ブレイズゲート消滅~君の識る場所を

    作者:菖蒲


    「……不思議、なのね」
    「不思議だな」
     ぱち、と瞬いて不破・真鶴(高校生エクスブレイン・dn0213)は幾分も大人びた顔立ちに被さったふんわりとした髪先を指先で少し弄る。
     学生の頃――そう口にすれば海島・汐(潮騒・dn0214)にとっては何所か懐かしささえも感じさせるようで。海色の瞳を細め、彼は「少年時代を過ごした場所って思えばいいんだろか」と呟いた。
    「わたし、あの場所はきれいな場所だと聞いていたの。行った事はないけど。
     ……汐先輩たちにとっては懐かしい? どうなのかしら、どうなのかしら」
     虚空蔵図書館――その場所は、もう直ぐなくなってしまうのだそうだ。


     最新の研究によって、ブレイズゲートを構成していたサイキックエナジーが尽きた為か、遠からずブレイズゲートが消滅することが判明した。
     これはきっとやむを得ない時代の流れなのだろうと真鶴は口にした。幸い、ソウルボードも消滅したために、灼滅者も闇堕ちする危険性が皆無であることが判明している。ブレイズゲートが消滅したとて、直接的な問題はない。
     けれど、
    「ブレイズゲートが消滅すればね、分割存在は連鎖するの。けど、その消滅は全く同時に行われるわけじゃないの。
     ブレイズゲート本体が消滅したって、ブレイズゲートの力が尽きるまでは存在を維持できるのが……最大は3時間」
     その時間の間、ブレイズゲートから解き放たれた分割存在が暴れまわるという事態が発生してしまう。
    「それって、とってもとっても危険な事だと思わない?」
    「だよなァ……。ハロウィンの魔物が時限付きで暴れるみたいな、なんかそんな感じだよな」
     冗談めかした汐に真鶴はくすくすと笑って頷いた。
     冷たい水晶の空間。その場所はジャック・オー・ランタンが楽しむ様に、鮮烈にハロウィンを彩る事だろう。
    「でもね、でも、ちょっとだけ楽しみなの」
    「……何が?」
     手を合わせ、猫の様に目を細めた真鶴は「識っている?」と『大人びた表情』を作りあどけなく笑う。
    「ブレイズゲート消滅ニュースで各地のブレイズゲート前に世界各地に観光客がやってくるのよ。
     ハロウィンの屋台がずらりと並ぶのっ。ブレイズゲートの合間にそういうのを楽しんでも良いと思わない?」
     フードやワイン、南瓜のスイーツを中心にしながらも、まるでオバケが遊びに来たかのような意匠を凝らしたスイーツも並んでいる。
     きゅう、とお腹が音を鳴らした気がして真鶴は頬を赤らめ、「きっとたのしいわ」と微笑んだ。
    「ねえ、ハロウィーンを楽しむのって、良くないかしら?
     水晶の図書館。冷たい場所だけれど、今は心もぽっかりするくらい楽しみましょう?」


    ■リプレイ


     紫と橙色のテイストに覆われて、宵の世界を闊歩するような――あちらとこちらの輪郭が朧気になるその日を人はハロウィンと呼んでいた。
     冷たささえも感じさせる氷の意匠。差し込む光を帯びてきらりと輝くその場所は虚空蔵図書館。
     秋と冬の境の玲瓏なる空気を一身に受け止めて――深く、日比谷の地下に存在するその場所に足を踏み入れたは美人警察官。
    「そう! 人呼んで駅番筆頭肉壁ディフェンダー。父譲りの癖っ毛に母譲りの青い瞳。
     そして、ドタマ価値われる釘バットが似合うチョコバット派のわたしこそ名を『花色』というわけです!」
     それは10年の月日を感じさせないほどに愛らしい笑みだった。へら、と笑って見せた花色に「バット握って大暴れしていいのかしら? 『美人警察官』」と表情を変えぬままで舞依は言う。
     学生時代より黒のレェスやフリルを好み、衣装にこだわりを見せていた彼女はこうして時がたった今も愛らしい服装に身を包み、日比谷の地下深くへと足を踏み入れたのだ。
    「時々個々に会ったりはしていたけどエキバー皆で集まるのは相当久しぶりね。元気してた?」
     今日の為にとこさえた衣装は吉祥寺を拠点に敏腕☆仕立て屋として活動する舞依らしいものだろう。
    「もう10年だなんて信じられませんね。でもあの時と比べたら大人に……大人になって……うん、なってますね」
     うんうんと頷く実季。バット振り回す花色とチェーンソー振り回す舞依を見ていると何所か『あの時』に戻った様に感じてしまうから。
    「ストラさんは雑誌でよく見かけますし……箱さんは、えーと、顔色悪いですけど大丈夫ですか? 後、なんか知らない人います。
     主に日焼けしていて、なんか見た事ない感じのワイキキとかではしゃいでるパリピっぽい人なんですけど」
     胡散臭い人だって言われてますけど、と杏理が送る目配せに「久方ぶりだからってそんな……あ、俺っすよ俺ー! ぜんしろー君でーす!」とピースした不審者こと善四郎は恥ずかしいなと頬を掻いた。
     集まるだけでも吉祥寺にいる感じさえしてしまう。杏理は「お母さん怖いですね……お母さんって言うか、知らない人だ」と表情を凍らせる。
    「え……顔色悪くないですか? なんで?」
    「いや、アッ、ハイ、大丈夫です。社畜ってそういう生き物って言うか、顔色悪いのがデフォなんだけど、エキバー、あったけぇなあ……」
     一誠の切ない現代社会の闇を感じながら「ハハハ敵が上司に見えるぞ! 沈めこの野郎!」という叫びが木霊する。
     恭太朗は人間って10年もあれば変わるんだなあとぼんやりと社畜の様子を眺めていたが――杏理の一声でその考えを改めた。
    「僕十年前結局ピラミッドしてないんですけど……。しようか。
     皆の繁栄を祈って的な。あそこに汐くんもいるし上乗ってもらおう」
     唐突に巻き込まれた汐の「俺かよ」という声は善四郎には聞こえていない。
    「えっ、ストラってばピラミッドやってないの?! じゃあ折角皆で集まったんだしやらなきゃいけないね!
     一列に並んでー、えーと何か祈ること……また皆で集まってピラミッドできますように!」
     恭太朗は言う。人間ってそう簡単には変わらない。10年の月日を感じない位に、エキバーはピラミッドを楽しみにしている。
    「おや、ピラミッドですか? ……皆30歳近いのにです? もう仕方ないですねー! ポジション最下段希望で!」
     はいはい、と手を上げた実季に恭太朗はアラサーという言葉を口にしながらゆっくりと両手を地面についた。
    「10年前はもう数年もしたらすっかり落ち着いてると思ったんだけど、どーなんだろうな、古巣に戻ると血が騒ぐって感じなのかな。とりあえずピラミッドは土台がないと始まらないだろ?」
     か、かっこいい――!
     まさにエキバーの鑑。吉祥寺の土台といえば彼。そんなノリさえ感じさせるほどにスッと手をついたは恭太朗。
     恭太朗はへへんと笑う。最近の連絡を取り合ってる仲間たちが思い出を語りながら作り出すピラミッド。
    「えー皆いろんなところにいるの? 俺はなんか特にどこにも行かずアレしてるんだけどなんか近くに着たら適当に遊んでよ。
     焼き鳥行こう焼き鳥、吉祥寺~! 皆~!! もうそこらへんのコンビニで酒買ってほら駅周辺の歩道とかに座って飲もう!」
    「焼き鳥いいなあ」
     恭太朗の言葉に汐がへら、と笑う。つんつん、と突く舞依に汐はきょとんと振り返った。
    「ほら、汐。早く上にあがりなさい。なにぼへっとしてるの。節度ある行い? 出来ると思っていた? よもや10年もたったのよ?」
     何を莫迦なこと言ってるのかしら、と口早に告げる舞依の言葉に「確かに、節度ある大人がピラミッドとかな~」と脳内に『放課後☆JOYタイム』が流れてきている汐はよいせよいせと登っていく。
    「おっ、やはり二次会は吉祥寺駅ですか? チビどもも連れてくればよかったかな~」
     その言葉に舞依はくすりと笑う。聖地だものね、子供達ともまた会いたいわ、と次の約束を交わして。

     ひらり、と手を振れば見慣れた背中が其処に会って。日比谷の街を行く杏理はは、と笑みを溢した。
    「真鶴ちゃん! 綺麗になったね」
    「まあ。今を時めくモデルさんに行ってもらえるなんて」
     冗談めかして笑った真鶴に杏理は頬を掻く。そうだ、言いたいのはそう言う事じゃなくって。
    「……ああ、いや。これは十年越しの謝罪なんだけど……ごめんね、ただいま。
     君に数多送り出してもらって――帰らなかったあの日を思うから、言いたかったんだ」
     ぱちり、と瞬く。真鶴はゆるやかに笑みを浮かべて杏理を見上げた。
    「わたしもね、言いたかったの。おかえりなさい――それと、帰ってきてくれて、ありがとう」


    「あっ、えっと、お久しぶりです。皆さんお元気そうで……」
     お馴染みの弓道服姿の薫は足を引っ張らない様に気を付けますね、と緊張した様に居住まいを正した。
     10年の時を経て、こうして『刹那の幻想曲』の面々を見遣れば、何所か不思議な感覚さえ胸に過ってくるというもので。
    「さて、これを持ち出すのも10年ぶりですか……」
     佐祐理が手にした殺人注射器。遠巻きに戦う耀の姿に小さく目配せし、佐祐理はこの面々と戦うのは初めてだと楽し気に笑みを浮かべた。
    「わー、なんだか昔と違いますね。ハロウィンモードだから……?」
    「どうなんでしょうか。……不思議な空間。今日ばかりは鮮やかな色に彩られてる。
     ゆまは「見蕩れてる場合じゃないですね」と小さく息を付く。寒々しいこの空間に温かな人の息吹を感じるならば、ハロウィンのお祭りを直に感じ荒れているからだろうか。
    「負けるわけには参りません。長らく戦線を離れていたと言えど……何かを守る意思は消えていないから」
    「夫の鍛錬に付き合う形で訓練はしていたのだけど。実戦は10年ぶりね。佐祐理さんも、頼りにしているわよ?」
     愛莉の言葉に佐祐理はぱちり、と目配せ一つ。カフェの経営者らしからぬ実践慣れした動きを見せる愛莉を追い掛けて、ゆまもブレイズゲートの中を走る。

     ――一彼らが掴んだものを、守れるのなら、それでいい。

     仲間と共には知りながらゆまはそう胸に浮かんだ言葉を反芻する。
     走る彼女を追い掛けて、愛莉は「さあ、次よ!」とやる気を見せる。
     弓を引く事には慣れているという薫は「後ろは任せてください」と笑みを溢した。
    「トリックオアトリート、です♪」
    「ふふ、もう直ぐでゴール――これで、灼滅者引退、かしら?」
     さあ、次に待っているとはハロウィンの屋台だ。楽しもうではないかと心を躍らせて。

    「どれだけ強くなったのかも腕試し!」
     深未はぐ、と両の手に力を籠める。スムーズに進むぞ、と一人で探索する脚は軽い。
     ああ、けれど。契約の指輪の光が逸れた刹那に彼女はべしゃ、と転んでしまう。
     美しい姿のルミナスウイング。「ああ、だめですぅ」と言葉にした深未を包み込む結晶がきらりと光を帯びる。
     めいっぱいに『愛でられた』その痕に、何か物足りない気もしちゃうけれど、とうん、と深未は唇を尖らせた。
     バイクで行く全国ブレイズゲート巡り。そう題して玉は黒髪を覆う宵色のローブを揺らしていた。
    「試作武器の性能試験に来ました。対司書樹用に破壊力重視の武器を持ち込んだので切り倒して行こう」
     玉の記憶の中ではこの図書館の内部は正確に記憶されていた。何処に何がいるか――何所でどうすればいいか。
     それは『記憶力』というわけではなくこの中がなじみ深い場所になったからともいえるのかもしれない。
     シスター服のスカートをひらりと揺らして。見慣れた景色に飾られた意匠が新しい気持ちにさせてくれると心を躍らせる。
    「良し良し、ちゃんと斬れてるな。
     この頃は試せる場所が減ってきたから、最後の機会に間に合って良かったよ」
     ブレイズゲートが消えてしまう――そう口にすると、もうこうして武器を手にする事もないのかと感傷深くなってしまう。
    「おっと、感慨に耽ってる場合じゃなかった。折り返し地点にも来てないんだから次へ急がないと」


     日比谷の街は煌めいて。ハロウィンを思わすテイストに街が飾られれば、何所か異空間を思わせる。
    「不破先輩、海島先輩、お久しぶりです。……10年ぶり、ですね」
     何所か緊張した様にそう告げた雄哉に汐は「久しぶり」とひらりと手を振った。
     汐の背後で暖かなココアを飲んでいた真鶴は「雄哉さん、お久しぶりなのよ」と笑みを浮かべる。
    「ブレイズゲートでの掃討は終わったのかしら? わたしはいけないから汐先輩にどうなってるのか聞いてたのよ」
    「はい。ある程度終わったので屋台でも巡ろうかな、と」
     折角ですから、と付け足す彼に真鶴は「何だか、昔より穏やかな表情というか……逞しくなったのね?」と首を傾ぐ。
    「雄哉は今、何してるんだ?」
    「あ、そうですね、故郷――三重県内の養護施設で職員を。子供の世話をしています」
     それなら逞しくもなるなと笑う汐に、じゃがバターを食べたいわ、と見遣る真鶴に付き合いながら雄哉はゆっくりと足を止めた。
    「そういえば、今更で申し訳ないんですが……僕、結婚しました」
     ゆっくりと。確かめる様にそう告げた言葉に真鶴と汐はへら、と笑う。表情が固く、余り笑わらないというのが彼らの中での印象だったから――こうして、ぎこちなくでも伝えてくれるだけでどこか嬉しくて。
    「不破先輩を結婚式に招待できればよかったんですが……」
    「ううん、こうして聞かせてくれただけでとっても嬉しいわ。それに、わたしのことも汐先輩の事も名字で呼ばなくっても良いのよ。
     だって、お友達ってそういうものだとおもうの。真鶴、で良いわ。勿論、奥様だって『そう』言う風に呼んでくださるでしょ」
     ご夫婦揃って、お名前で呼んでくれればそれでいいわ、と笑った真鶴に雄哉は頬を掻く。
     埋め合わせとして、それじゃあ、これから屋台を巡ろうではないか。どんな式だったのか想い出噺に花を咲かせながら。

    「久しぶりね。クラスが変わって以来かしら?」
     武蔵坂学園の中学女子冬服に身を包み、何所か悪戯っ子の様に笑った耀に真鶴はぱちり、と瞬く。
    「え……?」
     真鶴にとっては見慣れた――それこそ通い慣れたクラスでよく見ていた――姿の女生徒が目の前に立っている。
    「ふふ、驚いた? この格好」
    「え、ええ……時が遡って、幼い頃の耀さんが現れたかと思ったの」
     面立ちは幼く、身長も150cm。あまり背丈の伸びていない真鶴でさえも服装は大人びていたものだからつい、『本当に中学生の耀がいた』かのようで。
    「実はもう一着用意しているのだけど。マナさんも着てみない?」
    「わ、え、えへ……に、似合うかな」
     ハロウィンだもの、なんて。言い訳を重ねて真鶴は耀と共に中学時代に戻るのも面白そうとこっそりと袖を通した。
     武蔵坂学園の生徒が見たならば「先生?」と驚いてしまう様な耀の姿。雰囲気は凛とした大人の女性のものだが、衣服だけで何所か童心に戻ったようで。
    「私が中学生の頃は、教師になるなんて思ってもみなかったけわ……そういえば、貴女は今何してるの?」
    「わたしは実家……大阪に戻って、おうちの仕事のお手伝いをしながら、その、絵本を」
     幼いころから好きだったハッピーエンドを描きたくてと頬を赤らめた真鶴に耀はそうなのね、と笑みを溢した。

    「Bonsoir、お化け退治には良い夜ね。でも、夜が終わってしまうその前に……。
     楽しめることは楽しんでおかないと、とってもとっても損なのです」
     唇に指先宛てて。ブルージルコンの瞳が見つめる世界は何処か煌びやかに。
     睡蓮の飾りを魔女帽に飾り、足取り軽く歩むチセは南瓜クリームのエクレールにぱちり、と瞬く。
    「Bonsoir、エクレールを1つくださいな」
     それは麗しの故郷の思い出。久方ぶりにと、チョイスした菓子を売るショップの店員は何処か可笑しそうに「可愛い魔女さんにはおまけをひとつ」と秘密事の様に差し出して。
    「あら……」
     merciと小さく返したその言葉に店員は何処か満足げだ。
     ああ、けれど。二つも食べきれないわ、と魔女は悩まし気に唇を尖らせた。
    「あら……真鶴さん、Bonsoir、エクレールをお1ついかが? おまけに戴いてしまったの」
    「Bonsoir――merci! とってもおいしそう。よければ、cafe noisetteと一緒に頂きましょう?」
     丸いブルージルコンが細められる。対照的に釣り目がちな猫の様に細めた月色はるんるんと楽し気な光を帯びて。
    「美味しい夜になりそうね」

     南瓜を思わせる可愛らしいハットに、ふんわりとしたスカートを合わせて。
     幼い頃に着用した衣装をアレンジすれば何所か大人っぽさを感じさせるようだから。
    「すっごくお久しぶりで、ハッピーハロウィーン、です!
     お菓子をもらってくれなきゃいたずらしちゃうぞ、です♪」
     南瓜を思わせるランタンの代わりに南瓜をモチーフにした籠へとたっぷりのお菓子を詰め込んで。桃色の髪をふわりと揺らした陽桜は口元緩めへらりと笑う。
    「まあ、ハッピーハロウィン! えへへ、貰っていいのかしら? とっても嬉しいのよ」
     口元に手を当て。少し暗めのカラーリングの和装に身を包んだ真鶴はぱちり、と瞬く。
     何処か幸せそうに笑みを浮かべた真鶴に陽桜は「久しぶりの日本なんですよ」と物珍し気に日比谷の街を見回した。
    「屋台のスイーツって、どこまでチャレンジしました? あたしも今から制覇したいなーっておもってるのですけど、制覇するにもサポートが必要なのです」
     よければ、と差し出した掌に真鶴は「勿論なの」と笑みを浮かべる。大人びていても学生時代の様に幼い笑みを浮かべるのは、やはし昔馴染みと言った処か。
    「ありがとうございます♪ では、あの屋台の南瓜パイから♪」

     蒼がひらり、と揺れた。前を行く真火を追い掛けて本格的にダークネスとやりあうのは久しぶりだったと豪奢な衣装に身を包んだ葉月が小さく息を付く。
    「10年のブランクがあるとは思えない位の手捌きだったね。流石は葉月、ですね……今も昔も、かっこいいよ」
     何処か恥ずかし気に告げたその言葉に葉月はにぃ、と笑う。それは葉月だって彼に言いたい。
    「真火も弓の冴えは昔通りの様で何より。
     さ、腹ごなしも済んだし出店を冷やかすとしようか……ホットワインで体を温めて、軽く何か食べようか」
     美しい青の戦士を連れて、歩み出す葉月に手を引かれて、真火はホットワインなら飲めるかな、と首を傾げる。
     一息ついて、楽しむ事が出来たなら――それはどれ程嬉しいか。
    「あ、南瓜のホットサンドとかありますよ」
     こうしてパートナーと何気ない日常を過ごせることが何よりも嬉しくて。
     昔話に花を咲かせて、真火はゆるやかに葉月を見上げた。
    「僕達、少しは大人になれてますかね?」
     その言葉に頬に手を添えて。葉月はどうだろうか、と小さく笑う。
     けれど――いつまでも、この時が続けばと、そう思う。

     光る廃墟に足を踏み入れたなら、見知った顔がそこにはあったから。
    「……化けて出て来たのかと思った。なんて、冗談よ。久しぶりね、汐さん」
     成海の声音にくるり、と振り向いて汐はどこか照れくさそうに「久しぶり」と小さく笑った。
     大戦が終わってから成海の中に会った『普通』や『常識』が一転して――心も体も順応するには時間がかかった。
    「今は都内で英語を教えているのだけれど、汐さんは? あれからどう歩んできたのかしら」
    「俺は、海洋の研究を院でして、それから水族館勤め。教師か……成海が教えてくれるなら生徒も嬉しいよな」
     冗談めかす汐に成海はくすくすと笑った。曖昧な輪郭を壊していくように、この場所は消えていく。
     感傷に浸るのは好きじゃないけれど――当たり前が消え去っていくのは淋しいから。
    「ねえ、寂しいわね」
    「寂しいな。こうして、当たり前じゃなくなるんだな」
     それでも――灼滅者の血は騒ぐ訳で、握った拳に青い電流がぴりりと走る。
    「ね。ラストひと暴れ、付き合ってくれる?」
    「勿論」
     お付き合いしますよ、と口にして踏み入れるは水晶の図書館。知識の宝庫が消えるまで。
     ハロウィンの夜を踊り続けようじゃないか――何、一つ、思い出話でも語り合いながら。

    作者:菖蒲 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年11月8日
    難度:普通
    参加:20人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 1
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