ブレイズゲート消滅~最後まで楽しもうぜ!

    作者:雪神あゆた

     世界が変わってから十年。
     五十嵐・姫子(dn0001)は、皆の前で頭を下げた。
    「お集まりいただきありがとうございます。
     最新の研究により、ブレイズゲートを構成していたサイキックエナジーが尽き、ブレイズゲートが消滅することが判明しました。
     幸い、ソウルボードが消滅した事で、灼滅者も闇堕ちする危険性が皆無であることが判明している為、ブレイズゲートが消滅したとしても、直接的な問題はありません。
     ですが、ここで多少の問題が発生しました」
     姫子は淡々と説明を続ける。
    「ブレイズゲート内部の分割存在は、ブレイズゲートの力で維持されています。
     なので、ブレイズゲートが消滅すれば、分割存在は連鎖して消滅します。
     が、その消滅は全く同時というわけではありません。
     ブレイズゲート本体が消滅しても、分割存在は、内部に蓄えられたブレイズゲートの力が尽きるまで、存在を維持できるようなのです。
     試算では、分割存在が存在できる時間は、分割存在単独で最大で3時間程度。
     ブレイズゲートが自然消滅した場合『分割存在をブレイズゲートの外に出さない力』も消えます。
     つまり、最大で3時間の間、ブレイズゲートから解き放たれた分割存在が暴れまわってしまうのです。
     ブレイズゲート周辺に避難勧告などを行なう事で、被害は抑えられますが、避難できない建築物などは、大被害を被るでしょう。
     分割存在の中に、距離を無視し別の場所に出現して事件を起こせる者がいた場合、被害はより大きくなるかもしれません。

     これを防ぐ為、ブレイズゲートが消滅するタイミングで、『灼滅者による大規模なブレイズゲート探索』を行なう作戦が提案されました。
     ブレイズゲートの消滅は『10月31日~11月1日』に発生するので、そのタイミングで、日本全国のブレイズゲートの大規模探索を行います」
     そして姫子は日本地図を取り出し、一点を指さす。そこは山形県蔵王。
    「此処にいる皆さんは、『天武無双会』と呼ばれるブレイズゲートの探索をお願いします。
     ブレイズゲート消滅時に、分割存在がブレイズゲートの外で活動できないように『討ち漏らしのないように掃討』してください」
     そこで姫子は、そうそうと補足する。
    「探索期間は長めなので、複数のブレイズゲートの探索に参加可能です。
     いずれにせよ。此処にいる皆さんの実力なら、探索や掃討に危険はないでしょう。ブレイズゲートの探索を皆さんで楽しんでくださいね」
     探索に参加する筋肉質な女――地央坂・もんめ(dn0030)はそれを聞いて微笑。
    「どうやら、消滅のニュースを聞いたのか、各地のブレイズゲート前に、世界各地から観光客がやってきて、いろんな屋台が並んでいるようだ。
     たこ焼きお好み焼き、輪投げと言った定番から、パンプキンパイといった珍しい屋台……。
     他にもハロウィンらしい様々な衣装を貸してくれ、撮影もできる屋台もあるそうだ。
     余裕があれば、屋台で遊ぶのもいいかもな。
     最後の探索、燃えるくらい思いっきり、楽しもうぜ!!」


    ■リプレイ

    ●羅刹の屋敷の中を
     武家屋敷の、磨き上げられた板張りの床を、狼の足を模したもふもふのブーツが行く。頭にはもふもの狼耳。手には同じくもふもふの肉球グローブ。狼男の仮装した玉だ。
     玉の前方には刀剣怪人たちが立ちはだかっているが、玉はためらわず前へ前へ。
    「あいや、待たれ――」
     敵が制止するのをあえて無視し、敵との距離を詰めた。試作武器の先で怪人の胴を貫く!
     玉は手元をちらり。
    「肉球グローブが邪魔で、思った以上に武器が持ちにくいね。バイクで行く全国ブレイズゲート巡りの旅、最初の一か所から判断を誤った感はあるけれど……」
     独りごちる玉の眼前で怪人が刀を振り上げていた。
     玉は半歩右にずれる。最低限の動きで怪人の刀を回避。
     玉は体を捻り腕を動かす! 数秒後。どさり、怪人の倒れる音。

     銘子は人の注意が入り口からそれた隙に、箒に乗ってブレイズゲート内に侵入していた。
     今は畳の上を歩きつつ、傍らの四国犬の風貌の霊犬・杣に語りかけている。
    「これを見つけた年の後半にガイオウガ大戦で……まあ、色々あった年よね。色々無かった年も無いけれど」
     この場所の発見者である銘子は遠い目をする。
     銘子は新しい部屋に入ったところで、不意に足止めた。視線を動かす。
    「さ、掃討を始めましょうか」
     室内には巨体のアンブレイカブル、壊山関ら、敵の群れ。群れは銘子に気づき、一斉に襲いかかって来る。
     力士の掌を受けた銘子は、それでもいささかも怯まない。
    「杣、回復は任せるわ」
     回復を杣に委ね、銘子はフリージングデスを行使。敵の体を氷で覆う。その冷たさで一体の意識を奪った。

     雄哉は、眷属の巨大な芋虫と対峙していた。
     芋虫は頭部から生えたチェーンソーを回転させている。
     雄哉は敵に接近。『蒼穹のバトルオーラ』を拳に宿す。打つ。
     雄哉の拳が敵頭部を貫通! その威力が、芋虫の動きを完全に停止させ、消滅させる。
     敵の一群を全滅させた雄哉は、しかし、気を一切抜かずに前進を再開。
    「掃討は確実にしないとね。ブレイズゲート消滅と同時に分割存在を解放させるわけにはいかない。なにより――」
     ぴたり。足を止める雄哉。
    「分割存在でも、ダークネスであることに変わりはない。一体残らず殲滅する」
     雄哉の青い瞳と耳が、敵影を察知したのだ。落花生頭をした怪人たちが畳の上を歩いている。
     雄哉は足元の『憎悪ニ身ヲ焦ガス現身ノ影業』を揺らし、新たな敵達へ疾走。

     幾度かの戦闘を交えつつ、刀は階段のある広い部屋へ。待ち構えていたのは、武者クロムナイトの大群。
     唸り声をあげるクロムナイトの前で、刀は涼しげな顔。
    「武を競い、磨き合った兵たちが夢の跡。さて……」
    『草薙剣』の柄に手を掛ける刀。
    「力は衰えども、技の冴えはいかがでしょうか?」
     クロムナイトが飛びかかってくる。
     間合いに入った瞬間に、刀は柄を握る。抜き放つ。一閃する刃。放った衝撃が、クロムナイトたちに命中。
     クロムナイトは或いは怒りくるい、或いは悲鳴を漏らし、それぞれ槍を振り回した。
     鎗の穂先が刀の胴を裂く。肩を貫く。零れる血。
     だが、刀はあくまで冷静。音をたてぬ動きで刃を鞘に戻し、必殺の機会をうかがう。
     刀の瞳には、己の技と腕を磨き続けるという、強い意志。

     隅には大きな米俵。中央には数台の竈。鉢巻を頭に巻いたシルヴェストと壬生狼装束のミカエラ、和装の二人は、二階の土間で休憩中。
    「刀剣! 武者クロム! ……久しぶりに全力で暴れたなぁ♪ ね、シルヴィ、お腹すいた!」
     ミカエラはシルヴェストの装束の裾を引っ張る。ぐいぐい。そして上目遣いで見つめる。じー。
    「レーションなら……冗談だ」
     一瞬頬を膨らませたミカエラの前で、シルヴェストは床にシーツを広げた。その上に、バスケットを置く。バスケットには、和菓子洋菓子、月餅……色とりどりのお菓子。
    「奮発してヒマワリの菓子も用意した」
     シルヴェストがさりげなく言うと、ミカエラは両手を顔の前に合わせ、
    「ありがと~♪」
     と、大はしゃぎ。ミカエラは月餅を頬張り、
    「探索が一段落したら、仮装して、エスパーにお菓子あげにいこっ♪ ちゃんと仮装も用意したんだよ!」
    「で、俺の仮装は何だ?」
     とりだされたのは、メイド服。ぴょんと長いうさ耳カチューシャもついている。サイズはしっかり、シルヴェスト用。
    「うさ耳メイド? ……」
     そしてシルヴェストは黙りこくる。何事かを思案する顔。
     ミカエラは楽しそうな顔をしていたが、はっと思いついたように、
    「お菓子を持っていくといえば、もんめや陽桜もここに来てるんだってね。後で二人にもおすそわけしようか♪」
     と提案。
     天真爛漫な笑顔のミカエラを見るシルヴェスト、その銀の瞳は優しげに見えた。

     陽桜は烏天狗の格好をし、今はもんめと行動を共にいた。
     二人がいる室内には龍を模した像や鎧。鎧の手前に、羅刹たち、そして八尺玉を抱えた淫魔のはなびちゃん。
    「はなびちゃんの花火、あたし大好きだったのですよ」
    「なら、今回はよく見とかないとな」
    「はい。最後の花火、しっかり見ておきたいですね」
     頷く陽桜の前で、はなびちゃんが玉を放り上げた。
     爆音。上方から滝の如く降る無数の火花。
     陽桜は火花に軽い傷を受けつつも、見つめる。花火の美しさそして儚さを。
    「名残惜しいが行こうか、陽桜」
     気の塊を敵に投げるもんめに、陽桜は同意。
    「ええ。いきましょう。あまおとは守りを!」
     霊犬あまおとも尻尾を振りつつ瞳で陽桜を治癒。
     陽桜も動く。満開の桜の枝がそっと抱く石の十字架『さくら・くるす』から、光を乱射。はなびちゃんたちを薙ぎ払う! 光で敵を怯ませる。
     称賛の視線を向けるもんめ。もんめの視線の先で、陽桜は追い打ちするべく、『さくら・くるす』を構えなおす。

    ●天武無双会の終焉
     時間が経過し。刀は今も戦いの只中にいた。
     銃声。刀へ敵の一人女羅刹がガトリングガンを乱射する。
     刀は洗練された足運びで銃を回避。敵との間合いを一気に詰める。
     次の瞬間、『草薙剣』が敵を両断。
    「う、腕が消えた?!」
    「否――居合切り? じゃが、このような速さ」
     残る敵たちは驚きつつも、視線に今まで以上の敵意を込めてくる。
     刀は表情を変えない。抜いた刃を上段に構えた。振り下ろす。
     甲冑姿のソロモンの悪魔、その頭を兜ごと、斬る。
     敵を一体、また一体と倒し、数分の後、刀は敵の一群の全滅に成功していた。
     刃をまた鞘に納め、刀は別室へ歩き出す。求めるのは、新たな敵の群れとの遭遇、そして己の腕を磨く機会。

     マップを完全に暗記していた玉は、最短ルートで五階の広間へ辿り着いた。
     広間奥のダークネスら、そのボス格の無双鬼に、玉は声をかけた。
    「今晩は、『古今無双の強者』さん。久しぶりに、データ取りの相手をお願いするよ」
    「御託はいらねぇ!」
     始まる戦闘。玉は狼男の仮装のまま、配下らの触手や無双鬼の巨刀が振り回される中を走り抜ける。
     戦闘の中、玉は性能を検証するようにサイキックを次々実行した。
     玉のサイキックが羅刹を弾き飛ばし、怪人に悲鳴を上げさせ流血させ――。そして玉は試作武器を握り、
    「ここでのデータは取り終えた。キミ達の事は嫌いではないけれど、外にまで出張られると困るからさ。ここで消えてもらうよ、悪いね」
     無双鬼の左胸へ、致命的な一撃。

     そのしばらく後。ミカエラとシルヴェストは階段を上っていた。
    「ココ、銘子が見つけた場所なんだよ。終わっちゃうの、少し残念……」
    「……あるいは彼女もここに来ているかもな。会えたら、共闘できるかもしれない」
     ミカエラは少し寂しげな顔をしたが、シルヴェストの言葉を聞き、明るさを取り戻す。
     もう五階だ。二人は顔を見合わせ五階へ、広間へ。
    「最後のお兄さんは、本気で行くよ! 背中は頼むね!」
     ミカエラはボスの無双鬼の姿を見るや否や、ダッシュ。後ろは一切気にしない。シルヴェストを信頼しているからこそだろう。
     そのミカエラへ、
    「その本気、斬ってやらぁっ」
     無双鬼の巨刀が冷気を噴いた。
    「遊ぶな。しっかり前を見ろ」
     シルヴェストはミカエラの背を誰かを重ねるような目で見ていたが、敵が動くと声を張る。そしてシールドを展開し、ミカエラへのダメージを軽減。
    「流石に手強いね! でも、まだまだ行くよっ!」
    「配下の存在も忘れるな――次は右だ!」
     二人の連携は瞬く間にダークネスの数を減らしていき、
    「これでおわりっ!」
     ミカエラの『Sol et felis』による蹴りが、最後まで立っていた無双鬼を完全に沈黙させた。
     シルヴェストはミカエラに歩み寄る。手際よい動きで、ミカエラを治療。
    「あ、ありがと。なんだか。なんだか懐かしいね。一緒に戦ってたころ、あっちこっち引っ張り回したよね~。ゴメンね!」
     悪びれない笑みのミカエラに、シルヴェストは無言で溜息を深くついたのだった。

     そして外は夕闇に包まれている時間に。
     銘子は今なお戦い続けていた。銘子に殺到する、歌舞伎役者風の六六六人衆や白装束の羅刹。
     銘子は動かず、敵が十分に近づいた頃合を見計らい、ベルトを射出。イカロスウイングで敵の群れを纏めて締め上げる。
     捕縛から逃れた羅刹が銘子へ駆け寄るが――、
    「杣!」
     銘子の声に反応し杣が跳ぶ。首を振る。口に咥えた刀を閃かせ、羅刹にとどめを刺す。
     数分後。掃討を終えた銘子は、時間を確認。
    「物騒なSamhainは、そろそろ終わりね。しがらみもまた一つ消えるわ……最後まで気を抜かずに行かないとね。杣、もう少しついてきて」
     残る敵を求め、歩きだす銘子。

     雄哉もまた残敵の掃討を行っていた。
    「拙僧の触手に呑まれるがいい!」
     僧服を纏ったシャドウの触手を、近くにあった置物を蹴って跳び、回避。
     着地と同時に漆黒の『憎悪ニ身ヲ焦ガス現身ノ影業』を操る。敵を呑み、絶命させる!
     敵の群れを全滅させた雄哉はしばらくブレイズゲート内を歩いた。敵が出ないのを確認し、外へ。
     入り口付近では、皆がお祭り騒ぎを繰り広げていた。が、構わず屋敷を目を向ける。
     視線の先でブレイズゲートはゆっくりと消滅していった。
    「解放された分割存在は……いないようだね」
     そう、分割存在は現れない。雄哉たちの掃討の成果だ。
    「(未来に残りえた危険を一つ排除した……ただそれだけの話)」
     声に出さず呟く雄哉。

     陽桜はあまおとやもんめと共にブレイズゲート『天下無双会』が消えるのを見つめていた。
    「おわったな、お疲れ様だ」
    「もんめさんもお疲れ様でした♪」
     互いの健闘を称え、ハイタッチを交わしあう二人。陽桜の背の翼がふわっと揺れた。
     しばらく感慨にふけった後は、エスパーたちが用意した屋台を楽しもうと、歩き出す。
    「ミカエラさんとシルヴェストさんが仮装してお菓子を配っているそうですから、あたしたちも行ってませんか? あ、そこのスイーツの屋台も美味しそうですね♪ いい匂い♪」
     この時間を楽しみにしていたのだろう、声を弾ませる陽桜。もんめもまた、微笑みながら、彼女の隣を歩き続ける。
    「一人だと食べるのも限界があるので、ご一緒してくださって嬉しいです!」
     幸せそうに笑う陽桜。その笑みは、隣のもんめや屋台の人々を幸せにするような、そんな笑み。

     静かに立ち去るもの。すでに別所に移動し終えているもの。屋台を楽しむもの。仮装してお菓子を配るもの。仲間を見かけブンブン手を振るもの。ブレイズゲート跡をただ見つめるもの。
     ブレイズゲート最後の探索に参加した皆の時間は、ゆっくりゆっくり過ぎていく。

    作者:雪神あゆた 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年11月8日
    難度:普通
    参加:7人
    結果:成功!
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