幸福色の時をかさねて

    作者:篁みゆ

    『拝啓 寒気ことのほか厳しく六花も見られる頃。
     皆様におかれましては いよいよご清祥のこととお慶び申し上げます。
     私たちはこのたび結婚式を挙げ、新しい第一歩を踏み出すことになりました。
     つきましては 日頃よりご交誼いただいております皆様により一層のご指導を賜りたく、
     ささやかながら小宴を催したいと存じます。
     ご多用中 誠に恐縮ではございますが、
     ぜひご出席をいただきたく ご案内申し上げます』

     神童・瀞真はそう書かれたカードを手にし、微笑みを浮かべる。
     あれから10年の月日が経過し、しばらく会っていない者もいる。
     そんな者たちが集まれば、さながら同窓会。

     季節は冬。
     会場は大きなホテル。神前式や仏前式を行える和風の建物と、教会式を行うことが出来るチャペルが敷地内にあり、もちろん人前式も行うことが出来る。披露宴用のホールや、遠方からくる参列者のために部屋を用意することも容易だろう。子連れでも安心出来るように、プランナーやスタッフが配慮してくれる。
     二次会・三次会用のレストランなども近くにあるので、様々なニーズに対応できるだろう。
    「ああ……楽しみだね」
     瀞真は更に優しい笑みを浮かべた。

     向坂・ユリアもまた、カードの文面を何度も読み返していた。
    「皆さん、どうしていらっしゃるでしょうか……」
     ユリアは高鳴る鼓動を押さえ込みつつ、微笑んだ。


    ■リプレイ

    ●今日の善き日に
     神殿へ続く道。羽織袴姿で新婦を待つ悠樹の容貌には、10年の月日を重ねた今でもまだまだ幼さが残っている。けれども今日の彼は、誓いを結ぶ新郎。
    (「幼い頃からずっと大きくなったらお嫁さんになってって言ってきて、そしてとうとう今日を迎えたよ」)
     ずっと本気だった悠樹。けれども幼さゆえ、年の差故にその本気を信じてもらうまでに時間はかかってしまったけれど。
     するり、するり……衣擦れの音が近づいてくる。視線を向ければ、巫女に先導された白無垢姿の薫子の姿が。
    (「今も昔もかわいいらしい……弟みたいに思ってましたけど、まさかこうなるなんて……分からないものです」)
     自らの行く先に悠樹の姿を認め、薫子は思わず笑みを浮かべる。10年よりももっともっと二人で重ねてきた月日が、自然と思い出される。
    「お姉ちゃん、すごくきれい」
    「ふふ、そう言ってもらえると、嬉しいですよ。旦那様?」
    「旦那様……」
     そう呼ばれるとなんだかくすぐったさと共に自覚のようなものが湧き上がってくるから不思議だ。
     ふたりだけの結婚式。参列者は他に居ない。静謐な空気が、今まさに夫婦となろうとしている二人を見守っている。
     神主の祝詞を聞き、三々九度の盃を交わす。紡ぐ誓いの言葉は二人同じもの。
     ――これからふたりで明るい家庭を築き、子孫繁栄に励み、変わらぬ愛を誓います。
     悠樹が薫子の細い指に指輪をはめ、薫子が悠樹の男性らしさを帯びた手に指輪をはめる。
    「愛してるよ、お姉ちゃん」
     近づく彼の顔。そっと瞳を閉じて薫子はくちづけを受け止めた。
    「幾久しく。よろしくお願いいたします」
    「……でも、夫婦になったのにいつまでもお姉ちゃんじゃないよね」
     薫子があまりにも素敵に微笑うから、照れくさくて悠樹は少しばかり話題をそらす。
    「どのような呼び方だってかまいません。気づけばそういうのは決まっている物でしょうから」
     薫子のその言葉から感じられるのは、これからともに進む未来。幾久しく、幾久しく――。

    (「結婚式は神社で白無垢でしたからねー……ウエディングドレスを着るのも一生に一度の夢といいますか」)
     それで二回も式をしてしまうのは贅沢だろうか――その思いはまだ消えないけれど、それを許してくれた夫や家族たちには深く感謝をしている。眠兎が新婦控室でそんな事を考えていると、扉がノックされて。
    「ミネットさん! 来てくれたんですね」
     姿を見せた彼女の名を呼べば、紫陽花色のドレスに身を包んだ彼女は、感慨深さに震えるようにしながら眠兎の前までやって来る。
    「ええ、ジュラの森から駆け付けた甲斐がありましたとも! ふふ、本当にお綺麗になられましたね、眠兎さんは」
     ミネットの言葉にはにかむように笑った眠兎。そんな彼女に、ミネットは結婚祝いの贈り物の包みを差し出した。許可を得て眠兎が包を開ければ、自然の香りが彼女の鼻孔をくすぐる。手作りのポプリが、眠兎に触れられるのを待っていた。
    「ルピナスの花言葉の様に、貴女の道行が常に幸せなものであります様に。ふふ、呪い士が作ったものですから、きっと効果覿面ですよっ!」
    「ありがとうございます」
     眠兎は嬉しそうにポプリを抱きしめた。
     結婚式から10年の節目として披露宴を行う梟と眠兎。扉の前に立つ梟は、だんだんと近づいてくるウエディングドレス姿の眠兎に思わず見とれて。
    (「何年経ってもやっぱり好きだなー」)
     想いが変わらぬことを再確認して、綺麗だよと彼女に告げる。
    「オレはどうかな?」
     問うタキシード姿の梟に、眠兎はふにゃりと笑いかけた。
    「――いえ、似合ってますです。格好いいですよ、梟さん」
    「じゃあ行こうか、奥さん♪」
     差し出された手を取る。伝わる緊張に眠兎はかえって安心してその手をぎゅっと握り返す。
    「はい。一緒に行きましょう、あなた」
     扉が開かれ、スポットライトを浴びながら席まで進み行くふたり。
     すっかり仲良くなった互いの家族と言葉をかわし合ったり、茶化されたり。けれどもそれがまた幸せの証のようで、二人から笑顔が消えることはない。
     自席でそんな二人を見ていてたミネット中に蘇るのは、学生寮で共に過ごした記憶。
    (「闘いの日々で心が悲鳴を上げている時も、貴女が話し相手になってくれるだけで安らいだ」)
     そんな眠兎が今、あんなに幸せそうな顔を見せている事が、とてもとても嬉しくて。お色直しに一時退場する二人に、精一杯拍手を送った。
    「約束、守れたかな?」
     梟からそんな言葉が漏れたのは、着替えを終えて会場に戻る前。なんとなく、出た言葉。恋人同士になった日、交わした幸せの約束はもちろん二人共覚えている。大切な、大切なものだから。
    「ええ、幸せです。……きっと、これからも、ずっと」
     そっと寄り添った眠兎の答えに、紡ぎかけた「オレはまだまだだと思うんだけど」という言葉を飲み込んで。
    「約束、最後まで守って下さいね?」
     もちろん、答えて二人は再びスポットライトの下をゆく――。

     以前の結婚式の二次会で偶然ユリアと再会した玖耀。約束を違えること無く彼女は玖耀の店を訪れ、そしてそれからは頻繁に通って来ていた。訪れる時間がまちまちなのは彼女の仕事ゆえだろう。それでも週に何度も、ほぼ毎日のように顔を合わせて学生の頃の話から今の話まで、話は尽きること無く。けれども時には同じ空間に共に在るだけ――そんな過ごし方をしていた。
     ――三週間ほど、仕事で日本を離れます。
     そう告げられたときは彼女の無事の帰国を祈る言葉を捧げた。時折メールも送りあった。けれども顔を、声を感じられないその時間が、10年の間離れた場所においてあった玖耀の気持ちを膨らませていく。
     帰国を知らせるメール。夜遅い便で到着するから空港近くのホテルで一泊し、翌日に店に寄ると書かれていて。このまま数時間、遅くとも十数時間待てば店で彼女に会えるのに――待つのがとてももどかしく感じて。
     今までの自分からしたら信じられないほど衝動的に動いた玖耀を、ユリアは優しい笑顔で出迎えてくれて。ホテルの最上階のバーで隣り合って座った。
    「初めは見守るつもりが、いつしか貴方を想う事が幸せで、重ねた時は掛け替えのないものになっていきました」
     紡がれる言葉に、ユリアは玖耀を見つめて聞き入る。
    「時間がかかってしまいましたが、これからは愛する貴方と幸せな人生を紡いでいきたい」
     そっと、彼女の手を取り、視線を絡める。
    「ユリアさん、結婚してください」
     潤んだ彼女の瞳から、ほろりと零れる雫。言葉にならぬのか、口を開いては閉じてを繰り返した後、彼女は深く頷いた。

     淡いラベンダーのドレスに身を包んだセカイは、グレーのスリーピーススーツに身を包んだ瀞真と共に花嫁控室を訪れていた。ロングトレーンのウエディングドレスを身にまとったユリアの姿を見て、感極まるなというのは無理な話で。
    「ユリアさん……とてもお綺麗で……」
     思わず涙ぐむセカイに「まだ早いですよ」「まだ早いよ」との声が。
    「これでは、私の式でのユリアさんを笑えませんね」
    「二度同じ事を言うことになるとは思わなかったよ」
     瀞真の言葉にユリアも笑顔を見せ、セカイも泣き笑いの表情。恐らく似た者同士なのだろう、それが、嬉しい。
    「ユリアさんと初めてお逢いした依頼で一緒に謳い合えた事……あの時に歌の力を信じられるようになり……貴女の歌のファン1号になったのですよ」
     出会えた奇跡に感謝――手袋に包まれた彼女の手を取り、視線を合わせるセカイ。
    「私も……セカイさんに出会えてよかったです」
     瞳の端に涙を浮かべて、ユリアは目を細めた。

     玖耀とユリアが選んだのは、親族友人やこの10年で関わった方々に参加してもらう人前式。
    「ユリアさん」
     会場の入り口で彼女を待っていた玖耀は、その姿に目を細めて。仕上げにと白薔薇と桜の花冠を彼女へ。
    「私も、玖耀さんに」
     白のフロックコートに空色のアスコットタイ姿の玖耀は、見慣れた和装とは違い、ユリアの鼓動を早くする。彼女のブーケと同じ、白薔薇とブルースターを合わせたブートニアを彼につけるその手も、少し震えていた。
    「行きましょう」
     差し出された玖耀の腕に手を添えるユリア。沢山の人に見守られながら、祭壇の元へ。
    「本日、私たちは、ご列席くださった皆様の前で夫婦の誓いをいたします」
     列席者皆に証人となってもらい、誓いの言葉を述べていく。
    「永遠に愛し、幸せにすると誓います」
    「誓います」
     そして交換されるのは、ブルーとピンクのダイヤが寄り添う指輪。
     結婚の成立が宣言されると、溢れんばかりの拍手が。嬉しさで零れたユリアの涙を、玖耀が優しく指で拭った。

    「10年か、時が経つのは早いな。神童殿、昔は依頼で世話になったな」
    「神童先輩、昔はお世話になりました!」
     式の後、披露宴会場へ移動する指示が出るまでの間に瀞真に声をかけたのは、七火と南桜。
    「大分昔ですが、闇堕ちから救い出して貰った有馬です」
    「七火君に南桜君か……見違えたよ」
    「皆さんのおかげで大学生になれました。今は、友達のイヴちゃんと学科は別ですが、大学生活を送っています」
     瀞真が見つけた時、南桜はまだ小学校に入ったばかりだった。10年前の南桜はまだ小学生。それが今は。
    「十数年前に闇堕ちから助け出した子……有馬が今や、大学生。妹イヴと一緒に大学に通う年になるとは」
     苦笑しつつ時の流れを否応なしに感じている七火の気持ちに瀞真も同感だ。
    「僕たちもそれだけ年をとったってことだね……今は?」
    「現役を引退して学園近くの歴史民俗資料館で働いている。活動は地味だが、遣り甲斐はあるな」
    「わたしは、鑢先輩に進路を相談して、今は工学部で頑張ってます。オイルと鉄の生活ですが、充実してます」
     二人の今に納得あるいは驚く瀞真。そんな三人を遠巻きに見つめるイヴは。
    (「花嫁さん綺麗だったな♪ 今日は身近な人に幸せになって貰うために頑張るぞ」)
     ひとり、気合いを入れていた。
    (「兄ちゃんには、そろそろ身近に思ってくれる人と一緒になってほしいんだよ」)
     イヴの考えるその相手は、南桜である。南桜を闇堕ちから助け出してから、10年以上イヴや南桜を陰日向に見守ってくれた七火。
    (「そろそろ自分の幸せを考えて欲しいぞ。一生独身のままじゃ悲しすぎるぜ。いい加減南桜ちゃんの気持ちに気づけ!」)
    「兄貴!」
    「失礼、妹が呼んでいるようだ。先に失礼するぞ」
     自分を呼ぶ声に気づいた七火は、一足先に瀞真の元を去る。それを見送る瀞真の腕を、南桜はぎゅっと引いた。
    「実は、今日は、10年以上見守ってくれた鑢先輩に、お付き合いをしたいと告白します!」
     南桜のその手は震え、涙目になっている。瀞真は少し驚いたものの、優しく微笑んで。
    「大丈夫。僕の予知によれば、絶対に悪いようにはならない。だから、行っておいで」
     本当はエクスブレインとしての予知ではないのだけれど、彼女が背を押してほしそうに見えたから。
    「はい、ありがとうございます!」
     きゅ、と目を拭いて南桜は駆けていく。向かうのは教会の離れ。話があることはすでに告げてある。イヴによって導かれた七火が、すでにそこで待っていた。
    (「かなり緊張した面持ちだが……ということは、かなり重要な事だろう」)
     いったいどんな話だろうか。重ねた年の分だけ様々なことを受け止められるようになったはずだが、それでも身構えてしまう。
    「……、……」
    「有馬?」
     七火は俯いて口を開かない南桜を呼ぶ。七火の死角からイヴが応援してくれているのが、南桜には伝わる。きゅっ、と拳を握りしめて、南桜は顔を上げた。
    「先輩に今まで守って貰った分、これから私が支えていきたいです」
     震える声、拳を握りしめてなければ、涙がこぼれそうだ。
    「貴方の事が好きです。一人の大人として見てください」
    「……、……」
     とっさに言葉が出なかった。七火は言葉を探して、目の前で今にも崩れ落ちそうな彼女を見つめる。とっくにランドセルを卒業した彼女を、日に日に少女から大人へと変化していく彼女を見ていたはずなのに、何となく認めたくなかった気がする。
    「有馬……いや、南桜」
     七火は屈んで南桜の手を取り、強く握られた指を開かせる。そして、その手を包み込んで。
    「ありがとう。もう、立派な大人なんだな」
     拳の中にとどめておいた涙が、南桜の頬を伝ってゆく。飛び出してきたイヴが、二人の上へ花びらを降らせた。

    「続いては新郎親族の蒼慧紗葵様からスピーチを――」
     玖耀とユリアの披露宴。玖耀の親戚である紗葵は、着物をアレンジしたドレスを纏い、マイクの前へ立つ。彼女の隣の席に座っている少女は、紗葵とお揃いの着物ドレスだ。モデルとして活躍していた彼女がモデルを辞めたきっかけともなった、養女の楓奏(ふうか)は9歳。頑張って、と胸元で小さく手を振っている。
    「この10年で世界の有り様は大きく変わり、これからも変わっていくことでしょう。しかし人の本質はさほど変わらず、愛情や思いやりといった人の情で支え合っています」
     美しい髪に清楚な容貌、だが凛としたその雰囲気はモデル時代からちっとも衰えていない。
    「私も娘と出会い、愛の尊さを知りました。新郎新婦のお二人も、その愛を大切に育み、末永くお幸せであられますように」
     新郎新婦席へと視線を向ければ、幸せそうな二人の姿が目に入った。
    「瀞真さん、あの……」
     紗葵のスピーチに拍手を送りながら、セカイは隣の席の瀞真へと小声で話しかける。
    「お聞きしていいものか迷ったのですが……その、ご予定は……?」
    「予定……珍しいね、セカイ君がこういう事を聞くなんて」
     もちろん予定とは結婚の予定のことだ。普段のセカイだったらこうして訊ねることはなかっただろう。
    「いえ、あの……お伝えするか迷ったのですが、なぜか私に訊ねられたり、噂を聞いたりしたものですから」
    「噂?」
    「ええ。『親に決められた許嫁がいるけれど、結婚したくないらしい』とか『ユリアさんと結婚すると思ってた』とか、『昔から心に決めたひとがいる』とか、他にも……」
     いくつか告げられた噂の内容に瀞真は嫌な顔をするでもなく愉しそうに微笑んで。
    「男も30超えて独身だと色々言われるから、とは実家からもよく言われているけれどね……面白い噂だね」
    「『10年前に結婚できる年齢ではなかった子が、成長して会いに来てくれるのを待っている』というのも有りましたね……」
     少し呆れたように告げるセカイ。
    「ああ、それはロマンティックでいいね。そういうことにしておこうか」
    「え、そういうことにって……」
     自分のことなのにそういう言い方をする彼に戸惑うセカイとは反対に、瀞真は嬉しそうな顔をしている。だって、先程似たような現実に出逢ったばかりだったのだから――。

    ●善き日は続く
    「結婚式、すてきでしたね」
    「ええ、素敵な結婚式でした」
     二次会会場の片隅で、花之介とマーテルーニェは昼間の式を思い出していた。
    「女性はドレス姿に憧れるもの、と聞きましたけど、お嬢様の場合は白無垢かな。興味はないんですか」
     グラスを傾けながら向けられた問に、マーテルーニェはしばし黙考したのち。
    「人並み程度には着飾りたいという欲求はあるとは思いますが……憧れると言う程の熱や夢はない、気がしますね」
     冷静に考えているのがその証左かもしれないと思う。
    「武蔵坂学園に入って、色んな奴らに出会って、大学を出て、本格的に家の再興に努めて」
     ひとつひとつ確認するように歩いてきた道を振り返る花之介。
    「お嬢様の執事になってからずっと、退屈することがなくて助かりますよ」
     昔を懐かしむようになったのは老けた証拠ですかね――そう告げれば。
    「老け込むのは早すぎますよ、まだまだこれまでの二倍くらいは生きるのですから」
     グラスを手にし、マーテルーニェが少し呆れたように告げた。
    「仰る通り。むしろこれからが長いか」
     ――そしてそう、その時も……隣にあなたがいるのかしら?
     ――じーさんばーさんになっても、きっと隣りにいる。
     沈黙の中を行き来する想い。
    「わたくしも助かっていますよ。退屈しのぎだとしても」
    「やだなー。仕事は本気でやってますよ」
     らしくない感傷気味な思考に引き摺られそうになったマーテルーニェにチクリと刺されても、花之介は表面上堪えていないようだ。
    (「執事として拾ってもらった恩と、主という家族を支えるのがお役目ですし」)
     空になったグラスを置く花之介。マーテルーニェのグラスの中身の残量に目をやり、次の飲み物を取りに行くべく望みを聞こうとしたその時。
    「退屈かどうかなんて考えたこともなかったのは、あなたのおかげだったんでしょうね」
     二次会の雑音に紛れてしまいそうな声で紡がれた彼女の言葉。しかし花之介がその声を聞き逃すはずはなく。
    「あなたと一緒だから、退屈なんて感じないんです」
     わっ、とした場内の盛り上がりに彼の言葉が重なる。けれどもそれは、きちんと彼女の耳へと届いていることだろう――。

     すべての人がこれから重ねゆく時もまた、幸福色であらんことを――。

    作者:篁みゆ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年10月19日
    難度:簡単
    参加:13人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 4/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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