ブレイズゲート消滅~見えざる炎消ゆ

    作者:るう

    ●白鷺・鴉(伝奇小説家七不思議使い・dn0227)の事件簿
    「やあやあ君たち、エクスブレイン諸氏からの報告はご存知かな?」
     白鷺・鴉が語るのは、ブレイズゲートが消滅するという研究結果であった。

     人類総エスパー化から10年。サイキックエナジーの供給を絶たれたブレイズゲートは、崩壊の時期を迎えているという。
     ブレイズゲートが消滅すれば、当然ながら、その中に分割存在を生んでいた力も、彼らをブレイズゲートに囚えていた力も消失する……ただし、すでに生まれていた分割存在は、即座に消滅するわけではないようだ。

    「……つまりブレイズゲート崩壊と同時に、分割存在がぞろぞろと出てくるってことさ。もっとも、彼らの生存時間は誕生後にブレイズゲートから供給されたサイキックエナジーの量次第――ブレイズゲート崩壊直前に分割存在を虱潰しに倒しておけば、好き放題暴れまわられる前に消失させられるってことらしいがね」
     予想ブレイズゲート消失日時は、10月31日~11月1日。この日に合わせ、武蔵坂学園は全国でブレイズゲート探索を予定しているのだが……鴉曰く。
    「折角だ。俺たちは『新宿橘華中学の地下校舎』、すなわち『見えざる炎』の現れる領域に行ってみようじゃないか」
    「学校の怪談みたいなブレイズゲートだから、お化けの仮装して行けば奥まで行きやすいかもね!」
     姶良・幽花(保健の先生シャドウハンター・dn0128)も魔女姿に仮装して準備万端だ。

     たくさんの灼滅者たちでのり込めば、分割存在など恐るるに足らないはず。ブレイズゲート『見えざる炎の行方』最後の探索、みんなで楽しく攻略しよう!


    ■リプレイ

    ●地下校舎を臨んで
     さしもの新宿橘華中学も、自らの校舎が他校の即席同窓会の場になろうとは思ってもみなかったろう。
     三々五々集う灼滅者たち。その中に見知った顔を見つけた者たちが、話を弾ませることもあり、辺りのお祭り騒ぎと相まって校舎は最期の煌めきを見せていた。

    「お久しぶりです。ブレイズゲートも消えるのですか。これも時代の流れですか」
     感慨深げに頷く安藤・ジェフ(夜なべ発明家・d30263)ら、TG研4人。その中に、赤文字で『RB』と書かれた黒い三角頭巾姿の仮装姿が見えたが……本当に彼のは仮装なのだろうか?
    「ある人の結婚式で解りました。RB団だった人たちは皆、リア充堕ちしました……」
     富山・良太(復興型ご当地ヒーロー・d18057)の声だった。竹尾・登(ムートアントグンター・d13258)が彼を宥めすかしつつ、久しぶりに会うのにこんな感じでゴメンね、などと皆に良太を気にしないでくれるよう陳謝しているが、当の本人はジェフと……その隣に親密により添う秋山・梨乃(理系女子・d33017)をガン見しながら、ぶつぶつと何事か呟きつづけるばかり。
     そんな中、ジェフがきり出した。
    「実は、大学時代からつき合っていた梨乃さんと結婚が決まりまして……」
    「う、うむ、まあそういうことだ。結婚式の式場はまだ決まってないが……」
     もじもじと顔を赤らめる梨乃。
     悲痛な良太の雄たけびが、秋空高く響くのだった。
    「安藤君。有名RB戦士から赤頭巾を受け継いだはずですが……。今や、律儀にぼっちを通しているのは僕だけ……RB団の燈は僕が守る!!」
     まあ……ブレイズゲートに潜ればちゃんと灼滅者に戻るだろう。たぶん。だって親友の登もそう言ってるし……。

    ●探索開始
     この服に袖を通すのも久しぶりだと、椎那・紗里亜(言の葉の森・d02051)はかつての思い出を想起していた。
     目の前には懐かしい姿の分割存在たち。ダークエルフの魔法使い姿の紗里亜の魔法も、変わらぬ威力を発揮する。
     ただ、彼女は……ちょっぴり調子に乗って敵を集めすぎたかもしれない。倒れる仲間たちをのり越えて、わらわらと紗里亜を囲むベートーヴェンもどきたち!
     ……けれどもその時ベートーヴェンの顔が、次々と素早い何者かに蹴破られていった。その正体を見極めるや否や、紗里亜の表情が破顔する。
    「あら、お久しぶりです真夜さん♪ どうやら……昔のままみたいですね♪」
    「ですです。私は相変わらずの一般人ですよー。紗里亜こそお変わりないようで。その魔法使い姿、よく似合ってますよー」
     見事な体のラインを強調する衣装のくノ一は、紗里亜の入学時からの同級生の、柳・真夜(自覚なき逸般刃・d00798)だ。くノ一は隙なく紗里亜と背中合わせに構えて、忍者らしい素早いアクションで並みいる敵を灼滅してゆく。
    「闇堕ちした時には本当にお世話になりました」
     ダークネスとの戦いも激しかった頃を思いだし、思わずまろび出る真夜の言葉。結局、あの時の恩はいまだ返せていない……申し訳なさそうな真夜ではあるけれど、紗里亜からすればこうして今も一緒に戦えることが、何にも増した恩返しだ。
     昔話に花が咲く。
     みんなで食べた美味しいうどん(都市伝説)。みんなで祝ったヤマトの誕生日。尽きぬ思い出話に思わず夢中になってしまったならば……気づけば辺りに敵は残っておらず、2人は消滅してゆく残骸の山に囲まれていた。
    「出てくる敵は、全部倒してしまえばよかったですよね?」
     訊いてきた真夜に微笑みで答えた紗里亜の視界の片隅には……勇猛ぶりに目を丸くする姶良・幽花(保健の先生シャドウハンター・dn0128)の姿が見てとれた。

    「あたしたちも張りきりましょ? どの領域も結構な数足を運んだ新宿橘華中学……今日でお別れは寂しいですけど、最後まで楽しまなくてはですね」
     そんな幽花の手を引いて校舎を巡る、羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490)。骸骨ランタンの女医と骸骨着ぐるみの『あまおと』のペアは、幽花にも血だらけの白衣を着せて都市伝説仲間のフリをしながら先を目指す。
    「ふふ、幽花さんと進路の話をしたのがついこのあいだのことみたいですね。あれからどんな進路に決めたのです?」
    「なんだかんだで今は……保健の先生になりました」
    「まさに生徒の休息(眠り)も守りつつのお仕事! この先に保健室があったら仕事風景再現してほしいです!」
     そんなお喋りをしていたら……突然、『生徒』が幽花の前に現れたのだった。

    「こんばんは先生。調子はどう? 私はわんさか沸いてくる分割存在に疲れてしまって……休ませてはくれないかしら?」
     そんな荒谷・耀(一耀・d31795)の手を見れば、浅草風神怪人を一刀両断にしたばかりの刀がぶら提げられている。彼女の中学制服は何箇所も返り血に染まってはいるが、幽花が見た限り彼女自身は大した怪我もない。表情は疲れているどころか退屈ささえ見てとれる……この10年で、彼女はそれだけ腕を磨きつづけてきたということだろう。
    「荒谷先生!? なんで今更その格好を!?」
    「一応……ハロウィンの仮装のつもりよ。うちの生徒たちからもお墨付き」
     いくら小柄で童顔だとはいえ、この年になってもいけるのが凄い……と唖然とする幽花へと、ほら折角だし、と返した彼女の職業は、古巣、武蔵坂学園の中等部教諭だった。今の幽花の同僚に当たる。
     なんだかんだでみんな、自分の道を歩んでいるのだ。そしてそのことは当然ながら、陽桜に関してもおんなじなのだ。
    「あたしは、今はこういうの作ったりしつつ喫茶店運営してますよー!」
     先生2人に手作り骸骨クッキー手渡して、陽桜もがんばらなくちゃと気合いを入れる。

     道は、まだまだ地下へと続く。

    ●懐かしの校舎
     3度の新宿防衛戦に、新宿迷宮での幾度もの戦い。新宿はもはや霧島・サーニャ(北天のラースタチカ・d14915)の第二の故郷とも言うべきものであり、そこに佇む新宿橘華中学はやはり思いいれ深いもの。
     そんな新宿にあるゲートの最期、見届けなかったら後悔しちゃう!
    「……でござるよなー鴉先輩殿! 久しぶりでござるなー、お元気でござったかな……ってぎゃー!?」
     唐突に悲鳴を上げたサーニャを何事かとふり向いた白鷺・鴉(伝奇小説家七不思議使い・dn0227)の口許は、『口裂け人間』の噺のように大きく裂けたペイントを施されていた。
    「これでもかー……っておいおい、まだ俺はまだ何も脅かしちゃないじゃあないか」
     サーニャを宥めようと近づいてゆく鴉。けれども彼女は顔を手で覆い、顔を真っ赤にしてその場で転げまわるばかり。
    「違うー! 成人してからはござる語尾は封印したのにー! 懐かしい空気に触れたせいで復活しちゃったでござ……うわー、また出てしまったー!?」
     どうやら、そっとしといてあげるのがよさそうだ。静かにその場を離れることにした鴉の目の前を……どこかで見た童女が横切った。

    「おいで、雛桜」
     右手で綿飴を握る童女の左手を握って、糸木乃・仙(蜃景・d22759)は廊下を歩く。頭に角カチューシャをつけてご機嫌な火花里は、負けじと仙のもう片方の手をぎゅっと掴んでみせる。
     人よりも朧げな2人の少女は、10年前と全く変わらずに見えた。それもそのはず彼女らは、仙の集めた都市伝説。普段、人前に出せぬぶん、今日は好き放題遊ばせてやろう。
    「やあ白鷺、久しぶり。君の処の七不思議たちは元気かい?」
    「勿論だとも。今も俺の小説に彩りを添えてくれてるさ……これで本が売れてくれりゃあ願うことなしなんだがね」
     そんな他愛もないやり取りをした後で、不意に殲術武器を構える両者。今日は、世間話をしに来たわけじゃない……分割存在を灼滅しに来てるんだから。
    「これは隠れんぼみたいなものだよ。さあ、何かを見つけたら教えてね」
     悪戯オーナメントに氷蛍。続々と七不思議を語る仙に負けまいと、鴉も噺を始めようとして……トン、と誰かに敵のほうへと背を突きとばされた。
    「誰かと思ったら水燈じゃないか。まったく、危ない目に遭わされた」
     ムラサキカガミを片付けた後、肩を竦めてふり返る鴉だったが、けれども色気のある飛縁魔姿に仮装していた水燈・紗夜(月蝕回帰・d36910)は飄々として。
    「男の子は、女の子を守ってくれるものだよ」
     そして……ふと。
    「ねー鴉先輩。守るついでに、僕の止まり木になってくれないかな?」
    「……は?」

    「結構年月重ねたことで、僕自身の心理分析が出来たというか……」
     赤い瞳は冗談とも本気ともつかず、ただ鴉をじっと注視していた。
    「要は……好きってことだ。まあ君が憶えているかは置いて、瞳を蛍の首のようだと言ってくれたことが嬉しかったんだ」
    「場所はこんな処だと言うのに、まるで本物の告白のようじゃあないか」
    「校舎裏で、とかよりもこの方が僕らしいだろう?」
    「違いない」
     交わす言葉はそれっきりで、2人は、揃って熱気噴きだす階段を降りてゆく……。

    ●見えざる炎
    「く……抜け忍許すまじ! ですが処刑は仕事の後にしておきましょう……その代わり分割存在たちには、カップルの代わりに滅びてもらいます」
     鬼気迫る良太によって鎧袖一触、見る間に周囲の雑魚どもは片づいていった。さしものイフリートの見えざる炎も、この嫉妬の炎の前には太陽と蝋燭のごとくか。
    「竹尾先輩……本当に富山先輩は大丈夫なのか?」
     梨乃の額に冷や汗が浮かんだ。良太の台詞がやけにRB団じみてるが、どー考えても登の言うように元に戻るとは思えなかった。
    「……まあ、大丈夫だよ」
     何の根拠もなく答える以外、登にできることはない。とにかく今は余計なことは忘れて、前方のゆらめきに意識を集中しなければ!
     腕が焼ける。けれども膨れた登の闘気は、突如現れた青い炎を逆に包みこんでゆく。
    「今頃になってダークネスに、友達の幸せを壊されるわけにはいかないからね!」
     そんな意気込みを見せる登に応えて、同時にジェフと梨乃が頷いてみせた。
    「ありがとうございます竹尾先輩。では僕たちは厚意に甘えて、防御は任せて力を振るいましょう」
    「うむジェフ君。後ろは任せてほしいのだ」
     炎の扱いならこちらが上と言うように、ジェフが蒼炎をさらに焼いたなら、苦しんで揺らめいた陽炎の隙間から覗いた敵の姿を、梨乃の魔法が違わずに穿つ!

     校舎を震わす咆哮とともに、陽炎がさらなる動揺を見せた。
     さあ、熊狩りの時間だ……バイクで部屋に飛びこんできた、シスター姿の空井・玉(デスデスマーチジャンキー・d03686)の手には、新作武器の試作品が構えられている。
    「ああ、最初に来た時は怪談として楽しめた記憶があるな……」
     じゃあ今は?
     もちろん、性能試験用の標的にすぎない。雑魚敵ではシスターの『悪魔祓い』の前に為す術もなさすぎて、武器を正当に評価しきれない。
     新武器は容易く陽炎を裂いて、インビジブル・ブルーの分厚い肉を抉りとった。こんな悪魔祓いをするシスターなんて、フィクションか灼滅者にしかいないだろうな、などと思考の片隅で思いつつ、一旦ここではテスト完了。すぐさまバイクを180度ターンさせる……ここで取得できるデータは全て得た以上、彼女には熊公ばかりをじっくり相手をしてやる暇はない。バイクで行く全国ブレイズゲート巡りは、制覇まであと13ヶ所を残すのだから。
     だが、その出発を妨げんとする、縫村・針子や鬼龍院・桜たちの群れ……けれども風真・和弥(仇討刀・d03497)ある限り、彼女らが事を為すことはない……何故なら!
    「やるべき事とやりたい事が一致するとき、世界の声が聞こえる……」
     そう……すなわちおっぱいダイブせよとの声が!! 確かにインビジブル・ブルーも倒さねばならない相手かもしれないが、その他の分割存在の処置も大切なのであるから、この際、何度灼滅したとしても復活してくる柔らかな感触を堪能せずにおくべ……ぐふぅっ!?
    「ちょっと待て、話せばわか……ぐはっ」
     はたして和弥の身に何が起こったのか解説しておくと、まあつまり、せっかく貰った清純派アイドルな奥さんを怒らせて、自らもブレイズゲートに囚われる危険を冒してまでしばきに来させるような馬鹿な真似はするなってこった。

     ……まあ、そんなおっぱいダイバーは置いとくとして。
     自らを傷つけられた憎悪に燃えて、闇雲に暴れる炎のツキノワグマ。だが……ツキノワグマとヒグマであればヒグマのほうが強い。炎のヒグマを心の内に秘めし淳・周(赤き暴風・d05550)は、熊毛皮の女戦士の仮装で戦いに踊りこんだ!
    「お前との最後の戦いに、武器なんて野暮なモンは要らないぜ!」
     たとえ敵の姿こそ見えずとも、彼女には灼滅者としてのダークネスとの戦いと、考古学者としての遺跡荒らしとの戦いで培ってきた勘がある。それはさながら野生VS野生の戦い、やっぱり周の性にはステゴロが合う!

     陽炎が、大きくゆらめいた。かつてダークネスたちの集った新宿は、しばらくすれば何もかもが終わりを迎えてしまうのだ。
     天井に向かって吼える周。それは灼滅者たちのサイキックを受けたインビジブル・ブルーの、苦痛と怒りに満ちた叫びとは違う。今確たるものとなった勝利の感触を噛みしめるものだ。
     どうと、イフリートの巨体が地に臥せた。もしも彼が、再びこのブレイズゲート内に復活したとしても……自らを囚える白炎が消えたと気づく頃には、全ての力を失っていよう。
     あとはブレイズゲートの最期まで、手が空いている者たちで分割存在たちを狩りつづけるだけ……なのだが。

     ジェフが、梨乃へとアイコンタクトした。もちろんお互い夫婦となる身、それが意味することなどすぐに通じあう。
    「では……RBの被害に遭う前に、とっとと逃げるとしましょうか」
    「もちろんなのだ。それでは皆……また近いうちになのだ」
     ……というわけですぐさま脱兎! そんな後輩2人を応援するために、登も全力で良太にしがみつく!
    「ここは任せて先に行け! ……え、使い方が何か変だって? うん、単に一度言ってみたかっただけだからね」
    「ありがとうございます竹尾先輩……式が決まったら招待状は送りますので。富山先輩は送らなくても来そうですが……あっ、でもその前に良い式場をご存知なら教えてください……いい式場を!」
    「ジェフ君、そんなに連呼されると恥ずかしいのだ……確かに、早めに決めないといけないことは解っているのだが……」
     そんな2人の逃避行の行く末に幸ありますように――。

    ●ブレイズゲート崩壊
     そして新宿橘華中学の地下領域は、2028年11月1日、この世から永久に消え去ることとなった。
     その跡地をどれほど探しても、もはや地下へと続く階段はない。

     見えざる炎の持ち主は、かくして二度と見えざる炎となった。
     それは、またひとつダークネスとの戦いの記憶が、記録へと変わった瞬間であった。

    作者:るう 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年11月8日
    難度:普通
    参加:14人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ