●
「お疲れ様。変化する世界について次から次へと考える事が多くて大変だねー」
日々奔走し立ち止まっては思索する、そんな灼滅者達へ、灯道・標(高校生エクスブレイン・dn0085)の口火はねぎらいからはじまった。
「その投票結果を受けて、残存ダークネスについては一般社会の隔離して灼滅者が監視するコトになったよね」
同時に一部の例外も認める――危険性の低いダークネスは、灼滅者が保護観察下で一般社会での活動を許可する。
ではどのようなダークネスがそれに該当するか?
また実際の保護観察はどのように行われるべきなのか?
「『危険性の低いダークネス』の指標を定める為に、みんなには実際の活動を通じて、提案して欲しいんだ」
具体的には、灼滅者個人或いは複数人でチームを組んで、残存ダークネスを対象として、どのように保護観察をするかを提案し、実際に活動結果を報告する。
「まずは対象のダークネスに今回の保護観察の趣旨を説明して協力を得てよ。で、1週間程度の観察活動を行って今後の提案につなげて欲しいんだ」
観察対象のダークネスは、灼滅者1人につき1体以内。
「細やかに寄り添って見て欲しいからねー。あ、観察方法はキミ達にある程度お任せするよ」
例えば『1日1回行動をチェックして報告させる』といった関係でも良いし、常に一緒に生活して監視するやり方も構わない。或いは灼滅者がダークネスの活動を手助けするといった方向性でも良い。
「実際の試行して、それぞれが理想とする残存ダークネスとの関係を提案して欲しいんだ」
それが『一般社会で活動するダークネス』の今後に影響を与えるはずだ。
勿論、明るい話ばかりではない。
灼滅者が残存ダークネスを自由にさせた事で、エスパーに被害者が出た場合、そのダークネスを灼滅者が灼滅したとしても、エスパーの灼滅者への感情が悪化する可能性がある。
「そのうえで、残存ダークネスに、どの程度の行動を許すかを考える必要があるね」
灼滅者、ダークネス、エスパー……異なる視野で生きてきた三者の関係は始まったばかりなのだから。
参加者 | |
---|---|
千布里・采(夜藍空・d00110) |
彩瑠・さくらえ(幾望桜・d02131) |
紫乃崎・謡(紫鬼・d02208) |
風真・和弥(仇討刀・d03497) |
文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712) |
リーファ・エア(夢追い人・d07755) |
ルイセ・オヴェリス(白銀のトルバドール・d35246) |
御鏡・七ノ香(姉弟の旅路・d38404) |
●ルイセと蘭
「懐かしい」
ルイセ・オヴェリス(白銀のトルバドール・d35246)が調べ当てた「人気の巫女さん」こと淫魔の蘭は、武蔵坂に下るまで居た神社で深呼吸。
「おお、その声は蘭かい?!」
転げ出てきた神主へ胸を押し当てる仕草は淫魔らしすぎてルイセは苦笑する。
果たしてどんな働き振りだったのか、無給でよいので巫女のバイトに入りたいとのルイセを神主は二つ返事で受け入れた。
「あなたに神のご加護を」
きゅ。
破魔矢を手渡す際にわざわざ両手で包み込む。
境内にて案内勤める時も楚々として笑みを絶やさずに、でもわざとよろけてもたれ掛かかる――あなただけよ感も確りと。
「あざといね」
「そうでもしないと本当になにもないんだもの」
境内の見える所で掃き掃除をすれば人が吸い寄せられる、色香寄りの魅力はさすがのもの。
「でもルイセ目当ての参拝客も既にいるわ」
「そうかな? 神主の方が似合うんじゃない?」
蘭は音なく後ろにまわると、なんと破魔矢でルイセの胸をくいっと持ち上げた。
「こんないいものもってんのに、使うのに抵抗あるのね」
「……なっ!」
「ふふ、お爺ちゃんに子宝祈願の御守授けたり、池にボチャンってしちゃったり」
「あれはー……」
蘭を見張っていて意識散漫で発生したドジである。
「ドジっ娘で可愛い」
悪戯っぽく笑むとまたまた参拝客を釣る為に境内へと小走りで出て行った。
過去、神主さんの奥さんが出て行ったなんて話も小耳に挟んだが、問題なく過ぎた1週間。
(「さて、淫魔と明かさずにはおいたけど」)
蘭がダークネスであるが共存出来ていた事実をどう開示して行くかが課題だと、ルイセはレポートを締めくくった。
●さくらえと鈴
「ついてくるの?」
「今日だけはね。明日からは夜にお話を聞かせて」
淡紅髪を肩に垂らし達観した目をした鈴は、彩瑠・さくらえ(幾望桜・d02131)の中で『彼女』に重なる。
……殺す以外のやり方を、今からだって探していく。
今までのようにと促せば、鈴はギターを手に渋谷の片隅へ。
見目で惹けるも『自分を現す技術』を持ち合わせぬ歌だ、投げ銭で生活は無理。
1日が終るとさくらえへ肩を竦めて「今日のご飯と寝るとこ奢って」とついてきた。
「いつもはどうしてるの?」
「誘ってくれた人にたかる」
暗に寝床もという時点で鈴が提供するモノも知れる。
……さすがは初日、会話はそれで終った。
さくらえはマンスリーマンションの鍵と、夕食を共に話を聞かせて欲しいと改めて。承諾した鈴をマンションまで送り初日は終了だ。
それから1日毎に会話が増えていった。
わかったのは――歌うのは好き、不特定多数と快楽を得るハードルは低い、でも……。
「気づいてた? 足を止めて聞いてくれる人がいた時、歌声が嬉しそうになるの」
「でも所詮カラオケだよ、自作で歌も作れないし」
「本格的なトレーニングをしてみない? 弾き語りが好きならそういうレッスンを組もう」
そんな風に今後も支援したいと告げれば、鈴はぱちりと瞳を瞬かせる。
「芸能プロってアイドルじゃなくてもいいんだ……」
「そうだよ。ちゃんと橋渡しするから、頑張ってみる?」
やりたい事を叶える道がわからぬのなら、照らしてやればよい。
「うん。あーあ、他もお兄さんが満たしてくれるといいんだけど」
「それはごめんね」
「彼女いるって最初に聞いたからわかってる」
――この発言は歌と特定の1人で満たされる生き方の萌芽でも、ある。
●和弥とにみぃ
「別にあの羅刹さんと組むのでもよかったのですよ」
「殴られてもか?」
「死なないならえっちのハードなやつなのです」
サマーセーターからちょこりのぞかせた指にあどけないロリ声、だがにみぃは紛れもなく色欲を糧にする淫魔だ。
「俺のやった事は余計なお世話だったか」
監視下ダークネスの中で見つけた彼女は羅刹に絡まれていた。助けんと割り入った風真・和弥(仇討刀・d03497)だが反応悪く意気消沈。
「でもぉ、PK戦のお兄さんに逢えたのは嬉しいのですよ」
「憶えててくれたのか」
「だらしない乳のボールキャッチ、敗北を教えてくれやがったのは忘れてないのです!」
にこぱ★な笑みは、それがいい思い出として根付いていると物語る。
1体ではなく1人、ダークネスも「おなじひと」と数えるならば違いを知っていけば良い。
「実は……」
今後のプロデュースの相談相手になりたい、まずは1週間。その申し出をにみぃは二つ返事で快諾した。
カフェ(和弥奢り)にて連日、にみぃがあげる案は『アイドル募集に応募』『スカウトには即のる』など闇雲。
「ラブリンプロに所属は嫌なのか?」
「ヤラセ勝負は嫌なのです!」
にみぃにとっては灼滅者と関わったアイドル対決こそが天啓。
しかし淫魔が人間社会に制約なく入るのは困るし、そのやり方で夢が叶うかはあやしい。
要望吸い上げと此方側の事情説明に丁寧に数日かけた。押し付け合いでなければ理解と信頼は育つ。
「同プロ同志で人気投票を仕掛けるとか幾らでもある。ラブリンプロでそういうやり方を提案してみないか?」
「和弥おにーさんがそう言うのなら」
どのようなアイドルになりたいかを聞き取り手を貸す、まるで人と人のよう。
●リーファと桧垣
にみぃを勧誘し和弥に殴り飛ばされたチンピラを品定めしていた桧垣に気づきリーファ・エア(夢追い人・d07755)歩を進める。
「部下を率いてらっしゃったとお見受けします」
提案はエスパー犯罪対策としての警備会社への就職。
概要を説明し羅刹の桧垣には好感触を得た。灼滅者つきそいの元ならという会社にて1週間のトライアル。
――さて、繁華街で警備について数日後、問題は起った。
近くで起きたひったくりを追いかけひっ捕まえるまではよかったが……羅刹の一打は軽く一般人を殺す。そして桧垣は一切の手加減をしやしなかった。
幸いにもリーファが止め大事には至らず。だが警備会社はトライアル継続に難色を示した。
(「これは……部下を一般人とうまくやれるよう指導以前の問題ね」)
落ち着き思慮深いと見えた桧垣ですらこうだったのだから。
騒動を収めた後、武蔵坂の一室での聞き取りに入る。
「悪い事した奴を潰す大義名分もらったと考えていたのだがなぁ」
不機嫌に煙草を吹かす彼へ、リーファは最初に説明をした『犯罪の抑止力としてのダークネスの力量』や『社会へ融けこむ事』を繰り返してみる、が、
「人間でも人殺しやる奴ぁいるだろ? そういうのとぶつけてくれよ」
ギラリと脂ぎった瞳は『理由付けで殺させろ』と物語る。理性で自制を求められる防衛組織への就職は灼滅者抜きでは難しそうだ。
対話の締めくくりにリーファは好奇心からの問いかけ唇にのせた。
「もし灼滅者が全て居なくなったらその後、貴方ならどうします?」
「なんで俺が残ったかってなぁ、自分より強い奴に戦う無謀さがなかったからなんだよ」
煙の向こう唇は歪んだ弧を描く――ある意味『己』を理解しているとも言えよう。
●采と槙
千布里・采(夜藍空・d00110)がリストから選び出したのは、眷属の蜘蛛を連れた羅刹の女性だ。
彼女は所謂反社会的な人に接し『歓談』を繰り返した、その際に蜘蛛は出さず。
最後の日、希望の場所と連れ出されたのは潰れ闇賭場。チンチロリンの振り壺やら転がる中に座る槙は和装に結い上げた黒髪も手伝いしっくり収まった。
――漸く彼女の『場所』に辿り着けた、話に実がつく。
「闘うことが、相手を殺してお仕舞い、そういうのはもう充分です」
「命を賭けるからこその煌めきは御座います」
ぱちり。
細い手で賽を弾く蜘蛛に注ぐ柔らかさと打ってかわり、底なしの彩にて采を見据え。
「無一文の破滅を前にしたならば、私がもたらす『死』なんぞ救い、善人ぶる気はありゃしませんけど」
喰えなさっぷりに采は軽やかに笑った。
「でも随分と落ち着いてるようにみえますえ? 『相棒』さんと」
転がる賽を目で追う霊犬の背を指で梳る、その眼差しはよく似ていた。「お名前は?」と問えば一言「蜘蛛」と。種族名だが確かな情も籠る処も似てる。
「ねーえ、こういう『一寸裏』を武蔵坂さんは認めてくださるの?」
「確かに清流に棲めぬ魚もいはりますねぇ」
同意言葉だが無理とは発音で示す。
「力の使い方を若いエスパーへ指南する道場とか勧めよう思てましたし」
聞きやしないだろうとは内心。
流しあいの会話、柳のようにゆらりゆらり。
「『相棒』さんとご一緒できへん場は、窮屈と違います?」
「ええ、それはもう。でもね、渇くのよ……」
キセルが似合いそうな切れ長の瞳、吹いたのは溜息。武蔵坂の理念は采から聞き理解はしている。
「渇くの」
「潤す方法探すん、末長ぉおつきあいさせてもろたら幸いです」
にぃと釣り上がる真っ赤な紅は承諾の意を示す。
●謡と仁
――何処に行けば良いかわからない、それが紫乃崎・謡(紫鬼・d02208)が仁と相対した第1印象だった。
「カミサマの頃は、捧げられるモン殴ってりゃよかったんだけどな」
神として崇められて従順に暴力を振い満たされてい。しかしあれよあれよと世界がひっくり返り武蔵坂に降りた形である。
「殴らせてくれるんなら、なんだっていいんだ」
「生き残ったのはキミが争いを厭うた証明じゃないかな?」
「……どう、だろう」
藍色の瞳は自分の意思すら探すのに苦慮する様子。
謡は例えば――と、語り出す。
「キミは崇拝する人々をどう思った?」
「護れなかったな」
ダークネス同士の諍いに巻き込まれ滅んだと皮肉に歪む。
「俺は退屈なぐらい弱いと嘲笑われて見逃された」
生存の為に膝を折ったのかはたまた――聞くも野暮と謡は触れぬ。
「つまり、護りたいと思った?」
「そりゃあ、望むもんくれるからな」
「――同じだよ」
ゆっくりとした所作で茶を啜り間を置く。
見透かしてくるような紫苑に、仁はじぃと水面を見据えた後で「わからん」と唸った。
「殺せぬのだろう?」
「今まで抑えてこれた」
「限界が近い」
「なら――」
……殺リアッテミル?
ぴりりと頬を刺す低の気配、包帯の滑る音に仁は深い溜息を返した。
「笑わば笑え、負け戦はご免だ」
じゃあ笑う。
「失礼。その生きたい気持ちはヒトらしいよ、すごく」
「ヒトとは、こんなに燻るものなのだな」
武蔵坂の監視下で寝起きし、与えられた端末で世間に触れ過ごす――それが仁の日々だ。
「本能の制御は誰しも必然だからね」
それは人間もダークネスも同じだ。
「差は僅かだよ」
空気が抜けるような、これは歎息か笑いか。
「……また逢いに来てくれ。気が紛れた」
●直哉と終
終の案内で文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)が訪れたのは、郊外の廃墟と化した洋館であった。
「ここが自前の密室か?」
「そんな力ないよ……ははっ、たまに人をおびき寄せて殺して小説のネタにしてたの」
こともなげに語られる殺人に、直哉は彼が六六六人衆なのだと実感する。
「1週間見張りつきでも帰ってこれたのは嬉しい」
ノートパソコンの無事に安堵するのは本当に同年代の青年でしかない。
コンビニや通販で食料と生活用品を調達し、日長小説を書いて好きな時に寝起きする――至って人らしい生活だ。
が。
「バレやすくなったのうぜえ」
「店員とか殺してたのか?」
「ああ」
息をするように殺害し衝動を満たしていた。
――そうして迎えた4日目「殺人」へ向かうのを力尽くで止めた。
「こうやって発散の手伝いは出来るんだけどどうだ?」
「晴れないよ、負けるじゃん」
「勝ちたいのか?」
「だから抵抗できない人間を相手にしてたのー」
唇を尖らせそっぽを向く。
「人へ危害を加えるなってのは難しいか?」
「辛い」
甘い香り混じりで絞り出た声に直哉はそばに行く。
「終の小説さ、心理描写凝ってて面白かったよ。ネットでも人気そこそこだったじゃん」
こくり。
「嬉しくなかったか? レスは他の人がくれてるものだぜ?」
「もっといいモノ書きたくなって殺したくなる」
なにかにつけて殺しにつながってしまうのか、ならば。
「じゃあ灼滅者が殺害方法を試す相手になるのはどうだ? 勿論殺しちゃ駄目だぞ」
「一方的に甚振っていいなら……やってみたい」
歪んで異常に見えるが要は「趣向に絡めた過激な手合わせ」の提案だ。全ての六六六人衆に適用することは叶わぬが願望を捉えたのは意味あるやもしれぬ。
●七ノ香と巧
刀鍛冶が高じて人斬りに堕ちたダークネスを伴い訪れたのはかつての住処。
「また暮らせるようにお掃除をしないといけませんね」
「どうせ武蔵坂の管理下だ」
三角巾を結ぶ御鏡・七ノ香(姉弟の旅路・d38404)へ、巧はへの字口で自室へ。邪魔はせず七ノ香と幸四郎はせっせと家事にいそしむ。
3日目。
研いだ刃が竈の火をたてる七ノ香へ振り下ろされる。阻んだのは幸四郎の刃。
「……」
七ノ香は一瞬寂しげに眉を曇らせるも静かに受け入れた。
――すまないとは返らぬが4日目には差し向かいで食事。
「ようやく喰える味噌汁になったな」
不慣れな家事で絆創膏だらけの指を一瞥。
淡色葛ゼリーを手に訪れた姉弟を自室へ入れたのは最終日朝。
「幸ちゃんが作りました。丹精込めて」
「ああ」
魂を削り技へ結ぶ者としてその誠意は受け入れた。
「人間はダークネスの力には敵いません。しかし技は決して劣りません」
「それは認める。変われぬ俺と変わっていくお前を見ても明らかだ」
「巧さんも変わられました。今、お話を聞いて下さってます」
1本取られたと喉を鳴らす男は、本音を零し出す。
「刀は人を斬ってこそ、試したいのだ」
それこそが、証しだと。
「武の昂ぶりが抑えられなくなった時には……私たちがお相手します」
「殺すわけにいくまい?」
幸四郎を掌で静止し七ノ香はきっぱり。
「はい。私と幸ちゃんは決して討ち取られませんから」
3日前の台所での1幕が脳裏に蘇る。
「成程。討ち取れる刀を鍛え上げるのもよいな」
人の技を取り入れた我が刀で難攻不落の姉弟を御す――そんな凌ぎ合いで闘争心を満たす。
「お前達は俺がよそ見せぬぐらい相手をしてくれるかい?」
「はい、お相手します」
――向き合い続ける覚悟は出来ている。
●以上
全てに適用ができるわけではない、むしろ非常に個人的(ケースバイケース)ではあるが、ダークネスを含めた明日への足がかりが記されたレポートである。
作者:一縷野望 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2018年9月23日
難度:やや易
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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