●視察旅行のお誘い
「さあ、どうぞ。入って」
神童・瀞真(エクスブレイン・dn0069)は笑顔で灼滅者達を教室に迎え入れる。
「サイキックハーツ大戦の完全勝利おめでとう! まだいくつか問題は残っているけれど、ダークネスの脅威は完全に払拭されたと思って間違いないよ」
これからは全人類がエスパーとなった世界をどうしていくかなど、考えていく必要があるだろうね、と彼は告げた。
「現在の世界は人類のエスパー化による影響が出始めているけれど、社会的にはまだ平穏を保っているという状態だね。この状況のうちに世界の未来を考える我々が、世界の実情を目にするべきではないかと思うんだ」
どうやら学園のエクスブレインが世界各国の視察を手分けして行うことになったらしい。
エクスブレインが世界情勢を確認する事で、今後の世界について考える一助になればということだが、灼滅者が一緒に世界をみてまわってくれれば、より多くの情報を得られる可能性があるとのことだ。
「僕が行くのはドイツのローテンブルク周辺なのだけど、一緒にどうかな?」
瀞真は教卓の上から数冊のガイドブックを手に取る。
「組連合からの要望もあったので、修学旅行学年の人たちは修学旅行を兼ねてきてくれると嬉しいな……ああ、修学旅行学年以外の人も、もちろん大歓迎だよ」
●中世のおとぎの世界
旅程としては、ローテンブルクのホテルを拠点とし、そこから行ける範囲で各所を訪れるというイメージだ。
ドイツ南部にあるローテンブルクは、中世の街並みを色濃く残している。
「マルクト広場にある市庁舎は、手前がルネッサンス様式、奥がゴシック様式の建物になっているよ。頂上の展望台に登れば、街の周囲をぐるりと見渡せるようだね」
この市庁舎ではドイツの法に基づいた、厳かな結婚式を行えるという。教会式とは一味違った、けれども厳かな式。婚礼衣装のまま街に出て、記念写真を撮るのもよいだろう。希望者がいれば式をあげられるように予約しておく、と瀞真は言う。
「他にはひときわ大きな建物である聖ヤコブ教会。5500本ものパイプを使ったパイプオルガンや、リーメンシュナイダーの最高傑作とされる聖血祭壇があるよ。もちろんステンドグラスも素敵だね」
他には中世犯罪博物館や人形とおもちゃ博物館、一年中クリスマス用品を販売しているクリスマスマーケットやクリスマスヴィレッジ、クリスマスミュージアム。ぬいぐるみだけでなく絵本や文具、食器などテディベアに関するもので満ち溢れた、メルヘンな世界のようなお店。地方に伝わる伝統的な模様を取り入れた、手作りの陶器の店。
少し足を伸ばしてクレクリンゲンにいけば、ヘルゴット教会がある。ここには木彫り細工の聖母マリアの祭壇があり、リーメンシュナイダーによる素晴らしい芸術を見ることができるだろう。
「ディンケルスビュールまでいくと、ちょうど今はこども歴史子供祭りの最中のようだよ」
30年戦争当時の逸話に由来するお祭りで、各所で歴史劇や、コンサート、ダンス、パレードなどが行われるという。
「ネルトリンゲンくらいまではいけると思うんだ。隕石落下によってできた盆地の中の町で、リースクレーター博物館や聖ゲオルグ教会を見るのもいいね」
と告げた瀞真の手にしたガイドブックからひらっと舞い落ちたのは一枚のメモ。
『シュネーパル(大サイズ)を食べる』
「……見た、よね? シュネーパルというのはスノーボールという意味のお菓子で、サクサクしたドーナツみたいな感じらしいよ。チョコや粉砂糖、ナッツをまぶしたものなど種類も豊富で、大きなサイズは直径10cmもあるんだって」
ああ、ミニサイズもあるから安心して――メモを拾いながら情報を提供する彼を見て、そういえば彼は甘党だったな……などと思い出す灼滅者もいた。
「視察といってもあまり気負わなくていいよ。ごく自然に、観光のように見て回る事で、情報は集まるんだ。6年間戦い続けた灼滅者の皆の慰安旅行だと考えても良いよね。旅費には余裕があるから、やりたい事があれば、提案してほしい」
他に注意点として、人類のエスパー化による事件なども発生しているかもしれないが今回の視察旅行では、できるだけ関わらないようにして欲しいとのこと。
「灼滅者がエスパー問題にどう関わるかの結論が出てない状態なので、下手に関わると悪い影響がでてしまうかもしれないからね」
そう言って苦笑しつつも、みんなが一緒に楽しんでくれたら嬉しいよ、と瀞真は笑った。
●
ローテンブルクを仲睦まじく歩く暁とユリアーネ。ここは日本でいうと京都みたいなもの、とは言い得て妙だ。
「ユーリィの生まれは、このあたりでござるか?」
「私の生まれ? ベルリンはもっとずっと北東」
今回の視察で訪れるのは難しいから、次は二人で――約束。
「……でも、そっか。人造灼滅者になってから、もう戻ることなんて無いと思ってたけど………えへへ、ごめん。おかしいな、ちょっと、涙が……」
「……うん。戦いを続けて、生きることを諦めなかったから、ここにたどり着いた」
しかと彼女を腕に抱く暁。往来でも構わぬ。交わすのは、これからの……。
隣に立つ紘斗がじぃーっと見つめているものだから、千沙もそのテディベアを見つめる。
(「紘斗くんに似てるな」)
(「千沙に似ている気がする」)
先に動いたのは千沙。ベアを連れてレジへ。
「……欲しいのかなと思ったけど違った?」
「そうですね」
様々な思いを表すのは、その一言と自覚のない笑顔。
「ありがとうございます」
「……どういたしまして。……私の方こそありがとう」
彼の笑った顔が嬉しい、そして何よりも出会ってくれたことに。
「……」
受け取って、大切に抱えたベア。紘斗の心に大切だと響くものは確かにある。
幸せな時間が、ここにある。
遥が小さめのシュネーバルをサクサクと食べる横で、小さな身体のどこに入るのか、冰眞が頬張るのは3つ目のシュネーバル(大)。隣を歩くエミーリアは感心したようにそれを見つめている。手にした箱には先程買ったケーキが詰まっているが、これもほとんど彼女のお腹に入ってしまうのだろう。
「ひさなちゃんご機嫌だねぇ?」
それまで三人を見守るようにしていた英明はそっと。
「遥ちゃん、ありがとうね」
自分一人では皆でここに来ることはできなかっただろうから。
「どういたしまして。それにしても素敵。私としてはずっと変わらない街という今までの連続性が好き。皆ともずっと一緒に居たいなぁ」
「英明さん……とは、その……し、新婚旅行とかで、また! ここに来たいですねっ!」
「新婚旅行かぁ、その時はヨーロッパ各国周れたら素敵だよね」
はにかむ彼女に英明は笑みを返した。
「ひさなちゃん、外国の街並み、どぉ?」
「おかしのいえみたいでおいしそうなのだ♪」
照れて視線を移したエミーリアの問いに、滅多に言葉を発しない冰眞が答えた。そして満面の笑顔。
「エミーリアだいすきなのだ♪ ひであきはエミーリアがだいすきなひとだからひーもだいすきなのだ♪ はるかはおひざにのせてくれるからだいすきなのだ♪」
その真っ直ぐな心と笑顔につられ、温かいものが一同の心に満ちていった。
市庁舎の中、純白のタキシードを纏った真糸と、純白のウエディングドレス姿のアルクレイン。互いに互いの姿に鼓動が高鳴り続けている。
「死が二人を別つとも、きっとこの思いはあなたに寄り添い続けます。愛していますよ、僕の愛しい天使様」
「生涯懸けて愛しています。私の大切な真糸さん」
宣誓を交わし、指輪を交換する。書類にサイン――ひと通りの手続きを終えて市庁舎を出た二人は、その姿のまま抱き合い、口づけを交わした。
(「思えば感慨深いものです」)
3年前のエイプリルフールに始まった、嘘のような本当の恋人関係がエクルの祖国で実を結ぶ。決して叶わないはずの夢が叶い、新しく始まるのだと、純白に身を包んだ望は感じていた。
これまで色々な事を乗り越えてきた。今のこの世界なら、彼女との幸せを望んでも良いのだ、エクルはそっと望に口づける。
「これからもずっと愛しています……いえ、違いますね」
望はひとつ、咳払いをして。
「これからもずっとずっと愛してるよ……えくるん♪」
「ボクも望を愛してるよ、これからも末長くよろしくお願いします」
初めて出会ったあの日から、いつかこうなりたいと夢見てきたそれが祖国で叶うことの嬉しさを、ドレスに身を包んだオリヴィアは噛みしめる。戦いの中で戦士としてしか生きててこられなかった自分が人として真っ当な幸せを得る――。
共に過ごす誓いも、愛する誓いもしてきた。復讐の為に続けてきた戦いがようやく終わった――二人でいることの幸せを噛み締めたいと国臣は、書類に記入をする彼女を見つめる。
誓いの言葉、口づけ――互いを満たす感情は。
「私は、君に愛される事、君を愛する事が、至上の喜びなのだろうな」
玲那がリアナと共に向かったのは市庁舎。観光客の他に結婚式を挙げている学園の生徒を見かけて、羨ましさが膨らむ。
「私は……出来るはずないよね」
「じゃあ私としようか、結婚式」
呟きが聞かれていた事とリアナの言葉に玲那は驚くしかない。
これからの世界の変化は予測できない。けれど。
「私は世界を回って、色んなモノを見て、戦い続けていく。その隣に居て欲しい。誰が良いとか悪いとかじゃなくて、貴方に居て欲しい」
突然のプロポーズに迷いが齎す間。でも。
「仕方ないわね、既に亡き深闇の私と共に行くのなら貴女に預けようかしら。私の、全てを」
答えは一つ。
緊張からうろうろしてしまうアリアーンの頭を、目に五月蝿いとラルフが叩いた。
「仕方ないだろ、二度目がないんだぞ!」
「やかましい、奇術師とて公演1回1回が1度きりだ。1度しか無いなら精々胸を張ってカッコよく決めろ」
「あの……」
控えめな声がじゃれ合う二人の動きを止める。
「……どうでしょう、似合いますかね」
ドレスに身を包んだ翡桜の姿に時が止まる。こんな美しく凛々しい人とこれからを生きるんだと思うと、様々な思いがアリアーンの胸に満ちる。
綺麗だ、告げて式へ。
ラルフと瀞真が見守る中、書類にサインをする二人。
「これから大変だが、どうか一緒に幸せになろう」
「はい、喜んで。これから先の幸せを願って、一緒に歩んでいきましょう」
見守るラルフの瞳は、感慨深げな優しい色。
「ほら、せっかく世界一美しい翡桜嬢……もとい翡桜さんがいるのデスから」
「僕が撮ろうか」
ラルフのカメラで、瀞真がフレームの中に三人をおさめた。
「あ、これ、コイン入れると動くって!」
「……動くお人形さん……、どんなのでしょう?」
人形とおもちゃ博物館を訪れた紅葉と蒼。動いた人形に声を上げた紅葉は、一瞬驚いた蒼の頭を愛しげに撫でる。
その後、テディベアの並ぶ場所へ。
「テディさんもそろそろ年頃ですし……」
「……今井さんの、テディベアさんも、とても可愛らしい、ですよね」
紅葉が連れてきたテディベアは大切な親友だ。
「……あ、この子、すごく、ふわふわ、です!」
お迎えしようと蒼が抱きしめるのを見て。
「蒼ちゃんの子も、とても可愛いですね」
仲良くしてあげてねと願う。
カフェでシュネーバルを堪能するのは紅と友衛。メープルと粉砂糖。異なる味が気になって一欠片交換。
「街並みも本当に中世のようだったし、特に教会は凄かった」
楽しそうな友衛の言葉に相槌を打ちながら、自分が見た世界を見たいという彼女の願いが叶ったのを嬉しく思う。
「……あんな所で結婚式ができたらな」
無意識に漏れた言葉。拾った紅は慌てる様子もなく。
「結婚式を挙げるとなるとちょっと荘厳すぎるかね。クラブの面子は気軽に来て欲しいしな」
「っ、そ、そうだな、その方が……」
口に出ていたことに気付いて真っ赤になる友衛を紅は微笑ましく見つめた。
レストランでの夕食を楽しみながら、話題に上るのはやり訪れたマーケットのこと。
「じゃーん! ギル、プレゼントです!」
フローズヴィトニルが差し出した包みを、ギーゼルベルトは礼を言い受け取る。
「先を越されたけど、実は俺もフレンにプレゼントがあるんだ」
俺も驚いたんだけどと前置きをして差し出されたのは、なんと同じ包み。
彼と兄弟みたいに見えるかなと手にとったベア。
彼女と姉妹みたいで可愛いだろうと手にとったベア。
「お揃いだな、俺たち」
まさかの偶然は、色褪せない思い出の一つに。
予約が入っていない時間ならと許可された予行練習。
「統弥さん、ここまで駆け抜けてこられたのも統弥さんのおかげです。だから……ありがとうございます」
「僕の方こそ藍に会い、支え、励ましてもらって、ここまで来れた。ありがとう藍。これからもずっと一緒にいよう。愛しているよ」
婚礼衣装に身を包んだ統弥と藍は、そっと、口づけを交わして。
「お二人とも、笑顔でお願いします!」
昼間は借りたカラードレスを着、人造灼滅者由来の羽根を広げて街中を撮影していた佐祐理が、ミラーレス一眼のデジカメを構えて声を掛ける。
「学園に戻ったら、データと写真をお渡ししますね」
佐祐理に礼を告げ、そのまま手をつないで観光に出る二人。地元の人に祝福の声をかけられる彼らは幸せそうだ。
統弥と藍は、観光や買い物をしながら歩く。その瞳に映るのは、彼らが守った世界。
予行練習にとタキシードとドレスに身を包んだ御理とエリスは鐘楼の上から夜景に移行しつつある景色を眺める。
「お伽噺の国のようですね。可愛い建物が沢山あります――エリスは将来はこんな家に住みたいです?」
「私は御理と一緒なら……どんなところでも……きっと、お伽噺のお姫さまに、なれます」
「なにも思い出すものがなくても。こんどは忘れられない思い出にしましょう」
「忘れられない思い出を……ここで……うぅん、これから、どこででも……あなたと、作っていきたい」
この地の言葉で愛を、囁く。
●
物語の中みたいな街並みに溶け込む昭子やメロを見ながら、【Cc】の皆は街中をゆく。気になるものが沢山ありすぎて、皆気もそぞろだ。
じっ、と、他の者とは異なる視線を街に向けるアイナー。幼い頃の記憶はないけれど、記憶に残るこの国の言葉や歌が記憶の奥深くを刺激するような気がして。
「……!」
「……いやいやなんでも。良い物思いなら何よりだ」
藍に見られていたことが少しばかり照れくさい。
「テディベアや陶器のショップがあるんだっけ。わ、あっちには玩具屋さんが」
「……! テディベアに玩具屋……見る」
シェリーの言葉に、心なしか普段よりわくわくした様子でサズヤが反応した。その様子を依子は微笑ましく見守る。
「キャーキャー、かわいい物がいっぱいで幸せっ」
「お土産とも一期一会なのです」
メロと昭子も目移りして、迷っている様子。みんなも同じくそわそわし、財布を軽くしているようだ。
「暴雨は大荷物じゃな! 土産か?」
篠介の言葉にサズヤは頷く。
「サズヤはなかなか景気の良い買いっぷりだ、胸がすくねェ」
「九重も、何か買った?」
「ん? 俺のほうはちょいと土産をな」
答える藍。その近くでシェリーがそわそわしている。
「わたしはクリスマスのお店が気になるの」
「私も……お土産にスノードームを見よかな」
そわそわする彼女に口元を綻ばせて、依子は共に店内へ。
各所で記念撮影を挟みつつ、買い物を一旦終えた一同は、アイナーの案内でシュネーバルの店へ。
「大きい……。分け合って色々な種類を味見、してみたいけど……どう?」
甘い匂いに包まれたその提案を拒否する者などおらず。
「分けっこしても一杯あるよ……悩ましい」
「味の想像がつかん」
依子と篠介は互いの味を食べ比べ。
「ワォ! 甘い!」
「わたしのもどうぞ」
「シェア出来るって幸せだね」
メロと昭子とシェリーの交換に藍とアイナーも加わる。
「帰国後作って欲しい」
この味はまた愉しみたい、サズヤの希望。
「ドイツ料理を全部満喫して帰るにはどうしたら?」
美味しいものはまだまだ沢山。アイナーに問われて篠助はまずは昼飯の提案。
「次はどこに行く?」
皆を振り向いたメロの背後に、まだまだ楽しいことが待っているように見えた。
昨日教会とおもちゃ博物館を回った冬舞は、瀞真に再び声を掛けた。そして共に向かったのは、シュネーバルの店。
「ん、美味しいね」
大きなそれを各味1つずつ買い込んだ瀞真を見て、喉の奥で笑いながら冬舞もミニサイズを。
「へぇ、こんな味なんだ」
ベンチに腰掛け、行き交う人々を視界に収める。けれどもそれはなんだか、スクリーン越しのよう。
「なんだか呆気なくて。心の底では未だ戦場にいるみたいで、落ち着かないんだ」
「そうだね。長い戦いだったから」
それ以上瀞真は言わない。付き合いが長いからこそ、言葉にせずとも通じるのかもしれない。
勇弥と実はひと気の少ないあたりに移動して、霊犬の加具土とクロ助を呼び出した。以前のように、二人と二匹で遊ぶ。
「この街だけは君と一緒に見たかったんだ。『訪れる者に安らぎを、立ち去る者に幸いを』ここの門に刻まれた言葉は、俺が目指すカフェの理想だから」
「……いたかったけど、いられないってわかってたから。堕ちて戻っても全く同じにはなれなくて……覚悟してたけど辛かった……でもまた堕ちずにすんだのは……」
加具土を撫でる実の顔に、無自覚の微笑みが浮かぶ。
「……居てくれたから、だと思う。ありがとう勇弥さん、加具土。それに、クロ助も」
「どういたしまして、だね」
勇弥の優しい視線。加具土が一声鳴いて。
(「実くんの抱えた感情も全て、それは彼にとって大切なものだろうから。支える為にもこれからも隣で歩いていきたい」)
そっと、思った。
市庁舎が賑やかなのは【Fly High】のメンバーが合同結婚式を挙げるからだ。
(「良き友人達に我が故郷での記念すべき日を祝えるとは、こんなに嬉しい事は無い」)
一生のお願いを乱発してまたしても未知にウエディングドレスを着てもらって悦に入るニコ。
「……また、するんだよね……その……き」
「キスは当然するだろ」
「……うっ」
二度目があるとは……と思いつつもドレスに身を包んだ澪は、宗田に言葉の先を読まれて照れを隠せない。
沢山の仲間に見守られる中、式は進められて。
バレンタインに二人で買った金と銀の指輪を交換し、誓うニコと未知。
小粒の三連ダイヤを嵌め込んだサイズ違いの銀の指輪を交換する宗田と澪。
「おーおー、幸せそうなこって」
様々な角度から二組を撮影するのはアトシュ。四人の幸せそうな姿に感無量で、綴はすぐには言葉を紡げそうにない。陽司はつられて満面の笑みを浮かべつつ、自分と彼女の式を想像したりして。
「幸せそうな顔を見てると、こっちも幸せになっちゃうわね」
憧れを孕んだキラキラの瞳で眺めている歌音の横で、アメリアが呟いた。
「……!?」
恥ずかしいからキスは頬へ――しかしニコからの唇への逆襲。真っ赤になる未知。
本当は恥ずかしいけど、想いが嬉しいから――澪は背伸びして唇を重ねる。彼からキスしてくるのは初めてで宗田は少し驚いたが。
「どういたしまして」
そっと耳元で囁くと、澪の顔が更に紅潮した。
式を終えて市庁舎を出る。カラフルなフラワーシャワーが二組を祝福する。
RB団だった木乃葉も、四人の幸せを願って赤い花を。
「あれ? 花嫁誘拐ゲームはやらんの?」
陽司は感極まったのを誤魔化すようにオレンジの花びらを撒く。
「ニコ様未知様すべての雨の後には、日差しもまた続く、ですわ! 澪様宗田様光るものすべてが金とは限りませんわ!」
残暑はめいいっぱい、白の花びらを。
「おめでトー! 皆とっても格好良い&綺麗なのデース! これからお幸せニ!」
会場の雰囲気に圧倒されて不審な動きをしていたライラも、緊張が溶けて勢いよく花を撒く。
「幻に詩を、獣に花を、祝の門出に祝福を……いや、野暮は要らんか」
ようやく言葉を出せるようになった綴は、ヘルメットを被りニゲラの花を撒く。
「みんな、結婚おめでとうございまーす!!」
「皆! 結婚おめでとう!」
天使の衣装に着替えた歌音とアメリアは、空飛ぶ箒で空中から四人のイメージカラーの花を降らせる。
未知と澪を姫抱っこしたニコと宗田。降り注ぐ花。アトシュはシャッターチャンスを逃さない。
「皆で記念撮影するわよー!」
部長であるアメリアの上空からの声に、一同は二組を中心にして集まる。だが、自分には不相応だと思っているアトシュは、撮影側の位置から動かなかった。
「ほら、アトシュ先輩も写らないでどうするんです?」
「え? 待て!? 俺は撮影班……」
木乃葉に腕を引かれても抵抗するアトシュ。
「タイマーと三脚があるッ! 全員で囲め囲めッ!」
綴の一喝に、全員が有無を言わさずアトシュを引きずっていく。
「よし、いくぞー!」
いつの間にか三脚にカメラをセットた陽司が皆の元へと走る。
カシャッ。
色とりどりの花と笑顔が散りばめられた、最高の一枚だ。
●
ネルトリンゲンの街並みを眺めて、さくらえはエリノアに問う。
「改めて、生まれ故郷を歩く気分はどんな感じ?」
「生まれ故郷と言っても正直実感はないわね」
もしも――その先にあっただろう可能性をつい考えてしまう。
「……僕は、幸せに思うよ」
こうして共にこの国を歩ける今を。
「ね、次は聖ゲオルグ教会にも行ってみよう?」
「えぇ、いきましょうか」
手を引かれてあるき出そうとしたその時、すれ違った家族連れ。エリノアの足が思わず止まる。
「エリノア?」
「……何でも無いわ」
何かを断ち切るように首を振り。
「さくらえ、さっきの話だけど。私もさくらえと一緒に、私の家族と共にこの国で歩けて幸せよ」
その言葉には、大切な意味が込められている。
作者:篁みゆ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2018年8月8日
難度:簡単
参加:55人
結果:成功!
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