闇堕ちライブハウス~己を解放せよ

    作者:九連夜

    「暑い中、わざわざお集まりいただきありがとうございます」
     五十嵐・姫子(大学生エクスブレイン・dn0001)はほんのりした笑みを浮かべて、教室に集まった灼滅者たちに一礼した。
    「サイキックハーツ大戦での大勝利からしばらくたちましたが、サイキックアブソーバーの不調がまだ続いています。すでにお聞き及びの方も多いと思いますが……」
     戦争における灼滅者たちの勝利のために本来の性能を大きく超えた力を発揮した超機械は、その際の過負荷によって暴走寸前の状態が続いている。
    「皆様のご協力によってかなりのエネルギーが消費され、安定状態に近づきつつはありますが、残念ながらまだ足りません。引き続きその消費と発散をお願いします。簡単に言えば特殊な『闇堕ち状態』で戦闘を行っていただきます」
     アブソーバーの制御下で行う擬似的な闇堕ち状態での戦闘は、そのパワーレベルが通常よりも格段に高いだけに多くのサイキックエナジーを消費する。「戦闘不能になるか戦闘開始後18分間の経過」の条件で自動的に解除され、灼滅者としての意識もそのままで闇人格に乗っ取られることもない。言ってみれば特撮ヒーローもの、戦うヒロインものの「変身」的な感じだろうか。闇堕ちの内容によってはむしろ怪人のほうかも知れないが。
     ただし、と姫子は付け加えた。
    「全力で激戦を繰り広げることが重要で、お互いに手加減したり、あるいは開始早々に決着がついてしまったりするとエネルギーの消費量が落ちます」
     だから全員参加のバトルロイヤルではなく、同数二組に分けてのチーム戦を行うこと。全力でかつ長く戦い続けられるように、実力を均等に配分するかそれに代わる何らかの手段を採用すること。
     それらの注意点を挙げると、姫子は灼滅者たちの顔を順番に見回した。
    「私から言うのも何ですが、いい機会なので心身共にいろいろ解放して大暴れすることをお勧めします。これまでに行われた戦いでも、自分の趣味に走っている人ほど楽しそうで、生き生きしていました」
     闇堕ちにはその人が心の奥底に秘めた本性の顕在化という側面がある。姿形だけとはいえそれを表面に出すことは、言わば飾りを取り払った真の自分の姿を周囲にさらすことでもある。ならば今更自分を抑える必要もない。お互いが一切他人を憚らずに己の流儀で好き放題にやったほうが、サイキックエナジーのより多くの消費にもつながるというものだ。
     そんな感じのことを口にすると、姫子はどこか楽しそうに説明を締めくくった。
    「制限時間いっぱいの戦いを目指す工夫さえ事前にしていただければ、あとは結果がどうあれ思い切りやっていただいて構いません。私たちエクスブレインも結構おもしろがって……いえ、報告を楽しみにしていますので、どうか頑張ってきてください」


    参加者
    神虎・闇沙耶(罪と誓いを背負う獣鬼・d01766)
    聖刀・凛凛虎(小さな世界の不死身の暴君・d02654)
    刻野・晶(サウンドソルジャー・d02884)
    皇・銀静(陰月・d03673)
    赤松・鶉(蒼き猛禽・d11006)
    ローゼマリー・ランケ(ヴァイスティガー・d15114)
    枸橘・水織(あくまでも優等生な魔法使い・d18615)
    オリヴィア・ローゼンタール(蹴撃のクルースニク・d37448)

    ■リプレイ

    「……は……始まった……」
     膨大なエナジーが体に流れ込み、体が造り変えられていく感覚に、枸橘・水織(あくまでも優等生な魔法使い・d18615)はわずかに身を震わせた。背を突き破るようにして蝙蝠の羽根が生えお尻には棘付きの尻尾、耳はいわゆるエルフ耳に。力に満ちたソロモンの悪魔への変身に恍惚として尻尾を揺らしつつも、水織はどこか醒めた眼で周囲を観察していた。何しろ二回目の経験なのだ。
    「闇堕ちの人格が、どうしてこの姿をとったのか、いろいろ考えるわね」
     思案下な表情の刻野・晶(サウンドソルジャー・d02884)の姿は凜々しさを感じさせる普段とは大きく異なり、どこか西欧の神殿の巫女を思わせる柔和なものだ。淡い紫色の髪の間に見える山羊めいた巻き角が、淫魔としての本性を示している。
    「皆の姿も、不思議ではあるけれど……」
    「モウ一度、大炎ヲ」
     晶の言葉をに意に介さず唸り声を上げたのは神虎・闇沙耶(罪と誓いを背負う獣鬼・d01766)。炎を纏う禍々しい西洋甲冑にマント、顔の部分は仮面ではない虎そのもの。彼はぐるりと首を回して異形に変じた仲間たちを一瞥した。誰が味方で誰が敵かを値踏みをする視線だった。
    「私は都合三度目の闇堕ちライブハウスです。今回は凛凛虎さんもいらっしゃいますし」
     闇に堕ちても普段と変わらぬ修道服姿、ただその手足に普段に数倍する炎と稲妻を纏わせたオリヴィア・ローゼンタール(蹴撃のクルースニク・d37448)が牙の生えた笑顔を傍らの男に向けた。
    「私の力がどこまで通じるのか、胸を借りるつもりで挑戦させていただきます」
    「へえ」
     聖刀・凛凛虎(小さな世界の不死身の暴君・d02654)は軽く応じる。こちらも普段と同様の姿ながら、背には己の分身たる巨大化した梟を背負い、髪色はいつもとは反転した青地に赤の一房のメッシュだ。
    「オリヴィア、先に聞いておくぜ。俺を殺しきれる乙女か?」
    「ご期待に添えるよう努力しますね」
     飄々とした感じの受け答えをする二人の横では、別の男女が無言で互いのことを見つめていた。共に普段通りの姿ながら、それぞれの魂の色を示すような黒赤と黄金の強大なオーラを発しているのは皇・銀静(陰月・d03673)と赤松・鶉(蒼き猛禽・d11006)。挑発的な暗い笑みを浮かべた銀静が何かを言いかけ、途中で止めた。鶉が無言のまま握った拳を胸の前に構える。語るのはこれで、という風に。
     そんな光景を見つつ晶が告げた。
    「チーム分け、二組は決まりですね。他に希望は……」
    「煩い猫と白黒付けるのも一興だな」
    「貴様ハ暴レ猫。灸ヲ据エル必要ガアルナ」
     凛凛虎と闇沙耶が即座に答える。
    「了解。それなら神虎さんと赤松さん、ローゼンタールさんが私の側で」
    「みおと聖刀さんと皇さんが一緒?」
     小首をかしげた水織が確認する。
    「それなら私もこちらですわね。制限時間いっぱい戦える様にしなければなりませんし」
     ローゼマリー・ランケ(ヴァイスティガー・d15114)の姿は水織の側に歩み寄ると同時に急速に変化した。肉付き豊かな格闘娘から軍服めいた装束を纏う痩身の少女の姿へ、背後に控える女性型の眷属も一瞬宙に溶けたとみるや闇色の虎へと再構成される。少女はくるりと振り返ると虎の背に軽く手を置き、挑発的に声を上げた。
    「では改めて名乗りましょう。アンブレイカブル・ロミィと眷属ベル! あなた達の強さ、存分に味わわせていただくわ」
    「挑戦、お受けします」
     オリヴィアが穏やかに応じる。微笑を浮かべた晶が続けた。
    「演目は闇堕ちのコロシアム。それでは開演と参りましょう」
     そのまま闇堕ちのパワーに振り回されることもなく全員が自然に、一斉に動き出し。「経験者」たちの闘いが始まった。

    ●緒戦
     真っ先に激突したのはローゼマリーと闇沙耶だった。暴力そのものの闇沙耶の大剣をローゼマリーの槍が鋭く弾き、周囲に火花を撒き散らす。その傍らで閃光が弾けた。金属同士をぶつけ合ったような重い音は、鶉と銀静の拳の激突によるものだ。
    「えい!」
     水織の手の中にぴょこんとフラスコが現れた。キラキラ輝く液体で満たされたそれは、水織の手から投じられると空中でこぼれて半透明の魔獣に変じた。ベルに食らいつこうとした直前に晶の手から伸びた緑色の蔦に絡め取られ、パシュンと音を立てて消滅する。
    「総てを殺しきる前に来い!」
     嬉々として叫んだのは凛凛虎。強烈なアッパーカットがオリヴィアの喉へ。かわせぬと見たオリヴィアは骨を揺する衝撃に耐えつつ一歩踏み込み。
    「ふっ!」
     鋭い吐気と共にコークスクリュー・ブローを凛凛虎の顎先に叩き込んだ。さらに鶉の回し蹴りと銀静の斬撃が交錯し、頭数を減らすべくベルに集中した晶の魔声と闇沙耶の炎剣をローゼマリーが傷を負いつつも受け止める。水織の試験管から広がった蒸気は闇沙耶の身体を覆い動きを封じ、オリヴィアの跳び蹴りとそれを掴まえようと伸びた凛凛虎の手は、お互いを弾くにとどまった。
     防御より治癒よりも、ただ眼前の敵を打ち砕くこと。そのような激しい闘いがさらに続けられ、そして。

    ●決着1:凛凛虎とオリヴィア
     パン、と互いが互いの拳をはたき落とす音が響いた。オリヴィアの銀の髪が翻りそれを凛凛虎の赤い髪が追ったとみるや、次の瞬間には互いの位置が入れ替わっている。
     いずれも己の肉体を最大の武器とする近接攻撃タイプ、伸ばした手が届くぐらいの間合いを中心にめまぐるしく動き回り、牽制を交えつつ強烈な攻撃を打ち込み合う熾烈な戦いは、時と共に互いの身体にダメージを蓄積し続けていた。
    「どうした? これで終りか?」
     大きく飛び下がってオリヴィアの回し蹴りを避けた凛凛虎が、斬艦刀を軽く振って挑発する。
    「流石ですね」
     オリヴィアは落ち着いて答えた。だが実のところすでに余裕はない。本来はさほど大きくはない凛凛虎との力量の差は、一対一という限定条件においては越えがたい壁と化しつつあった。
    (「とはいえ、負けるのは趣味ではありませんし」)
     頬に流れる血涙を拭き取る仕草をしながらここまでの戦いを思い返し、オリヴィアは勝利への「可能性」を計算した。
    「小さいがあり」
     と出た。彼女は笑顔を浮かべてみせた。
    「でもまだ出し物はありますので」
    「へえ。そいつは楽し」
     凛凛虎が言い終えるのを待たずオリヴィアは仕掛けた。突進から見せ技のショートフック。斬艦刀で防がれたところへ即座に身体を沈めての足払い。これをかわされ、伸びてきたアッパーを身体を反らしてかわすところまでは計算通り。
    (「それでは……」)
     急にガクンと左膝を曲げてしゃがみ込んだ。右足にサイキックの輝きを宿す。
    「ふっ!」
     助走無しで跳んだ。真下から真上へ、流星の煌めきを宿した蹴りが噴水のように吹き上がり凛凛虎の顎を狙う。
    「おっ」
     奇襲攻撃を紙一重で凛凛虎はかわし、即座に反撃の一刀を送ろうとしかけて、獣の本能で大きく首を傾けた。直後、直前まで頭があった位置から首の付け根にかけて、振り下ろされたオリヴィアの踵が――斬艦刀に匹敵する凄まじく重い一撃が炸裂した。
     跳び蹴りはフェイント、そのまま上空に飛び上がって振り下ろす踵落としが本命。完全に凛凛虎の虚を突きサイキックの最大限度の打撃を与えればなんとか勝利をもぎ取れる。そう計算しての攻撃だったが。
    「!?」
     オリヴィアは左足だけで着地した。斬艦刀を放り出した凛凛虎の両手が彼女の右足首を左右から掴み止めていた。凛凛虎は真正面からオリヴィアを見据えて宣言した。
    「俺の最大の武器は硬い『拳』じゃねぇ。『握力』だ!!」
     身体を反転させ、娘の足全体を強引にたぐり寄せて背負う。投げた。
    「!!」
     回避も受け身もできぬまま、凛凛虎の肩を越えて大きく振り回された娘の全身は、容赦なく顔面から床に叩きつけられて。
    「俺を殺しきれるのは乙女だけだ」
     過去の何かに想いを馳せるような凛凛虎の言葉が響くなか、オリヴィアの手足に纏わり付いていた炎と雷の気がふっと消えた。

    ●決着2:鶉と銀静
     鶉と銀静。互いに縁の浅からぬ二人の間に言葉はなかった。
     銀静が斬り、打ち、投げる。
     鶉が打ち、蹴り、砕く。
     二人は周囲に誰もおらぬがごとく、互いの姿だけを見て闘い続けていた。だが闇堕ち状態とはいえ限界は訪れる。闘いの開始を再現するがごとく互いが繰り出した拳が正面から激突し、同時に飛び離れた二人は荒い息をつきながら互いの顔を見つめた。激しい闘いを経てなお淡い金色に輝き揺れる鶉の髪を見ながら、銀静が初めて口を開いた。
    「まさに蒼穹の太陽の如き眩しさだ」
     握りしめた拳を顔の前に立てつつ、己の想いを吐き出す。
    「だが終わらせるものか。全てをぶつけ! 全てを食らい! 勝つ!」
    「どうぞ。受けきり、そして勝ってみせます」
     鶉は澄んだ声で答えた。拳を握った両手を、翼のように広げて構えた。
    「蒼き猛禽は、何度でも羽ばたいてみせます!」
     そして再び沈黙が落ちる。次がおそらくは最後の攻防、そう思い定めた二人は同時に動いた。繰り出したのは共に右の拳。三度目の拳の激突のあと、銀静は反動に耐えてなおも突進。水平に薙ぎ払われた一刀を鶉は拳を振るって叩き落し、そのまま銀静の間合いに無造作に踏み込んだ。左フックで一撃、と見せてゆっくり両手を伸ばして真正面から組み付いた。腰を落とすと右手を銀静の頭に巻いて押し下げ、その横、相手の肩の下に自身の頭も差し込んだ。
    「何を……」
     物理的な技は灼滅者にダメージを与えない。そして現時点で鶉に投げのサイキックは無い。それを知る銀静の戸惑いの声に構わず。
    「ハッ!」
     鶉は気合いと共に自身の膂力だけで彼の身体を持ち上げ、大きく跳ね上げた。
     投げっぱなしのブレーンバスター。
     後方上空に投げ上げられた銀静の身体を追って鶉は一瞬で反転、片翼を広げるように右の拳を振り上げた。同時に叫んだ。
    「ブルーバード……」
    「地に墜とす!」
     熱い言葉を決意の宣告が遮った。投げられた己の身体が頭から真っ逆さまに落ちゆくその状態のまま、銀静は渾身の力を込めて斬艦刀を「振り下ろした」。斜め下から跳ね上がった刃が、突進中の鶉の首筋に完璧なタイミングでめり込んだ。
    「……っっ!!」
     鶉の膝が落ちかかる。地面に崩れる寸前で跳ね上がった。吠えた。
    「ドライバーッッ!!」
    「ガン」でも「ダン」でもなく「ぐしゃ」だった。一刀を振り切った態勢の銀静の喉に、全体重とサイキックを載せた叩き降ろしの拳がめり込んだ。そのまま銀静の頭蓋は床に激突、拳と地面に挟まれた首を中心に身体がくの字に曲がり、跳ね上がったその身体はもう一度人形のように宙に舞ってから床に落ちた。横で戦っていたローゼマリーが思わず振り向いたほどの凄絶な決着だった。
    「っ、は。はは、は」
     流石に力を出し尽くしたか肩で息をする鶉の前で、完全に力の抜けた手足を大の字に広げた銀静は咳き込みながら小さく笑った。その頬を当人しか意味を知らぬ涙が伝い落ちた。

    ●完全決着:ただ一人の勝者
     ローゼマリー&ベルと闇沙耶がそれぞれ前衛を堅く維持し、水織と晶がその背後から攻撃と治癒を担当する。そんな形で膠着していた四人と一体の闘いを動かしたのは凛凛虎の乱入だった。
    「愉しいパーティーだ、全力で殺し愛おうや!!」
     難敵を下した勢いのまま戦場に躍り込んだ凛凛虎の拳が闇沙耶の頬にめり込んだ。
    「!」
     虎の面を歪めた闇沙耶は、しかし逆に冷静さを取り戻したか、理性の眼で乱入者を睨み付けた。
    「貴様を止めるのは、俺の役目だ」
    「はっ! できるもの……」
    「お邪魔いたしますわ」
     男二人の遣り取りにローゼマリーが割り込み、容赦の無い槍の一撃が闇沙耶に打ち込まれる。
     均衡が崩れた。さらに水織とベルの攻撃も加わり、闇沙耶が晶の治癒を受けつつ堪え忍ぶなか、銀静との死闘を越えた鶉が魔鳥のように来襲した。炎を宿した蹴撃がローゼマリーに迫り、とっさに割って入ったベルの胴体に深々と食い込む。一瞬で消滅した。
    「やってくれましたわね! 今の私の一撃、受けてごらんなさい!」
    「くっ!」
     お返しにと軍服少女が槍を振るい、鶉はよろめいた。凛凛虎の暴れっぷりを見かね、自身の治癒もそこそこに戦線に戻った彼女に余裕はなかった、が。
    「猛禽の終撃、ご覧あれ!」
     昂然と顔を上げた鶉の左右の拳が、闇沙耶に止めを刺そうとした凛凛虎の動きを止め、即座に続いた闇沙耶の唐竹割りの一刀で彼はその場に叩き伏せられた。同時にきらきらしたものが鶉を覆った。水織が投じた試験管から生まれた魔力の霧だった。黄金色のオーラを吸い取られるようにして鶉もついに膝を突く。
     乱入者が消え、元の2対2。しかし状態は元のままではなかった。闇沙耶が両手の二刀を掲げた。
    「猛虎の爪、牙を受け止めてみよ!」
     ここに至ってはジリ貧よりも逆転に賭ける。そう思い定めた彼の斬艦刀とナイフの強烈な連撃が有無を言わさずローゼマリーを切り刻んだ。
    「……」
     苦痛に耐えながら、彼女はタイミングを計った。二刀の猛撃の中、煌めく槍が逆しまに流れた。
    「!」
     軍服少女が伸ばした槍の穂先は正確に獣の喉頸を貫いた。たまらずその場に倒れ伏した闇沙耶の背を見つめ、ローゼマリーは荒い息をついた。
    「あとひと……」
     言い終えることはできなかった。葬送を告げる挨拶のように、晶が手にした百合の花を一振りする。そこから広がった強烈な霊撃を受けて、少女はその場に仰向けに倒れて元の娘の姿に戻る。
     残ったのは娘二人。
    「これで閉幕です」
     晶が微笑んだ。薄紫の長い髪を揺らし、百合の花を高々と掲げた。白い花弁は見る間に巨大化して人を越える大きさとなり、獲物を喰らう怪魚のように一気に水織を包み込んだ。
     勝負ありと誰もが思ったその瞬間。びり、と布を裂くような音が響いた。棘のついた尾が花弁から突き出していた。続いて別の場所から腕も。五本の指の間には、それこそ魔法のように色とりどりの液体の入った試験管。
    「えいっ!」
     微かな声と共に、振られた手から一気に試験管が飛んだ。合わせて5本、まるで晶を取り囲むかのように。
    「!」
     本能的な危険を感じた晶は即座に跳び下がったが、床で砕けた試験管から漏れ出たサイキックエナジーは互いに連携して鮮やかな五芒星を描き出した。直後にその中央に顕現した半透明の竜めいた魔物は、一声吠えると晶を追ってその首筋に食らいつき。
    「えい!」
     花弁を突き破って水織が再びその小悪魔めいた姿を現したのと、元の姿に戻った晶がゆっくり片膝をついたのがほぼ同時だった。
    「勝ちました!」
     逆棘付きの尾を嬉しげにぴょこぴょこ揺らしながら、水織は起き上がってきた仲間たち――ローゼマリーと凛凛虎、銀静に向かって小さくガッツポーズをとってみせた。

     勝者、枸橘・水織。戦闘時間、16分53秒。

    作者:九連夜 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年8月29日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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