ブレイズゲート消滅~懐かしき場所にさよならを

    作者:カンナミユ

    ●時は流れ
     最新の研究により、ブレイズゲートを構成していたサイキックエナジーが尽きた為、遠からずブレイズゲートが消滅する事が判明した。
     あれからもう10年が経とうとしている今、これはやむを得ないのだろうと資料を目に結城・相馬(超真面目なエクスブレイン・dn0179)は思う。
     ソウルボードが消滅した事で灼滅者も闇堕ちする危険性が皆無であることが判明している。ブレイズゲートが消滅したとしても、直接的な問題はな。あるとすれば今後経験を積む場がなくなるという事くらいか。
     懐かしい、かつて使っていたノートにまとめた資料を手に、相馬――エクスブレインは灼滅者達の前に立つ。

    ●懐かしき場所へ
    「説明した通り、ブレイズゲートが消滅する事が判明した。ブレイズゲート内部の分割存在は、ブレイズゲートの力によって維持されているが――」
    「ブレイズゲートが消滅すれば、分割存在も消滅しちゃうんですね」
     相馬の言葉を遮り呟く三国・マコト(正義のファイター・dn0160)はかつて探索したブレイズゲートを思い出し、懐かしむ。
     技量を上げる為に何度も巡ったブレイズゲートの消滅に灼滅者達は感慨深い思いを抱くが、どうやら消滅は全く同時に行われる訳ではないようだ。
     エクスブレインの説明によれば、ブレイズゲート本体が消滅しても分割存在の内部に蓄えらえたブレイズゲートの力が尽きるまで、分割存在単独で最大で3時間程度は、存在を維持できると試算されたという。
    「つまり、ブレイズゲートが自然消滅した場合『分割存在をブレイズゲートの外に出さない力』も消え去る為、最大で3時間の間、ブレイズゲートから解き放たれた分割存在が暴れまわるという事態が発生してしまうという訳だ」
     ブレイズゲート周辺からの避難勧告などを行なう事で被害を抑制する事は可能だが、避難できない建築物などは、多大な被害を被る事だろう。
     また分割存在の中に、距離を無視して別の場所に出現して事件を起こす事ができるような者がいた場合、被害はより大きくなるかもしれない。
     周囲に被害を出す訳にはいかない。だから。
    「ブレイズゲートが消滅するタイミングで、『灼滅者による大規模なブレイズゲート探索』を行なう作戦が提案された。そのタイミングで行われる日本全国のブレイズゲートの大規模探索に参加して欲しい」
     言い、相馬は資料をぱらりとめくる。

     ブレイズゲートの消滅は『10月31日~11月1日』。
     エクスブレインの説明ではブレイズゲート消滅時に、分割存在がブレイズゲートの外で活動できないように『討ち漏らしのないように掃討』するのが、作戦の目的だという。
    「時間制限付きで暴れる分割存在か……。まるで、ハロウィンの魔物だな」
    「つまり、ハロウィンのイベントをするべきだという事か」
     文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)が、そう言うと神鳳・勇弥(闇夜の熾火・d02311)も同意し、
    「ブレイズゲートもハロウィンぽくなってるかもしれませんね」
    「どうだろうな」
     マコトと相馬も言葉を交わす。
     今の灼滅者の実力であれば『ブレイズゲート』の探索は特に危険は無い訓練のようなもの。
    「折角だから俺もお前達と一緒に行くよ。ああ、大丈夫、入口でお前達を見送り、お前達を迎えたいだけだ」
     説明ばかりだった相馬はブレイズゲートを見た事がない。最後だから見ておきたいというのだ。
     それを拒絶する声はなかった。

    「説明は以上だ。何か質問はあるか?」
     説明を終えたエクスブレインは問うが、質問の声はない。
     伊達メガネを外し、ケースに収めると真摯な瞳から柔らかな瞳へと変えた相馬は灼滅者達へ言葉を続けた。
    「これは、俺からの最後の依頼になると思う。簡単な依頼だとは思うが、お前達の力をもって遂行して欲しい……頼んだぞ」


    ■リプレイ


     かつてその場所は、人々が近づかぬ場所であった。
     その名も『パチンコ濃尾』。
     時は2028年。灼滅者達が訪れるその場所も今宵が最後。人々が近づかぬ場所というのに消滅を知った人々が集まっている。
     周囲には露店が並び、ハロウィンだからかおどろおどろしい音楽がどこからか流れてくる。
     随分と平和な世の中になったものだと結城・相馬(超真面目なエクスブレイン・dn0179)は思い、そして――、
    「俺からの最後の依頼、頑張ってくれ」
     見送られ、灼滅者は中へと踏み込んだ。


     パチンコ濃尾の新領域は10年前と相変わらず荒廃している。
     懐かしいその場所はまるで、改装中のようであり……まあ、10年前と同じである。
     そうこうしていると、気配を感じたダークネスがやって来た。
    「おっ、このコ達を即座に派遣社員と見破りましたね!? 流石は武蔵坂学園の灼滅者、ようこそいらっしゃいませ! 斬新コーポレーションは、建設用地の強引な乗っ取り等を通じて、地域の皆様の人口削減に協力して参ります。わたくしは、中部支部長の屑星・暁子と申します。はい一同、礼ーっ!」
     出迎えた両腕を鉄球化した六六六人衆の女性――既に無い斬新コーポレーション中部支部長の屑星・暁子が10年前と同じように、にこやかに言う。
     薄暗い不気味な空間にツインテールが揺れ、暁子の号令と共に、意思なき操り人形の如き派遣社員達が頭を下げた。
    「刺激的なイベント満載で皆様をお迎えする斬新パチンコ! 今宵はハロウィンナイトと称していつもと違う斬新さをご提供しております! え? 斬新じゃない? お気になさらず。さあ派遣社員ども、御客様に丁重なゴアイサツを!」
     言いながら暁子が撤退するのと同時に、派遣社員達が灼滅者達へと襲いかかる!

    「ぐあああぁあ~っ!!」
    「や、やられたー!」
     オーバーリアクションさを感じる叫びと共にフランケンシュタインとドラキュラに扮する派遣社員はばたりと倒れた。
     包帯ぐるぐる巻きのミイラやら動きづらそうな着ぐるみやら、斬新とは何かと和弥は思うが、大人になった心にあるのは悲哀である。
     ざしゅっ!
     学ラン姿の派遣社員を倒すと、ふと遠い学生時代を思い出し、今の自分を顧みる。
     卒業後はちょっぴり裏家業っぽいところもある探偵業に就いたものの、まったくもって収入が安定しない。
     それは相手や内容次第でダークネスや報酬を払えないような相手からの依頼でも引き受けたが、逆に気に入らない仕事内容や依頼者なら断ってしまっていたからで。
    「……俺も稼ぎの悪い不自由業で何の保障も無いし、社会的地位は最底辺の立場だしな……」
     学生の頃は分からなかった悲哀を胸に呟けば、目前にはアイドル風衣装の女性派遣社員!
     ぶんと空を切る刃を飛び越え、その仮装に思い浮かべるのは最愛の妻である清純派アイドル淫魔の初花。
     ダークネスを嫁にしたり、他のRB団員からは抜け忍扱いされたりと、色々と騒動のネタには事欠かない人生を送っているが、気にもしない。
     幸せの為、頑張らねば。
    「斬新なんか知った事か! 愛してるよ、初花!!」
     ざっしゅー。
    「ワ、ワタシ、マケマシタワ……」
     メカっぽい恰好をしたロボットのような装甲を着用する斬新中堅社員はそれっぽい口調で地味に回文を言い残して倒れた。
     その上を玉は駆けていく。
     玉は現在、バイクで行く全国ブレイズゲート巡りの旅の真っ最中。
     その旅もいよいよ佳境で、巡る25か所のうちの22か所目だ。時間は限られている。
     青いマントをなびかせ騎士っぽい感じで仮装をしたものの――、
    「結構着飾ったつもりだけど此処の連中の方がよっぽど仮装行列してるな」
     着物姿の紅花撫子はパステルピンクのゴスロリメイド。マフィアオウガは可愛らしいウサギの着ぐるみときたもんだ。
    「診察の順番はまだです……よ……」
     可愛いナースのトリックディーラーは試作武器の一撃であっさり葬られてしまった。まあ、元々今の実力ならブレイズゲートの敵を倒すのは容易である。
     英国在住の個人貿易商を営む玉の今回の主目的は試作武器の性能試験。
     一通りの敵で試し斬りしながら探索してはいるが、懐かしさなどは一切ない。
    「確かこの辺り……」
    「……ああ、なんで私、なんでこんな会社に就職しちゃったんでしょう……。ハロウィンだからって斬新な仮装をしろなんて新入社員には辛いです。はあ……」
     ざっしゅー!
     出会い頭の一撃に斬新さを狙ったものの、割とありふれた奇抜な仮装をした斬新ニューフェイスはあっけなく散った。
    「10年そのままだと1周回って逆に斬新……でもないか」
     玉は最近も定期的に潜りに来ていた事もあり、敵とマップは確り記憶していた。この前見た時とは違う恰好に少し驚いたが、それだけで。
    「最後と聞くと感慨深くはあるのだけれど。残念ながら見飽きた相手が目新しく映ったりはしないようだね」
     ここでの試験もあらかた済んでしまえば、ここにいる理由はない。
     露店に興味はあるが、この後に控えるのは和歌山。長居は禁物である。
     掃討を済ませた玉はバイクのエンジンをかけ、そのまま和歌山へと一気に向かっていった。

    「十年前はわたくし達灼滅者しか近寄りませんでしたのに。変わりましたわね」
     颯爽と歩く度に金髪が揺れ、武器を手にベリザリオは率直な感想を口にした。
     灼滅者以外、誰も近づかなかったこの場所に一般人が集まる日が来ようなど10年前には想像できなかった事である。
     時の流れに変わるものは多けれど、変わらぬものもある。
     それはベリザリオの前を行く弟の織久。
     裏では未だ暗躍するダークネスの処理を行う何でも屋の実行部隊長である織久と所長のベリザリオだが、今日は部下たちの前でもない。10年前と変わらぬただの兄と弟だ。
     織久が西院鬼の怨念からも自分の狂気からも解放されないままという事実に心を痛めるベリザリオの内心を知ってか、織久はくるりと振り返り、
    「兄さん、また私の事で悩んでいるのですか。さっさと奥へ行きましょう。敵を殲滅しますよ」
     闇器を手に殲滅すべき対象を探し歩き出す。
    (「西院鬼である以上、そして私が私である限り、私が変わる事はないでしょう」)
     血色の炎を纏う黒い大鎌を手に殺意と狂気を孕む紅の瞳は細まり、織久の脳裏にはこれまでの日々が蘇る。
     幾度となく戦い、傷つこうとも共にあったのは兄の存在。
    (「そんな私を見捨てないあなたに感謝はしてますが」)
     兄への感謝を内心で呟き足早に進めば――いた。
     怨敵が。
    「我等が怨念いまだ消えず。我等の悲願は怨敵共々の消滅。六六六人衆が存在する限り、我等は消えぬ、終われぬ! ……ヒ、ヒハハハ!」
    「あら、織久は? ……お待ちなさい織久! 所長命令ですわよ……って駄目ですわね」
     いつも所長命令と言葉だけで抑えているが、さすがに今は無理だろう。闇器が唸り、六六六人衆は織久の手により無残に散っていく。
    「敵が消えて落ち着くまで付き合いましょう」
     血しぶきが床を染め、壁を染める様にため息一つと共に得物を構え、ベリザリオは弟の元へと駆けていく。
     ここはブレイズゲートでも六六六人衆が多くひしめく場所である。倒せど倒せど敵は現れる。
     六六六人衆は殺す。血肉の一つさえ残さない。
     襲い掛かる刃を打ち払うと返す一撃で胴を裂き、渾身の一閃で腕を裂き、二人は全てを裂いてく。
    「……ふふ。わたくしも昔から変わりませんわね」
     あらかた六六六人衆を殺し尽し、ベリザリオは弟へと優しい笑みを向けた。
     そう、10年経とうとも変わらないものはあるのだ。
    「織久が怨念と狂気に苛まれるなら、わたくしがそれ以上の愛情を注ぎますわ」
     頬についた返り血を拭ってやりながらの兄の言葉に弟は俯いた。


    「元気にしてたか? 十年経ってもあんまり変わらないもんだよな」
     ブレイズゲートに入る前、勇真は誕生日が近いという縁を持つマコトを見つけ、さっそく声をかけた。
    「あの頃は20代後半ってもっと大人になってると思ってたんだけどなー」
    「オレもそう思います」
     学生時代もとうに過ぎ、成人すれば大人になると思っていたが、ちょっと年齢を重ねただけであまり変わっていないような気がする。
     今日はハロウィンだ。用意してきた道具を取り出すと勇真はマコトの頬に蝙蝠のシルエットを描き、
    「それじゃ今度は俺のも頼むな」
     と、ボディペイント用のペンを渡すと、ペン先が頬に触れてちょっぴりこそばゆい。
     ハロウィンメイクをばっちり施し、勇真はエイティエイトに騎乗しいざ、ブレイズゲートへ!
    「へへっ、懐かしいよな。探索もそうだけど、こうやって一緒に戦うのも久しぶりだよなって」
     押し寄せる敵を一網打尽し戦いも一息ついて、一旦休憩。
    「今の内に食べちまおう」
     事前に露店で片手でつまめるものをいくつか買ってきている。まずはフライドポテトから。
    「マコト、これ覚えてる?」
     食べ終わり、勇真が見せるのは10年前のもの。
    「あ、それ!」
    「折角と思って一緒に持ってきたんだ」
     夏の思い出を大切に扱っていた事が嬉しかったのだろう。
    「焔月先輩、大切にしてくれてありがとう。オレ、すごく嬉しい!」
     感謝と共にこぼれる満面の笑みに思わず勇真も笑み。
    「よし、 それじゃこの戦いの次はたこ焼きな」
    「唐揚げも楽しみです」
     次の戦い、次のたこ焼きに向け二人は準備をしていると、
    「マコくうううぅぅん、ハッピーハロウィンビッグバンだねぇええええ!!」
     ずしゃあっ!
     ものすごい勢いで紗夜がやってきた。そして勇真からたこ焼きをいただきぱくり。
    「リア充共をビッグバン出来ないなら、合法的にダークネス灼滅して発散するしかないじゃないか。……合法的発散が今日で最後になるであろうことが悔やまれる」
     たい焼きも食べ、ついでにマコトからウーロン茶をもらってごくごく一気に飲み干す紗夜の作戦は見敵必殺(サーチ&デストロイ)、ただ一つ。
     これ今日で最後の合法的発散に対する八つ当たりだよね?
    「なんのことかわからないな」
     ……そうですか。それなら仕方がない。
     緋牡丹灯籠でファイヤーしたり、影喰らいでガブガブしたりしたりと目についた敵は全てビッグバンの運命を辿っていく。
    「マコ君よ」
     ビッグバン真っ最中の中、紗夜は共に戦った戦友へと瞳を向けた。
    「君は過去見ていただろう。僕がリア充に対して握力強化のにぎにぎするアレをにぎにぎしすぎているところを……いやー、アレもう何代目かな。この10年で数百代目くらいになってるかな」
     ふっと遠い目をして語る紗夜にすと手渡される紙袋。ずしりと重いその中身を確認し、
    「海外で仕入れたブツだよ。大丈夫。絶対に満足できると思う」
    「マコ君……」
     意味深に言うマコトに意味深に頷く紗夜。
    「よぉーしパパがんばっちゃうぞ~!!」
    「アナタ素敵~!!」
     そんな意味深なやり取りなど気にせずオバケ一家は敵をばったばったと薙ぎ払っていく。

     児童福祉施設の職員となった理央は今日の為に有休を使ってやって来た。
    「ここのBGは……斬新コーポね。今となっちゃァ、旧世代ブラック企業の標本って感じだけど。ともすれば、ここに囚われてた連中も犠牲者と言えるのかな……」
     懐かしい場所をしみじみと見渡し、追う標的へと立ち塞がる敵はすべて倒し。
    「せめて最後は派手に散らせてやろうか。有終の美ってやつだ」
     言い、角を曲がれば追っていた標的がそこにいる。
    「……あれっ、わたくしとした事が追いつかれました!? 仕方ありません、お相手しましょう!」
     両手の鉄球をぶんぶん振り回し、屑星・暁子はごきげんだ。10年前と変わらない、その姿も今夜が最後。
     この手で終止符を打つ。識守・理央は今だって正義の味方なのだ。
    「お疲れ様です中堅社員。ご機嫌よろしゅう人事部長。……最後の一戦、満足するまでやりあおうじゃないか、屑星・暁子ッ!」
     闇よりも深い漆黒の帯が唸り、目前に迫る鉄球を飛び越え一撃を避け。
     配下達を真っ黒なブーツの一蹴と共に葬りそして――、
     ざん!
    「人を殺すっていうのはね、もっと自由でないといけないのよ。定番の殺し方でもいい、でも自分に合った殺し方をしなくっちゃ……」
     そう言い残し、六六六人衆『屑星・暁子』は消滅した。
     戦い自体は苦戦する事もなく、それでも久しぶりのダークネスとの戦いに体は十分に満足していた。
    「今まで、ご苦労様」
     頬を伝う汗を拭い、理央は用意してきた花束を暁子が倒れた場所へと手向け、しばし黙祷するかのように瞳を伏せる。

     暁子は倒れ、しんと静まり返るパチンコ濃尾。
     敵の気配もすっかり消え、灼滅者達は出口へと向かっていった。


    「みんなお疲れ様」
     ブレイズゲート前ではエクスブレインが灼滅者達を出迎えたが――、
    「あ? ああ、そこで無理矢理着せられたんだよ」
     出迎えるエクスブレインを前に笑いをかみ殺す灼滅者達に相馬は恥ずかしそうにした。
     仮装用の、いかにもな安物な黒いマント姿の相馬はハロウィンだからと皆にお菓子とチケットを手渡していく。
    「これ、露店で使えるチケットなんだってさ。好きなものと交換してくるといいよ。お菓子は俺からのプレゼント」
     所長命令を無視したと不機嫌な兄の機嫌を取るべく織久はベリザリオと露店を巡りにくりだした。探す見た目が綺麗な甘味はきっとあるだろう。
    「相馬くん、三国くん、久しぶりだよ」
     吸血鬼な伯爵の仮装で勇弥はチケットを受け取った。
    「お久しぶりです、先輩」
     笑顔のマコトは勇弥に頭を下げ、しゃがんで加具土にもご挨拶。
    「ハロウィンって言ったら思い出すこといっぱいだね。相馬くんの予知したゴーストの家族の時は、ここ温かくなったし」
     ここ、と胸を押さえ勇弥が思い出すのはハロウィンのオバケ一家。
     あの時は皆で仮装をして、20人を超える仲間達と楽しく一夜をはしゃいだものだ。
    「まぁフック船長は今思い返しても照れるよ。御伽噺の敵役の中でも結構好きな分だけさ」
     あの頃を懐かしむように勇弥が話していると――後ろから真っ白シーツのオバケ!
    「わっ!」
     いきなりの登場にマコトがびっくりしていると、シーツがするりと落ち、現れるのはウサミミタキシードのさくらえだ。
    「オバ美さんではなくて申し訳ないー……なんて、二人共お久しぶりー♪」
    「や、やあ」
     目を丸くする相馬の表情も面白く、おばけの形をしたグミが入った袋を渡すさくらえもあの夜を思い出す。
    「ふふ、ハロウィンの都市伝説は、仮装行列含めてすごく楽しかったよね!」
     仮装行列と聞いた勇弥はあの依頼を思い出し、思わず苦笑してしまう。
    「RBな変態おっさん達の時は恥ずか死ねそうだったけど、でもその後で練り歩いたのは楽しかった」
    「ふふ、ハロウィンの都市伝説は、仮装行列含めてすごく楽しかったよね!」
     リア充を憎むガチムチカボチャ都市伝説の仮装攻撃はとんでもないものだったが、倒した後は皆でお揃いの恰好をして商店街を練り歩いたものだ。
    「菓子をくれねば、討ち入るぞ!」
     あの時のように厳しい口調を作って言えばあの時のように笑い、懐かしさについさくらえも笑ってしまう。
    「あと三国さんとの依頼で一番忘れられないのはフライング彼シャツかなー。アレもかなりインパクトすごかったよね」
     笑ったままのさくらえが思い出すのはレプラコーンが連れたフライング彼シャツを着た強化一般人。
     そう、あれは確かにインパクトが凄かった。チラリズム完備の彼シャツを着ているのが渋い声のオッサンとか斜め上すぎる。
     なお当時のさくらえはおっさんをがすがす殴り、救出後はちゃんと服を着せるという偉業を成し遂げた。
     あれからもう十年以上が経つというのに、どれもこれも鮮明に思い出す事が出来た。
    「相馬くんのお蔭でいい思い出ができたし、三国くんも一緒してくれてありがとうな。十数年経った今でも、忘れられないよ」
    「依頼の話とか、思い出せばキリないけど、楽しかった思い出と共にこの場所の消滅を見送れたらいいなと思うよ」
     遠い記憶を懐かしみ、二人はこれまでの感謝を述べていると、そこにオバケ一家を連れたままの紗夜がやって来た。
    「今日のアナタは一段とかっこよかったわ」
    「当たり前よお!」
    「「「パパかっこいー!」」」
     オバ美、カボ太夫婦とその子供達。まさか最後に懐かしい一家と再会できるは思わなかった二人だが、
    「あら、折角だから特別サービスよ♪」
     ふふと笑うオバ美はするっとそのシーツを取ると、遂にその容姿が灼滅者達へと披露された。

     そして――その時がくる。
     時計を見ながら人々がカウントダウンの声を上げた。その数字はだんだんと小さくなり、ゼロと同時にわあっと歓声が上がった。
     サイキックエナジーが尽き、今まで蓄積されていた劣化やダメージが一気に放たれたパチンコ尾瀬はぐしゃりと崩壊した。土ぼこりが舞い、驚く声が上がるもしばらくすれば拍手に変わる。
     学生時代に過ごした懐かしく、そして忘れがたい戦いの思い出が崩れてしまった。
     その様子を灼滅者達はどのような心境で見ていたのだろうか。
     だが、その記憶は灼滅者達の胸の中にある。
     これからも、いつまでも、ずっと。

    作者:カンナミユ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年11月8日
    難度:普通
    参加:9人
    結果:成功!
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