あれから10年……。
「久しぶりに会う人も多いだろうし、みんな元気かしら……?」
鈴懸・珠希(dn0064)が部屋のテーブルに1枚の招待状を置きつつ当日を想像し呟く。
それは結婚式の招待状であった。
懐かしい面々が揃うパーティー。
しかし、思い起こして欲しい。
あの頃、10年前、こんな幸せな時間を妬む奴らがいた事を!!!
●
その日、新たな門出を祝福するかのような朝日と共に、華やかで艶やかな結婚式が行われた。そして場所を移動し披露宴会場。すでに会場は関係者で埋まり、特にこの【新しい家族】のメンバーが集められたテーブルは、どこよりも強い絆が感じられる席となっていた。
「この10年、色々と楽しいこと、大変なことを皆で共有していったなぁ。あんなこととかこんなこととかも……」
今日の主役2人が入場してくるのを待ちながらミュリリ・ポリック(d23714)が回想にふければ、同じテーブルに付く久遠寺・友(d04605)や矢崎・愛梨(d34160)も同じような事を想像したのか深く頷き同意する。
「そう言えばわたしの中の淫魔も、大戦が終わってすぐまでは下手したら飲まれちゃうのかと心配だったけど。今になったら平等に付き合えるんじゃないかって……そう、思うんだ」
式に招待された淫魔達もいる事から、少しだけ小さな声で呟くミュリリ。
と、そこで司会からアナウンスが入る。場内音楽が切り替わりスポットライトの当たった扉から腕を組んで入って来るのは、先ほど教会で式を上げたギィ・ラフィット(d01039)と神夜・明日等(d01914)、このテーブルに座る皆の、家族だった。
ギィ達の披露宴はイベントより招待客の歓談時間を多めに取ったプログラムであり、故に会場内はどのテーブルも和やかに賑わっていた。もちろん、どのテーブルにも顔を出す必要があるギィ達だけは、誰より忙しく動き回る事になったのだが……。
「シャンパンも、知る人ぞ知るいいワインを仕入れてきたっす。楽しんでいって下さいな」
ギィが空のグラスを見つけてシャンパンを勧めつつ、一緒にテーブルを回る明日等に。
「明日等、申し訳ないっすけど今回は自分と一緒にホストのつもりでお願いするっす。その代わり、夜はサービスするっすよ」
「盛り上げる側なのは解ってた事だし、……わざわざ言わないで」
ツンとした感じで明日等が返し、ギィが微笑む。
ギィにとって明日等は正妻だった。だが、他の恋人達とも養子手続きを済ませ正式な家族となっている。そして次はそんな皆が集まるテーブルだった。
どこよりも大きな祝福が巻き起こる。
「いや、ありがとうっす。今日はお互い初見の方もいそうっすけど、この機会に親睦を深めて、互いに愛し合えるくらいになって欲しいっす。それから、新妻の皆さんもお客気分は今日限りっす。明日からはいてあたり前の家族っすよ」
ギィがそう良い笑みを浮かべれば、白に黒のアクセントのセクシーなドレスを着たミュリリが。
「うん、これからもみんなと幸せな家庭の元で、色んなことをしていきたいな」
と言えば、同じ気持ちだと言うように一様に皆が頷く。
「もちろんっすよ、これからも一緒に愛を育みやしょう」
皆が拍手で応える中、愛梨はこっそりギィに――「ねえパパ、今日の夜は無礼講ということで、ね?」――と耳打ち。すでに子供もいるが(というか愛梨の子以外にも、ギィの子供が何人いるやら……)それはそれ。
と、その時だ。唐突に会場の扉が外から乱暴に開けられ、RBと描かれたプラカードを持った集団が雪崩れ込んでくる。
この10年でギィ達と知り合った招待客は突然の事に驚き、10年来の付き合いがある者達は「懐かしい」と懐古する。
とはいえ披露宴をぶち壊されてはたまらない。最初に動いたのは愛梨だ。
「おイタはダメよ」
と次々に片付け、武蔵坂の関係者達が連携、会場外へとポイされるRB団達。
「本当、いい余興だわ」
溜息の明日等。
余興と同時にギィは次のテーブルへ移動し、そこの淫魔達と楽しげに話している。そんなギィ達を見つつ友が。
「こうして見ると、私の……いや、『私達の』旦那様は『英雄色を好む』を地で行っているな」
「妬いてるの?」
愛梨の言葉に首を振り。
「別にそれで妬いたり怒ったりはしないし、むしろお仲間として歓迎するが……『母親になる』覚悟は早めに必要かもな。これだけいるんだ、誰に子供ができても不思議じゃないしそういう時は子育てで協力することになるだろうからね……しかし、困った。私は子供がちょっと苦手なんだ……」
その言葉に愛梨が思わず見つめ。
「な、何だその目は!? 私だって苦手な分野くらいあるぞ!?」
「あ、いや、そうじゃなくて……もう子供、いるけど?」
「何!?」
どうやら彼ら彼女らのこれからの生活も、ドタバタと騒がしいものになりそうだ。
だが、それも含めて、皆この居場所が好きなのだろう。
結婚式の最後に放り投げられたRingBouquet(リングブーケ)は、永遠に途切れない愛を誓う、と言う意図が込められていると言う。
これからの彼ら彼女らには、まさにその意図通りの未来が待っているのだから……。
●
2人の人生が太く長く続く事を願い『引き出物』はうどんで決定され、準備期間がアッと言う間に過ぎ去り、今日は結婚式当日……。
荒木・琢磨(dn0018)は霧島・竜姫(d00946)の手を取り。
「いろんな所に行ったよな」
指輪をはめながら呟く。
「ええ」
頷き、琢磨に指輪をはめつつ竜姫の脳裏にはかつての思い出が浮かんでいく。
南国の海、北国の空、日本各地で共に戦い、遊び、食べてきた……。
武蔵坂では我慢大会や後夜祭。
卒業し、少し疎遠になってからの告白。
世界中の困ってる奴等をうどんで救うと言う琢磨に付いて世界を周った恋人時代。
後輩達の育成の為に日本で活動したいと竜姫が言った時の琢磨の顔と、その後の……。
でも、どの思い出にもうどんがあり、琢磨も竜姫も笑顔だった。
「たっくん、今日からはヒーロー同志じゃないよ……私は、貴方のヒロインだから」
「ああ、俺と霧島、2人で一緒に物語を紡いでいこう」
琢磨の言葉に少しだけ竜姫は俯き。
「名前で……呼んでくれませんか?」
ドキッとする琢磨だが、この後は誓いのキスだ、意を決し。
「その……竜、姫。愛してるぜ」
その言葉に竜姫は満面の笑みで顔を上げ、背伸びし……そして――。
その結婚式に招待された誰かが言った。
結婚する2人とかけまして鍋焼きうどんととく。その心は……――。
●
卒業から数年後、校庭で遊んでいた生徒達を校門で見送り下校させた時の事だった。
「おい」
背後からの声に。
「なんだ。佐津君か。久しぶり……というか、脅かさないでよ」
声の主が佐津・仁貴(d06044)である事に鈴懸・珠希(dn0064)は安堵する。武蔵坂を卒業してからも灼滅者達が挨拶に来る事があり、仁貴も同じだろうと校門前で昔話に花を咲かせる。
だが仁貴は時々来る他の灼滅者達とは違っていた。
夕日も沈みだし、そろそろ職員室に戻ると別れの挨拶をしようとした珠希の腕を掴むと。
「教えてくれ……お前、付き合っている奴とかいるのか?」
剣幕に「い、いないけど……?」と素直に答える珠希。
仁貴は珠希を正面から見据え。
「……俺じゃ駄目か?」
「……え?」
「正直……他の奴にお前の隣りを奪われるのが我慢できん」
「それって……」
一気に顔が火照り出す珠希。
「幸せにしてやる……なんて言えん、だが、お前の事だけは絶対に守ってやる! だから、俺じゃ、駄目か?」
頭から湯気が出る程ショートする珠希だが、付き合いの長い仁貴はジッと待ち。
やがて……。
「そんな事言われたの、初めてだから……」
「出来ましたよ?」
秋山・清美(d15451)の声に珠希はハッと現実へ戻る。
珠希はドレス姿で結婚式場の控え室にいた。親友の清美が髪を結っている間、ふと過去を思い出していたのだ。
「あぁぁ、やっぱりお嫁に出したくありません! 私がお嫁に貰います! あとで誓いのシーンで登場しましょう!」
ギュとしてくる清美に珠希は。
「でも、清美ちゃんが奪いに来るなら、その映画の新郎役はやっぱり」
「でしょうね~」
思わず吹き出す2人。
ふと、寂しそうに珠希が「竹尾君と富山君も来て欲しかったな」と呟く。
2人へも招待状は送ったが返事はバツだった。もちろん彼ら以外にも駄目だった人達はいる。灼滅者は皆忙しい……。
珠希の呟きに微妙な顔をしていた清美だが、扉がノックされ「どうぞ」と。
入ってきたのは明日等だった。
「そのドレス、とてもよく似合っているわ。リンフォースも綺麗だって」
「ありがとう」
明日等がリンフォースを置いていく、ブーケを運ぶ役なのだ。ちなみにドレスの裾を持つ役はサムである。
「では、先に行ってますね」
部屋を出て行く明日等と清美。
「珠希ちゃん、おめでとうございます。幸せになってくださいね」
「うん!」
珠希と仁貴の結婚式から披露宴へと移り、今は珠希が担当する小学校低学年のクラスからのお祝い動画が流れ盛り上がっていた。
そんな中、披露宴準備に酒類を運び込んでいた酒屋のスタッフ2人が、会場の隅で一息つく。
「ふぅ、片付けはスタッフ任せだし、俺達はここまでだね。お疲れ、良太」
額の汗を拭い手伝ってくれた友を労う竹尾・登(d13258)に、富山・良太(d18057)が「竹尾君こそ」と。
高砂には綺麗に着飾った珠希がおり、その姿を遠くから見つめる竹尾に。
「ところで、こんな時だからですが……」
「?」
「竹尾君は、鈴懸さんの事が好きだと思っていたんですよね」
良太の言葉に登はどこか遠くを見ながら「恋愛感情は無かったよ。ガラじゃないしね」と答える。
「そもそも話しかけたきっかけが、テストの学年最下位ってどんな人だろうと見に行ったんだし……」
披露宴会場で皆から弄られ怒ったり笑ったりしている珠希から目を逸らす。
「そうですか……まあ、そのお陰で皆仲良くなれたんですから、良かったのでは?」
「そう……だね」
少しの沈黙。
「さ、仕事は終わったし、そろそろ帰ろうか」
と呟き会場に背を向ける登。
「ですね……。しかし正直な所、まさか鈴懸さんの結婚式が見られるとは思いませんでしたよ。……まあ、客ではなくスタッフで、ですが」
「だったら良太は普通に参加すればよかったじゃないか」
「いやー、盟友を1人放っておくのはどうかと思いまして。それに、仕事終わりの1杯は2人の方が良いでしょう?」
ニヤっと笑う良太に登も笑みを浮かべ。
そして心の中で背を向けた彼女に対し――。
「(末永くお幸せにね)」
心の底からそう願うのだった。
披露宴も終わり、やがて懐かしいメンバーが集まり二次会が始まった。
すでに1時間以上が経ち、お酒の力も手伝い会場はカオスに……。珠希など仁貴に「綺麗だった」との言葉を言わせたいのか「どうだった?」と質問を繰り返し、「馬子にも衣装」等の照れ隠しの褒め言葉を永遠仁貴に言わせ続けている始末。
「しかしこの十年、色々と忙殺されておりましたが……。昔馴染みの皆も元気にしていて本当に嬉しい限りですねぇ……」
感慨深く呟くは紅羽・流希(d10975)、特に「教員試験の勉強を見て欲しい」と珠希に頼まれた時を思い出しつつ、披露宴でのお祝い動画から、立派な先生になったんだなと思うと、こう……。正直、披露宴時に「紅羽先輩がいなかったら先生になれなかった」と珠希にお礼を言われた時は涙が出そうになった。
「(もう、年ですかねぇ)」
一方、仁貴に綺麗だと言わせて満足げな珠希の所へ1人の女性が挨拶にくる。
「杜羽子さん! いつの間に帰国したの!?」
高校卒業から海外に一人旅に行く事が多く、日本にほぼいない杜羽子・殊(d03083)が来てくれた事に驚く珠希。
「今回はたまたま帰国が重なって……なんとか二次会には間に合って良かったよ」
乾杯する2人。
「そうだ、今度会った時にちゃんと言おうと思ってたんだ。……あの頃は沢山のアドバイスとサポート、ありがとう。本当感謝してる」
殊はエクスブレインとしての珠希にとって初めて辛い思いをさせてしまった灼滅者の1人であり、故に卒業後も連絡を取り合っていた1人だ。その殊からそんな言葉を伝えられ、思わず涙ぐむ珠希。
「泣かないでよ! 珠希の方が年上なんだし……。ねえ珠希、わたし、ちゃんと素敵で大人のレディになれたと思う?――って、言ってるうちはまだまだ、か。だからさ。これからも一緒に、頑張ろう。ね?」
と、その後はたわいの無い話をし、やがて珠希が結婚してるの? と聞けば。
「独り身だよー。自由な方が好きだしさ。みんなの幸せでお腹いっぱいって感じ?」
そう、殊が答えた時だった。
「生涯独り身おおいに結構!」
現れるは懐かしきサバト服。
「RBとは生き様!」
父心を胸に、命の泉を足下に、そして暑苦しいまでのしっとの魂を背に背負い。
「老若男女関係なく、リア充に嫉妬を覚えたその日から生涯まっとう死ぬ時まで!」
サバト服、霈町・刑一(31歳)がポーズを決め。
「リア充在る所に我らあり! 血痕式にされたくなければ、戦う以外無し! いざいざいざ! いざ尋常に……リア充爆発しろぉ!!!」
ドーンとサバト服の背後で爆発が起こる。
「懐かしいですね。コレも青春の思い出と言えば思い出です」
いつもの2人にメールしつつ清美が立ち上がる。
「RB団の方も精一杯の祝福を贈りますよ……久方ぶりに、コレで」
流希がハリセンを構える。
「覚悟は……出来てるか?」
「ちょ、それはダメ! ダメージ入っちゃうから!!」
仁貴のガチ装備を慌てて止める珠希。
「まだ活動してやがるとは……10年ぶりだな、RB団!」
それは義勇軍として青春時代ずっと戦い抜けた1人。
「10年前と同じく、幸せカップル――幸せ新婚夫婦達は、アタシが守る!」
淳・周(d05550)が構えを取り、「荒木! お前もこっちの味方してくれ!」と琢磨を巻き込む。
遠慮無く攻撃してくるサバト服を、なんとか余興の範囲に納めて防ぐ即席義勇軍達。
そこにTVでお馴染みだった緑の怪獣(の着ぐるみ)とサバト服が乱入。
「新手か!」
と、なるもサバト服は「元RB」と書かれた額をアピール、緑の怪獣もサバト服を取り押さえに動く。
「良太、俺たち格好良く終わったんじゃないの?」
「竹尾君、僕たちがオチ無く終われると?」
「え、酷くね!?」
カオス極める二次会場も、1時間もする頃には再び元の落ち着きを取り戻し。
「10年経ってもやられ遺伝子は健在、また勝てませんでしたか……しかしリア充在る所に……」
「いや、もう黙ってろ」
「むぎゅ」
結局、モブRB団が雪崩れ込んできたり、懐かしい義勇軍が駆けつけたり、しかし今は皆垣根を越えて宴会を楽しんでおり……。
「あれから十年、人も変わってくものだな……」
周が昔のクロスカントリーで見た面々を見て呟く。
サバト服を脱いだ刑一が普通に隣で。
「あなたはリア充にならないので?」
「アタシか? うーん……歪められてない歴史とか纏め直したり史料集めたり、遺跡護って色々戦ったりしてると、やっぱ出会いはねぇな……おっと、だからってRB団にはならねえが」
ニヤリ。
「残念です」
ニヤリ。
「さて、アタシは新郎新婦に一言言ってくるかな……」と、周が2人に『勝ったと思った時が敗北への第一歩、油断なく維持し進んでいくのが難しい』と真剣に伝えつつ。
「まあ、なんだ。仲良くお幸せに!」
笑顔で杯を鳴らす。
と、その時だ。遅刻したと叫びつつ入ってくるは風真・和弥(d03497)。
「目的はリア充撲滅! 合い言葉はリア充爆発しろ! 我ら――」
「いや、もうソレ終わったから」
「何!?」
刑一を見つけて小声で「どゆこと?」と聞く和弥。
「もう1時間ほど前に」
「え、全部?」
「はい」
「もう一回やらない?」
「残念ですが、俺はこれから家に帰ってマロンの奴に今日の奮闘ぶりを聞かせなければなりませんので。しっとは1日1時間! 失礼」
自分のRB武勇伝を聞かせると楽しそうに聞いてくれる義妹分を思い出し、微笑みながら立ち去っていく刑一。
残される和弥。
皆の視線が集まる。どうするんだろう?
「………………くっ」
その時だ。
ドゴッ! と百tと書かれたハンマーが和弥を吹っ飛ばす。
何が起こったのか。
そこにはハンマー持った清楚な女性が1人、彼女は会場の皆に頭を下げると。
「すいません! うちの旦那が粗相を……」
結婚しているのにRB団活動をしようとしたのか! と騒然となる会場。
「あれ、あなたって……?」
和弥の嫁に見覚えがあった明日等が声をかけると。
「あ、はい。風真初花と申します。その節は助けて頂きありがとうございました」
その言葉に珠希も含め、二度目の驚きが会場に満ちたのだった。
懐かしいあの頃はもう二度と戻ってこない。
だが、あの頃の絆がある限り、あの頃からずっと続いている友人や仲間と再開する度、青春の思い出は何度でも色付いて蘇る。
『これから』は、真っ白な地図だ。どうなるかは誰にも解らないし、それを案内する役はいない。
けれど、思い出はいつでも読み返せる。それが少しでも未来の道しるべの役を果たすなら……あの激動の学生時代は、きっと意味のある事だったに違いない。
違い無いのだ。
作者:相原あきと |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2018年10月10日
難度:簡単
参加:15人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 5
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