ブレイズゲート消滅~宴会会場は温泉ホテルわかうら

    作者:陵かなめ

    ●つまり、ハロウィン
    「ハロウィンの夜、『灼滅者による大規模なブレイズゲート探索』が行われるって話、もう聞いた?」
     千歳緑・太郎(高校生エクスブレイン・dn0146)が空色・紺子(大学生魔法使い・dn0105)に話しかけた。
    「聞いたよ! ブレイズゲートが消滅するって話だよね?」
    「うん。分割存在が暴れないよう、存在可能時間をできるだけ短くするんだよ」
     太郎はそう言って、概要を説明した。
     ブレイズゲートを構成していたサイキックエナジーが尽きたので、遠からずブレイズゲートが消滅する事が判明したこと。
     ブレイズゲート内部の分割存在は、ブレイズゲートの力によって維持されているので、ブレイズゲートが消滅すれば、分割存在は連鎖して消滅するだろうとのこと。
     そして、分割存在の内部に蓄えらえたブレイズゲートの力が尽きるまで、分割存在単独で3時間くらいまでは存在を維持できると試算されていることなどだ。
     それは、つまり、ブレイズゲートから解き放たれた分割存在が暴れまわるという事態が発生するかもしれないとのこと。
     存在可能時間は、撃破されずに存在していた時間が長い程長くなることも分かっているので、『灼滅者による大規模なブレイズゲート探索』を行なう作戦が提案されたのだ。
    「おっけーおっけー! 私も行くよ! ええと、私たちはどこへ行けばいいのかな?」
     紺子が腕まくりする。
    「温泉ホテルわかうらをお願いするね」
    「いいよいいよー! えっちな若女将さんの過激なサービスも、今なら受け流せる気がするよー!」
    「ブレイズゲートの消滅は『10月31日~11月1日』に発生するからね。そのタイミングでの日本全国のブレイズゲートの大規模探索だよ」
     太郎は説明しながら、何やら嬉しそうにニコニコしている。
    「ブレイズゲートの消滅のニュースを聞いたのか、各地のブレイズゲート前には、世界各地から観光客がやってきて、ハロウィンらしい屋台が並んでいたりするらしいんだよ。僕は探索には行けないけど、屋台は楽しみだな!」
    「分かるー! 私も探索の合間に覗いて見るよ!」
     紺子も嬉しそうに手をたたいた。


    ■リプレイ

    ●祭りの始まり
     ブレイズゲート消滅の日、温泉ホテルわかうらにも灼滅者たちが集合していた。入り口には屋台も並んでおり、すでにお祭りムードが漂っている。
    「お姉ちゃんよろしくね」
     そう言って、娘の頭をなでているのは夢前・柚澄(淡歌する儚さ消える恋心・d06835)だ。隣には夫のファルケ・リフライヤ(爆走する音痴な歌声銀河特急便・d03954)の姿もある。仲間達の紹介も終わったことだし、安全を確保するまで5歳の娘と2歳の息子はここでお留守番だ。
    「それじゃあ、責任を持ってお預かりするね。ブレイズゲート、行ってらっしゃい」
     二人の子供を任された千歳緑・太郎(高校生エクスブレイン・dn0146)が笑顔で手を振る。
     そんな中、屋台通りの片隅で腰を下ろして休憩しているのは空井・玉(デスデスマーチジャンキー・d03686)だ。その手には、見て回った屋台で手に入れたたこ焼きなどがある。
    「腹にたまるものがあってよかった」
     そう言って、熱々のたこ焼きを頬張った。と、言うのも、玉は全国津々浦々で行われている灼滅者による大規模なブレイズゲート探索巡りの旅の途中なのだ。バイクで回るのは大変なことだろうか。
    「しばらく休憩している?」
     空色・紺子(大学生魔法使い・dn0105)が声をかけた。
    「暫くと言うかずっと休憩してたいんだけど」
     なお、玉は、現在は海外で暮らしながら個人貿易商を営んでいる。姿は学生時代と変わりない。
    「えー! せっかくここまで来たんだから、一緒に行こうよ♪」
     紺子が玉のハロウィン衣装のマントの裾を引っ張った。
    「駄目かそうか」
     仕方なく、玉は立ち上がる。
    「西永さんとは出来るだけ顔を合わせたくないのだけど」
    「そうなの?」
    「臭い的に」
     玉が言うと、紺子はハハハと乾いた笑い声を上げた。
     さて、そろそろ仲間達が集まった頃合だ。
    「おーい! それじゃあ温泉ホテルわかうら、攻略行こうよー!」
     温泉ホテルわかうらの入り口で紺子が大きく手を振り皆を呼んだ。
    「さあクルルン、久しぶりにがんばるもんだよ!」
     榊・くるみ(がんばる女の子・d02009)がナノナノのクルルンに声をかける。
     久しぶりに戦う者も、目的を持って集った者も、温泉ホテルわかうらへと突入していった。

    ●ブレイズゲート探索
     アサルトデモノイドの群れを前にして、香坂・翔(青い殺戮兵器・d23830)と西院鬼・織久(西院鬼一門・d08504)は並んで武器を取る。
     学園時代から織久は翔のことを可愛がっていたが、今現在は、織久が度々翔に協力しているという間柄だ。
     織久は気遣うように翔を見る。
    「前に会った時は紛争地帯でしたね。あの後また一人で無茶をしていませんか?」
     翔が首を横に振った。確かに、世界中を回り、トラブルを解決したりしているけれども。
    「無茶はしてない筈だけど。てか先輩に言われたくない!」
    「私は兄も部下もいますから、昔ほどではありませんよ」
     その返事を聞いて翔がふと顔を上げた。
    「ねぇ織久先輩、どっちが多く倒せるか勝負しない?」
     その提案に、織久が頷く。
    「倒した数で勝負するなら、負けた方が奢ると言うのはどうでしょう」
     二人の目の前でアサルトデモノイドが突撃槍状となった両腕を構えた。全身に生えているスパイクを射出するような構えを取る個体もある。
    「翔さんはロードテルルが目的でしたね。では私は露払いを」
     最初に織久が敵の群れに飛び込んでいく。
     デモノイドを蹴散らす織久の背を追うように翔も駆け出した。
    「負けたら奢りだね。負けないから!」
     このフロアに居る敵は、今や彼らの敵ではない。
     もっと階段を上がった先にいるロード・テルルを求め、二人は走った。

     一斉にスパイクを射出してくるアサルトデモノイドを見て、セレス・ホークウィンド(白楽天・d25000)も戦いを始めた。灼滅者の仲間達も、戦いを始めている。しかし、どれだけ戦いを重ねた猛者たちでも見逃しというものはあるものだ。
    「念には念を、油断なくここで確実に倒しつくそうか」
     そう言って、さらに慎重に周辺に気を配り槍を振るう。
     あれから10年。
     セレスは今、獣医として世界各地を飛び回っている。もちろん灼滅者としての実力は健在だ。
     敵の隊列に攻撃を叩き込み、確実に仕留めていく。
     あの頃と変わらぬ鳥人姿で、あの頃と変わらず凛々しく。
     近くの仲間が討った敵の数と、自分が倒した数、そして最初に見つけた敵の数を計算し、討ち洩らしが無いか確認する。
     ふと、周辺の風景を目に留めた。
     ここで戦っていると、やはり昔を思い出す。ここに囚われた者たちは、今なおあの頃と変わらぬ姿のままだ。
    「私達も、世界も随分変わったな」
     変わらぬものを見て改めて、そう感じた。

    「10年ぶりに戦うのですけど、身体って覚えているものなのですね」
     羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490)はしみじみと言いながら、武器を振るった。傍らには霊犬のあまおとが控えている。
    「ついにここも消滅、か。体動かすには良い場所だったんだがなぁ」
     紅羽・流希(挑戦者・d10975)も仲間と並んで現れる敵に攻撃を叩き込んでいた。
     目の前のボルカノタウラスが炎を纏いながらタックルを仕掛けてくる。
    「完全消滅するまで、徹底的に相手してやるよ」
     流希はそれを軽くいなし、逆に攻撃を繰り出して蹴散らした。
     その灼滅者たちの前に、姿を現したのは角と翼と尻尾が特徴的な淫魔だった。和服をなまめかしく着崩したスタイルは、今も変わらぬえっちな若女将だ。
    「まぁ、お客様……。お見苦しいところを見せてしまって申し訳ありません。さあ、この帯の端を掴んでください! ぐるぐるーっってやるんです! サービスいたします」
     えっちな若女将は、頬を赤らめた。
     とはいえ、こちらも歳を重ねた熟練の灼滅者揃い。そうそう動じるものではない。
    「久しぶりに見たけど、意外と冷静に見れるものだね」
     明石・華乃(悠久恋歌・d02105)はそう言って、椎那・紗里亜(言の葉の森・d02051)を見た。
    「そうですね。確かにあわてる気持ちは沸いてきませんね。……やっぱり年でしょうか。ね、紺子さん」
     などと紗里亜も妙に冷静に頷く。
    「まぁねえ。今更ポロリを見てもどうってこと無いなあ」
     と、紺子も生暖かい目をして敵を見た。
    「確かに、でも」
     そこへ、キリリと表情を引き締めた師走崎・徒(流星ランナー・d25006)が飛び出してきた。
    「うん、これは勉強だ勉強」
     と言いつつ、えっちな若女将の帯の端を握り締める。
    「今度千尋にやってもら――」
    「ほら、妻帯者たちは鼻の下伸ばさない!」
     今まさに帯を引こうとした瞬間、紗里亜の放った攻撃の流れ弾が徒の鼻の先を掠めた。
    「っ、とと。流希、ファルケ、鈍ってないだろーな?」
     気を取り直して徒が脚に力を込める。
    「ああ、いつでも歌を聞かせてやるぜ!」
     ファルケが意気揚々とマイクを手にする。事情を分かっているものは、そっと目を伏せた。相変わらず、歌って戦うスタイルのようだ。
    「……こっちはつい最近、結婚したばっかりだぜ? 鼻なんか伸ばす暇なんか、なぁ」
     流希も猛然と敵をなぎ倒していく。
     戦うたび、えっちな若女将の豊満なバストが揺れに揺れた。
    「……て、10年経っても若女将さんみたいなスタイルになれなかったのは、個人的に悔しいところなのですけども……っ」
     陽桜がその姿を凝視しながら頬を膨らます。
     彼女の胸は……10年経っても成長しなかった。ただそれだけのこと。
     えっちな若女将に八つ当たりともいえる陽桜渾身の一撃がヒットした。

    ●ロード・テルル
     織久が敵の群れをなぎ払い、次の階への階段を見つける。その後ろから翔が駆けてきた。
     他の仲間達も、次々にフロアを進んでいるようだ。
     二人は目配せして次の階へ進む。
     階段を昇った先は、ひどい悪臭を感じた。
    「……また、誰か来たの? ……灼滅者?」
     円盤状になったデモノイド寄生体がいくつも身体に生えている少女。見慣れた存在。
    「テルルか。最後に遊ぼうかと思って来たよ」
     ひらりと前に出て翔が武器を構えた。
     織久はロード・テルル周辺のアサルトデモノイドに狙いを定める。
    「私が拘るのは六六六人衆だけです」
     そう言って、翔が戦いやすいよう戦場を整えてやる。
     続けて、仲間達もどんどん階に集まってきた。
    「と言うか此処の人ら完全に掃討成功を前提に予定組んでるみたいだけど、うっかり討ち漏らしがあったらどうする気なの」
     周辺の臭いに顔をしかめながら玉が言う。ロード・テルルが解き放たれでもしたら、大変なことになると思う。主に、この臭いが。
    「その辺りは抜かりない。フォローに回っている」
     討ち漏らしが無いよう気を配っていたセレスも、この階へ到達したようだ。
     戦いの気配を身に纏った灼滅者が集結する。
    「この臭いを長時間嗅いだら、みんな私の『お友達』になってくれるって」
     テルルのディスクが回転を始めた。
     灼滅者たちが攻撃を仕掛ける。
     周辺の敵もまとめて、一気に片をつけた。

    ●さて、温泉タイム
     灼滅者たちは、安全が確保されている温泉なども見つけた。温かな湯がバスタブに満ちており、冷める様子も無い。
     なんとも不思議な光景であるが、見慣れた者も多いようだ。
     早速水着に着替えて入浴を楽しむ者達がいる。
     陽桜は若女将を思い出し、隣にいた紺子の着替えの様子を凝視した。
    「紺子さんはその辺どうなのですかー?」
    「どう、とは?」
     紺子が言うと、陽桜が手のひらで形を作る。
    「紺子さんも入浴するなら背中流しますから見せてくださいーっ」
    「イイヨー。でも、10年前って、私大学生だったし、成長過程は通り過ぎていたけどねー」
     分かりづらい表現だが、要は昔と変わっていないと言いたいらしい。
    「本当ですか? ちょっとあたしと比べてみましょうよー」
    「イイヨー。でも、本当普通だよー! 私も見ていいのかなー♪」
     言いながら、二人は並んで温泉に向かう。
     バスタブの中でも、その若女将との戦闘を思い出している者がいた。
     柚澄が口を尖らせファルケを見る。
    「パパのえっち、ボクじゃダメなの?」
     と、言いつつ胸を強調するようなポーズを見せ付ける。
    「あ? まーだ胸とか気にしてのかよ」
     ファルケが頭をかきながら柚澄をそっと自分に寄せた。
    「何なら三人目でも……」
     呟く様な声が、温泉ではしゃぐ仲間達の声にかき消される。
    「え?」
     良く聞こえなかったと柚澄が首を傾げた。
    「いや、何でもない」
     ファルケは首を振り、誤魔化すように仲間達へ視線を向ける。
    「柚澄ちゃんもママさんか……ボクも頑張らないと……」
     水着に着替えたくるみは、クルルンを抱っこしながら入浴してきた。
    「柚澄ちゃんももう立派なお母さんか……」
     隣で華乃が感慨深く頷く。そこへ紗里亜も入浴してきた。紗里亜は現在法学者として活躍中だ。温かい湯船の中で紗里亜の肌が色づいていく。結婚はしていないが、その色香にはさらに磨きがかかったようだ。
    「華乃、湯当りしてない……?」
     ふと、華乃に声をかける。
    「湯当り? だ、大丈夫だよ?」
     華乃は答えながらも、紗里亜と目を合わせないように下を向いた。
     紗里亜はとても色っぽくなったと思う。華乃は現在、紗里亜の研究室で手伝いをしているようだ。二人は今や名前で呼び合う仲となった。
     そこに柚澄が近づいてくる。
    「紗里亜さん、そろそろ結婚を考えた方が……」
     近くで聞いていた徒が思わず苦笑する。
    「結婚……出来るものならしてます……」
     案の定、紗里亜はお湯に顔を沈めた。ブクブクと、水の中から音が聞こえてくる。
    「紗里亜さんも華乃さんも、もてると思うんだけどな……気になる人とかいないんですか?」
     くるみはフォローするのだが、紗里亜はなかなか温泉から浮かんでこない。
    「まあ、そのうちチャンスは来るよ♪」
     徒も努めて明るくそう言う。
     なあ、と徒は流希に同意を求めた。
    「さあ、どうですかねえ。ただ、最近の若い人たちは、非常にまぶしく見えますねえ」
     黙って仲間の話を聞いてた流希は、のんびりと笑顔を見せる。流希も最近結婚したばかり。現在は正体を隠し普通の高校教師として働いている。
     そう言えばと、くるみが徒を見た。
    「徒さんとは同じ日に結婚しましたね♪ 奥さんはお元気ですか?」
     ネイチャーカメラマンとして世界中を飛び回る日々の徒だが、最近学生時代から付き合っていた彼女と結婚したのだ。
     さて、ようやく湯船から顔を上げた紗里亜がくるみを見る。
    「くるみさんの新譜、聞きましたよ♪」
    「私もくるみちゃんの新譜聞いたよ」
     華乃も頷いた。
    「ありがとう、です」
     卒業後アイドルデビューした後、本格的な歌手へと転進したくるみは、現在シンガーソングライターとして活躍の場を広げていた。
     久しぶりに顔を合わせた者もいる。楽しい話は尽きない。

    ●屋台では
     ブレイズゲート探索を終えた灼滅者たちの中には、屋台で楽しむ者もいる。
    「普通に考えてテルルと遊んでる俺のがそりゃ不利だよな」
     翔が倒した敵の数を数えながら笑った。
     織久と約束した倒した数で勝負するという結果は、露払いとして敵を倒し続けた織久に軍配が上がったようだ。
    「では露払いのご褒美に鳥のささみのか手羽先をお願いします」
     翔が頷く。
     灼滅者たちの大規模探索にハロウィンということで、屋台の数は多い。
    「折角だから他にも色々食べ歩こうよ」
     並ぶ屋台を見比べながら翔が織久に言った。
    「他は翔さんにお任せしましょう。何が食べたいですか?」
     頷く織久も屋台を見回す。

     セレスは購入したたこ焼きをつつきながら、ゆっくりと屋台を見て回っていた。
    「日本の屋台も随分ご無沙汰だし……ゆっくりするか」
     そう言いながら、ふと振り向く。
     このブレイズゲートの消滅も、じき始まるだろう。
     長らく10年前の姿を保っていた場所が消えていく。世界は変わったのだと実感するときだ。

     灼滅者たちは各々、しばしの祭りを楽しんだ。

    作者:陵かなめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年11月8日
    難度:普通
    参加:12人
    結果:成功!
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