ブレイズゲート消滅~さらば日光慈眼城

    作者:泰月

    ●時の流れに消え往くモノ
     ――ブレイズゲートが消滅する。

     2028年秋。
     最新の研究で判明したその事実が、灼滅者達に伝えられた。
     ブレイズゲートを構成していたサイキックエナジーが、ついに尽きたのだ。
     消滅のタイミングは、10月31日~11月1日。まさかのハロウィン。
     とは言え、ソウルボード消滅により灼滅者が闇堕ちする可能性が皆無となった今、ブレイズゲートの消滅も大した問題はない――と言えたら良かったのだが。
    「このままブレイズゲートの消滅を待つだけだと、ブレイズゲートにいる分割存在が2,3時間、外部に解き放たれてしまうわ」
    「分割存在? 一緒に消えないのか?」
     夏月・柊子(エクスブレイン・dn0090)の苦笑混じりの言葉を聞いて、久し振りに呼び出された上泉・摩利矢(神薙使い・dn0161)が、首を傾げる。
    「連鎖して消滅はするけど、同時じゃないと言う事が判ったの」
     分割存在はブレイズゲートの力によって、その存在を維持されている。だが、分割存在自身に溜め込まれた力は、ブレイズゲートが消滅してもしばらく残るのだ。
    「最大で3時間程度。そして、ブレイズゲートが消滅すると、『分割存在をブレイズゲートの外に出さない力』も消え去るわ」
     ブレイズゲートの消滅は免れない。
     このままでは、分割存在が各地のブレイズゲートから溢れ出る。
     人は避難させる事が出来るが、建造物の類はそう動かせるものではない。
     だから、灼滅者が集められたのだ。

    ●10年ぶりに、世界をダークネスから守る為
    「ブレイズゲート消滅後に分割存在が活動できる時間は、その分割存在が『撃破されずに存在していた時間の長さ』に比例する事が判明してるわ」
     復活したばかりの分割存在は、ブレイズゲートとほぼ同時に消滅する。
     つまり、ブレイズゲートの消滅後に分割存在がブレイズゲートの外で活動できないようにする為には、消滅のタイミングでブレイズゲートを探索して『討ち漏らしのないように掃討』すれば良いのだ。
     今となっては、人手は要るが難しい事ではない。
    「それで私も呼ばれたのか……彼はどうした?」
    「リスト君? 連絡は入れてみたけど、今どこにいるのか」
    「相変わらずか。で、どこに行けばいい?」
    「日光慈眼城よ」
     腰を上げた摩利矢に、柊子が行き先を告げる。
    「日光の――確かあそこには……銃頭のヤツがいたな」
    「ええ。私はブレイズゲートに入れないから聞いた話だけど。各種ペナント怪人に、アメリカの怪人達。あと、頭の中がアメリカになったダークネス各種がいるんでしょう?
     解放されたら、いろは坂をABC坂にしようとしたり、東照宮をウェスタン風に飾ったり、日光ペナントレースを始めたり……まあ、2,3時間でも色々やりかねない連中よね」
     ここに限った話じゃないが、解き放っちゃダメなヤツらだ。
    「残らず掃討して来てね」
     サーチ&デストロイなハロウィンイベント、開催である。


    ■リプレイ

    ●最後の夜
     日光慈眼城に集まった灼滅者達の中には、顔を合わせるのは久し振りと言う者達も少なくない。故に、近況報告の話にも花が咲く。
    「摩利矢さんは、料理人さんですか。あたしも今、喫茶店経営しててお菓子作ってるのですよ♪ という訳で、お菓子とおつまみを、おすそ分け、なのです!」
     陽桜が摩利矢に手渡したのは南瓜モンブランカップケーキと南瓜チップス。
    「ありがとう。酒が旨くなりそうだ」

    「ところで、タシェさん子供はまだかしら?」
    「そうねぇ。そろそろ作るのも悪くないかしら♪」
     現在は産婦人科医であるりんごがくすりと告げると、タシュラフェルはお腹の辺りをさすりながら微笑み返す。

    「二人とも久しい、の……?」
     ルティカは、目の前にいる色黒な男2人のドレッドヘアを思わず二度見比べていた。
    「よぉBro! ……髪生えた!?」
     驚くケレイの頭は、相変わらずのパイナップルシルエットで、牧師姿。
    「久しぶりだな、2人とも!」
     悪戯な笑みを浮かべたキィンは、ケレイのそれとそっくりなドレッドのウィッグを浮かせて変わらぬスキンヘッドを覗かせる。
    「仮装だ。ケレイの」
    「成程。我が黒ドレスなのも変わらぬし、いつも通りと言う事かの」
    「そうでもないぜ。すっかりミソジになっちまったからなぁ! Ah、嬢ちゃんはまだ違ェか!?」
    「むしろ、28でも嬢ちゃんかえ……?」
     アラサーなら良かったんじゃないかな。

    「日光に危機が迫る時……そう! 俺達の出番だぜ! 栃木を護る餃子ヒーロー、焼き餃子レッド参上!」
     片手倒立で体を弓なりに、餃子のポーズを決める良信。
    「日光の危機は見過ごせない! 水餃子ブルー!」
     陽坐は、この10年で磨いた料理の腕に対する自信と大人の余裕に満ちたクールなポーズを決める。
    「あ、揚げ餃子イエロー見参!」
     麦も、やや遅れて即興でポーズを決めた。
    「頭、カッコイイだろ?」
    「この餃子頭、ふわふわですよ? 触ってみません?」
     良信は向けられたカメラの前で、餃子頭の確度を計算しながら魅せるポーズをとり、陽坐は若年層に手製の餃子被り物をアピール。
    「って、お前らその被り物、全ッ然ハロウィン感ねぇからな? 大体、仮装なの? 普段着じゃねぇの?」
     麦はツッコミ役である。
    「やはり来たね、レッド、ブルー、イエロー」
     そんな3人に声をかけたのは、同じく餃子ヒーローの、あき。
    「見ろ、あきさんも来たぞ!」
    「これで勝つる!」
     あきの登場に、地元ギャラリーからあがる声。
     宇都宮餃子ヒーロー暦15年は、伊達じゃない。

     キィッとタイヤを鳴らして1台のバイクが停まる。
     降りてきた玉は周囲を見回し、目当ての人物を集団の後方に見つけた。
    「凍堂さん」
     インバネスコートを着込んだ黒髪の青年――リストが玉の声に振り向く。
    「十数年前のいつぞやは、ありがとう。会ったら言おうと思っていて……今日は会えて良かった」
    「礼には及ばないよ。あれはオレにとっても、実に貴重な体験だし」
     貴重、と言われて玉が首を傾げる。
    「観光してたシャドウなど、後にも先にも円しか知らないから」

    ●城主多すぎ
    「「「我が名はアメリカンロック! この日光慈眼城の城主たる私自ら、貴様らの相手をしよう!」」」
     いつも通りいきなり出て来る城主アメリカンロックが――3体。
     その後ろには、ハンバーガーマンとアメリカンペナント怪人達。
    「動画をご覧の皆様。花笠剣士ヴェニヴァーナです。本日は日光慈眼城に来ています。あれが城主です――この後も何度も出てきますけど」
     アメリカンな敵陣を首元のカメラを向けようと紅華が進み出る。
     彼女の今の顔は、動画クリエーター。なお、実況ではない。事情は人それぞれ。配信は困る人は、後でカットだ。
    「参りましょう『無銘』」
     刀を抜き放つと、紅華は真っ先に飛び出した。
    「ヴェニヴァーナ……スラァーッシュ!」
     気合い一閃。先頭のアメリカンロックに、無銘の刃を振り下ろす。
    「相変わらずプレジデントの顔でやかましいヤツだ」
    「良い的じゃの。遅れるでないぞ」
     【Breeze】の3人も、別のアメリカンロックに狙いを定めた。
     ルティカの掌から放たれたオーラの弾丸と、距離を取ったキィンのベルトループが、同時に岩頭に突き刺さる。
    「ケリー、いいぜ!」
    「オウ、キィン! 背中は任せたぜ!」
     何をとは聞かず飛び出すと、ケレイは内にある炎を燃やし、ヒビの入った岩頭に一撃を叩き込む。
    「宇都宮餃子ビーム!」
     3体目のアメリカンロックに、あきのビームが突き刺さる。
    「アメリカンドリーム!」
     反撃のロックミュージックを、進み出た良信とライドキャリバーが受け止めた。
    「思い切りぶつけて来い、お前達のご当地愛を! 俺も餃子武者も受け切るぜ!」
     憎しみはない。だが、戦う運命だ。
    「その星条旗、餃子の刺繍に縫い直したら合格なんだけどな」
    「陽ちゃん、闇堕ち顔やめなさい!」
     悪そうな顔になってアメリカンペナント怪人を殴り倒す陽坐にツッコミを入れつつ、麦はハンバーガーマンを掴んで投げ落とす。
     餃子ヒーローの4人の前から敵がいなくなる頃には、【Breeze】の3人の足元も砕かれた岩頭の残骸が広がっていた。
    「腕は鈍ってないようじゃの」
    「嬢ちゃんもな!」
     弟兄貴分とかつてのライバルが張り合う背中に、キィンの口の端があがる。
    「お、おのれ!」
    「よっと」
     残るアメリカンロックの足に、紫月が背後から容赦なく斬り付ける。
    「ふっ!」
     よろけたところを腰の翅を輝かせたルフィアの鬼の拳の一撃が、岩頭を打ち砕いた。
    「米国の諸君」
     そして何を思ったか、ルフィアは紅華のカメラに向かって口を開く。
    「今のが歴代大統領の顔を騙るダークネスだ。他にもアメリカンな奴らがいる。私は軍事顧問として、奴らを倒しに来た」
     中々の演説振りである。
    「……本音は?」
    「いや、ブレイズゲートが消えるんだし、暴れなきゃ損だろ?」
     カメラの前から離れたところで紫月が尋ねると、ルフィアはしれっと返した。
    「残してきた仕事なんてものは、ハロウィンが見せた幻さ……」
     大丈夫? 米国戻ったら、秘書官が鬼の形相になってたりしない?

    ●着ぐるみも多い
    「なんやアンタら? ワイらは今、『日光慈眼城記念、天下分け目の慈眼城ペナントレース』の真っ最中なんやで!」
     赤地が眩しい大阪万博ペナント怪人を先頭に、秋芳洞、摩周湖、清里、蔵王、富士山。ドイツとロシアもいる。
     揃い踏みしたペナント怪人達。
     主に迎え撃つは【文月探偵倶楽部】。つまり着ぐるみだ。
    「私達の着ぐるみ愛とご当地愛。どちらが強いか勝負です――いきます!」
     言うが早いか飛び出した白ワンコ――藍の蹴りが巻き起こした暴風が、ペナント怪人達を文字通り蹴散らす。
    「ご当地怪人、ペナントレース。うん、何もかも懐かしい」
    「お互い、宿敵だもんな。ご当地怪人との最後の宴、楽しんでいこう!」
     直哉の隣を駆けながら、レミは目を丸くする。
    「え? いやいや、過去にご当地ヒーローだったこと無いっすから!?」
    「あれ?」
     そんな話をしながら、クロネコレッドと白モモンガは秋芳洞を吹っ飛ばす。
    「お別れのご挨拶に参りましたー! ヒマワリ転輪斬ー♪」
     くるくると回って清里を叩きのめしたヒマワリは、ミカエラだ。
    「キッチリゲームセット、させますよ。ペンタクルス! 久し振りに援護をお願い」
     ペンギンな真琴は、10年のブランクを感じさせない連携で、魔法の矢と猫魔法を同時に摩周湖に叩き込む。
    「……でも、この姿。子供達に見られたら威厳丸潰れ確定ですね」
    「真琴っちのペンギン似合ってるし。寧ろ人気アップ間違いなしだぜ!」
    「俺も似合ってると思うぞ。文字通りの着ぐるみヒーロー…いや、ヒロインだな」
     たはは、と真琴が上げた乾いた笑いを聞き逃さず、直哉と咲哉が着ぐるみの中で親指を立てた。
    「それに、着ぐるみでも威厳は出せるさ。こんな風にな――黒柴わんこ居合斬り!」
     月の様に鋭く光る刃が鞘走る。
     三角頭の端を斬り落とし、クールだろ、と黒柴ワンコな咲哉は振り向いた。
    「Erzahlen Sie Schrei?」
     悲鳴を聞かせて? 物騒なコアラは桐香である。
    「ふふ、冗談ですわ。今は着ぐるみですし、華麗に踊ってみせましょう」
     その言葉通り、桐香は舞うような軽やかな動きでナイフを振るうが、内心、胸の辺りに苦しさを感じていた。
    (「また育ったんでしょうか」)
     とりあえず、たゆんとしてます。

    「生に執着して鈍った俺の魂は、あの人に叩き起こされたぜ。さあ、始めるとしよう。『男の戦い』ってやつをな……」
    「ああ『男の戦い』だ。お前の覚悟、俺が受け止めよう。かかってきやがれ鈍色の!」
     ペナントと着ぐるみの混戦の中、真っ黒カラスな脇差はトレンチコートの六六六人衆と対峙していた。
     響く銃声。
     弾丸を掻い潜る、カラス。
    「生に執着して鈍った魂か。そうだな、俺もまた鈍ったのかも知れない」
     だとしても悪くないと脇差は思う。
     生きたいと願うからこそ、命の重みを知ることが出来た。
    「知ってるか? 鋭く研いだ刃の傷より、鈍な刃の方が痛いんだぜ」
     鈍色の連射を、脇差は一気に速度を上げてその下を潜り抜けた。高速移動から鍔に月と猫の意匠を持つ刀を抜刀。その上着ごと、鈍色を一撃で斬り伏せる。
     瞬間、脇差の背後に飛び出すブエル兵――蒼櫻の雫から放たれた氷柱で凍りつき、重ねた光輪と星光のような雷に撃ち砕かれた。
    (「あいつら――」)
     明莉と勇弥、そして輝乃――糸括の3人に、脇差は手の代わりに羽を振った。

    「ここで抜け出せば、ペナントレースはワイのもんや」
     そんな隙を伺う大阪万博ペナント怪人だが、着ぐるみなのは【文月探偵倶楽部】だけではない――って何でだ!?
    「逃がすか! 千尋!」
    「ああ。夫婦の絆、見せてあげるよ」
     まさに翔ぶような速さで行く手を阻んだツバメとペンギンは、2人とも師走崎となった徒と千尋。夫婦のコンビネーションが、大阪万博ペナント怪人を地に叩き伏せる。
    「あまおと!」
     蔵王ペナントを霊犬とともに止めた陽桜は、白いタレ耳わんこを被った、着ぐるみわんこ探偵である。
     陽桜の振るう満開の桜の枝が抱く石の十字架に、蔵王ペナントが吹っ飛ばされた。

    「2人は行かないのか?」
     着実に数を減らす三角頭を数えつつ、摩利矢は隣と足元に呼びかける。
    「戦力足りてそうだし。あ、上泉先輩もキャンディ食う?」
     自らもガリガリしながらチョコミントキャンディを差し出す紫月は、猫耳侍。
     アメリカナイズに和で対抗しようと彼なりにネタに走ったけど、上がいたね。
    「こんな人の多い所で、箱から出るなんて無理です」
     ガタガタ動く段ボールの中のミリアは、実は猫忍者だ。ある意味とても忍んでる。
    「ペナント怪人が外で好き勝手するのは頂けないですけどね……きっと良く判らない食材を買わせるんですよ。鱈鍋でも食費がすごいことになるのにペナント鍋なんて……」
     ふつふつと怒るミリアが想像したペナント鍋の三角なのは、具なのか鍋なのか。
    「ラスト! ファイナル☆着ぐるミステリー!」
     ミカエラが最後のペナント怪人を抱えてどーんと叩き付けたので、ペナント鍋が世に出る心配はなさそうである。

    ●三十路だもの
    「あなた達が永遠の戦いに疲れ果てるまで……え? 疲れてる?」
    「や、正直この年になって、大立ち回り続きは辛いですよ」
     驚くアンデッドに、司がのほほんと返す。
    「んん、確かに鈍ってるのは感じるなぁ……」
     その隣で、冴も年齢を感じずにはいられなかった。昔の様に、道化のように遊ぶように戦おうと思ってはいるのだが。
    「た、体力はまだまだあるさ! 司君には負けないよ!」
    「じゃあ細かいことは任せました。お願いします。冴君」
     張り合おうとする冴に、司は丸投げモード。
    「……じゃあ多く倒した方が外の出店オゴリね!」
    「絶対勝ちます!」
     冴の一言で、まさに目の色を変えた司の掌中で回る鱗模様。
     螺旋に回った朱塗りの槍アンデッドを貫く。冴も負けじと両手でくるくるとナイフを回して、敵を切り刻んで行った。

    ●混ぜるな危険
    「ヨウコソ、スレイヤーサン。キリツ・レイ!」
    「どうだ? さっきの色がドギツイ悪魔よりは、舞台映えするんじゃないか?」
    「うーん……まあ、撮るだけ撮っておく」
     マストシュツゲン、とか言ってる慈眼衆達に、晶はカメラを向けてみる。劇団のネタになるだろうか?
    「俺……天海とはも少し絆を結べたかもと、今でも思わなくもないんだよ」
    「俺も、天海の部下の扱いとか、考え方とか、嫌いじゃなかったよ」
     明莉の口から出てきた名前に、勇弥が頷く。
    「ま、アメリカンな慈眼衆を前に思うことでもないか。ウェスタン風東照宮は、めっちゃ見てみたいんだけどな」
    「アメリカナイズって、時に残酷だね。和の食材のバーガーとかは、美味しいけど」
    「イヤー!」
     2人の思いなど関係なく、アメリカナイズに跳びかかってくる慈眼衆。
    「こいつらのアメリカナイズされる前の勇姿は、正直覚えてない」
     多目的ポールアームを振り回し、玉も慈眼衆を迎え撃つ。
    「まさに『混ぜるな危険』だよね。アレは特に、そうじゃない?」
     慈眼衆の剣を星輝扇でいなしながら輝乃が指したのは、彼らの後ろで伸び縮みしている明太子咥えたキリンの首。
    「……感慨も吹っ飛ぶねぇ、いくよ加具土」
    「倒すか」
     頷き合った【糸括】の3人を中心に灼滅者達は、アメリカン慈眼衆とキリン明太子怪人達を蹴散らし奥へと進んでいった。
    「グワー!」

    ●戦士の銃
    「俺の名はバントラインスペシャルマン。戦士の銃にして『戦士の魂』を伝える漢だ」
    「あなたが結局最後ですのね?」
     苦み走ったダンディな声を発する銃頭に、西部劇風衣装のりんごが告げる。
    (「14年前、ここを見つけたのもわたくし――なら最期を看取るのも、わたくしの仕事でしょうか」)
    「りんご。ここは私が下がるから、存分にね」
     その胸中を察して、魔女衣装のタシュラフェルが防護の符をりんごに飛ばす。
    「ありがとう、タシェさん。参ります!」
     りんごのライフルと、バントラインスペシャルマンの頭が同時に火を噴く。放たれた銃弾は互いに相手を撃ち抜いた。
     さすがに、他の有象無象とは違う。
     周りの敵も、少なくない。
     だから、灼滅者達も総力だ。
    「俺もガンマンの端くれ。混ぜさせて貰う」
     バントラインバヨネットカスタムを手に、キィンが銃撃戦に加わる。
    「お前達のご当地愛と戦士の誇り、その気概は忘れないぜ」
     少しの寂しさを振り払うように、クロネコレッドが鞭の様に刃を振るう。
    「あなた達の事は、後世に伝えるよ」
     その為に、輝乃は内部の様子を書き留めた。それが喜劇の題材になったとしても、無駄じゃないと思うから。
    「やはり本体の方が強かったな」
    「分割存在だしな」
    「こんなもんっすかね」
     渡里の鋼糸に絡め取られた慈眼衆に、紫月と天摩が斬り付ける。
     10年前、3人はソウルボードで本体と戦った。その強さは、まだ覚えている。
     そして――。
    「はぁっ!」
     1人残ったバントラインスペシャルマンに、藍の重たい蹴りが突き刺さる。
    「今です」
    「一夜限りの復活祭、それもこれで――」
     牛足に絡みつく、タシュラフェルの影。
     飛び出したりんごが、ライフルの銃口を向ける。
    「これで終わり、ですわ!」
     終焉を告げる銃弾が、バントラインスペシャルマンの頭を撃ち抜いた。
    「これでダークネスとの戦いも、終わりだか……」
     花笠を抜いて、紅華が少し寂しそうに微笑む。
    「さらばだ、日光慈眼城」
     ルフィアも寂しさのようなものを感じて、別れの言葉を口にした。

    ●兵どもが夢の跡
    「相変わらず観光客が多くて嬉しいな」
     賑わいに目を細め、あきが宇都宮餃子の屋台を探しに行った。

    「流石は日光、餃子PRのチャンス!」
     とみた陽坐の屋台で、麦と良信、柊子も餃子を食べていた。
    「ここのウェスタン村、どうなるんだろ。ラシュモアヘッドのコピーとか」
    「判らないわ。ブレイズゲートの消滅なんて、最初で最後のことだから」
    「だがまたひとつ栃木が平和に近づいた訳だよな!」

     司と冴の勝負は、司が勝った。
    「くそう。何で俺ディフェンダーのまま勝負したんだろう」
    「冴君、次はあの屋台に――あ、そうそう。僕、結婚するかもしれません」
    「えっ!? うっ、裏切り者ー! おめでとう!!」
     軽くなった財布に黄昏る冴に、さらに司の爆弾発言が追い討ちをかけた。

    「着ぐるみ名物、鍋焼きうどん! うどん怪人直伝の手打ちうどんをご賞味あれ!」
    「うどんは隠しメニュー♪ 着ぐるみ人形焼きチーズフォンデュもありまっす♪」
     直哉とミカエラ、クロネコレッドとヒマワリが出した屋台の奥では、脇差がカラス姿のまま、黙々とうどん打ってる。
    「流石はハロウィン。着ぐるみ集団も違和感なく馴染んでいるな」
    「戦闘後に屋台を出すとは……このノリ、まさしく着ぐるみの森ね!」
    「締めはうどん、着ぐるみの森の伝統ですわねえ。ふふ、懐かしい」
     モモンガなレミとコアラな桐香の前に、黒柴ワンコな咲哉がホカホカ湯気の立つ鍋焼きうどんを並べる。
    「海外に出ることも多かっただけに、うどん美味しいです」
    「文月探偵倶楽部といったら、これがないと。本当に美味しいね」
     真琴もペンギン、藍も白ワンコのまま、鍋焼きうどんをはふはふずるずる。
     着ぐるみ姿で屋台を開き、着ぐるみ姿でうどんを作り、着ぐるみ姿で舌鼓を打つ。
     その光景はこれ以上ない客寄せとなっていた。

    「いいのか、そんなに食べて」
    「いい。またしばらく食べられないしね」
     じゃがバタの手を止めない晶に「そうか」と頷いて、渡里が栄螺の壺焼きに箸を伸ばしながら話を隣に向けた。
    「なあ、魔利矢。今度、山岳救助の仕事、手伝ってくれないか? 一人だとたまに辛い時もあるから、さ」
    「ああ、特にこれから冬になるしな。構わないよ」
     焼き帆立をつまみながら、摩利矢は二つ返事で頷く。
    (「プロポーズに見えなくもないけれど、さて、渡里の方はどう考えてるのやら。魔利矢は……多分、気づいてない……かな?」)
     晶は胸中で小さく嘆息したものの、特に何も言わずじゃがバタを突いていた。

    「お。串焼きステーキだって」
    「行こう。サイキックたくさん使ったし、たくさん食べないとっ!」
    「2人とも、いい食欲だね。飲食業関係者としては、大歓迎だ」
     超デカハンバーガーを平らげた糸括の3人(勇弥はご当地バーガーにしておいた)が向かった串焼きステーキの屋台には、摩利矢も食べに来ていた。
    「上泉は今、何してるんだ?」
    「居酒屋と言うか料理屋と言うか」
    「へえ。同業者だったのか」
    「鞠花は元気かな?」
    「元気だし、綺麗だよ」
     串焼きステーキを食べつつ近況を交し終えると、3人は摩利矢と別れ、今度はベーグルの屋台へ。
    「あ。ミカエラ達の屋台があるよ?」
     そこで、輝乃がある屋台を見つけて指した。
    「あの着ぐるみ屋台は、探偵倶楽部さんだろうね」
     頷く勇弥の横で、だが明莉はパンプキンベーグル片手に少し眉を潜めていた。
    「ミカエラはどこだ……?」
     屋台の中に、ヒマワリ姿がいないのだ。
     ならばどこに? 後ろ。
    「いっただきー♪」
    「ちょ、俺のベーグル!」
     夫のベーグル咥えたヒマワリ(妻)が屋台に走り去っていく。
    「……。よし。ベーグルの分、あそこで食ってこう」

    「あたし、昔は捻くれてたからさ」
     南瓜色のスープを飲み干して、千尋がポツリと呟く。
    「あたし達の戦いを誰も知らなくても、応援されなくても、別にいいやって思ってた。でもやっぱり、皆にこの世界の真実を知って貰えて良かったって今は思うよ」
     南瓜ラーメンの温もりと千尋の話が胸に沁みる。
    「そうだね……僕もそう思うよ」
     手を重ねて徒はニッコリと笑いかけた。

     そして明くる2028年11月。
     日光慈眼城と、その内部の分割存在は――この世界から消えた。

    作者:泰月 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年11月8日
    難度:普通
    参加:33人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 4
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