その日。9月18日。
全ての課業を終えた八鳩・秋羽(中学生エクスブレイン・dn0089)は、カラースプレーが散らばるチョコドーナッツを片手に、器用に帰路につくための準備をしていた。
教科書、ノートにペンケース。
もぐもぐ口を動かしながら、のんびりと右手が机と鞄を往復して。
その最中、机の中から1枚のチラシが、ひらり、と床へと落ちた。
「…………?」
覚えのない紙に首を傾げながら、ドーナッツを1口かじってから、秋羽は拾い上げる。
そこには大きな丸が幾つも、色とりどりに描かれていた。
『秋のタルト・バイキング いろんなタルトが食べ放題☆』
踊る可愛いフォントの文字を読んで、その丸が切り分ける前のタルトの写真だと気付く。
1つには大学芋のように照りが甘そうなサツマイモが並び。
別の丸にはモンブランを思わせるクリームが敷き詰められ大きな栗が鎮座する。
葡萄や洋梨の下は、カスタードクリームかチーズクリームか。
メインは秋の味覚のようだが、それ以外もあるようで。
チラシの端に写り込むのは、イチゴのタルトやキャラメルのかかったバナナタルト。
チョコレートタルトやアップルパイも見えた。
秋羽はしばし、そのチラシを見つめて。
手早く荷物をまとめると、鞄を背負い、ドーナッツを食べきって教室を後にする。
そして校門へ向かう途中。
出会った人に、おずおずと話しかけた。
「……タルト、食べる?」
校門を抜ける頃には、秋羽の周囲には多くの笑顔が零れていた。
●皆と囲む
北南・朋恵(d19917)の歌声は、最初は小さなものだった。
向かい合う席に座る八鳩・秋羽(dn0089)の前に置いた、お祝いの言葉を飾ってもらったバースデイタルトに重ねて、口ずさむように音を紡ぐ。
そこに、羽柴・陽桜(d01490)も誕生日仕様のタルトを並べた。
「皆でお祝い、いいでしょうか?」
伺う小声に、朋恵が顔を輝かせると。
それを見た宮儀・陽坐(d30203)も、イチゴタルトを置く。
「夏秋品種のイチゴ、なんと宇都宮産です!」
語り始めそうな陽坐には、陽桜が、静かに、のジェスチャー。
陽坐は慌てて両手で口を塞ぎ、ちょっと気まずそうにしながらも、朋恵に期待するような視線を向けた。
気付くと、少し離れた席から青和・イチ(d08927)が温かい藍瞳で朋恵を見守っていて。
隣の井瀬・奈那(d21889)も優しく微笑んでいた。
幾つもの視線に頷いた朋恵は、歌声を大きく響かせる。
祝福の旋律。妙なる調べ。
その最後の一音を紡ぎ、ふっと一度瞳を伏せてから。
朋恵は顔を上げ、満面の笑みを浮かべた。
「お誕生日おめでとうございますです、秋羽さん!」
ぱぱーん!
そこに木元・明莉(d14267)とミカエラ・アプリコット(d03125)の手から揃って大きな音が鳴り響く。
ちゃんとお店に許可を取った、掃除不要の音だけクラッカーだ。
息の合った祝砲に、椎那・紗里亜(d02051)は微笑みながら手を叩き。
「秋羽さん、お誕生日おめでとうございます♪」
祝いの言葉が次々と紡がれていく。
「秋羽、誕生日おめでとう」
「おめでとうなあ!」
「おめでとう」
「おめでとうさんです」
風峰・静(d28020)と神西・煌希(d16768)は陽気に、糸木乃・仙(d22759)が颯爽と、八千草・保(d26173)は穏やかに。
「おめでとーで、声掛けありがとー」
「お誕生日おめでとう……です……!」
校門での声掛けへもお礼を重ねる椿森・郁(d00466)の少し後ろで、月夜野・噤(d27644)も頑張って声を出した。
別の席からも、喚島・銘子(d00652)と媛神・まほろ(d01074)が穏やかな微笑みを向け、桜田・紋次郎(d04712)とアイナー・フライハイト(d08384)は珈琲を掲げて乾杯の仕草。
寡黙な神無日・隅也(d37654)がぽつりと零すように祝うと、その横で加持・陽司(d36254)がぐっと指を立てて笑い。
「あきはね君、お誕生日おめでとうなのー」
にこにこ笑う久成・杏子(d17363)の横から、差し出される1切れのラズベリータルト。
「……秋羽も食べてみない?」
高原・清音(d31351)のお手製タルトを秋羽が受け取るや否や、あっという間にお皿は空になった。
「八鳩が食うと何でも美味しそうに見えるな」
いや本当に美味いんだろうけど、と苦笑する鈍・脇差(d17382)の傍らで、琶咲・輝乃(d24803)もくすりと微笑んで。
おめでとう、と告げた咬山・千尋(d07814)は、くるりと皆へ向きを変え、笑顔で声を張り上げた。
「あたし達も始めますかね、タルトパーティー。略してタルパー!」
「もぐもぐタイムで、お祝いするねっ」
楽し気な杏子の声も背を押して、皆はタルトへと進んでいった。
それぞれで楽しく美味しい時間を過ごしていく、秋羽をきっかけにタルトで集まった皆。
「俺、人々を食で笑顔にするため、世界を旅する餃子職人になるって決めたんです」
ぽつり呟きながら、陽坐はじっとこの瞬間を見つめる。
パティシエの腕が光る綺麗なタルト。
そのタルトを囲み、心躍らせる皆。
弾ける笑顔はパートシュクレの中をより輝かせて。
大切な人達とかけがえのない時間に美味しさが深まっていく。
これはきっと、理想の光景の1つ。
このタルトのような餃子を、自分も作っていけるだろうか?
目指す姿に陽坐は、感動と共に決意を抱き、ぐっと手を握り締める。
「陽坐さんなら、なれますよ」
「がんばってくださいです」
陽桜と朋恵が応援する横で、秋羽ももぐもぐしながら頷いた。
●皆で囲む
洋梨のタルトを横に置き、シンプルなエッグタルトを口に運んだまほろは、向かいの銘子をじーっと見つめる。
「……うぅん、やっぱり見慣れないです」
普段は和服の2人だが、今日の銘子は英国仕立てのスーツ姿。
長い黒髪はウィッグでボブになっていて、その短さを銘子はさらりと撫でた。
「慣れると楽なのよねえ。言ってる割に切る気にはなれないのだけども」
小さく微笑み告げてから、今度は銘子がまほろを見据える。
「私もまほまほのそういう姿は新鮮だわねえ」
まほろの服装は、桔梗色のワンピース。
白いニットボレロの肩口に、編まれた長い白髪がさらりとかかった。
「私も、少し切ってみようかしら……」
「まほまほもウィッグ試してみる?」
髪を弄るまほろに、切ったら戻せないし、と銘子はタルトを口に運んだ。
ラム酒の香りが栗と共に広がるモンブランタルト。
並ぶ無花果とナッツのチョコタルトも、ブランデーがきいている。
「そういえばまほまほって飲めたかしら?」
「飲める事は飲めるんです。
ただ、日本酒やワインに偏って、生びーるは余り飲めないのです」
思いつきの問いには、こてりと首を傾げた答えが返り。
取り留めなくのんびりと、2人だけのお喋りは続く。
「アイニャー、黒毛玉居った」
呼び声に振り返ると、紋次郎が示す皿の中、季節の果物タルトと並んで黒猫型のチョコが飾られたタルトがあった。
アイナーの黒猫姿に似てる、と言うにやにや笑顔に。
「白毛玉だって、居る」
アイナーが突き出したのは、紋次郎のサイベリアン姿を思わせる、白猫型のチョコ飾り。
「どっから見つけて来たんだ其れ……」
驚き笑う紋次郎に、アイナーもじろりと睨んでから微笑んで。
2匹の猫と共に席に着いた。
黒猫は一目瞭然チョコタルトだが、白猫は何だろうとアイナーはそっと味を見る。
南瓜とチーズの、思いがけない好みの味に、ほくほくとメモが走った。
将来はカフェ経営をと思うアイナーにとって、美味しさはそのまま勉強のようだ。
「アイナー」
そこに不意に正しく名を呼ばれ、顔を上げると、口に突っ込まれるチョコタルト。
一瞬顔を顰めるも、ほろ苦い味は心地よく。
「な?」
美味いだろ? と笑う紋次郎にアイナーは頷いた。
「モンジロはこれくらいの甘さがいいのか?」
紋次郎の感想を聞き、さらに話を広げながら、アイナーのメモは続く。
(「だって、モンジロは将来の常連客、だろ」)
好みはちゃんと把握しとかないと、ね。
「甘いのだけと思ってましたけど、セイボリータルトというのもあるのですねぇ」
興味津々、陽桜が眺めるのは、南瓜とカマンベールのタルト。
隣には、エビと彩り野菜もあって。
「こうやって見ると、タルトって無限の可能性を秘めてるのですねっ」
「餃子と一緒ですね!」
重なる声へと振り向けば、宇都宮がご当地の陽坐が目を輝かせていた。
その様子に、陽桜ははっと気が付いて。
「ここまであるのなら、餃子タルトもありそうですよねっ」
なかったらシェフさんにお願いしてみましょう、と動き出す桃色の後ろ姿を、感激に震えながら陽坐は追いかける。
ちょっと憧れてた学校帰りの2人での寄り道。
そして甘党には魅惑的なタルトバイキング。
結果、イチの前には所狭しとタルトが並んでいた。
「迷ってしまうなら全種挑むのも有りですか……」
目移りする奈那は、カロリー云々が気になるけれど。
「良かったら、半分ずつ食べよ」
大好きな声色に自然と頬が緩む。
せっかくの甘い時間。楽しむことを優先しよう。
舌鼓を打ちながら、あれがこれがと感想を交わしていく中で。
「井瀬さん抹茶好きって言ってた、ね。
……食べる?」
不意に目前に来た好みのタルトと、差し出すイチを、奈那は交互に何度も見て。
悩んだ末に、おずおずと口を開く。
「……おいしい、です」
味なんて分かるはずもない。けど。
「ん、良かった」
イチの藍瞳は、愛おしくも真っ直ぐに奈那を見つめているから。
奈那は熱くなる頬に気付かないふりをしつつ目を反らした。
そんなイチと奈那をドキドキしながら見守っていた朋恵は。
「……今ならできる気がするのですっ」
ぐっとフォークを握りしめ、ブルーベリータルトを1口サイズに切り分け、刺して。
「あ、秋羽さんっ。あーん、ですっ」
意を決して差し出した。
一瞬驚いた秋羽は、でもすぐに、ぱくりとブルーベリーを口にする。
もぐもぐする秋羽に、朋恵の頬が次第に緩むけれども。
「あーん?」
秋羽からチョコタルトを差し出され、また緊張に逆戻り。
でも今年こそは、と頑張って、美味しい幸せを分け合っていった。
【漣波峠】のテーブルも、それぞれが取り分けたタルトでひしめき合う。
「わぁ、机の上がきらきら……!」
「すごいです……! です……!」
保と噤が目を輝かせるのを、まあまずは、と静がそっと制し。
「色々と長い戦いだったけど皆、これまでお疲れ様!」
ライブハウスの打ち上げらしく、声を上げる。
「メンバーに恵まれたと思うよ僕は」
「これまでみんな仲良くしてもらえて、ここで打ち上げができて嬉しいぜえ」
にっと笑う煌希が、このクラブからライブハウスに出場した回数は少ないけれど。
本当に楽しく思い出深い戦いができたから。
ミネラルウォーターのグラスを掲げ、感謝の意を表す。
「おつかれさまーと今後ともよろしくお願いします?」
でも郁は、これで終わりじゃないよね? とばかりに悪戯っぽい笑みを浮かべて。
「ふふふ、そうだね。これからもよろしくー」
賛同するように静の笑顔も零れた。
「どうせだし乾杯とかする?」
そこからの提案には、今度は郁が、いいねー、と賛同。
「じゃー幹事さん。音頭よろしくお願いします」
「ボク?」
指名された保は、一瞬目を瞬かせたけれども。
「ほな」
すぐに微笑み、座った姿勢を正すと、カップをそっと持ち上げる。
「皆、一緒に戦えて、すごい楽しかったよ。
作戦会議も名場面も優勝もぜんぶ、大切な思い出」
笑顔でこちらを見つめている皆を見回して。
その姿に、共に過ごした時間を重ね見て。
「実りある、かけがえのない時間をありがとう。
これからも、ずっとお友達でいてくださいな」
幸せそうに微笑みながら、保は熱い紅茶を掲げた。
「……皆の門出に」
「乾杯!」
「かんぱーい!」
「乾杯、です」
唱和する声と、弾ける笑顔。
噤が掲げたミルクティーに、珈琲がコツンと重なり。
「熱ッ、跳ねたッ!?」
静の声に、噤は慌ててお手拭きを差し出した。
こちらは平穏に、郁の紅茶と珈琲を重ねた仙は。
「門出かあ」
少し先の、大学を卒業した自分を思い描き。
「正直あんまり考えてないかな」
苦笑する中、それでも考えていることが、ある。
「卒業しても定期的にこうやって集まれれば嬉しいとは思う」
「またいつかこうして飲めるとイイな」
頷く煌希も、それぞれの道を進んだ、その先へと思いを馳せた。
過去の思い出に、希望の未来に、語り合っても。
やっぱり現在のタルトは魅力的で。
「秋の味覚……甘味……なのです……」
再び目を輝かせる噤に、乾杯も終わったし、と皆のフォークが動き出す。
「収穫の秋と呼ばれるだけあって、ホントに種類も豊富だね」
「ボクのは、郁さんのちょいすと似てるかも。
果物づくしで、葡萄に洋梨に……」
「郁も保も、ザ・秋って感じ。
静のは栗づくしで、うまそうだなあ」
「僕1人じゃ栗こんなに食べれるかわかんないけど、皆でシェアすれば良いよね」
「分けるとたくさん色んなものが食べられます……です……!」
「甘いの苦手な人は果物部分だけでも一口どーぞ」
「椿森、代わりにこの辺のトマトやアボカドはどう?」
「仙のはセイボリーって言うんだなあ」
「煌希さんのも、せいぼりー? お野菜いっぱいでへるしー」
「噤、これとかおすすめ!」
「どれもおいしい、です……!」
会話を弾ませ、美味しさを分け合って。
かけがえのない時間はまた重なっていく。
●皆が囲む
タルト選びに盛り上がる【糸括】の面々を、陽司は1人、女子に誘われたからついてきましたよな雰囲気で眺めていた。
「レモンタルトと、栗とかぼちゃ、リンゴ……全部とっちゃえ!」
「キョンちゃん欲張りさん♪
私は、フルーツ系も大好きなんですけど、今日は和風タルトにします」
「あたしは、ダークチェリータルトだな。
シナモンの香りも、いいアクセントだろ?」
けれども、杏子が紗里亜が千尋が、次々と選ぶタルトを眺めているうちに。
「ようじ先輩、お顔、すごくいい笑顔よ?」
気付けばタルトビュッフェやったー! なそわそわが漏れ出ていました。
「男子がスイーツ好きでも、別に変じゃないよ。陽司のおすすめはどれ?」
「千尋さんありがとうありがとう! 俺のお勧めはこの季節のフルーツの……」
「ん! 予想外の美味しさ。ふふ、陽司くん、なかなかやりますね」
あっという間に陽司も盛り上がりの中に溶け込みます。
「隅也さん! 脇差さん! キャラメルバナナタルト、メチャ旨ないすかこれ!」
「……いただこう」
「このほろ苦さと甘さのバランス……成程いけるな。
こっちのマスカットもお勧めだ」
お返しにと陽司へ黄緑色のタルトを指し示した脇差の服がくいっと引かれる。
振り返ると、見上げる輝乃の視線とぶつかった。
「……ボクが何かに悩んでいたら、一緒に方法とか探してくれる?」
「勿論だ、俺はいつだって輝乃の力になりたい」
迷いなく頷くも、少し気になるその様子。
「何かあったのか?」
「後でね」
脇差の問いかけははぐらされ、輝乃の視線はマスカットタルトに移った。
「あ、これこないだ課題で作った~」
その向こうで、パティシエを目指すミカエラは、偵察だとタルトを眺めるけれども。
「わわ、これキレイ~♪
このナッツ、いい匂い~! 美味しそう~っ♪」
どんどんタルトが乗る皿を見るに、あっさり忘れたようです。
「ミカエラ先輩っ。生チョコタルトがね、とっても甘いのーっ」
「あ、歯応えが面白い~。
じゃ、きょん、コッチの食べてみて。マシュマロぽいでしょ♪」
弾む会話を眺め、サツマイモタルトを皿に取った清音の傍らには、1切れ欠けたラズベリータルト。
ちらり、と清音が視線を向けると。
「ひとつ貰えるかな?」
にっと笑って千尋が手を伸ばし、私も、と紗里亜が続く。
「うん、さっぱりしてて美味しい」
「わ。自然な甘みがいいですね」
褒める2人に清音は少し嬉しそうに頬を染めた。
「て、俺んトコだけ普通の飯だな」
皆の皿を眺めた明莉は、セイボリータルトばかりの自分の手元を見て苦笑。
「これなら、甘いものが、苦手な人でも、食べ易いと思う……」
察した隅也がそっと胡桃タルトで女子力を添えてみる。
そのタルトを明莉はじっと見つめて。
「形良く仕上げたケーキを渡すか、必死に作り上げた崩れたケーキを差し出すかってね」
真に見るのは、ソウルボードで揶揄した『ケーキ』。
綻んだバベルの鎖を前に、世界を例えて考えた、その気持ちを思い出して。
「人類に、俺達はどっちのケーキを渡せたんだろな?」
「甘いものも、おいしいものも、どんな形でもおいしいんだよっ」
苦笑する明莉に、わすれないでって言ったよね? と杏子が声を上げた。
「世界は、おいしいでいっぱい、なのっ」
断言する杏子に、隅也もそっと並ぶ。
「渡したものより良いものを、皆で考えていける世界には、迎えてるのではないのか……」
「トッピングにも好みがあるからな。一緒に仕上げていくぐらいで丁度いいさ」
脇差も手を伸ばすと、胡桃の上に檸檬の輪切りを重ねた。
「そこの黄昏れてる部長さん~」
そしてさらに、ミカエラがすっごくいい笑顔を浮かべて歩み寄り。
「清音お手製ラズベリータルト。食べるよね~?
ハイ、あ~ん♪」
「へ? あーん?」
反射的に食べた明莉は、ワンテンポ遅れて状況を理解し真っ赤になる。
「……酸味の方が強いと思ったけど……食べられなかった……?」
心配する清音に慌てて大丈夫とジェスチャーをするも、頭はまだ混乱中で。
清音には申し訳ないが、美味しいも甘いも酸っぱいも全く分からない。
その様子に、ミカエラだけが、にんまりと笑っていた。
そして、騒ぎの中、再び引かれる脇差の服。
また振り返った今度は、輝乃がお面を外すのが見えた、と思ったのも束の間。
脇差の唇に、いや、ギリギリで頬に触れる、柔らかな感触。
突然の光景に、仲間達の間を先ほどまでの騒ぎとは別の騒めきが駆け抜ける。
「さっきの続き。
ちゃんと『あたし』をエスコートしてよね。脇差っ」
キスを贈った輝乃は、周囲を気にせず、両の紫瞳で微笑みを見せた。
「だって君は、ボクにとって大切な一番星だから」
輝乃の右目の傷跡は消えないけれど。
脇差と一緒ならきっと大丈夫。
ようやく、それが分かったから。
「大好きだよ、脇差」
そこまで聞いて、ようやく停止していた脇差の思考が戻る。
ずっと、ずっと好きだった。
抱えた苦しみにも寄り添って。
守りたいと、支えたいと。
思いが願いが届いたことを理解して、顔を赤くしながらも、嬉しさに胸は跳ねて。
「俺も大好きだ、輝乃」
応えた言葉に、さらに大きな歓声が、上がった。
作者:佐和 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2018年10月3日
難度:簡単
参加:25人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 2
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