闇堕ちライブハウス~示せ、深淵の力

    「闇の力を解き放つ時が来た」
     神崎・ヤマト(大学生エクスブレイン・dn0002)の第一声に、サイキックハーツ大戦に勝利し、ひと段落ついた灼滅者達は、首を傾げた。
    「事情はこうだ。サイキックアブソーバーに限界が来た。サイキックハーツの力で強化され、本来の性能を大幅に超過した力を発揮していたサイキックアブソーバーは、もはや校長の超機械創造では制御不可能な状態に至った」
     このままではいずれ、サイキックアブソーバーは完全破壊してしまう。
     それを阻止するには、アブソーバー内部に存在するエネルギーをどうにか消費して、暴走を食い止めなくてはならない。ヤマトはそう言った。
    「最も有効な対策は、サイキックアブソーバーの力を灼滅者が一時的に吸収、戦闘を行う事で、その力を消費もしくは発散してしまう事だ」
     力を吸収する事によって、灼滅者はその意識を保ったまま、闇堕ち状態となる。そして、闇堕ち状態で戦闘する事で、力は発散される。
     闇の力を解き放つ時が来た、というのはこの事である。
    「力を消費すればするだけ、サイキックアブソーバーの総エネルギー量が低下して、暴走の危険も下がり、制御可能な状態に戻せるだろう」
     灼滅者の『闇堕ち状態』は、戦闘不能になるか、戦闘開始後18分間が経過すると解除される。灼滅者の意識を持った状態なので、元の姿に戻るために、説得などは不要。
     必要なのは『極限の状態で激戦を繰り広げる事』なので、手加減など、消費・発散するエネルギーが少なくなってしまうような戦い方は避けるべきだろう。
    「闇堕ちの力を、思う存分振るうチャンスだ。普段とは異なる戦闘スタイルはもちろん、闇堕ち状態への変貌も格好良く決めたいところだな……そうは思わないか?」
     何やらカッコよさげなポーズを決めながら、ヤマトが不敵に笑った。


    参加者
    雨月・葵(木漏れ日と寄り添う新緑・d03245)
    空井・玉(疵・d03686)
    戸森・若葉(のんびり戦巫女・d06049)
    氷崎・蜜柑(慈愛のヒーロー・d07946)
    赤松・鶉(蒼き猛禽・d11006)
    居木・久良(ロケットハート・d18214)
    白臼・早苗(静寂なるアコースティック・d27160)
    若桜・和弥(山桜花・d31076)

    ■リプレイ

    ●正々堂々、闇の武闘会
     ライブハウス仕様となった教室で、二組の灼滅者が向かい合っていた。
     一方は、Aチーム。前衛は、クラッシャーの赤松・鶉(蒼き猛禽・d11006)。ディフェンダーの空井・玉(疵・d03686)。
     後衛を務めるのは、メディックの戸森・若葉(のんびり戦巫女・d06049)と、スナイパーの雨月・葵(木漏れ日と寄り添う新緑・d03245)だ。
     もう一方のBチームは、前衛、ディフェンダーを居木・久良(ロケットハート・d18214)が担当。
     そして、ジャマーの若桜・和弥(山桜花・d31076)や、メディックの白臼・早苗(静寂なるアコースティック・d27160)、氷崎・蜜柑(慈愛のヒーロー・d07946)らが、それをサポートする構えだ。
     4対4。布陣の内容こそ違えども、全力を注ぐ決意には、双方とも変わりない。
    「それじゃ、始めようか」
     おもむろに葵が眼鏡を外すと、その身にウイングキャットの遥陽が吸収された。
     頭から黒の双角が生え、右腕もまた鬼のような筋肉質な物に変化する。黒い浴衣が身を包み、影業も炎の如く揺らめく。
     続いて、若葉の纏っていた清らかな霊気が、禍々しい妖気へと転じた。
     頭頂部の皮膚を突き破り、角が生え揃っていく。そして、全身が妖気で満たされ、身体が羅刹のモノへと造り替えられていく感覚に、若葉は心地よさすら覚える。
    (「私も……段々とあなたと同じ存在になっていくんですね……」)
     脳裏をよぎるのは、以前命のやり取りをした羅刹の顔。
    「存分に、悔いのないように戦いましょうか!」
     鶉の気合と共に、衝撃波が噴き出した。オーラと髪の一部が金色に染まるのみにとどめるのは、力が制御下にある表れだ。
    (「意識の一つくらい渡しても構わない程度には、彼女に借りがあるのだけど」)
     玉の首の傷から、闇が漏れ出る。ライドキャリバーのクオリアとの融合はせず、あえて変容は控えめだが、力自体は闇堕ち状態とそん色ない。
     そして、それらと呼応するように、Bチームも己を闇の力にゆだねた。
     久良は、一礼すると、左腕の腕輪に軽く触れる。
    (「戦いは嫌いだろうけど、少し俺に力を貸してくれないか。一緒に戦えば、君の気持ちもわかるかもしれない」)
     もう1人の自分に語り掛ける久良。
    (「隣にいてくれる人の嬉しさをわかってくれとは言わないけど、少しでも感じてもらえたら」)
     その意志に応えるように、皮膚が青白く色を変えた。左胸に、噴出する炎を思わせる、赤い結晶が咲く。
    「灼滅者同士、闇堕ち状態で戦う事って初めてですね。折角ですから、思いっきり戦いを楽しみましょう」
     蜜柑も、ご当地ヒーローから、対となるご当地怪人の姿へ。いわば善と悪が反転する蜜柑は、ある意味変化が明確な1人といえよう。
     和弥の体も、闇の力の浸透により、髪や耳、尻尾が白く染まっていく。
    「なんていうか、2Pカラー? もうちょい格好良い変貌を期待してたんだけど。人型を維持するとあんま普段と変わんないね」
     己の姿を確かめる和弥。いつもの動きがそのまま使えるのは有難いか。
     闇堕ちした自分を恐れる早苗。しかし、これも自分と向きあうチャンスと意を決すると、胸元から闇が煙のように噴き出し、全身を包む。
     晴れた闇の中から、伸びた髪がふわっ、と広がり、怪しげな光沢を放つ。
     意識は灼滅者のままだが、早苗の表情から先ほどまでの不安は消えていた。
    「ふふ、さいっこうの気分、だね……♪」
     そして、闇の宴の幕が開く。

    ●心と力、光と闇
     闘いは、初手から激しいものとなった。
     何せ、単純計算でダークネス級が8人、入り乱れているのだ。
     鶉が、チームの仲間に視線を送った。最初の狙いは、久良。
     固めた拳から噴き出す、金色のオーラ。相手の懐に飛び込み、打撃する。並の灼滅者ならかすめただけで吹き飛ぶような強烈な一撃だ。
     しかし久良は、それを受け止めた。衝撃により、粉雪のような結晶が舞う。
     敵が抑えられたのに合わせて、和弥が両手を振るった。こちらは、ディフェンダーであり、サーヴァントのクオリアから攻める。
     もはや塊めいたサイズの氷槍が、クオリアの装甲をえぐる。騎乗する玉から機動力を奪えれば、一石二鳥。
    「見知った顔と殴り合うって、こう何つーかアレだね。背徳的な快感を覚えるね?」
     正直、和弥も暴力は嫌悪の対象だが、こういう形ならば、むしろ存分に皆の技を拝見させてもらいたいところ。
     対する玉としては、サイキックアブソーバーの延命云々抜きで、気分転換に軽く運動するか、というくらいの考えだ。かといって、手を抜くわけではない。全力で相手を『殲滅』する構え。
    「こちらからも行くよクオリア。轢いて潰す」
     フルスロットルで強化修復するクオリアを駆り、玉が指を銃の形にすると、久良の肩を魔光で貫く。
    「さぁ、楽しみましょ♪」
     ウインク1つ。早苗は舞うように手をかざすと、光の乱舞を披露した。
     早苗による、煌めく光とのダンスに巻き込まれた前衛に、若葉が手をかざす、吹き荒れる妖風が、傷を塞いでいく。攻撃力だけでなく、回復力だって大幅に増している。
    (「これ、遥陽が見たらびっくりするだろうな……」)
     普段の自分とは似ても似つかぬ姿に苦笑しながら、葵は、妖力の凝縮した帯を操った。黒く染まったそれが、衝撃波をまき散らし、敵を切る。手心は加えない。
    「大丈夫ですか、すぐに回復しますね」
     集中攻撃を受けつつも、左胸の結晶から炎弾を放射する久良に、蜜柑が霊力を撃ち出した。失われた体力が、一気に回復する。
     これまで、ダークネスに身も心もゆだねた状態なら、このような連携など望むべくもない。今までの戦いとは違いますね、と、蜜柑は不思議な感覚を得ていた。

    ●激戦
     皆が力を振るうたび、その余波が空間や壁を揺るがす。被害を考えなくてもいいのはありがたかった。
     両チームとも全員健在ながら、優勢なのは、Aチームの方か。
     久良を、鶉のチョップが襲った。それも、ただの技ではない。仰け反った相手が逃れることさえ許さず、金色のロープ……霊糸で、その身を束縛してしまう。
    「まだ立ってるよ!」
     だが、強引に霊糸をちぎった久良は、平気な顔で反撃の連打を繰り出した。一打一打が、通常のサイキック一発分にも匹敵しそうな迫力だ。
     いよいよ、追いつめられるクオリア。急旋回して回避せんとするが、和弥はスサノオの速力をもって、背後から接近した。
     必殺の手刀が、見事、クオリアを貫通し、仕留めた。次の標的は、目標とする玉だ。
     先に1機を落とした事で、Bチームが盛り返す。
    「ねーえー、葵ちゃぁん♪ 今からでもこっちのチームに、こない……?」
     淫魔らしく、からめ手も交えて、相手を誘惑する早苗。だが、つれないとみると、妖艶な歌声で仲間を癒した。
     久良に集中する攻撃。しかし若葉の弓は、不意に和弥に狙いを転じた。隙を突いたか。
     とっさに飛び出した久良が、それを庇う。しかし、Aチームの狙いは、その行動を誘発するところにこそあったのだ。
     若葉の禍々しい剛弓から放たれた矢の雨が、久良の全身を貫いていった。
    「後は任せたからね」
     笑顔で倒れる久良。顔には出さないようにしていたが、そのダメージは大きかったようだ。
     Aチームの次のターゲットは、和弥。
     恋人が倒れても、少なくとも表向きは感情を動かすことのない和弥に、葵の影が、喰らいついた。獣の如く荒々しく。
     葵にとって影業は、ここまで共に死線をくぐり抜けてきた、いわば戦友のようなもの。
    「これの扱いには結構自信があるんだ」
     1人を減じたBチームの後押しをするように、蜜柑が、回復から攻撃にシフトした。身を包んでいた帯を解き放つと、相手の守り手・玉を打ち崩そうと試みる。大事なのは勝敗より、激しさ。これでアブソーバーの力が消費されれば御の字だ。
     帯を弾いて跳び上がった玉は、その勢いを無駄にはしなかった。流星の速さと隕石の質量を併せ持つ、とでも表現すべきであろうか……凄まじき威力のキックで、和弥を蹴り飛ばす。
    「さすがタマちゃん」
     和弥が膝を屈した。

    ●決着
     残り2人となったBチームは、攻勢を強めた。
     蜜柑が、その身に内包した魔力を放出。鶉や玉を焼き尽くさんと、反サイキックの光条が暴れ回る。
     やがて、ここまで盾となっていた玉が、ついに倒れる。
     抵抗を続けるBチームへと、若葉も攻めの手を緩めない。技や感覚が研ぎ澄まされ、更に磨きたいという欲求に駆られるのは、自分が今、羅刹だからだろうか。
    「あーん、痛いよぉ~♪ ねー、もうちょっと手加減して、ほしいな☆」
     オーバーリアクションでしなを作る早苗だが、葵はそれを振り切り、連撃を叩き込んだ。羅刹の膂力で相手をつかみ、裂き、殴る。とどめとばかり床にたたきつけ、終幕とする。
     力を振り絞り、抗する蜜柑だったが、鶉に捕まった。
    「猛禽の終撃、ご覧あれ! ブルーバード……ドライバーッ!」
     ブレーンバスターで豪快に投げられ叩きつけられた蜜柑の体は、激しい反動で浮き上がる。
     そこに合わせて、鶉のドロップキックが炸裂した。プロレス技に、闇堕ちの力が加わったそれは、見る者を圧倒する鮮やかなものだった。
     直後、闇堕ち状態が解ける。
     Aチームの勝利であった。
    「み、みなさん、お疲れ様でした……!」
     皆の無事を確認した早苗の顔が、不意に赤くなる。戦闘中の豹変ぶりを思い出し、羞恥に襲われたのだ。
    「あれ、その、私……」
    「いい勝負でしたわ。また、いつか」
     気にしないでください、というように、ふわりと微笑む鶉。その髪も、青に戻っている。
     融合を解き、戻って来た遥陽を撫でる葵。その身を疲労感が包む。
    「闇堕ち姿での戦いは、灼滅者の時とはまた違った疲れがあるんだね……」
     倒れた久良や玉も、ほどなく起き上がる。
     それを確かめ、和弥が、玉と言葉を交わす。
    「勝ちたかったな」
    「こっちも、下手なところは見せられないからね」
     もっとも、和弥の方もクオリアを倒したのだから、一矢報いたと言って良いだろう。
     一方、羅刹より戻った若葉は、思案顔であった。
     相対し、説得し、しかし戦う事となったダークネスがいる。
    「貴方と共に歩いて切磋琢磨する道もあったのかもしれませんね……」
     あり得たかもしれない可能性に思いをはせていた若葉も交え、互いの健闘を称える一同。
     自分達以外にも、数多くの戦いが繰り広げられている。この調子なら、サイキックアブソーバーも、無事鎮まっていくに違いない。

    作者:七尾マサムネ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年7月31日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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