魅力的になりすぎた女の子

    作者:飛翔優

    ●恋を失くした少女
     大好きだから、尽くしてきた。
     恋してからずっと、結ばれてからも毎日。
     彼の笑顔が見たいから、彼に喜んでもらいたかったから。
     ……心の声も、そうするのが良いと言ってくれたから。
     ――別れよう。
     最高の一日になるはずだったデートの日、駅の前で切りだされた冷たい言葉。あてもなく歩き続ける今でさえ、頭の中を巡っている。
     ――君はすごい、どんどん綺麗に、どんどんかっこよくなってる。
     当然だ。メイクも料理も、馬鹿な女を彼女にしていると思われないよう勉強だって頑張った。貴方の自慢になるようになんでもしてきた。
     ――でも、僕はそうじゃない。君に、僕は似合わない。
     何を言っているのか分からなかった。分かりたくなかった。
     ――ごめんね……それじゃ……。
     動くこともできなかった。ただ、立ち去っていく彼を見送ることしかできなかった。
     今はもう、見覚えのない街で一人きり、あてもなくさまよい続けている。
     だからだろう。心の声が囁いた。もっと、もっと美しくなれと。もっと過激に彼を落としてしまうといいと。
     ……更なる魅力があれば、魅力で塗りつぶしてしまったなら、きっと繋ぎ止める事ができたはずだから……。

    ●放課後の教室にて
     闇堕ちし、ダークネス・淫魔と化そうとしている少女がいる。倉科・葉月(高校生エクスブレイン・dn0020)はそう前置きし、説明を開始した。
     通常、闇堕ちしたならばすぐさまダークネスとしての意識を持ち、人間の意識はかき消える。しかし、明菜は元の人間としての意識を残しており、ダークネスの力を持ちながらもなりきっていない状況なのだ。
    「もしも、彼女が灼滅者の素養を持つのであれば、救い出してきてください。しかし、完全なダークネスになってしまうようであれば……」
     灼滅による救済を。
    「それでは、今回闇堕ちしてようとしている少女、崎森明菜さんについて説明しますね」
     崎森明菜、東京都北多摩郡の高校に通う一年生。一つの事に熱中すると周りの事が見えなくなる頑張り屋の女の子。今は、高校に入ってからできた彼氏のために、少しでも喜んで欲しいとメイクなり服なりスタイルなり……そんな事を頑張っていた。
     しかし……。
    「より美しく、より素晴らしく成長していく明菜さんが眩過ぎたのでしょう。気後れするようになってしまったのでしょう。皆様が赴く日、明菜さんは彼氏に振られてしまいます」
     曰く、自分では吊り合わない。もっとふさわしい人が見つかるから……。
    「……その後、明菜さんは心の中からこみ上げてくる衝動と向き合いながら、裏路地をさまよっていくことになります。皆さんは、このさまよっている明菜さんと接触することになります」
     接触したなら、まずは説得を。明菜が完全な淫魔と化してしまわぬように。
    「内容はお任せします。多分、恋に関することで説得できれば良いのだとは思いますが……」
     そして、説得の成功失敗に関わらず、淫魔は顕現する。救い出すにせよ、灼滅するにせよ、これを打ち倒す必要がある。
     得物はメイク道具。力量は八人で戦えば十分に倒せる程度。
     注意しなければならない行動は、相手にメイクを施すことによって催眠状態へと陥らせるメイクアップ。周囲に居るものを捕縛し締め上げる艶やかな髪、の二つ。
    「以上が今回の説明になります」
     メモを閉じるとともに、葉月は一度息を吐く。灼滅者たちへと向き直り、締めくくりの言葉を紡いでいく。
    「明菜さんはきっと、少し頑張りすぎただけの女の子。まだまだ未来があるはずです。ですから、これからも人生を歩いていけるように……どうか、よろしくお願いします。そして、皆さんちゃんと無事に帰ってきてくださいね、約束ですよ?」


    参加者
    香祭・悠花(ファルセット・d01386)
    裏方・クロエ(魔装者・d02109)
    刻野・晶(高校生サウンドソルジャー・d02884)
    大祓凶神・乙女(剣の花嫁・d05608)
    君山・雪姫(白にして白亜の雪姫・d06219)
    月原・煌介(白砂月炎・d07908)
    加瀬・玲司(月鏡で遊ぶ銀狐・d09974)
    唯川・みえ子(心のままに・d10646)

    ■リプレイ

    ●惑わされし少女は彷徨い
     影の差し始める冬の昼下がり。ビル風が冷たく吹き荒ぶ裏通りを、崎森明菜は彷徨っていた。
     虚ろな瞳に光はなく、足取りにも力はない。
     守らなければならない。救わなくてはならない。
     仲間が準備を整える傍ら物陰に隠れて見守っていた月原・煌介(白砂月炎・d07908)が、小さな合図とともに飛び出した。
     明菜の進路を塞ぐ形で回り込み、元気に手を振っていく。
    「……何?」
    「ちわっす、明菜。君を助けに来て、仲間になりたい奴らっす」
     顔を上げた明菜は、訝しげに目を細めた。
    「どうして、私の名前を」
    「え、あ、そいつは……」
     言い淀んでいる内に、明菜が一歩後ずさる。
     煌介を含め、彼らはなかなか返事を返せない。自然に接触するための最初の言葉を用意してきた者はおらず、考えている間にも、二歩、三歩と明菜との距離が離れていく。
     五歩……と言う距離まで下がった後、煌介が大仰に顔を覆い首を振る。強く拳を握った後、改めて頭を下げていく。
    「ごめん、先走ったっす。俺らは――」
     改めて名乗りを上げ、名前は友人に聞いたと偽った。改めて、救いに来たとも伝え……。
    「……いらない」
    「え?」
    「いらない、そんなの。ほっといて!」
     髪を振り乱して紡がれしは涙混じりの拒絶。
     構わず煌介は伝えていく。
     頑張ったと。無理せず、温もりを感じて自然と変わっていく程度で良かったのだと。己も恋していると、暖かい思いを抱いていると。
     優しく目を細め、温もりを感じたことがあるはずだと。それを思い出して、闇を払って、彼と自分自身を開放してやる時だと。
     誰かが君を待っていると、まっすぐに手を差し出した。
     掴み返される事はない。俯いたまま、言葉を紡ぐこともない。
    「……輝きたかった理由は、彼を好きになった気持ちは偽物ですか?」
     だから役者をバトンタッチ。香祭・悠花(ファルセット・d01386)が歩み出て、下から覗き込むように話しかける。
     明菜の耳がぴくりと動き、ギリッ、と歯を軋ませるような音がした。
    「そんなはずない。そんなはずないじゃない! 偽物だったんなら、こんなに……」
    「そうですよね。だったら……あなたは、少し頑張りすぎただけ。心の声に……ダークネスに惑わされて」
    「っ!」
     はっと顔を上げた明菜の瞳は、驚きに見開かれていた。
    「どうして……それを……」
    「惑わされないで。メイクは自分を綺麗に見せる為ではなく、自分を含めた周りを輝かせる為のものなのだから……」
     意識を此方側へと向けさせて、悠花は唯川・みえ子(心のままに・d10646)にバトンを渡す。
     みえ子は静かに前へと歩み出て、優しい声音で語りかける。
    「明菜さん、貴女は素晴らしい女性ですわ。相思相愛という立場に甘えずできる限りのことをなさっていたんですもの」
     話を聞き、抱いた怒りを露わにすることは決してなく。
     明菜を優しく諭すように。
    「それを、相手の甘えた言い分で終わらせてしまうなんてあまりに口惜しい。しっかり自分の言葉も伝えて、お互い納得の行くように話をつけるべきです」
     彼氏に関する事柄には怒気を込め、口元には笑みを浮かべたまま。
     一度言葉を切り黙したなら、明菜の唇が震え出す。何かを振り切るように首を振り、言葉を紡ぎ始めていく。
    「無理……だよ。……私……うん、無理」
    「そんな大事な局面をよりにもよってダークネスなんかに任せてどうしますの!? 今までの努力が台無しもいいところですわ」
     ダークネスに唆されているような気配を感じ取り、みえ子はきつく叱りつけた。
     口をつぐんだ明菜は瞳に大粒の涙を溜めた後、せきを切ったように怒鳴りだす。
    「だったら……だったらどうすればよかったのよ! 頑張って綺麗になって、頑張って賢くなって、頑張って色々覚えて……けど、彼には届かなくて……」
     すぐに言葉が尽きたのだろう。明菜は沈黙し、俯いた。
     風の音だけが聞こえる静寂が駆け抜けた。
     三十秒ほどの時を経て、大祓凶神・乙女(剣の花嫁・d05608)がポツリと語りだす。
    「……恋……よくわからないのですね。でも素敵なものだと思うなのです、貴女の頑張りも、好きという気持ちも」
     色恋沙汰は未知のもの。興味のほうが大きく、それ故伝えられることもある。
    「だから最初の気持ちを思い出してほしいのですね、良かったことを思い描いて下さい」
    「……最初の、気持ち……」
     返事を返した明菜の手が、胸へとあてられていく。
     乙女は力強く頷いた。
    「そうしてくれたら、私たちが、またその気持ちに逢える様、助け出してあげるですことよ!」
     力強く笑ったなら、弱々しくとも頷いてくれた気がして……。

    ●路地裏にて答えに至る
    「しかし、だ」
     長い静寂の果て、刻野・晶(高校生サウンドソルジャー・d02884)が口を開いた。
     強い光を湛えるようになった瞳を向けられて、真剣な眼差しで見つめ返していく。
    「努力は認めよう、よく頑張った。だが、完璧はよくない」
    「完璧は、よくない?」
     要領を得ない様子の明菜に対し、晶は力強く頷き返す。
    「彼に頼る弱さも、彼が一緒に居た時に息が抜ける雰囲気を作るのも大事だ。彼だけに見せる、隙を作っておけばよかったんじゃないかな?」
    「恋は一人でするものではないのだしね」
     教えを授けるような言の葉に、裏方・クロエ(魔装者・d02109)が乗っかった。
     畳み掛けるようなアドバイスに、明菜は首を傾げていく。
    「……それは、どういう?」
    「相手との協調が必要なのだよ。自分に磨きを掛けるのは女の子として凄く大切。でも、ちゃんと相手を見ながらしないと独り善がりなのだ」
     お説教のような言葉だけれど、明菜に大きな動揺は見られない。ただ、小さく頷いて、次の言葉を待っている。
    「ねえ、本当に好きな相手だった? 相手を好きになる自分が好きだったんじゃない? もし違うなら彼氏さんの気持ちを訪ねてみよーよ」
     力強い笑顔とともに締めくくり、明菜の様子を観察する。
     明菜は反芻するように言葉を繰り返した後、ゆっくりをまぶたを開いていく。
    「私は……」
     瞳は揺れていた。涙に濡れていた。
     拳は力強く握られていた。動作にもキレが戻っていた。
     答えは既に得たのだろう。盲目だった恋心が完全な形で開かれたのだろう。
     加瀬・玲司(月鏡で遊ぶ銀狐・d09974)が小さく頷き返し、それ以上は言わなくても良いと告げていく。意識を向けてくれた明菜に対し、優しく微笑みかけていく。
    「ま、彼氏さんに受け止めきれる器量が無かったのもまた違いなし。それでも、この世界に居る男が皆貴女を振った男と同じではありません」
     語り口調は冗談めかして、少しでも心が軽くなるように。
    「貴女は美しい。特に、盲信していたとしても好きな人の為にたゆまぬ努力をしたその姿勢。その内面の美しさがあれば、もっと貴女にふさわしい方が見つかりますよ」
     言葉の締めにはウインク一つ。
     自然と、笑顔が零れた。泣いていた少女の瞳から。
    「ありがっ!?」
     言葉の半ばで瞳が大きく身開かれ、胸を抑えてうずくまる。
     即座に悠化が動き出し、声高らかに響かせた。
    「It'sショータイムっ」
    「吹雪よ、我の手に集いその力を示せ!」
     君山・雪姫(白にして白亜の雪姫・d06219)もまた力を解放し、白雪を迸らせる槍を掴みとる。
     瞬く間に構えをとった時、明菜が片目を抑えながら身を起こした。
    「……はっ」
     否。それは既に明菜ではない。彼女の内より蝕み続けていたダークネス、淫魔。
    「何が完璧はダメよ、何が隙があった方が、よ。より完璧に、より美しく、男が放っておかない魅力こそが必要なのよ!」
     虚空より生じしメイク道具を手中に収め、淫魔もまた身構える。
     両者の準備が揃った時、戦いの始まりを告げるかのように、ビル風が大きくいなないた。

     風に負けぬよう、寒さなど吹き飛ぶように、晶は歌う高らかに。
     淫魔の内にて抗う菜月を引き出すため、ダークネスの力を削るため。
    「完璧すぎては、男は怖がる。二人だけになったとき、彼が息を抜ける雰囲気を作れたかい?」
     歌詞には問いを織り交ぜて。
     間奏も加え、反論する隙をも生み出して。
    「何を言っているのかわからないわ。完璧な美しさ、完璧な魅力さえあれば、男なんていくらでもついてくる!」
     言葉はおおよそ予想できたもの。この意志が、菜月を蝕み続けていたのだろう。
    「ねえ、貴女は彼のことをどれだけ知ろうとしたの?」
     囁くように声を震わせて、心にも届くよう響かせる。今度は間奏を作ることはなく、一気に歌いあげていく。
    「本当に相手が好きなら、まず相手の事を知る努力が先ではないか?」
    「ウルサイわね……!」
     反論の言葉が尽きたのか、淫魔は他者の攻撃をかわしながら肩を震わせることしかできていない。
     心にも届いているのだと確信し、晶は高らかなる音色を紡いでいく。
    「さぁ、天上の調べを送ってあげる。刈り取るよ、ダークネスのその力。仮面、あの化粧道具を弾いて」
    「くっ!」
     歌声とともに命じられ、ビハインドの仮面が得物を振り上げ襲いかかった。淫魔も即座に反応したけれど、受け止めることしかできていない。
     すかさずクロエがトリガーを引き、ガトリングガンを連射した。
    「夢はでっかく世界二分の一はーれむ計画。愛してみせるぜボクは。ダークネスみたいな、ちっぽけな野望とは違ってね」
    「この……」
     不可避の方角から襲われて、淫魔は弾丸を浴びながらも後退する。
     顔をしかめながらも跳躍し、悠花の正面へと回り込んだ。
    「さあ、アンタをもっと綺麗に、完璧にしてあげるよ!」
    「っ!」
     顔を覆う間もなく襲われて、周囲をも輝かせるために施していたメイクが自分だけを煌めかせるものへと変わっていく。
     軽く視界がぼやけたけれど、剣を地面に差して体を支えた。
    「メイクは……そんな風に使うものじゃありません!」
     高らかに咆哮し、メイクも意思も吹き飛ばす。引きぬいた剣を横に構え、淫魔を隙なく牽制する。
    「はっ。メイクってのはね、自分をより良く美しく、人を魅了するために施すものだよ!」
    「違うと断言はできる」
     反論する淫魔の正面に、煌介が回り込んだ。
    「恋は楽しいだけじゃない。それでも、闇に堕ちる為の物じゃない」
     鋭い眼光で瞳を射抜き、それ以上の言葉を許さない。
     避ける事も許さず斬りつけて、今まで仲間たちが築いて来た力を増幅させていく。
    「くっ、だったら……」
     追撃からも眼光からも逃れるように退いた淫魔が辿り着いたのは影を操る玲司の下。
    「男にも、メイクを」
    「っと、俺、顔には自信ありますからー」
     軽い言葉とは裏腹に、玲司は重い一撃にてメイク道具を弾き上げる。
     開いたボディを司りし影にて縛り付け、自由な動きを封じていく。
     淫魔を倒し、菜月を救う。その為の軌跡を辿るために……!

    ●さあ、未来への一歩を踏み出そう
     炎から逃れるように振り乱された髪の毛が前線で戦っていた者たちを拘束し、その肢体を傷つけた。
     故に、みえ子は歌う高らかに。
     刻まれし傷を癒すため、仲間が戦い続けられるよう。
     支えるのが自分の役目。
     一歩も動いていないのがその証。
     込められし想いに誘われ、雪姫が髪をものともせずに腰を深く落としていく。
    「欲望のままに動こうとしちゃだめだよ。今踏みとどまらないと、二度と人の道に帰ってこれなくなる」
    「人の道に帰っても、辛いことばかりなら」
     投げかけた言葉を遮るように、淫魔が声を張り上げた。
     雪姫は違う、と睨みつけ、掌にオーラを集めていく。
    「確かに、失恋は辛いよ。でも、心の闇に飲まれちゃダメ!」
     正しき心の正しき想いが通じたか、撃ち出したオーラは淫魔を貫いた。
     反論の言葉を紡ぐ余裕もなくなったか、淫魔は髪の毛だけを伸ばしてくる。
    「やらせはしないよ!」
    「くっ」
     体中を巡るオーラで叩き落とし、槍の穂先に力を込める。妖気が冷気へと変換され、氷の塊が生じていく。
     これ以上、付け入る隙は与えない。拳大まで成長するや撃ち出して、淫魔の腹部を歪ませた。
     たたらを踏んだ隙を見逃さず、クロエは放つガトリング。
     最も通じる力として、地面に膝を付けさせる。
    「これでおしまい、でございますことよ」
     瞳に宿りし力を元に辿るべき軌跡を思い浮かべ、乙女が魔力の矢を撃ち出した。
     救済の願いが込められた矢は迷うことなく淫魔の胸を貫いて、霞のごとく消えて行く。
    「わた……しは……かん……」
     淫魔の表情からは険が抜ける。
     言葉を紡ぐことこそ無かったけれど、菜月は憑き物が落ちたような微笑みを浮かべていた。
     安らかな寝息がその証。
     さあ、彼女の起床が心地の良いものであるように、優しく介抱しよう。

     初対面の女の子に、告白紛いの事をしていたかもしれない。静かな寝息を立てる菜月を背中に、煌介は悶えていた。
    「……まぁ、良っか」
     すぐさまポジティブな方向へと思考を転換し、うんうんと頷き始めたけれど。
     肝心要の、告白と気付いているか否かはわからないままだけど。
     閑話休題。
     程なくして、明菜は起床した。身を起こすなり謝罪と感謝の言葉を述べ、ペコペコと頭を下げていく。
     が、みえ子が手で制した。怒りを仄かに浮かばせながら。
    「それよりも、です。彼氏さんのところへ乗り込みに行きましょう」
    「え?」
    「しっかりと、お話をしなければ」
     本人をよそに盛り上がる、みえ子を含む数名。
     さあ、と伸ばされた手を取らず、菜月は小さく首を振る。
    「無駄に、彼なんかに時間を使うことなんてないよ。ね?」
     浮かべた笑みは、明るいもの。言葉こそ諦めの意味だけど、決して後ろ向きなわけではない。
    「いい笑顔になりましたね。その笑顔と、内面の美しさがあれば、貴女にふさわしい方が見つかりますよ」
     成長した姿に、玲司が恭しく一礼を。少女らしい笑顔を引き出して、自身も微笑みを浮かべていく。
    「じゃあ、メイクについて語らない? ほら、結構勉強してたみたいだし……」
    「なら、喫茶店にでも場所を移さないか? 流石に寒くもなってきた」
     明るくなった場に導かれ、悠花が新たな話題を持ちだした。晶も暖かい場所での交流を提案し、どう? と明菜に問いかける。
     浮かんだのは喜びと、ちょっとの戸惑いか。
    「ね、友達になりたいなのです。綺麗になる方法とか、教えてほしいだわ」
     揺れる瞳の前に手を差し出し、乙女もまた微笑んだ。
     迷いながらも握り返してくれたから、雪姫も語りかけていく。
    「学園に来るのもいいかもしれないね。あなたみたいな境遇の人がいっぱいいるし」
    「そうなの?」
    「ええ」
     未来への約束を結ぶため。
     叶うだろうことを確信して。
     力強い返事を得た後に、彼らは喫茶店へと場所を移す。休息に向かう彼らを讃えるかのように、一足先に顔を出した月が明るく輝いていた。

    作者:飛翔優 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年11月30日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 2
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