうとするところに、織久が大鎌を振るい大口を開けた首を刈り取った。
    「残るは、俺だけか」
     大男はそれでも引かずに仁王立ちで迎え撃つ。
    「残ったのはあなたを倒せば終わりですね」
     前に出たアリスは大鎌を振るいガードされてすれ違い、刃を返した大鎌の薙ぎ払いで背中を斬った。
    「こんなところに集まったのが考えなしだったのよ。少しは頭を使うべきだったわね」
     助走をつけたベリザリオは思い切り赤い標識を敵の硬い腕に叩きつける。
    「守りなど不要です。ただ全力で叩き込むだけです。最後まで踊ってもらいますよ!」
     引き絞る矢のように紅緋は拳を打ち放ち、敵のガードの上から骨を砕いて拳の形にめり込ませ吹っ飛ばした。
    「死を撒くモノは冥府にて閻魔が待つ。潔く逝って裁かれろ」
     続けて突っ込んだ白焔は顎に左拳を当ててふらつかせ、右拳を顔に叩き込みを顔を陥没させる。
    「まだ倒れぬか、だが終わりだ」
     そこへイルマが影の獣で脚に喰らいつかせ動きを封じた。
    「これで最後」
    「望むところ」
     理央の放つ拳を大男は敢えて顔で受けカウンターを放つ。だが紙一重で理央は避け、反対の拳で心臓を貫いた。

    ●戦いの後の
    「最後に満足ゆく勝負が出来たかな?」
     目を閉じたいろはが黙祷を捧げる。
    「他に気配は無い。任務完了だ」
     フロアの端まで白焔が調べて戻ってきた。
    「アポリアの奴は来ねえか……次はどんな手を使ってくるのか、油断は出来ねえな」
     警戒していた矜人は、一先ずここでの事件は終わりそうだと窓から外を見下ろした。
    「アポリアさんにはもう余裕がないのでしょうね」
     無理のある作戦にアリスは敵も窮地である事を悟る。
    「こっちは一つずつ企みを潰していくしかないからね」
     しらみつぶしにするしかないと、理央は出口に足を向ける。
    「まるで虫のように湧いてきますね……」
     戦いが終わり織久は落ち着きを取り戻すと、潰しても潰しても現れる敵に虫を連想する。
    「イヤだわ、想像しちゃったじゃない。これ以上は出ないで欲しいわね」
     休憩が必要だとベリザリオはうんざりしたように汗を拭った。
    「運動したらお腹が減りましたね。何か食べに行きましょうか」
    「そうだな。冷たくて甘いものが食べたいな」
     紅緋の提案にイルマが微笑みを浮かべ、喉を潤す甘味を求め、戦いの後の休息に灼滅者達は向かった。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年7月6日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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