闇堕ちライブハウス~意義が未だあるならば、この力~

    作者:魂蛙

    ●大義
    「まずは改めて、サイキックハーツ大戦、お疲れさま。みんなの頑張りのおかげで、世界の危機は去ったよ。……みんなで、退けたんだね」
     教室に集まった灼滅者達に対して、須藤・まりん(大学生エクスブレイン・dn0003)は万感の思いを込めた労いの言葉で説明を始めた。
    「話に聞いている人もいると思うけど、サイキックアブソーバーが壊れちゃうかもしれないんだ」
     サイキックハーツによって強化されたキリングリヴァイヴァー。武蔵坂学園をサイキックハーツ大戦における勝利にまで導いたその力が故に、サイキックアブソーバーは性能限界に達していたのだ。
    「サイキックアブソーバーは既に役目を果たし終えている。それは確かかもしれない。けど、もしかしたらその力を借りなきゃいけない事態が起きるかもしれない。未来を救う可能性があるのなら見逃す手はない、だよね?」
     まりんのそれは問い掛けではない。人類の未来を救った灼滅者達への、絶対的な信頼だ。

    ●名分
    「今、サイキックアブソーバーは暴走寸前。その破壊を食い止める最も有効な手段は、みんながサイキックアブソーバーの力を吸収して、戦闘で消費する事なんだ」
     過剰に溜め込んだエネルギーを灼滅者達が消費すれば、サイキックアブソーバーを制御可能な状態に戻す事もできる見込みがある。
    「闇堕ち状態になったみんなが闘う事で、エネルギーを消費できるよ。戦場はライブハウス。闇堕ち状態を維持できるのは大体18分。この制限時間内でできる限り白熱した闘いを繰り広げる事が出来れば、サイキックアブソーバーの暴走を止めるのに充分なエネルギーが消費できるはずだよ」
     あくまで本気で、手加減など論外だ。互いに全力を尽くして、その上で相手を倒す覚悟が必要となる。
    「みんなには2つのチームに分かれて闘ってもらうよ。連携を活かしたチーム戦こそがみんなの最大の武器だからね。チームの人数は同数に分かれるのが基本だと思うけど、能力的にあまりに戦力差があるなら人数を偏らせることも必要かもね。とにかく、拮抗した戦力で激戦を繰り広げる事がエネルギー消費には重要だから、その事を考慮しつつチーム分けをしてね」
     極論を言えば、闇堕ち状態のタイムリミットである18分を使い切っての相討ちによる引分けが理想の結末となる。

    「サイキックアブソーバーの破壊阻止が、一番の目的だよ。でも……」
     まりんは少し周囲を気にするそぶりを見せながら、声のトーンを落とす。
    「もしかしたら、考えた事がある人もいるんじゃないかな。灼滅者が持つ闇堕ちの力。その全力をあの人とぶつけ合ったら、って」
     かつての禁忌をかなぐり捨て、頭の先まで闇に浸かり、その禁じられた闇の力を誰憚る事もなく思う存分に振り回す。それは、闇と戦い続けた果てに漸く勝利を掴んだ灼滅者達だけに許された、ささやかなご褒美なのかもしれない。
    「とにかく! これまでダークネスとの戦いを支えてくれたサイキックアブソーバーを労う為にも、今一度みんなの奮闘に期待させてもらうね!」
     誤魔化すように一つ手を打ったまりんの言葉に、灼滅者達は頷く。その胸の内に、各々の思いを秘めながら。


    参加者
    最上川・耕平(若き昇竜・d00987)
    花咲・マヤ(癒し系少年・d02530)
    神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337)
    戒道・蔵乃祐(ソロモンの影・d06549)
    水無瀬・旭(両儀鍛鋼・d12324)
    枸橘・水織(あくまでも優等生な魔法使い・d18615)
    平・和守(国防系メタルヒーロー・d31867)
    秋山・梨乃(理系女子・d33017)

    ■リプレイ


    「さて、人……いや、物助けと思って、『正義』の味方をやらせて貰おうか!」
    「皆さん、手加減はしませんよ、全力でぶつかり合いましょう」
     水無瀬・旭(両儀鍛鋼・d12324)の言葉に花咲・マヤ(癒し系少年・d02530)が応え、他の灼滅者達も頷く。
    「さて、闇堕ちはどうやっ……て……!?」
     タイマーを18分でセットした秋山・梨乃(理系女子・d33017)が疑問の言葉を言い切るより先に、それは始まった。
    「えっ……こんなの、む……無理っ!!」
     枸橘・水織(あくまでも優等生な魔法使い・d18615)が思わず声を漏らす程に、凄まじいエネルギーが流れ込んでくる。それに相応しい器となるべく、灼滅者達の闇堕ちが始まった。
     力を制御下に置いた最上川・耕平(若き昇竜・d00987)からは落ち着いた雰囲気は霧散し、浮かべた笑みには凶暴性がありありと滲んでいる。傍らに浮かぶウイングキャット、ピオニーにも獣の眼光が宿っていた。
     耕平は持ち上げてから握り固めた拳を軋ませ、笑みに犬歯を剥き出した。
    「さあ、やろうか」
     相手の返事も待たず飛び出した耕平を迎え撃つのはマヤだ。
     マヤが影業を展開させると、耕平は躊躇なく飛び込み、一気に突き破らんと猛進する。が、マヤが突き出した手を握ると、霧散しかけた影業は耕平の両手首に集束しつつ凝固して拘束する。
     勢いを止められ仰け反った耕平が、奥歯を噛み締めた。
    「この程度で、止まるか!」
     地面を踏み割る、一歩。
     前傾姿勢を取り戻した耕平は影業を引き千切り、再度弾ける様に飛び出し拳を繰り出す。雷撃迸る拳を、マヤは両手で引き伸ばした新緑のベルトで受けた。眼前でスパークが荒れ狂う拳にも、マヤは微笑を絶やさない。
     少女に見間違われる事もあるマヤの可憐な外見上にも変化はない。が、内包する力は苛烈にして重厚。そこが重力の特異点と化したかの如く歪んで見えた。
     闘靴2型改二のローラーダッシュ機構を起動させた平・和守(国防系メタルヒーロー・d31867)が身に纏うC・ODスーツに、異変は現れた。排熱スチームの如く噴き出した暗黒はC・ODスーツを侵食するように暗色基調の夜間迷彩に変色させ、装甲の継ぎ目を赤光が走る。同色の紅が明滅しつつバイザーを染め上げ、直後にローラーが弾けさせる火花を蹴散らし和守が飛び出した。
     地を蹴り鋭角ターンから体を逆に傾けてカウンターを当て、迎え撃つ梨乃の死角へ切り込む。センサーのレッドライトを置き去りにして引き伸ばす加速度は、和守自身の想像をも上回る。が、同時に向上した認識力と判断力はそのスピードに追従しきっていた。
    「まるで原付からレーシングマシンに直接乗り換えたような感覚だな、これは」
     銃剣Bayonet Type-64を装備した和守の長銃の銃口は、振り返りつつ飛び退く梨乃の動きを完璧に捉え、発射する光線を直撃させた。
     直後、暗黒が梨乃を包み込んだ。
     雷鳴に似た轟音で暗黒を切り裂き現した梨乃の姿は、例えるなら人型のロボットであった。頭部には長髪を模したパーツがあり、全身が滑らかに曲線を描く女性的なボディラインだが、その質感は硬くあくまで金属質に光沢を放っている。
     梨乃は雷瞬く間に間合いを詰め切るワンステップからクルセイドソードを振り下ろす。和守は左腕のローディングシールドが展開する光の盾で辛うじて受けるも、重い剣圧を捌くには至らない。
    「乗り換えたのは相手も同じ、か」
     激しく火花を散らす衝撃に、光の盾が波紋を広げて揺らいだ。


     サイドに展開して隙を窺っていた戒道・蔵乃祐(ソロモンの影・d06549)に、神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337)が襲い掛かる。
     蒼の妖の槍の連続突きを蔵乃祐は体を振って紙一重で躱していく。蒼が違和感を感じたのは、槍を掠めた蔵乃祐の服が裂かれ、切れ端が弾け飛んだ時だった。
     躱される前に、破れている。突くより先に、引き千切れていく。蒼の攻撃とは無関係に、蔵乃祐の衣服が襤褸布と化していく。
     衣服だけではない。若く瑞々しかった皮膚は角質が捲れ上がるほどに枯渇し、深い皺が無数に刻まれ頬が痩けた顔に傷んだ白髪がざんばらにかかる。
     劣化同然の変貌にも関わらず、蔵乃祐の動きは寧ろキレを増していく。
     蒼は槍を振り下ろして蔵乃祐のバックステップを誘発、間髪入れずの踏み込みから渾身の一突きを繰り出した。
     蔵乃祐は上げた左腕のガードで槍を受ける。瞬間、突き抜ける螺旋の衝撃波は乾いた土塊を砕くよりも容易く蔵乃祐の左腕を崩壊させた。
     皮も肉も崩れ落ち、剥き出しの骨は僅かに残った肉の筋に繋ぎ止められてだらりとぶら下がる。肩口から滲み出す影業が肉の残滓と癒着し、左腕の白骨を包み込んだ。
     そんな惨状の左腕が影業で拳を形作り、蒼を殴って吹っ飛ばす。更に飛び出したダイタロスベルトが蒼を捉えて縛り上げ、蔵乃祐が左腕の影業でベルトを掴む。影業が蠢く度白骨が擂粉木で擦るような音を立てるその腕でベルトをぶん回し、蒼を地面に叩き付けた。
     すっと立ち上がる蒼の身長が、高い。成人程の体躯にまで成長した蒼が、着崩した着物から白い柔肌を覗かせている。猩々緋の瞳を細め、手で隠した口元には艶美な微笑を浮かべていた。
    「妾はシロ……シロじゃ」
     淡黄の髪と九尾を揺らしダークネスとしての名を名乗る蒼だが、精神を乗っ取られたわけではない。劇的に変化した肉体と精神のギャップを埋める為の演技、といったところか。
     ふわり、と着物の裾を揺らして跳んだ蒼は軽やかに蔵乃祐の懐へ飛び込み、振り払う槍で薙ぎ倒す。左腕で地面を抉りながら受け身を取った蔵乃祐は、即座に踏み込み左腕を振るう。蒼は左腕の一撃を今度は槍で真っ向から受け止めた。
     そこに奇襲を仕掛けようとした枸橘・水織(あくまでも優等生な魔法使い・d18615)だったが、旭がタックルで突き飛ばしそれを阻んだ。
     旭は異常なまでに活性化しているデモノイド寄生体のほぼ全てを手に持つ妖の槍、鐵断・魁に集約し融合させている。寄生体が拍動する度、双頭の槍身が黒炎をくゆらせた。
    「ならば俺は……ロード・刃金とでも名乗っておこうか」
     旭でもなく、かつて己が堕ちた、ロード・玉鋼でもなく。己とダークネスを表裏一体に鍛え上げられた刃になぞらえて。
    「俺の中に、君がいる。理想は遠し、されど届かぬ夢で無し。行こうか、相棒!」
     行く手を阻むウイングキャットのミケを、旭は体ごとぶつける人槍一体の一撃で撥ね飛ばす。旭が鐵断・魁を頭上で回転させると荒ぶる黒炎が形そのままに氷結し、それを弾としてマヤを狙い撃った。
     旭の追撃は、体勢を立て直した水織が止める。
     矛先を変えた旭の槍戟を、水織は指先の動きで操るリングスラッシャーで受け捌く度、ダークネスとして体が再構築されていくのを実感していた。ダークネスの生命活動に不要となった物の喪失感を羽と尾の生成と急速な成長が埋め、併せて耳も尖った形に変化していく。
     旭が槍を振り被るその刹那を見切った水織はリングを槍の穂先に食らいつかせる。タイミングをずらされた旭が空振った時、水織は呼び戻したリングを魔力に分解、取り出した試験管への充填を完了していた。
     高音と震動を経て爆ぜた試験管から無数の光輪が飛び出し、旭に殺到して弾き飛ばす。
    「みお……今はソロモンの悪魔なんだね…」
     全身を駆け巡る魔力の奔流に、長く伸びた尾の鏃形の先端が恍惚と揺れていた。


     耕平と和守が前に出て圧力を掛けると、単身躍り出たのは蔵乃祐だった。
    「出来るだけ長く永く、勝負を楽しみませんか?」
     挑発と陽動だと知りつつも、耕平と和守がやる事に変更はない。2人は左右に散開からの挟撃で蔵乃祐を潰しにかかる。
     瞬間、蔵乃祐が2人を素通りした。
    「いや僕はね、相手の最も嫌がる戦い方が最も効果的な戦術だと思うんですよ」
     虚を突いて敵陣深くへ斬り込んだ蔵乃祐は聖杖ルサンチマンを地面に突き立てる。全砲門を展開、光線を一斉射する十字架を軸に蔵乃祐は旋回、全方位に乱れ撃つ光線で敵陣を混乱の坩堝に叩き落とした。
    「泥沼に引き込ませて貰いますね」
     蔵乃祐に向かう蒼を直後に飛び退かせたのは、マヤが放ったダイタロスベルトだった。ベルトは急停止から反転して再び蒼を狙う。
    「どんどん精度を上げていきますよー」
     ベルトは蒼が躱す動きを学び予測しながら幾度も襲い掛かる。遂には直撃コースに乗ったベルトの前に、身を割り込ませたのは耕平だった。
     ベルトは耕平の腹に刺さり、停止する。更に抉り込もうとするベルトを耕平が鷲掴んでいた。
    「この姿でも、それなりに効くな」
     耕平は吐き捨てる様に呟き、ベルトを力尽くで引き抜く。
     直後、耕平に飛び掛かるミケに、しかしピオニーが食らいついた。喉笛を食い破らんばかりに牙を剥くピオニーに、しかしミケも負けじと爪を突き立てる。
     野性全開の揉み合いに、マヤは目を奪われてはいない。棒立ちを装い誘っていたのだ。
     死角から来る旭を。
    「読み通りの攻撃である」
     突如降り注ぐ魔力弾の雨が旭を襲う。旭に爆撃を浴びせた梨乃が上空から降り立ち、旭が体勢を崩しながらも振るう一撃を、縛霊手を盾に受け止めた。縛霊手の祭壇機構から溢れる光は、槍身に荒ぶる黒炎も寄せ付けない。
     梨乃の後方、水織が開いた魔導書を指先でなぞる。と、もう一方の手に持った試験管を発現した魔力が満たした。
     投げられた試験管が旭の足元で割れ、一気に気化した魔力の蒸気が旭を包む。梨乃が離脱した直後に蒸気が凝華、旭を巻き込んで凍結する。
    「……もう1つ、おまけです」
     水織は試験管に口付ける様に口を寄せて語りかける。と、魔力液が煙を上げ始め、試験管から噴き出すそれが怪物となって旭に襲い掛かった。
     それを上から叩き落としたのは、シールドを展開した和守だった。和守はシールドの出力を上げて怪物を捻じ伏せ、更に回転数を上げるモーター音と共に体重を掛けて圧し潰し、遂には怪物を霧散させた。
     蔵乃祐を狙う蒼は半身の構えから上体を揺らして聖杖ルサンチマンの砲撃を躱し、滑らかにスタンスを踏み替えつつ間合いを詰める。そのまま体を傾けバランスを崩した独楽の様に旋転、遠心力を乗せたマテリアルロッドを掬うように振り上げた。
     ロッドがインパクトに反応して爆裂し、ガードした蔵乃祐を僅かに浮かす。
     蒼と入れ代わり耕平が追撃する。摩擦で赤熱するエアシューズで地を深く抉り溶かすステップインから右フックを叩き付け、返す左がガードをこじ開けた。
    「……芯から――」
     耕平はフォロースルーに身を任せて旋転しつつ、軸足で跳んだ。
    「――砕けろ!」
     赤熱したエアシューズのローリングソバットが蔵乃祐をぶっ飛ばす!
     吹き飛びながら、しかし蔵乃祐は笑みを浮かべていた。
     蔵乃祐が放つ無数のベルトが放射状に伸びて灼滅者達を捕縛、その全てを左腕の影業で束ねて握った蔵乃祐は自身が吹っ飛ぶ勢いをも利用し、相手を纏めて引き寄せた。
    「ようこそ、沼底へ」


    「間に合わせる!」
     拘束を解いた和守がシールドを展開する。限界出力で生成されたそれは壁に近く、梨乃と水織が放つ大量の光弾と光輪を全て防ぎきった。
     が、シールドを維持できたのはそこまでだ。溶け消えるシールドの向こうから、マヤが突っ込んで来る。
    「この力の壁、抜けるものなら抜いてみろ!」
     耕平はマヤと激突、そのまま格闘戦に持ち込む。
     拘束を解き踏み止まっていた蒼は既に構えていた。重心は低く後足に力を溜め、後ろ腰まで引いた右腕の裾先から鬼の拳を覗かせている。
     飛び出した蒼の前に梨乃が立ちはだかる。蒼の渾身の一撃を梨乃は受け、止め、立っていた。
    「……お裾分けです」
     耐え切れたのは、水織が振り撒く試験管の魔力液のお陰だった。
     すぐさま退いた蒼と入れ代わり前に出た和守が梨乃の反撃をガードするも、限界に達したローディングシールドが機能を停止する。
    「これで終わりである」
     梨乃が容赦なく和守に斬り上げから水平斬り、大上段からの袈裟斬りを纏めて叩き込む。
     切り裂かれた装甲がショートする内部機構を晒し、片膝を着いた和守のバイザーから光が失われていく。
     か細く明滅する光は、まだ失われてはいない。
     和守は立ち上がり様、右手に持つ長銃のBayonet Type-64で梨乃の腹を突き、歪んだ装甲を軋ませながら吊り上げる。左拳をスパークさせ、ローディングシールドが小爆発を起こそうが構わず雷撃を握り固め、長銃を引き抜くと同時に梨乃に叩き付けた!
    「馬鹿な……。計算が狂うとは」
     拳を振り抜いたその姿勢のまま、アーマーがスチームを排出する。大きく後退らせた梨乃を追う力は、和守には残っていない。
    「詰めは任せる」
    「ああ!」
     スチームを切り裂き飛び出した旭が梨乃に肉迫する。
     黒炎を纏った鐵断・魁を梨乃目掛け振り下ろし、
     背後に迫る水織の煙の怪物を梨乃の逆側の刃で貫き、
     回転様に横薙ぎ円を描く黒炎で纏めて焼き払う!
     立て続けの攻撃に耐え切れず梨乃が倒れる一方で、マヤと耕平の格闘戦も佳境に差し掛かっていた。
     マヤがガンナイフの花開く軌跡を突き出せば、耕平はトリガーを引くより早くその銃口を叩いて逸らす。耕平が踏み込みショートアッパーを返すも、マヤはガードしつつナイフを脇腹に突き立てる。歯を食いしばり痛みを乗り越えた耕平がクルセイドソードを抜き放ち様に斬り上げると、マヤが後退さった。
     耕平が追って踏み込む、それが罠だった。
    「さぁ、闇に囚われなさい!」
     マヤについて行かず、その場に留まっていた影業が耕平の足元から噴出し、耕平を飲み込みながら蕾を象る。やがて開花する大輪の薔薇が散った後にあったのは、片膝を着いて息も絶え絶えの耕平だった。
     もうマヤを倒せるだけの力はない。ならば。
     顔を上げた耕平が飛び出す。行く先は身構えたマヤではなく、蒼を狙い聖杖ルサンチマンの砲撃体勢に入っていた蔵乃祐だ。発射は防げない。それを承知で、耕平は砲口の前に飛び出す。
     直後、砲身が震えて烈光を放った。
     目も眩む光が徐々に細くなり、消える。その砲口の前に、まだ耕平が仁王立っていた。
     耕平は渾身のアッパーで蔵乃祐を打ち上げ、力を使い果たして倒れる。
    「今だ、やれ!」
    「後は妾に任せよ」
     応えた蒼が跳び、蔵乃祐を追撃する。蔵乃祐の上を取った蒼は鬼の拳をその土手っ腹に打ち込み急降下、そのまま地面に叩き付けた!
     止まらず蒼はマヤに突進、深く踏み込み槍を突き出す。マヤは引き付ける蒼の額に狙いを定め、花開く軌跡のトリガーを引く。
     槍の穂先は、マヤに届かない。
     だが、弾丸も蒼を捉えず虚空を突き抜けていた。
     蒼の体躯が、少女のそれに戻っているのだ。それは、つまり。
     梨乃のタイマーが、18分の経過を告げるアラームを響かせていた。

    作者:魂蛙 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年7月29日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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