世界視察旅行~夜のない国へ

    作者:泰月

    ●世界を見に行こう
    「皆、サイキックハーツ大戦の完全勝利おめでとう」
     夏月・柊子(大学生エクスブレイン・dn0090)が、集まった灼滅者達に勝利を祝う言葉をかける。
     一ヶ月近く続いた大戦は、終わった。
     まだいくつか問題は残っているが、ダークネスの脅威は完全に払拭されたといって間違いないだろう。
    「それで、今日来て貰ったのは一緒にノルウェーに行かない? と言う話よ」
     唐突な提案に首を傾げる者もいる中、柊子は学園のエクスブレインが、世界各国の視察を手分けして行う事になったと告げた。
     いずれは、全人類がエスパーとなる。
     そうなった世界をどうするか、これから考えていく必要がある。
     その為の一助になればと、社会的にはまだ平穏を保っている内に、世界の実情をエクスブレイン達が見て回る事となった訳だ。
     エクスブレインが世界を目にすれば、いずれは海外の未来予知も行えるようになるかもしれない。サイキックアブソーバーが再び制御可能になれば、と言う条件はつくが。
    「私達だけじゃなく、皆も一緒に世界を見てまわってくれれば、より多くの情報を得られる筈――と言う理由もあるのだけど」
     それはさておいて、と柊子は笑顔をみせて。
    「視察と言う形ではあるけれど、修学旅行の代わりも兼ねてるわ。組連合でも要望があったみたいなの」
     勿論、学年を問わずに参加できるが、今年修学旅行があるはずだった学年の人には、その代わりと言うわけだ。

    「私が行こうと思っているのは、ノルウェーのベルゲンよ」
     ノルウェー西岸ヴェストラン地方にある、ノルウェー第二の観光都市。かつては、ノルウェーの首都だった時代もあるそうだ。
     フィヨルド観光の玄関口であり、フィヨルド周遊のクルーズ船が出ている。
    「ベルゲン、というのは、山の牧場を意味するらしいわ」
     街の東側にあるフロイエン山から、街と近くのフィヨルドを一望できる。ケーブルカーもあるので、上るのも簡単だ。
     街中にも世界遺産になったブリッゲンや、魚市場、中世の建物など見所は多い。
    「この時期、ノルウェーは結構アウトドアも盛んらしいわ」
     長くない夏を、北欧の人々は自然とふれあい過ごす事が多いと言う。
    「自然享受権、と言うらしいのだけど。向こうでは『自然は誰のものでもない』と言う考えが権利としてあって、森の中や湖の畔で自由にキャンプ出来るみたい」
     自生している果物なんかも、自分が食べる分だけを採るなら良いそうだ。
     勿論、自然破壊やごみを残すといった事はご法度だが。
    「あと何より、きっと涼しいわよ。夏でも30度行かないみたい」
     避暑地としては、最適かもしれない。
    「視察と言っても、観光のつもりでいいのよ。ノルウェーに決めたのも、私が行ってみたかっただけだから。夜のない国に」
     この時期のノルウェーは、完全に日が沈まない。ベルゲンでも薄暗くなるくらいが数時間続くとまた太陽が昇ってくるという。
    「旅費には余裕があると言う事だから、やりたい事があれば言ってみて。きっと何とかなると思うわ」
     何しろ、通常は直行便がないベルゲンにチャーター便を飛ばす事が既に決定しているくらいだ。
     武蔵坂学園――金ならある。


    ■リプレイ

    ●北欧
    「え? 渡里さんも?」
    「嬉々としてキャンプに行ったけど」
     美味しいお菓子があると聞いたカフェに柊子を誘った晶は、目を丸くした柊子の反応で色々察した。
     道理で、同じチャーター機にいた顔をベルゲンの街で見ないわけだ。
     その頃、渡里はフロイエン山の先のとある湖にいた。
     既にテントは設営済み。
    「この水温じゃ、さすがに泳ぐのは無理があるからなぁ」
     湖に浸していた手を振って水を切り、膨らませたゴムボートを湖に向かって投げ込ーー。
    「ま、放っといて大丈夫よ。それより、明日エドヴァルド博物館行かない? コンサートもあるらしいわよ」
     丁度その時、晶が柊子を誘っていて。
     湖上に小さなくしゃみが一つ。
    「――晶だな」
     短くぼやいた渡里は、釣竿片手にサフィアと共にゴムボートに乗り込み、湖に漕ぎ出した。

     ベルゲンは、街の一部が世界遺産にもなっている古都だ。
     見所は、北欧の自然だけではない。

    「こんにちわ。日本から来たんだ」
     海外の猫との触れ合いの輪を広げに来た呼音は、昔ながらの石畳の上に座り込んで数匹の猫に囲まれていた。
     既に膝に乗ってきたり、紐を振るとじゃれて来たりと中々懐っこい猫達だ。
     猫探しの傍らに見た限り、まだエスパー化の影響は見られない。
     故に、呼音は全力で野良猫と戯れる事にした。

    「こう言う、昔からある建物が新しい区画と共存してるのも、いいですね」
     旧市街からブリッゲンへ。13世紀の面影を残す街並みを散策するロジオンは、いつもの獅子頭ではなくごく普通の青年の姿だ。
     路地を抜けて、港から太陽が水平線に沈むのを見送る。
    「大おじい様と白夜の下でキャンプなどしましたね……懐かしい」
     それでも夜になりきらない空と北欧の涼しさに呼び起こされた昔日の記憶に突き動かされ、ロジオンはベルゲンの駅へ向かった。

    ●家族と友と
    「ここにしましょう。芝生の上の方が、下が固くないですから」
    「空凛姉さまは座ってていいよ」
    「そうそう、無理しちゃいけない身体だしね?」
     長女たる燐の指示の元、陽和と朔夜が湖畔の木陰にテントを立てていく。
    「相変わらず鮮やかな手際ですね」
    「もうプロだからね」
     デッキチェアに腰掛けた空凛に微笑んで、双調も義兄弟達の手際を見守る。
    「……皆さん、ホント慣れてるわね」
    「……食糧確保で貢献しましょう」
     殆ど出る幕なく完成に向かうテントを前に、愛莉と雄哉はそう頷きあった。

    「でかいんですけど!? 朔夜先輩、尻尾を押さえて」
     バシャバシャと水音を立てて、雄哉が川魚と格闘中。
     男衆3人の釣りは、いつの間にか掴み取りになっていた。
    「双調兄さん、網をお願いします」
    「2人とも、慎重にね」
     朔夜と雄哉で頭と尾を押さえて、双調が構えた網に大物が投げ込まれた。

    「この辺りは殆ど針葉樹ですね」
    「木登りの出番はないですか」
     樹上に果実が見当たらず、燐と陽和は少し残念そう。
    「これだけあれば、充分ですね。あちらもきっと大物を釣ってきてくれるでしょうし、食事は全力で腕を振るいましょう」
    「私も、デザート作りは腕を振るうわ」
     空凛は柔和な笑顔で、愛莉は若干の使命感的なものに燃えて、主にクラウドベリーとブルーベリーでいっぱいになった籠を抱えて告げる。
     【さいはて】のキャンプご飯は、豪華なものになりそうだ。

    ●海を越えて、ODEN
    「ここを通せばいい、筈……む、難しいの…………」
    「大型テントは、1人で立てるのは難しいですよシャノ先輩」
     ポールテントの組み立てに苦戦するシャオの元に、木乃葉が駆け寄る。
    「アトシュ先輩と白峰さんも一緒にやりましょう」
     アトシュと歌音も加わって、4人でせーのでポールをしならせテントを膨らませ、ポールを四隅のエンドピンに挿し込む。
    「後はすぐにペグを打ちます。風が強いと、飛びますから」
    「正直助かる。組連合のテントと勝手が違ってな」
    「ふむふむ、テントってこう言う感じに立てていくんだなー。ペグってこれ?」
     木乃葉がいなかったらテントもわけわからん事になってたかとアトシュは思いつつ、歌音からペグを受け取ってコンココン。
    「固定したらいいんだね……あ、美味しそうなきのこ」
     ついでに収穫しつつ、シャオもコンコン。
    「うんうん、がんばって設営してくれてるわね」
     ペグ打ちの音が響く中、アメリアが大きな荷物を抱えて立ち上がる。
    「ここからは私の番。そう、時代は――インスタ映え! 内装外装、頑張るわ! おしゃれなカーペットとかランタンも持ってきたのよ!」
     アメリアはバサッとテントの中にカーペットを広げた。

    「ねえ。このおでんの具らしき2つ持ってきたの、誰……?」
    「だってこれから作るのはおでんデース?」
    「物凄い重かったですわ、大根!」
     ライラと残暑が持ち込んだ餅巾着と大根は、聖香をはじめとする【FlyHigh】の調理班の面々を多いに悩ませた。
    「オーデン。それは北欧の神の名を冠した料理……うってつけッ!」
     謎ポーズを決めた綴は、大丈夫そうだ。
    「……餅巾着使たレシピなんて見てへんし……炙る? 大根は野菜スティックにしてまう?」
    「魚に大根おろしもいいかも」
    「よし、綴。魚とって来てくれんか。竿ないから手掴みで!」
     枢と聖香のアイディアを聞いて、陽司が綴に指示を出す。
    「任せろDJ――って、何で素潜りだッ! 文明の利器とかないのか貴様ァッ!」
    「文明なんてあるかっ!」
    「なら仕方なし!」
     いつものヘルメット着用のまま、綴はザブンと飛び込んだ。
    「皆様、ないすあいであですわ! 不足しがちな野菜分も補――」
    「ノーウ! 騙されたら危ないデス残暑! これはきっと、おでんを亡き者にしようとする悪の秘密結社の陰謀に違いないね!」
     賛同した残暑に被せ気味に、ライラが譲らない。
    「2人は森で遊んで来なさい! キノコとか果物とか食えそうなら拾ってきなさい!」
     軽く頭を抱えた陽司が、気を使って指示を出す。
    「キノコグルメは必須ですわね!」
    「流石に『森の果物でフルーツおでん』は、どうかと思うネ。残ったら陽司が全部食べるデース?」
    「え、ナニソレ? どゆこと?」
     一抹の不安を陽司に残し、2人は森の中に入っていった。
    「テント班に総ツッコミされる未来が見えた気がする」
    「かもしれへんけど――今、ほんま楽しいわ」
    「ああ、楽しいな」
     枢と聖香は顔を見合わせ、一先ず山菜の下拵えに取り掛かった。

    ●ふんわりアウトドア
     先生が押さえた魚から、ニコが針を外す。
    「これ、美味しいやつ?」
    「アトランティックサーモン、ではないかな。きっと美味い――筈」
     釣果で勝り心なし嬉しそうに明莉に返すニコの出で立ちは、いつもの魔法使い然としたものではなくポロシャツにチノパンの軽装だ。
     続いて、パシャンと小さな水音。
    「よっと。さっきあかりん先輩が釣ったのと同じかなぁ。これ何て魚?」
    「名前? さぁ?」
     見覚えのある魚の名前を千尋に問われ、明莉は笑って返す。
     種類も気にせぬふんわり具合。
    (「このテキトーなユルさ。実にあたし達らしいや。鈍はちょーっと力入ってるみたいだけど?」)
     胸中で呟いた千尋の読み通り。脇差は謎の対抗心を燃やしていた。
    (「咬山やニコに負けても、木元には負けたくない」)
     その対抗心ゆえだろうか。
    「ぐ……」
    「はは。餌だけ持ってかれちゃったね」
     振るわぬ釣果に肩を震わす脇差の背を、千尋がぽんと叩いた。

    「てるのちゃん、そっちの実、おいしそうだよっ!」
    「ありがとう、キョン。これは……うん、食べられるね。少し採っていこう」
     並んでしゃがんだ杏子と輝乃が、小さな果実を摘んでいた。
    「2人とも、こっちも食べ頃ですよ」
     Tシャツにジーンズと軽装の紗里亜が、赤いベリーを手に手招き。
    「はい、あーん♪」
     そうして果実を集めながら散策していた3人は、いつの間にか森の端まで歩ききっていた。森の先で岬に出ると、空と海の青が視界に広がる。
    「……わぁ!」
    「これがフィヨルド……すごく、きれいなのっ」
     眼下に広がる自然の芸術に紗里亜と杏子が、感嘆の声を漏らす。
    「こんなにゆっくりとしたキャンプ、初めてだね」
     その隣で、輝乃がしみじみと呟いた。

    「薪はこのくらいで、足りるかな」
     カルラと共に森に入っていた渚緒が、木々の束を抱えてキャンプ地に戻ってきた。
    「おれマキ割りする! やってみたかったんだよなぁ、コレ」
    「じゃ、アタシは石窯を組んでおこっと」
     カコーン、カコーン、とポンパドールが木々を割る軽快な音に、ミカエラが石を積むカチャカチャとした音が重なりだす。
     その音に、渚緒は目を細め耳を傾ける。馴染みのない異国の鳥の声も、風が揺らす森の音も、すべて耳に心地よい。
     そこに、森と川から食料を調達した仲間が戻って来た。
    「ただいまーっ! ってニコさんすげ!」
     遅れて戻ってきたのは、別行動を取っていた未知。
    「いやぁ~壮観だねぇ。色が」
     未知と隣の大和の籠にある色取り取りの――ちょっぴり危険そうな色も混ざってるキノコの山に、明莉がニコリと笑顔を向ける。
    「こいつはキノコグルメ持ちだけで楽しみましょー!」
     なお、この時点では未知1人。
     とまれ食材は充分集まった。
    「そんじゃ、本番行きましょ~♪」
     組み上がった石窯に薪を並べて、ミカエラが火を入れる。
    「やったー! マシュマロ焼けるー! ……アカリ、いい?」
    「食いすぎんなよ?」
     マシュマロの袋を手に火に駆け寄ってきたポンパドールに、明莉は苦笑混じりに頷くのだった。

     そして夕食時。
    「大丈夫? まだ口辛い? 食べても大丈夫なキノコもあるよ?」
    「いや、うん。大丈夫だ(あいつら……!)」
     何となく何かを察した面々が今回、最初から輝乃と脇差が並んで座る形にし向けたのを付け加えておく。

    ●白夜の語らい
    「……今後は、どうするつもり?」
     湖に映る自分と美幸――その後ろに立つヴェルグに、空が問いかける。
    「世界の行末を見た後は、決めてねえな。スウェーデンに帰るかもしれんし、帰らずにいるかもしれん」
     日本もある意味故郷だし、とヴェルグは続ける。
    「お前はどうするつもりだ?」
    「……少し世界の景色を見て回る」
     これからの世界で、上手くやっていける自信は空にはなかった。それでも、この光景は美しいと思えたから。
    「何、どうしても難しければ帰ってくれば良い」
     淡々とアドバイスを空に語ったヴェルグは、最後にそう付け加える。
    「そうだね。疲れたら、また世話を焼かれようかな……」
    「居場所くらいは用意するさ」

     湖の畔に2つ並んだ1人用テント。
     その間で、焚き火が風に揺れていた。
    「こんな風に海外に来れるなんて思わなかったよ!」
     パチパチと爆ぜる音に重なるうずらの声を、シグマは珈琲片手に静かに聞いている。
    「そう言えば、コード先輩。昼間、こっちの人とお話してたよね。なんだったの?」
    「他愛ない話だ。この辺のベリーの在処とか」
     自分ばかり喋っている自覚は、うずらもあった。それでもなんだか楽しい。
     きっと、いい夜なのだろう。お互いにとって。
     たまに返って来るシグマの声を聞きながら、うずらは、そう感じていた。

    ●クラスメイト
    「見ろ。疑似餌がまるで生きて泳いでるような、僕の激しいロッド捌き! ヌシを釣って伝説を見せてやるよ!」
    「いいだろう。俺の実力を見せてやるよ。ヒーローの力ってやつをな!」
    「……2人ともヤル気だな。あたしのウデも見せてやろう」
     持参した竿を縦横に動かすルーチェに対し、一夜と小晴は不慣れな手つきで竿を振って投げ入れる。
    「始まりました武蔵境1年3組フィッシングレース!
     勝利の栄光を手にするのは誰なのか! そして今日はどんな魚が食べられるのか!
     私達のお魚バーベキューはキミたちの掛かっているのだー!」
     釣り対決にビデオを向けながら、鈿女が実況で盛り上げる。

     で、数分後。
    「お疲れ様です。調子はどうですか」
    「気になっちゃってね。様子を見に来たよ」
    「……」
     料理の下拵えを終えた冷都と智秋が、差し入れを持って現れた頃には、1匹釣って体力が切れたルーチェは無言になっていた。
    「ま、ぼちぼちな」
    「差し入れさんくす。オレンジジュースあるかネ」
     一夜と小晴は2匹ずつ釣り上げていたり。ビギナーズラック。
    「うーん……ちょっとやってみようかな」
    「ここでニューチャレンジャー! って、あれ?」
     興味をそそられた智秋の参加を、鈿女が盛り上げようとした時だった。
    「ん? お、おぉ!」
     遅れて気づいたルーチェが慌てて釣竿を握り直す。ぐいぐいと竿がしなり、どんどん糸が伸びていく。
     大物の気配に、勝負は吹っ飛んだ。全員で力を合わせ、少しずつ引き上げていくと、やがて丸く大きな影が見えてくる。
     ザバァッ!
     湖面に現れたのは、見覚えのあるコケシ覆面。
    「注意はしていたのですが、うっかり釣り上げられてしまいました、ははは」
     爽やかにそう言い放った京一が手にした銛の先、ビチビチしてる大きな魚の口にはルーチェの疑似餌。
     冷都は街に走る必要はなさそうですねと、呟いた。

    「――きゃっ!?」
     武蔵境1年3組のキャンプ地で、綿雪の小さな悲鳴と何かが崩れる音が響く。
    「こ、これどうしたらいいの……!? く、九朗……っ!」
    「ん、落ち着いて」
     崩れた薪に軽くパニくった綿雪に声をかけながら、九朗はアウトドア用チェアから立ち上がった。
    「そんなに積み上げなくてもいいよ。空気の通る隙間を……気になるなら、あっちに行っても良かったのに」
    「……あの子達、ちゃんと食べられるもの釣ってくるか、気になっただけよ」
     綿雪と話をしながら、九朗は軍手をつけた手で薪を積み直していく。
    「……良かった。うまく直ったわね」
    「まぁ、一緒に手伝ってくれるのは、ありがたいけどさ」
     綿雪が見せた安堵の笑顔に、九朗は煤のついた指で頬をかく。
    「おーい」
     そこに、釣りを終えた面々が戻ってきた。
    「お魚沢山ですね。キノコも沢山見つかりましたし、ホイル焼きも良さそうですねー」
    「煮びたしも作ってみようと思うの」
    「いいですねー! ちーちゃん。あとであじみさせてね」
    「じゃあ、りぃちゃんのもね」
     キノコ探しに行っていたシャーリィも途中で合流したようだ。両手にキノコを抱えて、智秋と楽しげに話していた。

    ●最後の夜
    「はいっ! ノルウェー民謡、歌いまーす!」
     蒼の薄くなった空を映す湖に、杏子の歌声が響く。
    「ホントに暗くならないんだネ。今日は寝られるかナ」
     暗くならない空を見上げるポンパドールの目は、開いてはいても半分になっている。
    「この明るさは見守られているような……気分……に」
     さすがに疲れが出たか、渚緒の頭もぐらぐら船を漕ぎ出す。
    「……キョンの歌が終わったら、そろそろ寝とこうか」
     千尋の提案にその場はお開きとなり――。

    「実際に見ると圧巻だな」
     スヤァと眠りについた未知をテントに残し、ニコはカメラ片手に白夜の下へ。
    「働くねぇ、太陽」
     一足早くテントを出て明莉は、湖畔を1人歩いてポツリ。
    「……ウチの向日葵はくたってたけど」
     テントを出た時に見たミカエラの姿を思い出し、苦笑しながら足を動かす。
    「涼し~♪ ……そっか……終わったんだなぁ」
     当のミカエラは、湖の手前でゴロンと寝転び、全身で涼しさを感じていた。
     終わったのだ。だからこそ、こんな時間がある。
     そんな3人の様子を、紗里亜は空中から伺っていた。
    「世界は、綺麗ですね……」
     箒の高度を落とし、夜中なのに光を浴びて輝く湖面に靴を脱いだ爪先を浸すと、心地よい冷たさが伝わってきた。

    「明けない夜はない、か……」
     湖を見下ろす丘の景色を描き終え、輝乃は星空に込めた詩を扇と広げる。
     反対の手は、顔の右半分を覆う仮面に触れて。
    (「繋がってんだな……空は確かに」)
     その小さな背中を見守るように佇みながら、脇差は雄大な夜空と自然を改めて感じていた。

    ●白夜に誓う
    「ケーブルカー、便利ですね」
    「俺が登山を頑張るわけないだろ?」
     紫月は柚羽の手を引いて、フロイエン山頂上の展望台へ。
    「ゆーさん、高い場所好きだろ? だから一緒に見に行きたいと思って」
    「まぁ、高い所は好きですけど……」
     展望台からは夜のベルゲンを一望できた。
    「それに……あー、その、だな……」
     夜になりきれない薄藍の空と、その下に輝く街灯り。フィヨルドの海岸線。日本では見る事が出来ない景色に目を瞠る柚羽の隣で、紫月が何やら口篭っていた。
    「……俺との将来を考えてもいいんじゃないかとか……その、率直に言うと結――っ」
     紫月の言葉を、柚羽の唇が塞いだ。
    「その答えは『はい』って、もう決まっています」
     紫月の首に両手を回して踵を上げたまま、柚羽は赤い瞳を真っ直ぐ見つめて囁く。
    「詳しいお話は、帰国してからにしましょうか」
     驚き言葉を失ったままの紫月が頷いて、2人の影がもう一度重なった。

    ●これからも一緒に
     テントを畳む前に記念写真を撮ろう――そう言い出したのは誰だったか。
    「シャッター押すぞ。ミンナ並んだ並んだ」
     並んだクラスメイトに、小晴がレトロな見た目のカメラを向ける。
    (「前はあまり思い出を残したくなかったケドな。――こう言うのも悪くナイ」)
     そう胸中で呟いて、小晴もクラスメイト達の列に加わる。
     そして――控えめのピースだったり、ぴょんと跳ねてポーズを決めたり。思い思いの姿の思い出を写す音が、北欧の空の下にパシャリと小さく響いた。

    作者:泰月 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年7月31日
    難度:簡単
    参加:49人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 5
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