ブレイズゲート消滅~私は戦い続けます

    作者:聖山葵

    「最新の研究により、ブレイズゲートを構成していたサイキックエナジーが尽きた為、遠からずブレイズゲートが消滅する事が判明した」
     君達の前で口を開いた座本・はるひ(大学生エクスブレイン・dn0088)はこれも時代の流れであり、やむを得ないことだと続けた。
    「もっとも、ソウルボードが消滅した事で灼滅者も闇堕ちする危険性が皆無であることが判明しているのでね――」
     ブレイズゲートが消滅しても直接的な問題はないのだとか。
    「そう、直接はだ。だが、多少の問題は発生した。ブレイズゲート内部の分割存在は、ブレイズゲートの力によって維持されている。故にブレイズゲートが消滅すれば、分割存在は連鎖して消滅するものの、この消滅は全てが同時に起こる訳ではない」
     たとえブレイズゲートが消えたとしても、分割存在は内部に蓄えらえたブレイズゲートの力が尽きるまで存在を維持出来ると試算されたのだという。
    「維持出来るのは、最大でおおよそ三時間程度。ゲートが消えれば、中のモノを外に出さない機能も失われる為、解き放たれた分割存在が暴れ回る事態が発生することになるな」
     ブレイズゲート周辺からの避難勧告を行えばこの被害は抑制出来ると見込まれるものの、避難できない建築物などについての被害は避けられず、また分割存在の中に距離を無視して別の場所に出現して事件を起こす事ができるような者がいた場合、被害はより大きくなる可能性もある。
    「と言う訳でね、『灼滅者による大規模なブレイズゲート探索』が行われることになったのだよ」
     ゲートが消滅するのは、10月31日~11月1日と予想され、探索期間は長めなのでやろうと思えば複数のブレイズゲートの探索にも参加可能なのだとか。
    「もっとも私はエクスブレイン。ハシゴどころか、探索には同行出来ない。せいぜいがブレイズゲートの消滅を聞きつけて集まってきた観光客に混じって観光客目当ての屋台を満喫するくらいと見る」
     威張って言えるような事ではないが、それはそれ。
    「君達に赴いて貰うゲートは新宿橘華中学の絆のベヘリタスが潜む領域だ。とは言うものの、君達の実力ならば苦戦することはまず無いだろう」
     探索参加者が少なければひたすら戦い続けることになるかも知れないが、そうでなければはるひが前述したゲートの前に並ぶハロウィンらしい屋台を探索の合間に覗いてみるのも楽しいだろう。
    「人によっては十年近く振りの再開となるかも知れない。近況報告をしつつ旧交を温めたりするのも良いと思うのだよ」
     十年もたてば積もる話もあるだろう。伝えたいことだってあるかも知れない、だが。
    「そのままにしておけば被害が出るかも知れないのですね、なら――」
     緋那はスレイヤーカードを確かめ、窓の外を見る。
    「私は戦います」
     自分の事は後回し、ストイックなところは十年たってもそのままのようだ。
    「よろしく頼むよ」
     はるひは君達へと頭を下げた。


    ■リプレイ

    ●再会
    「ここか」
     バイクをとめた玉の視界に入ってきたのは、新宿橘華中学の校舎とその前に並ぶハロウィン仕様の屋台の数々。そこがバイクで行く全国ブレイズゲート巡りの旅十三件目の舞台だった。
    「よくぞ集まったわが精鋭達よ」
     懐かしい顔ぶれを前に言い放った登は、襲ってきた衝撃で地に伏した。
    「皆さん、お久しぶりです。お元気そうで何よりです」
     笑顔でTG研の面々に挨拶する清美の片手には土と石を詰めた靴下が揺れており。
    「ゴメン。いや言ってみたかったんだよ。まあ、大丈夫だと思うけど今日はよろしくね」
     むくりと身を起こした登も頭を下げて、これに応じた。
    「皆さん、久しぶりの再会がこんな形ですいません。あ、この格好は気にしないでくだ」
     最後まで言い切れずに誰かのお手製ブラックジャックで殴り倒された三角頭巾の不審者も居た気がするが、きっと仕方ない。
    「良太……」
     倒れ伏した人物を先程同じ目にあった登が見つめるが、バベルの鎖があるのできっと大丈夫だろう。
    「流希兄ちゃんは?」
    「それなら、あちらに」
     問われた赤い仮面の明は、同職のマフラーをなびかせつつ、殲術道具を手にもう臨戦態勢で佇む流希を示した。
    「そういえば、此処にはヘベリタスがいるんだっけ? 懐かしいな」
     以前と変わらない様子で淡々とだが、仲間と久々に会えた喜びを滲ませるようにしながら校舎を眺め鎗輔は呟き。
    「ひな先輩、久しぶり! あの時以来だな」
    「ええ、そうですね」
     再会は別の場所でも起こっていた。イヴに声をかけられた倉槌・緋那(大学生ダンピール・dn0005)は微笑しつつ肯定すると、ちらりとイヴの後ろを見る。
    「こら! ガキども静かにしろ。あそこの屋台で好きな物食べていいから」
     それで、自分の後ろで騒いでいた面々を再認識したのだろう。振り向いて叱ってから経費は会社から落として貰うかと呟き、緋那に向き直る。
    「はぁ……すまない。リンダが立てたアイドルプロダクションの子役のガキどもなんだ」
    「彼処にイヴが! 後輩おいてナンパか?」
     騒がしくて仕方無いぜと続けるより早く、会話に入ってきたのは、琳朶当人だった。
    「倉槌先輩初めてましてかな。イヴが昔、お世話になりました。姉のリンダです」
     せこせこと中継機材をしまい緋那に挨拶するとブレイズゲート生中継をしていたのだと語り。
    「こいつ、大学生になってから会社を突然経営するて言ってな。強制的に手伝わされてるんだ」
    「10年ぶりなり~♪久しぶりに都会に出てくるから。たんとおめかししたのよ」
     補足説明をイヴがしていた時だった、玲子が現れたのは。
    「今回、PRの為私も呼ばれたのよ。あれなら、今からでもビキニとか着るよ? あ、無視」
     説明を聞いていたのだろう。自分の立場を説明してアピールするもイヴ達からの反応が無くて涙目になり、歳には勝てないなりなと零せば。
    「ここだったぜよ? 海外の遺跡発掘からイヴに『戻ってこい!』とメール貰っ、あ」
     周囲を見回していた凍華はそんなBIGSEVENの面々を見つけて声を上げた。

    ●合流
    「……ここに来るのも久々ですね、外に屋台が出ているのには驚きですが」
     夫の和馬を傍らにアルゲーがマジマジと眺めるのは、活気に溢れた屋台群。
    「あー、うん。商魂逞しいと言うか何」
    「おーい」
     苦笑しつつ和馬が口にしていたコメントが途切れたのは、二人を呼ぶ声がしたからだろう。
    「見かけたから緋那姉ちゃんにも共闘しようって声かけてきたんだぜ。和馬もアルゲーも久々の共同戦線だ、よろしくな」
     元クラスメイト二人に葵が挨拶し。
    「……お久しぶりです」
    「ええ。お久しぶりです」
     アルゲーが遅れて現れた緋那に挨拶していれば、来訪者は他にも。
    「纏まって行動した方が安全ですし、一緒に行きませんか?」
    「ひな先輩の事だから一人でいくとは言わないでくれよ。後輩の俺も手伝わせてくれな」
     ここに来るまでの緋那の姿を認めたのだろう良太も同行を誘えば、先程まで一緒にいたイヴも駆けつけてきてにかりと笑う。結果的に集まっていた灼滅者の中でもグループ参加していた二組が合流することになったわけだが。
    「鳥井君、これをどうぞ。鳥井君の強さに合わせて作った忍装束です」
    「え゛」
     良太の差し出すミニスカくノ一装束に顔を引きつらせて和馬が固まる辺りを見ても。
    「変わらないね」
     学生自体のじゃれ合いを重ねたのか、登はポツリと呟く。良太の背後に良い笑顔の清美が立っているのは見なかったことにした。
    「今日みたいなハレの日くらいは派手でもいいような気がしまして。勿論知識の鎧も巨大ロボ仕様です」
     そんな灼滅者の一部までもハロウィン仕様である中、誰に向けての説明か、みんとは豪華な紫ローブの魔導士姿で傍らにいたマキハラント・メイガスを示す。
    「それはそれとして、知り合いの方も居られるようですので、良ければ御同行できればなと。戦いだけでなくボケもツッコミもどちらもいけるお買い得魔術師ですよ」
     ハロウィンの空気に影響を受けたのだろうか、ちょっとらしくなく戯けて見せて、同行者がまた一人。
    「皆で戦うのも、久しぶりだな。……ん? はるひと一緒じゃないのかって? そう思ったんだが、子供に利かせる父親の冒険譚の最後が『他の人に任せました』じゃ、締まらないからな」
     校舎に向かって歩き出した段階で仲間の一部から向けられた視線による無言の問いに気づいた流希は事情を理解していると思わしき質問者達にのみ弁解し、思い出す。
    「流希、私の旧姓を間違えていた件と併せて三人追加で手を打とう」
     冗談なのか謝罪より実利と言うことなのか、ブレイズゲートに仲間達と赴くといった時の妻からの言葉を。
    「……それに、正真正銘の最後だ、付き合わせろよ」
     脳裏で声を再生したのは僅かな間、すぐに現実に戻ってくるなりTG研の面々へ言い。
    「そろそろみたいっすね」
     胃薬の瓶をしまった刑は表情に滲む精神的な疲労を引っ込めるとブレイズゲートに向かう灼滅者達の背を追い、歩き出した。

    ●掃討
    「10年ぶりの戦闘だね……」
     琳朶の独言に凍華の肩が震えた。雇用者と被雇用者という関係もあるのだろうが、凍華にとっても久しぶりの戦闘なのだ、不安を覚えたのだろう。
    「リンダから高い日給は受けとっているから。へましたら後が怖いぜよ」
     と言うか、雇い主が近くにいること自体もプレッシャーなのかもしれない。
    「さて、久しぶりにご当地ヒーローとして悪を倒すのね」
     一方で玲子はそんな不安とは無縁の様であり。
    「ここ十年、ずっと戦いとは無縁の生活してたから、久しぶりに血が滾るって奴だね。いい緊張感♪」
     むしろ鎗輔に至っては逆にテンションすらあげて。
    「私も戦いは久しぶりですので、緊張しますね。宜しくお願いします」
     もちろん凍華が少数派というわけではないのだろう、清美も若干硬い表情で挨拶する辺り。
    「グルルル……」
     足を踏み入れ、殲術道具を構える灼滅者達を見つけたのか、唸りながら現れたのは、三つの頭を持つつぎはぎされた犬だった。
    「縫合ケルベロス」
     誰かがその眷属の名を口にした。
    「……ステロは防御をお願いしますね、久々ですが全員で頑張りましょう」
    「おう」
    「うん」
     アルゲーの声に葵と夫が応じ、サーヴァント達も三人に合わせるように動き出す。
    「……いきます」
     胸が大きくなったことを除けば、アルゲーの戦い方は変わらない。ウロボロスブレイドで絡め取った三つ頭の犬は和馬の撃ち出した光の刃に貫かれて壁に縫いつけられ。
    「ジョン、トドメなんだぜ!」
     葵の手にした妖の槍で貫かれた個体も霊犬のジョンがくわえた斬魔刀 に斬り裂かれて崩れ落ちる。
    「ギャンッ」
    「キャインッ」
     その二匹だけでないあちこちで現れた眷属達は討ち取られ。
    『タタエヨ……偉大ナルソノ名……』
    『タタエヨ……ベヘリタス……タタエヨ……』
     縫合ケルベロスの断末魔が消え去るのを待たずして影が実体を得たかの如き漆黒の存在が呟きながら現れる。
    「ベヘリタス、か」
     漆黒の眷属、シャドウポーンの口にしたダークネスの名を反芻しつつ、巧は傷名の邪杖を前方に突き出す。引き起こされた雷に撃ち据えられて漆黒の眷属が作る壁が欠け。
    「ベヘリタス殴りに来ました」
    『タタべッ?!』
     讃える以外の宣言と共に玉が振り下ろしたB3に両断されたシャドウポーンも消滅する。後に短く残ったのはチェンソー剣特有の駆動音、それもすぐに消えて。
    (「ベヘリタス……いや、狙うのはあの人にするか。さぁて、どこにいるか……」)
     行く手を阻む的が次々討ち取られて行く様を横目に前へと歩き出しながら、刑は周囲を見回す。
    「入り口だからかまだ眷属ばっかりだね」
     明の影で出来た触手に絡み取られた三つ頭の犬にトドメを刺しつつ登がポツリと漏らした。
    「わんこすけ、討ち漏らしはないね?」
     殿を務めさせていた霊犬に鎗輔が問えば、鳴くことでこれに応え。
    「お、サイキックエナジーが溜まっ」
    「「ここにいたか、灼滅者どもめ! 必殺の兄弟連携を見るがいい!」」
     誰かの呟きに被せるようにして襲撃してきたのは、頭が『雷門』と書かれた提灯になった屈強な二人のご当地怪人。
    「行べっ?!」
    「兄者ぁ?!」
     連係を見せようとしたところを出オチの如くみんとの魔法にくじかれ。
    「掃討は確実に見落としないように丁寧にしないと行けませんからね」
    「うぬぬ、我ら兄弟を掃除の折うっかり見落としていた埃か何かのようにッ、おの、ぎゃぁぁ!」
     憤りみんとを睨むご当地怪人兄弟の片割れは怒声をあげようとしかけたところでビームに灼かれ、倒れ伏した。
    「これで二体目、このまま皆で数を競い合うね!」
     トドメを刺したのがご当地ヒーローの玲子だったのは、偶然か、それとも。
    「兄者?! おのれ、灼滅者! 兄者のか、かばっ?!」
    「まだまだ剣も槍もいけるんだぜ!」
     弟っぽかった方もご当地ヒーローの葵に斬り捨てられ。
    「倉槌先輩」
    「っ、ありがとうございます」
     自身を狙う有刺鉄線を巻いた釘バットを良太が弾いたことに気づいた緋那は礼を口にする。
    「蛇蝮・毒郎、今度はアンブレイカブルですか」
    「おうおう、なり損ないがこんなに大勢。いいじゃねぇか、俺の鍛練のた……アン?」
     獰猛に笑んだアンブレイカブルの少年は、次の瞬間訝しげな声を漏らした。当然かも知れない。有るべき筈の身体の一部が消え失せていたのだから。
    「悪いな、ひな先輩を狙ったヤツは放置出来ないんだ」
     正確な斬撃でソレを切除したイヴの呟きを聞きながら、毒郎は崩れ落ち。
    「最後の大仕事! こんな所で躓いてはいられんぜよ!」
     ミートハンマーを振り上げた学ラン姿のアンデッドを凍華は巨大化させた腕で逆に叩きつぶす。護るべき大切な人と一緒に暮らすためにも何かと物入りという事情が不安を吹き飛ばし、凍華の背中を強く押していた。
    「ム」
     一音発しただけで都市伝説は琳朶のクロスグレイブで鏡ごとたたき割られた。
    「ごめんね、生中継してると尺の都合が出てきてね」
    「あ、鍵が落ちてるもっちぃ」
     都市伝説のいた場所転がる鍵を玲子が拾い、閉ざされた扉を開けて一行は更に奥へと。
    「待ちなさい。あなた達をその先に行かせるわけにはいかないわ」
    「お久しぶりです、縫村さん。アンタは変わらず、美人だな」
     刑の望んでいた邂逅が訪れたのは、その先だった。
    「ありがとうと言うべきかしら?」
     制止しようとしたら挨拶され、褒められた。想定外の反応に一瞬動きを止めつつもそう返す縫村・針子へ刑は告白する。
    「今だから言えるが……オレはちょっぴり、アンタに惚れてた」
     と。
    「そう、だけど不純異性交遊は――」
     校則違反とでも言うのだろうか。
    「だがそれも今日で完全に終わりだ。……最後の宴を、始めよう」
     振り切るように殺刃器『起無腐』を構え、降り注ぐ縫針のシャワーをくぐり抜けるように前へ。肖像画を掲げる奇妙な機械が奏でる重厚なクラシック音楽をBGMに殺し合いは始まった。
    「思えば、世話になったからな」
     一体づつ、心を込めて屠る。流希が堀川国広で肖像がごと両断した都市伝説が消滅し。
    「っ」
     死角から斬りつけられ、両断された縫い糸に続いて滴る赤が床に花を咲かせる。
    「やるわね。私が分割存在でなかったら……いいえ、それも負け惜しみね」
     乾いた音を立てて縫い針を落とした六六六人衆の少女は傾ぎ、床へと崩れ落ちる。倒れた身体が消え去る間際、微かに唇が動いたが、何を言ったのか、聞き取れたのはおそらく刑のみだろう。
    「っ」
     縫村・針子が連れていた眷属やダークネスも討ち取られ、先に進んで階段を昇った灼滅者達は扉の向こうから強烈な気配を感じて足を止める。
    「この先にいるようだな。やはり残っていたか、ベヘリタス」
     巧は扉を見据え。
    「さあ、このままベヘタリス討伐に突入するぜ!」
     だよな、ひな先輩と扉に手をかけてイヴが振り返る。
    「ええ、行きましょう」
     頷く緋那の姿にイヴが扉を開け。教室に踏み込んだ瞬間、眼前の空間が不気味に歪み始め、徐々に具現化し、ひとつの形を形成する。
    「『宿敵』だったから過剰に印象に残ってるのかとも思ったけれど、ルーツ変えてみてもやっぱりムカつく面してんなコイツ」
     底なしの暗黒を飲み込んだが如き、不気味な不定形の怪物。それを前にして玉は怯むことなく、踏んで潰そうと言ってのけ。
    「名前は『絆』を結ぶもの。故に名乗ろう。私はシャドウの「ザ・クラブ」……『絆のベヘリタス』……!」
    「ベヘリタス。本体はとっくに滅んだのに、影だけは残って……哀れですね。終わらせましょう」
     名乗りに怯むこともなく、縛霊手で握り拳を作り清美は呟く。
    「「はい」」
     TG研の逆らってはいけない人の呟きを命令と取ったのか、幾人かが声を揃える中。
    (「絆のベヘリタスとの戦闘もこれで最後ですか。秋山さんの言うようにきっちり終わりましょう」)
     赤い仮面越しに魔神ベヘリタスを見ていた明は日本刀の柄を強く握り締めたまま刀身を鞘に戻した。
    「赤の王の……いや、遺されし最後のスート。戦うことしかできないなら――」
     蝕罪の妖槍を構えた巧は身を屈め。
    「最後までつきあおう」
     槍に捻りをくわえながら前へと飛ぶ。これに反応した魔神は三対有る尖脚の一つをあげ。
    「っ」
     巧とその周囲を蹂躙せんとしたソレを前に出たビハインドが縦となって受け止める。
    「マキハラントメイガス、良い動きです。まあ、その調子で頑張ってください」
     みんとは己がサーヴァントを褒めながらマテリアルロッドを向け。
    「ダルマ仮面、回復を」
    「わんこすけ――」
     サーヴァントをもつ灼滅者達が指示を出す。
    「がっ」
    「くっ」
     繰り出される数多のサイキックが魔神とその取り巻きへと降り注ぎ。
    「まだだよ」
     放たれる反撃を避け、あるいは受け止めて鎗輔は仲間達が斬り込む道を作り。
    「があっ」
     それから幾ら経過しただろうか、魔神の右鋏が斬り飛ばされ。
    「分裂弱体化したとはいえ、この私を灼滅するとはな……。見事だ、灼滅者よ」
     傾ぎ、ゆっくりと消滅してゆくベヘリタスに灼滅者達は何を思うのか。
    「慈愛は闇に溶け、贖罪はなされず。歓喜の声は絶え、絆はここに断たれた」
    「やったもっちぃ、帰ったら鏡餅で祝杯ね~~~♪」
     巧が呟き構えを解けば、玲子は嬉しげに飛び跳ね、今でも成長して旦那から呆れられてるという大きな胸を弾ませる。

    ●ハロウィンの屋台で
    「出店は我がアイドルプロダクション。びっくせぶん子役巨乳アイドルが食べ物レポートするよ」
     ゾロゾロと小さな子たちを連れながら宣言したのは、琳朶。
    「久々にいい運動になったな、緋那姉ちゃんもお疲れさんなんだぜ」
    「ありがとうございます」
    「さてと」
     葵も緋那を労いながらお手製のわさび餅を差し出せば、突入前に置いておいたと思わしき荷物の所へ向かい。
    「自信作だから一休みも兼ねて味わって欲しいんだぜ」
     箱いっぱいのわさび餅を抱えて戻って来るなり、自社製のそれを周囲の灼滅者達に配り始める。
    「……これで落ち着いて回れますね、和馬くんは興味のある屋台はありますか?」
    「えーと、それじゃ、あれかなぁ?」
     アルゲーが尋ねると夫は「男の」と名を冠したB級グルメらしき屋台を示した。そこに拘ったのは、ミニスカくノ一装束を着せられたからなのだろうか。
    「……その内子供が出来たら一緒に回りたいですね」
     夫の希望した屋台にまず足を運び、それからいくつもの屋台を経由し、並んで歩きながらアルゲーの漏らした呟きに和馬の足が止まる。
    「……和馬くん?」
    「オイラ、出来る限りのことはするから」
     きょとんとしたアルゲーには急に顔を赤らめつつ夫が宣言した理由がわからず。
    「和馬もアルゲーもラブラブだし俺もあいつに土産を買ってくか」
     誰かの高笑いを思い出して量の多い食いもんなら問題ないなと結論づけた葵はポケットの財布を取り出しつつ、子供かと呟く。アルゲーの言葉を子供が欲しいと言うものと和馬が受け取ったと葵は見ており。その葵にも妻は居る。
    「よく食べるのは前からだもんな」
     きっと気のせいなんだぜと頭を振った葵は屋台群へと消え。
    「そういえば、事後報告となってしまいましたが――」
     既婚者となっていた流希は屋台で待っていた妻を傍らにTG研の面々の前で結婚したことを明かしていた。
    「流希兄ちゃん、座本さん、おめでとう! いやあ、びっくりしたよ」
     実は知ってたけど、とは言わず登が祝福の言葉を投げかけ。
    「「ご結婚おめでとうございます」」
    「ご結婚おめでとうございます。いつの間に付き合っていたのですか?」
     明と良太も祝い、後に続いた清美が驚きつつ問う。
    「電撃結婚でしたからねぇ……いつの間にというのはなんと言いますか」
    「付き合っていた期間は存在しない。求婚に応じて即結婚だったからな」
     もっとも、流希としては応えにくかったのか、言葉を濁す一方で妻のはるひはあっさりバラした。
    「それにしても、いきなり、結婚しましたって通知が来た時は、腰抜かしたもんだ。おめでとう」
     沈黙を作らぬように口を開き、祝辞を鎗輔が口にしたのは、相棒への気遣いもあったのか。
    「え……? 子供ですか……? えーっと、その、そういう話は、お酒の席で……」
     にもかかわらず始まった質問攻めの中、苦しい答えを返した流希はふと気づく、妻は三人追加と言った。
    「追加と言うことは――」
     だが、それ以上考える余裕は周囲が与えない。
    「アルゲーさんと鳥井君もおめでとう。アルゲーさんには言ってなかったから改めて」
    「……ありがとうございます」
    「あ、うん。ありがとう」
     そんな流希をとりまく人の外周まで移動した登は、もう我慢は良いですよねと不穏なことを口にした良太を縛ったロープの端を捕まえつつ、祝福し。
    「鳥井君とアルゲーさんもおめでとうございます」
     倣う様に同じ夫婦を祝福した明はそのまま部長達の形成する人混みを離れた。
    「あ」
    「どうしました?」
     屋台の会場を一人彷徨い、漸く見つけたのは緋那。
    「私でよければ、喜んで。……行きましょう」
     そのまま屋台を見て回りたい旨を伝えると、微笑と共に頷かれ。
    「私が男性だったら、倉槌さんに交際を申し込んでいたのですが……」
     幾つかの屋台を回り、カラフルなポップコーンを抱えた緋那に真顔で切り出すと、かえってきたのはありがとうございますという言葉と微苦笑。どうやらどこかの飢婚者が似たようなことを口にしたことがあったらしい。
    「ですが、気にかけて貰えると言うことは、嬉しいことだと思います」
    「あの、倉槌さんと記念写真を撮っていいですか?」
    「はい」
     苦笑を笑顔に変えた緋那は明の申し出を快諾し。
    「これでやっと折り返し地点か。時間内に回り切れるかな」
     楽しげに屋台を満喫する灼滅者達をバイクに跨り眺めていた玉は、ポツリと呟くとエンジンをかけ、そのまま走り去るのだった。

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年11月8日
    難度:普通
    参加:16人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 4
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