Anniversary

    作者:春風わかな

    ●Invitation
     ご無沙汰しております。お元気ですか?
     このたび、私達は結婚式を挙げる運びとなりました。
     お世話になった皆様にもぜひご出席いただきたく、ご案内申し上げます。
     久しぶりに皆様とお会いできることを楽しみにしております。

    ●Happy Wedding Party
     心地よい風を頬に感じながら久椚・來未(大学生エクスブレイン・dn0054)は再び招待状に視線を落とした。
    「もう、10年、か――」
     時が過ぎるのはあっという間。
     久しぶりに会う友人たちは、元気にしているだろうか。
     この10年、皆はどのように過ごしたのだろうか。出来れば近況なんかも聞いてみたい。
     心に浮かんだ懐かしい顔に思いを馳せ、來未はそっと招待状を閉じた。


    ■リプレイ

    ●比翼連理
     窓から見える空は青く、雲一つない。結婚式日和と言える空だった。
    (「そろそろかな~……」)
     黒いタキシードに身を包んだ渡来・桃夜は控室の壁にかけられた時計を見遣る。
     コンコンと控えめに扉をノックする音に「どうぞ」と答えれば、遠慮がちな声と共にドアが開いた。
    「お邪魔します」
    「ヨギリちゃん、来てくれてありがと~!」
     にこりと笑顔を浮かべて手を振る桃夜に千歳・ヨギリはぺこりと頭を下げてお祝いの言葉を口にする。
    「本日はお日柄も良く……お二人の新たな門出にぴったりですね」
     ……とは言ってみたものの。学生時代から一緒に住んでいたというし、外国で籍も入れていると聞いていた。そんな二人なので、式を挙げるといってもなんだか今更な気がしないこともないが、そんなことを口にするような無粋なヨギリではない。
    「桃夜先輩のタキシード姿はやはりカッコイイですね」
    「ありがとう~。ヨギリちゃんのドレスも可愛いよ。似合ってるね」
    「ありがとうございます。ところで、もう一人の主役は?」
    「んー、そろそろ支度も終わると思うんだけどな」
     まだかな、とそわそわした様子の桃夜が再び時計に目を向けた時、ガチャリと扉が開き愛しい待ち人――白いタキシードを着たクリス・レクターが姿を現した。
    「「あ……っ!」」
     視線を向けた桃夜とヨギリは同時に口にしたのはほぼ同じ感想。
    「クリス……ウェディングドレスじゃないんだ……」
    「タキシード……意外」
     結婚式という晴れ舞台を控えて緊張した面持ちのクリスだったが、二人の言葉に思わず「はぁ?」と素っ頓狂な声をあげる。
    「トーヤも、ヨギリさんも。何言ってるの?」
    「クリス先輩はウェディングドレスかと思っていたので。タキシードなのは意外でした」
    「え、ちょっとヨギリさん、変なこと言わないでね」
     ヨギリの言葉にクリスは動揺が隠せない。しかも、隣では桃夜が「ヨギリちゃん、もっと言ってやってよ!」とけしかけている。
    「ウェディングドレス着るならヨギリさんでしょ。似合うと思うし」
    「確かに! うーん、ヨギリちゃんの結婚相手、気になるな……お兄さんは心配だよ」
     相手はどんな人だろうかと想像を巡らせる桃夜を一瞥し、ヨギリはクリスに向かってぺこりと頭を下げた。
    「ありがとうございます。でもクリス先輩の方が綺麗ですよ。だから、ドレスも似合うと思います。モデルみたいで」
    「ヨギリちゃん、いいこと言うね~! オレ、クリスのドレス見たいな、見たいな~」
    「その白いタキシードも綺麗ですけどね」
    「うんうん、クリスは何を着ても可愛いんだけどね!」
     やいやいと好き勝手なことを言う二人にクリスははぁ、と大きなため息をついた。
    「ウェディングドレスなんて着るわけないじゃん」
     もしかしたら、気が変わってドレスを着てくれるかも……という密かな期待も虚しく桃夜はがくりと肩を落とす。
    「……無理でした」
    「桃夜先輩、気を落とさず」
     ヨギリに慰められた桃夜はすぐに復活。
     そして、クリスの隣に立つと耳元でそっと囁いた。
    「クリス、可愛いよ。可愛いよ」
     大事なことなので二度言いました。
     桃夜の言葉にクリスもくすぐったそうに小さく笑みを浮かべて口を開く。
    「トーヤのタキシード姿、かっこいい」
     と、その時、式場の関係者が準備が整ったことを告げにやってきた。
     いよいよ、二人の結婚式が始まる――。

     讃美歌、聖書の朗読、誓いの言葉。式は粛々と進み、いよいよ――指輪の交換。
     真新しい指輪を桃夜にはめてもらったクリスは彼にだけ聞こえる声で呟いた。
    「トーヤ、僕と出会ってくれて……ありがとう」
    「クリスも。オレと出会ってくれてありがとう」
     桃夜の一目惚れから始まったのが二人の馴れ初め。
     ガンガン積極的に桃夜がアプローチしてクリスを落とした日々も遠い昔のよう。
    「あれ?クリス泣いてる?」
    「ん?流石に泣きはしませんねー」
     気のせいか、と呟くと、桃夜はクリスの目じりをちょんと擦った。
     仲睦まじい二人のやりとりを見守るヨギリの胸にも熱いものがこみあげてくる。
    「本当に……おめでとうございます」
     白いレースのハンカチをぐっと握り締め、ヨギリは祝福の言葉を二人に贈った。
     顔を見合わせ、視線を交わし。指輪の交換を終えた二人は同時に正面へと顔を向ける。
    「トーヤ」
     愛しい人の名前を唇に乗せ。クリスは最上級の笑顔を浮かべて口を開いた。
     ――病める時も、健やかなる時も。
    「これからも、よろしく」
    「こちらこそよろしく、クリス」
     死が、二人を別つまで、永久に――。

    ●光源氏計画(最終章)
     重厚な扉の向こう側からは聖歌隊が歌う讃美歌が聞こえてくる。
     扉が開くのを待つ夢築・遥の腕をイルル・タワナアンナが掴む。
    「どうじゃ、遥! 似合っておるじゃろう?」
     急成長した見事なバストは純白のドレスを着ていてもわかる。
     憧れのウエディングドレス姿で得意気に胸を張るイルルに、白いタキシードを着た遥は柔和な笑みを浮かべて「良く似合ってるよ」と頷いた。
    (「さすがに相手が幼かったからここまで待ったけど……」)
     気づけば10年。イルルの故郷へ入り婿として向かう前にケジメとして日本で式を挙げていくことにしたのだ。
    「そろそろ時間だね、行こう、イルルちゃん」
    「うむ、参ろうかのぅ」
     差し出された遥の手にそっとイルルは手を重ねる。
     扉が開くと遥のエスコートで二人はチャペルの中をゆっくりと進み、祭壇の前に立つ牧師の前で足をとめた。
     厳かな雰囲気の中で執り行われる式を参列者席の最前列に座る岩永・静香はうっとりとした表情で見つめる。静香の視線に気づいた遥の顔がわずかに陰るもイルルは気づかなかったようだ。
    (「……静香には少し申し訳ないな」)
    (「いいなぁ、お二人とも幸せそうで……♪」)
     遥の心の内に静香は気付く様子もなく。親族席から2人を見守る彼女の前では新郎新婦が誓いの言葉を交わしていた。
    「永遠に愛することを誓います」
    「うむ……あっ、いえ、はい。誓います」
    (「イルルちゃん、頑張って……!」)
     慣れぬ言葉使いでの誓いの言葉にあたふたするイルルに静香は心の中でエールを送る。
     そして、滞りなく指輪の交換をすれば、次は誓いのキス。遥がすっと身を屈めてイルルのベールを持ち上げる。イルルがゆっくりと顔をあげた時、じっと二人を見守る静香と目があった。
    (「遥さんにはまだ秘密ですけど、大丈夫です?」)
    (「ああ、『アレ』じゃな? 分かっておるよ♪」)
     二人だけの内緒の会話を視線で交わし。大丈夫、と互いにウィンクでこたえる。
     遥と、イルルと、静香と。三人で幸せになるための秘密の計画がこっそり画策されていることなど遥は夢にも思っていないだろう。実は、今回の遥の婿入り自体がイルルと静香が企む計画の『ナイショの仕込み』なのだ。
    「イルル……」
     そんな内緒の計画がこっそり進んでいるなど露知らず。遥はイルルの顎に指を添え、二人は永遠に続くかのような幸せなキスを交わして愛を誓った。

     挙式を終えチャペルの外へと出てきた新郎新婦に降り注ぐライスシャワー。
    「結婚、おめでとうです♪ イルルちゃんも、遥さんも、お幸せに……っ!」
     満面の笑みを浮かべた静香に手を振って応える遥の腕をつんとイルルが突く。
     何? と顔を向けた遥に向かって、イルルは特上の笑みを浮かべて口を開いた。
    「愛しておるぞよ、遥っ!」
     そして、両手を広げて『お姫様抱っこをしてほしい』と猛烈にアピール。仕方がないな、という素振りで彼女を抱える遥だったが、その表情からは彼女が可愛くてたまらないというのが容易に見てとれる。
    「俺も、愛してるよ、姫様」
     遥に抱き上げられたイルルはそのまま手に持っていたブーケを青空へ向かって放り投げた。ぽーんと大きく弧を描いて宙を舞うブーケは、遥とイルルに見守られたままゆっくりと静香の元へと落ちてくる。
    「わ、ブーケがっ♪」
     零れんばかりの笑顔を浮かべてブーケを掲げる静香を見て、イルルは嬉しそうな声をあげた。
    「ほう、静香が取ったのかえ?」
    「静香に……? なんていうか、ある意味運命的、なのかね?」
     イルルと顔を見合わせた遥はうっすらと涙を浮かべている彼女の目元をそっと拭った。
    「わたし、絶対幸せにしますよ……!」
     小悪魔っぽくウィンクする静香にイルルと遥も微笑みを浮かべて頷く。
     ――遥がその言葉の意味を正しく理解するのは、もう少し先のお話。

    ●見習いサンタへの贈り物
     チャペルのステンドグラスから差し込む柔らかな日差しが照らす赤いバージンロード。 一歩ずつ、一歩ずつ。ゆっくりと進むサンディ・グローブスの隣に立っているのは、大好きな恋人――リュータ・ラットリーだ。
    「わたしの夢、また一つ叶っちゃいましたね」
     まっしろなウェディングドレスを纏ったサンディは、共に歩くリュータにだけ聞こえる声でこそりと囁いた。片言だったサンディの日本語もすっかり流暢になったことに年月を感じる。
    「おー。残った夢、あといくつだ?」
     サンディに話しかける時はついつい身を屈めてしまう。10年間あまり変わらぬ身長差を近づけようと、無意識のうちに曲がりかけた背筋をリュータは慌ててしゃんと伸ばした。照れ隠し半分、無邪気な笑顔で問いかける彼は昔のまま。
     そんなリュータの新郎らしからぬ振る舞いに目を細め、嬉しそうに残っている夢の数を指折り数えるサンディだったが。
    「この日まで、ずいぶん待ちました……」
     感慨深そうに彼女はふぅと大きく息を吐く。
     仕事の都合で日本を離れることの多かったリュータに付いてサンディもまた世界を飛び回り、やっと迎えた、今日という日。
    「待たされるのは、慣れてますけどね?」
    「…………」
     悪戯っぽい笑みを浮かべて囁くサンディにリュータは何も言い返せない。バツが悪そうに黙って鼻の頭を掻くも、すぐににかっと太陽のような眩しい笑顔をサンディに向けた。
    「でも、これからはずっと一緒だぞ」
     サンディは思いがけない彼からの言葉に思わず目を丸くする。じわりと目頭が熱くなるのがわかった。
    「リュータ、さん……」
     涙を零さぬように必死に堪えながらサンディはリュータに続いて誓いの言葉を口にした。そして、指輪の交換を終え、次は誓いのキス。ヴェールをあげるためにそっと手を添える彼の名前を呼ぶ。「何だ?」と顔を向けるリュータにサンディは満面の笑みを浮かべて口を開いた。
    「……サンディの人生、リュータさんに、プレゼントしまスっ!」
     まるで10年前に戻ったかのようなサンディの口調が懐かしくて。リュータは緊張も忘れていつもと同じように陽だまりのような笑顔で即答する。
    「おう、貰う」
     彼女の気持ちと、人生を喜んで受け取って。
     これからも共に歩む相棒として。
     夫として。
     昔と変わらず輝く小さな星に自分の想いと人生を捧げよう――。
     だから、と彼は窮屈そうに身体を屈めてサンディの耳元でそっと囁いた。
    「俺のも、貰ってな?」
    「リュータさん……」
     見習いサンタクロースだった少女に届いた最高のプレゼント。
     胸元に抱えたブーケをぎゅっと握りしめ、サンディは何度も何度も頷く。
    「……はいっ!」
     昔みたいな背伸びとともにキスを交わす二人の頭上では、静かに祝福の鐘の音が響いていた。

    ●未来を照らす希望の光
     静かなお堂に厳かな雅楽の音色が響き渡る。仏様が見守る前で若宮・想希は隣の東当・悟にだけ聞こえる声で彼の名をこそりと呼んだ。
    「和装、良く似合ってますよ」
    「そうやろう、ちょいワイルド味の渋さマシマシや」
     どや顔の悟に想希は穏やかな笑みを浮かべて頷く。
    「成人式の頃よりもぐっと渋味が増してますね」
     ――落ち着いてカッコイイです。
     想希の言葉に悟はさらに嬉しそうな顔を見せた。
     そして、さらに一つ年を重ねた想希に祝いの言葉を送りつつ。
    「貫禄出てきたな」
    「ふふ、ありがとう」
     袈裟装束の胸元を撫でて笑みを浮かべる想希の視界の端に見知った顔が映る。入堂した僧侶が仏前に向かってこれから結婚式を執り行う旨を報告し、式は始まった。
     そして、仏前に供えてある念珠を手にとると二人に授ける。
     悟は両手で念珠を受け、左手の四指にかけた。
    「十年、本当に早いですね」
     受け取った念珠を同じように左手の四指にかけながらぽつりと想希は呟いた。
    「大変で目まぐるしかったけど……楽しいことばかりで」
     ほら、と指さす彼の目元には見事な笑い皺が刻まれている。
     見た目はあまり変わらぬ想希だったが、悟が知っている10年前よりも穏やかで優しげな笑みを浮かべていた。
    「いつの間に幸せ想希になっとったんや」
     悟は笑いながら袈裟姿の想希を小突き、きゅっと目尻を指で摘まみ。
    「俺も今から作ろうか、笑い皺」
     ふふ、と顔を見合わせ笑みが零れるタイミングも二人一緒で息ぴったり。
    「明日から念願のカフェもオープンやな」
     ちょっと寄り道したけど、と悪戯っぽく笑う悟に想希も嬉しそうに頷く。
    「店っぽないかもやけど、クラブも改修したし。ようけ稼いで広げよな」
    「ええ……勿論。沢山の幸せの味を作ってどんどん広げていきましょう」
    「任せたで、パティシエ!」
    「はい、任されました」
     こんな何気ない会話の一つ一つが愛おしい。
     幸せを噛みしめながら悟は参列者の方へちらりと視線を向けた。
    「……おとなしゅう座ってくれとるやろか」
     大学時代から続いた辛い研究が頭をよぎったのは束の間。
     満願が成就した時の嬉しさと、日々の成長を見守る幸せで胸がいっぱいになった。
     だから、今日という特別な日を共に迎えることが出来た喜びは想希も同じ。
    「……大丈夫、良い子でちゃんと見てますよ」
     良かった、と悟は胸を撫で下ろしながら想希の左手を取り、指輪をはめる。
    「想希、15年前からずっと愛してるで」
     不意打ちともいえる誓いのキスに一瞬想希は目を丸くするも、すぐに嬉しそうに顔を綻ばせた。
    「俺も15年前からずっと、これからも……いや、来世までも愛しています」
     現世の縁が来世でも繋がりますように――。
     その願いは二人、同じ。
    「さぁ、これから第2の人生はじめるで!」
     悟の言葉にしっかりと想希も頷く。
     どんな未来を想像しても楽しいことしか浮かばない。
    「悟、俺たちは幸せ者ですね」
    「そうやな、世界中探しても俺たちほどの幸せ者はおらんな!」
     悟と想希は顔を見合わせると、もう一度そっと口づけを交わした。
     来世もまた、貴方と結ばれることを願って。

     今日という新しい記念日を、貴方と共に。
     来年も、再来年も、10年後も、ずっと一緒に迎えることが出来ますように。
     そして、願わくば貴方と一緒に沢山の記念日を過ごすことが出来ますように。

    作者:春風わかな 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年10月10日
    難度:簡単
    参加:10人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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