喝采

■リプレイ

　今日び清々しい小春日和。
　抜けるような青空が参列者を迎える。
「――海外にまで招待状を送るとは」
　マメだね、と純白の封筒を手に久々の日本を訪れたのは玉。
　隣には偶然にも空港を同じくした陽司がカメラを掲げ、
「NY市長の記者会見を蹴って来た。男は時に友情を取る！」
「静様のお祝いと聞いて、わたくしも転がって参りましたわ！」
　そこに残暑が文字通り転がり込み、あの頃の感覚が蘇ってくる。
　見れば向いからも懐かしい顔ぶれが歩いてきて、
「それにしても狼が羊に食べられるとは……構わんか。世界は変わったんじゃもんな」
「いつの時代も女性は強いものですよ」
　ヘルメットを取った綴（素顔だッ！）に、赤頭巾を取った木乃葉。
　そして、
「狼……羊……？」
　二人の会話に笑顔を添える（意味は分かっていない）七ノ音が合流すれば、進む先は【Fly High】の仲間が待つ披露宴会場。
　一方、撫で斬りならぬ「撫桐にした」鈴音を伴って現れた娑婆蔵は、機を同じくして着いたマキノと合流する。
「件の保護活動はまさか托鉢だけで行脚なすってる訳じゃァ」
「ええ、ご当地の人情で歩けているわ」
「人情で」
　会話を弾ませ受付へ向えば、そこに佇む影に驚かされ、
「花檻の兄貴！」
「ティノ先輩！」
　今や夫婦となった二人は、妻は家業の茶商を継ぎ、夫は古武道の普及に七海を渉る多忙の身。
「人前だと典雅な英国淑女だけど、二人の時は甘えたいアピールが可愛くてね」
「ふふ、全く殿方とは見栄を張りたがるのですから」
　へらり惚気貌を流眄に見たティノは闇影に恐竜を操り、
「互いの関係を確かめておきませんとね。あなた？」
「嘉日に流血沙汰は御控えをー！」
　神速で式場へ向かう伊織に皆が続いた。

　結婚式場の控室を訪ねた優奈が新郎の手を取る。
「良い男になったな」
　手袋越しにも痩せ細った感触が伝わろう、ノビルがハッとするや優奈は言を重ね、
「倖せになれよ。約束だ」
「……日下部同盟に恥じぬ男になるッス」
　叶う筈のない願いを叶える術を探し続ける――覚悟を視た男は渾身のグータッチを交した。
　向かった式場には参列者が笑顔を揃えており、錠は己が心臓を叩いた拳を上に、力強くサムズアップ。
「胸張ってけ。お前は俺が認めた漢の中の漢だ」
「押忍！」
　勇気を得たノビルは背筋を伸ばし、開扉に溢れる光の先、花嫁を迎える。
　わあ、と声が響いたのは、その美しさに。
「依頼で何度もご一緒した、可愛くて素敵な夜奈さん。今日も凄く綺麗なのです……！」
　陽桜が思わず胸に手を宛てる。
「ヤナは本当綺麗になったな。純白のウェディングドレス、よく似合ってる」
「えぇお顔や……立派に花嫁さんしてはる」
　葉月は玲瓏の眸を細め、まり花は紫紺の袖に嘆声を隠し。
　千波耶とイチはエスコートを務めるジェードゥシカに感無量の涕。
「ノビルくんにヤナを手渡す後ろ姿……やだもう泣いちゃうじゃない」
「うぅ、おめでとうじいちゃん……ずっと守ってきたお孫さんはあんなに綺麗で、花婿のノビルくんは最高にいい奴だ」
　ヴァージンロードを歩く時は彼と、と決めていた夜奈は、老紳士の手に感謝を置き、大切なひとの傍へ。
（「ずっと、守ってくれてありがとう」）
　導き手はノビルと代わり、それからゆっくり、慥かな歩みで進む夜奈を、時生は凛と見守る。
「共に生きて欲しいと希い、私と皆と生きる事を選んでくれた夜奈。貴女の幸いを永久に祈るよ」
「死にたがりに死に場所以外の居場所ができたんならめでてぇわ」
　身内に手を掛けた同士、引き摺る傷の形が似た葉も祝福する。
　叶世は満ち満つ笑顔の中で輝く天藍を豊寿き、
「私を守り暖かい幸せな気持ちをくれてありがとう。ここからまた貴女の物語始まるんだね」
　と、ふわり。
　夜奈はあれから随分と伸びたオトモを見上げ、
「ねぇノビル。わたしはまだまだお転婆だけど、これからずっと、そばにいてくれる？」
　そっとベールをあげたノビルは、是の返事に代わる微笑を注ぐ。
「奥様。誓いのキッスは何処に？」
　望む処へとは言いつつ、口付けは奔放に頬へ額へ、そして唇へ。
　これには朋恵が頬笑をひとつ、
「きっと二人には、最初から倖せのお裾分けを貰っていたんだと思います」
　学園祭、芸術発表会……沢山の縁が縒り合った賜物と、今日び結ばれた二人に拍手を添えた。
　挙式後、倖せのお裾分けをしたいと願い出た夜奈は、ブーケを渡さんと後ろを向く。
「誰か良縁掴めるといいね」
　人生がより素敵になる、とは二児を授かった時生が証。
　蓋し葉月らは一歩を譲り、
「バウリニューアルやってもいいんだけどさ、俺は十分倖せだから」
「僕も日々倖せなので……えっ、くろ丸行くの？」
「うぉふ！」
「あ、ロッテまで……！」
「ナノナノ～」
　乙女ら、出陣。
　碧落を泳ぐブルースター、その落下地点に居合わせた錠は『幸福な愛』が地につかぬよう手を伸ばすも、それは直ぐ傍の者へ。
「本能的に掴んじまったけど、これは次の世代へ、幸運を祈って」
「わ……」
　渡された叶世は幸運の馨に驚いたが、青く小さな星型の花に夜奈を重ね、そっと抱える。
　皆の幸を願いつつ、己が其を得るに不器用な相棒には葉が一言、
「祝福を願って鳴り響く喝采はお前にも降り注いでいるんだ。簡単に手放すんじゃねぇよ」
　傍らの千波耶は、ブーケからこぼれた花をハンカチに包む。
「これは押し花にして、今日の写真に添えましょう」
　またひとつ、思い出を増やして。
　ブーケトスに歓声が湧く中、陽桜は花婿の所に行き、
「あたしの良きライバルなノビルさん。夜奈さん泣かせたら承知しませんからね？」
「永遠の好敵手、陽桜の姉御。これからは倖せ競争っす！」
　ビシリ、敬礼を交す。
　時にイチと朋恵は顔を見合わせ、
「今日はあの棒……光らないよね……」
「またヲタ芸、見たかったです……」
　安心して欲しい。
　あの輝きとキレはこの後の余興で見られた。

　モッチア事件を機に出逢った雁之助と大地は、当時その紲に絆されるとは思わなかったが、二人目を宿したお腹が目立たない今が頃合いと華燭を燈す。
　大地は結城紬を用いた翠のドレスにトチノキの花を飾って華やかに、
「自然体で居られる相手って貴重っすからねえ、おいら的には凄く幸せっすよ旦那様？」
「一緒に笑っていられるようになったのが嬉しいし、二度と失いたくないって心から思うよ。これからも宜しく、僕の奥さん」
　雁之助は愛し妻の晴姿にふわり瞳を細め。
　二人の和やかな式を見守ったカンナは、水貝家の長男を連れて桐紋の同窓会に顔を出す。
「ほら柳也、ねーちゃの友達に挨拶じゃぞ？」
　義弟の可愛さを知る彼女なら、向かい来る幼子の活発が先ず瞳に入ろう。
　その後ろにはスーツを伊達に着熟した理央が居て、組員らに家族を紹介する。
「妻の燈と、灯里と燈理はいくつになったかな」
「夫がお世話になってます。ふたりはあいさつできるかなー？」
　ぺこり一礼、辿々しく二本の指を見せる双子らを「よくできました！」と撫でる燈と二人、子にメロメロなおしどり夫婦。
「ここに集まる人達は、僕の……えーっと」
　友は兄弟で、組長は親で。漢組相手に派手にドンパチした金筋だとは、にしゃいの子らにどう言おう。
　何せ未だ背負う者は居て、
「茨木の！　割と元気そうでござんすね！」
「借金が三億から更に膨れ上がったって聞いたけど大丈夫？」
「やあ、組長に神坂さん……どしたんです、そんな死人に会ったみたいな顔して」
　あれからマフィアの戦艦やら銀河侠客の人工衛星やらを沈め、天文学的返済額を抱える一正だが、まぁ、国家間の問題解決とか蟹工船とかで祝いの席に顔を出せる位は生きている。
　蓋し音信が途絶えた者も居て、
「わんこちゃんは、来ないわねー……おかしいわねー……」
「もしや、と思いはしやしたが」
　大衆媒体で連絡を試みたものの、結局、わんこは見えず。
　唯、なんやかんやに見舞われていたとしても、「何処かで無事にやっているだろう」と思わせる何かが彼女にはあり、そして、きっとそうに違いないのだ。
「とまれ此処に集まった者は息災で何よりじゃ」
「サフェロントン！　ファムはすっかり見違えて！　組長様はもう一廉の頭目のお顔ですわね」
　養羊家となったカンナは稀少種の保護等に勤しみ、雛はブライダルドレスデザイナーとして活躍中。
　鋼糸を操った殺戮の指は今や美し花を連れ、
「さぁ、ご挨拶なさって？」
「むきゅ、紹介されるの～、えすてるなの～」
「ヒナのお嫁さんですの」
「ほにゅ、なるなるおよめさん～、雛ちゃんとけっこんするの～」
　雛のドレスのモデルをしていたエステルは、親和会に呼ばれた意味を知ってもふもふ、世界に溢れるらぶのひとつとなる。
　旧友を最も驚かせた美貌のファムはスライドの上映中。
「少し昔の事話しましょう？」
　カチコミシルブプレ。
　貧乏姉妹の名演技、そして茨木伝説の幕明け。
「色んなヤクザを吸収したっけ……懐かしいわね」
　嘗ての戦いが色鮮やかに蘇り、今や灼滅者を引退した鈴音もモノクルの奥の眸を細める。
「流石に銭湯で紋々した写真は出せないわね」
「無人島でドラム缶風呂に入ったのも良い思い出よ」
　温泉同好会の耀とマキノはグラスを手にガールズトーク。
「本当に……タノシカッタね」
　ファムの嘆声は皆の声を代弁するよう。
　一同の注目を集めたスライドは、万雷の拍手に結ばれた。

「静さん、仁恵さん、錫婚おめでとうございます！」
　紺の羽織袴に微笑を湛えて言祝ぐ保、その後に続く顔ぶれは青春を共にした仲間だ。
「嫁さんは闘技場で見知った顔だが、うん、世の中わかんねえな」
「お二人の結婚を聞いた時は驚きましたが、夫婦円満ですね！」
　煌希は家族に囲まれる友を感慨深げに、噤は身を屈めて幼子らにご挨拶。
「馴れ初めは学園祭の占いの館だっけ」
　同じ場に居た郁は環のように繋がる奇縁に瞳を細め、
「郁おねえちゃん、それ詳しく！」
　詠は二児を抱えた儘、興味津々に身を乗り出す。
「流石に燥ぐ年じゃあない、と思ったけど。そうでもないか」
　卓を囲めば表情や仕草は相変わらず――仙は時を戻される感覚に笑みを零した。
「皆、来てくれてありがとう。僕もこうして集まれたのが嬉しい」
　変わらぬ笑顔を見せる静に穂純は咲んで、
「失恋して落ち込む私を励ましてくれた、あの時の感謝は今も忘れてないよ」
　と改めての礼。
　久々の電車を乗り継ぎ会場を訪れた弥鈴は、昆布を手に佇むくもりを見つけて安堵する。
　クマムシを集めた仄暗い過去を共有する彼は歓談を遠目に飯を食い、取り敢えずは息災のよう。
「お互い何とかなったんだね」
「幸いここには灼滅者が沢山いるから、いつスサノオがまろび出ても安心だ」
「えっまだなの？　私はちゃんとサモエドみたいな人見つけたよ」
「それだけは止めろっつっただろ。アッ、ヒトの形してンのか。それはめでたいな」
　伴侶を見つけて継いだ人狼も、気合で何とかしてる人狼も。
　とまれ慶賀に杯を交した。
「披露宴でいきなり揉まれるのやばくない？」
　セクハラ枠で招待されたジェルトルーデは胸元を整えて仕返しに口撃、
「ところでボク、十年経ってもあの頃のにえさんより年下なんだねいひゃいいひゃい」
　但し今度は頬を引張られ、弄られ枠に落ち着く。
「あれからもう十年経つんですね、改めておめでとうございます」
　縁は二人の子らに走り寄る我が子を追って嘉日を寿ぐ。
　思えば彼女らしい結婚だったと振り返る縁の隣、八雲はウェディングドレス姿の仁恵に瞳を細め、
「すっごく似合ってる。お姫様みたい」
「明日」
「ケーキあーんしてあげる。おいしい？」
「美味しいですよ（腰絞られ過ぎて割と苦しい）」
　今や紙面で見る方が多くなった杏理は、お祝い半分、寂しさ半分の表情で仁恵に頬笑む。
「結婚祝いが思いつかず、サイキックハーツになった灼滅者として書いた本を……冗談です、マグカップを持って来ました。これはお子さんに」
「結局ニエには本ですか」
　畢竟、献本。
「披露宴まで十年も掛かったって事はそこそこ苦労しているのだろうと。多めに包んでやった」
　懐事情まで考えて訪れた光は、風峰家の円満な様子に安堵した折、響を抱く一途に抱っこを勧められる。
「気をつけて下さいね」
「うわ柔っこい、重い、あったかい。生きているこれ」
「私が静かにしてね？　って笑顔で頼んだら、ちゃんと泣き止んでくれるんです。結婚祝いのお皿にも賢そうに描きました」
　自慢げに言う彼女は、日頃二児の面倒をよく見ており、
「アカおばさんも久々だなー。すっかり母親代わりが板に付いちゃってまぁ」
「村山さんも……お幸せに……」
　と、祐一と蔵乃祐が嘆声を揃える。
　扨てこの十年で何度も言った「おめでとさん」を今日も届けた祐一は、八雲と共に躯を屈め、
「結もデカくなったなぁー」
「かあわいいねえ」
「もう四歳だ。にえんとこの子よりイケメンだろう」
「縁、結に服買ってきたから後で受け取ってくれ。金やるとハイナにパクられるからな」
　流れる会話に父親を知った蔵乃祐が突っ伏す。
「ハイナくんとわたはしさんの子供？　まじかや……」
　独身男の驚愕をよそに、ハイナはスピーチをすべく壇上へ、
「何を言うものなのか分からないが、にえがよく無条件で人を殴っていた事、多くの灼滅者の童貞を奪った事などを――」
　これには縁と仁恵が慌てて手を伸ばし、
「ストップ、待って、座って、あの！！」
「誰か止めて下さい！　殴る等で！」
　流血沙汰になるか――否、幸い酔いの回った足が床につき、惨事は防がれた。
「然しこれ、子供達に楽しく映っているなら良いけど」
　と佳声を置くは謡。
　すっかり母親らしい所作の縁や一途も、八雲やハイナの変わらぬ個性も微笑ましいと、懐かしの面々を穏かに見渡す。
「……そう考えられる様になった事が最も幸いなのかもね」
　繃帯の奥、紫瞳が和やかに細んだ。

「琴は僕似なのに僕よりしっかりしてんの、すごくない？」
　と静が言う子の成長の著しい通り、年月を感じさせるは次世代の萌芽。
「学生時代の友人が二児の親ともなると、自らが老けた実感が湧くね」
　玉が瞶める先では、子らとすっかり打ち解けたシャオが良い遊び相手となっており、
「琴ちゃん、響くん、僕のデザートも食べる？」
「武蔵坂に来るなら、私が担任を持つ日が来るかもしれないわね」
　耀は健やかに育まれる命に輝かしい未来を見る。
　十年を経て友も変わった。
「昔よりはね、色んな表情、出来るようになったんだよ」
「良い笑顔もらった！」
　過去と向き合い始めたシャオは元の「僕」を取り戻し、その表情を捕えるはプロの腕。
「陽司さんがカメラマンなら安心じゃな、ほら皆、集まってー！　ッドゥフ！」
「ではわたくしは一縷と褪せぬお嬢様感を魅せて！　ハイ！　心太を押し出すポーズ！」
　綴の手招きに残暑が突進し、それも瞬刻の裡に収める陽司。
　撮るばかりでは寂しかろうと木乃葉は携帯を取り出し、
「陽司君の良い表情も残しておきましょう」
　と友情のフラッシュ。
　時に七ノ音が瞳を細めたのは光に非ず、
「変わった人も変わらない人も。縁はこれからも続いていくんですね」
　十年の節目に出会えた幸福を胸に温めた。
　扨て会場に光と音の愉しみをとスライド上映を始めたのは【漣波峠】の面々。
「一気に大人びたヤツもいて月日の経過を感じるが、名場面集で振り返ろうぜえ」
　煌希が編集した闘技場の映像記録、特に最後の六週の試合など素晴らしいものもあるが、
「タルト食べに行った時は楽しかっ……あっアルティメットハシビロコウマン」
「巨大パフェの底から駄菓子のカツを掘り当てる静さん……懐かしいねぇ」
「えっ、待っ」
「花畑も海辺も大抵は駆け回って、自分は後ろをまったり追っていたような」
「蛍狩りでは一緒に蛍の匂い嗅いだよねー！　まるで僕と同い年みたいだったよ」
「僕に配慮は！？」
　更に外部より映像資料『チャラ峰』が提供され。
「ファムぅ！　受け取ったの誰！」
　容赦の無さが仲の良さを示そう。
　撚り合せた絆の強さに胸を抑えた噤は、卓を囲む友を見渡し、
「沢山の思い出が私の世界を鮮やかに変えてくれました。みんな、ありがとう」
　こちらこそ、と返る笑顔をにこやかに受け止めていた。
　余興を楽しんだ穂純は感歎をひとつ。
「やっぱり人徳だよね」
　素敵な友と家族に囲まれる――橙瞳に映る友に嘗ての「ぼっち狼」の姿はなかった。
　笑顔の洪水に十年の年月を視た静は、妻の繊麗の手を取り、
「ここまで続いたのは意外だった？　僕はそうでもないんだけど。愛してるよ、仁恵」
「やっと本当に言いましたね。ニエは静をこんなに好きですのに」
　細指に輝く新たな光に、二人、瞳を細めた。

　――その勇気に幸有らんことを。
　葉月ら頼もしい仲間に見送られたまり花は、想いを告ぐべくマキノを追った先で、彼女の想い人を知る。
「マキノさんもお変わりないようで。繕い物、今も大切な宝物です」
「私は先輩の記事が宝物よ。今度、取材時の勝負服を繕わせてね」
　月が綺麗だとも言えぬ純情。
　同じ恋を知る身として足を止めるが、呑み込み、踏み出て。
「あんさんの誰にも縛られん自由なお姿に惹かれたんや。うちでも良かったら、傍に……」
　するとマキノは咲んで、
「私の旅はまだ道半ば。地方を渉り歩いた夜雀の力、お借りしても？」
　と、長い旅路に誘った。

　陽に輝いた空は、今や月。
　今日び誠に快い小春であった。

作者：夕狩こあら	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2018年10月28日 難度：簡単 参加：55人 結果：成功！
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