世界視察旅行~永遠の都で休日を

    作者:佐和

     サイキックハーツ大戦の完全勝利により、ダークネスの脅威はなくなった。
     世界は平穏だ。
     だが、人類のエスパー化による影響が出始めている、らしい。
     灼滅者は、世界の未来を考えなければならない。
     そのためにも。
    「世界の実情、見ておいで、って」
     ジェラートを食べながら八鳩・秋羽(中学生エクスブレイン・dn0089)が首を傾げた。
     学園のエクスブレインが、手分けして世界各国の視察を行うことになったそうで。
     一緒に行ってくれる灼滅者を探しているとのこと。
     ついでに修学旅行も兼ねちゃってるのが武蔵坂学園。
     大戦の、そして戦い続けたこの6年間の慰安旅行だと考えることもできる。
     そんな大義名分はともかく、海外旅行しておいで、ということなのだが。
     どこに行くのかと問う視線に、秋羽は持っていたガイドブックを広げて見せる。
    「……ローマ?」
     誰かの呟きに、秋羽が頷いた。
     観光地が密集していると言っても過言ではないイタリアの首都。
     コロッセオにパンテオン、スペイン広場にナヴォーナ広場、トレビの泉などなど。
     ローマ市内のあるホテルに3泊する旅程だが、それでも日数が足りない、と言う人もいる程見どころは多い。
     それに何より、世界中で愛されるイタリア料理。
     よく見ると、秋羽が開いたガイドブックのページには、ピザにパスタ、ブルスケッタ、フリット、プロシュートからティラミスまで、イタリア料理が所狭しと並んでいて。
    「食べに、行こ?」
     目を輝かせながら秋羽はジェラートをもぐもぐするのでした。


    ■リプレイ

    ●Vacanze
     観光都市でもあるローマは、見どころが本当に多い。
     市街の街並みすら楽しみながら、アルディマ・アルシャーヴィン(d22426)は山田・透流(d17836)と並んで3種盛りのジェラートを味わっていた。
    「ダークネスの活動に悩むことのない修学旅行は初めてか」
     その様子を眺めるロベリア・エカルラート(d34124)は、感慨深く、ゆったりとしたこの時間を思う。
    「それで、どこ行く?」
    「ん……私、凱旋門に行ってみたい」
    「それはパリだよ……」
     ガイドブックの上ではアルディマと透流が、わいわい意見を交わし。
    「そうだ! ジェラートといえば、スペイン広場行ってみない?
     ローマの休日とか結構好きなんだよね」
    「ああ、スペイン広場でジェラートを食べるシーンがあったか」
     そんな意見から3人は進み出す。
     行き交う人々を見る透流には、灼滅者のこれからへの杞憂もあったけれども。
    「来年も修学旅行くらいは来れると良いな」
     ロベリアが零した言葉に、透流はしっかりと頷いて前を向いた。
     犬塚・沙雪(d02462)と手を繋いだアリス・ドール(d32721)も、ローマの休日巡りを楽しんでいて。
     サンタ・マライア・イン・コスメディン教会の真実の口の前に立つ。
    「嘘つきは手を噛み切られてしまうんだ、やってごらん」
     映画のように勧めながら口に手を入れた沙雪が、急に痛がり悲鳴を上げた。
     アリスが慌てふためく前で、笑いながら演技を止めて種明かし。
    「……もう……本当に噛み切られるよ……」
     本当に心配したアリスが少しむくれるけれども。
    「……そうならないってわかってても……ちょっと恐いね……」
     折角だからと、その繊手も口に運ばれた。
    「わわ、こいつライオン顔だね~?
     なになに、『嘘つきはガブリされます』だって?」
    「嘘、思いつかないなの。んんん……布団がふっ飛んだ!」
     ミカエラ・アプリコット(d03125)と久成・杏子(d17363)も真実の口に挑戦。
     杏子が手を入れたところですかさずミカエラが、がぶっ! と大声をあげ。
     明るい笑顔が木霊する。
    「こっちだよ、シニョリーナ♪」
     それからミカエラのエスコートで、裏路地にある落ち着いた雰囲気の聖堂へ。
    「さあ、二人で歌お♪ 何がいい?」
     促された杏子は少し考えて曲名を耳打ちすると。
     ローマの夕暮れにすばらしき恩寵の旋律が重なり溶けていった。
     サン・ピエトロ広場では、野良・わんこ(d09625)が秋羽の手を掲げて声を上げる。
    「イェイ! これでオベリスク全制覇ー!」
     ローマの全13本を、秋羽を引っ掴んで回った1日。
    「わんこ、海外は初めてですけど楽しいです!」
     ホットドッグと共に思い出も分かち合い。
    「海外を旅するってのもいいかもしれませんね。その時は一緒にいきましょう!」
     提案に秋羽はもぐもぐしたまま頷いた。
    「ローマと言ったらやっぱりカチョ・エ・ペペですよね」
     寺見・嘉月(d01013)の前に運ばれてきたのは、胡椒とチーズの至極シンプルなパスタ。
     ポルケッタやカルチョーフィ・アッラ・ロマーナも並べて舌鼓。
    「いい料理にいいワイン。やはり鉄板ですね、この組み合わせ」
     本場の経験にシェフ見習いの充実した夜は過ぎていった。

    ●Dolce
     朝陽を浴びる岡崎・多岐(d09003)はフラスカーティを行く。
     街を歩き、街を眺め。
     静かに感じるイタリア。
    (「もう一度俺が始まった場所」)
     この街は、記憶にないそこに雰囲気が近い気がする。
     ライドキャリバーのジュリエッタに凭れかかり、暫く風に吹かれて。
     実感のないまま、多岐は眼鏡の下の目を細めた。
    「征、見てごらん!」
     サン・ジョバンニ・イン・ラテラノ大聖堂内で丁寧に解説を始める須弥・輝(d33798)。
     興味深く見聞きする鷹嶺・征(d22564)だけれども。
     気付けば他の日本人観光客が集まっていて、慌てて2人は外の広場に出る。
    「征。人間は凄いだろう?」
     大聖堂の白く荘厳な姿を見つめ、輝は語りかけた。
    「確かに人間は弱いし、愚かな事も次々犯すだろうさ。
     だが、今日の感動を忘れんでほしい。この遺産は、人間の営みがもたらしたんだ」
     忘れません、と頷いて、征は輝に微笑みを返す。
    「また違うものも見に行きましょう。
     僕はもっと色々なものを貴方の傍で見たいです」
     イミテンシル・ナイトフォード(d37427)が訪れたのはサンタ・マリア・デッラ・コンチェツィオーネ。
     修道僧の骨で施された装飾に囲まれ、骨のシャンデリアを見上げて思う。
     人々が積み重ねてきた『これまで』と、『これから』を。
    「うわ……カタコンベのほうがまだマシだったかしら……」
     でもやはり少し、腰は引けていた。
    「すっごく広いですー」
     カラカラ浴場に来た羽柴・陽桜(d01490)はカメラ越しの遺跡に思わず声を上げる。
    「あたしもここでお風呂入ってみたかったなぁ」
     零れた声に、あまおとも賛同するように吠えるから。
    「明日はちょっとだけ足伸ばして、温泉行ってみようっと」
     陽桜はよしっと微笑んだ。
    「おっ。いたな」
    「はろはろー♪ 秋羽ちゃん」
     石畳の路地を散策する炎導・淼(d04945)と仲村渠・弥勒(d00917)は、見つけた探し人にミニイフリート焼きを渡し。
     一緒に、淼が見つけたパスタの店へ。
    「夜はピッツァ食べれる店も開くってよ。後で来るか?
     今度のイフ焼き新味はピザの予定だし、やっぱ本場の食っとかないとな。
     あ、石窯もローマ発祥らしいぞ」
    「石窯って余熱とかでじっくり焼けるんだっけー? 凄いよねー」
     美味しいパスタもいいけれど、弾む話が楽しくて。
    「……ピザ味、楽しみ」
    「そーだねー。トマトもチーズも良いわなー」
     呟く秋羽に弥勒が笑いかけ、淼がぐしゃっと頭を撫でた。
     蓬野・榛名(d33560)はカフェレストランで、お勧めされたスップリを前菜に、ペンネ・アラビアータに舌鼓。
    「はぁ、やはり本場の味は違うのですねぇ」
     ローマ伝統のロゼッタパンで、ソースすら余らせません。
     デザートにはティラミスをほろ苦甘く楽しんで。
    「さ、次はジェラートのお店なのです」
     ごちそうさまはまだもう少し先の様子。
    「イタリアと言えばピザと……ピザ。あと……ピザが有名よね!」
     勢いで言い切るパトリシア・ブランシュ(d28476)に、稗田・瑞穂(d31334)はふんわり頷き。吉田・宮子(d31659)も気にせず注文を進める。
    「つか宮子、なんでそんなペラペラなワケ?」
    「旅行雑誌読んだら喋れるようになりました」
     首を傾げる雨宮・音(d25283)にしれっと答えれば。
    「負けねェし! あたしもできっし!
     マルゲルィ~タピッッッツァプリーズ……アーハン?」
     果敢に挑戦する音に、雨宮・霞(d25173)を不安が過ぎった。
     そして運ばれてくるイタリアンな数々。
     一口毎に汚れる宮子の口元は、都度都度ハンカチで拭われて。
    「ふふふ、宮子は可愛さが相変わらずグローバルねっ!」
    「ん、む……今拭かないと駄目?」
    「みぃちゃんにはトマトのリップよりもふさわしいものがあるでしょう?」
     瑞穂とパトリシアは目配せし合い、愛でるようにお世話を重ねる。
     そんな最中、大量のピザを前に霞が問う。
    「なんで同じピザ、三枚もあったんだい?」
     それは無論、音のテキトーな注文の結果です。
    「まあほら……ウマいからさ……」
     霞の背中をよしよししながらも、皆の皿に取り分け配る音の手は止まらない。
    「普通に食べるとお腹が苦しいけど、このようにピザ2きれを重ねて、サンドイッチのようにして食べると……お腹が苦しいわ!」
     攻略に苦しむパトリシアに、瑞穂と宮子も互いに譲り合い。
    「ウマいけどさっきから皿が減らないっつーか……」
     延々と食べ続ける霞の瞳が、死んだ魚のようです。
    「ま、これもイイ思い出ってコトで」
     誤魔化すような音のカメラに、それぞれの笑顔が写った。
     陽が沈んでも美味しい時間は続く。
    「遊び倒して腹減ったーッ!」
     ウキウキな白・彰二(d00942)の肩を、逢坂・豹(d03167)ががっしり掴んで。
    「チーズに生ハムにトマト……本場の味が楽しみだよなあ彰二!」
    「だからトマト嫌いだって何度もなんども言ってんだろ!?」
     今日も始まる小競り合い。
    「トマト投げ合うお祭りとかに遭遇せずに済んで、まだ良かったじゃない」
     微笑む橘・彩希(d01890)の隣で、秋羽がこくりと頷いた。
    「トマトー……って、どれだ? これ読めねーんだけど」
     逢坂・兎紀(d02461)が開いたメニューは、早々に神威・天狼(d02510)へと渡され。
    「適当に頼んでもメジャーどころならあるだろ」
     豹が言い並べる料理名を、天狼は確認し注文していく。
    「あ、彰二先輩、ポルポ・アフォガードはどうです?」
     そして運ばれてきた料理の1つを、天狼が勧めて。
    「……と、まと……」
     タコのトマト煮と知らぬまま食べた彰二が倒れ伏す。
    「ほら彰二。このピザはトマト入ってないよ」
    「冬人おぉ!」
     苦笑する宮瀬・冬人(d01830)の気遣いに、彰二の嬉し涙が零れ落ちた。
    「うっわ、うっま! なんだこれ!
     天狼これこれ、めっちゃうまい!」
    「ってちょっと兎紀! 勝手に盛らないでくれる?」
    「いっぱい食べようねえ、天。秋羽も食べてる?」
    「おかわり」
     わいわいと騒ぎながらも食事は進み。
    「彩希先輩、アフォガートもどうですか?」
    「いただくわ、冬くん」
    「あ。彩希それなに食ってんの? 甘いのうまそー!」
    「こっちはジェラートよ。はい天くんも、あーん」
    「ん……お礼にティラミス、一口如何です?」
     続くデザートに、甘いの苦手な豹は自分の焼きドーナツも秋羽に差し出す。
     秋羽は隣の彰二にも分けて、一緒にぱくり。
    「……ちなみにそれ、人参とかトマト練り込んだ生地だってよ」
     再び彰二が撃沈した。
    「イタリアまで来て普段と何も変わらないところが、なんとも跡地らしいよねえ」
     冬人の呟きに、いつもの笑顔が重なっていく。

    ●Eterno
     ポーリ宮殿の壁を背に立つ神々が見守る、トレビの泉。
     張り切って観光案内をする日輪・藍晶(d27496)と腕を組み、日輪・黒曜(d27584)もその地を訪れた。
    「ねぇ、黒曜。この泉には言い伝えがあるんですって。
     後ろ向きにコインを泉へ投げ入れると願いが叶う……そうよ?
     投げる枚数によって願いが変わるんだけど……」
     言って藍晶が差し出したコインは、2枚。
     大切な人との永遠を願う枚数。
    「わー素敵♪ ロマンチックだわ」
     ウィンクで応えた黒曜は、藍晶と手を繋いだまま泉に背を向ける。
     空いた手から放たれた2枚のコインは重なり合い、片時も離れることなく水音を立てた。
     深杜・ビアンカ(d01188)は20年ぶりの故郷を龍咲・千早(d37871)に案内して。
     腕を組み引っ張って来たここは、流石に千早も知る観光地。
    「確かこれ、コインを投げ入れる泉だっけ?」
    「そうよ。投げる枚数によって意味が変わるから気をつけてね」
    「へぇ……それで先輩のその2枚のコインはどんな意味なの?」
     でも詳細は知らずに問いかけると、ビアンカの顔が真っ赤に染まり。
    「……ずっとこの人と一緒にいられますように……」
     照れながらもはっきり返ってきた答えに、千早も赤面する。
    「僕だって同じ気持ちだしっ」
     コインと共に重ねた手は、永遠の絆を誓い合った。
     ゲーム感覚でコインを取り出すのは栗花落・澪(d37882)。
    「1枚で再来。2枚で恋人との永遠。3枚で離婚だね」
    「あぁ、そういやなんか聞いた事あんな。
     ……って、離婚まで願う奴いんのか」
     大変だなローマ人、と他人事のように呟く紫崎・宗田(d38589)が見る前で、2枚のコインは大暴投。
    「下手くそ。ちょっと代われ」
    「え……わっ、紫崎くん凄い! 一発だよ!」
    「まぁ、慣れてるしな。
     ゴミ箱に紙屑やらティッシュやら……投げた事無さそうだな、お前」
     苦笑する宗田の助言を受け、澪は何度も挑戦し。
    「やった、2枚とも入った!」
    「おー、おめでとさん」
     ついに澪の願いは叶った。
    「見たか璃依、綺麗に収まってるぞ」
    「凄い! カケル世界一カッコイイ!」
     桜庭・翔琉(d07758)の成功にはしゃぐ希・璃依(d05890)。
     だがしかし、続く璃依のコインは見事に外れ。
    「なんでだー!?」
     涙目の璃依を慰めながらも翔琉は写真をパシャリ。
    「そうだ、もう1つの言い伝え!
     脇にある『愛の水』を飲んだ恋人は永遠に別れる事がないんだって」
    「……またそんな、何の根拠もなさそうな」
     すぐに立ち直った璃依に促され、翔琉は苦笑しつつも1口含み。
    (「俺から手放すことは無いだろうな」)
     傍らの存在の大きさを感じていると。
    「うぷ。飲みすぎた」
     璃依がたぽたぽのお腹をさすっていた。
     夜になると、泉は幻想的な光の中に浮かび上がる。
     照らし出される白亜の彫刻。流れる水が奏でる歌。
     息を呑む程に見惚れる楪・花織(曉星・d04676)に、結城・奏(雪縁・d06108)はそっとコインを差し出す。
     丁寧な説明に頷いた花織は、せーの、と小さく声を合わせた。
     奏の投げたコインは2枚。
     願わくばこの絆が続く様に。
     いつまでも君と共に在れたら、いい。
     花織は1枚。
     また此処に来たい。これが最後ではなく。
     出来れば、また、先輩と。
     それ以上は欲張りと思うから。
     でももし、叶うなら……。
     枚数の違う同じ願いは、静かに夜の泉に受け入れられた。
    「さァて、ぱあっと打ち上げキメっぞ!
     今年の学園祭ライブの成功を祝してカンパァァイ!」
    「おつかれカンパーイいえーい」
     万事・錠(d01615)の声に、一・葉(d02409)達武蔵坂軽音部の仲間が唱和する。
    「海外なんて、ごうかね」
    「スケールが違い過ぎるわね」
     控え目に掲げた白星・夜奈(d25044)のグラスに城守・千波耶(d07563)が合わせ。
    「えぇ景色やなぁ」
     ほほ、と羽二重・まり花(d33326)が眺めるのは、ローマの街並み。
     テラス席ならではの夜の情景だ。
    「ん、なんか凄い贅沢」
     青和・イチ(d08927)も、井瀬・奈那(d21889)のグラスと涼やかな音を立てた。
     乾杯が終わるや否や、早速皆を引き寄せるイタリア料理。
    「やだもー、本場のカルボナーラおいしー!」
    「んー! 美味しい!」
     思わず声を上げる千波耶に、東郷・時生(d10592)も重ねて。
    「わ、このピザめちゃくちゃ美味い」
     天国? と無表情ながらに目を輝かせるイチは、奈那と仲良く半分こ。
    「この、サルティンボッカ? 自分でも作れないかな」
    「作ろうと思えばできそうな気が」
     北条・葉月(d19495)と水野・真火(d19915)の会話も弾む。
    「で、これ何? ハムスター?」
     葉に摘み上げられた秋羽だが、気にせずピザを頬張って。
     あわあわする北南・朋恵(d19917)の横で、夜奈ももくもくとパスタに集中していた。
     そこに、聞きなれた武蔵坂学園校歌のエモアレンジが流れてくる。
     石畳の道の先から現れ、近づいてきたのは地元の音楽隊。
    「素敵なサプライズね」
     その中心に錠の姿を見つけた時生が察して微笑む。
    「ほな、うちも」
     まり花も歌い始めれば、次々に歌声と手拍子が重なっていった。
    「やっぱり歌うのって、たのしい」
     夜奈は少し目を細めてほんのり微笑み。
    「すごい人だなぁ……」
     目を瞬かせた奈那も、千波耶に誘われ口ずさむ。
    「こうしてると、今までの想い出が蘇るわね」
     ふふ、と呟く時生に、イチの口角が少しだけ上がり。
    (「けいおんの皆と、沢山のものを見て、経験して、学んで……」)
     胸に抱くのは、計り知れない幸せ。
     葉も、1フレーズ口ずさむ毎に、学園生活を思い返す。
    (「俺の青春は此処に。武蔵坂軽音部と共にあった」)
    「本当、学園に来てから……否、けいおんに入ってから色々あったよなぁ」
     葉月も最愛で最高の仲間に思いを馳せて。
     羨ましいと微笑む真火の耳元で、そっと一番を囁き返した。
     そして名残惜しくも校歌は終わり、余韻の中で錠が叫ぶ。
    「お前らマジ愛してっぜ!」
    「俺も愛してる、なんて言うと思ったか?」
     即座に葉が返すけれども。
    「ほほ。錠はんたら、嬉しい事言いなはる」
     まり花が微笑むと、葉もにやりと笑みを浮かべる。
    「……クソ愛してるぜ」
    「僕も、皆さんを愛してます」
    「けいおんだいすき。錠もあいしてる。
     かけがえのないものをたくさんくれて、ありがとう」
     イチが時生が紡ぐ言葉に、皆も次々と思いを重ねて。
     その様子に音楽隊が陽気な曲を奏で始め、また皆は歌い出した。
     賑やかな最中、朋恵はそっと秋羽に囁く。
    「今までの学園祭、秋羽さんのおかげで楽しく歌えましたです。
     なので、その……これからもずっと、一緒にいてくれたら嬉しいのです」
    「ん。一緒に、いよう」
     頷く秋羽に朋恵の顔が赤く染まった。
    「最後は記念撮影だ!」
     そこに響いた部長の号令に、皆は肩を並べ集って。
    「日本に帰った後もさ、またこんな風に馬鹿騒ぎして遊ぼうな」
    「あたりまえじゃない」
     涙ぐんだ錠の顔面に、夜奈がタオルを叩きつける。
    「イヤがったって、かまいたおしてやるんだから」
     また1つ増え、きっとこれからも増えて行く、煌めく思い出。
     まだ赤い頬のまま朋恵の笑顔も弾けた。
    「軽音の皆さんも、大好き、です!」

    作者:佐和 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年8月8日
    難度:簡単
    参加:49人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 3
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