闇堕ちライブハウス~闇に克つ力を

    作者:るう

    ●サイキックアブソーバー前にて
     灼滅者がサイキックハーツ大戦に勝利したことにより、世界を滅びに導かんとするダークネスは消えた。
     しかし……と、神崎・ヤマト(高校生エクスブレイン・dn0002)は拳を握るのである。
    「お前たちの激しい戦いを支えた代償として、サイキックアブソーバーは限界を迎えつつある……内なる力は校長のラグナロクとしての特殊能力『超機械創造』の制御を超えて、今や暴走寸前になっている!」
     確かにダークネスの支配を脱却した今、サイキックアブソーバーが壊れてしまっても問題ないのかもしれなかった。が、かの超機械は人智ではおそらく二度と作れない代物。壊さずに済む方法があるのなら、それを選ぶに越したことはないだろう……そこで。
    「お前たちには……闇堕ちをしてもらいたい!」

     ……というヤマトの言葉尻だけを捉えるとなんかアレな感じだが、今の灼滅者たちはサイキックアブソーバーの力を一時的に吸収することで、自らの意識を保ったままダークネスの力を得ることができるようになっている。
     タイムリミットは18分。その間、灼滅者同士で激しい戦いをくり広げればくり広げるほど、サイキックアブソーバーの過剰エネルギーは消費、発散できるとヤマトは語った。
    「その戦いを、あと何度行なえばいいかは判らない……しかし、そのためにどれだけ力を振るえばいいのかは、お前たちの中の闇が知っている!」
     そして戦いが終われば元に戻るので、本当に闇に支配されてしまう心配は一切ない。
    「戦うべきダークネスはもういない……だが今こそ、お前たちの真の力を振るってほしい。そう……この世界の明日のために!」


    参加者
    風真・和弥(仇討刀・d03497)
    卜部・泰孝(大正浪漫・d03626)
    白神・柚理(自由に駆ける金陽・d06661)
    竹尾・登(ムートアントグンター・d13258)
    鏃・琥珀(ブラックホール胃袋・d13709)
    富山・良太(復興型ご当地ヒーロー・d18057)
    フリル・インレアン(中学生人狼・d32564)
    舞音・呼音(キャットソウル・d37632)

    ■リプレイ

    ●解き放たれし闇
     サイキックエナジーが脈打って、闇が灼滅者たちを覆いつくした。荒らぶる力が舞音・呼音(キャットソウル・d37632)の猫耳パーカーのフードをはぎ取れば、闇に伴う肉体の変化が、ボーイッシュな髪を伸ばしてゆく感触が彼女を襲う……伸びたの数センチだけだけど。
     なるほど。闇堕ちしたら、こうして見た目が変わるんだ。闇堕ちもライブハウスも初めてな中で、間違って見なれぬ姿の味方を攻撃してやしまわないかと心配する彼女の周囲では、赤、白、黒……目まぐるしく色を変えるオーラが猫ならざる全てのものへの憎悪を露にしている。
     あぶない。猫はそんなに心狭くない。慌ててオーラの手綱を握った呼音の目の前に、彼女のものではない金色のオーラがおどり込んできた。トレードマークのサイドポニーのほどけた白神・柚理(自由に駆ける金陽・d06661)の隣には、いつも一緒の『もも』の姿は見られない……今のももは柚理と一体となって、楽しい拳と拳のぶつけ合いがさらに楽しくなるように、陰ながら力を貸してくれている!
    「みんながどんな姿でも……やるからには手加減なく思いっきりいくよ!」
    「ほほう、この武蔵坂RB怪人に楯突こうとは……リア充爆発! リア充爆発!」
     サバト服姿の富山・良太(復興型ご当地ヒーロー・d18057)のRBビーム! ……って、この前は山梨ほうとう怪人になってなかったけ? というか今、闇堕ちと同時にサバト服に着替えてたように見えたのは気のせいだろうか。
     ともあれ、柚理の足元が盛大に大爆発。柚理も密かにリア充爆破の魂を抱く同志ではあるたのだが、灼滅者たちはこの戦いに私情は挟まない。そう……相手がRBな同志であろうとも、同じクラブの友であろうとも!
    「おっと、良太の相手はこのオレだよ!」
     爆炎を裂いて現れたのは、盾のように正面を向けて構えられていた、1枚のTRPGのマスタースクリーンだった。
    「短期間に何度も闇堕ちすると危ないとも聞くけど……ライブハウス狂いのお前とは戦ってみたかったんだ。手加減なしでな」
     意地の悪そうに変化した目つきで良太を睨みつける『GM』の名は竹尾・登(ムートアントグンター・d13258)。それにしてもギリシア神話の英雄の名を冠した業物が、闇堕ちしたら厚紙の衝立に変わるとは……。
    「ライブハウス狂い……か」
     登の良太への宣戦布告を耳にして、風真・和弥(仇討刀・d03497)はそんな言葉を呟いていた。
     ライブハウスには随分とご無沙汰だ。だが、幾度か秋葉原地区で地区優勝していた身としては、久々だからと後れを取るわけにもゆかないだろう……おっぱいダイバーとして名を馳せている彼の魂の中に、命を削りあう戦いへの渇望が隠れていることを、彼は誰よりも深く承知している。
    「出てこいよ、もう1人の俺。熱く、激しく……全力全開でお前の執念を見せてみろ!」
     自らの闇へと呼びかけた途端、両手に構えた『風牙』と『一閃』が音速の斬撃を描く!
    「笑止……! 力など、何れ滅びし定めと心得よ」
     そんな和弥を彼の仲間たちごと穿つ光は、卜部・泰孝(大正浪漫・d03626)が言葉なり。かつての即身仏じみた姿をとおり越して、死霊の道士のごとき姿に身を窶した彼は、力に身を任せるがごとき和弥を諫めて曰く。
    「刃に力託した者の末路は……素手で神薙刃止められ砕かれる如くが落ちよ」
     すなわち泰孝が語る七不思議の一は、一度は彼自身を支配し敗れた羅刹。今や改竄されし魂の敗北の記憶が、眷属の七不思議となり力を振るう!
    (「闇堕ちするのは、大変なのですね……」)
     ぎゅっと拳を握ろうとして、フリル・インレアン(中学生人狼・d32564)は自身がそれをできなくなっていたことを思いだした。
     体は白炎に包まれて、着ていた衣服を焼きつくしながら1頭のスサノオとなっていた。もう、人の姿には戻れない……今の彼女は獰猛な獣――の愛らしい幼獣――で、彼女が人に属する者であることを示すものなど、それだけが燃え残った鍔つき帽、ただ1つなのだから。
     でも後悔は、しなかった。もしもサイキックアブソーバーがなかったならば、今もフリルに命があったとは限らない……ならば。
     もし、これがその恩返しだというのなら、喜んで闇に身を堕とそう!
    「ようやく……人型じゃない仲間を見つけたのよ」
     覚悟を決めたフリルと対峙する場所には、鏃・琥珀(ブラックホール胃袋・d13709)の姿があった。いやこれを『あった』と呼んでいいのかは、正直琥珀自身も自信がなかったが。
     腸管を思わせる図太い触手が生えた肉塊、とも言うべき異形の姿。蠢く植物といった風体でありつつも、核らしき宝石を頭と思えば大まかに人にも見える背徳の容。
     こんなメディックに支援される仲間たちに申し訳がないとは思いながらも、琥珀は触手の先から『種』を飛ばし、柚理へと迫るRB怪人B(つまり良太のビハインド『中君』だ)からの攻撃を、新たに床から生えた触手の壁の中へと埋めこんでゆく……。

    ●せめぎ合い
    (「これが……闇堕ち者同士の戦い……!」)
     見知らぬ戦いがここにある。では、その中から自分は何を得られるだろうかと、柚理の瞳と握りこぶしがキラキラと太陽の輝きを帯びていた。
     ダークネスの武器はダークネスの体の一部とはよく言われるが、なるほどこういう感覚なのか。流星印の『Sparkling meteor』が手足のごとく軽く感じられ、ももと同様、自分の一部になったかのような錯覚に襲われる。
    (「やっぱり、全力での戦いはいいな」)
     それは自分も楽しいし、ストリートファイターとしてそれ以上の相手への敬意の表しかたはない。
     ただ、1つだけ心残りがあったとすれば……それは、柚理がこの戦いから脱落するのは、おそらく最初のほうだということだ。
    「経験せよ……体感せよ! 学園校門前で1500人以上にフクロにされたデモノイドロードの無念を! 4人に集中攻撃を受ける等、其れと比べれば小さきものよ」
     泰孝の七不思議の二! ロード・ウラベ! これまた改竄されしかつての魂……その恨みと血涙こそが、柚理を襲うサイキックとなっている。
     ……のだが。
    「そんな敗者には、GMとしてはキャラクターシートを差しだしてもらわなくちゃいけないなぁ?」
     登がダイス代わりに投げつけた中君が、ロードを巻きこんで壁にひび割れを作った。いずれも本体から分かれた存在……消えたところで、今の登には使用不能になったデータとしか映らない。
    「さあ、お前にもTRPGの醍醐味――強敵との戦闘の楽しさを教えてやろう! なぁに、プレイヤーの命までは取らないさ!」
    「GMがPCを全滅させるつもりでセッションに挑むとは笑止千万! そんな困GMには、リア充の代わりに爆発してもらいましょう……必殺、忍び寄るサバトの影!」
     良太のリア充への憎しみが形を変えて、鋭い影の刃と化して登へと襲いかかった。この攻撃が良太にとって戦術的不利であることは重々承知……けれども物理的防御ではなく強敵を演出することで攻撃を向けざるを得ない空気を作りだすとは、なんともアンブレイカブルらしい仲間の庇いかたではないか。
     良太のみサーヴァントを吸収しなかったがゆえの数の利点は、ちょうど今しがた失われたばかりだ。これから苛烈さを増すだろう自分への攻撃をいかに耐えきるか。即席の武蔵坂のご当地怪人にとっては、中々に重くのしかかってくる問題だ!
    「教えてやろう――多対多での戦いは、どれだけ早く相手の数を減らせるかが重要なポイントだ。つまりそのための攻撃集中の邪魔になるディフェンダーは――」
     その名のとおり一閃した『一閃』がRB団サバト服を裂いて、躊躇いなき『風牙』がその隙間に捻じこまれてゆく。額に真紅のバンダナを巻いた『風の団』の団長は、ジャケットの背に風の紋章を背負い、牙のように良太に喰らいついたのだ……まさしく六六六人衆の殺人セオリーどおり、他人を庇おうとする奴から潰す!
     アオォ……ォォォン!
     ひとつの狼の遠吠えとともに、けれども風牙の切先は良太に届く直前で止まった。忌々しげに和弥が刀を引けば、そこには盾のごとく凝り固まった白き炎が纏わりついている。この後良太が倒れたならば、次の標的は……フリルに決まりだ。
     その殺意を弾きかえすかのように、フリルは一度、ごうと炎を吐いた。六六六人衆の眼差しに射すくめられても、いつものように怯えたりはしない。炎は細く縒りあつまって、恐怖を封じる糸となる!
    「そんなもの……切ってしまえばいいだけなのよ!」
     またもや琥珀の触手から、不気味な形の種が放出された。種はたちどころに大きく育ち、その勢いで白炎の糸をひき千切る。無数に張りめぐらされた白炎に対してこちらは1つずつでしかない……そのぶん、力強さだけならこちらが上だ。
     やった……そう琥珀が思った途端、鋭い何かが触手の苗をずたずたに裂いていった。
    「何なの……?」
     琥珀が犯人を目で追っていったなら、そこには柚理に迫る呼音の姿!
    「! しまったなのよ」
     呼音が戦場の後方に身を潜めながら虎視眈々と戦況を伺っていたことは、琥珀だけでなく誰もが知っていた。けれどもその攻撃がまさにこの瞬間、琥珀が種を放った直後の隙を突いてくるとは、たとえ予想していても、誰もすぐには動けない。
    「だって……私は、猫だから」
     じっと辺りを見つめた後に急に動きだすのは、まさに猫の狩りのしかたに違いなかった。闇堕ちの勢いで膨らんだ憎悪を、猫のように広い心で押しこめた今、あるのはいつもより膨らんだ猫への尊敬の念と、猫の力をとり入れた、自由自在な猫武術!
    「そんな戦法を使いこなすだなんて!」
     咄嗟に振るった柚理のハンマーは、爪でひっかかれた痛みに驚いた拍子に、手から離れて床を転がっていった。闘志だけならまだまだやる気満々……それでも体は言うことを聞かない。仕方ない、猫の動きを見事に真似してみせた呼音の勝ちだ。あたしもまだまだ精進しなくっちゃ。
    「天晴れ也、舞音嬢」
     軍配を上げてみせたのは泰孝の七不思議の三、全身を覆う包帯が緩んだり巻かれたりをくり返す、闇堕ち前の彼自身の姿の眷属である。今の泰孝も唱和する。
    「然し、白神嬢も矢張り同じ。直向きに自らと人の可能性を信じ、最後まで其れを貫き徹せし熱量。彼の屍王が試すような賭けを持ち掛け、破れし事もまた道理」
     屍王とは即ち七不思議の四、灼滅者との賭けに負けたノーライフキングの水晶騎士。しかし彼は不本意な過去に抗うかのように、水晶の方向を琥珀へと向ける!
    「させないよ! オレの考えたボスはもっと『楽し』くなくちゃね!」
     それを止め、さらに反撃に出るのは登! 立ちはだかるボスは圧倒的でこそ! けれどもさらに間に割りこんでゆくのが良太!
    「竹尾君、楽しいゲームのために、どうそのマスタースクリーンを活用するかもGMの仕事ですよ……」
     困GM爆破の呪詛は……しかし和弥を筆頭とした集中攻撃を受けつづけてきた良太にとって、今や力を伴わぬ捨て台詞にすぎない。
     これで、ようやく3対3。
     互いにディフェンダーの削りあいから始まったせいか、気づけば、すでに半分以上の時間が過ぎていた。けれども……。
    「俺たちの、勝ちだな」
     和弥は、そう囁いた。

    ●勝負アリ
     辺りにはぶよつく触手が幾本も柱を作り、そのいずれもが傷ついて謎の液をまき散らしていた。
    (「我ながら、恐ろしい光景を生みだしてしまったのよ……」)
     思わず触手を震るわせた琥珀だったが、それらがチームを守ってくれていたことは確かだ。そうでなければ今頃登まで、柚理とともに脱落していただろうから。
     けれども柱の死角を利用して、呼音の全身が跳躍する。琥珀を襲う野生の爪は……さらに、フリルの振るうもう1組!
     爪には牙を。和弥の右手が真一文字を描く。確かにフリルの腱を捉えたはずの刀は……しかし、銀爪に弾かれ軌跡を変える。
     だが左手。フリルが炎だというのなら、和弥はそれを吹き消す風だ。

     3対2。次に視線を向けられた泰孝の口許が……綻んだ。
    「汝に一つ、言葉を賜わん。……『や、やるのはあいつからにしてください』!!」
     そして呼音を指差した泰孝が沈黙の底に沈んだのと同時、灼滅者たちの体から、サイキックエナジーが抜けてゆく……。

    ●闇は闇へ
     くぅ、と呼音のお腹が鳴った。
     おつかれさまと、皆をクリーニングして回る今の彼女の心の内には、疲れたし何を食べようか、と、武蔵坂学園の選択が猫にとっても良い選択であれ、の2つばっかりだ。あ、あと髪の長さがちゃんと戻るかも。
     少なくとも最初については琥珀も同感だ……ただし触手を生みだしていたサイキックエナジーが消滅し、辺りに傷跡以外の戦いの証拠が全て失せたとしても、琥珀の脳裏にはあの惨状が今も焼きついている。あれがメディックの仕業であるなどと、はたして誰が信じるのだろうか?
     もっとも一番悲惨だったのは、部屋なんかよりもフリルで間違いなかったろう。闇に堕ちても残りつづけたほど思いいれのあった帽子には耳の穴が開いてしまった上に……燃えた衣服も二度と戻ってはこない。意識さえ戻ればスレイヤーカードから新しい服をとり出せるのだが……。
     そんな彼女の背中にそっと、『風の団』のジャケットが羽織らされた。
    「やれることはやって、考えることは考えた」
     すなわち全力を尽くした戦いの後ゆえに、和弥の煩悩もまた燃えつきてしまった。今、彼の本能の中におっぱいはなく、今、彼の思想の中にRBもない。そこにはただ、やり遂げた紳士だけがいる。
     そう……やり遂げた紳士なのだ、登もまた。
    「TRPGは共同作業だからねえ。やっぱりGMの楽しみは、みんなが喜んでる顔だよ」
     戦闘中の殺意マシマシはどこへやら、けろっとした顔で嘯いた登の顔色を伺って……良太は、呆れたように呟くのだった。
    「これで……闇堕ちは最後にしたいですね」
     今後、彼とゲーム仲間の関係がこじれてしまわないためにも。

     灼滅者たちにとって、ここでの戦いはひと時の闇の夢。
     それでも……そこからサイキックアブソーバーの破壊を防ぐこと以外、何も得られなかったわけではないことを、柚理はよく知っていた。
     自らの中にある力をよく理解して、それを新たな力へと昇華することができる。
     もし、次の機会があるのなら、こんどはどんな戦いかたをしてみせようか?

    作者:るう 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年8月7日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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