輝かしく懐かしい日

    作者:ライ麦

     郵便受けに入っていた手紙に、桜田・美葉(桜花のエクスブレイン・dn0148)は口元を綻ばせた。
    「私にも招待状送ってくれたんだ! 嬉しいなぁ」
     そう、送られてきたのは結婚式の招待状。招待してくれた嬉しさに、美葉は軽やかな足取りで早速ペンを執ると、「出席」に丸をつける。
    「それにしても……あれからもう10年かぁ」
     丸をつけた招待状を眺めながら、美葉はしみじみと呟く。歳を重ねると時が経つのが早く感じるとはよく言うが、本当にそうだと思う。あのサイキックハーツ大戦からもう10年。10年というと長く感じるが、経ってしまえばあっという間だった。あれから世界も、その在り方もずいぶんと変わってはしまったが、人間意外と慣れるもんだと思う。それに。
    「10年経っても、変わらないものもあるもんね」
     招待状を手に、美葉はまた呟いた。そう、学園で過ごしたあの日々も、そこで培われた絆も。確かにそこにあって、今も輝いている。それに想いを馳せながら、美葉は招待状をポストに投函した。
    「久しぶりに会う人達も多いだろうし、ちょっとした同窓会みたいになるかもしれないね」
     楽しみだなぁ、と微笑んで、美葉はその場を後にした。


    ■リプレイ

    ●輝かしい日
     シンプルながらに美しい、アンティーク調のウェディングドレス。それに長いマリアベールを被って。仕上げにユーリが花飾りをつければ、本日の主役である花嫁の完成。
    「だ、大丈夫でしょうか? どこか変なところとか、ないでしょうか……?」
     その花嫁である佳奈子がおずおずと尋ねる。ブライズメイド役として、彼女の服や化粧をチェックしていたタシュラフェルはにこりと笑った。
    「大丈夫、ばっちり決まってるわよ。ほら♪」
     スマホでその姿を撮影し、いざ結婚式の会場へ。教会の祭壇では、もう一人の主役である千尋がタキシード姿で待っていた。彼へと続くバージンロードを、ブライズメイドであるタシュラフェルとユーリが先導して歩き、その後にしずしずと佳奈子がついてくる。祭壇に辿り着いた佳奈子を見て、千尋は感嘆のため息を漏らした。
    「綺麗だよ、姉さん」
     その声に面を上げた佳奈子は、千尋のタキシード姿に思わず見惚れる。
    「千尋さんも、かっこいいです……」
     そんな新郎新婦をタシュラフェルとユーリが暖かく見守る中、式はつつがなく進行し、指輪の交換から誓いの言葉へと進む。
    「永遠に愛することを誓います」
     互いに指輪を交換し、永遠の愛の誓いを交わして。千尋は佳奈子と向き合ってベールを上げた。
    「それじゃ、佳奈子。誓いの口づけを……」
    「は、はい……えっ!?」
    (「い、いま、佳奈子って!」)
     突然のサプライズで変わった呼び方。呼び捨てに気付いて真っ赤になる佳奈子に、千尋は唇を重ねた。そんな佳奈子の様子を、タシュラフェルは微笑ましく見ていた。

     式がひと段落し、祝福のライスシャワーを浴びながら、佳奈子をお姫様抱っこした千尋が教会から出てくる。タシュラフェルは改めて祝福の言葉を贈った。
    「改めておめでとう、ね。ふふ、二人とも素敵だったわよ」
    「ありがとう」
     タシュラフェルの言葉に微笑んで返しつつ、ところで、と千尋は腕の中の佳奈子に悪戯っぽく問うた。
    「タシェやユーリとこれからも一緒にいるのは、浮気になるかな?」
     もちろん、返事は分かっているのだけど。予想通り、佳奈子は抱えられて気恥ずかしげに頬を染めながら、
    「いいえ、おふたりともわたしの大切な家族ですから」
     と答えた。その返事に嬉しそうに微笑みながら、千尋は佳奈子を抱いてタシュラフェルとユーリのもとへ、歩みを進める。二人を迎えながら、タシュラフェルは、
    「千尋とも佳奈子とも、もっともっと仲良くしていきたいわね。もう名実共に家族なんだし♪」
     と微笑んだ。佳奈子も頷く。
    「ええ、どうか、大好きな家族のまま、変わらず一緒にいてくださいね」
    「もちろん。 これからも、四人で幸せに暮らしていきましょうね」
     タシュラフェルの返事に、ユーリも大きく頷いた。
     こうして、祝福のベルが鳴り響く中。家族4人の新たな日々が始まった。

    ●懐かしい日
     結婚式の二次会で、杏子とミカエラは同窓会のお茶会デート! 杏子は水色のワンピースに紺のカーディガンを肩掛けして、ミカエラはパンツスタイルに髪を下してお姉さんぽく。
    「結婚式ではあんまり話せなかったし、今日はいっぱい聞くね♪ 気合い入れて、持ち込み用のお菓子も焼いてきたんだ~♪」
     にこにこしながら、ぱーっと焼いてきたお菓子を広げるミカエラ。杏子は歓声を上げる。
    「ミカエラ先輩のお菓子は、とっても甘くておいしくて。甘いもの嫌いの明莉部長には、勿体ないお嫁様なの」
     杏子の言葉に、ミカエラはえへへ、と照れ臭そうに笑う。それを皮切りに、話に花が咲き始めた。
    「私、向日葵畑を作ってるの。10月には桜が咲いて……」
     今の生活を、楽し気に話す杏子。
    「懐いてくれてるライオンの子がいるの。可愛いのよ?」
     そんな杏子の話を、ミカエラはにこにこと頷きながら聞いていた。
    「ホント、キラキラと楽しそうに話すよね? 変わんないなぁ~♪」
     どこか嬉しそうな顔で言って、お茶を飲んで。ミカエラはポツリと一言呟いた。
    「……ずっと糸括を支えてくれて、ありがと」
     大事な誰かが抜けてくたび、一番寂しかったはずなのに。いつも背伸びして、隙間を埋めてくれて。
    「男の子たちは、すぐ何か追っかけていっちゃうから。困って振り返ると、いつもきょんが笑ってくれてて……。本当に嬉しくて、心強かったよ」
     カップを手に、改めて感謝を述べるミカエラ。杏子の方も想いを語る。
    「私は、糸括でミカエラ先輩がいたら、とても安心したの。あの頃、姐さんってお呼びしたけど、私には、お母さんだったよ」
     お二人の子供が羨ましいな、なんて、笑って。
    「アフリカの夕陽はね、とっても綺麗なの。いつか、見に来てね」
     と誘う。もちろんと頷いて、ミカエラは、
    「きょんの優しさ、アフリカの大地に染み込んでそう。幸せになろうね!」
     と笑った。
    「うん、みんな、幸せになりますように」
     杏子も頷く。そこに陽桜が通りがかった。ミカエラは手を振って呼び止める。
    「あ、陽桜だー! この間は結婚式来てくれてありがとねー!」
    「みっきーさん! こちらこそありがとうございました! 素敵な式でしたね!」
     陽桜も破顔して応える。
    「ミカエラさん、結婚されたんですね。おめでとうございます」
     話を聞きつけた美葉もやって来て、笑顔で祝辞を述べた。
    「そうそう! 結婚したんだ~。美葉も久しぶりだねー!」
     軽く手を挙げて挨拶するミカエラ。陽桜もぱっと顔を綻ばせる。
    「美葉ちゃん、10年ぶりですね? すごくお久しぶりで、すごくお会いしたかったのですよー! お元気でしたか?」
    「はい、おかげさまで! 私もお会いできて、すごく嬉しいです~!」
     美葉も笑って、二人でハイタッチする。ドレスアップしていることもあり、美葉は10年前より大人びて見えるが、印象はあまり変わっていない。だからすぐに分かったのだが。
    「今何なさってるのです?」
     同じ学年なのでまさに同窓会。目を輝かせ問いかける陽桜に、美葉は答える。
    「私は……医療系で働いてますね。陽桜さんは?」
    「あたしは、つい最近まで海外協力隊で海外に行ってましたね」
    「えっ海外に!?」
     思わず口を押さえる美葉。
    「通りで最近会わないなって……」
     呟く彼女に、連絡すればよかったですね、と陽桜は苦笑する。そして。
    「そうそう、あたしはつい先日名字も変わったのですよー」
     えへへ、と満面の笑みを浮かべて報告する。美葉は目を瞬かせた。
    「ということは、陽桜さんも結婚を……」
     そっか、次の恋を見つけられたんですね、と美葉は少しだけ寂しそうに微笑んで、
    「……おめでとうございます」
     と祝辞を述べた。その様子に少し首を傾げつつ、陽桜は微笑んで言う。
    「もうしばらくしたら、旦那さんとカフェオープンさせる予定なのです。オープンの際には連絡しますね♪」
    「はい、楽しみにしてます♪」
     笑って頷いて。その様子を、大人になった八王子も見ていた。
    (「結婚式素敵だなぁ♪ とっても幸せそう!」)
     話を聞いていれば、続々と届く結婚報告。結婚した人達が幸せそうで、自然といいなぁ、という気持ちが湧き上がる。
    (「八高レディとして充実した日々を送る今も勿論幸せだけど、私にもこういう日がくるのかなぁ……?」)
     でも、私と一緒にいて楽しいって言ってくれる人なんて……と思索に耽っていた時、ふと気が付いた。
    (「あれっ? 私自身が、いつも楽しかったりうれしかったりする時は……」)
     思いついたら行動あるのみ。八王子は早速、女子会トークに花を咲かせる彼女達の中に入っていった。結婚した人々には心から祝福の言葉を述べつつ、思索内容を聞いてもらう。
    「楽しいとか、面白いとか、うれしい時を思い出してみると、必ず七月さんと一緒の時で……。みなさん、これが恋なのでしょうかっ?!」
    「えっ……まさかの七月さん!?」
     息を呑む美葉。きゃーっと頬を押さえてみせる杏子。
    「恋バナかぁ、いいねぇ♪ 青春だ~」
     ニコニコのミカエラ。
    「美葉はどう思う?」
     と振ってみたり。
    「私は……」
     よく分かりません、とポツリ。
    「いい歳して、お恥ずかしい話なんですが……私には、未だに。恋が、よく分からないんです」
    「そっか~……」
     思えば、いつかの誕生日会の時。恋がよく分からないからと、人の恋バナを聞きたがっていたことがある。あの時と、あまり変わっていないのかもしれない。まぁ、無理に経験するものでもないが。
    「お役に立てなくて、すみません」
     申し訳なさそうに頭を下げる美葉に代わって、陽桜がそうですねぇ、と頬に指を当てて答える。
    「あたしが会ったことのあるイフリートの子は、『難しく考えなくても、好きなら好き、それでいいじゃないか』って、言ってましたよ」
    「うんうん。難しく考えなくても、自分が恋だと思えば、恋って言っていいんじゃないかな~?」
     ミカエラも頷く。八王子の顔がぱぁっと明るくなった。
    「分かりました! ありがとうございます!」
     正々堂々真向勝負が信条。結果はどうあれ気持ちを伝えよう♪ と八王子は拳を握る。そこに、噂をすれば。七月本人がやって来た。10年経って大人びてはいるが、不思議と印象はあまり変わらない気がする。ともあれ。まずはアイスブレイクに、陽桜が話しかけた。
    「七月さん、お久しぶりです~♪ 変わらず廃墟散策してますか? 廃墟に関連したお仕事してたりするのかな?」
     興味津々に尋ねる陽桜に、そうだねぇ、と七月は答える。
    「たまに廃墟行って写真撮って、ネットに上げたり、写真集出したりしてるよ。あとは、たまに廃墟系お化け屋敷の企画とか運営とかしてる」
     その道ではそこそこ知られた存在だとか。灼滅者というだけで割と金には困らないため、国内海外問わずふら~っと出かけては好きなことをやっているらしい。相変わらずだなぁ、と苦笑しつつ、陽桜は八王子を前に出した。
    「ところで、八王子さんが何かお話があるみたいですよ?」
     頑張って! とエールを送りつつ、陽桜は後ろに下がる。八王子は意を決して前に進み出た。
    「あ、あのあのっ……! 私、楽しいとか、面白いとか、うれしい時を思い出してみると、必ず七月さんと一緒の時で……だから……七月さん、す、好きでち!」
     ばっと勢いよく頭を下げる。緊張のあまり、最後を噛んで10年前と同じ口調になってしまった。どきどきしながら返事を待つ。顔が見れない。ややあって、彼が答えた。
    「……どうして? どうして僕なの?」
     その言葉には困惑の色が滲む。八王子は反射的に顔を上げた。七月は、困ったように眉根を寄せていた。
    「僕も八王子さんと一緒にいて楽しかったよ。でも、その……僕が勝手にそう思っただけかもしれないけど。八王子さんは、僕じゃなくても。みよさんや、他の友達と一緒にいる時でも、楽しそうで嬉しそうに見えたんだ。だから、どうして僕なのかなって」
    「それは……」
     なんて言えばいいんだろう。思えば、他の人と一緒にいるときの楽しさと、七月と一緒にいるときの楽しさは、どう違うんだろう。上手い言葉が見つからず、俯く八王子に、七月はかがんで目線を合わせながら言う。
    「ごめんね、ひどいこと言って。八王子さんが、僕のことそんな風に思ってたなんて、夢にも思わなかったから。驚いちゃって」
     でも、一緒にいて楽しいって思ってくれたことも、好きだって言ってくれたことも嬉しいと言葉を紡ぐ。
    「まだ若いんだし、今気持ちを決めることもないと思うよ。もう少し考えてみて、それでも気持ちが変わらないなら、また」
     なんだか女性陣とは真逆の返答をされてしまった。しょんぼりしつつ、
    「その時は……?」
     と訊いてみる。
    「さぁ、その時にならないと分からないよ」
     七月も首を傾げていた。その様子を、そっと呼音も見ていた。思い出すのは、大学卒業後のこと。七月とは学園卒業後も一緒に遊びたいし一緒に居たい、で入籍しない?と訊いてみたのだが、
    「入籍しなくても一緒に遊べない?」
     と断られてしまった。まぁ確かに、籍を入れるだけが一緒にいる手段じゃない、と呼音も納得はした。というわけで、入籍はしてないが、卒業後もたまに会っては遊んだりしている。七月の隣は落ち着くし居心地が良い。やっぱり七月も猫を目指す同志だからかなと今も思ってる。なお、頑張っても身長は吸い取れなかった。七月自身は、もう少し身長低くてもよかったとため息をついていたけれど。ゆえに、背も含めた呼音の見た目はほぼ変わらないままだ。相変わらず頭より体を動かす方が好きだし。尤も、服装と共に少しは落ち着いたけれど。
     しかし、10年か、と呼音は少しだけ過去に想いを馳せてみる。かつて一緒に戦った人達も大人になって、結婚した人もいる。その人達は嬉しそうで幸せそうで。平和になった、と改めて実感しつつ、少しだけ豊かになった感情と表情で楽しむ。
     この、輝かしくも懐かしい日を。

    作者:ライ麦 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年10月30日
    難度:簡単
    参加:9人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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