クラブ同窓会~開催! 着ぐるミステリー2028!

    作者:長野聖夜


    「にゃふー! と言う訳で、10年振りの同窓会、着ぐるミステリーを皆でやろうぜ!」
    「そうか。最後の学園祭の着ぐるミステリーが終わってからもう10年以上になるのか。懐かしいな……」
     着ぐるみ姿の文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)の其れを聞き、北条・優希斗(思索するエクスブレイン・dn0230)は柔らかく微笑む。
     ふと、学園祭の時の楽しかった記憶が脳裏を過った。
    「面白そうですね、直哉さん。やっぱり猫さんも出て来るのでしょうか?」
    「学園祭で2015年~2018年の4年間連続で展示&体験学習部門で3位を達成した人気企画だったっけ。直接行ったことはこの中だとゆ~君しかいないけれど」
    「いえ、私も2013年に展示&体験部門1位を受賞したのを伝えに来たことがありますよ。それに2014年にも1位を受賞しています」
    「えっ、そうだったの?! じゃあ、来たこと無いの私だけなんだ……」
     クスッと、花の様に柔らかな微笑みを浮かべ首を傾げるは納薙・真珠(大学生ラグナロク・dn0140)。
     一方で羨ましげに溜息をついたのは南条・愛華(お気楽ダンピール・dn0242)。
     三者三様の反応に拳を握る直哉。
    「にゃふー! そういうことなら、ね……真珠達には探偵役をやって貰うぜ!」
    「探偵役、ですか?」
     小首を傾げる真珠の問いかけに優希斗が微笑む。
    「俺達が事件を捜査してそれで皆の中から犯人を捜すんだよな」
    「そうそう! 俺達がそれ以外の役をやって、そこから皆に推理して貰って……」
    「真犯人はお前だ! って私達がやるんだ!」
     所謂探偵もののお約束、と言うやつである。
     尚、それ以外の配役は制限無し。
     被害者、犯人、目撃者、探偵補佐等思いつく限りで個人の自由。
     推理に関しては一応整合性がある方がいいが、結果はどうあれ楽しめれば良し!
     ……這い寄る混沌、ドンチャン騒ぎな推理劇。
    「それでしたら私も猫の着ぐるみ着たいです」
     あの時は霊犬着ぐるみにしましたけれど、と懐かしそうに微笑む真珠に穏やかに頷く優希斗。
    「着ぐるみ猫探偵真珠先輩、か。良いんじゃ無いですか?」
    「私は何の着ぐるみ着ようかなあ……直哉さん、折角だし選んで貰っていい?」
    「にゃふー! お任せあれ! 其れじゃあ皆でやるぜ! 着ぐるミステリー!」
     直哉の張り切りと同時に振りかざした手に応じる様に、愛華がおお! と気合いを入れ真珠が頬を朱に染めつつはにかんで頷き、優希斗が優しく微笑んだ。


    ■リプレイ


    「ニャフフ、10年ぶりの同窓会、となると、あれを……」
     クロネコに赤スカーフの巻き付いたぬいぐるみ姿の文月・直哉が最早タイム・カプセルと化した部室の金庫を開けようとしたその時後頭部に強い衝撃が走った。
     そこには、複数の黒い影。
    「あっ……!」
     かくてこの日、文月探偵倶楽部部長、文月・直哉の命は断たれた。
    「さて、次の標的は彼ですね」
    「その前に目的を果たさないと駄目だよね♪」
     それらはそう言い『ブツ』を金庫から取り出した。
     連続殺人事件の始まり、始まり。


    「お待たせっす!」
     ライドキャリバーで乗り付け、キリッと見切って格好つける平服姿の鈴木・レミ。
    「15年ぶりっすね! 名探偵・真珠! って猫耳フード付きじゃないっすか!」
    「ありがとうございます。そう言えばレミさんは着ぐるみはどうしたんですか?」
     ふわふわの猫耳つきシロネコ着ぐるみを纏った納薙・真珠が小首を傾げ問いかける。
    「そういえば私のモモンガ着ぐるみどこいったっすかね……」
    「事件、起きたんだよね?!」
     犬の着ぐるみ姿の南条・愛華の問いにそうっすね! と頷くレミ。
     因みに真珠の隣には、同じ瞳のサバネコ着ぐるみ姿の瑠璃が歩いてる。
     それに胸をきゅんとさせるは青いスカーフを首に巻いた黒柴の着ぐるみの文月・咲哉。
    「……殺人事件が起きたんですね。被害者はクロネコレッドこと文月・直哉さん。それで、第一容疑者が……」
    「俺じゃない。確かにうっかりうどんを取り落としたり凶器に触ったりしてたんだ」
    「まあ……犯人は皆、そう言いますよね。ですが目撃者もいるわけで、取り敢えず第一候補ですか」
     コロコロ転がりそうなカラス着ぐるみの鈍・脇差の否定にフクロウ着ぐるみの中で微苦笑を零して返す北条・優希斗。
     そんな様子を見ながら愛華が咲哉から貰った書類に目を通している。
    「え~と、事件現場は同窓会の部室で、此処で食べかけのうどんと赤い血文字で『キョウノメシ』と書かれたダイイングメッセージ、と」
     尚部室の前に掛けられていたのは『着ぐるミステリーにいらっしゃい』と書かれた年季の入った看板。
     それが同窓会の準備に駆り出されていた部員、ミカエラ・アプリコットによって用意された物らしいことは、新城・七波の証言で明らかだ。
    「ただ、同窓会に参加しに来たわけですが、なんてことに……」
     まるで殺人鬼の様な所業……そう慄きつつ、ふと、何かを思い出した表情となるは、コアラ着ぐるみの緋薙・桐香。
    「何か思い出したの?」
    「あっ、いいえ、何でもありませんわ」
     脇差達の様子を見ていた愛華が桐香に問いかけると、桐香は首を横に振る。
    (「そういえば私も殺人鬼だった様な……」)
     忘れかけていた衝動を思い出す桐香。
    (「此処はアイデンティティの問題が。とりあえず、だれか刺しますか」)
    「う~ん、なんか他に無いかなぁ……」
     呻く愛華を無視し、そっと死体を瑠璃と共に検分する真珠を背後から狙おうと……。
    「あ、あら?」
    「どうかしましたか?」
     思わず呟く桐香に問い返す真珠。
     構わずガサゴソ、とコアラのお腹のポケットを探る。
     ――しかし、無い。
     ポケットに、ナイフが。
    「ふっ、着ぐるみの森の豊かさが私から殺意を奪ってったと言う訳ですか!」
    「桐香先輩、綺麗に誤魔化しましたね……」
     ざーとらしい桐香に苦笑し優希斗がもう一度ぬいぐるみやビスクドールが点在している死体現場を検証。
    「え~と、死後硬直の様子から死亡推定時刻は……」
     得意げに胸を反らして父から受け取った検死報告書を読み上げる瑠璃と、それをキラキラした眼差しで見つめる金髪・青目の幼女、姫桜の様子に優希斗が何とも言えない表情に。
     ――閑話休題。
    「あら……?」
    「どうした?」
     と、そこでふと何かに気が付いた様に呟く真珠に問う咲哉。
    「この『キョウノメシ』と言うダイイングメッセージなのですが……」
    「……何か違和感がありますね」
     真珠に頷き死体を軽く眺めつつダイイングメッセージにそっと触れる優希斗。
     するとメッセージの一部が血糊の様に手についた。
     それは『キョウノメシ』の『メ』の『ノ』と『シ』を形成する上の『"』の片方だ。
    「優希斗さん、気が付いたようだな。実は、そのダイイングメッセージ、改変されたんだ」
     そう証言したのは、事件現場に集まっていた日頃の付き合いから折角なのでと同窓会に参加していた茶色のクマの着ぐるみの藤崎・美雪。
     曰く会社からの借用品とのことなのだが、何故あったのかは不明。
     都内の企業に普通に就職していた筈だが……。
    「えっ、じゃあ美雪さんは犯人の姿見ているんじゃないの!?」
    「いや残念ながら犯人の顔に心当たりはないんだ。後ろ姿しか見てないからな」
    「あの……その後ろ姿、どんな感じでしたか?」
    「すまない、流石にそこまでは……」
     真珠の問いかけに言葉を濁す美雪だが、ただ……と続ける。
    「察するに直哉さんは『キョウハン』と書きたかったのではないだろうか?」
    「キョウハン……『共犯』だね!」
     美雪の言葉に愛華が頷き返すのに、恐らくと返す美雪。
    「ほら、俺は犯人じゃなかっただろ?」
     妙に安心した様子の脇差に微笑し真珠が咲哉に聞く。
    「咲哉さん。この部室の金庫には何が入っていたんですか?」
    「ぬいぐるみ。他には写真とかテストの答案とか……」
     肉球で金庫に手を掛ける真珠にドギマギしながら答える咲哉。
    「ぬいぐるみに、写真に……テスト、ですか……?」
    「それは……伝説の3点の……」
     咲哉の解説にギクリ、と落ち着きなく身を震わせるは、ペンギン着ぐるみの古海・真琴と、鯛焼き帽子被った灰色猫着ぐるみの彩瑠・さくらえ。
     その表情の変化を見逃す優希斗ではない。
     ただ、一番彼が気にしているのは、先程からずっと挙動不審でびくびくしている白犬着ぐるみ姿の志穂崎・藍だ。
     まるで何かを恐れるかの様に周囲を見渡している。
     七波が怪訝そうに見ているのも気になるが、事情聴取を優先すべきだろう。
    「さくらえ先輩、真琴さん、何か3点のテストに心当たりがあるんですか?」
    「え、えとですね……」
     何かを隠すかの様に落ち着きなく視線を彷徨わせる真琴。
     ペンタクルスは何事も無かったかの様にそれを見ている。
    「え、い、いやぁ、そのちょっとね……」
     さくらえは、じりじり後ずさり。
     そんな、時。
    「きゃ、きゃぁぁぁぁ……!?」
     某探偵アニメのヒロインの如き市川・朱里の悲鳴が上がった。

     ――この時、一同は戦慄する。

     この物語は、まだ始まったばかりなのだ、と。


    「なんですの、このシチュエーション……気味が悪いですわ……」
     現場に辿り着き、一番最初にビクリ、とその身を震わせたのはピンクのリボンがついたマルチーズの着ぐるみを着た周防・雛。
     朱里が見つけたのは、額に『∴』と謎の血だらけの目印をつけて頭からだくだくと血を流して倒れているヒマワリ着ぐるみミカエラと、背中に深々とナイフが突き刺さっている狼の着ぐるみを着たライオン獣人形態のロジオン・ジュラフスキーの2人の死体。
     気になるのは先程から何気に一緒にいた毛並みと髭のボリュームアップしたイフリートの着ぐるみで、狼着ぐるみの娘の芽衣を連れた垰田・毬衣作の狼のぬいぐるみをロジオンは右手に大事そうに抱えている事だ。
     また、ぬいぐるみの尻には『犬』の血文字が描かれ。
     周囲には点々とぬいぐるみやビスクドールが置かれている。
     誰がどう見ても怪しさ満点。
    「ミカエラさんの『∴』も気になりますが……このぬいぐるみとそれから『犬』って……」
     真珠が呟き毬衣へと視線を向ける。
    「確かにそのぬいぐるみはアタシの子だけど、ここにある理由なんてアタシは知らないんだよ!」
     そう言って首を横に振る毬衣を守る様に健気に前に立つのは芽衣。
     子供に庇われては疑い難いなと思いつつ優希斗が米神を解す。
    「咲哉先輩、このぬいぐるみも金庫に?」
    「ああ、あったやつだな」
    「え~と、そうすると……犯人は、最初に直哉さんを殺害した後金庫の中身を持ち出してロジオンさんとミカエラさんを殺害したって事になるのかな?」
    「多分、其れで時系列は合っていると思います」
     愛華のまとめにねっ? と隣の瑠璃を真珠が促すと瑠璃が首を傾げた。
    「しらべないと分からないと思います」
     舌っ足らずに告げて、瑠璃が咲哉と共にロジオンとミカエラの死体を確認。
     瑠璃に触診され思わず身を震わせそうになるが我慢するロジオン。
    (「く、くすぐったくてくしゃみがでそうでございます……」)
     相手が幼い女の子であればむべなるかな。
     頑張っている瑠璃をさくらえの後ろに隠れながらも眩しそうに見ている姫桜。
     さくらえが思わず笑い、ぽん、と姫桜の頭を撫でる。
     検死を終えた瑠璃から述べられた其れは、愛華の考えた状況と一致している。
    (「それにしても……」)
     優希斗が軽く腕組みをして考え込んでいた。
     気になるのはミカエラの額にある『∴』。
    (「これ、まさか3点って意味じゃないよな……」)
     3点は重要だと思うのだが、犬がどう繋がって来るのかが見えない。
    「アタシの子もいるけれど、雛さんの人形とかビスクドールも沢山あるのが気になるんだよ!」
    「あっ、そうですね。確かにぬいぐるみやビスクドールが沢山あるのは気になりますね。それも犯行現場にある事が。これ、トレードマークじゃないですか?」
     毬衣と七波が呟き雛へと疑いの眼差しを向けている。
    「確かに、直哉さんの現場にもぬいぐるみとビスクドールはあったよね」
    「そう言われれば、後ろ姿は犬科の着ぐるみだった様な気がするな……」
     さくらえの詰め寄る様な問いに、美雪がさりげなく呟く。
    「えっ? そうなの? でも、そうなると……」
    「おおっ、これは名探偵・愛華の推理が炸裂するっすか?!」
     愛華の呟きにレミが乗り、脇差達の視線も自然、雛へと集まっていく。
     そうやって人々の注目が雛へと集まるたびに藍が益々挙動不審に落ち着きなく目線を動かす仕草を見せた為、優希斗だけは藍を見やっている。
     雛は皆から向けられた無遠慮な視線に慄きを覚えつつあった。
    「……えっ!? ノン、ヒナではありませんわ! 人形やぬいぐるみ……し、知りませんの……とにかく、ヒナではありませんの!」
     等々それらの視線に耐えられなくなりくるりと回れ右をして全力ダッシュで逃走を図ろうとする雛。
    「あっ、雛、止まって!」
     思わず逃げ出した雛を追うべく誰よりも早く部屋を飛び出したのは、朱里。
     コウテイペンギン着ぐるみの影響でよちよち歩きになっているのが様になっていないが。
     他の者達も追いかけようとしたその時、何処か意を決した表情になった藍がそれまで一番自分の様子を伺っていた優希斗に近づいた。
    「探偵さん、あの、その実は……」
    「どうしたの、藍さん?」
     優希斗の問いに藍はビクリと一つ震え。
    「……何でもありません」
     そう小声で呟き、おずおずと何かを言うのを止める。
     訝しく思う優希斗だが、さりとて犯人候補である雛を真珠達と共に追わぬわけにも行かず、フクロウの様に音を立てる事無くその場を後にした。


     ――子供部屋。
     雛を追った朱里がそこに辿り着いた時、朱里はまたしても悲鳴を上げた。
    「し……死体!?」
     そこにあったのは大量のぬいぐるみに囲まれ、宙吊りになったマルチーズぐるみの死体。
     尚、頸動脈を突き抜くかの如くナイフが突き刺さっている。
     その死体こそ、即ち雛。
    「あっ……嘘っ?!」
     愛華が口元に手を当てている。
    「これでまた一人、ですね……」
     沈痛そうに呟くのは、真珠。
     咲哉がその周囲を調べて顰め面を一つ。
    「これ……もしかして」
    「此処に逃げ込むのが分かっていて、敢えて罠を仕掛けた、という所でしょうか?」
     小首を傾げる真珠に咲哉が頷いた。
    「わ、私が犯人じゃないから!!」
    「まあ、朱里さんが雛さんを積極的に殺害する動機は今の所、思いつかないしね」
     少し遅れてやって来た優希斗がレミから事情を聴き、朱里に頷きを一つ。
    「しかし……こうなって来ると、誰が犯人なのか分からなくなってきましたね……」
    「名探偵・真珠をも唸らせるこの事件、果たして決着は訪れるのか?!」
     講談調で囃し立てるレミに苦笑を零した優希斗が周囲を見回す。
    「……取り敢えず、一旦直哉さんの事件現場に戻ろうか」
    (「繋がりそうで繋がらないな……」)
     思いながら一度部屋に戻ろうとしたその時……不意に彼の懐の携帯が鳴った。
     そこには、こうメッセージが書かれている。
    『二人きりで会いたいです』
    (「これは……」)
     その内容を読んだ時、彼は多分藍の尊い命が失われたのだな、と確信した。


    「……まあ、予想通りと言えば、予想通りか」
     頭痛を堪える様な表情で呻く優希斗。
     直哉が死亡していたその部屋で、真っ赤に染まった犬着ぐるみを着た藍が直哉に折り重なる様にして倒れていた。
     しかも直哉によって残されていたダイイングメッセージ『キョウノメシ』もとい、『キョウハン』以外の証拠は何も残っていない。
    「うわ……」
    「次から次へと起こる殺人事件! 犯人は何処にいるのか……?!」
     愛華が頭を抱える中でのレミの実況。
     真珠もまた、形の良い眉を顰めながら溜息を一つ。
    「私達……真犯人に出し抜かれちゃってますね」
    「多分、雛さん殺害は犯人にとっては囮、だったんだろうね。いや、雛さんにも殺される理由があったかも知れないけれど」
     優希斗が静かに息を一つ。
    「現状だが、殺害されたのとその順番は1番直哉。2・3番ミカエラ及びロジオン、4番雛、そして藍だな」
     咲哉が殺された状況を纏めた。
    「そうですね。メッセージとして残されていたのは、『キョウハン』、『犬』、『∴』でしょうか」
    「確かそれで全部だよね。此処から分かるのは共犯者がいるって事だけだと思うけれど」
    「ああ……そうだな。後、3点と言う言葉に反応する人々……」
     優希斗の言葉にさくらえと真琴が激しく動揺する。
     尚、さくらえは鯛焼き帽子を被った灰色猫の着ぐるみで、真琴はペンギンの着ぐるみ。
     ――いや、もう一人。
     ちらりと目の端に捉えたのは七波。
     彼が来ているのは灰色狼の着ぐるみだ。
    「嫌ですねー、10年も前のテストのことなんてもう気にしていませんヨ」
     そう言って目を泳がせる七波。
     七波の言葉に、さくらえが明らかに安堵した様に肩の力を抜いており、真琴も又、何故だか息をついている。
    「あら? どうか致しましたか優希斗さん?」
     コアラ着ぐるみで背中から問う桐香にいえ、と返し優希斗はもう一度集められた証言、証拠を洗いざらい。
     そして……。
    「うん、分かりました。真犯人は、貴方ですね、七波さん」
     ピシリ、と指を七波へと突きつけた。
    「え? そ、そんな訳ないじゃないですかー。大体どうしてそうなるんですかー?」
     何処か平坦な調子で告げる七波。
     それでも目を離さぬ彼の様子から、真珠も何かに気が付いた様に呟く。
    「なるほど。そう考えると確かに七波さんが犯人になりますね」
    「多分、ですけれどね」
    「えっ? ちょっと待って。どういう事?」
     一人だけ話についていけていない愛華を置いて優希斗が美雪に視線を向ける。
    「その前に念の為に確認だけど。美雪さんが見たのは犬科みたいな背中だったよね?」
    「そうだな。最も黒っぽい影でよく分からなかったが言われてみれば、と言う感じだ」
     美雪の解に優希斗が頷き、今度は真珠が咲哉に問いかける。
    「咲哉さん。金庫にはテストがあったと言いますが、それはもう無くなっていましたよね?」
    「ああ、無くなっていたな。間違いないぜ」
     頷く咲哉に微笑む真珠。
    「先ず、今回の殺人の動機。それはきっと、話に出ている3点のテストだろう」
    「えっ? 3点のテスト? それって……」
     愛華が目を丸くするのに優希斗が頷きを一つ。
    「恐らく、直哉さんがそれを金庫から取り出した。そしてそれを切欠にしてこの悲劇は起きてしまったんだ」
     いや……それはある意味で起こるべくして起こった悲劇なのかも知れない。
     10年前の3点のテストの話を持ち出されては……しかもそれが宝物の様に扱われてしまっていては、話の種にならざるを得ないだろう。
    「増してや、伝説とまで言われているテストですからね」
     真珠が同意する様に頷きかける。
    「直哉さんが遺してくれたダイイングメッセージにあった『共犯』と言う存在は、恐らく今回の事件を起こした犯人に共犯者がいる、と言う事なんだろうね。最も、その人は既に亡き人物となってしまっているようだけれど」
    「それって、もしかして……ミカエラさん?」
     愛華の問いかけに頷く優希斗。
     そのミカエラが遺したダイイングメッセージ『∴』が、今回の事件の鍵となる。
    「ミカエラさんの遺してくれた『∴』は、3点を意味していたんだ。そうなると3点のテストを何らかの形で金庫から盗んだ犯人とロジオン先輩を殺害する時に何らかのトラブルを起こしたのだろう。だからミカエラさんは最後の最後で犯人が誰であるかを間接的に伝える為にけれど、あっさりとばれてダイイングメッセージを書き換えられてしまわない様に、『∴』のダイイングメッセージを残したんだろうね。そして……七波さんは灰色狼であり、同時に『狼』でもある」
    「それがどうダイイングメッセージと絡むの?」
     愛華が首を傾げると真珠が微笑む。
    「ロジオンさんが遺してくれた『犬』というメッセージです。あれは、犬を意味しているのではなく、犯人が『犬科』であることを意味しているのではないでしょうか?」
    「更に言えば犯人は自分の殺害現場を藍さんに見られていた。だからこそ、毬衣さんの素朴な疑問に便乗して人々からの犯人疑惑を雛さんへとすり替える様誘導したんだろう」
    「で、自分が犯人扱いされていたことに怖れを為した雛さんが逃げる場所を推測。そこに予め仕掛けておいた罠で彼女を殺害。私達の意識が其方に向いている間に、本当の意味で最初の目撃者である藍さんを殺害したってことか」
     愛華が納得したと頷くのに頷きを返し、桐香やレミを初めとした全員が七波へと視線を集中させる。
     七波はクツクツと笑い出し、終いには怒り出した。
    「10年もずっとやーい3点狼とか言われる気持ちわかりますか! しかも受けた覚えないんですよ!?」
     何処からともなく何かのスイッチを取り出しそれをポチっ、と押す七波。
     瞬間、その手に持つ3点の答案用紙と共に派手な爆発が七波を包んだが……そこに残ったのは、髪がアフロ型に焦げ、けほ、と一つ咳をする七波の姿。
    「……こうして名探偵・真珠とその仲間達は、この殺人事件を解決することに成功したっす! これは、『伝説の答案用紙殺人事件』として後世まで代々語られていく伝説の物語となったっす……」
     そう告げるレミは自分で言いながらクツクツと肩を震わせ込み上げる笑いを押さえることが出来なかった。


    「お疲れ様!」
     改まった様子で直哉がそう告げた。
     会場にいる合計18名の手には其々、うどんが握られている。
    「久々の着ぐミスはどうだったかな? 皆で楽しめたなら嬉しいや♪」
    「今まで参加者サイドだけでしたが、演者も中々楽しかったですね~」
    「ふふ、楽しかった♪ 学園祭で遊ばせて貰った着ぐるミステリーに親子で混ざれるなんて光栄だね」
    「公演関係なく、仲間内だけで演じるのも楽しかったよ」
     直哉の問いに、口々にそう答えたのは、真琴・さくらえ・朱里の3人。
     即ち、倶楽部外からの参加者達だ。
    「ふふ、この年になっても着ぐるミステリーができるなんて、思っていませんでしたわ? 探偵の皆様もお楽しみ頂けましたかしら?」
    「はい。15年ぶりでも、良いものですね」
    「面白かったけれど、ちょっと悔しいなぁ。真珠さんとゆ~君は犯人分かっちゃうんだもん」
    「まあ、ノリと経験じゃないか? 俺は割と強引にだった気もするけれど」
     真珠が微笑み、愛華が笑い、優希斗が頬を掻く。
    「ね、あたいのヒント、分かった? 分かったー!?」
    「はい、犯人に辿り着けたのはミカエラさんのお陰です。ありがとうございました」
     ヒマワリミカエラが笑顔でクルリと回るのに、真珠が花の様に柔らかな笑み。
    「それじゃあ、10年経っても変わらない。皆の暖かな絆と着ぐるみ愛に感謝して乾杯を。う・ど~ん!」
     直哉の掛け声に応じて。
    「う・ど~ん♪」
     ミカエラが。
    「ウィ、う・ど~ん!」
     雛が。
    「う・ど~ん! だよー!」
     毬衣が。
    「う・ど~ん、ですわね」
     桐香が。
    『う・ど~ん!』
     朱里や、戸惑い気味の美雪、さくらえや真琴、真珠達も同時に丼を掲げてうどんで乾杯を行う。
    「お疲れ様、北条も南条も納薙も、着ぐるみがすっかり馴染んでいるな。特に北条の鳥着ぐるみ……」
     乾杯の後声を掛けてきたのは脇差。
     黒いカラスの着ぐるみでコロコロ転がり近づいてきた脇差に優希斗が直哉さんが選んでくれたんですよと微笑む。
    「愛華のもですが。真珠先輩のは自前らしいです」
    「自前なのか……あれ」
    「ビックリだよね。というか、咲哉さんは遂に真珠さんも着ぐるみの道に引きずり込んだんだよ? いつから?」
     目を瞬く脇差と小首を傾げる毬衣の問いかけに咲哉が何といったものかと言った表情になる。
    「10年以上前から咲哉、真珠巻き込んでたよね?」
     ミカエラの問に顔を赤らめ、咳を一つする咲哉。
    「真珠」
    「どうしました、咲哉さん」
    「真珠と出会って15年、結婚して家族も増えた。俺はずっと幸せだったよ。真珠はどうかな?」
     咲哉の問いにちらりと瑠璃を見てから真珠がはにかんだ。
     その笑みに、自分が守るべき者を得られた確信を得て笑顔で返す咲哉。
     ――そして。
    「あっ、そう言えば優希斗さんから聞いたっすけど。美雪さん、歌うの好きって本当っすか?」
    「えっ、私か? ああ、勿論だが」
     不意にレミに話を振られて美雪が一つそれに頷く。
     桐香がそんなレミの方を優しく見ていた。
    「そうしたらちょっと付き合って欲しいっす」
    「私で良ければ、手伝おう」
     レミの言葉に美雪が頷き、そしてレミが詩人風に言葉を紡ぎ出す。
     ――いつも賑やか着ぐるみの森。
     ――合言葉はうどん。
     ――時が過ぎても変わらない素敵なもの。
     ――着ぐるミステリーは永遠に!
     紡ぎ出された其れに合わせて美雪が歌を奏で、そして美しく明るい調べが同窓会全体を優しく暖かに包み込んだ。

    作者:長野聖夜 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年11月22日
    難度:簡単
    参加:15人
    結果:成功!
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