彼女の秘密

    作者:聖山葵

    「ハァ、ハァ、ハァ……」
     荒い息と共に『それ』は木々の覆い茂る山を駆け回る。視線を巡らせれば、木々の合間に民家の明かりが見えるのだが、どういう訳かそちらに行く気はないらしい。
    「ガウッ」
     ただ出鱈目に駆け回り、四つ足で駆けて時には崖を飛び降り、朽ち木を跳び越え。
    「ウォォーン」
     星空の下、さながら狼の如く遠吠えをする姿を誰かが目撃したなら、目を疑ったことだろう。
     なぜなら、それは所々に炎を纏い獣の尻尾と耳を生やした下着姿の少女だったのだから。
     
    「顔もスタイルも良く、成績優秀。後輩達からも慕われ、先輩達にも人気のある一人の少女が居た」
     それだけなら何の問題もなかった。ただ、彼女は闇堕ちしてダークネスになりかけていたのだ。
    「と言う訳で事件なんだが……ふむ」
     事件の説明を続けるはずであったエクスブレインの少年は、集まった灼滅者の中にいた鳥井・和馬(小学生ファイアブラッド・dn0046)に目をとめると、和馬の両腕の中にあるものをまじまじと見た。
    「やっぱり女の子だな。俺の従姉妹も遊びに来る時にはいつも――」
    「や、女の子じゃないよ?」
     当然和馬は抗議するが、微妙に無理もない気がする。
    「そんなこと言われてもなぁ」
     和馬の腕の中にあったのは、可愛らしくディフォルメされた熊のぬいぐるみだったのだから。
    「おっと、脱線したな。それで、彼女はダークネスになりかけているが人間の意識がまだ残っているようなんだ」
     本来、闇落ちすれば人間の意識はダークネスの意識に取って代わられ消えてしまう。
    「ひょっとしたら彼女には素質があったのかもな」
     そう言う訳で、灼滅者の素質を持つのであれば闇堕ちから救い出し、完全なダークネスになってしまうのであれば、その前に灼滅して欲しい、と言うのが少年からの依頼だった。

    「じゃ、詳しい説明に入るぞ。今回闇堕ちしかけている少女の名は灯元・希恵(ひもと・きえ)って高校二年の女子生徒だ」
     彼女は今もいつもと変わらぬ日々を過ごしているのだが、それは就寝時刻までの話。
    「彼女としては普通に寝てるつもりなんだろうが、眠ると同時にダークネスの意識が身体を乗っ取って、しまうようだな」
     主が変わった瞬間、少女は窓から飛び出し、イフリートになりかけた姿で家の裏にある山を夜な夜な駆け回るのだという。
    「今のところ被害はないが、放っておけば完全なダークネスになってしまうだろうし、山で少女に出くわした奴が襲われる可能性も捨て切れん」
     と、色々な意味でも放置出来ないらしい。
    「そう言う訳だ、接触も裏山でしてもらうことになる」
     この山には周囲を一望出来る場所があるらしく、少女は必ずそこに立ち寄って遠吠えをするのだとか。
    「ただし、ダークネス側の意識がもろに出ているからな、接触と同時に戦闘になるだろう」
     戦いになれば、少女はファイアブラッドのサイキックと同じものを行使し襲ってくると思われる。
    「尚、今回のケースだが人の意識が寝ているせいか説得は意味をなさない」
     もっとも、寝ているだけで意識は残っている為、素質があるならKOすれば闇堕ちから救い出すことは出来るだろうとも少年は言う。
    「問題があるとすれば、アフターケアだな」
     少女が闇落ちから救われた場合、意識を取り戻したら山の中で知らない人達に囲まれているという状況になるのだ。おそらく、下着姿で。
    「意識を取り戻した時周囲に男性が居ると話がこじれかねん」
    「そっか、じゃあオイラ離れていた方がいいね?」
     この時、別に和馬は男の子をアピールする気は無かったのだと思う。
    「え?」
    「え?」
     驚いた顔の少年と和馬は見つめ合い。
    「いや、女の子なら問題ないと思うぞ?」
    「わかってていってるよね?」
     ハタハタと手を振るエクスブレインを見る和馬はジト目になっていた。
    「まぁ、だいたいそんなところだな。説得なしの力ずくで今回はいけるだろう」
     ちなみに少女が下着姿なのは、寝る時下着のみで寝る主義だかららしい。
    「ちょっ、オイラの話またスルー?!」
     愕然とする和馬を放置して、少年は残る面々に向き直ると頼んだぞと頭を下げた。
     


    参加者
    高町・勘志郎(黒薔薇の覇者・d00499)
    蒼月・杏(蒼い月の下、気高き獣は跳躍す・d00820)
    神楽・三成(新世紀焼却者・d01741)
    神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)
    茅薙・優衣(宵闇の鬼姫・d01930)
    王華・道家(ストレンジピエロ・d02342)
    垰田・毬衣(炎を纏うケモノ・d02897)
    レイリア・パーテル(高校生ストリートファイター・d09766)

    ■リプレイ

    ●一つの謝罪
    (「にしても和馬くん、女の子っぽかったんですね。助けたときは普通の男の子だと思ったんですが」)
     山の入り口に荷物を残していた茅薙・優衣(宵闇の鬼姫・d01930)は、闇堕ちから救い出した少年のことを思い出しながら山頂をめざし木々の間を進んでいた。
    「和馬はやはりか」
     山を登る人影は八。ライドキャリバーは数に入れていないが、悪い方の予想が当たった形だった。和馬が来ていないのだ。
    「おそらく想像通りかと」
     蒼月・杏(蒼い月の下、気高き獣は跳躍す・d00820)へ答えた優衣宛には謝罪と参加出来ない旨を伝える連絡があったので、戦闘の戦力としては見込めないと言うことだろう。
    「ウフフ☆ 完璧少女の夜の顔、燃え萌えイフリート娘か~ワクワクしちゃうNE♪」
    「なんか虫とか居そうー。やだぁー虫除け持ってくれば良かったァー」
    「流石にこの寒さだと虫も冬眠してるんじゃないかしら?」
     王華・道家(ストレンジピエロ・d02342)とは対照的に憂鬱そうな高町・勘志郎(黒薔薇の覇者・d00499)の声で神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)はライドキャリバーに跨ったまま周囲を見回した。
    「イフリートの炎があるからいいけど、そうじゃなかったら……これからどんどん寒くなるし、何とかしないとね」
    「確かに。今でも充分肌寒いし、準備してきて正解かな」
     明日等だけではない、垰田・毬衣(炎を纏うケモノ・d02897)もレイリア・パーテル(高校生ストリートファイター・d09766)も、神楽・三成(新世紀焼却者・d01741)や優衣も下着姿で山を駆け回っている少女の為になにか防寒用の品を持参してきたぐらいなのだ。
    「下着姿で駆けまわる……いろんな意味で早く救いだしてあげたいですね」
    (「年頃の女の子が真夜中に奇行に走っていたと自覚したら酷くショックよね」)
    「身に纏う物全てを開放し、本能のまま駆け巡る! 何だか憧れちゃうなぁボクも」
     思うことは人それぞれ。とらえ方が道家だけ微妙に別方向に思えるのは姿の通り道化役を徹底しているからか。
    「でもこのコ、多分相当ストレス溜まっちゃってたんだろうネ……」
     次の瞬間には、大仰な仕草で目頭を押さえ俯いてみせる。
    「イフリートの闇堕ち、俺もああなるかも知れない姿か……」
     杏については下着姿で駆け回る自分を想像しているのではないと信じたい。
    「同胞の救助ですか……これは頑張らないといけませんね」
    「ウォーン」
    「行こ、できるだけ傷つかないようにフォローしてあげたいし」
     少し離れたところから聞こえた獣のような声を耳にしつつ、レイリアは促し。
    「俺の影……目覚めてここに力を!」
     数分後、エクスブレインが示した戦場へとたどり着いた杏は伊達眼鏡に触れながら、カードの封印を解く。
    「来ますよ」
     炎を纏う少女の姿は、夜だからこそ離れた場所からも簡単に捉えられた。
    「戦う目的を忘れたらダークネスと変わりないものね!」
     自分に言い聞かせるようにしてバスターライフルのグリップを握りしめた明日等は、キッと睨むように前を見据えた。
    「ヒャッハー!! テメェの中のダークネス分を消毒だぁ!! ちょいと痛いが我慢しろよぉ!!」
     前方でチェンソー剣を振り上げた三成の背中を眺めながら。
    (「取り返しの付かない事になる前に――」)
     左右のバスターライフルを真っ直ぐこちらへ突っ込んでくる少女へと向ける。戦いは始まったのだ。
     
    ●危険
    「ハァ、ハァ、ハァ……」
     四足歩行で少女が地を蹴るたび、何かが揺れた。下着が頑張っていてくれるからこそ、揺れの激しさも少しは緩和されているのだろうが、男性陣には充分目の毒になる光景で。
    「ステキ……☆」
     別に道家も揺れる視覚的凶器を見て鼻血を吹いた訳ではないと思う、ただ。
    「はっはっは、まさかこんな攻撃手段まで用意していたとは予想外だYO」
     鼻血はさっさと拭って欲しい。まじまじと眺められた上、鼻血を出されたこの時、少女の意識が眠っていたのは幸いだった。
    「おっきい……うらやましい……じゃなくて! さくっとおわらせるよ!!」
     優衣の言には触れないのが優しさだと思う。
    「ガアッ!」
    「っと」
     最後の一歩を踏み切って繰り出してきた前足――じゃなくて右手を優衣は身体を傾けることで回避し。
    「チャンス! あわせて」
     着地した少女へ緋色のオーラを宿した縛霊手を振り上げながら叫んだ。
    「はいはーい」
     陽気に呼応したのは、勘志郎。
    「勘志郎、脳みそ筋肉仕様でいっきまーす☆」
    「それじゃあ、助けるよっ!」
     勘志郎の声に続く形で、レイリアは己が身体より大きなガトリングガンを振り回すようにして前へと向ける。
    「グルッ?」
     攻撃を避けられた時点で、少女の姿をした炎の獣は灼滅者達の織りなす連係攻撃と言う名の檻に捕らわれていたようだった。
    「あまり大暴れされても困るからね!」
     毬衣の影が触手と化して少女へ伸び。
    「安心しやがれ! 換えはうちの女性陣が用意してらぁ!」
     凶暴な笑みを浮かべたは少女へ肉薄するなり持っていたチェンソー剣で斬りつける。
    「ギャンッ」
    「いやいや、ちょっとこれは刺激が強すぎるYO?」
     切り裂かれて細かい布きれになった白が夜に舞う。服破りと触手のコラボレーションに道家が思わず鼻の辺りを押さえた。
    「って言うか、アンタも加わりなさいよ」
     バスターライフルから魔法の光線を撃ち込んだ明日等が思わず半眼で道家を見るが、別に道家とて攻撃の手を止めて見物していた訳ではない。単に感情を活性化していなかったのでコンビネーションが発生しなかっただけなのだ。
    「ま、それはそれとして……だ」
     灼滅者達の連係攻撃はまだ終わらない。
    「まずは正気に戻ってもらおうか!」
     嵐の如き弾丸の援護射撃を受けて、炎を宿して赤き短剣と化した解体ナイフを杏が振るえば。
    「すこーしばかり、『通りやすく』なってもらうわね?」
    「ギャッ」
     勘志郎はバチバチと帯電する拳で少女の顎を撃ち抜き。
    「今よ」
    「ガッ、キャゥン」
     もんどりを打った少女が起きる間すら与えず、突撃した二機のライドキャリバーが少女の身体を撥ね飛ばした。
    「いや、凄いNE」
     怒濤の連携攻撃だった。だからこそ、イフリートになりかけた少女もかわすことが出来なかったのだろう。
    「それじゃ希恵クン、今度はボクの全てを味わってもらうYO★」
     いつの間にか綺麗になった顔で、道家は己のライドキャリバー、MT5のタンクに軽く手を置いた。
    「まずはキャリバー突撃! 魅せつけるよ、ボク達のショウを」
     言い終えるが早いか、道家の身体は急加速で前方へと引っ張られた。MT5が突撃を開始したのだ。

    ●ておいのけもの
    「まだまだ……っ!」
    「っ、なかなかやるだ、だが!」
     夜の山に灼滅者達の叫びが木霊する。
    「ヤバイ訳じゃないけど、炎が厄介よね」
     ライドキャリバー達も含めれば、十一対一の戦い、耐久力の面で追い込まれた者はいないものの、徐々に生命力を削られるのは好ましくない。
    「けどよぉ、この調子なら行けるぜぇっ!」
     連係攻撃と数の優位で灼滅者達は少女を追い込みつつはあった。
    「そこよっ!」
    「ギャンッ」
     毬衣のものだけでなく三成の伸ばした影の触手もを阻害し、明日等が撃ち出したバスタービームの直撃を受けた少女の動きの口から悲鳴が漏れる。
    「ヒャッハー!! 犯罪臭がしたような気もするがそんなことは無かったぜー!!」
    「流石にこれは気のど……と、とにかく、さっさと終わらせないと」
     ビジュアルはさておき味方の攻撃のアシストという面では極めて効果的という事なのだろう。
    「にしてもタフねぇ」
     動きを制限され、灼滅者達の集中攻撃を受けて尚健在な耐久力はやや驚異的だったが。
    「これじゃしかたないわよね」
     勘志郎は嘆息するなり跳躍し、少女の腕を捕まえた。 
    「ガルッ?!」
    「悪いけど本気で……ぶん投げる!!!」
     そこからの流れは、言葉通り。
    「ガッ、グゥッ、ギャン!」
    「ここでっ」
     地面に何度も叩き付けられた少女目掛けて、優衣が飛んだ。血の様に鮮やかな緋色を帯びた縛霊手が炎を纏った少女の瞳一杯に映し出され。
    「グガッ、ガアァァァッ!」
     紅蓮斬を身に受けて息を漏らしつつも、少女は跳ね起きると放った炎の奔流に灼滅者達を飲み込んだ。
    「ふっ! フッフ~ン☆」
    「まだ、倒れる気はないと言うことか」
    「グルルル」
     道家の熱い叫びをBGMに杏は夜霧を展開しつつ伊達眼鏡に触れた。眼鏡を通して見るは、炎を纏い獣のように唸る少女。
    「後でしっかり治すから今は全力で行かせてもらう!」
     丁度その声に弾かれるように。誰かのライドキャリバーが少女目掛けて突っ込んでいった。
    「ガウッ」
     咄嗟に自由の効きづらい身体を酷使して少女は飛び退くが。
    「そこまでだよ」
     着地して顔を上げると、目の前には超弩級の一撃を繰り出すべく無敵斬艦刀を振りかぶった毬衣がいて。
    「おしまいにしよ」
     少女へ向けられたレイリアのガトリングガンが火を噴いた。
    「キャウンッ!」
     幾度と無く繰り返された連携攻撃の一部分。吹き飛んだ少女は、木の幹に叩き付けられると、ずり落ちるようにして崩れ落ちた。

    ●人への帰還
    「よく考えれば思春期男子には眼の毒な光景だぜイヤッハー!」
    「回れ右だな」
    「そうね、服を着せるまでは女の子達に任せましょ」
     毬衣がわざわざブランケットで即席のカーテンを作るまでも無かったかもしれない。
    「色々と目の保よ……もとい、希恵クンの名誉に関わる事だしね」
     いや、そうでもないか。
    「うぅ……もう朝ですか? ふぇ、ここは?」
     ともあれ、戦いは無事終わり、一人の少女が救われた。
    「あ、気が付いた? 男の目は遮っておくから、安心して着替えてね」
     明かりの懐中電灯とブランケットを持ったまま、毬衣は意識を取り戻した少女へ微笑みかけ。
    「和馬くん、荷物持ってきて。え? あなたの外見で怖がられたりしないって、いいからさっさと持ってくる!」
    「う、うん」
     少女の方を眺めていた優衣は振り返り手招きすると、まごつく和馬を叱咤して呼び寄せる。そう、麓に置いてあった荷物を持ってきた和馬がようやく合流したのだ。
    「え? あ、ええっ?!」
     外が賑やかになって少女も自分の姿と見知らぬ女性に囲まれて居る事態に気づいたのか素っ頓狂な声を上げ。
    「希恵さん? 目さめました? あぁ、まずは、これ着てくださいな。事情はお話しますから」
     和馬から受け取った着替えをまだ驚きから戻ってきていない少女の上へ置くと、優衣は少しさがって腰を下ろす。
    「寒いよね? 良かったらこれも使ってっ」
     レイリアも自身が持ってきていたマフラーや手袋、カイロと言った品を渡すが、明日等のかけたコートの下はボロボロの下着だけという格好は本当に寒そうだった。
    「はい、ありがとうございます?」
     反射的に礼の言葉を述べはしたものの、少女はまだ事態を理解していないようで。
    「寝てる間に夢を見ていませんでした? 裏山を走り回って、それが気持よくて、一番月が綺麗に見えるとこで、やっほーって叫んで、みたいな」
    「あなたは半分動物みたいになって、夜な夜な山を駆け回ってたんだよ」
     数分後、着替えを終えた少女へと切り出したのは、優衣と毬衣だった。まずは状況説明。
    「アタシも学園に入る前は、イフリートの姿で野山を駆け回ってたんだよ」
    「あなたも……ですか」
     続いて、似た境遇の仲間が居ることから学園の説明へと移行する。
    「一緒に戦う事になるのなら私が先輩になるのよね」
     明日等も説明には加わっていたが、少女が武蔵坂学園に来るのであれば、その認識は正しい。
    「希恵さんの素質、沢山の人を護る事に使ってみない?」
    「武蔵坂学園に来ませんか? 罪無き人を守る浄化の炎になる為に……」
    「ピエロでも大丈夫なんだ! ささ、おいでよ! 武蔵坂学園へ♪」
    「武蔵坂学園いいとこ一度はおいで♪ なーんてねっ」
    「お前が学園へ来るというのなら歓迎しよう」
     灼滅者達の口から上がる勧誘の言葉に。
    「お誘い、ありがとうございます。突然のお話ですし、少し時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
     少女も即座に断ることはなかったが、こういった物事には色々準備が居るのも事実。
    「マラソン大会はねー、お弁当広げて食べる人がいたりサボろうとする人と、捕まえようとする人の鬼ごっこがすごかったりしたんだよ?」
    「まぁ、楽しそうですね」
     ただ、少女の会話に見せた反応を見る限り、好意的に捉えているようではあり。
    「えーと、ゴメンよ。オイラ、その……」
    「はい?」
     他の男性陣と違って後ろを向くどころか接近してしまったのだ、後ろめたさから呼び止めて頭を下げた年下の少年に、少女は笑顔で応じつつ頭を撫でる。
    「大丈夫ですよ。殿方ならまだしも同性なのだから。それに助けてくれたのですよね?」
    「あ、えっと……その」
     どう考えても、助けていないとか男の子だと言える空気ではなかった。
    「もう、その話は終わりです」
     結局少女にとっては和馬のことは女の子認識のままで。
    「鳥井、お前女子に間違われたくないなら、もっと男だと主張する格好にしたらどうだ?」
    「……どうしてこんな」
     体育座りのまま抱えた膝と自分の胸の間に顔を埋める和馬に声をかけてみるが、反応はない。心ここに在らずと言った様子で。
    「まあ、そのうちほっといても……ならないかもしれないがな、うん」
     伊達眼鏡を弄りつつ杏は視線を逸らした。
    「何かあっても皆で力になるからねっ」
    「ありがとうございます」
     振り返れば差し出されたレイリアの手を少女が取っているところで、学園に所属する灼滅者が一人増えるのは、あまり遠くないことのように思われた。
     

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年11月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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