ブレイズゲート消滅~赤き光の消失を

    作者:長野聖夜


    「やあ愛華。来てくれたのか。他の皆も集まってくれてありがとう。又は、もしこのメッセージを聞いてくれている人がいるならその人達にも礼を述べさせてもらう」
    「どうかしたの、ゆ~君?」
     北条・優希斗(思索するエクスブレイン・dn0230)がやって来ていた南条・愛華(お気楽ダンピール・dn0242)や、今此処に集っている灼滅者、或いは何処かでこの連絡を受け取っている灼滅者達に向けてそう告げる。
     何故、その様に回りくどい手段を取っているのか。
     それは既に10年の月日が流れ、灼滅者達が其々の道を歩み始めているからだ。
    「実は、最新の研究結果として、間もなくブレイズゲートを構成していたサイキックエナジーが尽きることが分かった」
    「えっ? サイキックエナジーが無くなったら、ブレイズゲートはどうなっちゃうの?」
     愛華の問いかけに、優希斗が小さくそうだな、と返す。
    「消滅する。時の流れは、其れだけのサイキックエナジーを消耗させていた。だから、やむを得ない話ではあると思うけれどね」
    「まあ、そうだね……」
    「最も、ソウルボードが消滅した事で、愛華達も闇堕ちする危険性が皆無なのは既に分かっている事だから、その点は心配しなくていいよ」
    「……う~ん、其れはそうかも知れないけれど。でも、後進の育成はちょっと大変になりそうだね」
     小首を傾げる愛華にそうだな、と軽く頷きかける優希斗。
    「その点は別途打開策を考えた方が良いかも知れないけれど。ただ、今はそれよりもこれによって起きる厄介な問題を何とかして欲しいと思う」
    「厄介な問題?」
     愛華の問いかけに、そうだ、と優希斗が頷きかけた。
    「ブレイズゲート内部の分割存在は、ブレイズゲートの力によって維持されている。つまり、ブレイズゲートが消滅すれば、分割存在は連鎖して消滅するんだが……その消滅は全く同時に行われるわけではない、と言う事だ」
    「具体的には?」
    「そうだな。ブレイズゲート本体が消滅しても分割存在の内部に蓄えられたブレイズゲートの力が尽きるまでに、分割存在単独につき、最大3時間程度は存在を維持されると試算されている」
     それはつまり、ブレイズゲートが自然消滅した時に、『分割存在をブレイズゲートの外に出さない力』も消え去るので最大で3時間、ブレイズゲートから解き放たれた分割存在が暴れまわるという事態が発生する事を意味する。
     尚、存在可能時間自体は、撃破されずに存在していた時間が長い程長くなる様だ。
    「何か、対策はあるの?」
    「一応、ブレイズゲート周辺からの避難勧告を行うことで被害を抑制する事は出来るだろうけれど避難できない建築物何かは多大な損害を被る事になるだろうね。更に問題なのは、もし分割存在の中に距離を無視して別の場所に出現し事件を起こすことが出来る様な存在がいたとしたら……」
    「被害はもっと大きくなるかも知れないってことね」
     愛華の問いかけにそうだ、優希斗が頷き返す。
    「そこで、こんな事態を防ぐ為に、ブレイズゲートが消滅する時、灼滅者による大規模なブレイズゲート探索を行なう作戦が提案されることになった」
     尚、ブレイズゲートの消滅は『10月31日~11月1日』に発生する。
    「それってまるで、ハロウィンの魔物みたいだな」
     優希斗から告げられた消滅期間を聞き、思わずと言った様子で呟くは、やって来ていた文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)。
    「ああ、俺もそう思うよ、直哉さん」
     直哉の呟きに同意する優希斗の言葉を聞きながら神鳳・勇弥(闇夜の熾火・d02311)が軽く考え込む様な表情になる。
    「そう言う事なら、ハロウィンのイベントを一緒にしてしまっても良いかも知れないね」
    「それ、面白いよ勇弥さん!」
     愛華が勇弥に同意するのに苦笑する優希斗。
    「まあ、ブレイズゲートを探索し、分割存在の灼滅をすることが最優先だけれど、今回の件を受けて興味本位で集まって来る観光客もいるみたいだから彼等が作っている出店等を戦いの合間に覗くのも軽い息抜きにはなるかも知れないね。どうか皆、宜しく頼む」
     優希斗の言葉に背を押され、灼滅者達はその場を静かに後にした。


    ■リプレイ


    「誘導お疲れ様、はい」
     ブレイズゲート入口。
     神凰・勇弥が人々の避難を行う条・優希斗にペニー銅貨を渡す。
    「そう言えば、ペニー銅貨は魔除けにもなるんでしたね」
    「妖精たちが嫌う鉄を含んでいるからね。それから、悪い霊から守ってくれるから、これも」
     三角帽を渡す勇弥に優希斗が礼を述べそれを被る。
    「おっ、優希斗さん、似合っているよ」
    「やあ、玲奈さん」
     腰に怨京鬼を束ね微笑するスーツ姿の柊・玲奈に優希斗が微笑。
    「優希斗さんの要請を貰ったからね。耀にも会えないかな?」
    「耀さんならさっき見たよ。入ればすぐに見つかるんじゃないかな」
    「そうなんだ。そう言えば優希斗さんは心の傷とか大丈夫かな?」
     玲奈の問いに優希斗が微苦笑。
    「どうして急に?」
    「私、医療心理学を勉強して心を癒す医師になったから。何かあったら相談してね」
    「ありがとう、玲奈さん」
    「またね」
    「じゃ、また後で。加具土とひと潜りしてくるよ」
     手を振り去り行く玲奈や勇弥達を見送り周囲を見て、高野・妃那を認める。
     衣装はボロボロ、灼滅者でなければ死んでいるであろう程にやつれた妃那は気まずげに目を逸らし黙々とブレイズゲートへ。
     そっと溜息をつき周囲を見れば、人目を避けて戦場に向かう金の瞳の有城・雄哉の姿。
     一瞬だけ足を止めた。
    「俺にとっては『仕事』だ。そのために来た」
    「構わないさ。が……頼みがある」
     優希斗の囁き。
    「誰かが危機に陥っていたら、助けてやってくれ。特に彼女は……」
     その先を引き取る様に【贖罪と未来】が淡く輝き。
     雄哉は軽く頭を振りブレイズゲートへ。
    (「それも俺達の『罪』への『責』、か」)
     そう思いながら。


    「懐かしいな、血の匂いだ」
    (「シュラウドに憑いていた意識の残滓に初めて気付いたのがここだったな……」)
     執事服姿の神崎・摩耶がコイン状の結界を張りつつ思い返す。
    「ブレイズゲート、懐かしいなぁ。よく一緒に通ったね」
     神崎・朱実がウロボロスブレイドで旋風の刃を起こし敵を斬り刻んだ。
    「ええと。今更ですが、ひとつ訊いてもいいですか?」
     連戦に身を委ねながらの朱実の問い。
    「何だ?」
    「あの頃、姉さんが僕を呼んだのは、どうして? もしかして……」
    「ふむ」
    「神崎の弟か?」
     偶然出会い隣で月夜蛍火を振るう鈍・脇差に首を振る摩耶。
    「従姉弟だ」
     脇差への反撃をコイン状の盾で防御する摩耶。
    「摩耶さん、無理はしないで下さい!」
     脇差の後方から蒼水晶翼のヴァルキューレに扮した氷上・天音が剣の先端から癒しの光を摩耶へ。
    「理由だったな」
    「あっ、はい、そうです姉さん」
     天音に礼を述べ問う摩耶に頷く朱実。
    「争いが激化し、闇堕ちの可能性が高くなってな。私が闇堕ちした場合に、部屋の掃除をしてくれる人物が必要だった。朱実は掃除得意だろう?」
     至極真面目な摩耶にえっ、と呻く朱実。
    「あとは、大学に行くようになって、食事を作るのが面倒になってな? 毎日弁当を作ってくれる人材は貴重だった」
    「ええ? えええ~!? そんな……それだけ? 本当に? 酷い……少しは期待してくれたのだと思ってたのに」
     愕然としてぐすん、と涙目になる朱実を慰める様に肩を叩く脇差。
     朱実に苦笑し頬をむにゅ~っとする摩耶。
    「本気にしたのか?」
    「……ふぁい?」
    「……朱実は私より強いからな。頼りにしていたぞ。さあ、赤ずきん装束で行くぞ!」
    「え、これ? ちょ、ちょっと待って、この年で赤ずきんはちょっと、うわ! いやいや、無理だって、摩耶ちゃん、自分だけ執事ってどういう……」
    「大丈夫だ、神崎」
     何処か悟った表情の脇差。
     彼の衣装はウサ耳ウェディングドレス。
    「世の中には、こういう仮装の男もいる。だから、安心しろ」
    「ふっ、そうだぞ、朱実。その程度、幾らでもいるからな」
    「うわぁ~ん!」
     問答無用で赤ずきんの格好をさせる摩耶を止められず天音が苦笑。
    (「光と闇と。そのどちらも抱えてこその人間と言う事か」)
     けれども。
     闇が光を切り捨てず、光も闇を受け入れる。
     絶望と怒りによる決別では無く信頼と希望による融和。
     エスパーとはきっとそんな存在なのだろうと摩耶と朱実のじゃれ合いを見ながら思う脇差だった。


    「灼滅しないといたずらされるようだから頑張るとするか」
     軽い調子で告げて妖の槍で次々に現れる敵を貫き飄々と首を竦めるは髪が短くなり、少し身長が伸びつつも寝不足故か少し目つきが悪く不機嫌そうにも見えるロードゼンヘンド・クロイツナヘッシュ。
     ロードゼンヘンドの隣には、屋敷内を駆け抜けていた雪女衣装のオリヴィア・ローゼンタールがおり、妖刀・金剛不壊で敵を撫で斬りにした。
    「可愛いけれど、雄々しいね、オリヴィアさん」
    「そうですか? でも、あなたも容赦がないと思いますよ」
    「まっ、溜まってたストレス発散の為もあるからね。あっ、お菓子あるけど食べる?」
     礼を述べ糖分を補給したオリヴィアが続けて敵を斬り裂いた時、側面からオリヴィアを襲う敵。
     ――刹那。
    「お願い、玲奈!」
    「任せて耀!」
     その敵をタイトスカートを翻し懐に潜り込み逆手に握った短刀黄昏で抉る荒谷・耀と怨京鬼の背でオリヴィアを狙う凶刃を受け流す玲奈。
    「耀さん」
    「オリヴィアさん久しぶりかしら? 無事で何よりよ」
    「お見事です」
    「まっ、これが私達の連携だからね」
     オリヴィアの謝辞に笑う耀と玲奈にオリヴィアも微笑み、ロードゼンヘンドがお菓子を渡す。
    「はい。二人とも良かったら」
    「あら、ありがとう頂くわね」
     ロードゼンヘンドからのお菓子を食べながら周囲を見回す耀と玲奈。
    「うん、特に敵もいないみたいだね。それじゃあ、奥に行こうか」
    「ふふ……そうね」
     玲奈に耀が柔らかく微笑み、はい、とオリヴィアが頷き返す。
    「それにしても耀、今も充実してるみたいだね。一層綺麗になっているし」
    「ありがと。玲奈も前にも増して美人さんになったわよ。周りの男の人が放っておかないんじゃない?」
     からかう耀に軽く手を振る玲奈。
    「私は独身だねぇ。剣だって取るの、10年前、優希斗さんに頼まれて耀と背中合わせで戦ったあの時以来だし」
    「そっか。あれからもう10年になるのね」
     ふと呟く耀。
    「今回も北条先輩の要請なのよね。それと彼も独身だったかしら」
     悪戯めいた耀にあはは、と笑い返す玲奈。
    「まあ、私の色恋はともかく。続けて全力で行くよ!」
    「ええ、フォローするから好きにやっちゃって玲奈!」
     大悪魔斬【暁】で周囲の敵を一掃し、撃ち漏らしを次々に倒す玲奈達のコンビネーションに続いてオリヴィアとロードゼンヘンドも戦場を駆けた。


    (「10年ぶりね……この感覚、懐かしいわ」)
     七夕・紅音が愛刀、緋花霊刀【朽桜一振】による桜色の一閃。
     大気を切る音と共に放たれた居合が敵の腰から肩にかけてを薙ぎ。
     抜刀したそれを大上段から袈裟懸けに振るい敵を斬る。
     蒼生が六文銭射撃で紅音を援護するのを見ながら双子の男女を連れた大神・狼煙が笑顔。
    「お母さんは怖いだろう? 悪い子は牙と刀でハンバーグにされちゃうから、いい子にするんだよ?」
    「狼煙、無駄口叩くなら貴方からミンチにするけど?」
     凄絶な笑顔を浮かべる紅音にガクブルする狼煙。
    「お、俺なんてネギトロ味しかしないぞ?」
     子供達……紫狼と紫音は、特に驚いた様子も無く、紫音に至っては「つまり晩御飯はハンバーグ?!」等と期待に目をキラキラさせているのだから、最早日常の一幕なのだろう。
     と、好奇心からかそれとも甘えぼう故か、淡々としかし確実に敵を斬り捨てる紅音の所へと紫狼が近寄る。
    「あら紫狼、危ないからあまり近寄らない方が……いや、紫狼なら大丈夫、か?」
    「くぅ~ん」
     蒼生が呻いたその時、敵が紫狼に飛び掛かった。
     が、次の瞬間狼煙に生み出された不可視の刃に斬り刻まれ、音を立てて爆ぜる。
     紅音が紫狼の頭を撫でながら小さな狼耳の所在を確かめ淡く微笑み。
    「狼煙、撃ち漏らして紫音に怪我させないでよ?」
    「ハハハ分かってごふぅ!?」
     当然と笑う狼煙だが、それはフラグという奴で。
     次の瞬間、娘を狙う敵を斬り刻んだ癖に、狼煙は容赦なく直撃を受けた。
     それを見た紫音がケラケラと笑い、紅音はやれやれと首を横に振りながら狼煙を痛めつけた相手を斬り伏せた。

    (「天下無双会は結婚して直ぐの頃にブレイズゲート防衛で訪れたんだったな」)
     10年以上前に会った時の事を思い出し、いつもの和装束に身を包んだ彩瑠・さくらえの気持ちを読み取ったのか、軽く頷きかけたのはエリノア・テルメッツ。
    「エリノアは久しぶりの戦闘だっけ」
    「ええ、そうね」
    「どの位久しぶりなんだ?」
     偶々合流した文月・咲哉の問いに、エリノアが頷く。
    「正直上の娘を妊娠してからは戦闘したこと無いわね。ブランクも大きいし、家事と子供と心配だらけだけど。でもさくらえとまたこうしていられるのは嬉しいわね」
    「家族も子供達も任せきりにしちゃってたからねぇ。こうして夫婦水入らずの外出も久しぶりだよね」
    「はは。これは、さくら達の邪魔になってしまったかな?」
     同じく合流した勇弥の問いに、さくらえは笑い返す。
    「こうしていると10年前みたいな気がして楽しいよ。と言っても10年前にもブレイズゲート探索と称して何度もデートしていたけれどね」
    「そうだったんだな」
     さくらえ達に咲哉が頷く。
     最奥の目前で、エリノアが独り言ちた。
    「ブレイズゲートの消滅ね。まぁ最終的に中のダークネスも一緒に消えるなら良いことだわ。エスパーが死ぬ手段が消えるのは良し悪しでしょうけどね」
    「ハロウィンは元々、悪霊と共に先祖の霊も還って来る日だ。『ダークネス』を人々の心に還して、『人』であった存在を解放するのが今日になったのは、偶然なんだろうか?」
    「……どうなんだろうな」
     エリノアと勇弥の話を聞き咲哉の脳裏を過るは十字卿シュラウド。
     その正体は光の存在。サイキックハーツに至ったモノの残滓。
    (「それはきっと他人事でも昔話でもないんだろうな」)
     あの時もし灼滅者だけでサイキックハーツとなっていたら。
     ソウルボードを失った一般人達は。
     彼の、彼等の様になっていたのかも知れない。
    (「……真珠も、優希斗も」)
     だからこそ、今共に在る事に深く感謝を。
    「さて、これを言うのも最後になるかしらね。『慄け咎人、今宵はお前が串刺しよ!』」
     鮮血大夫に宣言するエリノアに、さくらえがふふ、と笑う。
     応じる様にエリノアのBlaue Blitzが螺旋の渦を描き鮮血大夫を貫いた。


     ――その頃。
     1体1を徹底しながら雄哉は敵を狩り続けていた。
     雄哉の前を刃渡・刀や、天宮・黒斗、吉沢・昴、赤秀・空そして新型の試作武器の性能試験を行っていた空井・玉が駆け抜けていく。
    (「行け。これは俺の役割だ」)
     一通り敵を倒して息を吐き蒼穹の光で自らを癒す。
     と……その時、目の端にそれを見た。
    「アハハハハハッ! これでやっと……!」
     血と共に吐き出された狂笑を浮かべる深手の妃那を。
     雄哉が人との絆を顕現させた蒼穹の結界をその手に纏い容赦なく掌底。
     それは妃那を殺そうとしたダークネスを打ちのめす。
    「高野」
    「有城さん……ああ、また死に損なってしまいましたか……なんで、なんで……!」
    「俺は俺の仕事を果たしているだけだ」
     見るからに無残な妃那にしかめ面をした金の瞳の雄哉の溜息。
     関わる気はなかったが頼まれてしまった以上仕方あるまい。
    「そうだ、どうせ死に損なう位なら……次は封印されたまま眠っている上位ダークネスが居るか世界中を回って調査でもしていきますか……」
     虚ろに呟く妃那に雄哉が息をつく。
    「俺は『仕事』でダークネスを殺し続けている」
    「そうですか。殺し続けていますか……有城さんは」
     疲れた様に、救いを求める様に。
     呻く妃那に踵を返した。
    「だから、そういうのがいたら教えろ。そいつらを狩るのは手伝ってやる」
     今は関わるべきでは無いと思っていたが言わずにはいられなかった。
     妃那もあの罪を背負う者だから。
     周囲にこれ以上のダークネスが居ないのを確認し、桜と蒼の光で妃那を回復し、雄哉はその場を後にする。

     ――彼等によるブレイズゲートの崩壊を確信して。


    「……なんだか夢みたい」
     下半身を水晶の鈴に変えて敵を屠り続けていた晶石・音色の何気ない囁きに榊・くるみがそうだねと笑う。
     軽音楽部で共に過ごした青春時代。
     二人で頑張っている内に、音色もくるみも大人になって、其々道は違えど今も曲作りに関わっている。
     その事実がこれ以上ない程に嬉しい。
    「いくよクルルン! 音色ちゃんと皆をサポートだよ!」
     最奥部ではさくらえ達が戦っている。
     そこに音色とくるみが辿り着いた。
     さくらえや勇弥、加具土はエリノア達を庇いながら確実に鮮血大夫を追いつめている。
     けれども傷も確かに負っていた。
     クルルンとくるみが歌を奏でて勇弥達を癒す。
     鮮血大夫が後衛に放った血煙に紛れた蝙蝠群から音色が庇った。
    「大丈夫?」
    「うん! ありがとう、音色ちゃん!」
     笑顔の音色にくるみが頷き助かったと咲哉が礼を述べ【十六夜】を大上段から振り下ろして鮮血大夫を斬り裂き、エリノアがGottin des Schicksalsでその身を貫く。
    「……流石に10年前に比べるとお互い鈍ったわね、特に私が」
    「ふふ、大丈夫だよ、エリノア。あの頃とそんなに変わっていない」
     想鏡を天に掲げ、比翼を輝かせて微笑むさくらえ。
    「おっとあんまり時間かけられないんだよね」
     割り込む様に介入するは玉。
     肉球グローブが邪魔だが慣れてもきている。
     だから試作武器による一撃は容赦なく決まった。
    「昴さん、黒斗さん」
    「試練か何かか、これは」
     気まずい思いをした当時を思い出して渋い顔になりながら無拍子の袈裟切りを放つは昴。
     確かに今思い出しても腹が立つと言うのは同意だ。
    「まあ、だから選んだんだけど」
     昴のアイコンタクトを受けた黒斗が斬星で鮮血大夫の死角からその足から肩にかけてを斬り上げる。
    「思えば、こうして肩を並べて戦うのも久しぶりかな」
     霊状の網を拳に這わせて殴打を浴びせ離脱する昴に頷き緋色のオーラを這わせた斬星で鮮血大夫を斬る黒斗。
    「最近は平和だからな。こうして一緒に戦うのも、もしかすると最後かも知れない」
    「参ります」
     草薙剣を抜刀し鮮血大夫を深紅に染めるは刀。
    「鮮血大夫。あなたは十字卿シュラウドの何を知ったのでしょう。何か教えて頂けませんか?」
     鮮血大夫は答えず接吻による毒煙注入を行う。
     全身に回る毒が肺を腐らせ体中を蝕むのに思わず刀の口から笑みが零れた。
    「ああ、やはりいいですね」
     ――命を奪ってこそ磨かれる。死合の果てにこそ、私の求める境地がある。
     久しぶりに感じる死の感触が私を究極の一刀へと誘う。
     ――だから。
    「力が衰えているのなら……その殺意を私へぶつけてみろ」
     振り下ろした草薙剣が鮮血大夫を斬り裂いた。
     ――それで、終い。
     ブレイズゲートが脈動し、かつての大組織の本拠地跡が消滅の影響を受けて崩れ始め。
     それに飲まれる鮮血大夫を見ながら咲哉が言の葉を紡ぐ。
    「シュラウドは……赤き光は既に倒れた。お前ももう追われることは無い。ブレイズゲートの無限の牢獄も終わりを告げた。今度こそ、ゆっくりと休むといいさ」
     最期に鮮血大夫の緋色の唇が笑みを作った。
     そんな気がした。


    「皆、お帰り。無事に終わったみたいだね」
    「あっ、優希斗先輩もお疲れ様です!」
     ブレイズゲートの消滅を見届け、エスパー達の安全を確認し灼滅者達を迎えた優希斗に答えるは天音。
    「そうでした。優希斗さんにお渡しして置きたかったものがあるんです」
     天音が彼に手渡したのは南瓜クッキーと感謝の手紙。
     そして……鈴音から預かってきた水晶のペンデュラム。
    「ありがとう。大事にさせて貰うね」
     優しく頷く優希斗にはい! と笑顔になる天音。
    「氷上と北条。俺達と一緒に回らないか?」
    「良いね。俺も皆をお誘いしたいと思っていた所だよ」
     現れた脇差や勇弥に優希斗が頷いた。
     他に天音や咲哉、耀、玲奈、オリヴィア、ロードゼンヘンド等を誘い屋台へと繰り出す。
     彼等が屋台へ向かう時、さくらえとエリノアは。
    「子供達も今日は人にお願いしてきたし今日はこのまま久しぶりにデートしちゃおうか」
    「デートか、そうね、偶にはいいわね。戦って運動もしてきたところだし」
     肩を寄せ合い雑踏に消える。
     それを勇弥が穏やかに見送って。
     屋台の中心に何時の間にか設置されていた舞台の上の音色とくるみに気が付いた。
    「観光客の皆様! ただいまより、『Neiro』と『榊・くるみ』によるゲリラライブを開催します!」
     音色の言葉に驚きと喜びの声が観客から漏れてくる。
     音色もくるみも今となっては有名人。
     当然と言えば、当然だろう。
    「精一杯歌いますのでよろしくお願いします」
     そう、それはあの日。
     夏休みの終わりを告げる夏祭りの時、2人で舞台に立った時と同じ様に。
     真摯な気持ちで観客達と向き合い、そして二人で一瞬見つめ合いそして頷きかける。
    『それでは聴いてください! 『ベリーベリー☆ハーモニー』』
     くるみの溌溂としたソプラノと音色の透き通ったアルトの声音が混ざり合い、美しい歌が跡地全体に優しく甘く、波紋の様に広がっていった。

    作者:長野聖夜 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年11月8日
    難度:普通
    参加:23人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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