世界視察旅行~猫と真珠と海外旅行

    作者:長野聖夜


    「猫って、モフモフしていて可愛いですよね」
     校舎に入り込んでいた野良猫をモフモフしながらそんなことを告げる納薙・真珠(大学生ラグナロク・dn0140)。
     いつの間にか集まっていた灼滅者達を見て、真珠が何かを思い出した表情になった。
    「そう言えば皆さん、サイキックハーツ大戦に勝利したんですよね?」
     真珠の問いに、灼滅者達が頷き返す。
    「皆さんのお陰でダークネスに関する問題は殆ど払拭されたと聞いております。そして、これからエスパーと化した一般人の皆さんの事を考えていく必要があると言う事も」
     告げる真珠の瞳は少しだけ憂いを帯びていて。
     それから、程なくして微笑を零す。
    「そこで皆さんの実績を確認し、これからの世界の実情について考える為に世界情勢の確認を行おうとしていると言う話を伺いました。それを、エクスブレインの皆さんだけでは無く、私達ラグナロクも同じように見て回ってきて構わないと学園から許可が下りました」
     そこで……と僅かに頬を赤らめて。
    「私も話に聞いたことがある程度なのですが、猫の楽園と言っても差し支えない島があると言う話を聞きましたので、そちらに行ってみることにしました。皆さん、一緒に如何でしょうか?」
     そう告げて上目遣いに軽く真珠が小首を傾げた。


    「私が行く予定なのはハワイ州にある島の一つで、ラナイ島と言う場所です」
     ハワイ諸島の玄関口であるオアフ島から飛行機でおよそ30分程。
     小さな島ではあるがかつては世界にわたるパイナップルの内2割ほどが此処で作られたとされており、故にパイナップルアイランドと呼ばれていた場所でもある。
    「此処には動物保護の為の施設がありまして、此処で500匹ほどの猫が保護されています」
     因みにこの場所、午前10時~午後3時ほどまで開放されており、誰でも気軽に500匹の猫と触れることが出来る。
     最も、1日目の到着予定は夕方頃なので、流石に猫と戯れることが出来るのは翌日以降、となるが。
     真珠の説明にやや熱が籠もっている。
    「500匹の猫……是非、モフモフしたいですね」
     因みに、観光業が盛んな場所でもあるので、ホテルライフを満喫したり、勿論海や観光地巡りをする事も可能だ。
     大まかな日程としては下記の通りである。
     1日目の夕方頃ホテル到着、そこで夕食などの歓談パーティー。
     2日目は動物保護施設で猫と戯れたり、ビーチで遊んだり。
     3日目はラナイ島の各観光地を巡る事が出来る。
    「これなら……皆さん、色んなことが楽しめると思います」
     告げながら真珠は猫の様に愛らしく微笑んだ。
    「視察と言うよりも、観光位の気持ちで皆さんと一緒に行きたいです。猫のモフモフも……楽しみですから」
     告げる真珠は久しぶりの外出故か、とても嬉しそうだった。


    ■リプレイ

    ● 
    (「なるほど。この猫達が噂の……」)
     レイフォードが500匹の猫達を見ながらそう思う。
     レイフォードは手招きしてやって来た猫達を肩と頭に乗せてワッショイ。
     フカフカな毛並みが心地よい。
    (「どうやら、結構人懐っこいらしい」)
     猫と戯れ温かい思いがレイフォードの心の中に育まれ、気が付いた時には日陰で一匹の黒っぽい猫を抱き上げお腹の上に乗せて寝息を立てていた。


    (「猫さんと、遊びに、来たの……」)
     シャオは自由に過ごす猫達を見て、胸中に温もりを覚える。
     近くで寝そべっていた灰縞模様の猫のお腹を優しくなぞると猫が身を捩った。
    「ふわふわ、もこもこ……いっぱい……幸せ……」
     好奇心から近づく猫を抱き上げ軽く頬を寄せれば感じられる優しい匂い。
     堪能したシャオは、真珠が笑顔で咲哉や、鈴音達と共に猫と遊ぶのを見つけ。
    「今日は、シャオさん」
    「こんにちは……」
     愛らしく笑う真珠に挨拶したシャオが隣に座り猫達を見た。
    「お使いになりますか?」
    「ありがとう……」
     シャオが猫じゃらしを受け取りひらひらさせると、猫達が遊び始めるのに微笑。
    「猫さんって……おひさまのにおい、するよね……」
    「はい。とてもいい匂いですね」
    「おお! 楽しそうだな!」
     それまで天国だ~! と心中で叫び猫を撮影していたロードゼンヘンドがやって来る。
    「ロードゼンヘンドさんも、来てたんだ……」
    「猫と! 戯れる! もうこう聞かされただけで飛んできちゃったよ!」
     ロードゼンヘンドにシャオが微笑む。
    「ふふ……皆さん、楽しそうですね。真珠先輩、自分も一緒に遊んでいいですか?」
     声を掛けてきたのは夕月。
    「勿論ですよ。皆で一緒に遊びましょう」
     夕月は自分の足にすり寄る猫の前にしゃがんでじゃれ合う。
     楽しそうに遊ぶ猫達に夕月は笑った。
    「ふっふっふ……それでは、霊犬持ちの撫でテク見せたるぜ……! って、あ、撫でてもいいの?」
     特に怒ら無いので大丈夫だろうと夕月が猫の喉を撫でるとツボを押さえた撫で撫でに、猫がゴロゴロと喉を鳴らす。
    「あっ、喉鳴らしている! 気持ちいいんですね~」
     胸に温もりを感じながら夕月は嬉しそう。
     楽しそうな彼女をロードゼンヘンドが写真に収めて拳を握りしめ。
    「よし、ボクももふもふを……!」
    「写真……撮らないの……?」
     小首を傾げるシャオにロードゼンヘンドが返す。
    「……ボクだってもふりたいんだよ!」
    「なら俺が撮影するから真珠達と一緒に楽しんでくれよな!」
     力説するロードゼンヘンドに真珠の隣で猫と戯れていた咲哉が答え、ロードゼンヘンドが喜びを爆発させ猫を抱き上げる。
     恍惚とした表情だった。
    「フフ、皆、楽しそうね。って、あら?」
     真っ白な猫が少し離れた所から此方を見ていたので手招きする鈴音。
     近づいてきた白猫を優しく抱き上げた。
    「この子まるで、真珠さんそっくり」
     鈴音の言葉に夕月達と戯れていた真珠が鈴音が抱いた猫に興味を持つ。
    「あの……」
    「どうかしたのかしら?」
    「その……肉球……」
    「良いわよ」
     クスリと笑って鈴音が頷き抱いた白猫を真珠の前へ。
     真珠が肉球を触り笑顔に。
    「肉球、プニプニ……気持ちいいです」
     その笑顔を見逃すまいと咲哉が写真を一枚。
     一方シャオは猫達の真ん中で横になっていた。
     集った猫がお腹に乗って来たりするがその温かさと匂いに落ち着き眠気を催す。
    「ふぁ……ちょっと、眠くなって来ちゃった……」
     シャオの欠伸に微笑する真珠。
    「あの……帰る時間までに起きなかったら……起こして貰って、いいですか……?」
    「はい。起こして差し上げますね」
     見送られたシャオは輪から抜け出し沢山の猫達が眠る隅っこへ。
    (「んみゅー、幸せぇ……」)
     スヤァと猫達に囲まれて寝息を立てるシャオを見て真珠は頬笑む。
     その様を認めた咲哉が空を見上げた。
     雲一つない青空が自分達の眼前に広がっている。
    「何処までも広がる自由な空を見に行こう」
    「咲哉君、それ……」
     咲哉の呟きに鈴音が笑顔の真珠を見ながら聞くと彼は頷いた。
    「ああ。あの時、真珠と初めて会った時に、俺がした約束だ」
    「そう」
     鈴音も同様に泣きそうな程に綺麗な蒼穹を見上げる。
    「いつの日か、一緒に世界中を旅しよう。俺は、ある雨の日に彼女と約束した」
    「漸くなのよね。先が見えない程、険しく遠かったその道のりを……私達は乗り越えた」
    「ああ、漸くだ。漸く果たせる時が来た……」
     感慨深げな咲哉に鈴音は息を吐く。
    「沢山私達は失ってきたけれど、彼女のあんな風な笑顔を見る日の為に、私達は歩んできたのよね」
    「ああ」
     鈴音に咲哉が頷き返す。
    「ラグナロクの皆、そして絆を繋ぎ紡いできた仲間達。何時かそれぞれの道を歩んでいく日は来るけれど、この先もずっと皆が笑顔で幸せであります様に」
     祈る様に言の葉を鈴音が紡いだ。


    「うん……猫モフモフ……気持ちいいです」
     真琴が集まった猫を抱きながら一人頷く。
     最初は親から借りたカメラで頑張って撮ろうとしたが、重いわ慣れないわでとんでもない出来損ない写真が出来るので諦めた。
     ラナイ島で保護された猫達の多くは大らからしく、お腹を晒しているところをくすぐられて喜んだり、今みたいに抱き上げてモフると頬を擦り寄せてくる。
    「おお~! こっちにも猫が沢山!」
     猫に囲まれ眠ったシャオをこっそり撮影してからやって来たロードゼンヘンド。
    「こんなに可愛い猫達、お持ち帰り出来ないかなぁ?」
    「ええと、職員さん達のお話ですと、里親になるんなら大丈夫らしいですけれど……」
    「えっ、そうなの?!」
     真琴の言葉に驚くロードゼンヘンド。
    「でも……ちゃんと、面倒見れなきゃだめですよ?」
    「いや、知ってるけど……知ってるけどさぁ!!」
     身を捩らせるロードゼンヘンドから目を逸らし真琴が猫と心行くまで戯れた。
     尚、真琴が聞いた資金援助先だが、寄付は現地でも受け付けており、同じことを気にしていた【ホワイトキー】の美雪は寄付を行い、真琴は今後募金活動が出来ないかを検討するのだった。


    「すごい猫の数だねぇ、びっくり」
    「ねっ、本当に猫だらけ……楽園は本当にあったんだ……」
     静が猫じゃらしをプラプラさせて猫と戯れるのを、日陰からサバトラ柄の猫を御膝に乗せて穏やかに眺める千巻。
    「ほーらこっちだぞー」
     静が猫を抱き上げ千巻の隣で撫でてあやす。
     気持ちよさそうに膝で寝そべる猫に和む静。
    「そう言えば千巻はどういう子が好み?」
     猫にチッチッと呼びかけていた千巻が自分の膝枕で眠るサバトラ柄の猫を指差す。
    「見た目なら、こんな感じの子ね。性格なら、遊んでくれるのも好きだけど、内気な子とか、大人しい子も好き」
    「そうなんだ。毛並みとか品種とか色々あるけど、僕はやっぱりこの子みたいに一緒に遊べるのが一番というか……ん?」
     静が悪戯を思いついた子供の笑み。
    「猫じゃらし……普段は恥ずかしくて隠してるけど、僕のもさもさの尻尾を使えばもっといけるのでは?」
     早速自らのもさもさ尻尾を猫達に向けると。
     沢山猫が寄って来て、じゃれる様に前足で尻尾を弄った。
     ――爪を出したまま。
    「あっ、ちょっ、待ったおまえ等爪出てる! 爪! イダダダダダ!」
     制止の声を上げる静だが猫達は止まらない。
     思わず千巻はケラケラ笑った。
    「大丈夫―?」
    「イダダダダダ!」
     目に涙を溜める千巻に静が悲鳴で答えたのでチッチッと舌を鳴らして助け舟。
     尻尾弄りを止めた猫達が千巻の周りに集まった。
    「大漁大漁。静くん、猫釣りの才能があるんじゃない?」
    「大漁だった、大漁だったけどもさ……」
     座した静がそうか、と手を1つ叩く。
    「どうしたの?」
    「違いが分かったよ千巻。ハワイの子達はね、日本語通じないっぽい」
     溜息をつく静にそれじゃあ、と悪戯っぽく笑む千巻。
    「次は英語覚えてきて、英語で話しかけなきゃね」
     それから千巻は猫達を案じる様に目を細めた。
    「この子達、いい家族見つかると良いねぇ」
    「家族は、うん。きっと大丈夫だよ。きっと、ね」
     千巻の肩を軽く叩く静に千巻が微笑。
    「……うん、そだね。大丈夫だね、きっと。ありがと」
     静は微笑で返した。

    「流石に500も居ると圧巻だぜ……」
    「うん、すっごい……」
     宗田に澪が返す。
     澪が適当に腰かけ、宗田が隣に胡坐を掻く。
    「ほーら、おいでおいでー」
     澪が呼ぶと沢山の猫が懐いてきた。
    「ほんとに人懐っこーい……」
     その中の一匹が澪の膝に乗る。
     愛くるしい小柄な猫の顔を見て澪が呟く。
    「あっ、この子ジェニファーに似てるかも」
     寄って来た猫を撫でながら宗田が頷く。
    「ん? ああ、確かに……な」
    「また、会いたくなってきたなぁ……」
     懐かしそうな澪に宗田が小声で返す。
    「……いつでも来ていいんだぜ? 今更遠慮する仲でも無ェし……」
    「わっわっ、もー、くすぐったいってばぁ」
     その言葉は何匹も乗って来た猫達の一匹を抱き上げ、頬を舐められ溢れる笑顔と共に騒ぐ澪には聞こえていなかったが。
     微笑ましい澪の姿を宗田がスマホで隠し撮りすると、猫の一匹がスマホを玩具と思ったか前足を伸ばした。
     思わず微笑する宗田。
    「これは玩具じゃねぇよ」
    (「やっぱり紫崎くん、動物と一緒にいる時は凄く柔らかく笑うんだよね」)
     返しながらリングストラップをねこじゃらし代わりに猫と遊ぶ宗田の笑顔を横目で確認した澪の心の中の呟き。
     それは澪の好きな宗田の笑顔。猫に向けられるのは少し妬けちゃうけれど。
    (「後でこっそり写真撮っちゃおー」)
     内心で舌を出しながらひっそり澪は実行した。

    「へへ、猫っちゅうても毛質とか違いあるんやなあ。なあ、徹やん?」
    「そうだな、斑目・立夏」
     傍にいた猫を撫でつつ立夏が聞くと徹也が無表情に頷き猫達を撫でる。
    (「これも全てデータ収集の為だ」)
     如何に扱えば猫達が満足しリラックスするのか。
     徹也の目に丸々としたキジトラの猫が入った。
    「タロイモと似ていると認識する」
     徹也がその猫を抱き上げ立夏に見せると、キジトラ猫がニャァと鳴く。
     タロイモを思い出し立夏は吹き出した。
    「へへ、ほんま丸っとしとってタロイモに似とんな! 触り心地はどないや?」
     徹也の抱える猫をモフモフする間に立夏がしみじみと。
    「こうも感触がよく似ておると、タロイモも連れて来たかったわーって。思うわ」
    「タロイモはトンビと認識しているが、斑目・立夏」
     徹也の解にはっとする立夏。
    「せや! タロイモはお鳥様やさかい羽、む、毟られてまうやないか……!」
     立夏に無表情に頷く徹也。
     ふと微かに気遣わし気になる立夏。
    「ちゅうか此処、保護施設……か。せやんな! 唯一の相棒が見つかんねんで! な? 徹やん? 皆、ええ家族にきっと貰われていくんやで!」
    「そうだな、斑目・立夏。皆、きっと良い縁に出会えるだろうと推測する」
     徹也が、立夏と言う良い相棒と出会えた様に、きっと。
     そう思い、徹也は僅かに微笑んだ。


    「神無月様、神無月様、猫いっぱいなのですよ。もふもふ天国ですね」
    「そうね。猫いっぱいね。ヒトハ、もう気持ち悪い所とかない?」
    「はい、もう大丈夫です」
    「そう。それなら良かったわ」
     周囲に群がる猫達に目を輝かせるヒトハに優しく聞く優。
     寄って来る猫達を撫でながら優は思考を巡らせる。
    (「平和になった……か」)
     大切な人が幸せであればそれでいい。
     其れだけで生きてきた。
     これからもそれは変わらない。
     手段は問わないし、問うている暇もない。
     ただ大切な人達の幸せだけを追い続けるにはそうするのが当然だから。
     そう……生まれてすぐ灼滅者と分かり、他者と『異なる力』によって『他』から迫害され、一般人こそ信用できないと、一般人の世の中に自分は邪魔な存在だと既に去ってしまった義妹の後を追う為にも。
     自分はあの子を守るために在る存在だから。
     じっと考え込む優の様子を猫達をモフリながらヒトハはそれとなく気遣い頃合いを図り軽く優の裾を引っ張った。
    「神無月様、僕、許される限り着いていくですからね」
     世間とか、平和とか、それはヒトハにはどうでもいい。
    「けれども僕は神無月様達の傍に居たいのです。ただ……それだけなのです」
     ヒトハには難しい事は分らない。
     優にとって自分は頼りにならないかも知れない。
     でも……優だけに悩んで欲しくない思いは切実だから。
     ヒトハに優は柔らかく笑う。
    「勿論、連れて行くよ。アンタも私の『大切』だからね」
     優の答えにヒトハが安堵する様に頷いた。


    「納薙先輩、お誘い、ありがとうございます。猫専用の保護施設……しかもここまで広大な施設、初めて見ました」
    「いいえ。皆さんと一緒に来られて良かったです」
     【ホワイトキー】の代表として礼を述べる雄哉に咲哉と一緒の真珠が返す。
    「それにしても、この動物保護施設の成り立ちには興味があるな」
    「美雪は調べたのか?」
     美雪に問う咲哉。
    「ああ、咲哉さん。調べてみたんだが、どうやら固有種の鳥を守るために猫が追い出されようとした時に猫を守るために作られた場所らしいんだ」
     美雪の言葉に咲哉が何かを思う表情に。
    「どうかしたのか?」
    「いや……今する話じゃないな」
     ちらりと咲哉が見たのは雄哉の方。
     何かを感じた美雪が軽く頷く。
    「あっ、真珠、初めまして、だね。ホテルの御馳走パーティーも楽しかったけど、猫が沢山いる施設はもっと楽しそうだからやって来たよ」
    「こんな施設があるなんて初めて知ったわ、お誘いありがとう真珠さん」
     朱里と愛莉に微笑む真珠。
    「それにしても……正に此処は猫の楽園ね……!」
     愛莉が自由気ままな猫達に感嘆の息をつくが慌てて首を横に振る。
    「違う違う、保護施設なのよね」
    「うわぁ、可愛い猫が沢山!」
     それでも楽園と錯覚してもおかしくないわと愛莉が笑みを浮かべ、朱里がはしゃぐ。
    「しかも人を警戒していない……ってわわわっ」
     猫達の群れが突撃してくるのに少しパニックになる朱里に、雄哉が微笑。
    「それじゃあ、私もモフモフしようかしら」
     そんな朱里を宥めながら愛莉が猫をモフる。
     猫と戯れ笑顔の美雪達を雄哉は見つめた。
     そんな何気ない光景が楽しい。
    「……って雄哉おにいちゃんもふもふしないの?」
    「いや、僕自身は猫嫌いじゃない。むしろ、来たらもふもふしたい位なんだけれど……でも、どうも……猫が寄ってこない。それどころか逃げられるんだけど」
     がっくりと肩を落とす雄哉に愛莉が微苦笑。
    「あ、あら……なぜかしら」
    「何を警戒されているのかなぁ……?」
     軽く首を傾げる雄哉の基に一匹の猫を抱いてくる真珠。
    「雄哉さん。この子はどうですか?」
    「えっ? ……じゃあ……」
     差し出された猫を撫でると猫は欠伸を一つ。
    「この猫さんは、雄哉さんのこと嫌いじゃないみたいですね」
    「ありがとうございます、納薙先輩」
     微笑み頷く真珠。
     その笑みを咲哉が写真に収めない道理はない。
     朱里達が猫を堪能しているのを雄哉が見ていると咲哉が話しかけた。
    「雄哉。その顔、何かを決めて来たって感じだな」
    「文月先輩こそ、何かあるんじゃないですか?」
     雄哉の問いに咲哉が微かに頬を赤らめたが小さく首肯。
     そのまま咲哉が美雪達に交じって猫と戯れる。
     極自然と愛莉を誘い易くしてくれた。
    (「……よし」)
    「愛莉ちゃん、ちょっとついてきて……」
    「えっ?」
     近付いた雄哉の囁きに愛莉が頷き保護施設を後に。
     咲哉が視線を投げた様に思えたが、恐らくそれは後押しだろう。
     程なくしてホテルへ到着。
    「ここ……ホテル? 雄哉お兄ちゃん、どうし……」
     ――ふわり。
     愛莉の言葉は不意にその頭に被せられたヴェールによって掻き消された。
    「……ここで、式を挙げて行こう。模擬じゃなくて、本気」
    「……えっ?」
     雄哉の言葉に愛莉が思わず目を瞬く。
    「今後、僕が愛莉ちゃんをずっと守っていくための決意の証として」
     雄哉の口調には緊張が含まれていて。
     愛莉は息をつきつつはにかんだ。
    「……全く、こんな形で式を挙げるってズレてるわよ? ほんっと、不器用、なんだから……」
     ――キラリ。
     愛莉の瞳から、一滴の雫が地面へ零れた。


    「人々が求めるのは平穏、か」
     島を歩いていた明日香が独り言ちる。
     元々この島には誰にでも気さくに対応する風土がある。
     聞けば人々は皆で笑って幸せに過ごせればいいと答えてくれた。
    (「何でオレはこんなことを聞く……?」)
     とうの昔に一般人は見限った。
     だから人類は自分達の手で管理するべきだと思っている。
     けれども管理対象に過ぎぬ彼等の必要な物について調査する自分に微かに疑問を覚える明日香だった。


    「真珠」
     帰りの飛行機に乗る直前咲哉が真珠を呼ぶ。
     真珠が軽く小首を傾げた。
    「咲哉さん……どうしましたか?」
     空と海が見える飛行場の窓際にいた真珠と向き合う咲哉。
    「俺は、お前とまた新しい約束をしたい」
    「咲哉さん……」
     緊張を孕んだ咲哉を真珠は紅い瞳で見つめ。
    「晴れの日も雨の日も風の日も雪の日も陽の光の下でも暗闇の中でも俺は、君を愛している」
    「……!」
     咲哉の言葉に息を呑む真珠。
     そのままそっと真珠を抱きしめ咲哉が耳元で囁いた。
    「結婚しよう、真珠。君を幸せにする。約束だ」
    「咲哉さん……私は……」
     真珠が顔を上げ口を動かした時、無音が2人を包み込み。

     ――窓の向こうで、鳥達が何かを祝福する様に空を舞った。

    作者:長野聖夜 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年8月5日
    難度:簡単
    参加:20人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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