世界視察旅行~遥か神の島

    作者:那珂川未来

    ●神の島
    「皆、サイキックハーツ大戦の勝利おめでとう。本当に、お疲れさまだったね……」
     仙景・沙汰(大学生エクスブレイン・dn0101)は、皆とこうしてまた会えたことに安堵したように微笑んだ。
     ダークネスの脅威は無くなったと言ってもいい。しかし、まだ幾つかの問題も残っている。
    「これからは、全人類がエスパーとなった世界をどうしていくかなど、考えていく必要があるね。現在の世界は、人類のエスパー化による影響が出始めているけれど、社会的にはまだ平穏を保っているという状態のようだし……この状況のうちに、今世界の現状を知り、行く末を考えることができる俺達は、世界の実情を目にするべきでは無いかと思うんだ」
     そこで、学園のエクスブレインが、世界各国の視察を手分けして行う事になったのだ。
    「エクスブレインが世界情勢を確認する事で、今後の世界について考える一助になればとう思うのだけれど、灼滅者が一緒に世界をみてまわってくれれば、より多くの情報を得られると思うんだ。それでね、俺が行くのは、インドネシアのバリ島」
     そこは東南アジア、神の島と言われている神秘が息づく世界。もちろん観光地としても名高く、伝統芸能に触れるだけでなくビーチリゾートやインドネシア料理も楽しみな場所だ。

    ●神の海、神の山
     日程は三泊四日。バリ島は時差が一時間程度と少なく、日本から七時間程度で着くので、美しい夕暮れが最初に歓迎してくれることだろう。
     まず、付いた初日は夕暮れ時のため、とある人気リゾートホテルのロックバーなどはいかがだろう。
     海より十数メートル上に建つ、絶景のオープントップバー。落ちる夕陽を見ながら、或は満天の星の下で、食事を楽しみながらまずは異国への到着に乾杯を。ノンアルコールやソフトドリンクとはいえ、お洒落な雰囲気と絶景に抱かれた場所は、旅の始まりの高揚を一層盛り上げてくれるだろう。
     二日目は聖獣バロンと魔女ランダの果てしない戦いを描いたバロン・ダンス。インドの叙事詩を題材にした影絵芝居ワヤン・クリなど伝統芸能を。或は、山岳地帯のリゾート地であるウブドに赴き、モンキーフォレストでもいいだろう。森林の深い緑と、バリの青空のコントラストも美しく、野生のサルにはルールさえ守ればバナナを与えたりすることもできる。そして奥にはシヴァ神を祀るダレム・アグン寺院。ここは有名なパワースポットとしても知られているそうだ。マイナスイオンたっぷりなこの場所で、癒されるのはどうだろう。
     三日目はビーチでのひとときを。バリ島には沢山のビーチがあり、サーフィンなども楽しめるクタビーチや、ヌサジゥアビーチではホテルのプライベートビーチも多めで、ゆったりとした時を過ごせる。透明度の高い海、景色はまた格別だ。また、バリには挙式を上げられるリゾートホテルも多く、挙式の予定があるなら折角であるしそこで厳かに行なうのもいいかもしれない。
     最終日は、飛行機の時間までお買いもの。伝統の染物や、彫りもの、免税店なんかもいい。
    「――という感じで、視察といっても、あまり難しい事考えなくてもいいよ。普通の観光のように見て回る事で、情報は集まるもんだからね」
     要は、大きな慰安旅行って考えてもらえればいい。
    「いつか行きたいと思っていたんだよね、バリ。神の島だなんてどれほど綺麗なんだろうって。シヴァ神を祀るダレム・アグン寺院なんて、本当に不思議な事が起こるらしくて――寺院のお清めが終わって祭礼が始まると、日中はいるはずのサルたちが一匹もいなくなるんだって」
     神様が降りてくるのを感じているのかな、と沙汰は笑って。
    「どうかな? 良かったら、一緒に行かないかい?」


    ■リプレイ

    ●神の穹
     仰げば星が届きそうなほど近く。此処は断崖に建っているのだということも忘れそうで。
    「あ、沙汰さん!」
     金糸雀色揺らし、お皿片手に手を振って。一緒のお席で異国に到着したお祝いを。
    「やっと終わったのですね……これからの世界は、どう変わるかな」
     美味しい料理を堪能し、一息ついたように紅葉は星空を見る。
    「そうだね……今迄歩んだ歴史とは違うから。だからこそ世界の変わりようをしっかり見ていきたいね」
    「良くなるように、きっとみんなは頑張ると思うの」
     勿論紅葉もよと、淡い野の花の様に柔らかに笑って。
    「とりあえず、まずは、お疲れ様でしたね」
     交わす涼しげなグラスの音、波の音と共に。

     グラスかわし空を眺め。不意に真面目な空気纏う時兎へ誘われる様に目を向けるなら。
    「俺、聡士と居る時だけは……生きてるって思える」
     是は今しか言えない事と、時兎は思う。
    「名前呼ぶ声も、あったかい手も、いっしょの時の気持ちも――泣きそ、な程……幸せだよ」
     黄昏の弦は果てしなく、白波は優しく大気を撫でる様に音を奏でている。
    「そっか……時兎から幸せって言葉が聞けるなんて思わなかったよ」
     出会ってからの月日を、ひとつひとつ数える様にゆっくりと聡士は言った。
     思えば聡士自身、誰かとこんな風にずっと一緒にいるだなんて、あの頃は思いもしなかった。
     ――繋いだ手を離したくはない。
     彼じゃなきゃ駄目なんて呪の様でいて、泣きそうなほどの幸に、巡り合えた運命。
     ――離したくないなら、いつまででも。
     紅い月は黄昏を抱きしめる。いつまでも気持ちは変わることは無いのだと伝える様に。

    ●神の杜
    「もも、お猿さんにバナナあげるの♪」
     二房抱え、ほのぼの餌やりシーンを想像しながら歩く百花の足取りは軽やかで。エアンはそんな様子に微笑みながら、
    「ももの場合、猿に囲まれて全部取られそうだね」
    「わか」
    「にゃーーー!?」
     沙汰が言い終わるより先に響く、百花の悲鳴!
    「……って、少し目を離した隙に一気に巻き上げられたな」
     想像通り。一斉にバナナ全て取られて物悲しい顔した百花の身形を整えてあげるエアン。引っかかれたりしなくて良かったよと沙汰。可愛い顔して油断ならぬお猿さんたちである。
     涼しい森を往く。
     神秘的なガシュマルの木。自然のまましな垂れる気根のカーテン、通る風を洗うかのように。コモドドラゴンの石像なんて本物みたいで。
    「ほら、あそこに子猿もいるよ」
     エアンはバナナを百花に渡す。先程のことは忘れて、子猿にバナナを差し出せば。可愛い鳴き声を上げながら受け取り、あむあむする姿がとっても可愛い!
    「……えへ、 ありがとう、えあんさん」

    「其処彼処に猿が寛いでるのね……」
    「全部で約700匹おるげんて」
     シルキーと想々は、親子猿の愛らしさに癒されながら。
    「想々さん、この子達に餌をあげてみます?」
    「わ、えと……うん、あげてみたい」
     行儀よくしていれば大丈夫だそうですよと、シルキーは自分の分の餌バナナも渡してくれたから。
     注意された通りに、目を合わさず静かに差し出すバナナ。
    「……ひゃ、うぇあ! わ、私どうなっとる?」
     掌からバナナ消え、頭の重みに意味分からずパニックの想々。
    「想々さん、お猿さんが頭の上に」
     懐いてしまったのかしらと、優しく笑うシルキー。正体を知り、ふわっとした感触に、想々もくすぐったそうに笑う。
     寺院に辿り着けば周囲をふらり。
    「ここは死者のお寺でもあるんやって」
    「そう――此処なら静かに眠れるのでしょう」
     厳かさに心癒される様に、洗われた美しい風を吸いこんだ。

     初めての海外旅行、由希奈はいちごと腕組んで。バリ・ヒンドゥーの様式に感心しつつ、
    「原生林っぽいのを想像してたけど、どちらかというと森林公園っぽい感じだね。あ、でもすごくエキゾチックな感じ……!」
    「そうですね……とても雰囲気いいです」
     いちごが大人っぽく相槌を打っていたら、ひょこり顔を覗かせたおサルさん。
    「由希奈さん、餌あげてみます?」
     早速買ったバナナを手渡すなら。注意書き通り目を合わせないようにしつつ差し出す由希奈の姿が微笑ましくて。
     だがおサルさんの予想に反した勢いでバナナ掻っ攫われ、思わずいちごに抱きつく由希奈。でもぎゅっと抱きつくもんだから、胸のふくらみが、あの、その、って感じのいちご。
    「あ、あの……ごめんね」
     赤面しながら見あげてくる由希奈に、
    「い、いえ……大丈夫ですよ?」
     いちごも赤面しつつ苦笑して。

     陽桜は時折一眼レフカメラを覗き、煙る緑を渡る風と共に歩けば。親子ガメよろしく、石のお猿さんの頭の上、本物のお猿さんがどっこらしょ。
    「すごい、何だか間違い探しのような雰囲気なのです、楽しい♪」
     シャッター切りながら、沙汰さんも楽しんでますか? と微笑みかける陽桜へ、沙汰は満喫してるよと微笑みながら、
    「今ならあまおと呼べるんじゃない?」
     人気ない今、沙汰の囁き声に陽桜は頷き。するとお猿さん、急に現れた霊犬に興味深げにわらわらと。
    「えへへー、シャッターチャンス、です♪」
     あまおとの背中に乗ったお猿さんと一緒にパシャリ!

    「駅番の領土拡大(非公式)もとうとう海外まで来たわ……」
    「感慨深いですね」
     舞依と杏理が例の草(検疫済)片手にここまでの道のりを回想する。事あるごとに繰り返した活動、それはとうとう国境を越えた――!
     花色は番長代理らしく硬派な雰囲気を醸し出しながら、
    「親愛なる駅番白虎隊諸君! ついにこの日がやってきました! 長きに渡った闘争に勝利を収め、世界進出へ乗り出す日が!」
    「花ちゃん番妻としての風格出て来てるー! いいねー!」
     夏蓮にそう囃され、花色も年々番長のモノマネ上手くなってきてるような気もしながら、駅番お馴染みの「おしにん」の声掛けを響かせる。
     善四郎は見るからにウキウキ。ガシュマルの木の根元に例の草、コモドドラゴンの石像に例の草、そしてバナナ売りの娘にマネー。
    「おさるさんに会いに行くっすー!」
     羽根生えた様に走りだす善四郎。一方初めての海外旅行に一誠はドキドキ。貴重品紛失したらとか良くない想像をしていたけれど。
    「――猿だー! うお想像してたのよりはるかにいっぱい居る!」
     颯爽と美しい弧を描いて緑を渡る様にそんな不安も一発で吹き飛ばされた。
    「ここ、猿の彫像もたくさんあるんだね」
     次々と目に入る石像に例の草を置きつつ、杏理は上を見あげ、
    「ほら、あの壁の上にも猿……」
     すごいなあんなところにまで猿の彫像があるんだと感心していた矢先!
    「さあ、来いおさるさん! 今なら駅番のバリ見回り隊のトップになれるっすよ」
     そりゃあ善四郎が好意マキシマムな顔で呼ぶんですもの。石の猿がタマシイでも抜いたのを幻視したかと疑う様な、頭上から飛び出す猿の影!
    「……本物もいるな」
     あ、(石)猿の上に(生)猿乗ってたんだって理解に一秒かかった杏理。
    「……そしてさすがエキバー1の女子力を誇る白虎……和む風景……」
     はーい順番っすよーとお猿愛でてる善四郎の姿を愛でている舞依。一誠も善四郎と一緒に親子猿にバナナを上げては和み顔。
    「ほら、妹子さんもやろうぜ」
     そう一誠が声を掛け、
    「はいはいバナナはいらんかねー」
     気を利かせた夏蓮が補充バナナを抱えながらお猿まで引き連れてくるから。言っておいでと杏理に促され。舞依は恐る恐るお猿さんにバナナを差し出せば、小さな指と握手。
     愛らしいものに囲まれて、しかも甘いバナナに舌鼓する時間に夏蓮は幸せ感じていたら。
    「あっ! だめだよー! これは私の分!」
     最後の一口、子ザルに持ってかれちゃった!
     一方その頃。
    「――しかしバリかあ」
     寺院に例の草を添えて。花色は改めて海外なんだと実感する。実はネットで調べたんですけどと、実季は笑いながら、
    「確かヒンドゥー教で破壊と再生を司るとっても偉い神様で……ええと、シヴァは吉祥者という意味もあるらしいですね。吉祥者ということは吉祥寺駅を守護する我ら駅番白虎隊にも縁ある神様なのかもしれません!」
     破壊と再生というあたりにも親近感を覚えていたりして。
    「うんうん、猿さえも取り込めば白虎隊はより強靭になりますしね!」
     縁を感じつつ、花色と実季はお参りして。
     最後にお猿と戯れる彼らの姿を実季はこっそり写真に撮って。思い出話は、吉祥寺駅に戻ってから。

     至らぬ身と自身を卑下する藤乃を連れだすには、この度の視察は良いきっかけで。
    「じっとしてたら狙ってる奴が来るんじゃね?」
     供助はバナナを半分に折って片方を藤乃へと差し出した。
     藤乃は供助に倣って息を潜めバナナを構えるなら。幾許もせず、供助のバナナを鮮やかなジャンプで浚ってゆく。
     供助の堂々とした様子と、猿の動きに感心していたら、藤乃の肩に子猿が飛びおりてきて。頬に触れる産毛、あたふたと視線を彷徨わせる藤乃へと、供助は微笑み零しながら。
    「藤乃こっち」
     助け舟、と安心を仄か感じたような彩を頬に添え向いたその刹那、愛らしい猿との一枚をパシャリ。良い顔と褒められても。珍妙な顔の一枚の予感がしてならない藤乃。
     神の杜、木漏れ日すら清きそれを浴びながら。思いきって来た隣、ほっと息が付けるのも――。
    「綺麗だな」
     そう言って笑う、隣歩くその人ゆえか。

     其処に在る大樹の様相はまるで違うのに――雪緒はどうしてか思い出した場所。
    「故郷とは色々と全然違うのに、似てるようで不思議なのです……って、わわ」
    「どちらも神様に近い場所って雰囲気なのに様相は違って面白いよなー、って、おっと!」
     神聖な息吹の源を探る様に、見上げすぎて後ろに引っ繰り返りそうになる雪緒を、清十郎は素早く受け止め、手を握りしめて。
     すると今度は雪緒が親子猿に帽子を取られそうになって止めようとしたら、清十郎がの頭の上に乗られたり。決して道は平坦で無くても、君がいるから安心できる――。
     辿り着いた古き厳かな寺院は、自然と気圧されてしまう雰囲気だけど。
    「文化は日本とは全然違うのに、神秘的な空気ってのはどこも一緒なのかねー」
    「案外見えない何かで繋がっているのかもです」
     だから、二人で手を合わせ。神の気が宿る世界に敬意を。

     神秘の杜にて、多岐は独特の風と匂いを深呼吸する。悠久の畏怖と信仰を紡いだ景色、一旦カメラをしまってスケッチする。写真の良さも勿論、感じたままに雄々しさを描けるような気がした。
    「――おお、始まるか」
     篝火の赤に浮かぶ伝統の舞台、男たちの声が森羅に響く。
    「衣装の装飾一つとっても……いいな」
     踊子の優美な衣装がゆらり舞う。重厚かつシンクロした男たちの合唱との迫力に、鳥肌が立つ瞬間。

     黄昏の杜。浮かぶ社の陰影は、篝火という自然の明るさに趣を増す。
     伊織は沙汰と、苔岩に腰掛け、男たちが歌う伝統の祈りに魅入っていた。
     伊織は変わりゆく空を写しながら、移り変わる色に過去を見て。
    「なんや兄さんらにもえらい助けてもろたね」
     改めて、と礼を告げる伊織に。
    「俺の方がいつも助けてもらってるよ」
     その助け方は違っても、支え合っていることは変わりない。
     ――いつか、氷霧とまた来たいもんや。
     空気を壊さぬよう静かに、されど籠められた祈りに敬意を払った。

    「いやまぁ、こういうクラブだって事は知ってましたけどね?」
     遠い目をするゴリラ。もといアヅマ。子猿は戦慄し、母猿に威嚇されている悲しみ。
    「オラッ! お前も類人猿になるんだよッ!」
    「頼むからお願いやめあ゛あ゛ーーーーっ!!」
    「ああ~~~! 類人猿になっちゃう~~~~!」
     後ろでもゴリラ(木菟)が、刑と陽司の身ぐるみはがす鬼と化していた。ただし陽司のほうは実はノリノリというね。
    「てか現地の人達から変な目で見られるし、威嚇されたんだけどホント大丈夫コレ?」
    「もちろん、ルールは守った上でですですよ! 楽器も持ち込んでませんですし」
     乾いた笑いを漏らすアズマに、フェリスは綺麗な瞳でサムズアップ。
    「もちろん通行の邪魔になったりしたら……やめようね!」
     良識ある団体ですと言わんばかりの人。何故「やめようね」の前に間があったのかは不明だが。
     聖域を避け、パフォーマンス許可取れた場所なら問題ないだろう……ちょっと予定より離れたが、場所を確保している――猿もいる、問題ない。
     というわけで。
     アイスバーンは、ゴリラの面をつけながら、片手に『日本から来たフェリス・ジンネマンwithゴリラダンサーズでコンサート(サイリウムはバナナ)です。メンバーは左からゴリラゴリラゴリラ、ニンゲン、ゴリラゴリラゴリラ。バナナを振ってお楽しみください』のプラカード。ゴリラ(紫廉)は大量のバナナを手に、ゴリラらしくナックルウォーキングで配ってゆく辺りもうゴリラ。
    「えと、うほうほです?」
    「ウホ。ウホッホホー。ウホッ!」
     とりあえずウホッていっとけゃ何と何とかなるの精神。
    (「逃げたい。超逃げたい」)
     天を仰ぎ、ゴリラ(刑)はいまにも喀血しそうな顔してた。
    「ウッホ(お猿さんたちもおはようございます 今日は良い日取りですね)」
     ゴリラ語で挨拶する陽司。警戒する猿たち!
    「ハハハ」
     死んだ目のゴリラ(アヅマ)。もはやゴリラ語ではない。
    「聴いてください、フェリス・ジンネマンwithゴリラダンサーズで……『愛の桃源郷』!」
     ゴリラ(人)は口に草を咥え、胸とお腹とお尻を激しくドラミング。
    「VHOOOOOOOOOOOO!!!!」
     輝け、輝け、と祈る様にド熱い重低音を響かせるゴリラ(木菟)。
     ゴリラなんて見たこと無い猿たちは、なかなか警戒を解かない。
     賢人ダンスを披露していた陽司は、
    「ホッホーーォ(なるほどな……盛り上がってきたらしいじゃねえの)」
     なんか猿の態度に益々動きにキレが入った。
     そう、これは対話。おサルさんとの種族と文化を超越した、対話ですのです――。
     無駄にシリアスな角度で視線を森へと投げかけるフェリス。
    「うほー♪ うっほほー♪」
     野生と子供向け番組の様なダンスを繰り広げる。
    「ウーホッ! ウーホッ! L・O・V・E・フェーリース! ウッホホーイ!!」
     紫廉は動きに合わせて掛け声を上げつつサイリウム(バナナ)を振って場を盛り上げる!
     猿も慣れてくると隙見てバナナに手を出す位はしてきたようで。
     ラストナンバーの終焉に、刑は地獄の終わりを悟って天を仰いだとき。
    「ゴハァッ!?」
     其処に在るカメラのレンズが人のものだと知った途端、血を吐く刑。大量のバナナの皮の上にぶっ倒れたとか。

    ●神の海
     透明な海原、海の水を纏い輝く彼女。優志が二つの光景に目を細めるのと同じように、美夜がたゆたう世界に潜ることができたのも、海の魔法のせいかもしれない。不格好ながらもクロールっぽい泳ぎを披露して、どう? と言わんばかりの美夜。
    「泳げるようになっていくのは知れる度に嬉しいよ?」
     約五年共にした歳月と当時のカナヅチっぷりを回想しながら感慨深げに。一緒にドルフィンスイムを夢見る優志へ、美夜は褒め言葉は素直に受け取りつつ、
    「なんだか感想が、おじいちゃんみたいよ?」
     孫になった覚えはないんだけどと、やや呆れたように。
     聞こえた鐘の音に、今まさに誓いを立てた二人がいると知り。
    「俺達も、ついでにしてく?」
     本気も含ませつつチャペルを指す優志に美夜は、
    「そんなついでみたいに言われて、誘える女だと思ってる?」
     本気なら本気を見せなさいと、ほっぺむにっ!

     昼間の熱が残った砂浜を、葉と千波耶はのんびりと。
     葉は沈む夕日に名残惜しさも感じたのも嘘じゃ無く――ただ戦いから離れた場所で二人、改めて少し、これから先のことも考える時間にもなったと思う。
    「なんだかんだと楽しかったな。ちーたんそっくりな猿もいて」
     隣歩く葉は、ちょっぴりニヒルないつも調子なのに。次第に影に染まっていく景色が絵葉書で見たそれで――千波耶には却って不思議な気分だった。
    「……ずっと一緒にいれたらいいなぁ」
     思いがそのまま声となって零れる。
     自分も夕陽で染まっているのに、まるで投函間際の絵葉書みたいな名残惜しさを響かせたなら。
    「もうちっと情勢が落ち着いたら、俺んち連れて行くからさ」
     今から心の準備しといてと笑う葉に、千波耶も微笑み浮かべ、
    「ね? 新しいもの、一緒に見たい。ずっと」
     然し――猿の件に関しては後ほど詳しく、となったのは言うまでも無く。

     クオリアを遊ばせながら、玉は羽衣と波打ち際。
    「初めて来たけど、綺麗な海だね」
     人気のない時を狙った海、朝の初々しい輝きに光る波。水も砂も綺麗で、沖縄とはまた違った景色。
    「やっぱり一度はリゾートに来てみたかったんだよー」
     波を追いかけながらはしゃぐ羽衣。皆への思い出話をつくる為、玉が取り出した水中カメラに覚えがあって。
    「そういえばたまちゃんや寮のみんなとは沖縄の海とかも行ったよね。なつかしい。みんなで来れたらよかったのにねぇ」
    「ロックバーで食べたの、日本で再現できそうな物も多かったよね。帰ったら作ろうか」
     その時羽衣が酷い顔したのを思い出して、玉は思わず笑っちゃって。
    「だってあれはぱくちーがね!?」
     ういのせいじゃないもんと、こんな文句を言える――けれどこうしてまた玉と遊べること、それが羽衣にとっては何よりの事だから。

    作者:那珂川未来 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年8月3日
    難度:簡単
    参加:37人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 7
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