闇堕ちライブハウス~もう1つの形で

    作者:佐和

    「闇堕ちライブハウス、大盛況だよ」
     少しおどけて須藤・まりん(大学生エクスブレイン・dn0003)が笑う。
    「みんなのおかげで、サイキックアブソーバーの負荷は大分減らせてるみたい。
     これからどう使っていくのか、そもそも必要なのかも分からないけど。
     暴走とか爆発事故とかよりは、制御可能な状態で維持する方がよさそうだよね」
     くるくるとペンを回しながら続けていたまりんは、そこでびしっと手を止めて。
    「というわけで、協力者絶賛募集中!」
     そう告げると、改めての説明を繰り返した。
     目的は、サイキックアブソーバーの余剰なエネルギーの消費。
     エネルギーを一時的に吸収し、闇堕ち状態となった灼滅者同士で戦闘を行うことで、サイキックアブソーバーの総エネルギー量を低下させる策だ。
     闇堕ちは、戦闘不能になるか戦闘開始後18分経過で解除される。
     また、灼滅者の意識を保てるため、説得なども必要ない。
     戦場となる教室はライブハウス仕様であり、周囲を気にすることも不要。
    「安全な闇堕ち……っていうのも、何だか変だけど。
     細かいことは気にしないで、思いっきり戦って欲しいな」
     エネルギーは激戦であればあるほど消費される。
     クラブパワーも100%で、重症すら心配ない状況。
     となれば、手加減無用、本気の勝負ができるわけで。
    「レディ、ファイト!」
     まりんはワクワクしたような笑顔で、ペンを高々と掲げた。


    参加者
    彩瑠・さくらえ(幾望桜・d02131)
    九凰院・紅(揉め事処理屋・d02718)
    刻野・晶(サウンドソルジャー・d02884)
    氷上・鈴音(終焉を告げる蒼穹の刃・d04638)
    夕凪・緋沙(暁の格闘家・d10912)
    桜井・夕月(もふもふ信者の暴走黒獣・d13800)
    月村・アヅマ(風刃・d13869)
    妃・柚真(混沌使い・d33620)

    ■リプレイ

    ●闇を迎え
     ライブハウス仕様に整えられた教室を見回してから、胸元の方位磁石に触れる。
    (「力を貸して」)
     目を伏せて自身の中にいるだろう『もう1人』に向けて祈るのもこれで3度目。
     紫色の長髪は、短く銀色に輝き。
     和装から変わるのは、ロックディーヴァを思わせるタイトで妖艶な衣装。
     髪を払った耳元で、そして、カツンと1歩踏み出した足元のピンヒールで、ターンクロスのチャームが揺れた。
     脚部のないスタンドマイクを手にした六六六人衆は、真紅のルージュでにやりと笑う。
    「本当の闇堕ちと、バトルの闇堕ちが同数になるのもなかなかだね」
     苦笑を見せる黒服のシャドウも、どこか慣れた感覚に肩を竦めた。
     短い黒髪も微笑む赤瞳も、青年の外見がほぼ変わらないのも理由の1つだろう。
     真っ赤に染まった両手だけが、いつもと違う身体なのだと明確に視覚へ訴えていた。
    「サイキックアブソーバーの制御の為です。
     皆で思いっきり闇堕ち状態を楽しみましょうね」
     こちらは完全にいつも通りの少女の姿でにっこり笑うアンブレイカブル。
     髪の色に合わせた赤い半袖のスポーツウェアからは、女性らしい細腕がすらりと伸びているが、そこに籠る力は見た目に反したものであると感じ取れる。
     赤い薔薇のペンダントや髪飾りも、可愛らしさを添えると共に、自信を溢れさせていた。
    「正直、また必要になる状況にはなって欲しくはない気もするけど……。
     まぁ、散々世話になったし、壊れそうなのを見過ごす訳にもいきませんね」
     額に角を生やした羅刹は、サイキックアブソーバーを思い少し複雑な笑みを見せる。
     短い黒髪は長い白髪に、笑う瞳は茶色から金色に輝きを変えて。
     黒い和甲冑の上からさらに黒のロングコートを着込んだ重厚な姿で佇む。
    「アヅマくん、それ、暑苦しいよ」
    「いや、そんなに暑くは……でもまあ確かに、夏服ではないなぁ」
     くすくすとからかうように言うのは、黒曜石の角を煌めかせる別の羅刹だ。
     答えに困る様子を楽しむように細められた瞳は、同じく金色に変わり。
     長い黒髪の上から黒い上着のフードを軽く被ると、鮮やかな和柄のミニスカートを翻してくるりと回る。
    「それにしても、全く違う姿になる人もいれば、そうでない人もいるのね」
     そんな皆を優しいエメラルドグリーンの瞳で眺めた淫魔は、羊を思わせる角をそっと撫でながら微笑んだ。
     言う彼女自身は大きく印象が変わる方か。
     纏められていた藍色の髪は長く長く足元まで伸び、薄紫に色を変えつつ柔らかな曲線を描き出して。
     中世ヨーロッパの貴族を思わせる男性的な服装は、古代ギリシャのキトンを思わせる女性らしい純白のドレスに変わり、ヴェールと共に緩やかに広がる。
    「そっちはどう?」
     手にした白い百合の花を向け、艶やかに問う先には初めて堕ちる2人。
    「こんな形で使う事になるとは思わなかったですね」
     純真無垢な茶髪の少年は、好奇心に溢れる黒瞳の視線を眼鏡越しに手元へ落とす。
     そこに現れたのは情報媒体たる1冊の本。
     初めて手にするその感覚を確かめるように、タタリガミはページを捲っていった。
    「……灼滅者の全力、1度くらいは使ってみても良いだろうさ」
     モノトーンの上着を脱ぎ、教室の隅へと放り投げたのは人型のイフリート。
     上着が床に落ちる頃には、銅のような赤茶髪と深く静かな緑瞳は黒色へと染まる。
     鏡で見るまでもなく、その色を理解していたイフリートは、静かに右腕を掲げ。
     右肘から、骨を削り出したかのように白く鋭い角が生えた。
     8人のダークネス。
     18分だけの邂逅。
     だから。
    「さぁて、始めようか」
     六六六人衆の声に、相対するシャドウが不敵に笑い。
    「手加減なしで行きますからね」
    「はい。やるからには全力で行きますよ」
     腕時計を操作してから拳を構えるアンブレイカブルと並んで、タタリガミが頷く。
    「折角だから勝ちたいよね!」
    「今回は同じチームだし、頼りにしてるよ夕月さん。存分に暴れてくれ」
     前へ出る羅刹を見守るように、もう1人が目を細めた。
     淫魔が差し出した白百合へ、イフリートは応えるようにガトリングガンの銃口を向け。
    「さあ、ラストナンバー迄しっかり着いておいでよ……ねっ!」
     歌うように紡がれた六六六人衆の宣言で、戦いは始まった。

    ●闇と共に
     飛び出した氷上・鈴音(終焉を告げる蒼穹の刃・d04638)を迎え撃つのは、夕凪・緋沙(暁の格闘家・d10912)の硬く握られた拳。
    「雷の一撃を、食らいなさい!」
     声と共に放たれた一撃は、以前も鈴音に避けられたものだ。
     あの時は、闇に堕ちた自身の力に驚き戸惑った初撃。
     だが今回はもう力に振り回されることはない。
     しっかりと自身のものにした緋沙の拳は、完全に鈴音の顎を捕えた。
     ふらりと揺れた鈴音が体勢を整える間もなく、その身を緑色の蔦が覆う。
     蔦を辿ると、ヴェールの下で刻野・晶(サウンドソルジャー・d02884)が微笑んでいた。
     さらに彩瑠・さくらえ(幾望桜・d02131)の足元で影が蠢くのを見た月村・アヅマ(風刃・d13869)は、すぐさま黒く染まった帯を伸ばして鈴音を守る。
     しかし影の刃は帯をするりと避け、鈴音ではなくアヅマを襲った。
     切り裂かれる黒いコートを横目に駆け出した桜井・夕月(もふもふ信者の暴走黒獣・d13800)は、九凰院・紅(揉め事処理屋・d02718)が振るう炎の刃がさくらえを刻む光景に微笑んで。
     本を閉じ蝋燭を掲げる妃・柚真(混沌使い・d33620)に異形巨大化した腕を振り下ろす。
     そこに寸前で緋沙が割って入るも、固めたガードの上から大きく殴り飛ばされて。
    「蝋燭の灯よ、力を分け与えよ」
     その間に煙を燻らせた柚真は、後衛たる晶の守りを固め、戦線を整えようと声を上げた。
     鈴音も、倒れてはいられないとターンクロスのチャームを揺らして床を蹴る。
     緋沙の死角へ回り込むと、スポーツウェアから伸びるしなやかな足を切り裂いた。
     とんとんっと軽く一旦下がった夕月は、その足元をふと見下ろして。
    「んん、戦うのにティンが隣にいないって変な感じだなぁ」
     今は自身の中で共に戦ってくれているであろう霊犬を思い、苦笑する。
    「そうね、なんだか不思議……かしら」
     呟きを聞き留めたのか、くすりと応えるのは晶。
     彼女の傍らにも、常に控える仮面のビハインドの姿はない。
    「楽しいではないけれど、面白くは、ある、かな?
     それぞれの、意外性を見られるのだから」
     だが晶はその喪失を感じさせることなく、柔らかな笑みを浮かべてその繊手を差し出し。
     呼応するように伸びた蔦に、冷気のつららが並走する。
     狙うは後衛、回復の要たるメディック。
     晶の微笑に、さくらえの構える槍に、アヅマはエネルギー障壁を展開。
     冷気が盾に砕け、美しい玻璃の如き輝きを見せる中、蔦が鋭く動き広がり、幾つもの鮮血の花を咲かせた。
    「……やっぱり闇堕ち同士でやりあうと滅茶苦茶派手になるなぁ」
     負傷に構わず、ははっ、と笑えば、肩越しにちらりとこちらを見る夕月の金色。
     だがそれ以上の心配は無用とばかりに、夕月はすぐに目を反らし。
     相手チームを見据えるその影が立ち上がると、蛇の尾を持つ虎を象った。
     虎は、主の不敵な笑みに応えるように柚真に向けて走り出す。
     庇いに入ろうと動く緋沙だが、させないとばかりにギターをかき鳴らす鈴音。
     衣装と揃いの真紅と漆黒のツートーンボディから激しい音波が生み出され、緋沙が堪える隙に影の虎は柚真に襲い掛かった。
    「ベルトよ、ボクを守って下さい」
     祈るような声に従い、柚真を帯が覆い隠す。
     獲物を奪われた虎は、蛇の尾をしならせながら不満そうに柚真を睨み据えたが。
     すっと手を掲げた夕月に従い、影に戻っていく。
     ほっとするも束の間、柚真を弾丸の爆炎が襲った。
     巨大なガトリングガンを構えた紅が、静かにその命中を見る。
     普段は両手で扱う重量だが、軽く片手で振り回せるのは、闇堕ちの為せる業か。
     その力に、そしてちらりと視界の端に写る黒髪に、紅はふと目を伏せた。
     ……元々、紅の髪は黒色だった。
     銅を思わせる色に染まったのは、灼滅者に覚醒してから。
     そういう意味では、今の姿が本来の『九凰院紅』と言えるだろう。
     けれども。
    (「この姿は仮初だ」)
     灼滅者として過ごした日々を思い返せば、答えは自ずと知れる。
     あの愛おしい手が撫でてくれたのも、銅髪なのだから。
     だから、惑うことはない。
     仮初のこの力を思う存分振るって見せようとまた銃口を構えれば。
     すたんっと隣に並び立った夕月も、でっかいガトリングガンを揃えて笑った。
     2重の連射はまた柚真へと向かう。
     互いに回復役を狙った動きだが、崩れるのは前に立つ柚真が先だった。
     ディフェンダーの緋沙が庇い続けるも、柚真の傷は着実に深く重なっていって。
    (「守りきれません、ね……」)
     大切な人を守るために集めた七不思議。
     それが詰まった本をぎゅっと抱えてから大きく開くと。
     傷だらけの中で柚真は笑う。
    「ボクの話が皆さんを助けますように」
     自らへではなく仲間へ向けて、癒しの物語を語りながら。
     柚真は鈴音の振り下ろしたスタンドマイクとその魔力に、倒れた。
     しかしその頃には、アヅマの傷も深まっていて。
     再び晶の歌がその身体を蝕む。
    「ディフェンダーの護衛つきと、メディックの回復量。
     メディックの勝ちではあったけど、勝ったところで終わらない、ってね」
     紅の銃が、夕月の虎が、鈴音のマイクが、相手を削ってくれてはいる。
     それでもアヅマに向かう攻撃が減ることはなく、徐々に追い詰められていって。
     ならば最後ぐらいはと、アヅマは炎の刃を握る。
     紅が前へ出る動きを見せ、緋沙を引き付ける間にさくらえへと迫れば。
     自然と隣に並ぶ、異形巨大化した鬼の腕。
    「やるねえ、夕月さん」
    「お褒めの言葉、どーも」
     いつかと同じ会話をいつかと違う意味合いで交わし笑い合い。
     膝をつくさくらえを見下ろしたアヅマを、深緑の蔦が捉えた。
     回復する間もなく、アヅマは笑みを浮かべたまま、倒れ伏す。
     そこに緋沙の腕時計から電子音が響いた。
    (「15分」)
     唯一意味を理解する緋沙は、その手に緋色の十字槍を握り締める。
    「シャルラッハロート・ローゼンクロイツよ、相手を穿て」
     ここからはもう攻撃しか考えない。
     赤い薔薇の飾りを揺らして、緋沙は槍を穿ち放った。
     紅が咄嗟に掲げたガトリングガンを深く抉り、その砲身を半分近く破壊する。
     わずかに眉を顰めた紅は、だが大きな動揺を見せずに銃口を向け。
     冷静にそのトリガを引けば、弾幕は防御ごと緋沙を吹き飛ばした。
     さくらえも負傷をおして立ち上がり、意図して笑みを浮かべる。
    (「それがキミだよね……サイ」)
     どこまでも不敵に、倒される直前まで余裕をもって。
     知り得る限りの『もう1人』をなぞるようにさくらえは叶鏡を構えた。
    (「罪は覚悟だ」)
     玻璃の槍を握る手は赤く血に染まり。
     過去の罪が消えることもない。
     これから歩む未来にも罪があるかもしれない。
     それでも。だからこそ。
    (「キミが背負おうとした罪と言う名の覚悟は、僕が背負うものだ」)
     直接会話ができない以上、その思いは本当の意味で知ることはできない。
     けれど『もう1人の自分』も間違いなく自分自身。
     それをひっくるめての自分だから。
    「……消えない罪はこの手の中に」
     人伝に聞いた言葉をふと呟いて、さくらえは冷気のつららを生み出す。
     罪を認め、闇を恐れず、望む未来へ突き進むために。
    (「そしてそれは、キミと共に進むものだから」)
     冷気は美しく煌めき、迷いなく撃ち放たれた。
    「まだまだっ!」
     しかしそれは夕月が振るう真っ黒い日本刀に打ち落とされ。
     柄に飾られた赤布が、玻璃の輝きの中で鮮やかに舞う。
     にやりと好戦的に笑うそこに、襲い掛かるは緑の蔦。
     赤と緑、そして黒い剣閃が混じり合う中に、夕月の鮮血も加わり。
     それが舞台演出に見えるように踊り出た鈴音が、マイクを振り雷を落とせば、蔦を撃ち焼き切り裂いて、晶を貫き轟いた。
     力が、思いが、それぞれにぶつかり合い。
     次は誰が倒れてもおかしくないような状況の中で。
     ……闇の時間は、終わりを迎えた。

    ●そして日常へ
     灼滅者としての姿に戻ると共に、負傷も回復していく。
     銅色に戻った短髪にそっと触れた紅は、部屋の隅へと歩み寄り。
     放っておいたモノトーンの上着を手にすると、ばさりと広げ、羽織る。
    「ふぅ……お疲れさん」
     その声は少しだけ優しくて、細めた緑瞳の光も柔らかいものだった。
    「途中で倒されてしまいました」
    「いえ、いい戦いでしたよ」
     申し訳なさそうに苦笑する柚真に、緋沙が笑顔で手を差し伸べる。
     くるりと回る夕月の足元でじゃれつくように走り回るティンを眺めて、アヅマは帽子の下で笑みを浮かべ。
     晶も傍らに立つ仮面に凛々しい微笑を見せてから、皆をぐるりと見回した。
    「この後、皆でお茶でもしない?」
    「ワタシはご飯食べにでもいいな」
     提案に、早速さくらえが賛同の手を挙げるけれども。
     それを制するように鈴音が手を広げた。
    「実は、もう用意してあるの」
     悪戯っぽい笑みと共に告げたのは、かき氷パーティーへのお誘い。
     イチゴにメロン、レモン、甘露等のシロップは手作りで。
     練乳からフローズンフルーツまで、トッピングもばっちり。
    「美味しいスイーツなら大歓迎です!」
    「コーヒーシロップもある?」
     目を輝かせる緋沙や、興味津々なさくらえに、他の皆も続いて。
     それぞれの好みを話したりしてわいわい盛り上がっていく。
    「良かったらまりんちゃんにも声かけましょ」
     言いながら鈴音は、用意した部屋への案内を始めた。
     夏らしい慰労会だと、紅も後を追い教室の出口へと向かうが。
     ふと、晶が足を止めているのに気付く。
     その金瞳は、教室の中を見ているようであり。
     そこで今終えた戦いを見返しているようであり。
     その先の何かを見ているようでも……。
    「……後どれぐらい戦えば、収まるのかしら?」
     ぽつり零れた呟きに、答える術を紅は持たず。
     無言のままただ見ていることしかできない中で。
    「刻野さーん、九凰院さーん。置いてかれちゃうよー?」
     さくらえの楽しそうな声に2人は顔を見合わせると。
     静かに教室を後にした。

    作者:佐和 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年8月15日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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