ブレイズゲート消滅~白炎の終りを告げる夜

    作者:那珂川未来

    ●流るる
     お久しぶり、と笑う仙景・沙汰(大学生エクスブレイン・dn0101)には少し年齢の渋みが差して。
     お久しぶりですと返すレキ・アヌン(冥府の髭・dn0073)も随分と大人っぽくなった。
    「なんだか学生時代を思い出すよ――」
     こちらの仕事に携わるのが久し振り過ぎて。故にまるで同窓会のように集まった皆の顔に沙汰は目を細めながら、
    「この場所も、人によっては懐かしい場所なんじゃない?」
     そう言って、旧GHQ基地のある無人島の地図と資料を配り始めた。

    ●最後の獣が鳴く夜に
     最新の研究により、ブレイズゲートを構成していたサイキックエナジーが尽きた為、遠からずブレイズゲートが消滅する事が判明したらしい。これも時の流れなんでしょうねと、レキは呟く。
    「ソウルボードが消滅した事で、灼滅者も闇堕ちする危険性が無くなった様に、ブレイズゲートが消滅したとしても、直接的な問題はない。ないんだけれど、ちょっとした問題があってね」
     ブレイズゲート内部の分割存在は、ブレイズゲートの力によって維持されている。つまり、ブレイズゲートが消滅すれば、分割存在は連鎖して消滅する――のは間違いないのだが……。
    「地味に同時に消滅するわけでもないらしくてね。ブレイズゲート本体が消滅しても、分割存在の内部に蓄えらえたブレイズゲートの力が尽きるまで、分割存在単独でうごけちゃうんだ」
     最大で3時間程度は、存在を維持できると試算されたとのこと。
    「ええと、つまり、ブレイズゲートが保有する分割存在をブレイズゲートの外に出さない力も消え去るわけですから、最大で3時間の間、ブレイズゲートから解き放たれた分割存在が暴れまわっちゃうわけですね?」
    「そういうこと。俺がお願いする旧GHQ基地の所在は無人島だけれど、分割存在が容易く海を渡って人を襲うのは想像出来ちゃうよね」
    「あのブレイズゲートの主のようなスサノオは、イクサオオカミ。人を喰らうとされていますから」
     巨大なスサノオのイクサオオカミはきっと幾つもの古の畏れを作り出してゆくだろう。そして、もう残り少ない命を本能の赴くまま使うだろう、分割存在たち。このままではいけませんねとレキも久方ぶりの戦闘の緊張を感じる様に、胸を押さえる。
    「彼らが無人島から脱出してからの殺戮を防ぐ為に、ブレイズゲートが消滅するタイミングで、『灼滅者による大規模なブレイズゲート探索』をお願いしたい」
     掃討作戦で分割存在が身に溜めたエナジーを発散させ、消滅タイミングをブレイズゲートと遜色ないタイミングで終焉を与えつつ、現存する全てのブレイズゲートからの被害を防ぐのが今回の目的――でもあるのだが。
    「実はさ、ブレイズゲートの消滅のニュースを聞いたのか、各地のブレイズゲート前には、世界各地から観光客がやってきて」
    「なんか……世の中が平和になったんだなぁというか……」
     観光の対象になっちゃうんですねと、レキはこれも時代の流れなんだなぁと呟く。
    「ハロウィンらしい出店もあるらしくて。ブレイズゲートの探索の合間に、そういった出店を覗くのもいいかもね。ハロウィンらしい小物とか売っているみたいだし、スイーツも豊富にあるみたい。旧GHQ基地の退廃した世界観は、確かにハロウィンの舞台としても悪くないだろうし……こっちも仮装してもいいかもね?」
    「あ、確かに。それにハロウィンらしいスイーツとかあるなら、カボチャのパイとかもあるんでしょうね。他にも異国の味とか楽しみたいかも」
     避難を、と言いたいところだけれど、分割存在なら今の自分達には危険なものじゃないだろうから。
    「分割存在を倒したあと、わたしも行ってみようと思います」
     沙汰は、僕、からわたしに一人称が変化したレキに、ちょっぴりの驚きと、月日を実感しながら。
    「あ、因みに俺も行くよ。観光客たちと同じな理由だけれど、折角だし携わった時の忘れ物の行く末を皆と一緒に見たいしね」
     楽しいハロウィンの装いに。異界から飛び出す悪魔たち。
     収穫を祝い、悪霊を追い出す意味合いそのものの様に。
     あの島で、あの場所で、最初で最後のお祭りを。


    ■リプレイ

    ●Ten Years After
     あまおとと大正ロマンの軍服揃え、桜の髪色揺らす陽桜。いつかのお揃いの髪留め添えて、レキは羽織ワンピース。
     咥えた白刃に重なる縁珠、分割存在は煙の如く消えた。
    「陽桜ちゃん、ホント綺麗になったよね」
     旦那さんいるからかな、と笑うレキの大人っぽくなった佇まいに、陽桜は月日を実感する。
    「あたし、自分自身はあんまり変わってないって思ってたのですけど――でもこうしてレキちゃんや、皆さんと再会するとそれだけの年数は経ってるのだなぁって」
     けれど懐かしさ薄く。距離感は変わらずで。
    「旦那さんと和風喫茶経営してますので、お時間いただける際に遊びに来てくださいね♪」
     まだまだ話たいことあるのです、と。
     今此処では語りきれない時、更に未来へ繋いでいきたいから。

     白炎纏う鈍色へ、バイクに乗った魔女が来る。
    「割と利用しているのであまり懐かしいって感じはしないね」
     個人貿易商を営む玉には、感慨よりは、代理戦争用の殲術道具の調整先を今後どうするかのほうが先に来てしまう。
     おかげで調整完了の為に一晩で全国ブレイズゲート巡りの旅を敢行しているけど。
    「うーむ、やっぱり無理のあるスケジュールだったか。アルコールの入った頭で予定を立てるものではないね」
     残り10、バイクに乗った魔女は発つ。

     敵の足元へと突っ込んでゆくブレイズの脇から放たれる弾丸。それが敵に吸い込まれるまでの刹那、詞貴は「あいつ」以外に守りたいと初めて思った、この退廃的な世界でも鮮やかに揺れる赤を見た。
     背伸びをしていたとは恐らく気づいていないだろう治胡の背中、陽炎に揺れる陰影に。
    「……、だから、お前にやるわけには、いかなかった」
     白炎が崩れれば記憶の影も消えていく。
     薄鈍の箱の中砂塵が嘆く。風化してゆく歴史の最後の悲鳴のようだと、治胡は感じた。
     ここに至るまで立ち止まることなく、恐怖も後悔も押し潰し進み。幾つ迷い、泣いただろう。だからこそ知る守れる喜び。頼むと託せる相手がいる――それはきっと。
     消えゆく世界を後にすれば、治胡の母と、養子に取ったきょうだいが駆け寄ってくる。
     繋ぐ手、背負う重さが増えていく。けれどその温かさが幸福なのだと、詞貴は思う。治胡も、その手を大事に握りしめながら、
    「――オマエの分まで子供達を愛して生きてやるからな」
     振り返り、何処へともなく呟いた。

     実の徒姫が獣の眉間を掴む。
    「最期まで痛いのは嫌だろ……」
     最後の白炎は容易くかき消えた。
     お久しぶりにご一緒させていただいて嬉しかったですとレキ。足元でワフワフしているクロ助にもお礼して。
    「そういや……もう25歳なんだっけ……」
     改めて隣立ち、実は手を胸位の所に掲げ、学園時はこの位だったかとジェスチャーしたあと、
    「美人さんになったし、きっとモテモテだろうな」
    「いえいえ全然ですよ」
     苦笑するレキ。
    「あ……もし周りに変な奴がいたり絡まれてたり嫌がらせうけてるなら俺に声かけろよ。調べて、諫めたり絞めたり和撲……燃やしたりするからな?」
     名刺を受取りながら、「実さん燃やさなくていいですよ!?」

    「ち、ちょっと休憩しない?」
     無理矢理力を使っている反動で、静は息があがっちゃって。
    「ははーん、何甘えてんですか。来るって言ったのは静でしょうに」
     呆れたように言いながら、仁恵は危険に備え杖を握ったまま横に座る。
    「やる気はあるんだよ? 現役の時に共闘する事ほぼなかったし……」
     子供が生まれてから二人の時間が減っているから。例え雑魚相手でもイイところ見せたい――浅はかだったと思うけど。
     意気込みももどかしさも、仁恵は全部受け止め、
    「ニエは君の良い所は、いつだって見てますから、ね」
     癒しの歌声は、聖歌のように優しい音。
    「よし、回復ありがとう愛してる! じゃあ行こうか」
     お手をどうぞとエスコートしながら、
    「終わったら皆にお土産買って帰ろう……ついでにちょっとくらいデート気分を味わっても、文句は言われないよね?」
     子が待っていると仁恵の脳裏に過ったけど、
    「少ーしだけ帰るのが遅れたって良いでしょう? 少ーしだけ晩酌して、天体観測して帰りましょうね」

     踵を鳴らし、得物を担いだ清掃員錠(瞳孔全開)が踊り出る。
    「くたばる寸前まで遊んでやっから来いよ!!」
     SHAULAで繰り出す年季の入った錠の重低音。時生のお局な装いのタイトスカートから覗く蒼炎纏うおみ足は、火傷しそうなほど爽快に弧を描いて。
    「いやあ、久方ぶりの戦闘はアガるな!」
     あの頃の懐かしさに胸焦がす時生。
    「サクッと終わらせよう」
    「ええ。援護はお任せを」
     例えスリッパだろうと、白衣だろうと、葉が裏声で黄色い声援送ろうと、鋭い足さばきで大胆かつしなやかにコンクリートの箱の中を駆け回る葉月、Beliefで次々と獣達を屠る苛烈なスタッカートのよう。シャレオツな珈琲スタンドでノートPCをかちゃかちゃったーんっしていそうな衣装に則り、真火の白翼からかちゃたーんって高速で放たれる光は五線譜のように伸び、次々と分体の体を音符のように縫いつけながら援護する。
    「つーか、俺らもなんだかんだと集まるの好きだよな。錠と同じ清掃員コスてのがなんかつらいけど」
     ピンク頭卒業した三男一女のおとーちゃんが、凹で華麗に敵の頭を錠の後頭部にホームランしたら、つれェんなら先楽にしてやんよとか、ああ10年前によく見たパターンで悪ノリしつつ分割存在の頭飛ばし合っている様を見ながら、千波耶はここにも子供がいたわなんて顔してたかもしれない。
    「さあこちらの宴を終わらせますか!」
     メビウスの輪を断ち切る様に、千波耶のGold-banded Lilyが虚空から刃を呼んで――。
     退廃的ロックバーは厳ついフランケンの店主がお出迎え。お疲れ様と労う沙汰へ、真火は、
    「久しぶりの戦闘、軽音の皆さんは相変わらず強くて、ついていくのに精一杯でした……」
     そんな風に控えめに言っている真火だが、葉月サポは相変わらず戦い易かったぜと完遂を称えて。
     時折錠に音的な手伝いで顔合わせていたけれど、葉と最後に顔合せたのは何時だったか。
    「仙景もひさしぶりだなー名刺交換しよっか。あ、間違えた」
     子供の写真引っ込め名刺差し替える葉と、
    「わあバッジかわいいー!」
    「息子(8歳)作よー」
     時生に褒められさりげなく如何なく親バカを発揮している千波耶。家庭での光景が目に見える。
     初めてのボジョレ時期を迎える新米ソムリエこと千波耶が次々とワインを開けて。橙色の灯の下、次第に天へと昇る陽炎へグラス掲げて。
    「葉月くん誕生日おめでとう! これからも幸せな日々をすごせますように」
    「俺等の不変の友情と―……葉月の屠りっぷりに乾杯!」
     錠の音頭と共に、たゆたうルビーを鳴らす音冴え渡り。
    「三十路過ぎてもこうして誕生日祝ってもらえると、やっぱ嬉しいもんだね」
     年甲斐もなくと思いながらも、素直な気持ちと共に始まる思い出話。
    「改めて、お誕生日おめでとう、葉月」
     真火は、その仲間と共に在るパートナーの姿眩しげに見つめ、も一度祝福を。

     メタルスーツのデティールが学生の時よりも逞しくなった和守が仕掛ける動きを補佐する様に、琴弓は影を解いてゆく。
    「行くよ。御影様」
     花開く様に身から離れた影を鎖のようにしならせるなら、ゲイルが初心に返るかのように戦い始めた頃によく手にした護符が散るが如く疾風に舞う。千尋の影を喰らう猟犬が共に舞い、残り火を食いちぎってゆく。
     前に来ないのか、と武器を持った手の仕草で誘う和守に、千尋は苦笑しながら。
    「ボクも三児の母だからねぇ、若い頃のようにはいかないさ」
     大学在学中に妊娠発覚して、大騒ぎになった教室の光景は今でも良く覚えている。
     ゲイルも、千尋と話し合ったあの時の気持は今も変わらずに、
    「私は時折国家間の代理戦争に応じてるよ。それ以外は家事をしながら家族と過ごす時間を長く持っている」
     どう頑張っても灼滅者である自分は、それ以外の生き方はして来なかったし、子供の手本になれる人間じゃあ無のも分かっている。だからせめて。
    「側で愛情くらいは注いでやりたいんだ」
     授かった命への姿勢を垣間見せ。
    「育児と学業の両立は死ぬほど大変だったけど「母は強し」を身を以て知ることができた」
    「あ、私も五人も子供がいるから分かるんだよ」
     以外と何となるんだよと千尋に共感する、未だ童顔でありつつ然し五人産んだとは思えぬ琴弓を思わず二度見しちゃった和守。今日はリハビリがてらここに来たんだよと、悪戯っぽく笑う琴弓。和守はそれぞれの様子に安心しつつ、特殊部隊の隊長らしい味方を鼓舞する様な果敢な戦い方で屠りながら、
    「俺は最近海外に派遣されることも多くて、日本に居ない事もある。色々と忙しいが、平和を守るヒーローを名乗って世界を変革した以上、その責任は今後も負っていくつもりだ」
     そして、細くなってゆく白炎の終焉。千尋は胸元の古ぼけた鍵を握りしめ、
    「サリュ、慈愛の。ボクはボクの“幸せ”を見つけたよ。キミは今も……いや、今度こそ“アデュー”だね」

     痛んだ国旗に、錆びた扉。そんな退廃に咲くパープルリボンは華やかに。白兎の耳&尻尾をふりふりしながらコンクリートに踵を鳴らし、
    「カッコウダイナミック!」
     ひなこの素敵なおみ足が古の畏れを狙う。音聞きつけ集まる六六六人衆らに、一誠は罪と罰を構え社畜の日頃のストレスと一緒に黙示録砲をぶっ放したかと思えば、バンダナ靡かせるセッターの機銃掃射と共に放つ援護射撃の弾幕が、流星群のように銀を引く。
     海賊コートが衝撃に靡く。キャプテンハットを指先で正しながら、
    「隙間無く弾幕張っても、おまえならちゃっかり避けてイケるだろ?」
    「イッセーは幼馴染で一番の親友ですから☆ 息ピッタリを披露します☆」
     カワイイ衣装でプリンセス気分のひなこが愛らしく返事したかと思えば、おどろおどろしい話で毒盛る顔はもう女優の域。
    「ゴキゲンだね、ひなこ。実はボクも親友とも思ってる」
     初めて聞いた肯定の言葉に、ひなこのの笑顔ますますきらめいて。

     ダークトーンのお揃い魔女衣装。ヒールの音高らかに。
    「こうして一緒に暴れるんは久々なあ。やっぱトモダチとだとテンション上っがるわぁ」
     浮かれすぎて討ち漏らさんようにな、と天空の槍を大きく振り回しながらお茶目に笑う朱那。そんな彼女の変わらぬ性格が想々にはとても嬉しくて、けれど戦闘は正直ご無沙汰で足引っ張らないか心配。
    「……私の腕、鈍っとらんといいけど」
     不安あれど、染みついた経験は10年たっても決して裏切らないようで、素早い執刀法に裂かれた残骸に。
    「イイねそのヤル気、全然鈍ってへんよ」
    「……うん、大丈夫みたい」
     褒められれば嬉しくて。想々は朱那の矛先に重ねる様に、コールドファイアを奔らせるなら。まるで、スノードームの様な、煌めきの結晶が儚い命を眠らせてゆく。
     か細く消えてゆく、歴史の終りを朱那は掌の上で弔った後。
    「さ、折角だから屋台スイーツ楽しんでこ!」
    「行きたいです、えとえと、甘いの食べたい!」
     久方ぶりの女子会に、二人の心はオレンジ色に弾んで。

     六六六人衆の眉間を破壊し、間合いを取る為後方へと下がりながら馴染みあるライフルのグリップを握りしめる高明。追いつめられているわけじゃなくても、康也と背中を合わせる懐かしさがいい。
    「高兄大丈夫か?」
     肩越しに、康也は高明へと視線を送る。
    「射撃訓練は続けてたし、ブレイズゲート位なら遅れを取るこた無いっての!」
    「……こないだもゾンビに食われてたじゃん(出演映画の話)」
     ぼそっ。
    「そりゃ今はまだやられ役の演技ばっかだけど……」
     小声で目を反らし。
    「まあ、今日は俺がついてるしちゃんと守るけど!」
     共に戦えるという嬉しさに、康也の持つ橙色の輝き冴える。ガゼルの突撃に足元すくわれたスサノオは、轟く銃声と橙炎に貫かれてゆく。
     終われば腹も減ると言うもので、康也が当り前のように手にするものは、
    「10年経ってもおでんは外さないのな……」
    「いや、逆におでん食べてなかったら康也じゃない」
     苦笑する高明。久方ぶりに顔合わせた沙汰も、当り前の光景にほっとしたように。
    「そうそう沙汰、これこの前出演した新作」
     高明がそこそこ出番多めの出演作品を押し付けようとしたら、
    「あ、これ見てないな。ゾンビに喰われていたやつは見たけど」
    「ウッ!」
     そちらは御覧にならなくていいのよ、って顔している高明。
    「まぁまぁ時間許す限り飲もうぜ」
     も一度カンパーイと、康也は高らかにグラスを上げた。

     綿雪のような衣装に、凛々しげに広がる羽根から、白く煙るような炎が退廃的世界を飲みこんでゆく。まるでツグルンデで大気を奏でる様に揺らし、優雅に、然し苛烈に、敵を追い込んでゆく様はまさに雪の女王。
     変わらぬ鳥の姿に、レキは色褪せない懐かしさを嬉しく思いながら、
    「セレスさんは、やっぱり頼りになるのです」
     惚れ惚れしちゃいます、と羽織ワンピースの裾をひらめかせた。。
    「強力なダークネスもめっきり減ったが鍛錬自体は相変わらず続けているからな。レキはもう前線からは退いているのか?」
    「はい。雑貨屋さんでお仕事してるんです。セレスさんは?」
    「獣医になった」
    「さすが」
     残党を倒しきった頃、白炎が緩やかに消えてゆく。此処も時の彼方に消えてゆくのだろうと、セレスは感じながら、
    「さあ、屋台に行こうか。懐かしい顔に会いたいしな」

     お伽噺の様な屋台村。
    「前に一緒に遊んだのは……もう10年前ですね」
     紅葉と沙汰と交わした涼やかなグラスの波紋に翠玉の瞳は追憶辿る。琥珀揺らしながら沙汰も懐かしそうに、
    「紅葉もとっくにお酒飲める歳か……それは俺も歳とるよね」
     思い出語りながら、紅葉は氷がとけて消える様に例えようもない喪失感をふと口にする。
    「――ねえ、紅葉たちの選択は本当に正しかったかな」
    「きっと間違ってないよ。そして今も遥か先の人達に正しかったって言ってもらえるように頑張ってる。紅葉が研究者になったのはそういうことでしょ?」
     自信持ってと沙汰は紅葉に微笑みかけて。
    「……そうですね、やっぱりそうじゃないとね」
     もっと頑張らなきゃね、と。
    「じゃあ、また飲みましょう、或いは、デート?」
    「デートしようか?」
     また、蒼い海でも見に行こうか、と。

     腰に下げた兎の灯揺らし、童話の少女を惑わす猫に扮した聡士が、比翼の槍を一回し、舌舐めずりしてにんまり笑顔。
    「ねぇ時兎、派手に遊ぼうよ。分割存在とやらとさぁ」
    「ふふ、全部食べつくしそうな顔、してる」
     肩を越えた髪を黄昏色の紐で結い、白垂れ耳を無造作に揺らし。対の比翼の槍を握った時兎の表情にも、他人には見せぬ彩が。
     壊れかけた薄鈍オモチャ箱。黄昏に誘われ現れる紅月は、置き去りの時代を闇に落して。
     仄暗き世界に、ぽつぽつと鮮血咲く。唄う時兎の白き指先が告げる。此処既に彼岸だと――白炎は幻のように消え去ってゆく。
     南瓜ランタンが照らす砂の路。聡士の目に橙星が輝く様を見て、時兎はウミホタルのことを思い出したあと、戯れに腕組んだ。
    「Trick or Treat 何か甘いの、ほし」
     長い付き合いの中得たらしい、覚えのある悪戯っぽい笑みに。
    「……Trick or Treat 僕には何かないの?」
     聡士は先ほど手に入れた南瓜チョコを比翼の口に入れたなら、
    「悪戯じゃダメ?」
     甘噛みした時兎の掌に現れる猫のキャンディアップルが、聡士の唇にキスをした。

     ――おやすみなさい。
     静佳は本の表紙を閉じる様に指を動かしたあと、ゆっくりと瞼を閉じてゆくイクサガミへと、小さく呟いた。
     どことなく、終焉というものに哀愁を感じながら、静佳は空を見上げる。
     ふわり、魔女の衣装が消え始めた歴史の残り香に揺れた。
    「スサノオの白い炎、きらいではなかった、わ」
     最後のひとりがいなくなるまでブレイズゲートを見守って、小さく黙礼を。

    「とうとうブレイズゲートもなくなる時が来たのか」
     上品ながらも妖しいゴシックドレスの魔女に扮した戒は、サングラスの向こうから白炎の残り火を見ながら呟けば、
    「これで終いやと思えば、感慨深いもんやね……」
     妖めいた装いの伊織は影の狐を足元に戯れさせつつ、ここでの記憶を紐解いて。
    「と言っても、このお祭り様を見ると、世間にとってはイベントの一つになってるみたいだね」
    「時代の変化、というものやろね」
     戒と伊織はゆっくりとブレイズゲートに向かいつつ、得物を手に。
    「さあさあ、最後の火花を散らしましょう」
     愛用の日本刀はをすらりと抜いて、
    「ほなオレも腕、鈍っとらんとこみせときましょか――折角や、百鬼夜行と参りましょうや」
     唇から溢れる言葉が、深宵に付き従いながら吹き荒ぶ嵐のように。
     流麗な太刀筋と、しなやかな斬撃が、幾つもの残り火を屠ってゆく――。
    「……少し、派手過ぎたかな」
     屋台の光、星の瞬き。景色を楽しみながら、戒は今宵の賑わいに身を寄せて。
    「仙景の兄さんもお久しぶり、やね」
     最近なにしとります? と伊織は久し振りに見る顔へ杯をすすめながら。10年目の感謝も、いまここで。
    「支えてくれて、ありがとな」
    「こちらこそ、いつも戦ってくれてありがとう」

     薄鈍の箱の中。百花の纏う、狐の嫁入り衣装が清浄を連れてくる。
     対をなす花婿エアンの爪先が、日輪を描くなら、はらりはらりと舞う百花の符は優しい雨のよう。リアンのリングがきらきら輝けば、其処は虹咲く天気雨の景色の様な。
     混戦の中でも、百花の瞳はエアンを見失わない。ついつい手厚く回復しちゃうのは、宇宙一大切な人だから。
     受け取った癒しに、エアンは微笑み返しつつ。
    「何年経っても、ももが俺の宇宙一だよ」
     何時までも変わらない、互いを想う気持は最高の宝物。
     消えゆく狼煙は、時代の最後の涙の跡ように。次第に細くなって消えゆく――橙色の光の下、それを見送りながら。
    「えあんさん、見て見て? かぼちゃのお面!」
     綿帽子姿のジャックオランタン。そのギャップがまた可愛らしく。
    「面白い事になってるね」
    「百花だから似合うよね」
     エアンはジャックオランタンな花嫁姿に笑って。沙汰もそんな無邪気な百花のままであることが、どこか嬉しい。
    「今沙汰は何しているの?」
    「サウンドクリエーターで細々食ってるよ。たまに学園の仲間のサポ入ったり」
     あの頃と変わらない熱を持っているのを見て、エアンは嬉しそうに笑い。
    「仙景さんも、はろうぃんぽいもの何か見つけた?」
    「うん。これいいなと思って」
     百花が覗きこめば掲げてくれたそれは、アンティークなランタン。
    「なんかさ、こうしてはしゃいでいると、すっかり大人になったはずなのに……」
    「うん、こうして話していると、いつでもあの頃の学生時代に戻れるような気がする」
     変わっていないようで、けれど確実に変化してゆく時の路のうえ。不思議よね、と笑う百花にエアンも頷いて。
     次の10年後も、きっと――懐かしい君にまた会える事を願って。

    作者:那珂川未来 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年11月8日
    難度:普通
    参加:32人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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