ハロウィン一色に染まった温泉ホテルわかうら近くの商店街を、くるみはワクワクしながら歩いていた。
日本でもすっかり定着した、十月末日の仮装パーティ。仮装して行くと割引等を受けられるというので、くるみも魔女のコスプレをしてみた。
「さすがにこの歳で魔法少女の格好するんは、勇気がいりすぎるしなぁ」
苦笑いを零すくるみは、風で飛びそうになる帽子を押さえた。
黒いマントにとんがり帽子。ナノナノのステッキだけは持ってきた。
のんびり出店を見て回る。かぼちゃのパンにかぼちゃのパイ、ブレイズゲートクッキーにゾンビまん、有田みかん果汁100%ジュースに若女将の帯や黒い老婆のコスプレ貸出に倭華裏之姫の水晶、クロケルの足湯などなど。
「ハロウィン推したいんかブレイズゲートを推したいんか、わからんラインナップや」
それも無理もない。
最新の研究により、ブレイズゲートを構成していたサイキックエナジーが尽きたために遠からずブレイズゲートが消滅することが判明したのだ。
直接的な問題は無いが、ここで問題が発生した。
ブレイズゲート内の分割存在はブレイズゲート消滅と共に連鎖消滅する。
その消滅は、全く同時に行われる訳ではないのだ。
ブレイズゲートが消滅しても、分割存在内部に蓄えられたサイキックエナジーで最大3時間、ブレイズゲート外で存在が維持できるのだ。
そこで、灼滅者達に『灼滅者による大規模なブレイズゲート探索』を行う作戦が提案されたのだ。
本当ならば避難勧告が出されるのだが、それはそれ。
「消滅する前のブレイズゲートを見てみたい!」
「探索に訪れる灼滅者をひと目見たい!」
などといった声が大きく、結果お祭り騒ぎである。
「まあ、皆の実力やったらなんも問題あらへんやろ。訓練や気晴らしや運動や、その程度のモンや」
かく言うくるみも、ここに来たら懐かしい顔に会えるのではと思い、休暇を取得して遊びに来たのだ。
「十年後の姿で戦う皆の姿。間近で見れへんのは残念やけど、楽しい時間が過ごせるとええなぁ」
くるみはにかっと笑うと、ブレイズゲートクッキーを一口頬張った。
賑やかに屋台を見て回っている夢幻のメンバーに、アイスバーンは笑顔を浮かべて駆け寄った。
「みなさま、お久しぶりです。あまり変わっていないみたいで安心しちゃいました」
「久しぶり! へい、見ろよこの写真! ウチの子たちなんだけど可愛くない? ほら、この辺とかフェリに似てて……」
集まってくるメンバー毎に写真を見せて回る紫廉に、アヅマも駆け寄り覗き込んだ。
「お、二人のお子さんの写真? 見せて見せて」
「いいぜ! 俺も二児のパパだからな!」
「ってリグとしれんちゃんに子供いるのーっ?!」
驚きの声を上げるオリキアに、紫廉の方が驚いた。
「知らなかったか。そうだなぁ。十年の間ちょこちょこ会って遊んだりはしてたけど、みんなで集まるのは久しぶりな気がする!」
振り返った紫廉の視線の先には、久しぶりに会う夢幻の仲間たち。皆いままでどんな風に過ごしてきたんだろう。
「お前ら! 騒ぐぞ! 遊ぶぞ! 楽しむぞ!」
「おー!」
男子組の方へ駆け寄る紫廉の背中を見送るフェリスは、仕方がないという風にため息をついた。
「やんちゃさんのお世話には慣れてますですよ? 久しぶりです、リア先輩、アイス姉さま! お元気でしたか?」
「元気元気! ボクはとりあえず恋人とふたりでヒャッハーしながら旅してたよっ! 世界中を回ってみたいからね! 日本に来るのは久しぶりー!」
ガッツポーズのオリキアに、アイスバーンは微笑んだ。
「世界中ですか。素敵です! わたしは祖父の経営する企業に入社しまして。たまに会社の広告塔みたいな活動をしています」
にっこり微笑むアイスバーンの服は、ジャージ姿の引きこもりからスーツと眼鏡に変わった。
だが、外見は十年前と全く変わっていない。
「アイス姉さまは変わりませんね」
「リグは変わったよね。子供二人だもんね!」
はしゃいだ声を上げるオリキアに、フェリスは微笑み紫廉の背中を見守った。
「子供は……三人ですね」
意味深に微笑むフェリスに、二人は驚きの声を上げた。
「指輪をはめている男は捻じり切ってやるでござるから指を出せ」
デレながら騒ぐ紫廉の指に掴みかかっては返り討ちにあう木菟に、刑は手を挙げた。
「久しぶり。木菟は何をしているんだ?」
「拙者はトレジャーハンター? みたいなもんでござるかな。昔のダークネスや灼滅者に関連する史跡を辿りつつ本書いてるでござるよ」
「木菟パイセンの本、こないだ読んだッすよ! 俺も最近龍脈とか調べてて。あの本結構売れたっすよね?」
陽司の声に、木菟は照れたように頭をかいた。
「うん。まあ、一部界隈ではそこそこ有名人でござるね。うん。賞金掛けられたでござるから……」
「賞金!? でも、そのござる口調をやめれば、少しは目立たないんじゃないっすか?」
もっともな陽司の声に、木菟は難しそうに腕を組んだ。
「海外受けが良かったんで変えなかったんでござるよ。……刑さんは何してるっすか?」
「オレは生活に苦しむダークネスの雇用を兼ねた店を、都内に構えて経営してるよ」
軽く手を挙げながら答える刑の顔色に、木菟は首を傾げた。心なしか、少し血色が悪い気がする。
「顔色悪そうでござるが……大丈夫でござるか?」
「経営状況は悪くないんだが……。しかし色々と悩む事も少なくなくてな」
無意識に胃を押さえた刑は、既婚の友人を少し羨みながら遠巻きに見守る。
アヅマの指に目を止めた刑は、改めて呼び止めた。
「おや、アヅマさん。その指は……」
「ああ。皆さんお久しぶりです。元気にしてました?」
「いやだから、その指。結婚指輪はめてる?」
ごまかそうとするアヅマに、刑は改めてツッコミを入れる。観念したように左手を掲げたアヅマは、一つ頷いた。
「そうっすよ。……自分は今も武蔵坂に所属してるっす。といってもデスクワーク等が主で、矢面に立つ機会は減った……」
「えー! アヅマ結婚してるんだ……!! みんな変わるものなんだねぇ」
感慨深そうに今川焼をもっちゃもっちゃと食べるオリキアの隣で、陽司も今川焼きを頬張る。
懐から一枚の紙を取り出した陽司は、アヅマと刑に可愛らしく頭を抱えた。
「キャッ! アヅマさん! 刑先輩!どうしよう! もう俺アラサーなのに屋台で飲み食いした分の持ち合わせがないです!」
陽司が差し出したのは、なかなかな金額のツケ台帳。この屋台を網羅したんじゃないかという金額に、アヅマは指を鳴らした。
「よし待とう。今そこの25歳が良くない発言をした気がする」
てへぺろ♪ とウインクする陽司に、アイスバーンは心配そうに首を傾げた。
「あの……陽司さんちゃんと働いてます? うちの会社来てもいいですけど」
「俺は世界を股に駆け回るフォトジャーナリストですよ。ESP絡みの謎や犯罪を暴いたり記事を出したり。という訳で諸先輩方。ここの支払いよろしく!」
「ちょっと待つっす!」
すちゃっと逃げ出す陽司を、伝票を手にした刑が慌てて追いかける。
賑やかな様子を少し離れて見ていた拓海は、真っ黒な姿で物陰からそっと忍び出た。
黒いスーツに地毛の黒い髪。不幸にも黒いペンキを大量に浴びる事になった結果、どこかの推理漫画の犯人のように見える。身長はあれから1mm下がった。
くくく、と笑いながら夢幻のメンバーを見守る拓海に、アイスバーンはそっと話しかけた。
「拓海さんは……ちゃんと働いてます?」
「働いてるよ。発展途上国を渡り歩く教師をしているんだ。なんと時給にして0円。食料の現物支給なんだ」
目を丸くするアイスバーンに両手を挙げる拓海は、改めて皆を見た。
十年経って色々あったが、皆それぞれ変わらない。
十年という月日は夢幻にとって例えるなら、……少し長めの長いトイレ休憩だったのだ。
「ブレイズゲート探索、楽しみだよ」
変わらないメンバーに目を細めた拓海は、騒ぐメンバーに声を掛けてブレイズゲートへと誘った。
ソンビが巣食うブレイズゲート内は、カオスと化していた。
「またみんなで戦う時がくるなんて……」
久しぶりの戦闘に感動するオリキアは、襲い来るゾンビの首に手を掛けた。
この日のために鍛えた上腕二頭筋パワーが炸裂。とりあえず手当たり次第に首をねじ切って行くオリキアに、紫廉は手を振った。
「オリキア、食えそうなダークネスは半殺しにするんだぞー。ダークネスは倒すと消えるからな! 消えたら人間性は食えないぞ」
「人間性って食えるんすか?」
刑のツッコミに、紫廉はさも当然の表情で頷いた。
「もちろん。でもまあ人間性を食べるとはいうが、こんな事してたらむしろ俺たちの人間性がなくなる気がするな……まあ失った人間性は食べて補充すればいっか! 解決!」
「何一つ解決してねぇぇぇ!!」
「ふふっ、昨日も同じことつぶやいてましたよ? しれんさん」
楽しそうに微笑むアイスバーンは、仔羊の姿をした影業に話しかけた。
「という訳でして。ジンギスカンさん、人間性を食べちゃってください」
え? どうやって? という反応を示す影業は、答えを求めるように拓海に近寄った。
影技を見下ろした拓海は、何を納得したのか一つ頷くと天星弓を構えた。
「やる事やる前に何食べる? メインは他人の人間性でしょ? 美味いよ」
逃げようとする有田みかん怪人の足元に天星弓を撃ち込む。怯えたように頭を振る有田みかん怪人に、拓海は楽しそうな笑みを浮かべた。
「人間性はね。希望を見せた後、辛い現実を教えると熟すよ」
「てか人間性を食うって何」
「ダークネスの人間性を食すんだからいいだろ。妥協の産物だ」
アヅマのツッコミには誰も返さず、言葉が独り歩きして大騒ぎを繰り広げている。
「人間性の獲得のためダークネスから人間性を奪ってたべると、逆に人間性を失う? またまた。という訳で、海先輩が人間性は美味しいっていうから、食べに来ました!」
「うおぉーー!! お腹空いた!!! 食べるっ!!!」
「だから、人間性を食うって何っすか!?」
刑のツッコミをよそに、ノリで騒ぐ陽司とオリキア。
はしゃぐ二人を嗜めるように、フェリスはダイダロスベルトを通りすがりのゾンビに放った。
「ダークネス食べ放題は3時間制限ですですよ。うかうかしてるとダークネスがいなくなって、自分が狙われちゃいますですよ?」
「ダークネスをマジで食うっすか!」
刑のツッコミに、フェリスはにっこり笑ってトリモチを刑に手渡した。
「逃げようなんて許しませんです。大人なんだから現実逃避してないで、さっさと食材連れて来て下さいですよ」
「何を捕まえろって言うんですかフェリスさん!」
「ダークネスの事に詳しくなっちゃったでござるからさ、流石に食べて人間性を奪うのは気が引けるんでござるよね」
ツッコミが追いつかない刑の肩を叩く木菟に、刑は希望を見出したように目を輝かせる。
「そ、そうっすよね!」
「だから喰えそうな都市伝説はこっちに回して欲しいでござるよ」
「食べられそうなです? えと、有田みかんとテルルガスくらいしかないですよ? ここって」
「テルルガスってげぇふぉぁ!?」
鍋を用意して真顔で語る木菟に、首を傾げるアイスバーン。二人のボケに、刑はついに胃を押さえながら吐血して倒れた。
「皆……ちょっと位はマトモになってるかと思ったけど。あんたらホント変わんないっすね……」
「十年経っても、やはり夢幻は夢幻だったな」
昔と変わらない夢幻の皆に微苦笑を浮かべたアヅマは、刑に手を貸した。
バイクで行く全国ブレイズゲート巡りの旅も、これで24箇所目だ。
翻るマントに風を感じながら、姫騎士風の仮装をした玉はサイキックソードを振り下ろした。
ブレイズゲートも今日で最後なので、ダークネスは見つけた端から斬っていく。
消滅する分割存在を見送りながら、試作品のサイキックソードを一振り。どうしてなかなか悪くない。
サイキックソードの柄を握り締めた玉は、響く声に振り返った。
「危ない!」
玉に攻撃を仕掛けたボスコウスレイブの爪を、ビハインドのカルラが受け止める。
その隙を突くようにしなやかに伸びる渚緒のダイダロスベルトが、ボスコウスレイブを消滅させた。
声のする方を振り返った玉は、駆け寄る渚緒に手を上げた。
「久しぶり、渚緒さん」
「久しぶりだね。……今は何をしてるの?」
「今は海外住みの個人貿易商だよ。今回は試作武器の運用試験が主な目的かな」
言いながらも、玉は敵が落とした殲術道具に歩み寄ると内容を物色した。
「奴隷級恨み帳は……マニア向けかな。蛍火印の兵糧丸も……ゲテモノ好きなら或いは……?」
「殲術道具、集めてるんだね」
「今の本業がアレでしてね。戦利品蒐集が副目的なんだ。それに外は今、人だかりだろう?」
アイテムポケットに戦利品をしまった玉は、楽しそうに微笑んだ。
「金の匂いがする」
「そうなんだ」
思わず苦笑する渚緒に、玉は首を傾げた。
「渚緒は? なんでここに来たの?」
「ここは僕のご当地だったから。山岳ガイドの職に就いたものの、十年経ってもまだ海とは縁遠くて様子もあまり見には来られなかったし」
「そうか」
頷いた玉は、敵の気配に振り返った。現れたのは、このブレイズゲートの主である倭華裏之姫。非肉化した両腕も、血色の悪い体も、十年前と変わらない。
『ホウ……強き力を持つ灼……』
「黙りなよ」
振り返った渚緒は、エアシューズを起動させると一気に距離を詰めた。
強烈な一撃がる倭華裏之姫をえぐる。同時に放った玉のサイキック斬りが、えぐられた傷口を深く切り裂く。
「あの鎌、武器になるのかな? 悩むより持ち帰って試した方が早いか。そういう訳で、その腕の鎌も貰って行くよ姫様」
楽しそうな玉に、倭華裏之姫の攻撃が突き刺さる。
二人の連携に、分割存在であるる倭華裏之姫は徐々に追い詰められていく。
渚緒の放つ弓が倭華裏之姫の眉間を貫く。消滅していく倭華裏之姫を見送った渚緒は、彼女の犠牲になった人々に静かに一礼した。
離れていたとはいえ、昔から地元を支配していたダークネス。その地に住む者としては決着をつけておきたかった。
「この姫騎士の衣装……。アラサーで着るには若干勇気がいるようにも思うが、ここの倭華裏之姫を見ていたら全然普通な気がしてきた」
玉が得意げにマントを翻した時、ブレイズゲート全体が鳴動した。
上着からスカーフまで一式すべて黒で統一したウェリーは、制約の弾丸を受けて消滅するゾンビを見送った。
指に嵌めた指輪にそっと触れる。感慨深げな様子に、陽桜は話しかけた。
「お久しぶりです。ウェリーさん、どうされたのですか?」
「Moi! 陽桜さん、結婚式以来ですよ。……少年時代、自分を支配していた淫魔「ご主人様」を思い出しまして。もう彼女も居ないだろうな、と」
「……はい。あたし達を支配していたダークネスは、もう、いないのです」
答える陽桜の隣で、実家神社の黒の正服姿の葵は静かに頷く。
感慨深い空気に、勇弥は葵の肩を叩いた。
「葵くん、Happy Halloween! どう、順調かな?」
「勇弥さん。お陰様で」
「葵くんもカフェ運営始めたんだってね。今度、敵情視察に行かせてもらおうかな? 君ならきっと素敵なところにしてみせるだろうから」
勇弥の言葉に、葵はぱあっと笑顔を浮かべた。
「是非、お越しください。僕も今度、フィニクスに敵情視察に行かせてくださいね?」
「歓迎するよ。それにしても……」
葵の店の名刺を受け取った勇弥は、迫る敵の気配にリングスラッシャーを放った。
「こういう悪趣味な芝居は好きじゃないな!」
黒い老婆の人形劇を問答無用に叩き潰した時、ブレイズゲート全体が鳴動した。
このブレイズゲートも、消滅の時を迎えるのだ。
「ハロウィンに消滅ってのも……死を冒涜する悪霊を彼岸の向こうに送り返すにふさわしいかもしれないな」
「せめて、御魂が安らかにあるように」
頷いた葵は、鈴を手に神社に伝わる鎮魂の神楽を舞う。
消滅していく死者達に、勇弥も祈りを捧げる。
ここに囚われた無念も絶望も。分割存在の奥底に眠る『ひと』だった人格(こころ)も。
全部、今日で還すのだ。
祈りと共に白い光に包まれたブレイズゲートは、静かに消え去っていった。
●
消滅したブレイズゲートから弾き出された灼滅者達を、くるみは真っ先に出迎えた。
「おかえりなさいや、皆!」
「未留来さん、お久しぶり。近所まで来ているって聞いてたけど、こんな近くにいて大丈夫かい?」
驚きの目で歩み寄る勇弥に、くるみはにかっと笑った。
「皆やったら、何の心配もあらへんし。……あ、渚緒はん久しぶり!」
「久しぶり、未留来さん。榎木くんも」
陰陽師の衣装を着た渚緒は、手を振りながら駆け寄った。
「二人はこの十年、どんな風に過ごしてたかな?」
「うちは、相変わらず学園でエクスブレインしとるで」
「僕は実家の神社で神主をしています。和風喫茶もしていますので、よろしければお越しください」
「そうなんだ。僕も故郷に帰って山岳ガイドをしてるんだ。良かったら今度案内するよ」
「是非」
「しょ、初心者コースでよろしゅう!」
和やかに話す三人を見守っていた陽桜は、差し出される冷たい気配に振り返った。
浴衣に羽織姿のウェリーが差し出したのは、グラスに入った冷たいジュース。
「陽桜さん、一杯どうですか?」
「ありがとうございます、ウェリーさん! ……美味しい。何のジュースですか?」
「炭酸の梅桃みかんジュースだそうです。和歌山らしいですね」
和歌山フルーツをぎゅっと詰め込んだジュースが、優しく喉を潤す。
賑やかな屋台通りに目を細めたウェリーは、ふと故郷を思い出した。
「故郷ではハロウィンってほぼ平日なのですが……日本のは賑やかですねえ。サウナより温泉派の僕としては、ここが活気付くのは嬉しい事です」
静かにウェリーが頷いた時、明るい声が掛けられた。
「皆さん、ハッピーハロウィンです! 今日は知らない人に食べ物を配って良い日ですね!」
ハロウィンを独自解釈した陽坐は、籠いっぱいのラッピング済フルーツジャム入り揚げ餃子を配って回った。
「陽坐さんお手製餃子、楽しみにしてました♪ って、その仮装さすがです」
「そうでしょう!」
尊敬の眼差しで見つめられた陽坐は、ドヤ顔で胸を張った。
ブレイズゲート内を颯爽と駆け抜けた、餃子の被り物。往時の宇都宮餃子怪人を彷彿とさせる餃子頭に、赤を効かせた黒軍服に赤マント。
籠を腕に下げ、犬用の器を両手に掲げてポーズを決めた陽坐は、器を陽桜と勇弥にそっと差し出した。
「あの、あまおとと加具土に霊犬用おやつ餃子をあげてもいいですか?」
器の中には、霊犬用に調味料を抑えたジャムの水餃子。その心遣いに、勇弥は快く頷いた。
「もちろん。良かったな、加具土」
「あまおと、美味しいですか?」
霊犬用の水餃子を頬張るあまおとと迦具土は、嬉しそうに同時に吠えたた。
●
女子更衣室から一緒に出てきた陽桜の姿に、くるみは笑顔を浮かべた。
「陽桜はんは妖狐なんやね!」
「はい! 和風にしてみました」
狐耳に狐尻尾。着物姿に着替えた陽桜の隣で、くるみは魔女風ロングコート姿。少し衣装を変えたくるみに、陽坐のはしゃいだ声が響いた。
「くるみさん! 写真撮っていいですか? 陽桜さんも、一緒に撮ってもいいですか?」
「いいですよー♪」
魔女と妖狐が並んで決めるポーズに、陽坐はかわいくて仕方がないオーラを全開にしながら写真を撮りまくる。
「賑やかですね」
撮影会会場となった部屋に現れた葵に、陽桜が笑顔で手招きする。
「葵さん! よく似合ってますよー」
「陽桜さんも。……和装は慣れていますが、烏天狗というのは初めてです。僕は正服で十分仮装になっていると思うのですが……」
「あれは仕事着です」
きっぱりと言い切る陽桜に、葵は苦笑いで頷いた。
仮装で現れた葵の姿に、くるみはふと餃子頭の陽坐を見た。
「もうすっかり馴染んでもうたけど、陽坐はんも似合うてはるで」
「ええとでもその、くるみさんとお揃いっぽくも……なりたい、かな?」
顔を赤くしながら頬を掻く陽坐に、くるみはにんまりと微笑んだ。
「何言うてはるん? もうお揃いや!」
魔女のロングコートを脱いで肩にかけたくるみは、くるみにしては少々露出度の高い悪の女首領風の衣装でポーズを決めた。
「ちょっと冒険してみてんけど、似合う?」
「似合ってます……!」
恥ずかしそうなくるみに、陽坐は感極まってシャッターを押した。
そこに、カメラのフラッシュが光った。
「陽坐さん、撮影ばかりじゃダメです! ここはくるみちゃんとラブラブな2ショットを!」
「ええっ!?」
自分の一眼レフを構えながらぐぐっと手を握り締める陽桜に、陽坐はあわあわと手を宙に漂わせた。自分が被写体になるのは想定外で、どうしたら良いのやらさっぱり分からない。
「二人共、ぎゅっとしてくださーい♪」
「か、肩に手を回したりした方がいいのかな」
おずおずと肩に回される手に、くるみは顔を真赤にしながら後ろ頭を陽坐の右胸に預ける。
頬に当たる柔らかな髪に、陽坐は小声で囁いた。
「くるみって呼んでいい?」
陽坐の声に顔をパッと上げたくるみは、小さく何度も頷く。
「うちも、陽坐って呼んでええ?」
「もちろん。これからもよろしく、くるみ」
陽坐の手が、自然とくるみの肩に置かれる。
微笑み合いながら距離を縮めた二人を、満面の笑みを浮かべながら写真に収めた陽桜は、少し離れた場所で見守る葵を振り返った。
妹のように思っていたくるみの幸せそうな姿に目を細める葵の腕に、陽桜はぎゅっとくっついた。
「葵さんー、照れちゃだめですっ」
「照れてなんていませんよ」
強がる葵の手を引いて、陽坐とくるみの元へと駆け寄る。
その日撮られた写真には、幸せそうに笑う四人が映し出されていた。
作者:三ノ木咲紀 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2018年11月8日
難度:普通
参加:15人
結果:成功!
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